記憶の片隅にある天国   作:パフさん♪

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前回は「喜多見良子」が出てきたところまででした

さて、今回は彼女についてのお話です

では第22話始めます



第22話 違和感のある世界

何かがおかしい

そのように感じるのには、少し訳がある

 

またいつものように夢の世界に入ることができた

ただ、いつもの夢の世界とは少しだけ違っていた

 

今、私が見えているのは青い空だった

普通の人なら空は青くて当然だと思うかもしれない

だけど、私にしかこの違いに気づけない

 

 

そう、起きた時間が明らかに遅いこと

 

 

いつもの夢では、私は早朝から目覚める

見える景色はまだまだ薄暗く、朝日が少し溶け込んだ鈍い浅紫色

 

今日の夢ではもう昼過ぎだ

見える景色は陽の光が眩しいくらいに差し込み、澄みきった青藤色

 

 

時間が明らかに進んでいる

言い換えると、私でいる時間をロスしている

何故こうなったのか?

私には少々、身に覚えがあった

 

現実世界の私は体調が悪くなっていたことだ

もし、原因が寝不足である筈なら、夢の世界に入る時間はもっと早いはずだ

ということは、風邪か何かの病気を患いだ可能性があるという事だ

 

私は、風邪を引くとあまり寝れなくなってしまうことがある

そして、夢を見たかどうかの記憶が出てこなくなる

最後には、起きた後に私は何故か涙を流してしまう

 

涙の意味は私には分からない

同じく、自分にも分からない

 

何回も経験した事であるが、一度も対策が取れない

 

 

(...今は、まだ大丈夫そうだな...)

 

 

色々考えていた私も漸くこの世界に意識を向け直した

今日はまだ平日で、学校がある

遅刻してでも行かなきゃいけない

 

学校にさえ行けばいつものような夢生活ができる

花音さんとこころの二人に会える

二人の笑顔が見れるんだ

 

 

そう思っていると少し気が楽になったのか?

はたまた現実から目を背けただけなのか?

急いで制服に着替え、誰もいない家を出て行った

 

 

 

 

 

「はぁ...はぁっ...間に合った......」

 

家を出てから全速力で走った甲斐があり、午後の授業が始まる15分前に着いた

授業中に教室に入るとなると全員の視線が私に移り、とても気分がいいものではない

遅刻であっても、なるべく先生に話をつけられる時間が欲しかったのだ

 

昇降口にある私の靴箱に下履と上履きを入れ替える

この行為自体は今までに何回もやってきている

 

 

だけど、また妙な違和感を覚えた

 

 

周りをキョロキョロ見渡すと何故か私から目を逸らして、他人事と言わんばかりにしている人がいる

それも一人二人ではなく数十人という規模で

そして、私の視線がそれたと分かってからヒソヒソ話をしているグループもある

 

異常なほどに私を注目している

 

こんなこと今までになかった

この前まで私が居ないかのように目線を合わされたことはない

 

これは「変化」なのだろうか?

それとも「異変」なのだろうか?

 

 

周りの目が気になりつつ、私は廊下を急ぎ足で教室へ向かう

 

第三者からの微小な会話は聞こえない

私からの視覚は何の情報も得られない

理由がわからずモヤモヤする

 

廊下にいた時間は多く見積もっても精々5分

その5分が1時間ほどに感じるほど視線を浴び、身に圧迫感を与えられていた

 

それは教室に入っても同じで、クラスメイトの大半は扉が開いたのと同時に私に視線を向けられた

そして誰も私に声をかける様子もなく、各自日常の昼休みに戻っていく

 

 

気持ち悪い

本当に気持ち悪い

その上この感覚は嫌いだ

 

何か声を出すようなことも出来ず、私は扉の前で立ち尽くす

身体は動かないが

私の中のパンドラの箱の蓋が動き始めた

 

 

込み上げてきた感情

怒り

憎しみ

悲しみ

辛さ

苦しみ

 

何もかもが吹き出しそうになった時、私に近づいてきた人

その人は昨日、私に話しかけてきた

 

喜多見良子は私に小声で話しかけてきた

 

 

「......ねぇ......昨日の......女子生徒は......誰だった......?」

 

 

「......えっ?」

 

良子さんは私の顔を見てない

そもそも私の目の前に良子さんは居ない

私の隣を通り過ぎようとした時に一瞬だけ止まり、そのまま廊下へ去って私に囁いた

聞こえた言葉に反応できず、聞き返すように返事をすることしか出来なかった

振り返ると彼女の姿は見えず、私は彼女の後を追いかける様に教室からそそくさと出て行った

教室からの声が大きなったことには気づかなかった

 

 

 

彼女を追いかけて行くと廊下の端の誰もいない場所で止まっていた

遠くから見える姿は何か物思いに耽っているのか、窓から顔を出し空を見上げている

 

どんな言葉をかけたらいいのか分からない

今までに声をかけた相手は片手で数えられる程度しかない

経験がほぼ皆無な私には、ただただ近づくことしかできなかった

コツコツと聞こえてくる靴音は彼女に近づくにつれてだんだんと遅くなっていく

靴音に合わせる様に私の焦る心拍を落ち着かせていく

 

本当は今すぐにでもこの場を逃げたい

逃げれば緊張しない

逃げれば楽になる

この世界で喜多見良子は赤の他人で、何も気兼ねなく過ごすことができる

 

だけど、そんなことはできない

逃げる気持ちを必死に抑え込む

逃げるという選択肢が浮かんできたが、もう一つ昨日の彼女の笑顔も浮かんできた

彼女は自分に対して逃げなかった

だからこそ、私も逃げたくない

 

 

私は最後に下を向きながら小さく息を吐いた

これまでの気持ちをリセットして、私は顔を上げた

 

 

私は喜多見良子と対峙した

 

 

彼女は私の存在に気が付いたのか、私に視線を合わせた

彼女は私の顔を見つつも、何故か目が泳いでいる

そして何も言わずに左下へと視線を落としていく

彼女は私の顔を見ずに言った

 

 

「........何か用...?」

 

長い沈黙から放たれた言葉は全く気持ちが入っていない

力のない声は廊下に響かず、聞こえるのは私だけ

私は彼女の顔を見直して言った

 

 

「さっきの言葉、もう一度聞きにきた」

 

彼女もこの事であることはわかっているはずだ

言葉に修飾する必要もない

私の聞きたい大元だけでいい

 

 

「......昨日の女子生徒はだれ...?」

 

「昨日?」

 

「...........金髪で他校の女子生徒の...」

 

私はこの時、漸く思い出せた

昨日あったことの全てを

 

昨日、こころがこの学校に来て私を連れ出したこと

その時に呼び出したのが喜多見良子だった

呼び出された後の私はこころに引っ張られるままに校内を走り、そして校門の前で転んだこころに......頭を撫でてしまった...こと....

急な恥ずかしさに私の身体がビクッと反応してしまった

顔が火照り始める

 

(ダメだ、ここで恥ずかしくなったら目の前の質問にまともに返せなくなる)

 

必死になって表情を隠そうとした

冷静を保つために身体を強張らせた

もう、目の前の人には気づかれているかもしれないが質問に関しては関係ないこと

私は答えた

 

 

「弦巻こころ...さんだよ。花咲川女子高の」

 

しっかりと説明した

と言っても名前と所属校だけであったが...

それに、さん付けでの呼び方に詰まってしまった

まだ呼び捨てで呼んでから1週間も経っていないのに

もう、私の中でこころはこころだ

 

 

「.....弦巻......こころ....」

 

間が長い

この間の意味することはどう言うことだろうか?

もし、知らないのであればこんな間は必要ない

というか質問すらいらないだろう

 

 

もしかしたら、喜多見良子は弦巻こころを知っているのか?

 

 

「......そろそろ、授業だから...」

 

彼女が言ったタイミングで予鈴がなった

予鈴の長いチャイムが話途中の彼女の声を掻き消していく

彼女は下を向いたままで、口許から何を言っているかもわからない

チャイムが終わって彼女の声が聞こえた

 

 

先ほどと同じ様に、私の横を通り過ぎ最後に放った音は

 

 

「チッ...」

 

舌打ちだった

それも小さな音で

聞こえた音を追いかけたいが舌打ちの意味もわからず、私はその場から動けずにいた

 

彼女の会話の中で一度も笑顔はなかった

一瞬見えた彼女はとても複雑そうな顔だった

 

彼女は一体...?

喜多見良子は何者...?

 

現実世界の喜多見良子と

夢世界の喜多見良子

 

私が知らない二人の喜多見良子

その二人とも仮の姿なのかもしれない

 

その答えはこころに聞けばわかるのかもしれない

そして、喜多見良子と弦巻こころの関係がわかるのかもしれない

 

 

色々と考察をしていると、私はある音に気が付いたのだ

 

 

家から出る前の澄みきった青空が

今では厚く不気味な紫黒色に変わっていた

そして、降り始めた大粒の雨と共にゴロゴロと雷も聞こえる

 

(今日、雨の予報あったかな?傘持って来てない...)

 

などと呑気に考えていた

 

もう一つ音が鳴った

その音は本鈴のチャイム

午後の授業が始まる合図

 

私は遅刻しないように廊下を走って教室に戻った

 

 

午後の授業はつまらなかったが忙しく、他の事を考えている余裕がなかった

隣の席にいる喜多見良子と話が出来ずにいた

忙しさで昼休みの会話のことがだんだんと薄れていき

 

気がつくと

 

 

もう今日の授業も終了した

 

 

 

そして、今日もまたこころと花音との授業が始まる

昨日と同じく、リムジンが校門前に止まっているのを教室の窓から見えた

 

そのあと、喜多見良子とは会話しなかった

 

 

幻想の幻想が崩れ始めている事に気づくはずも無く、やれやれと思いながら、私は教室を後にした

 




段々と物語が佳境に入っています

ですが、まだまだ最終話まで書くことがあります
(一応、物語の今後の構成、結末まで考えております)

そして、バンドリではAfterglowのイベント始まりましたね!
相変わらず27フルコンできないのでEXトライマスターになれませんけど頑張ります!

限定☆4花音......?アタラナカッタヨチクセウ...

最後に、今回もたくさんの方々にお気に入り登録していただきました!

「虚和様」
「斎藤 一樹様」
「ゼロ1999様」
「薬袋水瀬様」

本当にありがとうございます!

これからも小説投稿頑張っていきます!応援をよろしくお願いします!

それでは、次の話も楽しみに待っててください!

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