記憶の片隅にある天国   作:パフさん♪

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前回は花音と打ち明けた所まででした
今回からは現実世界に戻ります

では第26話始めます


未来の音の発見
第26話 実現への始動


聞こえてくる

長い意識の奥から引き戻されていく

朝の音と共に

 

チュンチュン

鳥のさえずりが自分を動かし、新しい朝の喜びを奏でている

 

いつものように自分は朝の支度をする

ヨレヨレの制服に

生焼けの目玉焼き

薄いコーヒー

黒焦げ寸前の食パン

 

時間がない

もう朝礼の10分前で、走っても間に合うかギリギリのところ

私はいつもの10割り増しで登校路を駆け出した

 

 

 

「だから、この公式はこうとも表せ...」

 

退屈だ

退屈すぎる

今聴いている授業に全く興味がない

どうせ教科書を読むだけで理解できそうな内容

自分はいつものように窓の外を眺め、澄み切った空に想いを馳せる

 

今日あった夢の話を思い返す

 

喜多見良子に言い詰められたこと

弦巻こころに喜多見良子のことを聞いたこと

そして、松原花音に本音を言えたこと

 

(ほんと、長い1日だったなぁ...)

 

自分の中に残っている記憶の欠片

夢の中の自分が覚えている最重要の記憶

いつもなら殆ど伝わらないはずの内容が、こんなにも多く残っているというのは異常なのだ

もしかしたら、夢の記憶を残すことを自分が慣れてきているのかもしれない

そう思えると、夢の中の自分を褒めたいと思う

 

と、しみじみしていたら隣からトントンと音が聞こえた

 

 

「ねぇ、何考えてるの?」

 

と、小声で喜多見良子が聞いてきた

私は振り返る事もなく、ただ同じ大きさの声で

 

 

「何でもないですよ」

 

と返した

その声が聞こえたようで

 

 

「ふーん...」

 

と、先程よりも小さな声で素っ気ない返事だった

そのまま先生に気づかれるまで、ずっと空を見続けていた

 

夢の充実した時間が、今は憂鬱な時間へと変わってしまった

自分は何故か懐かしい気持ちがしていたのだった

 

 

 

「じゃあ、今日の授業は終了。明日はこの続きからするぞ。今日の授業が分からないときつい内容だからな!特にそこのお前!!明日はしっかりと授業を聞けよ?」

 

まったく...

数学の先生の攻撃的な発言には気が滅入りそうだ

先生の言葉を聞き流しながら、自分は長い溜息をついた

 

いつものように机に突っ伏し寝ようとした時、彼女は

 

 

「にしても、君はほんと怖いもの知らずだね」

 

「何がですか?」

 

「あの先生は学校の中でも、怒らせると相当怖いって噂だよ?」

 

「ははは...まぁ、そうなる前にはちゃんとしますよ...」

 

「と言うか君、端から見てるとおじいちゃんみたいだったよ?」

 

「...えっ?」

 

「だって、後ろ姿がまんま縁側でお茶を飲みながら、座布団に正座してほっこりしているおじいちゃんっぽかったよ?」

 

「...あ...うん...」

 

言われた内容がすぐに頭に浮かんでくるほど、適切な例え

そして自分も納得してしまうほど完璧なシチュエーション

正直、恥ずかしい...

 

 

「あれ?君とは同い歳だったよね?」

 

「...からかわないでください、良子さん...」

 

「ごめんごめん」

 

冗談を言われて、恥ずかしさが増したがなんだかほっこりした

理由なんて言わなくてもわかる

喜多見良子の顔は笑っていた

その笑顔に、自分は似たもう一つの笑顔を思い出した

二人とも満開の向日葵の様に生き生きとしていた

 

 

「あっ、そういえば...」

 

「どうかしました?」

 

「いや...この光景、なんか見覚えがあるなって...」

 

「???」

 

急に彼女は硬い顔に変わっていき、空気が変わっていく

その雰囲気に飲まれない様に、自分は声をかけた

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あっ、ごめんね。ちょっと考え込んじゃったね」

 

「まぁ、良子さんにしかわからない世界がありますしね」

 

「...そうだね」

 

と、何かわかったかの様な口調で言ったはいいものを、何もわかっていない

今の表情を見ているとわかった事よりも、もっと疑問が強く残ってしまったからだ

 

彼女の顔は泣きそうだった

だけど、表情は柔らかかった

 

 

 

 

「じゃあ、今日から本格的に始めようか!」

 

「ほー...君が、喜多見さんと知り合いだったとはね」

 

ただいまの時刻、17:30

今日の授業が終わってから約1時間半

そして、吹奏楽部の活動が終了した頃

漸く自分の活動時間が始まった

 

この音楽室にいるのは、自分と喜多見良子と音楽の先生

他の吹奏楽部員は全員帰っている

 

 

「先生、良子さんは最近の自分を見ていたようで、手伝ってくれるそうです」

 

「ほー、なんとまぁ、いい助っ人じゃないか」

 

「先生!私もこのドラムのこと気になってて。いつかは、このドラムを吹奏楽部でも使いたいなって思ってたんですよー!」

 

音楽室の一室にある、ボロボロのドラム

もう誰の目にも留まらなかったガラクタ

それでも、自分が目につけてドラムを修理したいと言ってから、もう一人興味を持ってくれた

 

 

「じゃあ、始めますか」

 

「よろしく頼むよ」

 

「まずは、今日の放課後に図書室から借りた本なんですけど...」

 

と、自分の鞄から一冊の本を取り出す

その本は昨日探していた本だった

昨日には見つからなかったが、今日見つけた絶対必要になる本

 

 

「これは...?」

 

「わっ!これ君が探して来たの?」

 

「はい、結構...たいへんでした...」

 

本のタイトルは『ドラム 入門編』

年季の入った本で、約10年ほど前に初版が出ている

図書館でも、バンド関連の本にはなくて、なぜか大百科関連のところにひっそりと隠れていた

正直、こんな古い本に活路を見出せたとは思わなかったが、本の内容を読んで自分の意見は一転したのだ

 

 

「この本の最後の方に、ドラムの修理の仕方が書いてあります」

 

「うわっ、こんなに詳しく載ってるんだ...」

 

「こんな本、私が赴任して来てから5年近くいたが...見た覚えがないな...」

 

先生も、喜多見良子も驚くのはわかる

何故なら、この本のドラムの修理のページだけで6ページ近くもある

ドラムの入門者には、殆ど必要ないとは思うのだが...はっきし言って、これは楽器を修理する人の入門編みたいな感じだ

 

 

「で、このドラムだと...まず最初にここから始めるそうです...」

 

「こ、これは?」

 

「はい、大体の部品は劣化して見た目が悪くなっているだけで、あとは太鼓の皮つまりドラムヘッドを取り替えるだけですね」

 

この本に書いてあるのを読んでいると、普通は楽器店で修理をしてもらうのが普通であるそうだが、頑張れば出来るらしい...

ちょっと胡散臭いがこれで、自分の手で修理をすることは実現できそうだ

 

 

「で、先生にはこのドラムセットに合いそうな、部品を見つけて頂いてもいいですか?」

 

「私がかい?」

 

「はい、自分は全く音楽知識がないので、どれが良いのか、どれがこのドラムセットと相性が良さそうなのかわからないので」

 

「じゃあ、明日までに行っておくよ」

 

「お願いします」

 

先生には1番の適役だと思うお仕事だ

と、いうかあまり人が多い楽器店に自分は行きたくなかったという理由もあるのだが...

そして、もう一人にはもう一つのお仕事を任命する

 

 

「で、良子さんにはドラムのスティックをお願いします」

 

「ドラムスティック?」

 

「はい、さっきこれの修理が終わったら吹奏楽部で使いたいって言ってましたよね?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「なので、1番使いやすそうなスティックを吹奏楽部員の良子さんに探してもらうのがベストだと思うのです」

 

「...そう、かな?」

 

「はい!これから先、何年もこのドラムを吹奏楽部で使って欲しいと思っています。それが私の目標である『未来の音』を奏でる事だとさっきの話を聞いて思ったのです」

 

「『未来の音』かぁ...うん、わかった、じゃあ先生と一緒に行ってくるね!」

 

「お願いします」

 

そう、最初は自分がこのドラムを叩くだけでいいと思っていた

だけど、それだとその一回だけでこのドラムの出番がなくなってしまう

その後、私の他に使う人が現れない可能性が高い

 

それに比べて、吹奏楽部でドラムを使ってくれることになったら、その伝統が今後にも繋がってくれる気がした

それは未来に音を繋げて行ける

このドラムがずっと誰かと一緒に過ごせる

そして、ドラムの入った吹奏楽部の演奏を聴いて、笑顔になってくれるのであればいいと思う

 

そうすれば、先生の笑顔だけではなくて

吹奏楽部員、それからこの学校の人達、それがどんどん広がっていけば、

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そんな事を無意識のうちに考えた

自分の中に眠っていた、気持ちが溢れ出て来たのか、それとも私の記憶の一部の影響でこうなったのか

普段の自分ではありえない行動、言動だった

 

 

「じゃあ、気をつけて帰りなよ」

 

「はい、先生」

 

「君も、今日はありがとうな」

 

「いえ、自分が言い始めた事ですから...」

 

作戦会議が終わり、もう最終下校時刻

自分と喜多見良子は帰路についている

良子とは途中まで一緒だったが、その間自分に色々な話をしてきた

 

「自分がそんな積極的な人だとは思わなかった」だとか、

「普段の自分とさっきの自分とは別人だった」とか

「とっても頼もしく見えた」だとか

 

彼女からの話は全く尽きそうになかった

というか、自分のことにこんなにも話をされたのは初めてで、少し戸惑いもあった

それに、この全ての内容に自分自身も首を傾げてしまっていた

なので、曖昧な相槌しか打てなかったのだった

 

 

いつものように一人になって、家に着くまでの短い時間で色々と考えていた

授業中に考えていた3つのことに加えて、今日の自分の変化について考えていた

 

前の自分と今の自分に変化があることは、喜多見良子にわかるくらい変化して来た

その理由は、夢の中でこころ達によって変われるようになったと分かっている

ということは、夢の喜多見良子と現実の喜多見良子が違うという理由も、もしかしたら同じなのかもしれない

つまりは、誰かによって変わったということで、その誰かとは多分こころなのだろう

過去にこころと何かあったと考えるのが自然だ

 

そうなると、一つ矛盾と言うか、辻褄が合わなくなる

自分はまだ、現実世界でこころを見たことがないのだ

現実世界にこころがいないとなるとさっきの仮定は、全て水泡に帰してしまう

しかし、普通はそんなことない筈だ

夢の中にしか居なくて現実世界ではいないなんて、それこそ都合のいいこじつけっぽい

その辺は現実にいる喜多見良子に聞けばいい

 

そんなことを思いつつ、一ついい報告が出来そうだ

夢の世界への一つの吉報

それは、こころ達のおかげでクラスメイトと仲良くなれて、自分も世界を笑顔にする方法を見つけたこと

それが今日一番の発見点であった

 

 

帰宅してからの行動に変わりはなく、そのまま布団に潜り込む

いつも以上に疲れた身体はもうなんの気力も出ず、そのまますぐに眠ってしまった

意識が遠のいていき、今日もいつもと同じように夢の世界への扉を開ける

 

しかし、その扉が開いたと思えばまた同じ扉がループする

夢の世界への侵入は許してくれない

何故か自分をずっと拒否され続け、そのまま次の日の朝を迎えた

 

一度も

私になる時間ができず

自分は目覚めた

 

 

こうして、一つの違和感がまた生まれてしまったのだ




久々の現実世界編でした
やっと、現実世界においての目標達成に向けて動き始めしたね!
正直、私は楽器について全くの素人なので、ネット検索で色々調べながら書いております。なお、現実ではドラムヘッドを張るのは素人には出来なさそうです(小説だから!これ小説だから!その辺は許s(ry

あと、またまた投稿が遅くなってしまってすいませんでした...
最近はサッカーW杯に、地震、大雨となにかと忙しく、執筆する暇がありませんでした...
地震などの災害は私の家には大して問題はありませんでした
ただ、今後も用心しないといけませんね

バンドリではRoselia2章に続き、Pastel* Palettes2章が追加されましたね!
みんな可愛くて、私ももらい泣きしそうでした...千聖ちゃんの支えになってあげたい...
それに、ガルパピコの配信もありましたね!あの破茶滅茶感大好きです!
後、皆さんはバンドリカバーCDは買いましたか?私は発売日に買いました!薫さん×こころの『ロメオ』がかっこよすぎて...(ry

最後になりましたが、今回は長い間待たせてしまいましたことについて改めてすいませんでした
投稿して居なかった間に、この小説を「お気に入り登録」してくださった方がおられるようなのですが、私の管理不足で紹介させて頂けませんでした...
これからは、毎週日曜日までに投稿できますように頑張りますので
これからもよろしくお願い致します!

では次の話も楽しみに待っててください

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