天動瑠璃は真の勇者である(完結)   作:ファルメール

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第05話 合宿

 須美達3人の課題は、ずばり連携の強化。

 

 元々、合同訓練が不足していたのでこれは必然の流れと言えた。

 

 今の所全体の指揮は瑠璃が行ってくれているが、チーム全体が一丸となって円滑に動く為には十分な反復練習が欠かせない。

 

 神託によればバーテックスの次の襲撃まではまだ時間があるとの事だったので、チームワークを深める為にも合宿が行われる運びとなった。

 

 訓練はリゾート地である讃州サンビーチを貸し切って、行われる。

 

 既に浜辺には勇者に変身した須美達と向かい合って、ジャージ姿の安芸先生と変身した瑠璃が並んでいた。

 

「お役目が本格的に始まった以上、大赦は全力を挙げてあなた達勇者をバックアップします。学校の事や家族の事は心配せず、頑張って」

 

「「「はい!!」」」

 

 三人は声を揃えて返事する。

 

「さて……肝心の訓練の内容だけど……天動さん」

 

「はい」

 

 安芸先生に促されて、瑠璃が進み出た。

 

 瑠璃がすっと両手を軽く上げると、二本の剣が出現してそこに握られた。彼女の武器である兵士達が使っている物だ。どうやら勇者としての瑠璃の能力は軍団を丸ごと召喚するだけではなく、武器だけを喚び出して自分が使う事も出来るらしい。

 

「三人とも、この合宿での訓練内容は至ってシンプル……三人がかりで、私に一撃でも当てればそれでクリア。簡単でしょう?」

 

「えっ……先輩……?」

 

「遠慮は要らない。全力で私に一撃を与えてみなさい」

 

 そう言って、十歩ばかり下がった瑠璃は両手を垂らして程良く脱力した構えを取る。三人が安芸先生に視線をやると、先生は無言のままに頷いた。訓練はもう始まっているという意味だ。須美達は視線を合わせ頷き合うと、まず園子と銀が得物を構えて、須美は跳躍して後方の高台に陣取った。

 

 まずは、良し。瑠璃が静かに頷く。

 

 園子と銀が前衛を務めて、須美は後方から二人を支援する形だ。まだチームワークが十分でなくても、自分達の役割はちゃんと分かっているようだ。

 

「行きます!!」

 

 まずは先陣切って、銀が瑠璃へと突進した。

 

 瑠璃は微動もせずに迎え撃つ構えだ。

 

 瑠璃の直前まで来た銀は、そこでステップを踏んで急速に方向転換。右側へと回り込む。

 

「む」

 

 一声、瑠璃が唸った。銀のこの動きは、瑠璃の弱点を衝くものだった。隻眼である瑠璃は、右側が見えない。ならばその死角からの攻撃は、確実に入る。「アタシ一人で楽勝!!」と、そう思っていたのだが……

 

 ギィン!!

 

 金属音。

 

 銀の双斧を、瑠璃は右手の剣で止めていた。しかも、彼女は銀の方を振り向きさえもしていない。

 

「んなっ!? 何で!? 見えない筈なのに!?」

 

「気配で見えているのよ」

 

 あっさりとそう言った瑠璃は剣を手放すと、自由になった手で銀が逃げる間も与えずに胸ぐらを掴んで、海へ向けて放り投げた。

 

「うわああああああーーーーーっ!!!!」

 

 ドップラー効果を上げながらすっ飛んだ銀は放物線を描いて海に飛び込んで、水柱が上がった。

 

「次」

 

 瑠璃は、園子へと向き直った。と、同時に先程の銀よりもずっと早く突進して園子に肉迫し、双剣を振りかぶる。

 

「ひゃっ!!」

 

 咄嗟に園子が槍の穂先を広げて盾にして、攻撃を受け止めようとする。

 

「…………?」

 

 しかし、いつまでも覚悟した衝撃は襲ってこなかった。

 

「……??」

 

 恐る恐る、傘状にした槍をずらして前方の様子を伺う。

 

 そこには、意外と言うべきかやはりと言うべきか、瑠璃が仁王立ちしていた。

 

「!!」

 

「あなたのガードは堅いけど、視界が塞がるのが弱点。気配で物を見れるようにしなさい」

 

 反射的に槍を振って攻撃しようとするが、瑠璃の手が伸びてくる方が早かった。

 

 そうして胸ぐらを捕まれると、後は先程の銀のリプレイだった。

 

「ひゃあああああああ~~っ!!」

 

 悲鳴を上げて放物線を描いて、海に落ちて水柱を立てた。

 

「残るは一人」

 

「くっ……!! 当たれ、当たれっ……!!」

 

 慌てて矢を乱射するが、瑠璃は両手の剣で矢をはたき落としながら悠然と歩みつつ須美の眼前まで来ると、三度同じ光景が繰り返された。

 

「きゃあああああっ!!」

 

 即ち悲鳴、放物線、落下、水柱。

 

「安芸先生、タイムは?」

 

 瑠璃に言われて、安芸先生が手にしていたストップウォッチに目をやる。

 

「30秒ジャストね」

 

「まぁ、最初だし……そんな所か」

 

 瑠璃は相変わらず無表情で声も合成音のようで、このタイムが短いのか長いのかさっぱり分からない。

 

 彼女は海面から顔を出している後輩三人へと、声を掛ける。

 

「さぁ、私に一撃を入れられるまで続けるわよ。三人とも、早く海から上がって」

 

 

 

 

 

 

 

 結局この日は、一撃も入れられずに日が暮れて訓練は終了となった。

 

「最後のタイムは3分52秒。私相手に一日で3分以上もタイムを伸ばせたのは上出来ね」

 

 これは訓練の成果について、瑠璃のコメントだった。一方で安芸先生は、

 

「これが実戦だったらあなた達は今日だけで30回以上も死んでいるのよ? その意味をよく考えなさい」

 

 と、厳しいコメントを残している。

 

 しかしどちらの言葉も今の須美達には聞こえていないだろう。

 

 疲労困憊となった三人は部屋に運び込まれて、泥のように眠っている。

 

 その夜、安芸先生は旅館の部屋で大赦に提出する書類を作成していたが……10時を過ぎた頃に部屋の扉がノックされた。

 

「どなたですか?」

 

「瑠璃です、先生。入れていただけますか?」

 

「天動さん? どうぞ」

 

 鍵を開けて、瑠璃を部屋に招き入れる。

 

 瑠璃は持参していたコーヒーを安芸先生に渡すと、彼女の対面の席に腰を下ろした。

 

「何の用かしら? あなたも今日は疲れたでしょう……明日も早いのだし、早く休んだ方が良いわよ?」

 

「休みますよ。でもその前に、以前に上申した案について、ちゃんと上に報告してくださったのか……確認しに来ました」

 

「疑り深いわね、昔から……」

 

「慎重派と言ってもらいたいですが……まぁ、それはそれとして……」

 

 目で説明を促してくる瑠璃に、安芸先生は諦めたように溜息を吐いた。

 

「えぇ……あなたの意見書は私も読んだし、上にも提出したわ……つまり、今後は大赦からだけではなく一般からも適正値の高い少女から勇者を選出して、バーテックスとの戦いに当たるべき……ということよね」

 

 瑠璃が頷く。

 

「それは、あなたが意見書を出す前から既に何度か審議されている議題だけど……まだ結論が出ていないの……バーテックスと戦い、人類を守るのはあくまで大赦に連なる者達が行うべき義務であり……一般の人達を巻き込むべきではないという意見があって……」

 

「そんな建前は、既に有名無実化しているでしょう」

 

 ずばりと、瑠璃は言い切った。

 

「事実、鷲尾家には子供が産まれなかったから、家格に劣る東郷家から養女を取って須美が鷲尾家から出た勇者としているし……高い勇者適正値を持った孤児を引き取って、その女の子に百年も昔に絶えた「天動」の家の名を与えて天動家が復興したという形を取ったりとか……確かにこれなら「勇者は大赦に連なる家系から選ばれる」というルールには則っているけど……そんな形式にこだわる前に、やる事は他にいくらでもあるのではないかと言っているのよ」

 

「……あなたは、いつも正論ばかり言うわね。反論のしようも無い程に……」

 

「無駄な事が嫌いなだけよ」

 

 そう答えて、しかしやはり自分の意見は通らなかったのだと、瑠璃は頭を振った。

 

 意見は言うが、彼女はあくまで大赦に所属する勇者。大赦の決定には従わねばならない。

 

「では、一つだけ教えてもらえませんか?」

 

「……何かしら? 可能な範囲で答えさせてもらうけど……」

 

「じゃあ、ずばり……大赦は私の存在を過信しているのではないですか? 天動瑠璃……過去最高の勇者適性を持ち、これまで数十回以上バーテックスの侵攻を全て防いできた実績もある最強の勇者……そんな彼女が居れば、多少は他の勇者が未熟でも大丈夫だろうと高を括っているのではないですか?」

 

「……そんな事は……」

 

「……全くない、と言い切れるのですか? 楽観的な物の見方をしている者は居ない、と?」

 

「……」

 

 安芸先生は押し黙ってしまった。

 

 答えは得られなかったが、しかしこの沈黙こそ雄弁以上。明確な「イエス」だった。

 

「分かりました」

 

 そう言うと、瑠璃は立ち上がる。

 

「夜分遅くに申し訳ありませんでした、先生……お休みなさい……」

 

「お休み、天動さん……」

 

 そうしてあてがわれた部屋に戻った瑠璃は、スマホ片手に僅かに唇を尖らせる。

 

「私はそんな絶対の存在でなければ無敵の勇者でもない……簡単に死ぬ、只の人間でしかない……それにどのみち……今のシステムは後一年もすれば回らなくなる……だから次代の育成は急務……少なくともいつまでも私一人に頼るような体制は危険過ぎる……」

 

 言いながら、スマホに保存されていた写真を表示する。

 

「……大赦の動きが遅れるなら、私一人でも出来る事をしなくては……」

 

 その写真には道場着姿の瑠璃と、須美達と同年代だろう赤髪の少女が写っていた。

 

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