衛宮士郎は正義の味方である   作:星ノ瀬 竜牙

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多くは語りません。

次で、わすゆ編は完結します。


第18話 やくそく

「こちらも強化されたとはいえ……やはり楽には勝てないか……!」

 

銃弾を青のバーテックス、魚座に撃ち込みながら舌打ちする。

とはいえ、バージョンアップで

今までと違いレーダーで敵味方の位置が分かるようになったのはありがたい。

 

場所が分かる分、相手との距離を上手く調整できるしな……!

 

「アイツ……動かないな……」

 

銀の言葉を聞き、視線を壁の方向にやる。

そこにはとてつもない威圧感を放っている獅子座のバーテックスが居た。

……アレが危険なのはすぐに理解できた。

が、攻めて来ないのであれば好都合だ。

 

「……鬼の居ぬ間になんとやらだ。まずは牡羊座と魚座を潰すぞ!」

 

「OKだよ、えみやん!」

 

「ああ、そうだな!!」

 

私が中距離から射撃しつつ、

銀と園子が牡羊座を的確に攻撃していく。

 

更に後ろから須美の援護射撃が来る。

 

「銃弾一発で怯むとは……武器はかなり強化されているわけか」

 

須美の放った弾丸が直撃してすぐに魚座が怯む。

見てわかるほど、武器が強力になっていた。

 

「おぉっ!?あっさり斬れたぞ!?」

 

「凄い斬れ味だね〜……」

 

それは園子、銀も同じだった。

武器のスペックが格段に向上している。

 

今までは何度も斬り込まねばバラバラにならなかったバーテックスが

1回斬るだけで豆腐のように斬り刻まれていく。

 

だが、刻まれた牡羊座がブルブルと怪しく蠢く。

 

「様子がおかしい……?

再生……?いや、違う……!?」

 

切り刻まれた部分から体が生えてきていたのだ。

今までのバーテックスにも特異な能力があった。

そう、牡羊座の能力は増殖だったのだ。

 

「増えた〜!?」

 

「なんだこれ!?理科で習ったプラナリアかよ!?」

 

「全く、プラナリアネタはオレの持ちネタだぞ!」

 

「士郎は何言ってんだよ……?」

 

「いやなんとなく言わなきゃならない気がしてな……」

 

嘘ではない。

なんとなく言わねばならない気がしたのだ。

同一存在ではあるが、同一人物ではないアイツの持ちネタ。

つまりは私のネタ。

……うん、自分でも何を言っているのかわからんな。

 

園子と銀に切り刻まれた体は本体と合わせて合計で六つ。

つまりは、六体の牡羊座がここに存在することになった。

 

「治るわ増えるわでずっこいぞコイツ!」

 

「全くだな……塵一つ残さず倒さないと無限に増え続けそうだな……」

 

「ブゥかよ」

 

「古いが言い当て妙だな。あの魔神と能力としては大差がない」

 

その時、私のスマホに通話が入る。

……今通話できるメンツはこの樹海に居る人間のみ。

となると、須美か。

 

「須美、どうかしたか?」

 

『繋がったみたいね。……レーダーをよく見たのだけど

牡羊座の反応は一つしかないわ』

 

「……なるほど、つまり本体は一つだけか」

 

『ええ、つまり……』

 

「つまり……」

 

『「あの中心の牡羊座が本物────!!」』

 

私の撃った銃弾と須美の撃った銃弾が

本体のバーテックスに直撃する。

 

正四角錐の物体を牡羊座が吐き出し、

その正四角錐が獅子座の方向へ向かう。

 

「わっしー、えみやん!ナイスだよ〜!」

 

「ああ……あれは……」

 

『正三角錐の物体が牡羊座から出たわね……』

 

「レーダーでの反応は?」

 

『……!あの三角錐から牡羊座の反応が出てる!?』

 

須美の言葉で気付いて、あの物体を追い掛ける。

 

「チッ!そういうことか!!」

 

『士郎くん……もしかして……!』

 

「おそらくその予想通りだ。あれがバーテックスの心臓────!」

 

『だったら狙い撃てば────』

 

須美はギリギリ射程内の牡羊座のコアを狙い撃つが────

 

『嘘っ!?遮られた!?』

 

魚座に銃弾を遮られたのだ。

 

「奴らもアレだけは狙われて欲しくないらしいな!

だったら……!」

 

白い銃剣である莫耶を捨て、

黒い銃剣、干将だけを手に持つ。

 

「I am the bone of my sword────」

 

その呪文と共に、大天狗が現れ

左肩にあるルドベキアの花のゲージを二つ消費して

一つの銃弾を投影する。

 

「So as I pray……」

 

投影した銃弾を干将に詰め込み、

牡羊座のバーテックスに銃口を向ける。

 

「Unlimited blade works────」

 

銃剣から撃ち出した銃弾は

牡羊座のコアにめり込み……

コアの内側から無数の剣が喰い破るように突き出て

 

コアは完全に消滅した────

 

「ぐっ……!?」

 

腕に痛みが走る。

……痛みだけで済んだのはゲージ消費のおかげか。

 

普通に撃ち込めば……どうなってたか分からないな……

 

「えげつないな……今の……」

 

「痛そうだね〜……」

 

『士郎くん……今の、大丈夫なの?』

 

「ああ、多少腕が痛むが……それだけだ。

システムのアップデートのおかげだよ。

……それにしても、あの散り方……やはり妙だな」

 

不安そうに聞いてくる須美を安心させる為に答える。

こればかりはアップデートに感謝するしかない。

 

固有結界を敵の内部に創り出すというのは

アップデートで固有結界を安定させる事が出来るようになったおかげだ。

 

「大天狗。助かった」

 

大天狗はコクリと頷いて、左肩に停まった。

そして、安心したのも束の間。

魚座が黒い煙を発生させる。

それを精霊がバリアで防ぐものの、視界は完全に遮られた。

 

「うわっ!?なんだこれ!?」

 

「前が見えないよ〜!?」

 

「くっ……まずいな視界を奪われるのは……

これは、火薬の臭い……?」

 

視界を遮られ、焦り出した時

鼻に、火薬特有の臭いが入ってくる。

 

『火薬……まさか、ガス?』

 

「ガス……まさか!?」

 

危険を承知で跳び上がり、空中から状況を把握する。

すると……上空には先ほど倒したはずのバーテックスが存在していた。

いや、正確に言うのであれば……残っていた。

そしてそのバーテックスは、体に電気を貯めていた。

 

「分裂していた牡羊座か!?

電撃……?……ッ、まずい!?」

 

火薬やガスは何で爆発する?

早い話が火だ。

だが、火以外でも可能である。

 

それは雷、電気と言われるモノだ。

人とほかのモノで発生する

静電気レベルの電圧さえあれば、油に火はつく。

それはつまり、火薬やガスにも通じるということ。

 

……あの巨体から出せる電撃は致死量を充分に超えるだろう。

そう、つまりは────

 

「爆発させる気か……!?」

 

あの電撃が放たれれば爆発からは逃れられない。

なら、あれが放たれる前に倒す────

 

「ゲージが……っ!?」

 

だが、先ほどの銃弾を作るには一つ。ゲージが足りなかった。

 

「まずい────

須美!園子!銀!爆発するぞ────!」

 

「爆発!?」

 

銀は即座に跳躍し、ガスから跳び上がったが

須美、園子は体制が体制だった為に出遅れる。

 

そして────

 

「「きゃああああああああああ!?」」

 

「須美!?園子!?」

 

無情にも電撃が放たれ

ガスが爆発し、出遅れた二人は巻き込まれる────

 

「貯まった……!────そのっち!」

 

「うん!」

 

「「満開!!」」

 

爆発が収まると同時に、

巨大な紫の睡蓮(すいれん)と青い(あさがお)が空に咲き誇った。

 

「……あれが、満開」

 

「────」

 

……しまった。やってしまった。

銀が驚く横で……顔を覆った。

 

……迂闊だった。

そうだ……彼女達にとっての満開は使えば強くなる。という認識でしかなかった。

 

……自分のように、代償があるとは知らなかった。

そこは伏せるにしても、

切り札はギリギリまで温存しろとは言えたじゃないか……

なるべく使わせないように言えたはずなのに……!

 

空を見上げる。

そこには……戦艦と巨大な船が浮かんでいた。

 

「お前達の攻撃は……もう届かない────!」

 

須美は分裂体の牡羊座の電撃をバリアで容易く防ぎ切った後

八つの砲身から巨大な青いビームを射出する。

 

ビームは一直線に、分裂体の牡羊座に向かっていき

 

牡羊座を塵も残さず消し飛ばした────

 

「おぉ〜、潰しに来た〜!」

 

そして園子は余裕そうに、船のオールになっていた八つの刃を使い

接近してきた魚座を乱れ突く。

 

そして、バリアで弾き飛ばした後、

 

「フフン♪」

 

パチン。と指を鳴らして八つの刃を烏天狗に操作させ、

魚座を囲むように刃を設置する。

 

「そ〜れっ!」

 

両手を合わせると同時に刃を魚座に向けて放ち

串刺しにする事で消滅させた。

 

「あの散り方……やはり妙だな」

 

消滅するのはわかったが……

何故、天に登るように消えていくのか……

 

……そういえば、無限の剣製を展開していたあの時も

奴らの消え方が……あんな感じだったような気がする。

 

「それにしても凄いな……」

 

「…………ああ」

 

だが一撃で確実に葬りされる。という事が

私には恐ろしかった。

……それほどまでに強大な力……代償は安くないのだろう。

 

「これで後……一体……」

 

「わっしー……!?」

 

「……須美!?園子!?」

 

力が抜けるように、須美と園子は満開を解除させられ落下する

 

「私が園子の方に行く!士郎は須美の方に!」

 

「……わかった」

 

ただただ、あの言葉が嘘であって欲しいと願い……

須美のもとに辿り着く。

 

「須美、無事か?」

 

「士郎くん……ごめんなさい……足が動かなくて────」

 

「ぇ────」

 

冷水をかけられたような、頭を鈍器で殴られたような感覚があった。

 

そして、嫌でも理解させられた。

あの時の安芸ねえの言葉が嘘偽りが全くないという事を────

 

『士郎、よく聞いて。満開には……散華という隠された機能があるわ』

 

『散華……花が散る……』

 

『えぇ……満開の代償として……体の機能を失う。それが散華』

 

『……何処の機能が失われるというのはわかるのか?』

 

『分からないわ……記憶が失われるか、目が見えなくなるか

耳が聞こえなくなるか……それは誰にも分からない』

 

『つまりは、ランダム性……か……運が悪ければ、内蔵や記憶

良くても……手が動かなくなったりか────』

 

嫌な汗が噴き出すのがわかった。

体が震えているのも即座に理解出来た。

 

「士郎くん……大丈夫?……顔色悪いわよ?」

 

「いや……大丈夫だ……それより自分の心配をしておけ。

足が動かなくなった原因は分からないが……機動力がなくなるのは厄介だ」

 

「そうね……今は残りのバーテックスを倒さないと……」

 

そして、何より……

平然と嘘をつける自分に恐怖を感じてしまった。

 

「士郎くん……あれ……!」

 

「……本丸が動き出したか」

 

須美の見ている方向から、

ゆっくりと獅子座が接近しているがわかった。

 

「何か……来る……!?」

 

獅子座は後ろの部位を左右に開き、

赤い門を作り出す。

 

────まて、何故門と分かった?

 

そんな疑問が頭を過ぎったがそれを考える暇もなく

即座に獅子座の開いた門から赤い炎を纏った怪物が無数に現れる。

 

「……門から……敵が!?」

 

「門から無数の……なんて一人だけで充分だ────!」

 

須美と私、銀と園子は互いをカバーしつつ、

門から現れた小型のバーテックスを処理する。

だが、奴らの数が多すぎた。

 

「数が多すぎるぞこれ!?ぐあああ!?」

 

「駄目っ……処理が追い付かない!?きゃあああああ!?」

 

「須美!?……くそッ!……剣を投影しても間に合わないかッ!?」

 

あの門が閉じない限り、

小型のバーテックスは永遠に現れ続けるというのは理解させられた。

 

無限の剣製は……ゲージが貯まってない今だと詠唱に時間が掛かりすぎる……!

 

「満開ッ────!」

 

少し離れた場所で、その言葉が聞こえた。

空に赤い牡丹が咲いた。

 

すぐ、誰が満開したのか分かった。

 

その牡丹の側で大きな腕が無数にある

まるで千手観音を連想させるような装備の銀が浮いていた。

 

「こんのぉおおおおおおお────ッ!」

 

銀は八本ある腕を巧みに使い、

小型バーテックスを倒しながら、獅子座に接近する。

 

しかし、迂闊だったのは

獅子座自身が攻撃しないと思い込んでいた事だった。

 

獅子座はエネルギーを発生させ

小型の太陽に見える大きな燃える球体を作り出す。

 

「させるかっ!」

 

銀は獅子座の前に立ち塞がり、撃ち出された火球を遮る。

 

「ぐぅううううっ!

根性おおおおおおおお!!」

 

球体を防ぎ切るが、それで満開のエネルギーを費やしたのか

満開を解除させられ、落下する。

 

「「銀!!」」

 

「ミノさん!?」

 

全員が銀のもとに行く。

 

「大丈夫、ミノさん?」

 

「かーっ……死ぬかと思ったよ……熱かった……」

 

「見た目からして、熱いのは分かったわ……」

 

「だよなぁ……それに大橋も……さっきのでぶっ壊れちゃったし……」

 

そう、先程の獅子座の火球の余波で大橋が崩れ去ったのだ。

それほどまでに絶大な威力を誇る一撃だったというのが目に見えて分かった。

 

「でもまぁ、この通り五体満ぞ……ッ……!?」

 

銀は何かをしようとして固まる。

 

「ミノさん……?」

 

「あれ……右腕が……動かない……?」

 

「────」

 

……その言葉で、完全に思考が固まった。

園子は見た直後に分かった。片目の焦点があっていない。

つまりは、見えていないということ。

そして須美は足。銀は右腕。

 

……満開の代償として、その部分を持っていかれたということを理解させられた。

 

あぁ……こうなるのであれば……言うべきだった。

言っておくべきだった────

 

「……ろう……士郎!」

 

「ッ────!?」

 

「ボーッとすんな!今は須美がもう一回満開して

抑えてくれてるけどいつまで持つかわかんないんだぞ!」

 

「ぁ………」

 

いつの間に。と思ってしまった。

……これ以上使わせたくなかったのに。

 

「ねぇ……ミノさん……えみやん……こんな戦い方で良いのかな?」

 

「私にも分からない……けど、やらなきゃ神樹様が死んで……世界が終わる。

だったらやるべき事は一つしかないだろ!」

 

「……ああ、そうだな」

 

それでも、真実を教える事ができない自分が嫌になる。

……そして、理解する。

俺は随分と……彼に染まってしまったらしい。

多少の犠牲はやむを得ない。

そう思ってしまっている自分が居て……本当に嫌になる。

 

須美の戦艦の上に私達は乗り、

須美が処理できなかったバーテックスを処理していく。

 

「数が一向に減らない……このままじゃジリ貧ね……!」

 

「奴を倒さない限り、コイツらは出続けるか……!」

 

「ッ!えみやん、わっしー、ミノさん、あれ……」

 

園子が見た方向では、獅子座が再び火球を作り出していた。

 

「また撃つ気かよ!?」

 

「やらせない……ッ!」

 

須美は砲身を獅子座に集中させ、エネルギーを全て使い

火球と同等の青い光弾を作り出す。

 

「もう……誰も……!」

 

光弾と火球は同時に放たれ、

相殺される。その巨大なエネルギーが爆発を起こす。

 

「わっしー!?」

 

「……そのっち、銀……士郎くん……後は……お願い」

 

満開のエネルギーが尽きた須美がそう告げ、気を失う。

 

「……オレが、須美を安全なところまで連れて行く。

……すまない、任せた……ッ!」

 

顔をなるべく見せないようにして、私はそう言った。

……でないと、この顔を見られてしまいそうだから。

肝心な時に、役に立てない事が憎たらしい程悔しくて、

血が出るほど、唇を噛み締めた自分の顔を見られたくなかった。

 

「任せろって、士郎!

全部終わらせて、美味しいうどんと須美のぼた餅……な?」

 

「────ああ。分かってる

………すまない

 

「よし、じゃあ……行くぞ!園子!!」

 

「OK!ミノさん!」

 

私は須美を抱えて、安全圏まで離れる。

 

「「満開!!」」

 

……二人のその言葉を聞こえなかった風に装って。

 

「ここから―────」

 

「「出て行けえええええええええええええ!!!」」

 

赤い光と紫の光を纏って、獅子座に体当たりをして

壁の方向まで押していく。

 

それを尻目に、バンダナを投影して枕にし、

須美を地面に寝かす

 

「……須美、ごめん」

 

聞こえていないと分かっていても……謝らなければならなかった。

今更許されないのは理解している。

 

眠る彼女の頭をそっと撫でた後、壁の方向を見る。

 

「…………」

 

ただ、無言で園子と銀のもとへ向かった。

……おそらく、もう園子は気付いているのだろう。

満開に隠された真実を────

 

────────

 

「痛たた……園子……大丈夫か?」

 

「うん……なんとか……」

 

目を開けて、上を見ると正四角錐の物体が浮いていた。

 

「あれ……牡羊座にもあった……」

 

「園子!アイツ逃げる気だぞ!」

 

「追いかけな……っ!?」

 

「園子ッ……ぐっ!?」

 

追いかけようとした時、胸が苦しくなる。

まるで心臓を鷲掴みにされたように

……同時に満開も解けてしまう。

 

「かっふ……はぁはぁ……はひゅ……!

一瞬……心臓が止まったかと思った……!

ミノさん、大丈夫……?」

 

「げほっ……げほっ……なんとか……

呼吸止まりかけたけど……大丈夫。

それより……!」

 

「うん……逃がさない……!」

 

私とミノさんはえみやんとわっしーが言っていた

バーテックスのコアだと思う存在を追いかける。

 

そして、壁のある一定の場所まで行くと

 

何故か、外に出た。という感覚があった

 

外のはずなのにおかしいな。と思うと……

熱風が、私の頬に当たった。

 

……目を開けるとそこは。

 

「え────?」

 

「なんだよ……これ……!?」

 

辺り一面が……地獄だった。

太陽を思わせる景色……そして真上には大きな光る大樹。

 

そして……見覚えのある赤い形。

あれって……皆で撃退したバーテックスと同じ形をしてる……?

 

「園子……あれ……!」

 

ミノさんが震える声で、指を刺す。

そこには、獅子座のコアに纏わりつく小型のバーテックスが居て────

 

「なに……これ……?」

 

不安になって、胸に手を置く。

その時、違和感を覚えた。

 

「あれ────?」

 

心臓の鼓動が分からなかった。

……ううん、違う。

 

「心臓……動いてない……?」

 

そっか、新しい勇者システムは……世界は……

 

「あぁ……私、分かっちゃった……」

 

「園子……」

 

ミノさんも何かに気付いたのか、こちらを見てくる。

 

「っ!ミノさん!」

 

「────やばっ!?」

 

避けれない。そう思った時。

 

銃声が鳴り響いた。

 

「……えみやん」

 

悲しそうで、悔しそうで、……いろんな感情が顔に出ている

えみやんが銃剣を持って立っていた。

 

────────

 

「……そうか、これが世界の真実か」

 

……地獄を見て、そう声に出る。

不思議と恐怖や絶望は浮かばなかった。

 

いや……多分、分かっていたのだ。

 

もう……見てしまっていたから。

 

彼の夢の果てに……荒野ではない、この地獄を見たのだ。

 

それはきっと、彼が見た……最後の景色だ。

 

「「…………」」

 

園子も、銀も……何も言わず、無言で立ち尽くしていた。

無理もない。

……こんな現実、知ってしまえば……呆然と立ち尽くすしかない。

 

世界が最初から詰んでいた。終わっていた。だなんて、誰も……知りたくはない。

 

それは……真相を知る大赦の人間であっても。

それを知った時は、遂におかしくなったのかと疑っただろう。

 

「わっしーに……知らせないと……」

 

園子は重い足取りで、須美のもとへ行く。

銀もまた、園子に着いていく。

 

私はそれを尻目に地獄を見渡す。

 

「随分と変わってしまったな……」

 

あの日見た日本はもう存在しないのだ。と理解させられる。

 

「君は……これを受け容れたのか?

いや、受け容れはしないだろうな……

人一倍正義感の強い君は絶対にこれを納得はしない。

まったく……嘗ての勇者を気遣う『大社』は影も形もないな。

そうは思わないか?■■」

 

私は懐かしい名を、口にした気がした────

 

────────

 

此処は……何処……?

街は……大橋は……何処にあるんだろう……?

 

「わっしー!大変!」

 

「須美!!」

 

知らない人達が……知らない人を呼ぶ声が聞こえた

 

「大変!大変なんだよ!壁の外が────」

 

二人の女の子が……私に向かって喋りかけてくる。

わっしー?須美?違う……私は……私は……?

 

「誰……ですか……?」

 

「え────?」

 

「須美……?

なぁ……冗談だよな?……いつもの冗談だろ?」

 

紫の女の子は驚いた様子で固まって

赤い女の子は声を震わせて、こちらに寄ってくる。

 

それでも、分からなくて……分からなくて────

 

「誰なんですか……?」

 

「わっ……しー……」

 

「園子!銀!須美!!奴らが────」

 

そこに、黒い服装の男の子がやってくる

見覚えがある筈なのに……筈なのに……名前が分からなくて……

 

「誰……?」

 

「────────。

 

……ハハッ。そうだよな。

身体の機能って言ってたもんな……

そりゃ……記憶を司る、脳にきても……おかしくはないよな……」

 

男の子は顔を手で覆い、声を震わせて笑いながら何かを言う。

記憶……私は……私は────

 

「あっ…………」

 

赤い火のような異形の怪物が……遠くに見えて竦んでしまう。

 

……そうだ。

あれには見覚えがある……私にはするべき事があったはずで……

何をするんだっけ?

 

「アイツら全員で……!?」

 

「こうなったら……もう一度満開……」

 

「よせ園子!……次は何を持っていかれるか分からないんだぞ!?」

 

「分かってるよ!!けど……!」

 

女の子が揉めている……紫の子は園子。赤い子が……銀?

 

あれ……どうしてだろう……知らない筈なのに……

 

「……そうだよな。結局はそうなるよな。

分かってた筈なのになぁ……」

 

男の子は悲しそうに笑って……

園子さんと銀さんの首に手刀を入れる。

 

「しろ、う……な、に……を」

 

「えみ……や……ん……?」

 

ドサリと二人が倒れ込んだ。

倒れた二人を私の傍に運ぶ。

 

「……何を?」

 

「……鷲尾さん。この二人を頼む。危なっかしくてさ。結構困ってるんだ。

……鷲尾さんみたいな真面目な子が居ると、コイツらは抑えれるから。

お願いできるか?」

 

「貴方は……どうするつもりなんですか……?」

 

自然とそれが口に出ていた……

彼に行っちゃダメだって……言わなきゃいけない気がして……

 

「……そうだなぁ……アイツらを倒してから考えるよ」

 

苦笑して、彼は答える。

 

「ぁ……」

 

彼は私の右手を取って、右手につけていたリボンを

髪につけて、結んでくれる。

 

「オレの名前は衛宮 士郎。

衛星の衛に宮殿の宮で衛宮。戦士の士に太郎の郎で士郎。

紫の女の子は乃木 園子。

乃ちの乃に樹木の木で乃木。公園の園に子供の子で園子。

赤の女の子は三ノ輪 銀。

漢数字の三にカタカタのノに車輪の輪で三ノ輪。銀色の銀で銀。

そして、君は鷲尾 須美。

鳥の鷲に尻尾の尾で鷲尾。須いるの須に美術の美で須美。

オレ達は友達だ。

ずっと……きっとこの先、記憶が無くなっても。

 

大丈夫。オレは死なない。……またいつか会える。

……だから、行って来るな?」

 

彼は、少し悲しそうにして告げる。

 

「うん……やっぱり、思った通り似合ってた。

……可愛いな。それに、綺麗だ」

 

少し恥ずかしそうに彼は笑う。

 

駄目だ止めないと……分からない。

理由は分からないけど……止めなきゃ駄目だって……

そう必死に何かが語り掛けてきて────

 

「大丈夫だよ。須美。……ここから、オレが頑張るから────」

 

ニッコリと微笑んで……彼は背中を向けた。

駄目だ……止めないと……止めないと────

 

「駄目!士郎くん────!」

 

手を伸ばして、伸ばして、伸ばして……

 

でも、その手を……掴む事ができなくて……私は涙を流した事に気付いて。

駄目だったんだと分かって────

 

────────

 

パタリと、須美が倒れた音が後ろから聞こえた。

 

「……さて、と。かっこつけたからにはなんとかしないとなぁ」

 

無限の剣製を使う?

いや……あれでは十二体全てを確実には倒せない。

それに……須美達を結界内に巻き込んでしまう。

 

なら……

 

「まぁ……一つしかないよなぁ……」

 

溜め息を吐く。

方法は一つ。

 

そう……あの神造兵器なら或いは────

 

彼が一度も忘れた事がなかった……青い騎士の星を束ねる聖剣ならば────

 

「……大天狗、酒呑童子。力を借りるぞ」

 

二体の精霊は目の前に現れ、コクリと頷いた。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

その言葉と同時に、深く深く深く記憶を探る。

思い出せ、あの男が見た聖剣を。

彼女が握っていた聖剣を……生前の彼女を夢で見たはずだ。

 

「がっ!?」

 

砕けた音が聞こえた。

精霊が居なければこの時点で確実にオレは死んでいる。

そもそも神造兵器は投影できる代物ではない。

 

だが……精霊という死を防ぐ存在が居る。

そして、勇者という神の力を宿す状態である今ならば、代償有りだが可能ではある────

 

創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし────

ここに、幻想を結び剣と成す────!

 

そして、手元には黄金の輝く剣が握られていた。

 

そうだ、これで……

 

「……何をする?

……いや、わかってる……目の前の怪物を倒す」

 

そうだ……この剣で……奴らを倒す。

 

何の為だったか……もう分からない。

 

「……ああ、だけど『やくそく』したもんなぁ」

 

誰と、何を、約束したか分からない。

だけど……生きなきゃ駄目だと分かっていて。

 

怪物の前に立ちはだかる。

 

全てを葬るには普通の使い方ではダメだ。

 

……なら、簡単だ。威力を上げる。

その為には────

 

黒い洋弓を投影する。

 

黄金の剣を洋弓に添え、弦を引き絞る。

 

「────ッ」

 

何かが砕け散った音が聞こえた────

 

ふと、意識を失いそうになる

 

「ぁ────」

 

でも、その時……誰かの笑顔が過ぎった。

笑っている……知らない……いや、知っている三人の笑顔が過ぎったのだ。

 

「そうだ、生きて……帰らないとな……

勇者は大事な御役目で……勇者は根性だったな……」

 

まったく……いつも、オレは気付くのが遅すぎる。

 

……そうだ、答えはすぐ近くにあったのだ。

 

オレが守りたかったもの……それは……こんなすぐ近くに……

 

「フッ────」

 

思わず自嘲気味の笑みを浮かべて、

狙いを定める。

 

「あぁ……きっとオレは……

この結末を望んでいたのかもしれない────」

 

なんとなく、そんな気がして……

 

「I am the bone of my sword……」

 

ギリリと弦を限界まで引き絞って────

 

「────────」

 

黄金の剣の真名を口にして、その剣を放つ。

 

その黄金の剣は中心に居た

巨大な怪物に直撃すると同時に黄金の光が辺りを包んで────

 

────────

 

「あれ……此処は……?」

 

私は目を覚ます。

病室?……違う、なんだか祀られているような場所で────

 

「お目覚めになられましたか」

 

目の前からよく聞いたことのある声が聞こえて……

仮面を被っていたけど、なんとなく誰かは分かって。

 

「大赦の人?……此処は?」

 

「此処は……乃木園子様を祀る場所です」

 

「私を?」

 

「はい、乃木 園子様。三ノ輪 銀様。鷲尾 須美様。

そして……衛宮 士郎様。

……貴方達が世界を救ったのです」

 

そうだ……皆に会わなきゃ……

 

「他の皆は?」

 

「園子様、落ち着いてお聞きください────」

 

大赦の人から、聞かされる。

あの後起きた事を……そして、全てを。

 

「────え?」

 

満開については……もう、知っていた。

ミノさんも、内臓の一部の機能を失った事。

わっしー……ううん、東郷さんが記憶を失った事も薄々気付いていた。

 

 

その中でも……一番知りたくなかった真実があった。

 

 

それは……

 

 

 

えみやんが……士郎くんが……

あの戦いの後消息不明となった事だ────

 

 

「……嘘、だよね?」

 

震える声で、聞く

 

「……事実です」

 

「……そっか。

…………士郎くんの嘘吐き」

 

視界がぼやける……あれ、どうしちゃったのかな……。

 

「……今は、私しか居ないわ。……泣いて良いのよ。乃木さん」

 

「安芸、先生……ぅああああああああああああ────」

 

私は傍に来てくれた、安芸先生の胸を借りて泣くことしか出来なかった。

 

「ごめんなさい……ごめんね……!」

 

傍で安芸先生はずっと……謝ってくれて

 

それでも私は……ただただ、泣くことしかできなかったんだ────

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

 

 

 

 

ごめんなさい……士郎くん────




やくそく

映画orアニメ版 鷲尾須美は勇者である 最終回タイトル並びにEDタイトルより

また、あの宝具からも今回は取っています。
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