天動瑠璃は真の勇者である(完結)   作:ファルメール

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第35話 神世紀最終聖戦 3

 

「……瑠璃さんの……体に……」

 

「天の神、が……」

 

「乗り移った……!?」

 

<……>

 

 ぐっ、ぐっ……と瑠璃、否、瑠璃の体を動かす天の神は拳を作ったり開いたりを繰り返す。

 

<……素晴らしい……>

 

 にやり。

 

 端正な瑠璃の顔が、邪悪に歪んだ。

 

<この肉体は、地上に於ける我らの器として申し分無い……>

 

「なっ……!?」

 

<およそ二年前、天動瑠璃が戦いの中でその存在を現世から消してしまった時は……我らも勿体無いとは思ったのだ>

 

「な……勿体無い……ですって……?」

 

 天の神が頷く。

 

<さしもの我らとて、神樹の結界の中にまでは干渉出来る値が限られるのでな。300年の時を掛け、少しずつ我らの器として相応しい者が生まれ出るように因果を歪め、調整を繰り返していたのだ。我らの炎が世界の全てを焼き尽くした後……地上を新しく創造し直す為には、やはり現世の肉体があった方が、何かと都合が良いのでな>

 

「そんな……そんな事の為に……瑠璃さんは生み出されたというの……?」

 

<そうだ。だから300年掛けて生まれた最高傑作が消えてしまったと知った時は、我らとて残念ではあった……しかし、それも巡り巡ってみれば、より良き結果となった……まさか神樹の力で、より若い御姿を鋳造して現世に還ってくるとは……>

 

 一度存在の全てを散華し供物として神樹に捧げた瑠璃は、現世に戻る為に新しい肉体が必要であった。

 

 今の瑠璃の肉体は、人間の両親によって育まれたものではなく、神樹の力によって造られた御姿。

 

 同じ御姿ならばレオ・バーテックスの御霊に触れて散華に近い状態から戻ってきた友奈も同じだが、神樹によって造られたのはあくまで体機能であって肉体それ自体は生身である友奈と比べて、肉体そのものを一から作り直している瑠璃は神聖さでも友奈を上回る。霊的な存在である神の魂の容器としては、申し分無いのだろう。

 

 瑠璃は天の神を殺すどころか、とんでもない贈り物をしてしまったのだ。

 

<神である我らの魂と、限り無く神に近い現世の肉体……この二つが揃った今、全てが我らの意の侭に叶う……バーテックスなど最早不要……これよりは我らが直々に、人に神罰を下すものとする>

 

 そう、天の神が言った瞬間だった。

 

 空間に神樹の力が満ちて、周囲が樹海化する。

 

 同時に、瑠璃の体を使う天の神はくるっと振り返った。

 

「……!! しまった……!! 勇者部一同、戦闘準備!!」

 

 風が、一番最初にこの状況の拙さに気付いた。天の神が見ている先に、何があるのか。

 

 すぐさま勇者アプリを立ち上げて、変身する。

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

「忘れたの!? ここは大赦の最深部の本殿……つまり、一番神樹様に近い所なのよ!!」

 

「「あっ……!!」」

 

 そこまで説明されて、他の面々も今がどれほど最悪に近い事態かを認識する。

 

 この本殿は大赦に数多ある社殿の中でも、祀るべき存在である神樹に最も近い位置に建立されている。

 

 今、その神樹に最も近い位置に、バーテックスどころか天の神が出現しているのだ。 

 

 城で言うのならば、城壁をうず高く積み上げて堀も深く掘っていたのに、それら全てを無視して玉座の間のすぐ手前の部屋に敵軍がいきなりワープしてやって来たようなものだ。

 

 瑠璃は、天の神を道連れとする為に自身とのリンクを深くしたが……しかしそれが災いする形となった。神樹の結界を通り過ぎて、ここまで侵入を許してしまった。

 

 そっと掲げた瑠璃の掌に、炎の球が生まれた。レオ・バーテックスが使うのと同じ炎弾だ。

 

 最初は火花程であったそれは、瑠璃の手から離れると同時にみるみる大きくなって、この空間を一呑みにするぐらい巨大になった。

 

 前に出た風が、大剣を盾にして炎弾を受け止める。

 

「ぐっ……くっ……!!」

 

 少しでもタイミングが遅れていたら、この場の全員が焼き殺されるどころか蒸発して跡形も無くなっていた所だった。

 

 慌てて、友奈達もそれぞれ変身する。

 

 風の力では止められない。ずっ……ずっ……と踏ん張った足が地面に浅い溝を作っていく。

 

「……くっ……満開!!」

 

 蓄積されたエネルギーが開放されて、勇者装束が機能美と造形美を両立させた純白の物に切り替わる。

 

 風の満開は須美や園子のように巨大な砲台や舟が出現するというものではなく、純粋に基礎能力が強化されるタイプだ。しかし出力それ自体は、同じ満開である以上二人のそれにも引けを取らない。

 

 しかしその満開の力を以てしても、まだ風の方が押されていた。

 

 じりじりと、後退させられていく。

 

「ふ、風先輩……今助けに……!!」

 

「来るなあっ!!」

 

 友奈達が駆け寄ろうとしたが、風の叫びで動きが止まった。

 

 風の判断は正しい。ここでこの炎弾を防ぐ為に全員の力を使ってしまったら、瑠璃……いや、天の神が神樹を破壊する為に侵攻するのを止める者が居なくなってしまう。

 

「ぐ……うっ……があああああああーーーーーっ!!!!」

 

 獣の咆哮のように叫び、全ての力を一瞬に出し切る。

 

 炎の塊が弾けて、螢の群れのようにどこか幻想的な光景が生まれた。

 

 しかし同時に、風も遙か後方へと吹っ飛ばされて社殿の一つに突っ込んだ。衝撃で壊れた神社が崩れて、風の体が瓦礫に隠れて見えなくなった。

 

「お、お姉ちゃん……!!」」

 

 樹が駆け寄ろうとするが……しかし、眼前に敵を放置したままでは助けに行く事も出来ない。しかもこのまま天の神を放っておいたら、神樹が破壊されて世界が終わってしまう。

 

「待ってて……すぐ、助けに行くから……満開!!」

 

 後光のように背中に出現した巨大なリングから、無数のワイヤーが伸びて瑠璃へと向かっていく。

 

 樹には、瑠璃の体を殺す事など出来ない。故に、拘束してこの場に留める事が狙いだった。

 

 何百本もあってしかも全方位から同時に迫るワイヤーは、防御も回避も不可能。縦を防げば横。右を避ければ左。防ぎようも無ければ避けようも無い。

 

 天の神にどれだけ強い力があろうとも、使う肉体が人間である瑠璃の物である以上、それに縛られる部分はある。手が二本しか無いのなら、二本の手では捌けない物量で攻める。

 

 樹の攻めは、非常に理に適ったものであった。

 

 ただし、それが通用するのは常識の範疇のみの話。

 

 天の神は、防御も回避もしなかった。

 

 瑠璃の右手が、大きく振られる。

 

 たったの一撃、たったの一振り。

 

 それだけで、局地台風のような暴風が巻き起こって、樹のワイヤーが全て薙ぎ払われた。樹海を形成する植物が、根こそぎ引きちぎられていく。

 

「なっ……きゃあああああああーーーーっ!!」

 

 樹自身も風に煽られた木の葉のように風に巻き込まれて、きりもみ回転した後で受け身も取れずに地面に激突する……所を、寸前で銀が受け止めた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 樹にダメージは少なかったが、エネルギーを消費した事で満開が解けてしまった。

 

「くっ……!! 止まれええーーーっ!!」

 

 既に満開を纏っていた夏凜が、4本の巨大な刀を一斉に振り下ろす。

 

 今度は天の神の手にスケールダウンされたスコーピオン・バーテックスの尾が出現して、鞭のように握られた。

 

 しかも、鞭身を成すビーズアクセサリーのように連結した無数の球体の一つ一つに、棘付き鉄球のようにサジタリウス・バーテックスが発射する光の棘が生えて、恐ろしい殺傷力を持った凶器となって振るわれる。

 

 刀と鞭が接触して……それだけで、夏凜の4本の刀が全て砕かれた。

 

 更には鞭はそれでも止まらず、満開を砕きながら向かってきてとうとう夏凜の体へと肉迫する。

 

 寸前で義輝が、バリアを発生させて止めた。

 

 だが、持ち堪えたのは数秒だった。

 

 バリアに亀裂が走った。

 

「そんな……バリアが、割れる!?」

 

 今までの戦いで、バーテックスの如何なる攻撃からも勇者を守り、ブラックホールの超重力にも耐えた精霊の加護が、破られようとしている。

 

<所詮は精霊如きの、しかも人の手でそれを真似て造った模造品の力……真の神たる我らの力に、抗えるとでも思ったのか?>

 

 天の神がそう言ったと同時に、義輝が生み出したバリアが完全に砕け散って、夏凜の体に鞭が直撃した。

 

「がはあっ!!」

 

 全身から血を噴き出しながら、吹っ飛んだ夏凜が墜落して土煙を上げた。

 

「夏凜ちゃ……」

 

「わっしー、危ない!!」

 

 夏凜を助けようと須美が走り出したそこに、光の雨が降り注いだ。サジタリウス・バーテックスの使う矢だ。

 

 割り込んだ園子が、槍の穂先を傘状に展開して防御態勢を取る。

 

 園子の傘は、何とか攻撃を防ぐ事に成功していた。しかし、それも長くは保ちそうに無かった。槍の柄がミシミシと軋んで、矢を受けている傘のあちこちが燃え始めている。

 

 その、光の雨の中を、天の神は無造作に歩いてくる。矢が、瑠璃の体に当たるがしかし触れたと同時に只の雨滴のように、粒子となって散った。

 

<……>

 

 そっ、と天の神が拳を振りかぶった。

 

「くっ……!!」

 

「まんか……」

 

<遅い>

 

 園子が傘盾で天の神の攻撃をガードしようとして、同時に須美が満開を発動しようとする。

 

 が、それよりも早く園子のガードに天の神の拳が当たって……

 

 防御ごと、二人の体がカチ上げられて空中に舞い上げられた。

 

「うわあっ!!」

 

「うぐっ!!」

 

 そのまま宙を舞って、二人とも地面に叩き付けられた。

 

<残りは……!!>

 

「そこだあああああーーーーーっ!!!!」

 

 桃色の光を纏い、満開した友奈が突貫する。

 

 今の天の神は、須美と園子へと攻撃した瞬間で無防備。この、友奈の攻撃はかわせない。

 

「瑠璃さんの体から、出て行けぇーーーーっ!! 勇者ぁああああーーーーっ、パーーーンチ!!!!」

 

 乾坤一擲。

 

 満開によって創られた、必殺の鉄拳。

 

 それが、瑠璃の体に全く無防備の所へ、直撃した。

 

 命中。

 

 ガードもしていないしバリアも張っていない。完全にノーガードの所に、突き刺さった。

 

 如何に天の神が強くとも、これならばダメージはある。

 

 誰もが、それを確信した。

 

 そして、確かにダメージはあった。

 

 びしっ……

 

 ひび割れるような音が鳴って……

 

 友奈の満開の巨拳に亀裂が走り……ガラス細工を踏みつけたように砕け散った。

 

 しかも、それだけではなく……

 

「うぐっ、あああっ……あぐっ……!!」

 

 悲鳴を上げて、右手を押さえながら友奈がうずくまった。右手のあちこちから、血飛沫が出ている。

 

 まるで生身の手で思い切り鉄板を叩いたように、友奈の右腕の筋肉も骨も壊れていた。

 

 ダメージは、確かにあった。ただし、攻撃した友奈の方に。

 

 瑠璃を除けば最高の勇者適性を持つ友奈が満開して放った渾身の一撃が、ガードもしないしバリアも張らない、それどころか衝撃に備えて筋肉を硬直させる事すらしない。天の神が全く完全に無防備な所にまともに入って、友奈の拳の方が破壊されたのだ。

 

 肉体・精神両方に走った衝撃で動けない友奈の首に、天の神の手が伸びて……鷲掴みにして、右手一本で宙吊りにした。

 

「あ……か……はっ……」

 

 友奈は足をばたつかせ、首を締め上げる手を掴んで逃れようとするが、天の神の力は強くビクともしなかった。

 

「ゆ……友奈ちゃん!!」

 

 倒れたままの須美が助けに行こうとするが、強かに打ち付けた体は言う事を聞かず、立ち上がる事すらしてはくれない。

 

<理解したか? これが、人と神の力の差だ>

 

「る……り……さ…ん……めを……さま……し……て……」

 

<天動瑠璃は、もう居らぬ>

 

 天の神は、楽しんでいるように言った。

 

 すうっと、空いている左手が動いて……空手で言う貫手の形を作った。

 

<お前達に、世界は、民は、仲間は、瑠璃は、救えぬ。自分自身すらもな。無力さに歯噛みし、絶望の中で死んでゆけ>

 

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