記憶の片隅にある天国   作:パフさん♪

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前回は音楽の先生に報告したところまででした

さて、無事にドラムを治せるのでしょうか?

では、第19話始めます



第19話 こころの支え

啖呵を切って外に出たはいいものの....

 

「さむい...」

 

当たり前だ、まだ4月の5時だ

制服を着ているといっても妙に肌寒さを感じる

辺りにはジョギングをしているおじさんくらいしか見当たらない

遠くの方では犬の遠吠えも聞こえてきた

 

(どうしよう...)

 

こんな時間に教室が空いてるわけもなく、そもそも学校自体空いてない

なぜあんな嘘をついたのか今では少し反省している

そうしておけばこんな寒空の下で凍えなくても済むのだから

 

「寒い...」

 

何度繰り返したところで暖かくなることはない

無意味な行動

ただ、時として現実逃避に使えるのかもしれない

 

 

(あれ...段々と...意識.....が........)

 

私は無意識のうちに自分の世界に閉じこもってしまっていた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おとおさん。いまからどこいくの?」

 

 

(あれ...ここは....?)

 

 

「ああっ、いまからパパはとおくのところにおしごとしにいくんだよ」

 

 

(......走馬灯...?いや...そんなはずは....)

 

 

「ぼく、おとおさんともっとあそびたい。」

 

 

(昔の私は我儘だな...だけどこの時小2だから普通......⁈)

(あれっ...⁉︎確か...この遠くでお仕事って...⁉︎)

その瞬間、私は必死に声に出そうとしていた

 

(ダメ!!!父さん!!!家から出ないで!!!)

 

そう、この日が私にとって1番最悪だった日だということを

そして私が変わってしまったポインター

 

 

「ハハハ、もうお前も小学生だろ?お友達と一緒に遊んでおいで」

 

 

(父さん...その頃私に友達なんていないよ...)

思い返す、まだ変わっていない私を

 

母さんは病死して、父さんは毎日夜遅くまで働いていた

だから、家に帰っても深夜にならないと誰もいなかった

だから家にいるときはいつも電気も付けずに本を読んでたっけ...

気がつくと本を読みながら寝てしまう、そして私の上に布団がかけられていて...

気がつくと家に父さんの姿を見れずに、夕飯のところにある置き手紙だけ

 

そんな感じで根暗だった私に声をかけてくれる人なんていなくて...

気がつくと先生としか話さない静かな子になっていた

だから放課後はすぐに家に帰って、ずっと読書...

 

今とは違うが同じような繰り返しの日々

惰性で動く日々

何も変わっていなかった

 

 

「うん。おとおさんの言う通り、友達と遊ぶね。」

 

 

そして、いつもこうやって強がりを言ってしまう、私の悪い癖

昔も今も無駄に強がって、周りに平然とい続ける

それが私にとっての最善策だった

 

そこにいる小さな私は後ろで手を組んでいる

ただ、その手は少し震えてとても辛そうに見えた

 

 

「それじゃあ...パパは行ってくるね」

 

 

その言葉は最期に聞いた言葉

その後に父さんの姿は見ていない

電車に撥ねられた父さんは子供の私には見せられない程変わってしまう

 

(言うなら今しかない)

 

私は思いっきり口を大きく開け息を吸う

この家に響くよりも大きな音で

近所迷惑になってもいい声で

私は叫ぼうとした

 

 

「いってらっしゃい」(行かないで!)

 

 

届いた声は小さな声

私の声は響くことすらなく、空気に遮断された

なぜこうなるんだ

必死に叫んだ

叫んだはずだ

 

(なのに...どうして⁉︎どうして....⁉︎どうして....)

 

父さんは聴こえた声しか判断できない

父さんは虚勢を張った小さな私の頭に手を置き、軽く撫でながら

 

 

「行ってきます」

 

 

と、言葉を返していた

そして、玄関を開けて父さんは振り返っていた

 

やっと正気を取り戻した私に映ったのは扉が閉まる瞬間だった

何もできなかった...

そう思いながら呟いた小さい自分よりももっと小さな声で、消え入るような声で

 

 

「ありがとう...バイバイ...」

 

 

唯一出た言葉は静止する言葉ではなく惜別の言葉だった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「....あ..っ...?クロじゃ....かし.......

おー......ロー!」

 

(...父さん...止められなかった....)

 

「...クロ....へん....ないわね。クロ....聞こ......ー?」

 

(ハハハ...自分ってとことん馬鹿だよなぁ...)

 

「クロ!クロ!!」

バチーン!!!!

 

「ひゃひゅい!?」

 

何!?何が起きた!?

 

「クロー?やっと気が付いたのね!おはよう!」

 

...あれ...?ここは...?

 

「まだ寝てるのかしら?クロはどうしてこんなところで寝てるのかしら?」

 

「んえ...?」

 

「ここは公園よ?もしかして、ここがクロのおうちなのかしら!?すっごく広いわね!」

 

「...公園...はっ...!?」

 

長い夢だったのだろう

いや、それは語弊がある

今も夢の中なのだから

厳密に言うなら「夢の中の夢」

理解しがたいがそう言うしかない

だって、この世界に来てから過去に行ったことはないのだから

 

「....あれ...?...こころ...?」

 

夢の中の悪夢から醒めた私に見えた光景には金色の髪の女の子しかなかった

そこにいたのはこころだった

 

もしかしたらここにいるこころは幻覚なの...「おはよう!クロ!」

前言撤回紛れもなくこころ本人だ

 

だって、満面の笑みで私を照らしてくれていた

そしてその表情とともに両手を広げていた

まるで私を迎えてくれるような...

 

あれっ?...寒い...

だけど...目だけが...熱い...

 

「...うわぁ!!!!!」

 

目が霞む

熱い液体が目から流れてきた

何故だろう...無意識のうちに涙腺が刺激されていたか、

私は大粒の雨を降らせ始めていた

 

それと同時に目の前にある女神に思わず飛びかかっていた

両手を前に出し、こころの横をすり抜け、お互いの身体が当たる

そして手をこころの背中をガッチリと鍵をかけ、離さない

 

顔から出る雨が私の顔を伝い、こころの上着を汚していく

雨跡に濡れた顔をこころの服に塗りつける

私はこの雨を止めることなんて出来なかった

 

 

「ク、クロ!?...............」

 

こころは何も言わずに私の事を受け入れてくれた

もしかしたら何か言っていたのかもしれないが、今の私には届かなかった

 

 

朝の公園に散歩しにくる人の誰もが私達を避けていく

だけど、全く気にならないくらいに大きな声で泣き続けた

 

初めて独りぼっちになった夜の時みたいに

男子高校生と女子高校生の抱擁と共に、長い長い叫びを出し続けた

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!!!!!」

 

今、私は土下座をしている

漸く太陽が昇り始めていた

辺りは薄っすら日向を作り始めている

その公園の土の上で頭を下げている

 

「謝ることはないわ。だってあたし、怒ってないもの」

 

「えっどうして...?」

 

私は頭をあげた

映ったのはやはり女神だった

 

「だって、クロは悲しいから泣いていたのよね?だったら、あたしがクロを笑顔にして、それから世界中のみんなを笑顔でいーーーっぱいにするわ!あたしたちのバンドで!」

 

「....はぁ...?」

 

途中から話が飛躍しているような気がする

だけど、それがこころの信念

こころにとって、誰かが悲しんでる人はほっとけないのだろう

 

「それに、」

 

「それに?」

 

私はいつしかこころの下からではなく同じ高さに目線を合わせていた

そして、彼女の言う突発的な言葉を聞き入れようと身構えた

 

「クロはあたしの友達だから!友達が辛い時に手を差し伸べるから友達って言えるんじゃないかしら?

同じ時を過ごす友達が1番の理解者になるの!そうしたら、この世界中の人達と友達になって、辛いことや悲しことはなくなると思うわ!」

 

意外だった

すごくまともな答え

というか、世界の真理を語っている哲学者のように、自分の考えを主張してきた

何故だろう、まだ出会ってから1ヶ月も経っていないのに私はこころに惹き寄せられるのだろう?

きっと、その答えが分かった時に変わるのだろう

 

自分が私に変わる転換期が

自分が浄化されるのだろう

私が世界を笑顔にさせているのだろう

 

 

私がヒーローになっているのだろう

みんなのヒーローに

もちろん、自分も含めて

 

 

 

こころの考えを聞いた私は少しの間を取ってから口を開いた

 

「なぁ、こころ。人ってさ、全てを受け入れないと生きていけないのかな?辛いことも、悲しいことも、嬉しいことも、楽しいことも」

 

私はおかしくなってしまったのかもしれない

人前で泣いて頭のネジがどっかに飛んで行ったのかもしれない

こころは宗教家でも心理学者でもない

ただのご令嬢で同じ高校1年生

 

答えが欲しかったわけじゃない

欲しいのは選択肢

私が思っている世界に新たなレールが欲しかった

分岐器はないがレールが2本ある世界を

 

「クロ、あたしはクロのこともっと知りたいわ。

あなたが好きなもの、嫌いなもの。嬉しかったこと、悲しかったこと。

そしたら、あたしがクロのこともっと楽しい思い出を作ってあげる!

あなたの笑顔は素敵だわ!

あたしも笑顔にしてくれるわ!

だからクロ?

あたしのことも見て?」

 

「......ううっ...」

 

(あっ...また...やばい......)

少し声に漏れてしまった

私はこころに顔を見られたくなかったので、顔を伏せようとした

さっき見せた顔をもう一度見せたら申し訳なく思ったから

 

だが、目線が地面に行く前に目線を固定されてしまった

頬を両手で掴まれて強制的に正面を向かされた

頬に感じる温もりが妙に熱い

涙のせいではなかった

 

 

熱さの原因は普段なら絶対に見ないはずの彼女の表情だった

いつもの笑顔に流れる一筋の雫

そして、目が泳いでいる

彼女も泣いていたのだ

 

きっと、それほど私のことを心配してくれたのだろう

こころは私の事を友達だと思っているから

そう思うとさっきの問いには一つしか正解がなかった

 

「こころの笑顔をずっと見ていたい!

こころが辛そうにしていたら私が助けるから!

だから、こころ

私とずっと友達になりましょ!」

 

そこにいた私は魂が入れ替わったかのように、ただただこころの目だけを見ていた

私の言葉は強くはなかったが精一杯の勇気と心を込めた魂のボール

彼女に届けと力一杯に投げた

 

彼女の顔がまた変わった

いや、戻ったのだ

雫はいつしか地面へと消え、

不安がなくなったこころの顔は私と同じように

 

天真爛漫な笑顔になっていた

朝日が私達にスポットを当て、この世界で1番輝いていた

 

 

 

 

「ああっ...そう言うことだったのか...」

 

それから今までのことをお互いに話し合った

 

私が母さんに嘘をついて朝早くに家を出たこと

無意識のうちに公園のベンチで寝ていたこと

こころが「楽しいこと探し」の最中に私を見つけたこと

そして、いくら名前を呼んでも返事がなかったから手を私の前で叩いたこと

 

色々とこの数分間を話し合った

だけど、私の走馬灯のような夢のことは語らなかった

いや、いつかはこころに話そうと思う

この楽しい空気を壊してでも話す内容ではない

今はそれがいい

 

 

「ねぇ、クロ?最後に一つお願いしてもいいかしら?」

 

横のベンチに座っているこころが言ってきた

 

「どうした?恋愛相談か?」

 

冗談を交えながら返した

 

「恋なんてしてないわ、それよりも、あたしも花音とクロの会議に入らせて!3人でしたらもっと捗ると思うわ!」

 

「おいおい...まぁ...私はいいけど...花音さんはどう言うか...」

 

「じゃあ、今日花音に会って聞いてくるわ」

 

「こころは見境ないなぁ...」

 

本当、こころは勢いに任せて生きているなと改めて感じた

だけど、こころなら全てできる気がする

多分、花音はOKすると思う

よし、今日は3人で話しながら教えてもらおう

 

そんなことを考えていたら、公園の前にリムジンが止まった

どうやら、黒服の人がこころのことを迎えにきたようだ

 

「あっ、じゃああたし行くね」

 

「おうー、また放課後なー」

 

こころの姿がいなくなった公園はまた静かになっていた

台風一過のような現象

2時間以上滞在していた公園が、今さっき作り変えられたかのように錯覚を起こすほどに

 

だけど、すぐに錯覚が消える

遠くの方で私の通う学校のチャイムの音が聞こえる

開門の合図

私は一時避難場所を後にし、学校へ駆けて行く

 

 

私とこころの仲が深まったことに嬉しくて

こころと友達になれて

 

その喜び浮かれていていたのか、私はこころの言っていた言葉を忘れてしまっていた

 

 

 

こころの気持ちを読み取れていなかった

こころの涙の意味を見過ごしてしまったのだ

 

 




こころちゃん回でした!
クロ!よく言えた!お父さん(作者)嬉しいぞ!

こころってすごく無茶なことを言ってますけど、たまにすっごくいいことを言ってくるので、いつもこころの言葉を思い返して執筆しています
(まぁそのせいでもう一度ハロー、ハッピーワールド!のストーリーを20話分見直してたんですけど)

バンドリのイベントではスノボー回が始まりましたね!
美咲ちゃんほすぃ....(なお、ガチャ)
私も昔はよくスキーしてたんですけど、最近は全然やってませんね...


そして!!
なんと!!
この小説が赤評価をいただくことができました!!
本当にありがとうございます!!
これからも精進いたしますので、よろしくお願いします!!

評価していただいた
「鍵人様」

本当にありがとうございます!!

それに!お気に入り登録していただいた

「貴族主義のルキア様」
「鍵人様」
「ステルス★ちりあん様」
「一 零様」

本当にありがとうございます!!

そして、第1話の誤字報告していただいた「鍵人様」助かりました!

感想等で何かありましたら感想欄に書き込んでもらえると大変助かります!


では次の話も楽しみに待ってください!

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