樹海の記憶の時間軸はレオ・スタークラスター。
つまりはあの合体バーテックスが出る前で
満開でパワーアップする事は勇者部も知ってる状態だったので……
おそらく次々回になると思います。
三好 夏凜 と白いチョークで書かれた黒板を見る。
その前には、件の少女。三好夏凜が立っていた。
「はい、良いですか?
今日から皆さんとクラスメイトになる 三好 夏凜さんです」
「ほぇ〜……」
「私の時と一緒か……」
友奈はポカンと口を開け、東郷は口にこそ出ていないが
目を丸くしていた。
まあ、手っ取り早いといえばこれが手っ取り早いやり方か。
「三好さんは、ご両親の都合でこちらに引っ越してきたのよね?」
「はい」
「編入試験もほぼ満点だったんですよ!」
「……いえ」
編入試験、私も受けたな。そういえば。
満点という通知が来たのは覚えている。
……まあ伏せておいてくれと頼んだが。
周囲がほぼ満点。ということに凄いという趣旨でざわつく。
「さ、三好さんから皆に挨拶を」
「三好 夏凜です。よろしくお願いします」
「ほわぁ〜……」
「なるほど……」
……友奈のヤツさっきから同じような事しか
言ってないが大丈夫だろうか。
「────で、そう来たわけね」
「ほぼ私の時と変わらないな。この辺りは」
「そうねー……」
「転入生のフリなんて面倒臭い。
でもまぁ、私が来たからにはもう安心ね。完全勝利よ!!」
勇者部部室の黒板の前に立っている三好。
そして、向かい合う形で座る私達だった。
「何故今このタイミングで?
どうして、最初から来てくれなかったんですか?」
東郷は最もな疑問を問う。
「私だってすぐに出撃したかったわよ!
でも大赦は、二重三重に万全を期しているの。
最強の勇者を完成させる為にね!」
「最強の勇者?」
「ほぅ、最強と来たか……」
東郷と友奈は首を傾げ、
私は少しだけ影のある笑みを浮かべた。
「そ、貴方達先遣隊の戦闘データを得て、
完璧に調整された完成型勇者。それが私!
私の勇者システムは先代勇者の一人のシステムを基礎として
対バーテックス用に最新の改良を施されているわ!
その上……貴方達トーシローとは違って────」
彼女はそこまで言うと、傍にあった箒を手にし……
「戦闘の為の訓練を長年受けてきているの!」
ドン、と箒を構えると同時に箒の先端部分が黒板に当たる。
「黒板に当たってますよ……?」
「躾甲斐のありそうな子ねぇ……」
「なんですってぇ!?」
「あわわわ!?喧嘩しないで!!?」
風と東郷がそれぞれ別の反応を見せ、
風の言葉を挑発と受け取ったのか三好は突っかかり
樹は二人の様子を見て慌て出す。
「ふん、まあ良いわ!
とにかく、大船に乗ったつもりでいなさい!」
「そっか……うん、よろしくね!夏凜ちゃん!!」
友奈は立ち上がり、夏凜のもとまで近付く。
「い、いきなり下の名前!?」
「え?嫌だった?」
「ふ、ふん……どうでも良い。
名前なんて好きに呼べば良いわ!」
「ようこそ!勇者部へ!!」
「………は?……誰が?」
友奈の言葉に三好は固まる。
「へ?夏凜ちゃんだけど」
「部員になるなんて話、一言もしてないわよ!!」
「え、違うの?」
三好の言葉にきょとんとする友奈。
「違うわ!私は貴方達を監視する為に此処に来ただけよ!」
「え、じゃあもう来ないの?」
「む……また来るわよ……御役目だからね」
寂しそうに聞く友奈とそれに戸惑う自称完成型勇者。
「うん、じゃあ部員になっちゃった方が早いよね!」
「たしかに!」
「むむ……まあ良いわ……そういう事にしておきましょうか。
────その方が貴方達の事を監視しやすいだろうしね!」
何処か、挑発するように告げる三好。
意図的に言っているのは間違いないが……どういう意味で伝えているのか。
「監視監視ってアンタね……
見張ってないと私達がサボるみたいな言い方するの、やめてくれない?」
「ふん、偶然適当に選ばれただけのトーシロが大きな顔をするんじゃないわよ!」
「私はそれに含まれるのか?」
記憶がないとはいえ、私は先代勇者の括りになる。
先代は格式が高い家柄でなければ勇者になれなかったらしいし
私はその類いのはずなのだが……
「アンタには言ってないわよ!」
「お、おう……」
「良いぞ良いぞー、士郎。言ってやれー」
「お、お姉ちゃん!?」
「そ、れ、に!
監視はアンタも含まれているんだから!分かってるの!?」
「……ほう?理由を聞かせてもらえるか?」
少しだけ目を細めて、三好を睨む。
「……っ、アンタが先代勇者だというは知ってるわ。
記憶がないこともね。だけど、記憶がないからこそ監視するのよ」
「なるほど、思い出した時に
錯乱したり歯向かう可能性があるから。か」
「ちょっと待ちなさいよ!
一ヶ月ほどしかまだ居ないけど、コイツはそういう事をするヤツじゃないわよ!」
風はそう反論するが……三好は一蹴りする。
「ふん、どうだか。
それに、西暦の時代、神樹様が壁を作るまでは
バーテックスを見た人間が発狂や錯乱をするという事例があったらしいわ。
もし、こいつの記憶喪失が────」
「恐怖やトラウマからの自衛の為に
無意識に記憶を封じたものだとするなら
錯乱する可能性も有り得る。ということだな?」
「そういう事よ。なんだ、アンタは自分の立ち位置をよく理解しているんじゃない」
「あぁ、よく理解したよ。
……やれやれ、大赦にまで信用がないとはね」
思わず、肩を竦めて溜め息を吐く。
「わ、私は信頼してるよ!士郎くん!
凄く良い人だって、知ってるから!!」
「わ、私も信頼してます!」
「その励まし方は場合によっては
信頼していないとも取れるぞ?」
「「はぅ!?ごめんなさい!?」」
私の自虐的な笑みを見て、頭を下げる友奈と樹だった。
冗談のつもりだったが、少し良心が痛かった。
「ふん、まあ良いわ。大赦の御役目はね……
おままごとじゃなあああああああああ!?」
三好の目線の先には、彼女の精霊が
友奈の精霊、牛鬼に頭を齧られている姿があった。
「なななななな何してんのよこの腐れ畜生!!?」
『外道め!』
……また齧られたのか。
「外道じゃないよ、牛鬼だよ!
ちょっと食いしん坊くんなんだよね」
友奈はそう言いながら、
ビーフジャーキーの中でも
安くて美味しい事に定評のある『ビーフビーフ』を一つ、牛鬼に与える。
「じ、自分の精霊の躾も出来ないようじゃ
やっぱりトーシロね!?」
「牛鬼に齧られてしまうから、皆精霊を出しておけないの」
「大天狗の翼を齧られた時は焦ったな……」
転校してすぐの頃にそれは起きた。
手羽先と勘違いしたのか、牛鬼が私の精霊である
大天狗の翼を齧ったのだ。
あの時は全員で慌てたものだ。
ちなみにだが、何故か酒呑童子だけは齧らなかった。
不思議なことに。
「じゃあそいつを引っ込めなさいよ!!」
「この子勝手に出てきちゃうんだー」
「はぁ!?アンタのシステム壊れてんじゃないの!?」
『外道め!』
「そういえば……この子喋るんだね!」
よしよし、と武者甲冑の精霊を撫でる。
「ええ、私の能力に相応しい強力な精霊よ!」
「あ、でも士郎くんは二匹、東郷さんは三匹居るよ?」
「……えっと……出ました!」
友奈がそう言うので、私と東郷はスマホを弄り
それぞれ精霊を出現させる。
「わ、私の精霊は一体で最強なのよ!!
言ってやりなさい、義輝!!」
『諸行無常』
「ぐぬっ!?」
「達観してますねー……」
「そ、そこが良いのよ!!」
「声震えてるぞ。っておい、酒呑童子。頭の上で酒を飲むな」
定位置になったのか、酒呑童子がまた頭の上で酒を飲み始める。
「そこがお気に入りなのかな?」
「友奈、君が言えたことではないぞ?」
「ほぇ?」
友奈の頭の上でノボーっとしている牛鬼を見て溜め息を吐く。
「あ……どうしよう、夏凜さん!」
「こ、今度は何よ!?」
樹の言葉で顔をそちらに向ける三好。
「夏凜さん……『死神』の正位置……」
「勝手に占って不吉なレッテル貼らないでくれる!?」
「不吉ね」
「不吉ですね」
「不吉じゃない!!」
「たしか……死、別れ、終末、完全な終わりとかだったか」
また、良い意味合いとして捉える場合は、
仕切り直し、新たな始まりなどとして捉える事ができるらしい。
「意味まで言わないでくれるっ!?
ともかく!これからのバーテックス討伐は私の監視の下励むのよ!!」
「部長が居るのに?」
「ぶ、部長よりも偉いのよ!!」
「ややこしいな……」
「ややこしくないわよ!!」
「友奈、問題だ。
部活の部員を教師に置き換えてみろ。
普通の教師が部員。教頭先生が部長。では部長より偉い人は?」
「校長先生!あっ、そういうことか!」
友奈は、私の問題の答えで合点がいったらしい。
「まあ、事情は分かったけど……
学校に居る限りは上級生の言葉を聞くものよ。
事情を隠すのも、任務の中にあるでしょ?」
「……ふん、まあ良いわ。
残りのバーテックスを殲滅したら御役目は終わりなんだし……それまでの我慢ね!」
「うん!一緒に頑張ろうね!」
「が、頑張るのは当然よ!
私の足を引っ張るんじゃないわよ!?」
頬を赤く染めて、顔を逸らす三好。
なるほど、なんとなくだが彼女の性格が分かった。
彼女は素直になれないタイプか。
赤色がメインといい、素直になれない性格といい……
何処かで見覚えが……ウッアタマガ……
「ねえ、一緒にうどん屋さん行かない?」
「……必要ない、行かないわよ」
そう言って、部室から出る三好だったが……
何故かすぐに部室に戻ってくる。
全員が首を傾げると……
「鞄忘れた……」
小声で三好は言う。
「ああ、うっかりか」
「うっかりね」
「うっかりですね」
「よ、よくある事だよ!夏凜ちゃん!!」
「で、ですね!」
「うっさいわよ!!」
鞄を取って、顔を赤くしながらすぐに出る三好だった。
うっかりか……
うっかりするタイプは周りに迷惑を掛けやすいが……
私の知る中ではうっかりする人間は根が良い人だった。
彼女もきっと、その質なのだろう。
所変わって、此処は風達勇者部の行きつけのうどん屋『かめや』
此処のうどんは間違いなく美味しい。
うどん自体にもコシがあるし、
出汁なんかもしっかり作られているオススメのお店だ。
しかもこれで学生も手をつけられる
お手頃価格なのだから非の打ち所がない。
正直に言うと、弟子入りして
コシのあるうどんの作り方を含めて色々教えて欲しいぐらいだ。
「美味しいのになぁ……」
「頑なな感じの人でしたね」
友奈が天ぷらうどん。
東郷がきつねうどんを食べながら言う。
ちなみに私は釜揚げうどんで、
風は肉うどん、樹は月見うどんである。
余談だが蕎麦がメニューに存在しなかったのが少し驚いた。
聞けば、蕎麦を扱ううどん屋は数える程しかないとか。
年越し蕎麦はどうなるのか疑問に思ったが、
四国では年越しうどんがあった事を思い出して少しだけ安心した。
まあ、少し寂しくはあるが。仕方ない事なのかもしれない。
「フッフッフッ……ああいうお硬いタイプは張り合い甲斐があるわね」
「は、張り合うの?」
「いや、仮にも仲間になる相手に張り合うなよ……」
風の言葉に樹は困惑した様子を見せ、私はツッコミを入れる。
「うーん……」
「友奈ちゃん?」
「あ、ごめんね。東郷さん。
夏凜ちゃんとどうすれば仲良くなれるかなぁって考えてて……」
友奈は難しい表情で考え込む。
「別に、考える必要はないんじゃないか?」
「え?」
「彼女のような素直になれないタイプは少なくはない。
────ただ、時間が要るだけだよ。
だから、普通に接して……心を開いてくれる日を待っていれば良いさ」
そう、ああいうタイプはあまり無理に接するとダメだ。
素直になれない分、根は優しい。というタイプであれば尚更だろう。
「……そっか、ありがとう士郎くん」
「気にするな。ああいうタイプはそれが一番良いからね」
「ほぁー……」
「風、なんだ?」
「いやー……士郎って
もしかして女性相手にするの手馴れてる?」
「────は?」
「はぇ!?」
私は少しだけ思考停止し、
風の言っていた事の意味が理解出来たのか友奈達は顔を赤く染める
「や、だって今の完全に経験がある人の言葉じゃない。
絶対、女たらしなタイプでしょ。
今まで何人の女性を誑かしてきたんだか」
「待て待て、何故そうなる!?」
「ゆ、友奈ちゃんは渡しませんよ!?」
「ふぇ!?」
「あー!東郷も火に油を注ぐな!?」
「え、えっと……士郎くん……私は……その」
「友奈も真に受けるな!?」
「え、衛宮先輩は
そういう事する人じゃないって信じてます!!」
「樹、その言い方だと信頼ない感じがあって辛い……!」
「ご、ごめんなさい!?」
ワーワーと賑やかになる私達だったが……
此処は公共の場であるうどん屋さんなわけで────
「店内ではお静かに!」
「「「「「……すいません」」」」」
当然、怒られるのであった────
くだらない。くだらない。くだらない────
学校に別に期待していたわけじゃなかった。
楽しみだったわけじゃなかった。
だけど、想像以下で少し失望した。
私は、大赦にメールを通して連絡を入れる。
『現勇者達は危機感が足りない印象』
『危惧される』そんな内容も含めて。
「────馬鹿な連中」
そうだ、私は彼女達とは違う。
私は選ばれたんだ、あの中から────
選ばれなかった人が居る。分かっている。
私がやらなければ、選ばれなかった彼女達はきっと……
「そうよ、私は完成型勇者。最強の勇者なんだから」
私の勇者システムは先代勇者である
衛宮 士郎の勇者システムの情報を基盤として、
三ノ輪 銀の旧勇者システムを使用し
製造されたものだと聞かされた。
────記憶がないことは同情する。
他の先代勇者にとってそれは悲報だろう。
だけど、それだけだ。
世界を救う為に記憶を失ったのであればあの男も本望だろう。
だからこそ、兄貴が言っていた言葉が分からない。
「なによ……
『決して、彼に憧れてはダメだ。
彼のようになってはダメだ。アレは破綻している』って
……意味がわかんない」
世界を救う為。それに命を賭けることができる。
兄貴と違って、何もなかった私にとっては
凄い事で、憧れた。けどそれはダメだと言われて……
じゃあ私はいったい、何を目指せば良かったのか。
「本人に聞けば、分かるのかしら」
気に入らない男の顔が浮かぶ。
気に入らないのは、
私を含めて勇者の事を庇護する対象としてか見ていないあの目だ。
戦える。戦えるのに、
それを舐めているようなアイツに腹が立つ。
他の勇者はましてや本人すらそれに気付いていない。
私だけがあの目に気付いた。
「なんだってのよ……」
このモヤモヤはしばらく、晴れそうになかった────
にぼっしーってこんな感じのキャラで良かったっけか……少し不安。