今回で、現実パート最終回です!
それでは、第34話始めます
喜多見良子に連れられてたどり着いた場所は、スタジオと書かれたプレートがある扉の前だった
その場所は、周りの風景とは全く違っているのを感じとった
工房という無機質な壁の中で、スタジオという温もりのある木の壁
扉についてある小さなガラス窓が、自分達を誘導していく
この隙間から、明るい空気が漏れ出しているように感じた
その場所は、小さい頃に憧れていた場所
自分の夢が詰まった場所だった
それが今目の前にある
本当は、今の自分の気持ちを抑えることはできない
今の自分は幼少期に戻ってしまいたいと思うくらいに興奮している
小さな窓にジャンプして飛びつき、
小さな窓に顔を埋めて、
小さな窓の先の宝箱を覗き込む
こうやって最高の時間を永遠と感じていたい
それ程この場所は、聖域に近い天国であった
だが、この場所に近づくまでこの気持ちを殺し続けていた
理由は簡単だ
この気持ちを出してしまうと最後、自分は自分ではなくなってしまうのだ
...最悪、自分はここで死にたくなってくるのだ
辛いのは一人で充分なのだ
手が震え始め、手から冷たい血が滴るかのような汗が流れ出る
こんな気持ちに浸っていると、自分にはこれまで足りなかった大きな刺激を感じ取った
そうだ、今の自分は一人じゃなかった
自分には今、彼女の温もりを直接受け取っているのだ
自分の手にある、友達という温かい希望がある
喜多見良子の包まれるような手
その唯一無二のカタチに、自分は自然と怖さを失っていった
「じゃあ、お邪魔しまーす!」
と、平常時に戻った自分の耳に元気な声が入ってきた
自分はそのまま牽引されるが如く、勢いよく開いた扉の中に引き連れられた
「...思ったよりも狭いですね...」
自分は、真っ先に天井を見上げた
この部屋の広さを確認するには、一番手っ取り早い
そして、わかったことは自分の頭を小さく左右に動かすだけで天井の角がすぐに見えたのだ
「そうだねー、でも私も初めてこういう場所に入ったから分からないね」
「あっ、普通はそうですよね」
そうだった
いくら吹奏楽部で音楽を嗜んでいたとしても、この場所にたどり着いくことはないだろう
自分の学校は吹奏楽の強豪校ではない
そして、自分は部屋の真ん中に目線を合わせた
テレビで見たスタジオの風景とは違っていて、真ん中に机が置かれていた
その上に、多くの白い紙と雑誌が置いてあった
近づいてよく見ると、白い紙は収納棚に入っており、『邦楽』『洋楽』などジャンル分けがされてるラベルが貼られていた
「わぁ!いっぱい譜面あるね!私が吹いたことのある曲はあるかなー?」
と、喜多見良子は真っ先に棚を開けていく
それも一つではなく、全て一気に
勢いよく棚が手前に出された反動で、机の上に置かれていた雑誌が自分の足元へと落ちてきた
そんなことを気付かずに喜多見良子は鼻歌まじりに物色する
やれやれと軽く頭を左右に振ってから、床に落ちた雑誌に目を向けた
雑誌の数は積まれている時に比べ多く感じた
なにせ、自分の足元が隠れてしまうほどに積み上がってしまっていた
その多数の群衆の中で、一際注目を浴びたそうに光っている者を見つけた
唯一、開いてしまった雑誌があった
そして、見開きには大きな写真が印刷されている
この人達は、自分が子供の頃に好きだったバンドだった
小さい頃に見たバンドメンバーが映っていた
自分の記憶の中の常に付随してくる厄介なトラウマを排除しつつ、バンドメンバーの顔を捻り出す
...そんな無駄な行動が出る前に、分かった
この写真の人達の顔は、朧げの中にある顔とは若干変わっていて、少し老けているように見えた
それもそのはず、写真の隣は大きく見出しに
『人気バンド 年内に解散!』
と悪目立ちしていた
(...............)
自分は絶句してしまった
自分が音楽を捨てた日以来、ずっとこの手の情報を見ようとはしていなかった
そう、初めて知った
自分の憧れが消えていたことが
この事実に、思わず膝を床に崩してしまった
そしてそのまま上半身が下に向き、手を床についた
雑誌が、先ほどよりも近く見える
ただ、最初の光り輝いていた者は
今では、黒く影に落とした闇の底の者と変わってしまった
自分の頭が雑誌に届く光を全て遮り、見える者はボヤけた人らしき輪郭のみ
目は、自分から焦点を失っていた
グシャッ...
こんな音が床からしていた
その音が自分には届いていなかった
しかし、自分に気にも触れていなかった人は気づいたようで
彼女は、
「ん?どうしたの?」
と言って、振り返っていた
彼女の視界から自分は消えている
そして、聞こえた音は少し下の領域
地獄に近い場所からしたのだ
そのまま彼女の視界は足元に...
「どうしたの?大丈夫?」
彼女の視界からはどう感じ取れるのか?
想像するに、
床に無造作に散らばった雑誌に
一人の男が四つん這いになって生死している状態になっている
この状態を彼女は「大丈夫?」という一言で済ましている
そう、この状況はただの腹痛にも見えるのかもしれない
そう考えられる余裕はやはりなかった
自分はこころがみだれていたのだ
「...ちょ......大丈...おー......これいる...?」
(はっ...!?)
声が僅かに侵入してきた
その声のした方へゆっくり振り返った
動き方は滑らかではなかった
全く動揺を抑えきれない
歯車が噛んだかのように動いた
(あっ...ここは天国か...)
と思うように、目から見えた光景はこの世の物とは思えなかった
天井からの照明が直接目を焦がす
透き通った真っ新な純白
そこは自分が経験したことのないくらいの天国のような概念を感じた
その色の中を黒い影が入っていく
とても邪魔な奴が乱入してきたと少し目を細めた
細めたことで光量が調整されたのか、焦点が黒い影の方へ変わった
まだよく見えないが、おそらくこれは顔だ
鼻らしきものに口らしきものが見えた
自分にはこれが悪魔か天使に見えた
その答えはすぐに出た
「大丈夫...?ハンカチ貸そうか?」
「...ぇ......」
(ハンカチ...?)
よくわからなかった
だけど、声が明瞭に聞こえた
その声の方に自分は近づきたいが一心に、
首しか動かしてない状態から
上半身を捻って影を中央にもっと大きく見えるように動いた
その結果、自分の顔に何かが触れた
柔らかい何か
サラサラしていて
少しこそばゆい何か
その感覚が、顔の一点ではなく複数の箇所で感じ取った
そして、真っ暗だった顔が...
柔らかい物のいろんな箇所の隙間から光が零れてきた
顔に光が入り込んでいく
それと同時に、声が色付けていく
「...やっと気がついた...おはよう??」
(か...神が...)
「まだ倒れてるのかしら...?どうしてこんなところで倒れちゃったの...?」
(ああっ...)
「こころ...」
何かの幻覚を見ていて、自分は小さく呟いた
...ピトッ
「んー...熱はなさそうだね...」
「ヒャヒュイ⁉︎」
そこで遂に目の焦点がしっかり合った
そこでまた変な声が出た
だって普通は出ると思う
喜多見良子が、自分のおでこに手を当てていた
そう...自分の顔に触れていたのは彼女の髪だった
思いっきり驚いた瞬間、自分の腕の力と腰の力が抜け、一方向の力に身体が回った
自分の体はそのまま横向きに転がった
顔から出るとても暑い熱が大量に生産されていく
瞬きの数が異常に増える
正常値には戻りそうにない
そんな状態でも、彼女の顔が見たくなっていた
自分はもう一度同じ回転向きに転がって、仰向きになった
真っ先に見えたのは彼女の顔
笑っていた
黒髪に包まれている中で太陽があった
こんな状態で、何も言われずに
彼女に顔を拭かれていた
「すっごい汗かいてるね。私のハンカチで軽く拭いといたけど、まだ使うことあるかもしれないね。お腹でも痛いの?」
「いやいや!滅相もありません!大丈夫です!」
そう言われて、真っ先に恥ずかしさが勝ってしまった
あの幻影とはまた違う答えが出てきた
でも、このまま彼女の顔に包まれた....い...
「はい、これ私のハンカチ。あとね、早めにそこから移動したほうがいいよ?雑誌がグチャグチャになっちゃうから...」
「雑誌......?あっ、やべっ!」
そう言われて、私はすぐに上半身を起こした
それから、手をついて勢いよくジャンプして立ち上がった
立ち上がった途端、床に黒いハンカチが舞い落ちていた
多分、彼女が自分のおでこにハンカチを置いたのであろう
何もそこに置かなくても...と思うのだが、彼女なりの優しさなのかもしれない
そのハンカチを私は、ゆっくりと持ち上げた
真っ黒のハンカチ
少し湿ってはいたが、人の温もりがあった
そのハンカチを握りしめて、彼女の言ったことに反応を返した
「...さて...どうしましょ...」
「...でもまぁ、この本は破れてないし。他の本はほとんど開いてなかったから、折れたとかなさそうだね」
「ご、ごめんなさい...」
「謝る必要はないよ。元々は私がばら撒いたみたいだしね」
「でも、これは自分が...」
「はい!反省は後!一緒にシワ直しとか、折れた本とかないか確認してもう一回机に戻そう!」
「...そうですね」
こうして自分達は、スタートラインに戻るところから始める必要性が出てしまった
床に散らばって、自分の体重に押し潰された雑誌を一冊づつ不備がないか確認しつつ、机の上に戻す
一冊、一冊と...
そして、自分の作業は終わって、最後の一冊
自分がこうなった雑誌を彼女は拾った
その雑誌を彼女は見てその詳細を話してくれた
「あっ懐かしいなぁ。このバンド私も好きだったなぁ...もう2年くらい前かな...」
「良子さん、知ってるんですか?」
「うん。私達が中2の時に突然解散しちゃったんだ。結構大きなニュースになって、私はとっても悲しかった覚えがあるよ。でも、中学の合唱曲でこのバンドの曲歌ったからすごくいい思い出を最後に作れたなぁ!」
「そうだったんですね。じゃあ、7年くらいバンド活動してたんですか...」
「うーん、正確には9年だったかな?でも、なんで7年だと思ったの?私は解散年しか言ってないけど?」
「ちょっとした予想ですよ」
「あー勘を試したのね!惜しかったねぇ」
「はははっ」
誤魔化す理由はなかったが、なんとなく隠してしまった
それにしても喜多見良子もこのバンドが好きだったのか
なんだか、彼女の好きなことを初めて聞いた気がする
楽器が好きなった理由も聞いた気がするが、あの時は向こうから話してきたことだった
今回は、偶然かもしれないが自分が開いた雑誌に注目しなければこんな発見はなかっただろう
にしても、解散したのがそんなに最近だとは思わなかった
本当は自分の予想では小5くらいの時には解散していたのかと思っていた
それが、思った2倍くらい活動されていた
その間、一時期の私や喜多見良子みたいに多くの人を虜にしたのだろう
そう思うと、バンドというのはとても素晴らしい物だと思えた
それからの自分達は対照的だった
自分は必死にいろんな楽譜を見て回った
自分にしっくり来て、二人が笑顔になりそうな曲
そして、一番大事な『未来の音』を奏でられそうな曲
その二つの条件が合う曲はなかなか見つからなかった
邦楽、洋楽、童謡、協奏曲、合唱曲...
どれもこれも何とも言えないものばかりだった
前者は合致しそうな曲は多かったのだが、後者の条件が厳しかった
自分にとって、『未来の音』というのが抽象的すぎるのだ
自分は、自分に演奏できそうという難易度を蔑ろにして、必死にしっくり来そうな曲を探した
途中、例の雑誌も見た
バンド解散の写真が掲載された雑誌
その雑誌には楽譜なんて無いと思ったのだが、そのページの5、6ページ後に初心者にもできるパートごとの譜面がついていた
ギター
ベース
キーボード
そして、ドラム
曲は、バンドの代表曲
歌詞もついていて、全てが揃っていた
だが、これに魅力を感じなかった
いや、正しくいうならこれを演奏できたとしても二番煎じになるだけだから
これでは、自分にとっての『未来の音』となり得ない
今日、この曲は『過去の音』になっていた
頭を掻き毟って、どんどん楽譜に目を通す
この作業を6時間ずっと続けていた
その際、一度もこのスタジオを出ることはしなかった
途中、汗を掻いた時は良子から借りたハンカチで拭いた
彼女に返そうかと思って言ったのだが、
「またいつ体調悪くなるかもしれないから今日は貸しておくね!」
と言われて、ありがたく借りている
必死に、最後のゴールに向けて試行錯誤を繰り返していた
喜多見良子はというと、自分が何も声を掛けないせいで先生に言われた任務を果たせていなかった
それでも、喜多見良子から自分が見ている楽譜を見て
「これは簡単だよ!」とか
「この曲私演奏したことあるよ!」とか
声を掛けていた
自分はその声を軽く聞いてまた作業を続ける
そのせいもあってか、段々と彼女の声は無くなっていた
たまに、後ろを振り返ったら
喜多見良子は自分に背を向けて、楽譜を読んでいた
小声で「シ、ド、ラ」とか言っていた
彼女には明日がとても大事な日なのだ
高校最初に大きな大役が待っている
その日の前日に自分達の方を頑張っている
本当に彼女はたくましい
とても真似できそうにないが、とても羨ましい後ろ姿だった
それから、探し続けて6時間
スタジオに先生が現れた
「おーい、二人ともドラム直したぞー!」
「えっ!?」「はーい!」
自分が思ったよりも早かった
今日の帰りは夜21:00とかになるものかと思ったのだが、腕時計を見ると16:00だ
昼食も食べてない
黙々と資料を読み耽っていたのだ
時間を忘れて作業し続けて、一つの答えを見つけ出した
「じゃあ、とりあえず二人とも私の車の前に来てくれないか?」
「はい、すぐ行きます」「わかりましたー!」
自分は楽譜を整理し、棚に直してからスタジオの扉を回し出て行った
「今日は本当にありがとうございました」
「いいって!おかげ様で最高にいいドラムに仕上がったぞ!」
「本当ですか!それでは、楽しみにしてますね」
「おう!」
自分がいない間に作業は終わっていたようだ
もう修理を終えたドラムはカバーに入れられていて、車に詰め込まれていた
自分はまだドラムの状態を見ていないが、先生と友人さんの誇らしい顔を見れば分かる
全て万事解決したのだと
そちらの作業は何も不手際がなかったとしたら、自分の方には大きな不手際があったのだ
「それと...大変申し訳ないことをしてしまったのですが...」
「ん?どうしたんだい?」
「机の上に置いてあった雑誌...思いっきり踏んでしまって...本当に申し訳ありませんでした!」
と言って、朝のお辞儀よりもスピードを速く、角度を深く下げ切った
完全に私のせいなのだ
「あーあれかー...いいよいいよ、あれは俺の趣味で集めたやつで、余った昔の本だからな!それよりも、いい曲は見つかったのかい?」
まさか、何も怒られずに済むと思っていなかった
そして、主の問いに自分は同じ速度で顔を上げ
「はい!おかげさまで、演奏したい曲を見つけました!」
と高らかに宣言した
「そうか!そうか!それなら良かったぜ!」
と、主人の喜んだ顔を見れたのだ
自分の中に残っている
『世界を笑顔に』
この目標を、初めて無関係な第三者にできたのだ実感した
自分にもできる、小さくて大きな目標
その喜びを自分は忘れないだろう
この喜びを、隣で自分と同じようにお辞儀していた彼女にも届けたい
そんなことを思った最後の挨拶だった
車に乗り込み、先生による帰りの送迎が始まった
自分の隣にある窓から、眩しいくらい暑い赤い太陽が私を照らす
日はもうすぐ夜になることを告げていた
その太陽を自分は眩しいと感じることなく、自分は気づかぬうちに眠り込んでしまった
こんなにも物事に没頭したことに、今までの自分の身体にとってはオーバーワークだったようだ
誰もいない部屋に、自分は帰ってきた
あれから、自分が起こされるまでの経緯を軽く話すと
学校に着いても自分は眠っていた
先生と喜多見良子は、自分を起こすことなくドラム部品を音楽室に戻していた
30分後直し終えた二人が車に戻ってくると、自分はまだ眠っていた
そのまま先生と喜多見良子は車に乗り、喜多見良子の家に向かった
そして喜多見良子の家に着いて、彼女は帰宅した
それでも自分は起きなかった
その後、車は自分のアパートに着いた
漸くそこで、自分は起こされたようだ
正直まだ眠い
それから先生に、寝ている間に起きたことを伝えられ
眠い目を擦りながら、自分は車から降りて先生に軽く挨拶をして玄関を開けた
靴を脱いで、食卓の椅子に座った
何もしたくない
ボーッと座っていたい
そんな間延びした気持ちが消えるかのように、自分は布団を干していたことを思い出した
自分は、重い腰を上げてベランダへと向かった
布団をいつもの位置へ敷いた
そして、もう夜18:00
日は完全に落ちており、空は暗くなっていた
それでも今日一日はずっと太陽が出ていたのか、布団には確かな温もりがあった
その温もりに、自分は負けてしまった
そのまま布団に倒れ込むようにうつ伏せになった
黒のハンカチをポケットから取り出し、枕元に置いた
これが自分が最後にできる気力
そして、自分の長い一日が終わった
しかし、これからも長い一日が始まるのだ
今度は自分ではなくて私が
黒がクロに
私の演奏したい曲を、ハロハピの曲で奏でたい
『未来の歌』を私は探し出す旅が始まるのだ
現実パート終了です!
これで第4章も終わりました!!
なんだかんだで現実パートが長くなってしまいましたけど、とても楽しく書いてました!
次からは夢パートなので久々にハロハピメンバーの会話シーンとか書けると思うとめちゃくちゃ楽しみなんですよね!
バンドリでは、『ウィーアー』追加されましたね!
とっても好きな楽曲だったので嬉しかったです!
そして、この小説をお気に入り登録してくださった
「柑橘系 様」
「ニキサンズ 様」
本当にありがとうございます!
なんせ、お二人は私のツイキャスから来て登録されていますのでそちらでも感謝です!
それでは、第35話を楽しみにしてください!