天動瑠璃は真の勇者である(完結)   作:ファルメール

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第25話 散らない花

 

「じゃあ、行くわよ……封印開始!!」

 

 夏凜が投げつけた短刀がヴァルゴ・バーテックスの周囲三方に突き刺さり、夏凜自身と合わせて包囲網が完成した。

 

 その状態で勇者が気合いと共に力を発現させる事で、バーテックスを倒す為の術・封印の儀が開始される。

 

 夏凜のモチーフであるサツキを思わせる紅い花びらの力場がバーテックスを包み込み、やがてその体内から金属的な光沢を持つ四角錐の物体が排出された。

 

「あれは……」

 

「御霊……いわばバーテックスの心臓部よ。通常攻撃ではバーテックスはすぐに再生してしまう。完全に倒すには、あれを破壊する必要があるの」

 

 狙撃銃・白銀を油断無く構えつつ、須美が説明した。

 

「つまり、あれを壊せばこっちの勝ちって……事よ!!」

 

 夏凜が数本の剣を投擲するが、御霊には突き刺さらずに弾かれた。

 

「っ!! 固い!!」

 

「夏凜ちゃん、私がやるわ」

 

 白銀の一部をカメラの三脚のように変形させて反動を抑えられるよう固定すると、須美が引き金を引く。

 

 しかしやはりバーテックス・ヴァルゴの御霊外殻は固く、銃弾は弾かれてしまった。

 

「駄目か……!!」

 

「いえ……」

 

 表情を変えず続け様、須美は引き金を絞る。

 

 二発、三発、四発。

 

 全て、弾かれる。

 

 五発、六発、七発。

 

 みしり、と外殻が軋む音が聞こえる。

 

 八発、九発、十発。

 

 びしっ。

 

 外殻に、ヒビが入る。

 

 十一発、十二発、十三発。

 

 外殻が、砕けた。

 

「流石……!!」

 

 畏敬の念が込められた声を上げる夏凜。

 

 点滴岩をも穿つの例え通りであった。

 

 全く完全に、同じ一点にだけ銃弾を連続して命中させ続けたので、ヴァルゴの外殻のその一点だけがダイナマイトが爆裂したのと同じ状態になって、遂に破壊されたのだ。

 

 ……などと、言葉にするのは簡単だが射撃場ならばいざ知らず実戦の中でそれを事も無げにやってのけるのである。その射撃技術・集中力。須美がどれほど高度に訓練された勇者なのか、これだけでも伺い知れるというものだった。

 

 そしてヒビが入ったそこは、まさしくダムに開いた蟻の一穴。狙うべきウィークポイント。

 

「私、行くよ!!」

 

 友奈が飛び出した。

 

「ふっ!!」

 

 同時に夏凜が刀を投げつけて、それは狙い過たずヒビが入った部分に突き刺さる。

 

「ちんちくりん、狙って!!」

 

「……うん!!」

 

 ピンク色の光を纏いながら一個の砲弾と化して吶喊した友奈の拳が、刀の柄に叩き付けられた。

 

 夏凜の刀は、いわば楔だった。そこに、友奈の拳がハンマーとして叩き付けられたのだ。

 

 全体にヒビが広がる。だが、御霊は崩壊寸前ギリギリのラインながら、まだ形を留めていた。

 

「浅いか……!?」

 

 最後の一撃を与えるべく引き金に掛けた指先に力を入れる須美。

 

「ぐっ……えっ?」

 

 この時、友奈は不思議な違和感を味わっていた。

 

 そこに誰も居ない筈なのに。背中を押されるような感覚がある。

 

 最後に足りなかった一押し、それを打ち込む力が湧いて……いや、別の所から流れ込んでくるように思える。

 

 いずれにせよ。これなら、行ける。

 

 自分の力も、流れ込んできた力も。全て合わせて、友奈は拳を深く打ち込んだ。

 

「どうだ!!」

 

 着地した友奈が見上げると……ちょうど、御霊が砕け散る所だった。

 

 光となって、溶けて消えていく。同時に、心臓部が破壊された事で本体も砂のように崩れ去った。

 

「やった!!」

 

「……やるじゃん」

 

 手を振る友奈へ向けて、夏凜が親指を立てて応じた。

 

 

 

 

 

 

 

 風・樹・園子・国防仮面の4人の方でも、勇者3名による封印の儀が開始されていた。

 

 キャンサー・バーテックスの体が縦に割れるように開いて、御霊が顔を出す。

 

「よし、私が行くわ。援護して!!」

 

 風が勢い良く跳躍して大剣を振るうが、御霊は十数個に分裂し、バラける事で攻撃をかわしてしまった。

 

「この……っ!!」

 

 何度か試みるが、大振りである大剣では御霊を捉えきれない。

 

「……私なら出来るかも……!!」

 

 樹が何かしようと手をかざすが……その動きを察したように御霊は、自分自身を弾丸のように飛ばしてきた。

 

「ひゃ……!!」

 

「樹!!」

 

 初陣でしかも訓練を受けている訳でもない樹は、思わず目を瞑ってしまう。

 

「大丈夫だよ~」

 

「そそ、アタシ等の事、忘れてもらっちゃ困るよ」

 

 だが飛んできた御霊は、射線に割り込んだ国防仮面が展開したバリアによって弾かれて空中を舞う。

 

 そうしてふわふわと宙に漂ったそこを、園子の槍がたったの一突き。重なり合った一瞬を貫いて、串団子のように突き刺した。

 

「ありがとうございます!! これなら……!!」

 

 樹の手首に出現したリングから伸びた光のラインが、全ての御霊を括り付けて一カ所に固めてしまう。

 

「ナイス樹!! そして食らえっ、私の女子力!!」

 

 これで御霊は攻撃をかわす術を失った。

 

 跳躍して高さを味方に付けた風が、巨大化させた大剣をハエ叩きのようにぶつけて御霊を押し潰してしまった。

 

 御霊は消滅、本体も崩壊。

 

 バーテックスは残り2体。

 

 しかも蟹座を倒した事で、サジタリウス・バーテックスは攻撃を反射しての変則射撃は封じられた。既にヴァルゴも撃破が完了している。

 

 4体同時に戦っていた時点で、讃州中学勇者部のメンバーはやや劣勢ながらも五分近く戦う事が出来ていた。今や敵の戦力は半減し、逆に勇者部には園子・夏凜・国防仮面と援軍が加わった。

 

『……この戦いは、勝てるな』

 

 敵の殲滅を確認するまでは、常に最悪の事態を想定しろ。

 

 壁の外での戦いで、銀は瑠璃から口を酸っぱくしてそう教えられてきた。

 

 しかし客観的に見て、この状況で負ける可能性は低い。ちらりとかつて大橋があった方向を見るが、バーテックスに援軍が来る気配も無い。奇をてらわずに正攻法で以て押し出せば、まず勝てる。

 

 だが、だからこそ。

 

「ミノさん」

 

「ああ……」

 

 背中合わせになった園子の言葉に、国防仮面こと銀は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ……今、ここで試しておくべきね」

 

 呟いた須美は自分の左胸に視線を落として、勇者装束に刻まれた朝顔を模したマーク。満開ゲージを確認する。

 

 今は5つの花びら全てに、光が点っていた。

 

 満開が、使える。

 

「……」

 

 不安はある。

 

 理論上では大丈夫な筈だが……試した事など無い。また、試す事など出来なかったのだから。

 

 だが、いつかは試さなくてはならない。

 

 そしてその役目を他の者に……特に友奈や樹にさせる事は出来ない。

 

 それをすべきは、きっと自分なのだ。

 

 須美は懐に仕舞っておいた、かつて瑠璃の物だったスマホを握り締めた。

 

 だからこそ神樹様の神託によって、このスマホが自分に託されたのだ。

 

『どうか……瑠璃さん。私を、守ってください……』

 

 祈り。

 

 そして……一度だけ、友奈を見た。不安な気持ちが、まだ須美の中に残っていたからだ。

 

「……? 東郷さん?」

 

 友奈が、首を傾げて見てくる。

 

 須美はふっと微笑み返すと、覚悟を決める。そして力を解放した。

 

「……満開!!」

 

 蓄積されていたエネルギーが一気に噴き出て、形を成していく。

 

 須美の武器は弓や銃といった射撃系に統一されている。そして満開は、その勇者が持つ武器や能力を強化された形の物が発現する。

 

 故に須美の満開は、フレキシブルに動く幾つもの砲門を備えた空中砲台として具現化した。

 

 勇者達の中で、最も強い力を放っている彼女が最大の脅威と判断したのだろう。サジタリウス・バーテックスが光の矢を雨のように吐き出してくる。だがそれらは全て青坊主の精霊バリアと、須美の満開それ自体が纏うエネルギーの力場に当たって弾かれ、構成していたエネルギーが霧散して消滅する。

 

「お前達の攻撃は、もう届かない……!!」

 

 須美の反撃が繰り出される。

 

 砲門全てに充填されたエネルギーが、一点へと集まって収束・増幅される。

 

 青いエネルギーの奔流が迸って、封印の儀を経る事も無くサジタリウスのすぐ傍に居たスコーピオンをも巻き込んで、一撃の下に跡形も無く、その総体を消し飛ばした。

 

「やったあ!! 東郷さん、凄い!!」

 

 須美が下に視線を向けると、友奈が両手を挙げ飛び跳ねて喜んでいるのが見えた。

 

「あれが、満開……初めて見た……」

 

 呆然と、夏凜が呟く。

 

 その時だった。強大な攻撃力を維持するだけのエネルギーが切れて、満開が解除される。

 

 ふわりと、地面に降り立った須美のすぐ傍に、園子と国防仮面がいの一番に駆け寄ってくる。

 

「わっしー!!」

 

「大丈夫か?」

 

「…………」

 

 気遣わしげに自分の体を支える二人の声も、今の須美には聞こえていないようだった。

 

 しきりにぐっぱぐっぱと両手を動かしたり、体を触ったりを繰り返している。

 

「……わっしー……?」

 

「……うん、大丈夫よ。そのっち……」

 

 視覚・聴覚・味覚・声……他にも何か記憶に欠落が無いかとも思ったが……違和感は無い。

 

 何も、喪っていない。

 

「「…………」」

 

 それを聞いた二人は顔を見合わせて……

 

「やった、やったよ!! わっしー!! 天さんがやってくれたよ!!」

 

 涙目になった園子が満面の笑顔で抱き付いてきた。

 

「……アタシが、あの時届けたデータが……役に立ったね」

 

 気が抜けたように、国防仮面はその場に尻餅付いて大きく息を吐き、天を仰いだ。

 

 自分は、役目を確かにやり遂げていたのだと。

 

 瑠璃は、時を稼ぐ為に壁の外に残った後でも、満開の研究を続けていた。

 

 そもそも満開も精霊システムも、その基礎理論を完成させたのは当の瑠璃自身だ。史上最高の巫女適性を持つ彼女は神樹と深くリンクしており、これまで大赦が行ってきた勇者システムについての研究成果を全て識っている。

 

 それらの知識を統合・発展させて完成させたのが現在の勇者システムだった。

 

 彼女は死地にあって唯一人で戦いながらも、後進の勇者の為に研究を平行して続けていたのだ。

 

 そして、あの時、瑠璃の分身とも言える精霊・浄玻璃から銀に託された瑠璃のスマホ。あの中には、その研究成果と一年半にも渡るバーテックスとの戦闘データの全てが入っていたのだ。

 

 それらを使って、大赦にて満開のシステムが更に改良を進められ、アップデートされるように。

 

 たとえ自分が帰れなくても、後に続く者を守れるように。

 

 今回、須美が満開しても隠し機能である散華が発動せず、何も喪わなかったのは勇者システムが改良されていたからだ。

 

 でも……須美はそうは思わなかった。

 

「……いえ……そのっち……きっと、瑠璃さんが守ってくれたのよ」

 

 肉体を喪っても、存在がこの世界から消えても。

 

 それでも、魂に宿る想いが消える事は無い。

 

 瑠璃はもう居ないけど、瑠璃の想いが永遠に自分達を守って、一緒に戦ってくれる。

 

 それが今、須美の抱いた確信だった。

 

 と、樹海が解け始めた。

 

 景色が揺らいで、消えていく。

 

 友奈達はそれぞれ、お互いの敢闘を称え勝利を喜び合っていたが……

 

「あ、ちょっとあんた!! 待ちなさい!!」

 

「「「うん?」」」

 

 聞こえてきた声に全員が視線をそちらに向けると、ふわりと宙に浮いた国防仮面に、夏凜が突っかかっていた。

 

「降りてきなさい!! こないだの決着を付けるわよ!!」

 

「はは……残念だけど、アタシは握手会の最中にこっちに来たんでね。正義の味方は、子供達を裏切らないものだよ。では、さらばだ勇者達よ!! 辛い戦いはまだまだ続くが、アタシも微力ながら力になる。また会おう!!」

 

「待てこらー!!」

 

 柄の方を向けて刀を投げつけるが、国防仮面は空を飛んで簡単にかわしてしまうと、上空へと飛び去っていった。

 

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