天動瑠璃は真の勇者である(完結)   作:ファルメール

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第24話 勇者集結

 

 今から、およそ一年と7ヶ月程前。

 

 神樹の結界外部に展開された瑠璃の満開、超大型城塞神殿複合構造体の最深部・王の宮。

 

 その最も奥まった所に設置された玉座の周囲には、無数の空間ディスプレイが浮遊していてまるで大企業の社長のように、玉座に腰掛けた瑠璃が左手だけで一心不乱にキーボードを叩いていた。

 

「先輩、無理しないで下さい」

 

 すぐ傍に控えていた銀が、心配そうな声を上げた。

 

 ここ最近、瑠璃はバーテックスの襲撃に際して戦闘指揮を執る時以外はずっとこうしている。

 

 食事も睡眠も、今の彼女には必要無い。飲まず食わずでも、一睡もせずとも、不眠不休で働いても、数十体もの精霊達の加護によって彼女は死なない。死ねない。

 

 それを良い事に、最近の瑠璃は比喩でも何でも無く戦い以外の時間は全てこの作業に当てていた。

 

 以前は、空いた時間に銀に戦技を指導する事もあったが、今はそれも無くなっている。

 

 出来なくなったのだ。

 

 かつては風よりも速く駆けた足も。

 

 かつてはバーテックスを一撃の下に打ち砕いた腕も。

 

 今は、動かない。満開の後に来る散華、その供物として捧げられた。

 

 既に瑠璃の四肢の中で、自由に動くのは左手だけだ。それも正確には指先だけ。肩や肘が動かないので、精霊達がサポートする形で持ち上げて、適切な位置に左手を置いている。

 

 銀の声も、もう届いてはいない。最初の満開を行った実戦テストで右耳の聴覚が喪われて、残った左耳もつい先日の満開と散華によって機能を喪失した。銀とのコミュニケーションが成立するのは、読唇術によるものだ。

 

 その、残された機能を全て使って瑠璃は何らかの作業に没頭していた。

 

 十近い画面には、夥しい数字や式が滝の如く流れていって止まる事が無い。

 

 銀がそれを覗き込んでみるが、1パーセントも理解する事は出来なかった。

 

「……銀、必要な事なのよ、これは……まだ私の体が動く内に……やり遂げなければならないの……」

 

「……アタシにはさっぱり分かりませんけど……先輩、これは一体、何の研究なんですか?」

 

 問いを受け、瑠璃は指を止めた。

 

「……終わらせる為のものよ」

 

「……? 何を、ですか?」

 

「捧げられる犠牲を、私で最後にする為に」

 

「……?」

 

 銀は言葉の意味を、いまいち掴みかねているようだった。

 

「銀、良く聞きなさい……もし私の身に何かがあった時は……あなたは、私のこの端末を四国に届けなさい……これが、私達を救う」

 

 

 

 

 

 

 

 現在・樹海。

 

 大赦本部の道場で鍛錬中だった園子と夏凜は、主戦場へとひた駆けていた。

 

「急ぐよ、にぼっしー!! もう戦いが始まってる!!」

 

「ええ、言われなくても!!」

 

 勇者として強化された身体能力もさる事ながら、しかし今の二人はこれまで経験した事が無い程のスピードで樹海を走る事が出来ていた。

 

「まるで、陸上競技のトラックを走ってるみたいね……」

 

 夏凜がぼそっと呟く。

 

 これほど走り易い地面は、生まれてこの方、お目に掛った事が無い。

 

「そうだねぇ」

 

 同じ違和感は園子も感じていた。

 

 二年前に経験した樹海は、いつでももっと起伏に富んでいたのに。

 

 ちらりと、手にした端末の地図に目を落とす。

 

 今、自分達は讃州中学勇者部とバーテックスが戦っているポイントと大赦本部とを直線で繋ぐ最短距離を進んでいるが、そのルートだけがまるで地ならしされたように一本道になっている。

 

 こんな事、偶然では有り得ないし起こり得ない。

 

 まるであらかじめ誰かの、何かの意志が樹海に働いて樹海の形が作り替えられているような……

 

「……」

 

 顔を上げた園子の視界の端に、ルドベキアの花びらのように小さな黄色い光が見えた。

 

 そんな、気がした。

 

「……まさか、ね」

 

 いずれにせよ、このペースなら思っていたよりもずっと早く目的地に着く筈だ。

 

「待っててわっしー、今行くから!!」

 

 

 

 

 

 

 

「わわわっ……!!」

 

 主戦場での勇者部は、拮抗状態ながらもやや劣勢を強いられている状況だった。

 

 大赦の関係者としてある程度の訓練を経ている風と、実戦経験豊富な須美が友奈と樹を先導・指揮する形で戦っているが、やはり敵が4体同時に攻めてきているという状況がネックだった。

 

 特に射手座が発射する光の矢を蟹座が反射して予期せぬ方向から狙い撃ってくる攻撃は厄介で、友奈達はかわすのが精一杯という状況だった。

 

 何とか近付いても、蠍座が巨大な尻尾を振り回して追い払われてしまう。そうして攻めあぐねた所を、乙女座が卵爆弾を使って攻撃してくる。

 

 行き詰まり状態だった。

 

「……じりじり押されてるわね」

 

 狙撃銃・白銀をマシンガンのように乱射して、しかもその弾丸を一発も外さず全て命中させて爆弾を迎撃しながら、須美がひとりごちた。

 

「東郷さん……」

 

 すぐ後ろに庇うようにしている友奈を、須美は振り返った。

 

「大丈夫、友奈ちゃん。今は、自分の身を守る事だけ考えていて」

 

 話しながら眼前に飛んできた爆弾を、須美は白銀を棍棒のように振って叩き落とした。

 

 視線を動かすと、風と樹も射手座と蟹座の連係攻撃から逃げ回っている。

 

「分断されてしまってるわね……」

 

 少し、拙い。

 

 戦場で分断されたら、次には各個撃破されると大昔から相場が決まっている。

 

 冷や汗が一筋だけ須美の頬を伝った。

 

 だが、その表情に焦りは無い。

 

「大丈夫よ。友奈ちゃん。すぐに、助けが来るから」

 

「助け……って……」

 

 問い返した友奈の言葉が終わるか終わらないかという所で、飛来した何かが乙女座に突き刺さって、遅発信管にセットされた魚雷のように爆発を起こした。

 

「!」

 

「ほら、来た」

 

 樹海を駆け抜け、かつて銀が纏っていたものを連想させる紅い装束を身に付けた勇者が躍り出る。

 

「ちょろいっ!!」

 

 落下の勢いを味方に付け、独楽のように体を回した遠心力もプラスして、夏凜が乙女座に強烈な斬撃を見舞った。

 

 さしものバーテックスも予期せぬ方向からの一撃を受けて、ぐらつく。

 

 その隙に、夏凜は須美と友奈のすぐ傍に着地した。

 

「大丈夫、東郷?」

 

「ええ、助かったわ。夏凜ちゃん」

 

「えっと……」

 

「大丈夫、味方よ。友奈ちゃん」

 

「……」

 

 じっ、と夏凜は疑り深そうな目で友奈を見た。

 

「……こんなちんちくりんが神樹様に選ばれた勇者? 大丈夫なの?」

 

「ちん?」

 

 ちょっぴりだけ傷付いた様子の友奈を庇うように、須美が前に出た。

 

「夏凜ちゃん、まだ友奈ちゃんはさっき勇者になったばかりなのよ。今回は、実戦の空気を感じるだけで十分。戦闘は私達が担当するわ。私やそのっちも初陣の時はそうだったから……」

 

「まぁ……そうね……」

 

 少しだけ不承不承といった様子だが、夏凜は一応の納得を示した。両手に剣を具現化して構えると、バーテックスに向き直る。

 

「この私、三好夏凜は正真正銘、絶対完璧完成型の勇者!! ちんちくりん、あんたは後学の為に、そこで私の戦い振りを見てなさい!!」

 

 今の夏凜はちょうど、友奈と須美を庇うように二人に背を見せている。

 

「ぼーっとしてて頼りなさそうだけど……けど、変身出来てるって事は、戦う意志があるって事よね。だったら、未熟は恥じる事じゃないわ。同じようにお役目に命を懸ける仲間を守るのだって、本当の勇者の役目だからね!!」

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……これじゃ近づけないわね……しつこい男は嫌いなのよ」

 

「モテる人みたいな事言ってないで、何とかしようよお姉ちゃん」

 

 物陰に体を隠して射手座と蟹座の連係攻撃をかわし、反撃の機会を伺っている犬吠埼姉妹。

 

 そろりと、風が恐る恐る顔を覗かせる。

 

 しかしそこに光の矢が突き刺さって、慌てて顔を引っ込めた。

 

「拙いわね……これじゃ迂闊に動けない」

 

 そう、呟いた時だった。

 

 視界の果てから一筋の光が伸びてきて、蟹座を串刺しにして貫いた。見れば、それは異常なまでの長さに伸びた槍だと分かった。

 

 そのまま柄の弾性を利用して棒高跳びの要領で、誰かがこちらに飛んでくる。

 

 何度も宙返りした後に見事な着地を決めたのは、紫色の勇者装束を纏った少女。

 

「乃木!!」

 

「お待たせ、ふーみん先輩」

 

 通常時の長さに戻した槍をくるくる回して肩に担いだ園子が、手を振って挨拶してくる。

 

「お姉ちゃん?」

 

「大丈夫、同じ仲間の勇者よ。東郷と同じで、ずっと前から世界を守ってきた先代勇者の……」

 

「乃木園子だぜぃ!!」

 

「よ、よろしくお願いします……って後ろ後ろ!!」

 

「乃木!!」

 

 笑顔な園子の後ろで、蟹座の反射攻撃が彼女の背中めがけて殺到する。

 

 園子はまだ気付いていないのか、避けようとする様子も見せない。後ろを振り向く事もしない。

 

 何故なら、その必要が無いからだ。

 

 風と樹が庇おうと射線に割り込むよりも早く。

 

 飛来した黒い影が背中合わせに園子の背後に降り立った。

 

 そうして手を翳したそこに、紅いエネルギーのフィールドが発生して、バリアのように全ての攻撃を防ぎ切った。

 

「あなたは……」

 

「憂国の戦士、国防仮面参上!! 助太刀するぞ、勇者達よ!!」

 

「「……!!」」

 

 あまりも予想外の闖入者に、風と樹の目が点になった。

 

 対照的に園子は少しも焦った様子は無く、幾戦を経た戦友のように背中を合わせた国防仮面の肩越しに声を掛ける。

 

「ミノさん、あまり私を焦らせないでよ~」

 

「悪い悪い。どうやらアタシが一番最後らしいな」

 

 バリアで光の矢を防ぎきった国防仮面は、その手に炎を纏う薙刀を具現化して、構えた。

 

「兎に角……これで全員集合……反撃開始だ!! 人間様の、気合いと根性と魂!! こいつらに思い知らせてやろう!!」

 

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