あの異次元過ぎるあらすじを見ておきながら、この作品を読む気になって頂き、誠にありがとうございます。あのあらすじは、近いうちに消えるかもしれませんw
だって全然あらすじになってないし。何あのポエム。何が乗り移った。あらすじというか、ネタバレ?
ご想像のこととは思いますが、内容もちょっと異次元です。
世界各地の辺境に点在するといわれる、竜人族の隠れ里。
そこから抜け出した、竜人族の少年を中心に話が進んでいきます。
マイナーですが、隠れ里云々は独自設定ではなく公式です。その民族性は完全な妄想ですが。
まあ、俺でなければ考えつかないぜ!、というほど異次元ではありません(笑)
自分なりに世界観を壊さないように頑張ったので、どうかお手柔らかにお願い致します。
それではどうぞお楽しみください。
……楽しめる保障はしませんが。いや、楽しんでほしくて書いたんですけど。
明日、また明日、また明日と、時は小きざみな足どりで一日一日を歩み、ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく。
昨日という日はすべて愚かな人間が塵と化す、死への道を歩いてきた。
消えろ、消えろ、つかの間の燈火!
人生は歩き回る影法師。
あわれな役者だ。
舞台の上でおおげさにみえをきっても出場が終われば消えてしまう。
白痴のしゃべる物語だ。
わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、意味はなに一つありはしない。
From Macbeth
――William Shakespeare
少年は駆け抜けた。
青々と繁るシダの葉を踏み越え、うたた寝しているモスを飛び越え、太古の森を。
色の濃い草木が、あるいは落ち葉で湿った大地が吐き出す淀んだ空気を切り裂き、風のように。
少年は身軽だった。
象形的な紋様が縫われた白い外套を身に纏い、手にするのは細く強靭な竹槍のみ。
獣の如く敏捷な動きで、彼は木々の間をぬって疾走する。
新雪を思わせる銀色の髪が風に揺れ、褐色の肌は深緑の陰に溶けこんでいる。
少年は焦っていた。
鼻腔をくすぐる焦げっぽい臭い。前方より響きわたる咆哮。
そして何より、時折聞こえるヒトの叫び声。
急げ。もっと早く。
彼は自分に言い聞かせていた。
「……ちょ、ちょっと待て……!」
追い風に混じって耳に届く、かすれ声。
呼び止められたことに気づき、少年は足を止める。
振り返ると、そこには小さな人影があった。
そのなで肩を大きく上下させ、荒い息を吐き出している。
それはアイルーだった。
「……バカ野郎……」
おおよそ獣人とは思えぬ低い声で、そのアイルー、コショーは悪態をつく。
紺色の毛並みに、左目を覆う黒い眼帯。鋭い目つき。
声色だけでなくその佇まいからも、どことなくハードボイルドな雰囲気を漂わせている。
「……真っ正面から飛び込むつもりか?」
「そのつもりだったんだけど」
戸惑う様子もなく、少年は頬をかく。
「……ダメ?」
「ダメだ!」
眼帯アイルー、コショーは声を荒げる。
丈の長い草が彼の鼻先をくすぐるが、気にならないようだ。
「やはり危険すぎる!ド素人のお前が、ヤツの注意を引くなんて!」
「命が危ないのは、あの人だって同じだよ!」
少年はそう叫び、もどかしげに後ろを振り返った。
言い争っている時間が惜しい。
こうしている間にも、あの人は食べられてしまうかもしれないというのに。
彼はコショーに向き直ると落ち着いた声で、しかし、早口に言った。
「絶対大丈夫だから。信じてよ」
「……作戦でもあるのか?」
目を細め、静かにコショーがそう言った。
「ある」
即答する少年。
「だから任せて」
「ホントかよ……?」
溜め息混じりにコショーが呟く。そのときだった。
「ひぃぃ~~!!」
どこの誰とも知らぬ、一際大きな悲鳴が響きわたった。
続けて辺りに木霊する、甲高い咆哮。
耳を突き抜けるその音に少年は思わず耳を塞ぐが、獣人は静かに前方を睨み、己の武器に手をかけていた。
迷っている暇はない。
「ちっ、しゃあねえか」
憎々しげに舌打ちすると、コショーは少年の膝をべしっと叩く。
「尻拭いは期待すんなよ」
「うん、大丈夫」
そう言って微笑むや否や、少年は彼に背を向けて走り出す。
「そっちはよろしく!」
「おうよ」
「無理はすんなよ」と遅れて付け足したコショーを尻目に、少年は跳躍した。
幹の窪みに足をかけ、さらに上へと飛び上がる。
木から木へ、枝から枝へ。
風を味方につけたモモンガのように、その身体は加速する。
そうして開けた台地に出たとき、彼はピタリと動きを止めた。
痩せ細った木々が密集していて、視界はあまり良くない。
しかし目を凝らさずとも、一目で現状が把握できる。
目の前で事は起きていた。
「た、助けてくれ~~!!」
男が追われている。
両腕を振り回し、迫りくる怪物から必死に逃げている。
棒切れのような木々を薙ぎ倒し、男を執拗に追いかける飛竜。
その全身は、紅い甲殻によって包まれていた。
飛竜にしては細めの足に、頭部を飾る、えりまき状の立派な耳。
鮮やかな黄色をした、インパクトのある巨大なくちばし。
アルワ・ピナフ――『大きなくちばしを持つ者』と、彼の部族では呼ばれていた。
都会のヒトには何と呼ばれていたっけ。
少年は考え込む。
街での呼び名は……確か、そう、『イャンクック』だ。
彼は密かに、自分の記憶力に感心していた。
「だ、誰かぁ~~!!」
男が涙と鼻水をまき散らしながら逃げている。
そうだった。あの人を助けないと。
少年は木から飛び下り、岩の上に難なく着地した。
まずは意表をつく。
少年は立ち上がり、バサッと外套をマントのようにひるがえす。
そして目を閉じると、息を大きく吸い込んだ。
密林の濃い空気にむせかえりそうになりながらも、肺いっぱいに空気を溜め込む。
想像しろ。
天高く舞う力強い翼。喉元深く喰らいつく牙。
そして獲物を見据える、あの絶対強者の眼を。
少年は咆哮した。
それはまさに、龍の咆哮であった。
気迫に満ち、全てを威嚇する、生命の頂点に君臨する龍。
……少なくとも少年は、それだけ気合いを入れて演じた。
イャンクックの動きが止まる。
まるで猫に睨まれたネズミのように、ピクリとも動かない。
やった!上手くいった!
今まで猛獣避けに使うことしか許されなかったこの特技。飛竜相手に使ったのは初めてだった。
少年は飛び跳ねたい気持ちを抑え、相棒の名を叫ぶ。
「コショー!」
「上出来だ」
それだけ言うと、獣人は前に走り出る。
そしてへたりこんでいる男の肩を掴み、揺さぶった。
「おい、逃げるぞ!」
男はイャンクック同様、目を見開いたまま固まっている。
コショーは彼の頭をひっぱたいた。
「聞いてるか、オイ!」
それでも反応がないと見るや、彼はポーチをまさぐり、男の顔面にモンスターのフンを叩きつけた。
「聞けコラ!」
その尊厳なき扱いに、ようやく男は我に返る。
コショーに腕を引かれるまま、その場からよたよたと駆けだした。
「よし……!」
少年は小さく拳を握る。あとはもう少し、時間を稼ぐだけだ。
彼は岩の斜面を滑り下り、湿った地面の上に降り立った。
暖かく柔らかい腐葉土が、じんわりと足を包み込む。
彼はイャンクックと対峙した。
充分な距離を取りつつ、油断なく竹槍を構える。
飛竜はすでに、正気に戻っていた。
その落ち窪んだ黄色い眼を少年に向け、ゆっくりと首をもたげている。
……襲ってこないのか?
そう思い、僅かながら気を緩める。
その一瞬の隙が、彼の反応を鈍らせた。
突然、イャンクックが猛々しく咆哮したのだ。
「うっ……!」
耳を突き抜け、頭蓋を揺さぶる高音。
少年は耳を塞いだが、すでに遅かった。
激しい耳鳴りに思考が停止し、目からは涙が滲み、視界がぼやける。
少年は竜人であった。
白髪からちらりと覗く尖った耳が、それを物語っている。
中でも彼の部族は大自然に身を置き、その五感を研ぎ澄ましてきた者たちだ。
その優れた聴覚ゆえ、度を過ぎた大きな音には弱い。
「み、耳が……」
呟きながら、少年は竹槍に寄りかかった。
平衡感覚を失い、視界までがグラグラと揺れている。まともに立つことすら難しかった。
飛竜が大きく翼を広げ、小刻みに飛び跳ねる。
その目は怒りを湛え、少年を睨みつけていた。
屈辱。
一時でも、こんな小さき者に怯えてしまったなんて。
飛竜の中では最弱と呼ばれる彼であったが、そのプライドは今、猛っていた。
動けない。
少年の身体は硬直していた。
飛竜の全身から発せられる殺気を一身に受け、身体中の筋肉が麻痺している。
膝をついていないのが不思議なくらいだった。
イャンクックは地面を踏みしめ、押し潰さんと迫りくる。
鼻腔から煙を吹き出し、草木を踏み潰し、薙ぎ倒しながら。
「気をつけろっ!」
切羽詰まったコショーの声が遠くから響く。
そうだ、しっかりしろ。
少年は自分に言い聞かせる。
コショーたちが安全な場所に隠れるまで、こいつを引きつけておくのが役目じゃないか。
自分で決めたことなんだ。やり通せ、なんとしてでも。
目元をぐいっと拭い、彼は駆けだした。
揺らぐ視界を、そして湧き出る恐怖を、気力で抑えつけて。
迫りくる飛竜に向かって、一直線に。
「バカッ!何トチ狂ってやがる?!」
コショーの罵声が耳元をかすめる。
「横に逃げろ!横に!」
これでいいんだ。心の中でそう呟く。
横に逃げれば、彼らに狙いが移るかもしれない。
それになにより、試したい。
この怪物相手に、どこまでやれるのか。
湧き上がる好奇心が、内から恐怖をことごとく排除する。
彼は知らず知らずのうちに――玩具で遊ぶ子供のように――その空色の瞳を輝かせていた。
「はああっ!」
竹槍の柄を地面に突き立て、少年は飛び上がった。
重みを受け、弓のようにしなる槍身。
その反動は力強く、使い手の身体を空高くへと跳ね上げる。
少年の身体は、イャンクックを悠に飛び越した。
「おおっ!」
コショーの驚嘆の声が彼の耳に届く。
さっきから近くで声が聞こえてるけど、ちゃんと避難してるんだろうか。
そんなことを考えながら、少年は地面に降り立つ。
そして槍をくるりと逆手に持ちかえ、素早く後ろを振り返った。
目の前には木の根に脚をとられ、無様に倒れ伏したイャンクック。
敵を見据えるや否や即座に、少年は得物を振りかぶった。
「ああああぁぁぁぁ!!」
野獣の如き咆哮。
そしてその手から放たれる、渾身の一撃。
槍は閃光の如く一直線に飛び……あっけなく、鱗に弾かれた。
「……あ?」
口を半開きにしたまま、少年は固まった。
くるくると空中を舞う竹槍。
彼の頭上を通り越し、背後の大木に突き刺さる。
飛竜の鱗には傷はおろか、窪みすらできていなかった。
鋭く強靭といっても、しょせんは竹。飛竜に一矢報いる牙には、到底なりえなかった。
「やっぱり無理か……」
存外あっさりした調子で、少年は呟いた。
イャンクックはゆっくりと身体を起こし、彼の方を振り向く。
目を爛々と光らせ、大きく開けたくちばしからは、黒々とした煙を吐き出していた。
「そいつを喰らうな!!」
コショーがあらん限りの声で叫ぶ。
「火炎液だ!」
なんだろう、カエンエキって。
その答えを求める前に、少年は身を投げていた。
直後、爆発と震動。
身を起こすと、さっきまで彼が立っていた場所には、赤々と炎が立ち昇っていた。
吹きすさぶ熱風に灰と化した落ち葉が宙を舞い、草木がよじれ、頭を垂れる。
……なるほど、これか。
少年は思わず、ブルッと身体を震わせた。
当たったら痛そうだ。
「曲芸は終わりだ!隠れてろ!」
相棒の声がどんどん近づいている。有無を言わさぬ厳しい口調だった。
「そいつは俺がやる!」
見れば、コショーは茂みの陰から飛び出し、彼の方へ四つ足で駆けてきていた。
少年ほどではないにしても、その動きは敏捷である。
「こっちを向け、しゃくれ野郎!」
背中の武器に手をかけ、吠えるコショー。
その鋭い目は怖れを知らず、真っ直ぐ敵を睨みつけていた。
「耳まわりをすっきりさせてやるぜ!」
彼の挑発を理解したのだろうか。イャンクックは身体を傾け、迫るコショーをじっと見据えた。
翼を大きく広げ、迎え撃つ態勢までとる。
その隙に、少年はじりじりと後ろに下がり始めた。
コショーの邪魔をしてはいけない。
竜との戦闘経験が浅く、連携も知らない自分がしゃしゃり出ても足手まといだ。
「耳を塞げ!」
コショーは叫び、ポーチから取り出した何かを投げた。
ヒトの拳ぐらいはあるその何かはゆっくりと孤を描き、イャンクックの頭上へと飛ぶ。
それを見たとき、少年は背筋に妙な寒気を感じた。
あれは何かヤバいと、本能が告げていた。
少年は言われた通り、耳を塞いだ。言われなくとも塞いでいただろう。
そして、断末魔を思わせる高音が響きわたった。
「……ッ!」
空気を裂き、耳を抉るような不快な音だ。
耳の良いイャンクックと彼には、最善手の牽制だろう。
少年の視界は、再び涙でグニャグニャになる。手の位置を微妙に間違え、音を遮断し損ねていた。
しかし耳を塞ぐすべを知らない飛竜は、もっとひどかった。
目を回した人間のように首をグラグラと揺らし、奇妙なステップを踏んでいる。
「そのまま踊ってな!」
鬼のような形相でコショーは草木の間を走り抜け、背中の武器を抜いた。
それは蒼く透き通った、細長い剣だった。
大きさからして本来は獣人用ではない、『ハンター』の武器だろう。
その蒼い金属や精巧な銀細工は、少年の知識を超えた技術の結晶だった。
コショーはその剣を手にくるりと身体を反転させ、敵の苦し紛れの攻撃をかわす。
反動を利用した横薙ぎの一閃は、奴の鱗を容易く引き裂いた。
噴き出す鮮血。密林に漂う紅い霧。
あの剣の切れ味はすごいが、コショーもすごい。一瞬の身のこなしだ。
体勢を崩し、下がったイャンクックの頭部を踏みつけ、空へと躍り上がる。
車輪のように回転し、勢いをつけて振り下ろされる、蒼い剣光。
彼の宣言通り、その立派なえりまきが大きく千切れ飛んだ。
奇声を発するイャンクック。
「痛えか?そいつは悪かったな」
暴れる飛竜の頭上で、再び刃を振り上げるコショーの瞳は、殺気にぎらついていた。
「今楽にしてやるぜ……!」
頭蓋めがけ、振り下ろされる刃。
会心に見えたその一撃は、しかしとどめにはならなかった。
「うおっ!」
彼の身体は、あまりに軽すぎた。イャンクックが軽く首を振っただけで、飛ばされてしまうほどに。
「くそっ!」
悪態をつきながら、彼はボールのように地面をバウンドする。
「俺がアイルーじゃなけりゃ……」
十分過ぎるほど地面を転がり、身体に泥と落ち葉をくっ付けたコショー。
愚痴りながら起き上がろうとするのと、イャンクックが大きく口を開けるのは、同時だった。
やつの鼻腔から、細い煙が吹き出している。
まずい。
少年は落ち葉を蹴り飛ばした。
ケルビのようにピョンピョンとジグザグに跳ね、樹木や岩をかわしながら、乱雑な地形を一気に駆ける。
飛竜のくちばしから放り出された、燃え盛る炎の塊。
それが当たるか否か、ギリギリのタイミングで、少年はコショーを抱えて離脱した。
背後で炸裂した熱風が雑草を薙ぎ、羽虫たちの命を散らす。
「てめえ、何しやがる!」
少年の脇に抱えられ、コショーはご立腹だった。
己の矜持とキャラを忘れ、ニャーニャーとわめきだしそうな勢いだ。
「隠れてろって言ったろうが!俺はあんなのの一発や二発、どうってことねえんだよ!」
彼はわめいたが、少年は相手にしなかった。
暴れる相棒をしっかり抱え、走りながらも、時折後ろを振り返る。
音で分かってはいたが、確認せずにはいられなかった。
追いかけてきている。
首を左右に振り乱し、翼をばたつかせながら、猛然と走ってくる。
火炎をまき散らしながら、一心不乱に迫るその姿。
それは彼にとって恐怖であると同時に、少しシュールだった。
「おい小僧!何クスクス笑ってやがる!」
目を剥いてコショーが怒鳴る。
「必死こいて逃げるか、俺を放すか、どっちかにしろ!」
それには答えず、少年は突然身体を傾け、真横に飛びのいた。
押し潰さんと倒れこんできた飛竜の身体を、余裕をもってかわす。
「おーい、こっちだ!」
大きな声に振り返ると、ブナの大木の向こう側で、一人の男が両手を振っていた。
あれはさっきのヒトじゃないか。少年は首を傾げる。
あんなところで何をやっているんだろう。死にたいのだろうか?
「あそこまで走れ!」
突然のコショーの言葉に、ますます少年は混乱する。
しかし身体は、自然と動き始めていた。
倒れた木々を足場に大木を駆け上がり、黒光りする大岩に飛び移った。
苔むした垂直な岩面を滑り落ち、反対側に危なげなく着地する。
岩のまわりを大きく迂回するイャンクックを尻目に、彼は一気に駆けだした。
「あのヘナチョコ野郎、まさか加勢してくるとはな」
少年の腕から、するりと抜け出したコショーが呟く。
「あんまり俺らが不甲斐ないんで、心配になったか」
「どういうこと、コショー?」
少年は彼と並走しながら、首を傾げた。
「なんでこっちに逃げたの?」
「さあてね」
ぶっきらぼうな返答に、少年は頬を膨らませた。
水気のある泥に足をとられ、思うように走れない。地響きはどんどん近づいてきている。
こんなところで死んだら、化けて出るからね。そう言おうとした直後。
その地響きが、突然奇声へと変わった。
「かかったか!」
嬉々とした表情で後ろを見るコショー。
つられて振り返れば、そこには不思議な光景があった。
「止まってる……?」
身体を痙攣させながら、イャンクックが停止していた。
まるで何かに耐えているように四肢をこわばらせ、くちばしの隙間から荒い息を吐き出している。
鼻腔から細々と漏れる煙が、助けを求める狼煙のようだった。
どうしたのだろう。足でもつったのかな。……いいや、違う。奴の足元だ。
黒い円盤のようなものが、青白い光を放っている。
見たのは初めてだ。ハンターの罠か。
どういう原理なのか全く分からないが、とにかく飛竜の動きを止めている。
そういえば、何もないところでコショーがジャンプをしていた。あれを避けていたのか。
「いい場所に仕掛けたじゃねえか、兄ちゃん!」
「ど、どうも」
罠を仕掛けた男は、軽く頭を下げる。
その顔は、茶色いものがこびりついたままだった。
……この人はもっと、コショーに怒っていいと思う。
「このまま逃げ切るぞ!」
男の膝を通り過ぎざまに叩き、コショーは森の奥へと走る。
「ここを突っ切ればベースキャンプだ!おうちに帰れるぜ!」
「近道なのかい?」
「ああ、商会連中が使ってる抜け道だ!」
霧が立ち込める木々の陰に、一人と一匹が消えていくのを見ながら、少年は立ち止まる。
彼は振り返った。
そして、空を見上げるイャンクックを見た。
ハンターの罠はその役目を終えて砕け、黒煙を上げている。
解放された飛竜は何をするでもなく、ただぼんやりと空を見上げていた。
風になびく千切れた耳が、見ていて痛々しい。
つられて上を見て、彼は目を見開く。
そこにあったのは、透き通った青色だった。
どこまでも広く、深く染みわたっているそこは、別世界の入り口に見える。
少年は、竜に向かって小さく笑った。
踵を返し、闘いの森に別れを告げるべく、大地を蹴り、飛んだ。
彼らは自由を夢見ていた。
クック先生「やれやれ、新人の教育は骨が折れるぜ……」
先生、お疲れ様でした。
猫とトーシロの子供が相手だったので生存しましたね。良かったですね。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
「悪魔猫」とタグをつけていますが、原作ほどの猛威は振るいません。しかし随所で、アイルーの戦闘能力を超えたスペックを発揮させる予定です。
……悪魔猫を知らない人は聞き流してください。知らない方が幸せです。ええマジで。
更新は一週間おきで頑張る予定です。まあ、大丈夫でしょ。夏休みだし。
次回もよろしくお願いします。