記憶の片隅にある天国   作:パフさん♪

12 / 39
前回はここにいる理由をみんなで考えました

そしてまだ作戦会議が続きます

では第12話始めます


第12話 楽しい夢の終わり

重い...

 

黒服の人達と一緒に大広間を出て楽器を運んでいる

ギターとベースは持ち運びやすく難なく移動できた

問題はドラムだ

ケースだけでも10個ほどある

そのほとんどが人の手で運ぶには2人で協力して運ばないといけないほど大きい

これを運ぶ黒服の人達は全員女性だ

これを運ぶには相当苦労するだろう

 

私はあまりない良心からか黒服の人達に

「大丈夫ですよ、これは私の仕事ですので。私が運びます」

と無意識に言っていた

 

そして今に至る

黒服の人達は大きな荷物を運ぶのを見守っている

私の仕事、そう言われては手伝うに手伝えない

それでもこの屋敷の召使いであるが故なのか、それとも黒服の方々の良心なのか?

大きな荷物を1つ運び終えて他の荷物を運びに戻ってきた時には、キャリーカートが一つ置かれていた

 

これで作業は劇的に改善された

1つを運ぶにの10分くらいかかっていたのが

3つ運ぶのに3分ぐらいで済むのだ

しかも持ち上げて、歩いて、置く、その3つの力がキャリーカートのお陰で引っ張る力だけになったのだ

無駄なことをしないというのがどれほどありがたいのか

運んでいる途中で陰から見ていた黒服の人達1人1人に軽く会釈をした

 

 

最後の1個を大広間とは別の部屋に運び終わり軽く息を吐いた

ここには誰もいない

それは楽器を運び始めてからずっとそうだった

だだっ広い部屋には机と椅子とマイクしかなかった

今はそれに追加するようにギター、ベース、ドラムを入れた

それでもまだ殺風景な部屋だ

 

しかし、今はそうではなかった

気がついたら一人の少女が私に声をかけてくれた

 

 

「お疲れさま......でした.....。ドラム重かったですよね......」

 

と、そこにいたのは松原花音だった

彼女はドラムができる

故にドラムを運ぶ辛さが分かっている

もしかしたら花音は私が運び終えるのを待っていたのかもしれない

 

 

「ま、松原さん......ど、どうしてこっこにぃ!?」

 

と驚いて少し噛んだ

それを聞いた花音も驚いている

 

 

「あ、あの...!こ、こころちゃん達に

無理言って......く、クロさんに会いに来ました。クロさんドラムをちゃんと運べているのか...少し心配だったので......」

 

と返して来た

私の言葉におどおどしっぱなしの花音だったが、私のことを心配してくれて来たみたいだ

流石に全くドラムのことを知らない素人がこんだけの荷物を運ぶのに相当疲れていた

花音は本当に優しいと改めて感じていた

 

 

「あの、これ......よかったら使ってください。顔中汗だらけですから....」

 

本当だ...汗だくだ

そんなこと気づかなかった

気付くはずがなかった

運ぶのに一生懸命だったからだ

そして全部を成し遂げた時にようやく気付いた

 

今、花音が私にタオルを差し出して来た

彼女と同じ水色のタオル

そして彼女の頬を赤く染めながら震える手

それなのに私の眼をしっかりと捉えている

彼女の眼に私の顔が映る

写っている私の顔は花音と対照的に何か泣きそうな顔だった

私と花音の顔は普段なら逆転しているのかもしれない

でも今は違う

 

花音は私の為にみんなから抜け出し、私にタオルを渡した

普段の花音ならこんな行動が出来る様には見えない

覚悟を決めて私にタオルを渡すその行動が花音の心を動かしたのだ

 

 

「いいんですか...?ありがとうございます。また今度洗濯して返しますね?」

 

その覚悟に私はタオルを受け取った

花音から借りたタオルは凄く柔らかくそして暖かかった

私は汗を拭き花音にもう一度「ありがとう」と言った

 

花音はおどおどしていた時とは別人のように私に微笑みかけた

その笑みは陰から見ていた時には見ていなかった表情

そして何よりも花音の笑みはタオルと同じように柔らかく暖かい

 

(花音は天使だな)

 

そう思い、私も自然と笑顔になれた

そして花音と一緒にドラムのセッティングをし始めたのだった

 

 

「よし、これで完了」

「そうですね。これで終了です」

 

私はほとんど何もしていない

ケースから一つ一つの器材を出しただけだ

ほとんどは花音が設置してくれた

私はただただ見るだけで花音の一生懸命に働いている

...手助けできなかった

 

それでも花音は私に優しく接してくれる

優しくした人は多くいるがそれは偽りの優しさ

しかし花音は偽りなどない純粋な優しさ

今の花音の優しさが昔にあったらどれだけ変わっていたんだろうか?

そして本当の『友達』になれるのか?

 

 

「じゃあ行きましょう?松原さん」

 

「花音でいいよ。あっ...でもなんか恥ずかしいかな...」

 

「じゃあ、花音さんって呼びますね。

花音さん、みんなのところに行きましょう?」

 

「はい!クロさん」

 

花音が私に初めて出した提案

それは呼び方だった

呼び捨てにされるのは女子は嫌だろう

ましてや今日知り合った人になど言語道断である

私は花音のことを尊敬の念を込めて「さん」をつけた

そして、私は花音と一歩近づけた

 

 

大広間に帰ると3人はある程度意見がまとまったのか大分と静かになっていた

言わずもがなその3人はこころ、はぐみ、薫だ

そして少し遠目から腰に手を当てて様子を見ている美咲

この光景を予想できていた

花音が私の方に来た結果、美咲だけでは収集が付かなくなるのは分かっていたからだ

そして花音と帰って来た時にはぐみが私たちにこう言って来た

 

「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

「ふぇ?」「え?」

 

はぐみのよくわからない言葉に花音と私は不思議そうに聞き返した

部屋に入ってから急にそんなこと言われたら誰だってこうなるだろう

そして聞き返す

 

 

「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!って何?」

 

「このバンドの掛け声!

ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!だよ!」

 

「お、おう...」

 

「はぐみ!素晴らしいわ!もう一回やりましょう!

ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

「えっ。ちょっ、こころちゃん、あの......!」

 

「「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」」

 

もうどこから突っ込めばいいんだろう...

まずはぐみはなぜこんな掛け声を出したのか

そしてこれをなぜこころ達が採用したのかよくわからない

さっきまで聞いていた美咲はどういう反応だったのか?

それを全部聴きたかったが殆ど明確な答えは帰ってこないだろう

 

こころが掛け声を出して、続いて薫とはぐみが復唱をする

そして流れる他3人の無言

 

素直にいうとこの掛け声は幼稚ではあるが案外いいかもしれない

『世界を笑顔に』というテーマにも合ってるし、おまけに全員で言えば団結力が高まると思う

そこに美咲が言うかが問題だが...

 

 

「......こころ、今気づいたんだけど

私たちは、どんな音楽を奏でればいいのかな?」

 

「そうだったわ。決めてなかったわね!」

 

「本当に何にも決まってなかったんだね!?」

 

薫の質問にこころは平然と答え、美咲が突っ込む

こころなら仕方ないと思えてしまう

まぁ陰から見てた私はよく知っている

こころは何かを持っている

2日間でメンバーを集めてそしてバンドを作る

こころが言ったことはなんでも叶うそんな感じがしていた

 

 

「ごめんなさい。私も今、言おうとしたんだけど...」

 

「もうダメだ。この三人はバカだ。3バカだ!!花音さん!これ以上振り回されるのはやめて、私と帰ろう!」

 

「え......でも、私......」

 

美咲は堪忍袋の尾が切れたのか少し声を荒げながら花音に言った

美咲が被害者のように花音も被害者だ

そのことを知ったのはもう少し後だったが美咲の言動で察していた

 

花音は美咲に言われたことを考えつつも動かなかった

花音は私と同じ考えなのだと思う

 

こころを見ていたい

 

そのことを美咲は察したのか軽い溜息をついて

 

 

「花音さん?ああもう......あたしも帰るに帰られないじゃん......」

 

と、その時にはぐみが「かーちゃんに呼ばれたから帰るね」と言って急いで帰り支度をしていた

先程はぐみは携帯を確認していた

そしてそのはぐみの元気印の顔が少し悲しい表情をしていたのを見たのは私しかいなかった

 

反対に、美咲の顔が少し緩んだように見えた

ここから解放される、そう思うと仕方ない

 

そしてこころが「じゃあ今日はここで終わりね」と言った

長い作戦会議が終わる

 

各々帰り支度をしている

ただ、私は黒服の人に呼ばれたのだ

 

 

「これからこころ様達のことをよろしくお願いします」

 

と一言呟くと私にお辞儀をしてその場を立ち去った

 

私が大広間に戻った時には全員帰り支度が済んでおり、帰る直前だった

そのタイミングで私は

 

「花音さん!」

 

と大きな声で呼んだ

花音は「ふぇ!?」と驚いて身体が飛び上がっていた

今度は花音のことを呼ぶ時はもう少し注意しよう

花音は恐る恐る私の方を向いてきた

 

「ど、どうしたんですか...?クロさん...」

 

「いや...あの...タオル今度返しますね」

 

「えっ...う、うん。わかりました」

 

と貸してもらったタオルを返すことを約束した

わざわざ復唱したのには私と花音が忘れないように

そして花音達は帰っていった

 

 

みんなが帰った後、軽く後片付けをして私も帰路に着いた

もう太陽が沈み始め世界をオレンジに染める

あっという間に過ぎた時間

時間は止まってくれない

でも、記憶は残り止まってくれる

 

そう思いつつ家に着いた

 

 

家に帰り、すぐに花音から借りたタオルを洗濯機に入れた

ここでやっとかないと忘れていそうな気がして

今日あったことを思い返しながらタオルが洗濯機に入っていくのを見ていた

 

洗濯物を入れてリビングに行くと母さんがニヤニヤしながら私に聞いてきた

 

「ははーん?さては彼女ですかねー?」

 

先程の行動が見られていたのかそんな質問をされた

私は「友達に借りた!」と一言言ってご飯を食べ始めた

この世界で食べたご飯の中で1番美味しく感じた

そして家族三人で食べているこの空間に嬉しく、談笑していたのだ

 

お風呂に入り床に着く

布団の中は冷たくまだまだ寝付けそうにない

その間に今日あったことをもう一度振り返れる時間になっていた

 

黒服の人に弦巻家に連れられ

こころ達の会議を見て

私がこころ達に受け入れられ

楽器を運び

花音にタオルを借り

 

()()()()()()()()()()

 

そして決まった「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

まとめるとすごく短く内容がないように見える

ただ私にとっては今日の思い出はこの世界での1番大切な日になり

始まりの日

 

 

私が私になった日

 

 

これからこころ達に振り回されるとしても楽しい日々が過ごせそうと思い

少し顔が緩む

その顔のまま私の意識が遠のいていくのを感じた

 

 

 

夢の「今日」は終わった

だが「現実」の今日は今から始まる

 

「私」が「自分」に変わる時

 

 

 

裏が表に

天国が地獄に

 

自分の長い1日がはじまるのだった




更新遅れてしまってすいません!(5日間)
(なお、再投稿しているので一気投稿になっています)

そして長い長い「夢」partが終わりました...長かったよ!

バンドリアプリでは千本桜楽しいですよね!最近よくやってます
(フルコンできるかな...)←できました!


次の話から現実になります
楽しみに待っててください!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。