第二十話 邂逅する勇者達
「チッ……やはり大型は優先的に屠っておくべきだったか……!」
灼熱の世界で、一人の少年が舌を打つ。
桃色の巨大な怪物の侵入を彼は許してしまったのだ。
遂に彼が張っていた防衛線を突破されてしまったのだ。
「……やはり、槍を使うべきだったな」
少年は悔やむ様子でそう呟く。
「追いかけるしかないか……」
少年は桃色の巨大な怪物が侵入した場所と同じ場所から
大きな樹の中に入っていく。
彼が侵攻を防ぎきれなかった。
それはつまり、中の世界に居る
新たな
そう……この日、少女/少年は運命に出会うのだ────
「……改めて思うが異質だな……樹海化というのは」
私は壁の上で思ったことをふと口にしていた。
桃色の怪物を目視で確認した。
爆発が起きている事も理解出来た。
「なるほど。既に戦っているのか……
……まさか、またこの場所で戦う事になるとはね」
その時、桃色の怪物の体の半分程が
桃色の光が降り注ぐと同時に、弾け飛んだ
「あれは……!
────なるほど、今代の勇者は当たりを引いたという事か」
何処かで見覚えのある顔の少女が
あの怪物を殴っただけで、体の半分を消し飛ばしたのを目視で確認した。
「友奈……か……」
自然と誰かの名前が口に出た。
……何故、その名前を口にしたのかは分からなかった。
だが……少しだけ、その名を懐かしいと感じていた。
「……とはいえ、此処で待つというのはあれか。
仕方ない。少しばかり、手を貸すとしよう────」
壁から飛び降りて、戦闘が起きている場所まで向かう。
必要な事だと、何かが理解していた。
やらねばならない。と何かが訴えていた。
弾け飛んだ体を再生していく怪物を見て、
私は驚愕してしまう。
「そんな……治ってる……!?
どうやってこの怪物を倒せば良いんですか!
「バーテックスはダメージを与えても回復するの
封印の儀式っていう特別な手順を踏まないと絶対に倒せない!」
「お姉ちゃん、て、手順ってなに!?」
風先輩から方法を聞こうと思うと、
怪物がまた爆弾をこちらに飛ばしてくるのが見えた。
「攻撃を避けながら説明するから、
避けながら聞いてね!来るわよ!!」
「ま、またそれー!?ハードだよお姉ちゃん!?」
爆発を避ける。避ける。避ける。
その繰り返しで────
「友奈!樹!今!!」
「分かりました!」
「うん!」
風先輩の合図で
私は所定の位置まで移動する。
その時、怪物に異変が起きる
「お姉ちゃん、様子が変だよ……?」
「……あの方角……まずい!?」
怪物が見ている方角。そこは────
「東郷さん────!?」
怪物は、東郷さんの方に向けて爆弾を飛ばした────
「東郷!逃げて────!!」
私は、すぐに東郷さんの方に走ろうとする。
その時だった────
爆弾と同じ数の剣が、爆弾に突き刺さって────
「お姉ちゃん?」
「────違う。私じゃない……誰が?」
困惑する私達の事なんて知った事かと言ってるみたいに、
怪物は新たに爆弾を飛ばす。
「しまった!?」
間に合わない。そう諦めかけた瞬間、
私の視界を紅い外套が横切って────
「え?」
「────
爆発が起きる────
「ぁ……」
「そんな……!?」
ダメだった。間に合わなかった────
諦めかけて。
「……友奈、あれ」
「え────」
風先輩が指を刺したそこには、
東郷さんを守るように、七枚の桃色の花弁が存在していた。
そして、花弁が消えると東郷さんの前には
紅い外套を着込んだ、白い髪に褐色の肌の男の子が立っていた────
「貴方……は……」
後ろで、震えた声のまま少女がそう聞いてくる。
……私はそれには答えることなく
「死にたくなければ、そこでじっとしておけ」
ただ、そう告げて
干将・莫耶を投影する。
「ハァッ────!」
そして即座に、怪物のもとまで接近し
爆弾を放出する部位を斬り裂く────
「……凄い」
だが、斬り裂いた部分が再生していくのを見て舌を打つ
────やはり、コアを一撃で壊すしかないか。
「ボーッとしてるんじゃないわよっ!!」
ふと、声が聞こえた。
振り向くと、爆弾を大剣で斬り裂く黄色い少女が居た。
「……すまない」
「お礼は良いわよ。……それで、アンタは何者なのかしら?」
「それを聞きたいのはこちらもだが……
まずは、アレを片付けるのが先ではないか?」
「……違いないわね。まずは、アイツを倒すわよ。
その後、きっちり聞かせてもらうからね!」
「命令されずとも、そのつもりだ!」
黄色の少女と二人で爆弾を斬る────
「風先輩!位置に着きました!」
「こっちも着いたよ、お姉ちゃん!!」
別の少女の声が聞こえる
「よし、封印の儀行くわよ!!
教えた通りに!」
「「了解!」」
手を空に翳す緑と桃色の少女を見て、首を傾げる。
……封印の儀。名前から察するに、この怪物を抑え込むものか?
「アンタも封印の儀できる?」
風。と呼ばれていた黄色の少女からそう聞かれるが……
「……いや、そもそもそんな物が存在する事すら知らなかった」
「はぁ!?じゃあどうやってコイツらと戦う気だったのよ!?」
「……そう言われてもな」
知らないモノは知らないのだから仕方ない。
「はぁ……だったら、見てなさい。どうするのか!
友奈、樹!今のうちに!」
大剣で、怪物が向けてきた布のようなモノを振り払い合図する。
「は、はい!
……えっと、手順その二。
敵を抑え込む為の
ええっ!?これ全部唱えるのぉ!?」
スマホを見ていた桃色の少女が驚いた様子をみせる
「え……えっと
『
「『
祝詞を唱える、二人の少女の横に精霊が現れるが────
「大人しくしろぉっ!」
「「ええっ!?それで良いのぉ!?」」
たった一言で封印の儀を成立させた彼女に
困惑する二人というシュールな様子がそこにはあった。
「要は、魂を込めれば言葉は問わないのよ!」
「それは早く言ってよぉ〜!?」
「…………」
思わず頭を抱えたくなった
なんだ……そのスパルタ脳に近いなにかは────
その時、怪物に異変が起きた。
頭部と思わしき場所から、正四角錐の物体が出現する。
……なるほど、コアを出現させる儀式だったわけか。
上手く考えたものだ。
「うわ!?なんかベロンと出たー!?」
「封印すれば、
あれは言わば心臓!破壊すればこっちの勝ち!!」
……となれば、答えは単純だ。
アレを使えば即座に終わらせられる。
「それなら、私が行きます!
喰らええええええっ!」
桃色の少女が跳び、真上から拳を御霊にぶつけるが……
「硬ぁあい!?
これ硬過ぎるよぉおおお!?」
罅すら入らず、自分の手を痛めるだけだった。
……拳一発で壊れるほど、柔らかい筈はない。
「ねえ、お姉ちゃん……
なんか、数字減ってるんだけど……これなに!?」
怪物の下に刻まれた漢数字が徐々に減っていく。
「ああ、それ私達のパワー残量。
零になると、コイツを抑えつけられなくなって倒す事が出来なくなるの!」
「うぇええ!?と言うことは……?」
「コイツが神樹様に辿り着き、全てが終わる!」
「ある意味、捨て身のシステムか────」
……少し、顔を顰めてしまう。
「友奈代わって!!」
「痛たた……あ、はい!」
友奈。と呼ばれた桃色の少女が御霊から飛び降り、
交代する形で風が大剣を御霊に振るう
「ふっ────!はぁっ────!!
……手応えがない、いきなりまずいか?
────ならば、私の女子力を込めた渾身の一撃でぇ!!」
その一撃で、御霊に罅が入るのを確認した。
女子力とはそんな万能だったか少し疑問が浮かんだが
置いておくことにした。
「風先輩!……え?」
「か、枯れてる?」
「まずい、始まった……急がないと!
長い時間封印していると樹海が枯れて、現実世界に悪い影響が出るの!」
「時間がない……だったら────」
「なら、私が行こう」
「────へ?」
私が名乗り出た事に驚いて、こちらを見る。
「は?できるの!?」
「勝算が無ければ、言わないと思うが?」
「うっ……まあたしかに……」
風の驚いた様子に呆れて、返答する。
「だが……まあ、体勢は整えておくと良い。
爆発の余波で吹き飛ばされても、謝罪はせんぞ?」
「はぁ!?ちょ!?待ちなさいって!?」
聞く耳を持たず、私は上空に跳び上がり一本の槍をイメージする。
それは、ケルト神話における大英雄、
光の御子と謳われた私にとって因縁の相手である男が持つ
一撃必殺の因果逆転の朱い魔槍。
〔心臓に槍が命中した〕という結果を作ってから
〔槍を放つ〕という原因を作る。
故に一撃必殺。
だが、この槍にはもう一つの使い方がある。
対軍宝具としての一面だ。
こちらに因果逆転の効果はない。
……しかし、狙った相手を狙い続ける効果は健在だ。
そして、こちらは圧倒的なまでの威力を誇る。
偽・螺旋剣は推定でA+とはいえ
壊れた幻想込みでの威力だ。
だが、この魔槍は
対軍として使えば壊れた幻想なしでB+。
……数値的にはAにも至るだろう。
確実に相手を狙い。
葬るのであれば偽・螺旋剣よりもこちらの方が有効だ。
槍は剣に近い構造をしている。
……それは、剣の投影がずば抜けている私にとっては非常にありがたいものであった。
この槍はただ作り、放つ為にはとてつもない魔力を使用する。
だが……剣の投影の魔力消費を抑えることが可能な私にとっては、
この槍の投影もかなり安く済む。
故に、真似事ではあるが、コレを使うのが一番手っ取り早い。
「投影、開始────」
右手にイメージした、朱槍を構える。
その朱槍は禍々しく光り輝き────
「やばっ!?二人共!体勢を整えて!!」
「は、はい!」
「う、うん!」
彼女達が防御体勢に入ったのを確認して、
その朱槍の
「
全力を込めて、その朱槍を御霊に向けて投げつける────
「
朱槍は御霊に飛んでいき、直撃する
同時に、巨大な爆発が発生する。
「「きゃあああああああ!?」」
「なんて馬鹿火力……!?」
「……さすがはクー・フーリンを代表する槍……か」
爆発が収まり、視界が戻る────
「砂になってる……?」
御霊が消滅し、怪物が砂になって消えていく。
朱槍が空中に浮いており、奇妙な機動をしながら
手元に戻ってくる……が。
「………やはり、投影したモノは耐久が脆いか」
手元に戻ってくると同時に、朱槍は粉々に砕け散ったのだ。
「凄かったな……」
私は、彼を見てそう思う。
風先輩が罅を入れたとはいえ
たった、一撃であの硬い御霊を壊してしまったんだ。
「樹!友奈!大丈夫!?」
「お姉ちゃん!」
「風先輩!はい、こっちは大丈夫です!」
「樹も友奈も……初戦なのによく頑張ってくれたわ」
そう言って、風先輩は私の手を握ってくる
って────
「痛たたたたた!?」
「ああ!?ごめん友奈!?」
先程、硬い御霊にぶつけた方の手だったので痛みが走る。
「あ……そういえば、お姉ちゃん。さっきの人────」
「……そうだったわね。アイツは?」
「風先輩、あそこに────」
私の視界には、あの男の子が立っている姿がずっと見えていた。
「……驚いた。てっきり、居なくなってるものかと」
「お姉ちゃん……手伝ってくれた人に
それはいくらなんでも失礼だと思うよ?」
「いや、この年頃の男ってかっこつけたくなるヤツが多いでしょ?
だから、アイツもそうなんじゃないかなって────」
「それあの人に凄い失礼だよ!?」
私が見ている事に気付いたのか、
男の子はフッ。と笑っていた。
「あ…………」
笑った彼を見て、
じっと見つめていた自分が少しだけ恥ずかしくなった。
その時、樹海が揺れると同時に花びらが空を舞って────
閉じてしまった目を開けると────
「あれ?此処は……学校の屋上?」
見覚えのある景色に戻っていた。
「神樹様が戻してくださったのよ」
キョロキョロと辺りを見回す。
そして東郷さんを見つけて────
「あ!東郷さん!
大丈夫だった!?怪我とかない!?」
すぐに駆け寄って、声をかける。
「ええ、私は大丈夫……友奈ちゃんは大丈夫だった?」
「うん!もう安全!……ですよね?」
「そうね。ほら見て」
風先輩の言葉で私達は、屋上から街を見渡す。
何事もなかった様子で普段通りに車が走っていたり、人が歩いていた。
「皆、今回の出来事に気付いてないんだね……」
「そ、他の人からすれば今日は普通の木曜日。私達で守ったんだよ。皆の日常を────」
その言葉を聞いて、少しだけ安心した。
「良かった……」
「あ、ちなみに世界の時間は止まったままだったから
今は普通に授業中だと思う」
「え?」
「「ええっ!?」」
訂正、少しも安心できなかったよ!?
「まあ、そこは後で大赦からフォロー入れて貰うわ
……怪我はないわね、樹」
「うん、お姉ちゃんはなんともない?」
「へーきへーき!」
「うぅ……怖かったよぉ……お姉ちゃん……
もうわけわかんないよぉ……!」
「……よしよし、よく頑張ったわね
冷蔵庫のプリン。半分食べて良いから」
「あれ、元々私のだよ〜!?」
……樹ちゃんと風先輩のやり取りを見て、少しほっこりした。
「……友奈ちゃん……私を助けてくれた男の子は?
……お礼を言っておきたいのだけど」
「あ……そうだ……あの人は何処に?」
「そういえば、アイツは────」
周囲を探す。
「……お探しの相手は私かな?」
声が聞こえた方向を見る。
そこには、あの紅い外套を着込んだ男の子が
貯水タンクにもたれかかっていた。
男の子はひょいっ。と上から飛び降りて、こちらに来る。
遠目で見ていたから分からなかったけど
凄く大人びている人だった。
身長から見たら……風先輩ぐらいの年齢だろうか?
けど、しっかりしてる人みたいだし……高校生かな?
「さっきは、東郷さんを助けてくれたり
手伝ってくれてありがとうございました!」
「私からも、お礼を言わせてください。
……先程は助けていただいて、ありがとうございました」
「礼をされるような事をした覚えはない。
……それに、こちらはむしろ君達に謝罪せねばならん」
「へ?謝罪……ですか?」
キョトンとしてしまう。
謝るような事を私達はされた覚えがなかった。
「ああ……今回の事は、
ヤツの侵入を許してしまった私に責任がある。
……君達を戦いに巻き込んで、危険な目に合わせてしまったこと
……本当にすまなかった」
「わわ!?頭を上げてください!
あの怪物を倒せたのは、貴方が助けてくれたおかげですし……それに────」
深々と頭を下げる男の人に私は慌ててしまう。
「そうね……色々聞きたい事はあるけど……
アンタが居てくれなかったら、東郷が危なかったのは事実だわ
……助けてくれてありがとう」
「……そう言ってくれると助かる
何はともあれ……無事で何よりだ」
男の人は、顔を上げて安心したように笑う。
その笑顔がかっこよくて、顔が赤くなってしまう。
「本当なら、今すぐ色々アンタから聞きたいところだけど……」
……そう、私達はまだ授業中の時間だ。
今から色々というのはまずいわけで……
「その点は理解している。次の日の放課後、ここに迎えに来るといい。
……その時にはここに居よう」
「その言葉、今回は助けてくれた事に免じて信じてあげるわ」
「おや、信用がないな」
「……助けてくれたのはありがたいけど、
謎めいてる不審者なのよ?今の貴方」
「……ふむ、違いない。
だが……自分で言った事ぐらいは守るさ」
彼はそう言って肩を竦めた。
「えっと……じゃあ、また明日!」
「……ああ、また明日な」
あの人はそう言って、学校の屋上から、
ビルの屋上、家の屋根、電柱を伝って、何処かへ行く。
「……どういう身体能力してんのよ、アイツ」
遠くへ消えていく、彼を見ながら
風先輩の言葉に苦笑してしまう。
……たしかに、少しビックリしてしまう。
うん、明日会えるよね。
きっと、この出会いは運命なんだと思う。
彼と出会ったのは偶然なんかじゃなくて────
必然だったんじゃないかな。って私はそう思った。
次回、現在の士郎くんの状態に関して
書かせていただきます。
今回でうん?となった人はきっと勘が鋭い人。