衛宮士郎は正義の味方である   作:星ノ瀬 竜牙

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秋原雪花ちゃん誕生日おめでとう!!(ギリギリ)

間に合って良かったゾ……


※ほんへは結構ヤバイかもしれないので心して見てくれるとありがたいゾ

あっそうだ。前回のお話に+で少しだけ追加したので見とけよ見とけよー


第11話 ■■の剣■(Unlimited■■■■■Works)

「私……お料理……教えて貰ってないよ……」

 

「そうよ……今度の……日曜日に……三人(・・)でって……」

 

……須美と園子が泣いていた。

そして、彼女達の目の前に居たのは……

 

右腕がない状態で、立ち尽くしていた

 

 

銀の姿だった────

 

 

 

────────

 

 

「ッ!?」

 

目が覚め、布団から飛び起きる。

 

「……夢、か。

にしてはやたらとリアリティーのある……」

 

頭を抑えて、溜め息を吐く。

……心臓に悪いな。あの夢は。

 

冗談でも見たくない類だ……

 

「……あー……まだ頭痛がする……。

やっぱりそんな簡単に症状が良くなる筈はないか……」

 

それでも、朝に比べればマシだ。

 

ふと、外を見ると空は既に橙色に染まっていた。

 

もう夕方か。

……結局、行けなかったな……遠足。

六年生最後の遠足……。

 

「………止まった?」

 

感覚的なものではあったが……

全てが止まった気がした。

 

遠くで鈴の音が鳴り響く────

 

「はぁ……マジかよ……

体調不良の時に襲来してくるか……」

 

四度目になるその鈴の音を聞きながら大きく溜め息を吐き

スマホの勇者システムを起動した────

 

 

────────

 

「だんだんこの景色も見慣れてきたなー」

 

「気を付けて、銀。そういう時が────」

 

「一番危ない。でしょ?大丈夫!

私の服は接近戦用で丈夫に作られてるから!」

 

「だからって、油断はダメよ!

アスレチックで怪我しそうになったのは忘れないわよ!

それに、今回は士郎くんの援護はない事が前提だもの!」

 

「あー……そうだった……いつもの感じじゃダメだな……」

 

改めて、士郎がどれほど頼りになっていたのか自覚させられる。

あの追尾型の剣といい……

士郎のおかげでなんとかなった戦いが多い。

 

……気を付けないと。士郎が怒ってきそうだ。

 

「ミノさん、最近わっしーや

えみやんに注意されるような事態と言ってるみたいだよ〜?」

 

「あはは、なんだか癖になってさ。二人に怒られるの」

 

「勘弁して欲しいわ……

オカンみたい。とか思ってたら士郎くんに怒られるわよ?」

 

おっと、そうだったいけないいけない……。

結構気にしてるもんなぁ……士郎。

 

「っ!来たよ!!」

 

「「!!」」

 

園子の言葉で私と須美は大橋の奥を見て武器を構える。

 

「うぇ!?二体!?」

 

「……そう来たか」

 

思わず、顔を顰める。

黄色のバーテックスと赤いバーテックス……

一緒に来るなんて厄介だな

 

「力を合わせれば、二体だろうと大丈夫よ!」

 

「ああ、そうだな!!」

 

須美の頼りがいのある言葉に私は同意する。

……そうだ、皆で戦えば大丈夫!

 

「私とミノさんがそれぞれ一体相手をするから、

わっしーは遊撃で、援護してね!!」

 

「任せて、そのっち!」

 

「了解!うっし、行くぞ!!」

 

黄色のバーテックスが尻尾らしきもので突き刺そうとしてくる。

それを園子が盾で防ぐ

 

……よし、じゃあ。

 

「私は気持ち悪い方と戦う!!」

 

「どっちも気持ち悪いと思うんよ……」

 

私の言葉に園子がそんなツッコミを入れる。

いやまあたしかに、どっちも常軌を逸した姿で気持ち悪いな……!

 

「それッ────!」

 

尾に鋏のようなものがついている赤いバーテックスと戦う。

うん、分かりやすい……

 

「こいつは私向きだ!!」

 

斧を赤い盾ような部分に叩きつけて確信した。

間違いなく、私と相性が良いな!

 

「ナイス、須美!!」

 

その時、顔面らしき部分に須美の矢が直撃し、

赤いバーテックスが体制を崩す。

タイミングは今────!

 

「はぁ────!」

 

二本の斧で鋏のある部分を叩き斬る。

よし、行ける────

 

「っ────!?」

 

その時、天から土砂降りの雨のように

橙色の光の針が無数に降ってくる。

ヤバイヤバイヤバイ────!?

 

「皆!こっち!!」

 

園子が槍の盾を傘にして、

そこに私と須美も入る。

 

「なんだよこれ……」

 

思わず、そう零す。

……無茶苦茶だ。二体のバーテックスにまで直撃してる。

 

「なっ!?」

 

この針なら、バーテックスも動けないだろうし大丈夫。

そう思っていた。……それが間違いだった。

 

黄色のバーテックスが尻尾をこちらに振るう────

 

「「きゃあああああああ!?」」

 

「ぐぅうっ!?」

 

なんとか斧で衝撃を防いだ……。

須美と園子は!?

 

二人が飛ばされた方向に視線を向けると

更に追い討ちで二人にバーテックスが尻尾を叩きつけていた。

まずい────

 

「須美!園子!!」

 

即座に駆け寄る。

……っ。

見るだけでも痛々しい程、青アザと血だらけになっていた。

 

「大丈夫か!?須美!園子!!」

 

「あ、あいつが……矢を……」

 

須美の視線の先には新たに現れた三体目、

青いバーテックスが居た。

 

……なにか仕掛けてくる!?

 

「くぅううう!!」

 

巨大な矢をなんとか防ぐ────

まずいこのままじゃ……

 

視界が煙で遮られている間に須美と園子を抱えて、

なるべくバーテックスから離れる。

 

安全そうな場所に、須美と園子を寝かす

 

「ぎ、ん……?」

 

「動けるのは……私一人、ここは怖くても頑張り所だろ。

私に任せて、須美と園子は休んどいてよ」

 

「ミノ……さん……?」

 

「────またね」

 

……私は震える身体を奮い立たせて、

バーテックス達の方へ飛ぶ。

 

「……あいつら!」

 

動きが多少遅いのが幸いだった。

三体のバーテックスは少しずつではあったが、

確実に神樹様の方へ進行していた。

 

私は三体のバーテックスの前に立ち塞がり、

斧を構える

 

「随分、前に進んでくれたけどな……」

 

ガリガリ。と斧で木の根に線を引く。

 

「此処から先は……通さない────!!」

 

三体のバーテックスに立ち向かう。

分かってる、勝ち目なんてほとんどない。

勝てたとしても……多分、私は……

 

それでも、それでも守りたいんだ……

勇者だから。とかじゃなくて

 

アイツらの友達として────

 

 

────────

 

「……はぁ……はぁ……頼む……!

間に合ってくれよ────!!」

 

オレは全速力で大橋の方へ走る。

魔術で身体能力も向上させて。

 

嫌な予感がした。

いや、今もしている────

 

それだけはあってほしくない。

あのやたらと現実味のある夢を……

現実にはさせてなるものか────

 

大橋の鉄骨の上に跳び、渡っていく。

すると倒れ伏している人影が見えた。

あれは……須美と園子か……!?

 

「須美!園子!」

 

オレは即座に駆け寄る。

酷い傷……バーテックスの攻撃か……

 

「……しろ、う……くん」

 

「喋るな!傷が広がる!」

 

「ぎん……が……」

 

「ッ!?そうだ、銀は!?」

 

須美の言葉で嫌な汗が吹き出る。

 

「まだ……たたかって……」

 

「────!?」

 

園子の言葉を聞き、

大橋の奥の方を見て嫌な予感がした。

 

「……戦ってるのか?」

 

「………」

 

須美はその言葉に無言で頷く。

嫌な予感が的中した。

 

「銀を……お願い……」

 

「ああ、分かってる────」

 

二人の頭を安心させるように撫でる。

 

「大丈夫だよ、後は……オレが頑張るさ。

だから、ちょっと行って来る────」

 

微笑んで、オレは背を向けて

バーテックス達が居るであろう方向に走った。

 

────────

 

「その攻撃は覚えた────!!」

 

赤いバーテックスの攻撃を躱し、そのまま斧で叩きつける。

 

「それで襲ってくるのも……見たよさっき────!!」

 

黄色のバーテックスの尻尾による突き刺しを躱して、

足の部分を斬る。

 

「ふっ────!!」

 

青いバーテックスの針を、

斧を一つ投げて防ぎ、その斧が突き刺さる。

 

「何、上から見てんだァ────!!」

 

もう片方の斧で、青いバーテックスを叩きつける。

そして、両方の斧を引き抜く。

 

「ッ!」

 

赤いバーテックスの盾の叩きつけを躱して、着地する。

 

「くっ!」

 

そこに黄色のバーテックスが尻尾で叩きつけてくる。

 

「ぐぅうううう……ッ!!」

 

腕がバーテックスの攻撃に耐えきれなかったのか

筋を切ったらしく、血が出てくる。

……痛いけど……まだ行ける!

 

「や、やったな……!!」

 

青いバーテックスが光の雨を降らしてくる

私はそれに合わせて、赤いバーテックスの方へ駆ける。

 

「痛かったんだぞ……!自分達で、受けてみろォ!!」

 

黄色のバーテックスの尻尾の叩きつけを振り払う。

そして、その尾の先の針が赤いバーテックスに突き刺さる。

……よし、行ける!!

 

「お前達は此処から……

 

出ていけええええええ!!

 

斧に炎を纏って赤いバーテックスを斬りつける。

 

「ぁ────」

 

油断した。失敗した。

光の針が私の脇腹を貫通する────

 

「がふっ!?」

 

力が抜け、落下していく中、その隙を逃すまいと

黄色のバーテックスが尻尾を叩きつけてくる。

 

「かふっ────」

 

衝撃が身体に響いて、血と一緒に胃液も口から出してしまう。

……まだ、だ

 

「コイツら……が……神樹様を……殺せば……皆が……」

 

再生するバーテックスを睨みつける。

そうだ……まだ倒れたらダメだ……まだ────

 

「あ────」

 

トドメを刺そうと、黄色のバーテックスが尻尾を叩きつけようとして────

 

……もうダメ、なのか……ゴメン。皆。

私……ここまで────

 

「────壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!

 

「え────?」

 

無数の剣が、バーテックスに突き刺さって爆発した。

そして、煙が巻き起こり視界が遮られた中……

私の視界に、紅い外套が映った────

 

 

────────

 

「……間一髪だったな」

 

なんとか間に合った。

銀を抱えて、オレは少しだけバーテックスから離れる。

 

「どう……して……?」

 

「病人でも、神樹様には関係ないらしい。

────樹海化に普通に巻き込まれたからな」

 

「はは……なん……だよ、それ……

……体調、だいじょう、ぶ……なの……か……?」

 

心配そうに、ボロボロの状態で聞いてくる銀。

 

「戯け。他人より、今は自分の心配をしておけ

……生憎、まだ吐き気も頭痛も目眩も酷いもんさ」

 

事実、今もかなり無理をしている状況だ。

今すぐにでも倒れたいぐらいに。

 

「じゃあ……士郎、に……任せたら……ダメだろ……」

 

「……今の自分の状態を確認してからそういう事は言えよ

満身創痍の癖に……戦って勝てると思ってるのか?」

 

「そ、れ……は……」

 

オレの言葉に銀は言い淀む。

そんなボロボロの状態で任せられるほど、オレは非情じゃない。

 

「……でも、士郎……だって」

 

「オレには戦えるだけの力はある……お前も理解してるだろ」

 

「…………」

 

銀は少し悔しそうに歯を食いしばる。

おそらく偽・螺旋剣を思い出しているのだろう。

だが、偽・螺旋剣だけがオレの切り札じゃない……

オレにはまだ、カードが残ってる。

 

「……もっと、強かった、ら……一緒に────」

 

「さてな。どうであれ……オレはこうしたと思うぞ」

 

銀をなるべく、バーテックスの進路上から離れた場所に寝かす。

 

「……すぐ終わらせてくる」

 

「士郎……!」

 

……そうだ。

忘れるところだった。

 

「銀、これを持っててくれるか?」

 

オレは紅い宝石をズボンのポケットから取り出し、銀に渡す

 

「なんだよ……これ……?」

 

「……御守りみたいなものかな。

それ、後でちゃんと返してくれよ?」

 

オレは笑って、そう告げる。

 

「じゃあ、行ってくる────」

 

背を向けて、オレはバーテックス達の方へ向かう。

恐怖はある。だけど……それ以上に今は戦う理由があるんだ。

 

────────

 

大橋の鉄骨の上に跳び移り、

洋弓を構える。

 

「さて……随分と好き勝手してくれたみたいだが……」

 

スッと目を細め、三体のバーテックスの中心部分に狙いを定める。

 

「多少なりと、オレは怒っていてね……

ただでは返さんのは無論だが……

塵も残さず切り刻んで消し炭にしてやるとしようか

 

────投影(トレース)開始(オン)

 

偽・螺旋剣を投影し、洋弓に添える。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)────」

 

……紅の稲妻が剣に蒼の稲妻が身体に迸る。

狙うは……三体のバーテックスの中心。

 

そこに通して……爆発させる────

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)……ハァッ────!!」

 

引き絞った弦を離した瞬間、偽・螺旋剣が撃ち出される。

偽・螺旋剣は一直線にバーテックス達の元へ飛んでいき────

 

「……爆ぜろ。壊れた幻想」

 

何度も見た、とてつもない規模の爆発が起きる。

だが……バーテックスは健在だった。

 

「チッ……今ので一網打尽に出来れば万々歳だったんだが……決定打になり得なかったか」

 

直撃はした……が倒せるだけの一撃にはなり得なかったらしい。

急速に再生しているバーテックスを見て思わず舌打ちする。

 

こうなると……オレが使えるモノで確実にヤツらを屠れるモノは……

 

────二つだけ。

 

「二つか……」

 

しかも、片方の宝具は間違いなく

今のオレが放てば破滅するモノだ。

 

精霊が創りし、神造兵器……

例え、神の一部を宿している今の状態でも……危ういだろう。

もう少し……宿せる神の力が強ければ問題ないだろうが……

 

……となると……やっぱり、あれしかないか。

 

 

選択肢は二つに一つ。

確実な死か、それとも……『衛宮士郎(オレ)』を捨てるか。

明白だ。オレが選ぶのは────

 

すぐに思考を切り替え、大橋の鉄骨から飛び降り、

バーテックス達の進行ルートの前に立ち塞がる。

 

目の前に翳した手が、震えていた。

 

……当然か、死にはしないだろうが……どうなるかぐらいは予想が出来る。

理性や思考は冷静そのものだ。

だが……おそらく、本能的な部分が危険を訴えているのだろう。

それでも、やらなければならない────

 

オレは呪文(結末)を口にする

 

「────I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

 

────ドクン、と心臓が鳴った。

警告される、それは危険だと。

間違いなくオレはオレで居れなくなると────

 

……分かっているさ。

怖い……怖い……自分が自分でなくなると分かっているから。

だけど────

 

……少女の笑顔が過ぎった。

 

そうだ、守るんだ────

その為なら────

 

青いバーテックス、サジタリウスがこちらに気付き、

無数の光の針を山のように撃ってくる。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

七つの花弁がオレの目の前に展開される。

これが保つ間に────

 

続く形で言葉を口に出す。

 

────Steel is my body,(血潮は鉄で、) and fire is my blood.(心は硝子)

 

一枚目が砕ける。

何かが割れる音が音が聞こえた────

まだだ────

 

────I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

二枚目が砕ける。

何かが砕ける音が聞こえた────

まだだ────

 

────Unknown to Death.(ただの1度も敗走もなく)

────Nor known to Life.(ただの1度も理解されない)

 

三枚目が砕ける。

何かが壊れる音が聞こえた────

まだ────

 

────Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 

四枚目が砕ける。

頬を光の針が横切り、血が流れる。

だけど、まだだ────

 

────Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

 

五枚目が砕けた、そして……

 

────So as I pray,(その身体は)

 

幻覚(まぼろし)を見た。

 

 

 

地獄を見た────

 

現実(じごく)を見た────

 

あの男が辿った理想の果て(じごく)を見た────

 

最初の始まり(じごく)を見た────

 

……呪いの言葉を聞いた。

 

そして……約束(誓い)を見た────

 

「■■、僕はね……正義の味方になりたかったんだ」

 

「なんだよ。なりたかったって、諦めたのかよ」

 

「うん。残念ながらね……

ヒーローは期間限定で、

大人になると名乗るのが難しくなるんだ。

……そんな事、もっと早くに気付けば良かった」

 

「そっか、それじゃあしょうがないな……」

 

「そうだね……本当に、しょうがない……」

 

男は……顔を上げて、月を見る。

 

「あぁ……本当に、良い月だ────」

 

アイツは、何かを考えるようにして……

────やめろ、その先は言うな。

────その先は地獄だ。

誰かが必死に警告した────

 

「うん、しょうがないから……俺が代わりになってやるよ」

 

「え?」

 

「爺さんは大人だからもう無理だけど……俺なら大丈夫だろ

任せろって、爺さんの夢は────」

 

────俺が形にしてやる?

馬鹿馬鹿しい。

 

────その時、目の前の風景に亀裂が入った。

 

 

……巫山戯るな。

 

 

そんな妄言を、オレに押し付けるな────

 

────亀裂が広がっていく。

 

オレは、……

 

「────オレは、正義の味方(お前)じゃない。

衛宮 切嗣(お前の憧れた存在)じゃない。

オレは……アイツらを……守れたらそれで良い────

そのために、お前の力は必要だ。

だから……お前の(武器)……使わせてもらう────」

 

否定した。

紅い外套も、剣も、理想も────

何もかもを全てが砕かれた────

 

────Unlimited Blade Works.(きっと剣で出来ていた)

 

その時、世界が塗り変わる。

神の樹により塗り替えられた世界を更に書き換える。

地は先程までとは真逆と言っていい

草木が生えない、荒れ果てた荒野が。

 

そして、空は黄昏の色、その空に錆びた歯車が回り続け……

 

荒れ果てたその荒野には百、千、万、億……

数え切れぬ程の数の剣が突き刺さっていた────

 

「ハハッ……まるで墓標だな────」

 

無数に突き刺さっている剣を見て、

オレは自嘲するように笑う。

 

これが答えか……アイツが至った答えか────

 

「馬鹿馬鹿しいにも程があるな────」

 

ああ、そうだ……はこうはなるか。

いや、なってなるものか。

 

「さてと、……あぁ、確か貴様らバーテックスという名は

頂点を意味する言葉だったな。

 

────ならば、受けてみるか?バーテックス。

 

ご覧の通り、貴様らが挑むのは無限の剣。

剣戟の極地にして、剣戟の頂点の一つ。

つまり、頂点には頂点という事だ……バーテックス。

さぁ、恐れずしてかかってこい────!」

 

その挑発に乗るように攻撃してくる

赤いバーテックス、キャンサーの赤い板による叩き潰しを躱す。

 

「遅い────

その攻撃は私には通じないッ────」

 

近くにあった剣を二本抜き取り、キャンサーの下を斬り裂く

その隙を待っていたように、

サジタリウスが光の針を降らしてくる。

 

だが、理解していた────

 

「その攻撃は一度に出せる数に

制限があるみたいだな────!」

 

故に、こちらはその数を上回れば良いだけの事

 

空に手を翳す。

その手の動きに合わせるように、

後ろに突き刺さっている無数の剣が引き抜かれ、空に浮かぶ。

 

そして、手を前にやると

引き抜かれた剣が動きに合わせ、撃ち出された。

 

 

向こうが、限りのある質の高い攻撃で攻めてくるならば……

こちらは、限りのない質の落ちた数の攻撃で凌駕すれば良いだけ────!

 

光の針の数を上回り、

撃ち落とした光の針の十倍にも及ぶ数の剣が

三体のバーテックスに突き刺さる。

 

今だ────

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)ッ!」

 

その言葉に合わせ、

バーテックスに突き刺さっていた剣が全て爆発する。

 

だが、それでもなお……バーテックスが倒れる事は無い。

 

「チッ────」

 

黄色のバーテックス、スコーピオが

こちらに向けて尾を薙ぎ払ってくる

 

「投影、開始……オーバーエッジ────」

 

干将・莫耶が言葉に合わせ変貌する。

より大きく、鋭い白と黒の双剣へと────

 

「届かないぞ……貴様の攻撃は……ッ!」

 

干将・莫耶のオーバーエッジでスコーピオの尻尾を斬り落とす。

 

「ハァッ────!」

 

手に握っていた干将・莫耶をスコーピオに投げつける。

 

「壊れた幻想────」

 

爆発させるが、それでも倒れない。

 

ならば、どうする?

 

──── 一撃で屠れる剣を

 

答えは既に出ている。

ならば……それに至るまでの(解法)を用意すれば良い────!

 

切り捨てろ、余分な情報は切り捨てろ────

 

絶対に折れぬ剣は必要ない。龍を殺す剣は必要ない。

螺旋の剣は必要ない。星の息吹を束ねる聖剣は必要ない。

 

────そして、見つけた。

 

これだ、山を斬り裂ける程の巨大な剣。

戦の神が用いた巨剣────

 

その時、サジタリウスの光の針が飛んできた────

 

「熾天覆う七つの円環────!」

 

その針を残り二枚の花弁で受け止め、

キャンサー、サジタリウスの頭上に跳び上がる。

 

キャンサーが攻撃をしようと板を向けるが……もう遅い。

既に、構成解析は終わっている────

神造兵器は今のオレには投影できない。

……だが、形だけならば投影できる。

 

「投影、開始────!」

 

故に、この剣の名は────

 

 

 

 

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)ァアアア────!!」

 

 

 

 

バーテックスをも凌駕する巨大な剣。

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)

キャンサーとサジタリウスは貫かれ、

体を上下真っ二つに斬り裂かれた────

 

「後、一体……ガッ────!?」

 

壊れる音がした。

 

「まだ、だ────ッ」

 

体が悲鳴をあげる。これ以上は危険だと。

 

────知った事か。

 

 

スコーピオが再生させた尾を叩きつけてくる。

足場にしていた虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)から跳び上がり、叩きつけを躱す。

 

「ッ────」

 

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)が砕ける、

その隙を逃すまいと、

スコーピオの尻尾がこちらに向かってくる────

 

こちらにスコーピオの攻撃が来るまで、凡そ三秒。

 

────ならばどうする?

 

あの音速ならば、神速を以て凌駕できる。

 

────ならばどうする?

 

あの巨剣だ────

彼のギリシャ神話の大英雄の九つの首の大蛇を屠った技が

狂戦士になった事で剣へと変貌したあの岩の巨剣────

 

あの、巨大な剣を投影するには……オレの体は貧弱過ぎる。

 

────ならばどうする?

 

決まっている。

 

あの巨剣を思い浮かべる。あの巨体の英雄の姿と共に────

 

左手を広げ、まだ架空の柄を握り締める。

 

桁外れの巨重。

 

本来のオレであれば持ち上げる事すら不可能で、扱えない。

 

けど──あの男の記憶が情報が戦闘経験が、あの男の全て見れる今なら────

 

オレはこの巨剣をあの英雄の怪力ごと確実に複製できる────!!

 

「────────ぁ」

 

ナニカが壊れた音がした

 

だが、思考は冷静そのものだ。

 

「────────行くぞ」

 

心配など必要ない

 

壊れたならこの腕で補うまで。

 

 

────、一秒。

 

あの速さ、鋭さ、重さ

 

ただの投影魔術(トレース)では

こちらの剣が壊される。

今、自分が出せる限界を超えた

投影でなければ奴の連撃には敵わない

 

ならば───

 

「────────投影(トリガー)装填(オフ)

 

脳裏にある回路を

 

体内に眠る全ての魔術回路をフルに使う。

 

そしてこの連撃で奴を叩き伏せる────

 

 

────、二秒。

 

 

目の前にスコーピオの尾が迫る。

 

この尾を喰らえば、間違いなくオレは死ぬ。

 

ならば、迎え撃つだけ、九撃で終わらせる────

 

全工程投影完了(セット)────是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 

迫り来る音速を、神速を以って凌駕する────!

 

「は―――あ────……!!!」

 

踏み込む。

左手にはその巨剣

 

こちらが速い────!

 

一撃目で尾を斬り落とす。

 

「ぜぇ────ぁあ────……!!」

 

二撃、三撃、四撃、五撃────

 

九撃全てでスコーピオを斬る────

 

だが、足りない。

 

最後の一撃が足りなかった────

 

巨剣が砕ける────

 

 

「────まだ……だ」

 

まだ、終わっていない……オレの攻撃はまだ終わりじゃない────!

 

砕けた巨剣の柄を握り、

スコーピオに、襲い掛かる。

 

────無理だ、もう刃がないんだぞ

 

だったら、もう一度作れば良い────

 

────そしたら今度こそ、お前は

 

知った事か、守りたいモノの為に命を懸けて何が悪い────

 

だからこそ……

 

「オーバーエッジ────!」

 

亀裂が入る。

壊れた音が聞こえる。

 

「────ぁ」

 

痛みで、気を失いそうになる。

だが、その時────

 

幸せそうに笑う三人の顔が脳裏に現れる。

 

倒れそうなった体を足で支え、踏ん張る。

 

そうだ、まだ倒れるわけにはいかない────

アイツらの笑顔を守る為にも────

 

「ぉ────ぉおおおおおおおお!」

 

オレの雄叫びと共に巨剣が再構築される。

より鋭利に。より大きく変貌する。

そして、その投影の反動で左腕から食い破るように剣が突き出てくる────

 

激痛が走る。

痛い、いたい、イタイ、痛イ────

だけど、気を失うわけにはいかない────!

 

「ガッ────ぐぅッ────

まだ、だ……まだ倒れるわけにはいかない……!」

 

尻尾だけを再生させ、スコーピオは針をこちらに向け放ってくる。

悪いが……

 

「やられる、わけには……いかない………!」

 

固有結界内にある剣をありったけ抜き、

スコーピオの尻尾に突き刺して防ぐ。

 

「はぁぁああああああああああああああああああ………!!」

 

オレは巨剣を握りしめ、気力を振り絞ってスコーピオに向かって行った────

 

────────

 

 

「……これ、なんだろう」

 

「分からないわ……荒野に空に歯車が浮いてるなんて……」

 

「樹海化……どうなっちゃったのかな………」

 

そのっちの言葉を聞いて、なんとも言えなくなる。

樹海化が解けたのであれば……それはバーテックスを撃退したことになる。

 

だけど……目を覚ますと……辺り一面は樹海化した世界でも、よく見る街中でもなかった。

 

草木のまったくない荒野……

そして、その荒野には辺り一面。剣が突き刺さっていた。

 

「……ミノさん!」

 

「……!!須美!園子!」

 

銀を見つける。

良かった無事だった……。

 

「……もう、ミノさん!心配したんだよ!」

 

「悪かった……ごめん……」

 

「ほんとよ……心配したんだから……

……士郎くんは?」

 

「一緒じゃないの?」

 

「……ああ、士郎のやつ……一人でバーテックスに」

 

銀は視線を遠くにやる。

……その視線の先だけが奇妙な事に、

剣がなくなって道が出来ていた。

 

「……あの先、かしら」

 

「多分……そうだと思う……」

 

「行こう……ミノさん、わっしー……」

 

そのっちの言葉に、私と銀は頷く。

……大丈夫……士郎くんはきっと無事よ。

だから……冷静になりなさい……鷲尾須美……!

 

 

しばらく、歩いていると異変が起きた。

 

「わっしー、ミノさん……見て、歯車が……」

 

「消えていってる……?」

 

空に浮かんでいた歯車が消えていっていた。

 

「それだけじゃない……突き刺さってる剣も消えてるぞ……」

 

「荒野が……きゃ!?」

 

荒野も消えていった時、突風が起こる

 

「わわわ!?」

 

「砂風!?前が見えないぞこれ!?」

 

閉じてしまった目を開けると……

 

「……樹海になってるね」

 

「……三人揃って、幻覚を見てたってオチじゃないよな?」

 

「それは有り得ないと思うわ……」

 

樹海が広がっていた。

先ほどまでの景色がまるで嘘のように。

そして、空から花びらが舞ってくる。

 

「あ……花びらが……」

 

「鎮花の儀……ってことは……」

 

「士郎くん……勝ったんだ……!」

 

私達は思わず、緊張が解けて……顔が綻ぶ。

 

「……早く、迎えに行こう!ミノさん!わっしー!」

 

「あぁ!……帰って祝勝会しないとな!」

 

「そうね……!」

 

その後、すぐに士郎くんの姿は見つかった────

 

 

 

 

そして……私達は……

知りたくなかった真実を知ってしまった────




まだ終わらないよ?
士郎くんも死なないよ?

…… 此 処 か ら が 本 当 の 地 獄 だ 。

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