今回は夢の中であの人と再会します!
では、第36話始めます
私を乗せたリムジンは大きな門を通過した
そう、ここは弦巻家の豪邸である
ここに来るのは二度目
前回に来た時は5人の女子高校生と出会ってバンド結成をした
私にとっての神聖な場所と言っても過言ではない場所だ
相変わらずとても広々としている
私の住んでいる場所よりも広い庭に、
学校の昇降口よりも広い玄関口
私が知っている場所と比べると普通のものがミニチュアにも思えてしまう
私がもしこの敷地の中で住んだとしたら、とても退屈な日々を送るのだろうとありえない状況を考えていた
送迎車は止まった
私は勝手に開いたドアからゆっくり降りた
屈み状態から立ち状態に変わると、玄関口のドアも勝手に開かれていた
そう...ここからが本番なのだ...
長い廊下を黒服の人と共に進んでいく...
周りには私達以外誰もいない
コツコツコツ...と軽く響く靴音
大きな窓から差し込む淡い光
床にひかれた赤い絨毯
寂しげな空間を慎ましい程度に色つけしていた
そんな場所を私は緊張の面持ちで歩いてた
顔を下に向け、誰にも聞こえない声で独り言を呟いていた
こころに会いたいという気持ちは全面にある...はずなのだが、いざこころに会えるというこの空間になった途端、心の中で迷いを生じさせた
私はどんな顔でこころと会えばいいんだろうか?
笑った顔がいいのか、申し訳なさそうな顔がいいのか、はたまた悲しい顔をしたらいいのか
よく分からなくなってしまった
1週間ぶりという長く短くもない期間が邪魔をしてくるのだ
再会という行動を経験していない私にはこれが初体験になる
そう、これは私が成長するための一歩になるのだ
コンコン
気持ちの整理をしている最中に、新しい音が木霊した
隣にいた黒服の人が急に立ち止まり、扉をノックした音だ
ただ、立ち止まる際になんらかの声をかけてくれたのかは分からないが、私は聴きそびれてしまったようだ
コンコンという音の前に、ドンッという音と頭に強い痛みを感じていた
「クーーーーローーーー!!!!」
「ぶふぇらっ!?」
全く理解できていなかった
この状況を
この空気感を
この感触を
気がついた時には、手とお尻を床に着いていた
そして、生暖かい感触をお腹に
柔らかい触覚を顔に感じていた
まるで、天使に包まれた最期の人になったかのように、ただただすべてを受け入れてしまうかのような感覚だった
顔を上げると、目の前を金色の髪が覆っていた
微かに香る、甘い匂いに吸い込まれそうになっていたが、その金色は一気に動き始めた
そこには、全く変わらないとても素敵な笑顔を私に向けて放っていた
幼い少女の憂いが全く感じない笑顔に、内心で考えていた悩みを一気に吹き飛ばしてくれた
「や、やぁこころ。元気だった?」
と、その笑顔に対しての聞かなくてもわかる質問を返した
そうすると、少し目を開き、細め、眉を少し垂らしながら返してくれた
「ええ!とっても元気だったわ」
と、いつものように返ってきたのだ
ただ、この表情は私にとって見たこともない表情で
先程の幼さがの残る無邪気な顔が
今は大人びいて蕩けた顔に変わっていた
普段は見ないこころの表情をこんな間近に見ている私には刺激が強すぎた
私目線には、ゲームでキスをする前の待ち状態のヒロインが思い浮かんだ
とても柔らかな表情を目の前に見て、こころが女性であるという認識をせざるを得ない
私の心の中は無性に昂り、身体が熱に帯ていく
手が焼け落ちるかのように
頭が沸騰してしまうかのように
心臓が爆発してしまうかのように
私が全て消えてしまうかのように、勢いよく血が流れていくのを感じた
さらに、自然と視界がボヤけ
鼻腔を大きく開け
骨から伝わる異常なまでの心音を聞き続け
口の中の水分が抜けていく
私の身体を私では制御できなくなっていった
もう、私の中にある理性が私と同じように溶け落ちていく
あと残るものといえば本能だけだ
本能の赴くままに、私を支配されるだけ
絶対に避けられない運命...
私の中から消えた
全ての感情が
全ての思考が
全ての恥が
徐に、目を軽く閉じ...
鼻から大量の空気を吸い切り...
口先を軽く前に尖らせ...
歯を閉じ呼吸を止め...
身体を前へ...
頭を前へ....
前へ...
前へ...前へ
前へ
ゴッチッンンン!!!!
(イッタアアアアア!?!?)
鈍く長引く痛みを感じ取った
その衝撃が、一点から熱と共に伝わった
その一撃で私の理性が水を得た魚のように瞬時に呼び起こされた
(ハッ!?今何をしたんだ!?!?)
その疑問が真っ先に私の中から湧き上がり、一気に目を見開いた
正直に言おう
全く笑えない展開が待っていた
「あわっ!?ク、クロ!?!?」
こ、こころが...私の眼前にいて...こころの眼が...真ん前に...そして涙目で...こころ...こころ...私は...
今起きたことが全く掴めない
私は私ではない間に何があった
こころが泣いている!?
こころを泣かせたのは誰だ!?
こころに何をした!?
こころにひどいことをしたのは....
ここまで瞬時に頭の中で紐付け終わった
そうして一つの結論に行き着いたのだった
そうだ、こころを傷つけたのは私なのだ
私が...こころを...
こころを気づけた...
お前が!お前が!!
(キミモナカマニイレテアゲル
アナタイツモヒトリダケドツラクナイノ?
アンタ、オレノトモダチヲケガサセタ
オマエナンカココニイナケレバヨカッタンダ)
昔のトラウマを自分に重ね合わせていた
私は何かしようとしたら、いい方向に進まなかったことばかりで
周りから厄介者扱いされていた私は
こんな私は...
大っ嫌いだ!!!
こんな奴!!
こんな奴!!!
こころが私から少し離れ、おでこを軽くさすっていた
ただ、その映像が見えているわけなかった
今見えているのは、小さい頃に無理に周りに合わせようとしていた過去の私だ
同じ年頃で遊んでるグループに私が勇気を出して声を掛けたあの時
あの一瞬、仲間に入れてもらえた嬉しさが私の中にはあった
しかし、それは1日と持たなかった
そう...私が集団に入ったばっかりに、一人を傷つけてしまった
私が声を掛けなければ、彼は怪我なんてしなくて良かったはずだ
そこから私を睨み、遠ざけた人達
その幸せからの転落の過去を見せしめに見せられていた
正直逃げたい
逃げたかった
しかしそれ以上、上回る感情があった
自分を殺してしまいたいという強い意志
後悔から来る嫌悪
嫌悪から来る殺意
殺意から来る逃げ
こうすれば、楽になれる
こんな思いが強ければ、出てくる行動はひとつだけ
周りに邪魔が入らない、今だから出来ること
目の前にある空間で出来る最善の手を
私は手を床から持ち上げ、首元へ近づけていく
躊躇なんてない、本気で力を目一杯入れ...
ピトッ...
「んー...クロはまだ熱があるのかしら...?」
(!?!?)
首元数センチまで手が近づいたところで、動きが止まった
そこで私の中の負の思考が一時停止させられた
手に入っていた力が自然と抜けていき、力を失った手が腕と共にもう一度地面に戻されていった
まるで、スタートラインを越えた陸上選手がトップスピードになる寸前に鳴らされたフライングの知らす音のように
彼女が、私を掌一つで止めてしまった
天使は、犯罪者の灼熱の生命線を手に取り図っていた
無意識な女神が、愚者を操ろうとしていた
弦巻こころが、私のおでこに手を置いていた
私の体温を測る、こんな些細な行為だけで自分(過去)から私(現在)を見つけ出したのだ
「うーん...クロ?少し熱っぽいわね?」
こころの声が、他の雑音を掻き消して私の中で突出して聴こえてくる
もっと大袈裟に言えば、こころの声しかこの世界に音という概念が存在していない
この世界に確かに存在した救いの手だった
こころが私の体温を手で測ってきたのだ
私の体温よりも熱く
私の気持ちよりも厚く
私の存在よりも暑くて
何より天然だった
こころの疑問文に私は答えを出せなかった
目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした
驚くわけでもなく
逃げるわけでもなく
振り払うわけでもなく
受け入れるわけでもなく
ただただ手の感触を感じているだけ
これが曖昧な私の表現方法だった
受け答えができないぬいぐるみに、一人の少女は大切なものを独り占めにするかの如く、もっと具体的な行動に移行した
コチン...
小さな乾いた音が私のおでこに流れた
優しく、暖かな感覚
名状しがたいこの雰囲気
私は小さく目を開いていく...
真っ暗闇の中に、二つの目が私を見透かしていた
異常なほどの怖い感覚が、私の目を襲った
私は咄嗟に目を大きく見開いた
先程まで遮られていた光が、今度は大量に目を通していく
そこで、クロ一色の中で金色に光るカーテンが視界の淵を囲んでいた
私の世界を全て取り囲んでくれる地平線
黒の世界は、最後には綺麗な金色に変わる
夜が必ず明けて、太陽が登り朝になるように
こんなことを考えているうちに、普段の私に戻ってきたようで
まともな思考ができるようになるまで回復していた
金色のカーテンが金髪であることを
次に、この目がこころのであることも
そして.........!?
「うーん...やっぱり熱があるのね!クロ、もう少し休んだ方がいいと思うわ?」
「ひゅぇ...!?」
(!!!)
こころは、私のおでことこころのおでこを合わせていた
相手の体温を直接計る方法
それは、自分の体温を計る場所と相手の体温を計る場所を直接比較する原始的な方法だった
確かにこれ以上簡単な方法はないだろうが、だからと言ってこれは...
刺激が強すぎた...
「あわわわわわわ!?!?!?」
変な言葉と共に、私は矢のような速さで手を持ち上げ、こころの横顔を触った
そして軽く頬を持ち上げさせ、こころの顔を安全地域へと離し、
私の身体を芋虫のように、器用に手足や腰を使い身体を後方へくねらせて下がった
逃げている間、こころの顔を見ないように出来るだけ背景を見るようにしていた
今彼女の顔を見たら、もっと体温が上がりそうで
そうしたらもっと彼女が近づいてきそうで...
ある程度離れたところで、動きを止め彼女の方に視線をゆっくり動かした
彼女は、私に触れられていた頬を軽くさすっていた
彼女と視線が合うことはなく、こころは斜め下を向いていた
正直、目線が合わなかったことにホッとしていたのも束の間
彼女は私に振り向いて、輝いている金髪が大きくたなびいた
乱反射され、より一層に美しく見えた髪から、少々複雑な表情をしたこころの顔が映った
笑ったという顔でもなく
悲しみという顔でもなく
目がまんまるとしていて、口は自然に閉じており、私に何か訴えかけているかのような表情だった
「クロー、まだ風邪は治ってなかったのね?」
その表情のまま、私に質問をかけてきた
この表情を見ている私は、よくわからない気持ち悪い気持ちが湧き上がり、よくわからないが、こころと同じように斜め下を見て、目線を合わせず、答えを言い出した
「......よくわからないんだ...自分はもう良くなったと思ってるんだけど...」
と、素直な気持ちを返した
質問に対して間違ってない答えを返した
だが、真っ先に出てきた感情と気持ちは押し殺してしまった
(あの顔は...)
私のどこかにこの顔が引っ掛かったのだ
それが何か、薄々感づく事はあるのだけど今は特定できる事はないだろう
私が答えてから少しの間があった
その間、私はずっと顔を伏せたままだった
こういう時は、私から動くのは難しすぎる
できるなら相手から動いて欲しい
その願いは天に届いたのか、それとも私から溢れる他人任せなオーラをこころが感じたのか、対面にいる人の方から微かな風を感じた
風を受け、私はゆっくりと正面に戻した
こころは私の方に向いてはいなかった
こころは私を背にして、頭がふらふらと動いていた
私のことを置き去りにして、こころは新しい何かを見に行こうとしているように感じた
少し心の底でズキッと痛みが生じた
消えたはずの傷痕がひろがるような嫌な痛み
その痛みが広がってきそうなタイミングで
こころは私に向き直ってくれた
今度は笑顔で
もう大丈夫だよって言っているような、そんな素敵な笑顔
「じゃあ、これあげるわ!クロ!これだけしていればすぐに元気になるわ!ほらっ!」
そう言って、こころは手に持っていたものを、私の口元に当てて来た
分厚いガーゼが唇に当たった
多分だと思うが、これはマスクだ
風邪をひいている私に、必要なもの
弱っている時に元気になれるおまじない
こころは、私に元気を振りまいてくれた
耳にかけるゴムは宙ぶらりんのままで、マスクの裏側をこころの人差し指と中指が軽く抑える
固定されるはずの場所と、空間がある場所が入れ替わっていた
こころの指は、確実に私を捉えていた
「あっ、ありがとう」
予想の範囲外の行動に、私の返答はとても素直なもので
感謝以外に伝えられる事はなかった
私は、そう言いながら耳にかけるゴムの部分を手に取り、両耳に耳に掛けた
耳に掛け終えたと分かると、こころの指は離れていった
こころの手が自身の定位置に戻り、もう一言
「これで安心ね」
と、少し大人びいた優しい微笑みを返した
私も、自然と釣られてしまうような笑顔だった
顔が緩み掛けたその時、他の場所よりも少し赤く色づいてしまった彼女のおでこが目に映った
私はその跡を見て、私の失態を思い出した
首を締めようとした前に、彼女に頭突きをしたことを
私に痛みはなかったが、彼女にはもしかしたら痛みがあったのかもしれない
そう思うと、口がまた元に戻りそうになってしまった
しかし、完全に戻り切る前に止まり笑顔へと切り替わった
そうだ、さっきこころがしたようにすればいいのだと気付かされた
私が誰かを傷つけてしまったのならば、その分私がその人を助ければいいんだ
そうしたら、笑顔は伝わっていくんだと
『世界を笑顔に』とは、何も全てが完璧である必要なんてなくて
別に失敗したっていいんだって
失敗したら、それ以上に成功したらいい
失敗した分、その人にそれ以上の恩返しをしたらいいのだ
今の私には、こころに対しての傷薬は持っていないが、これからこころの漢方薬になれたら嬉しい
こころが私の
今度は、ちゃんと絆創膏を持ってこよう
「それじゃあ、クロ!早速いくわよ!みんな待ってるわ!」
と言って、私が立つ前に扉を開けて元気よく出ていった
私は、ふふっと誰も聞こえない声で呟いた
ゆっくり立ち上がり、歩き始める
いつかは、こころと同じ歩幅で歩いて行こうと誓って
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リムジンに乗った二人は、スタジオと向かっている
こころは私の反対側に座っている
座りながら、私に向かっていろんなことを話し続ける
最近学校であったこと、
授業のこと、
部活のこと、
休み時間のこと
ずっと話尽きないくらい一方的に離し続けていた
一方の私はというと、こころの話に2割程度耳を傾けつつ、窓の外を見ていた
雲の流れや、
澄んだ青空、
流れていく街並み、
対向車の車の色
いろんな世界が目に入ってくるのを、ただただ眺めていた
その中で、一つ注目したことがあった
小さな公園にある小さな人集り
少人数の野外コンサートが開催されていた
15人程度の吹奏楽だった
その中に、私の記憶にある人物が一瞬見えた
必死に楽器を吹いている女生徒
その彼女に気に留める余裕もなく、背景と同じく過ぎ去っていった
今見えるものと感じられるものは、
こころが黒服に貼ってもらったであろうおでこの絆創膏と、私の手に残った温かく柔らかな感覚だった
決意と期待を乗せて、目的地に進んでいく
他の4人に会う時は、もっと自分らしく、もっと出来ることをしよう
滅茶苦茶投稿遅くなって申し訳ないです!!!
前回から1ヶ月半...本当にサボりまくってました...
理由はこころの蕩けた表情を書いた辺りが原因ですね
そこからの構想が全く纏まっておらず、ただただこころの恋愛表情を書くのに書き手側がとても恥ずかしくなり、書くのに勇気がいるところでしたorz
その上に、途中に暗い場面を追加したかったので、その部分を考えるのも時間がかかりました
また、この辺の過去のお話もしようとは思いますが、その時はよろしくお願いします
バンドリでは色々なバンドで3章始まりましたね
ハロハピはいつになるんだろうか...
楽しみに待っています!!
年末年始カバーも楽しみに待ってます!
そして、この小説を登録してくださった
「雪の進軍 様」
次の投稿は来年になるでしょうかね?
というわけでメリークリスマス!
良いお年をお過ごし下さい!
それでは、第37話を楽しみにしてください