「先ずは此方の手駒を増やしましょう」
今後の方針を決める為の話し合いで、人理継続保障機関フィニス・カルデア最高責任者であるオルガマリー・アニムスフィアはそう切り出した。
「キャスターとの特訓でキリエライトが宝具の展開が出来る様になったとはいえ、相手は無尽蔵に湧き出てくるのでは、先に此方が疲弊してしまう」
其の言葉に
「悪くない案だな。相手したくはないが彼方さんには未だバーサーカーが残っていやがる。正直俺と嬢ちゃんの火力じゃ手に余る」
キャスターは其処で一度言葉を区切ると、オルガマリーを睨め付ける。
「ただ手駒扱いはよくねぇな。幾らサーヴァントであろうが、幾ら令呪があろうが、其れは絶対じゃねぇ。死にたくなかったら俺達を道具扱いし過ぎない事だな」
キャスターの発する圧にオルガマリーと
「ゴメンな、キャスター。所長はずっと友達が居なかったみたいだから、言葉選びのセンスが壊滅的みたいでさ」
頬を掻きながら吐き出された言葉は、あまりと言えばあまりな台詞。其れは当然オルガマリーの癇に触った。
「誰が友達居ないって言うのよ。友達って云うのは自分と同じレベルの人間同士がなるものであって、私と同レベルの人間が周りに居なかっただけよ」
確かにオルガマリーと同じ水準に達した人間と云うのはそう居ないだろうが、だが矢張り問題は其れだけでは無さそうではある。
しかし其の事は言わぬが花であろう。
藤丸はオルガマリーの剣幕に両手を上げて降参の意を示す。
「……クハッ!! 面白い兄ちゃんだな。解った、今回は俺が大人氣無かったな」
鉄火場の空氣が弛み、マシュは安堵の息を吐いた。
そして思い出した様に訊ねる。
「然し所長。此の様な場所でどの様な手段で英霊をお呼びするのでしょうか?」
其の質問にオルガマリーはマシュの盾を指した。
「キリエライトの盾を召喚サークルとして略儀的な英霊召喚をします」
そして懐から星の様な石を取り出す。
「本来であれば英霊に由来する品が有れば良いのだけど、そんな物がある訳もないから
曰く、純然たる魔力の結晶。三人がほぅ等と感嘆している所、オルガマリーはただしと付け加える。
「どの様な英霊が来るかは本当に運次第。反英雄や
「あー……確かに其れはウマくねぇなぁ」
今迄黙っていたキャスターが頷く。
「出来りゃあ三騎士が欲しいな。よし坊主、氣張って呼べ」
笑いながら肩を叩いて来るが、藤丸としては全てが自分の運にかかっている此の状況を笑う事は出来ない。
だがやらなければならないのも確かで、自分以外に出来ないのもまた然り。
一度深呼吸をするとオルガマリーから聖晶石を受け取る。
「まぁどれだけ悩んだって結果が変わる訳でもないからサクッとやりますか」
藤丸は召喚サークルの前に立つと、聖晶石に魔力を流す。すると石は砕け、其の粒子がサークルの上部で真円を描き始めた。
「来る……っ!!」
誰の声だったのであろう。金色の光を放つ真円に誰もが目を開ける事が出来なかった。
そして光が収まった其処には、頭巾を被った一人の剣士が跪いていた。
「おいおい、こりゃ大当たりじゃねぇか」
キャスターが楽しそうな声を上げるが、取り敢えず藤丸は無視をする。
「貴方は……」
其の問いに応える様に剣士は立ち上がる。
「僕はセイバー。君を守り、世界を守る───サーヴァントだ」
そう告げた。
剣士の名乗りを聞いたが誰もが暫しの間動けなかった。
彼が破格の英霊だと解っているからだ。
そんな緊張した空氣をカルデアからの通信が壊す。
『藤丸君、所長!! 何があったんだい!? 今そちらで膨大な魔力の奔流が検知されたんだけど!?』
現在カルデアでの総指揮を取り仕切っているロマ二・アーキマン。其の彼が焦った様に問いかけてきた。
「あーえっと、セイバーの召喚に成功した」
『はぁっ!?』
ロマ二の反応は間違ってないだろう。何処の誰が英霊召喚に成功した等と云う報告を予想出来るだろうか。
だがロマ二も何時迄も慌てている訳にもいかない。直ぐさま質問を投げかける。
『で、其処に居るのは誰と誰なんだい?』
「名前はセイバーだって。其れ以上は教えて貰ってない……え? 誰と誰?」
『え?』
突然会話が噛み合わなくなり互いに首を傾げ合う。
『此方では大きな魔力を二つ観測しているんだけど、片方はセイバーだよね? もう一人は?』
そう問われセイバーも含む十の眼で件の反応を探し始めた。
するとどうだろう。先程迄誰も居なかった筈の召喚サークルの傍に一人の男が俯き座り込んでいた。
「あの……貴方は?」
藤丸の声にゆっくりと顔を上げる。其の瞳は酷く澱んでいる。いや、腐っていると言ってもいいだろう。
「あー、そっちの話終わったのか。じゃぁ帰って良いか?」
男は藤丸の問いに答えず、自分の願望だけを口にした。藤丸が言い淀むと男は緩慢な動きで立ち上がる。
「まぁそうはいかんよな……千葉のルーラーだ。働きたくないんでよろしくもしなくていい。寧ろ帰りたい」
やる氣を何処かに忘れてきたどころか、元々持ち合わせていなかったと言っても、決して過言ではない態度である。
如何したものかと思案し始めるが、状況は其れを許しはしない。
「マスター!! 敵です!! 指示をお願いしますっ!!」
地に着いた染みから、或いは壁に飛び散った跡から、生きた人間憎しと、死を求め尸の戦士たちが這い出る。藤丸一行を取り囲むと、今にも襲い掛かるといった具合で武器を構えた。
「マスター、私の後ろに。ご安心下さい。此のマシュ・キリエライト、此の身が果てても先輩だけは護ってみせます」
其れでは駄目だ。そう藤丸が叫ぶ寸前、二人の男が尸戦士からマシュを庇う様に立ち塞がる。
「あ、あの」
「麗しき乙女の為に剣を取るのは騎士の役目。だから、此処は僕らに任せてくれないか?」
マシュの言葉を遮りセイバーが頭巾の中で笑う。
「僕ら、じゃなくてアンタだけで何とか出来るなら何とかして欲しいけどな」
ルーラーは肩を竦めながら、敵を睥睨し、
「でもまぁ、千葉のお兄ちゃんとしては、年下の子が傷付くのを指咥えて見てる訳にはいかないしな」
そう言うとズボンに手を突っ込んだまま、無造作に敵へと向かっていく。
「ルーラー!!」
「セイバー、攻撃は任せるわ」
尸戦士は自分達の前に現れた獲物に躊躇無く武器を振るう。剣は肩口を切り裂き、矢は脚を穿ち、槍が腹を抉る。
生身の人間であれば致命傷なのは間違いない。
だが、ルーラーは事も投げに、
「あのーセイバーさん? 攻撃引きつけてる間に何とかして欲しいんですが?」
等と曰う。
一瞬呆けていたがセイバーは一氣に駆けると尸どもの首を刎ね飛ばした。
「ルーラー!! 早く傷をっ!!」
慌てて藤丸が近寄るが、ルーラーの傷を見てる絶句する。明らかに受けていた傷が殆ど後も無く消えているのだ。
藤丸の顔を見て何が言いたいのか理解したのか、ルーラーが溜息交じりに言葉を吐く。
「先刻見たのは幻覚でも何でもない。実際に攻撃を喰らって、血を流したのは現実の話だ」
ルーラーの足元には血溜まりが出来ており、其の言葉が真実だと裏付けている。
「ただ単に受けた傷を急速に治しているだけだ」
そこまで言い一息吐き、だが、と言葉を継いだ。
「治ってはいるが痛みは残ってるし、流した血や魔力は戻らん。傷口に新しい皮膚貼って取り繕っただけみたいなもんだな」
表情一つ変えずに言ってはいるが、つまり「痛いもんは痛い」と同意である。
皆が一様に唖然とする中、セイバーだけは彼へと歩み寄る。
「君が引き付けてくれたお陰で助かった。でも、君が傷付かなければいけないなんて事は絶対に無いんだ。だから次からは確り僕を頼って欲しい」
セイバーの言葉には若干の怒りが籠っていた。恐らくは目の前で仲間が傷付くのを見ていた自分への怒りなのであろう。
「悪かった。アレが一番早く片付けられると思ってな」
其れが解ったのか、ルーラーも肩を竦め素直に謝罪した。
そして藤丸に向かい、
「とっとと行こうぜ。早く帰って休みたい」
そう言って進撃を促した。
千葉のルーラー
筋力 E
耐久 C
敏捷 B
魔力 E
幸運 C
宝具 E~A
本来であれば英霊に至れる力は無いが、『己が身を以ってでも護りたい』と云う意志に応え、英霊として顕現した。