天動瑠璃は真の勇者である(完結)   作:ファルメール

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第11話 満開と精霊

『これが満開か……思っていた以上に凄いわね』

 

 瑠璃の満開である複合城塞神殿の最深部、王の宮。

 

 玉座に腰掛けた瑠璃の傍らに姿を現した精霊・浄玻璃が感心した声を上げた。

 

 空間にモニターが出現して、各兵士の受け持ち箇所からの報告が入る。

 

『閣下、こちら第一城壁対空砲台。総員配置に就きました。いつでも撃てます』

 

『こちら動力炉、1番から32番まで全て出力安定。行けます』

 

『騎兵部隊・歩兵部隊共に全て準備万端、いつでも出撃のご下命を』

 

『天船艦隊、陣形が整いました!!』

 

 各部署からの連絡を受け、瑠璃は満足そうに頷く。

 

「よろしい。では、派手に始めようか。要塞主砲『八咫鏡』を起動させよ」

 

『ハッ!!』

 

 瑠璃の声に応じて、城塞神殿に動きがあった。

 

 神殿上空に浮遊滞空していた数十の鏡の内、8個までが一カ所に集まり、等間隔に整列して円型を描く。鏡面は一つ一つが太陽の如き光を発し、それらは周囲の鏡に数億回の反射を重ね、エネルギーは反射・増幅・収束を繰り返していく。

 

 やがてその光熱は円の中心の一点に集まり、漲ったパワーは一カ所でも均衡が崩れればそこから溢れ出しそうなほど、はち切れんばかりに圧縮される。

 

『エネルギー充填完了。撃てます』

 

 オペレーターから報告が入り、瑠璃と浄玻璃は頷き合った。

 

『では、私』

 

「ええ……これは宣戦布告。この300年、世界を自分達だけの物だと、我が物顔に振る舞い惰眠を貪っていた天の神どもへ挨拶代わりのキツイ一発をお見舞いする。連中の目を覚ましてやるわ」

 

 瑠璃が玉座から立ち上がった。

 

「発射」

 

 タイムラグを置かず、収束していたエネルギーは一方向に出口を与えられて指向性を持ち、水平方向へ落ちる光の滝となってバーテックス群へと降り注ぐ。

 

 最下級の星屑共は、その膨大なエネルギーに一瞬も耐える事は叶わず、触れた瞬間形を留めずに蒸散していく。

 

 星屑の白い色で埋められていた空が、一瞬で天を覆う暗雲が見えるようになった。

 

 変化は、敵味方の数を輝点でモニターしている王の宮ではもっと分かり易かった。バーテックスを示す赤い点が、光線の軌道上にあったものが綺麗に消え去って、更には余波を受けたのだろう、時間差を置いてその周囲の赤点も揺れ動いた。

 

『左翼の敵小型バーテックス、半数の消滅を確認。残り30000、こちらへ向かってきます』

 

「天船艦隊、今の砲撃で開いた穴に突貫しなさい」

 

『承知致しました、閣下!!』

 

 空飛ぶ箱船が前進開始して、多数を失ったとは言え未だ無限とも思える程の物量を維持し続けているバーテックスの雲海へ突入する。

 

 一つ一つが旧世紀の戦艦程もある空中艦だが、しかし無数のバーテックスの中にあっては流石にその威容よりも頼りなさの方が先に立つ。

 

 しかし瑠璃の兵団には誰一人とて、恐れる者は居ない。

 

 天船艦隊が、敵の海原を渡り始める。

 

『こいつはいい、どちらを向いても敵ばかりだ!! 狙いを付ける必要も無いぐらいだぞ!! やってやれ、撃ちまくるんだ!! とにかく撃てば敵に当たるぞ!! ファイエル!!』

 

 指揮官の命令と共に、艦隊は持ち得る全ての火力を全方位に向け一挙に開放。

 

 空に、鮮やかな光華が無数に咲いて、その数だけバーテックスが消えていく。

 

 しかし流石に全てのバーテックスを倒しきる事は出来ずに、撃ち漏らしが襲い掛かってくる。

 

 が、それらは城塞神殿外周の城壁に設置された対空砲台から発射された数十条もの光線によって掃討された。しかも要塞からの対空光線は一方向に発射されてそれで終わりではなく、照射され続け、あたかも巨大な光刃を振り回しているかのようにバーテックス群を薙ぎ払っていく。

 

 空中戦は、瑠璃の満開が優位に進めている。

 

 すると空間に新しいウィンドウが出現して、次の報告が入った。

 

『閣下、敵バーテックスおよそ20000匹が、地上から攻撃を仕掛けてきます!!』

 

「騎兵・歩兵の陸戦隊に迎撃させなさい。総員、敵と刺し違えてでも倒せ」

 

『!』

 

 この指示を聞いて、浄玻璃は驚いたように瑠璃を見た。

 

『私、いくらなんでもそれは無茶なんじゃ?』

 

「いや、無茶じゃない。それどころか極めて合理的よ、わたし。敵は20000匹で、こちらの陸戦隊は30000騎。一騎が一匹を倒していけば、敵群悉く討ち滅ぼして尚こちらが10000残る。実に正攻法でしょう」

 

『成る程。よし!! 陸戦隊、出撃致します!!』

 

 城門が開き、重装歩兵・騎兵・長弓兵・槍兵から構成される軍団が出撃する。

 

 王の宮の空中ディスプレイには彼等は青い輝点として表示されていた。

 

 青と赤の光点がどんどんと間合いを詰めていって、画面の中程でぶつかり合った。

 

 二色の光は最初は押したり引いたりを繰り返していたが、やがて一方が押し始めた。

 

 青い点、即ち瑠璃の軍団が押し勝って、赤い点が凄い早さで数を減らしていく。やがて青い点は敵中央を食い破るようにして突破すると反転、包囲して殲滅していく。

 

 空中、地上共に優勢。

 

 このまま押し切れば勝てると思われたそこに、次の報告が入った。

 

『閣下、バーテックスの集中砲火です!! 約20000!! まっすぐ当要塞に向かってきます』

 

「見えているわ」

 

 暗い空にくっきりと目立つ光のラインが、矢のように飛んでくる。

 

 発射しているのは、10体以上の星屑が互いに互いを食い合って発生したバーテックスの進化個体だった。軽く数千体は居る。

 

 しかし、瑠璃は慌てない。

 

「シールド作動、かかれ」

 

『ハッ!!』

 

 動力炉から産生されるエネルギーが、シャボン玉の表面のように角度によって色を変える薄い膜となって、神殿城塞全体をすっぽりと覆い包む。

 

 光膜は向こう側が透けて見えるほどに薄かったが、しかし降り注ぐ光の矢は唯の一発も貫き通す事は叶わずに偏向され、構成しているエネルギーが霧散して消滅した。

 

 要塞から、対空光線で迎撃。攻撃してきた進化型バーテックスは全て撃ち抜かれて消滅した。

 

『閣下、大物が来ます!!』

 

「正面モニターに出して」

 

 再び空間ディスプレイが開いて、向かってくるバーテックスが表示される。

 

 帯のような器官を纏っていて、どこか女性的な印象を受けるフォルムをした個体だ。その尾部から、分霊をどんどんと生産している。神樹の防御結界を突破して四国に侵入出来る、黄道十二星座の名を冠された12体の内の1体、乙女座だ。

 

「浮遊砲台、迎撃を開始せよ」

 

 瑠璃の意志に連動し、神殿上空に浮遊していた鏡が全て向きを変え、それぞれが磨き抜かれた鏡面から熱線を照射して、バーテックスが差し向けてきた分霊を余さず撃ち落とした。

 

 その後、鏡は8個が一組で円陣を成し、最初に放った主砲と同じ機構を5つ作り出す。

 

 数秒でエネルギーの充填が完了し、マイクロサイズの恒星が5つ、城塞神殿上空に発生した。

 

「主砲、1番から5番まで斉射」

 

『ハッ、一斉発射だ、やれっ!!』

 

 バーテックスの大群を一撃の下に吹き飛ばした、質量を持っているかと錯覚する程の光エネルギー帯が、しかも5本同時に照射される。

 

 大型バーテックスの体は光の中に呑み込まれ、融けていって、そして爆発さえ起こらずに消滅した。

 

『どうやら、勝った……かしら、私?』

 

「ええ、ひとまずは、ね……わたし」

 

 モニター半分を塗り潰して覆い尽くす程だった赤い輝点は、今はぽつぽつと残っているだけだ。

 

 その時、瑠璃達にも変化があった。

 

 バーテックスの攻撃にびくともしなかった神殿城塞が、ぐらりと揺れた。そして末端部分から光となって、砂山が崩れるように消えていく。

 

『これは……時間切れか』

 

「そう、ね。持続時間も想定内。出力も含めて、文句無しの出来映えといって良いわね」

 

 数秒して、軍勢も神殿城塞も消滅してそこには瑠璃と浄玻璃しか居なくなった。

 

 周囲に敵が居ない事を確認すると、瑠璃は体の調子を確かめる時のように両手をぐっぱぐっぱしたり、体のあちこちを触診したりする。

 

「視力……異常無し。右手、左手……両足も動く……嗅覚・味覚……問題無し……ん?」

 

 違和感を感じ取って、右耳に手を当てた。

 

『……右耳が聞こえなくなったみたいね、私』

 

「ええ、わたし……予定通り失われたわ。散華も含めて……満開の実戦テストは、これにて終了。全てのシステムは正常に働いたと、大赦には報告するわ」

 

 いつも通りの無表情で瑠璃はそう呟くと、精霊を従えて神樹の結界内へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 精霊達が集められている大赦の一室。

 

 浄玻璃を伴って、瑠璃が入室してきた。

 

 床から伸びる光の柱には一本につき一体、精霊が入っているが今はその中に3つ空席、つまり精霊が入っていない柱があった。

 

 浄玻璃、青坊主、烏天狗が入っていたものだ。

 

 浄玻璃は今、瑠璃の精霊として働いているし、青坊主と烏天狗はそれぞれ須美と園子に仕える精霊として二人の端末にインストールされている為、ここには居ない。

 

 義輝だけは、実装前に仕えるべき主が死亡してしまったので再び光柱の中に戻っている。

 

 瑠璃と浄玻璃が、部屋の中をずんずんと進んでいく。

 

 部屋の奥まった所には寝台が置かれていて、そこには洗い清められて眠るような銀の遺体が横たえられていた。その下の床には、魔方陣のようにも見える紋章が描かれている。

 

『……本当にやるのね、私?』

 

 浄玻璃が尋ねてくる。

 

「無論。戦力を増やす事が出来るこの機会を、棒に振るつもりは無い。効率の為、倫理とか人道とかそういうのは無視する」

 

 瑠璃は即答した。浄玻璃は殊更異議を唱えたりもしない。これは最終確認の意味が強かった。

 

 元より、現在人類が置かれているのは状況を考えれば、目的の為に手段を選べるような余裕は無い。

 

「では、始めるわよ」

 

 瑠璃は端末を操作する。

 

「神樹の概念記録にアクセス……OK。登録された精霊を選択……OK。概念抽出を開始、触媒を選定……」

 

 床に、塗料で描かれているに過ぎない魔方陣が科学的・呪術的なギミックによって動き出し、光り始める。

 

 魔方陣の輝きが増すと共に、中央に寝かされている銀の体にも変化があった。彼女の肉体が分解され、光となって消えていく。先の結界外の戦いで、瑠璃が満開によって打ち立てた神殿城塞が、消滅していく時のように。

 

「現在、精霊システムで用いられている精霊は本物ではなく、正確にはそれらをモデルとして作り出された人工精霊」

 

 オリジナルの精霊を召喚して勇者の体に降ろすシステムは約300年前、初代勇者の時代に既に確立・実用化されてはいたが、それらは飛躍的な戦闘力を勇者に与える代わりに肉体・精神にもたらす悪影響も決して無視出来るものではなく、オミットされた機能だった。

 

「私はそれに、一つのギミックを組み込んだ」

 

『……』

 

「人工精霊の召喚時に、人間の肉体を捧げる事でその人間の記憶を転写する事が出来る」

 

 瑠璃は、がらんどうになっている右目を髪越しにつついた。

 

『その理論は既に証明されているわね、私。わたしの存在で……』

 

 浄玻璃の言葉に、瑠璃は首肯した。

 

「そして満開を行った勇者は一度につき一体、持ち精霊を増やす事が出来る。それで今回、新しい精霊を呼び出す訳だけど……」

 

 話している間にも魔方陣が発する光はより強くなり、銀の体は遂にその中へと消滅した。

 

 真っ暗だった室内は、一瞬だけ全ての影が消える程の光量で照らされる。

 

 光が治まって再び闇が戻ってきた時、銀の遺体は既に消えていた。

 

 その代わりに、一体の精霊が空中に浮遊している。

 

 その精霊は、義輝と同じように全身に甲冑を身に付けた姿をしていた。ただし義輝の甲冑は赤いが、この精霊の甲冑は白が基調となっている。全体的なフォルムは、青坊主や烏天狗と同じように二等身ぐらいで、ぬいぐるみかマスコットキャラクター、あるいはゆるキャラのようだ。

 

 瑠璃が召喚したこの精霊の名は、巴御前。

 

 旧世紀・平安時代に数多の戦場をその怪力と武芸によって駆け抜けた一騎当千の女武将である。

 

『……?? ……!! ……??』

 

 巴御前は、最初はキョロキョロと周囲を見渡す仕草を見せていたが……やがて眼前に瑠璃の姿を認めると、興奮したように飛んできて、何かを訴えるように周囲を飛び回った。

 

「ん? どうしたの?」

 

『私、初期設定では幾つかの機能がロックされたままになっているんじゃ? それを解除しないと喋ったりは出来ないわ』

 

「ああ、そうか。ごめん、すぐにロックを外すから……」

 

 瑠璃が端末を操作して、画面に表示された幾つかのボタンをスライドさせていく。

 

 3つめのボタンの機能をオフにすると巴御前の体が光って、30センチぐらいだった体が140センチ以上に変化する。等身もそれに伴ってそれぐらいの身長の少女と同じぐらいのものへと変わった。

 

 体型が変化した為だろうか、浮遊していた巴御前が尻餅をついた。

 

「うわっと」

 

 被っている兜越しで、くぐもった声で小さな悲鳴が上がる。

 

「大丈夫?」

 

「え、ええ……ありがとうございます、先輩」

 

 瑠璃が差し出した手を取って、巴御前は立ち上がる。

 

「い、いやそうじゃなくて……ここはどこで、敵はどうなって……!! ああもう、これ邪魔!!」

 

 すぽんっ!!

 

 煩わしそうに、兜を脱ぎ捨てる巴御前。

 

 その下から現れたのは、誰あろう三ノ輪銀の顔だった。

 

「おはよう。そしてお帰り、銀」

 

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