記憶の片隅にある天国   作:パフさん♪

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前回は、バンド名を「ハロー、ハッピーワールド!」と決めたところまででした

今回は、ライブハウスを外に出てから練習終わりまでを書いて行こうと思います

それでは、第38話を始めます


第38話 誘惑の品

ライブハウスを外に出てから約1時間

私は外のカフェでオレンジジュースを飲んで待っていた

 

外の空気に触れるうち、あの嫌な既視感から遠ざけられ、ゆったりとした気分で座っていた

ホイップが少しついたビニールテープと何も残っていない皿、近くの自動販売機で買ったオレンジジュースの缶がテーブルの上に置かれている

周りの他の席には、小さい子供連れの家族や大学生くらいのカップル、制服を着た女子高生...、いろんな人々が澄んだ青空の下、余暇を過ごしていた

公園のような憩いの場所として、カフェは成り立っている

周りから聞こえて来る小さな会話音が、初夏に近づいて来ると感じる温かく柔らかな風により、吹き通っている

風が、隣に生えている並木達を騒つかせていた

 

ライブハウスを来訪する前の私に向けられた視線はどこ吹く風だったのか、私服姿の私はこの場所の人達の中に紛れ込んでいる

今は完全に一般人なのである

予想するに、こころ達に会わないでいたらこんな普通な日常を迎えていたのかもしれない

もっとも、私が休日に一人でこんなカフェに来るなんて行動を出来るかは別とした場合だが

 

だが、今はこころ達の練習を待っているだけに過ぎない

もうすぐ、こころ達の練習も終わるだろう

そう思うと、風が厄介な者へと変わってしまう

夏のようなギラギラとした暑さではなく、

冬のようなビュッっと吹くからっ風でもなく、

私をこの場所に縛り付ける、少し嫌味ったらしい柔らかな風だからだ

 

ここを動きたくないという気持ちを、なんとかしてこころ達の演奏風景に差し替える

くつろぐ前に聞いた、初めての五人でのセッション

私の中であの音楽は、とても楽しい気分になれた

明るい曲調は、こころにとってもよく似合う

そんな、無邪気な表情が強調されて出てくる

こころの真剣な顔というのは想像できない

真剣な顔をしていた人物は別にいたからだ

 

松原花音

 

彼女らしい演奏時の表情だった

初めて彼女に会った1回しか事前に見てはいなかったが、私は花音の必死さが紐づけられていた

花音の直向きなドラム捌きは、全くリズムを乱すことなくバンドの地盤を支えていた

 

そこに私が入ろうという気持ちは湧かなかった

何も楽器もできない私が、どの楽器を持って演奏すればいいのか

もし入ったとして、私がぶち壊すに決まっている

だから、私は最初のハロハピライブでは演奏は絶対にしないと誓った

...でも、いつか機会があれば、なんらかの楽器で演奏したいと思う...

 

 

そのためにも、この後の予定は重要なのである

花音にタオルを返した時にした約束

『ドラムの演奏の仕方を教えてもらう』

これを遂に実行に移す日が来たのだ

 

あの約束から1週間が過ぎた

その間に、現実世界で壊れたドラムを修理した

もういつでもドラムを叩くことはできる

だが、その技術を私は持ち得てはいないのだ

このままでは、私の目標であった片割れしか達成できない

何しろ目標にあるのは、私が演奏する未来の音を奏でることだから

 

その為には絶対に実行しないといけない

数分後の未来には、二人を誘うという最大の難関が待ち構えている

...もう、羽丘学園での失敗は繰り返すつもりはない

花音とこころの二人の前で、オロオロとした姿は見せたくないのだ

 

 

そう固く決意を固め、残っていたオレンジジュースを一気に飲み干した

残っていたジュースの量は、自分が思っていたよりも多く、一瞬むせ返りそうになったがなんとか堪えた

空の缶と食べ終わっていた皿を持って、ぬくい風に後ろ髪を惹かれつつ、席から立ち上がったのだ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

もう一度、ライブハウスに入ってから約20分

五人の少女が扉から出てきた

 

私はその出てくるまでの間、黒服の人打ち合わせをしていた

私の衣装の件や今日演奏した曲についての話をしていた

最終的に、私のライブ衣装については今後決めると言い、最初のライブでは観客席から見ていたいと結論づけた

黒服の人は私の意見に素直に受け入れてくれて、今回のライブのチケットを取れるように交渉をしますと言ってくれた

その話を聞いていたのか、私と話をしていた黒服の人はまた違う黒服の人が、受付にいるライブハウスの店員らしき人に話しかけに行くのが見えた

その様子を見るに、多分この場所がライブ会場であると予想し、弦巻家の黒服ともなればチケットの1枚や2枚どうってこともないのであろうと、勝手に想像がついていた

 

 

と、なんだかんだ話し合いを進めていたら、ガチャとドアノブが回る音がした

 

先頭に出てきたのはこころだった

その後に、花音

そして次に、はぐみ、薫と続き

最後尾に、美咲が出てきた

 

はぐみと薫はギターケースを背負っている

花音は、多分ドラムステックケースを持っていた

 

先頭の何も持っていないこころが、元気ある澄んだ声で私を呼んだ

 

 

こ「クロー!練習終わったわよー。クロは何をしていたのかしらー?」

 

と、笑顔で真っ先に答えにくい質問をされた

こころが先頭で止まったものだから、後続の四人がこころを中心にして、横一列に並び始めた

そうして、他の四人も私の姿を見ていく

 

美咲、はぐみ、薫はそこまで変わった様子を示してはいなかったが、花音だけはソワソワした様子で私を見ていた

多分、こころと同じく何かを聞こうとはしているのだろうが、大人な対応...もといあまり触れられたくない話があるのかもしれないと考えているのかもしれない

 

そこで私は一言、この疑問に嘘を交えつつ真実を伝えた

 

 

ク「いや、ここに入る前にカフェがあっただろ?そこでちょっとお茶がしたくなってな。みんなの演奏が聴きたかったんだが、喉が乾いて死にそうだったからな」

 

それに対して、花音は少し安心したのか無駄な肩の力が抜けていた

こころは、それを聞いて表情を変えずに

 

 

こ「それなら良かったわ!今度はあたしも一緒にケーキが食べたいわっ!」

 

と、もっと笑顔になっていた

もう、この子の笑顔というものにレベルはつけられそうにない

 

 

そして、黒服の人が私に耳元でこころの元に行くように助言をし、私はこころ達五人の方に歩いた

私が着くと、みんな疲れているのにも関わらず、私に微笑みをプレゼントしてくれた

 

 

こ「これで全員ね。それじゃあ、また明日!」

は「おー!」

 

と、解散の挨拶をこころが言った

わたしは全員という言葉に、くすぐったい気持ちになりながら嬉しかった

 

 

各々、自分の鞄を持って自動ドアへと向かっていく

わたしは花音とこころの二人になるタイミングを狙っていた

だけど、現実というのはうまくいかないものだ

ライブハウスを後にしようとしている先頭は花音だった

花音が先に帰られたら、1番の問題なのだ

何故なら、こころの方はどっちしろ私も同じリムジンに乗ることになろうから問題はない

だが、唯一のドラマーを無くしては私の練習は務まらないのだ

 

私に、花音が「じゃあね、クロさん」と別れの挨拶をして出て行こうとする

私は、その挨拶を聞いて無意識に「またね」と言ってしまっていた

癖というか、無意識というか本題を切り出す勇気が出なかった

 

しかし、言葉よりも身体が先に動いていた

手が花音の後ろ姿を追いかける様に伸ばし....

 

 

?「はいっ!これ!北沢精肉店特製のコロッケだよー!」

 

と、私の真横から聞こえてきたのだ

その言葉に私は目を横に逸らしてしまった

茶色の髪をしたはぐみが私の隣を立っていた

そして、茶色の袋を私の伸ばした手に握り込められていた

 

 

は「練習始める前にねっ、みんなでコロッケ食べたんだよー!でね、まだクロくん食べてないから残しておいたんだー。ちょっと冷めちゃったかもだけど、うちのコロッケは冷めても美味しいから!早く食べて食べて!!」

 

と、私に間の悪い差し入れを渡そうとしてきたのだ

確かに初めて出会った時にはぐみからコロッケを受け取ったことはあったが、まだ食べたことはなかった

もらったコロッケは冷蔵庫に入れっぱなしで、そのまま眠りについてしまった

それがもう2週間以上前であることから、冷蔵庫に残ったコロッケは食べることはできないだろう

一番良い解釈をするならば、母か父が食べていてくれれば問題はないだろう

 

って、こんなことを考えている場合ではない

真っ先に足を動かさないといけな...

 

 

その考えすら卓上の空論へと変わってしまった

隣にいる茶髪の女の子は目をキラキラさせて私の顔を見ていた

上目遣いで、目がとっても潤んでいて、唇を少し開け...

 

こんな顔をさっき見た

こころとの...

 

...私は俄に茶色い袋を身体に近づけ、両手で掴んでしまった

そのまま徐に袋の頂点を持ち、その誘惑の宝箱を開けていく

湿気の多い蒸気が、袋の中から放出され私の顔を少し湿らせた

鼻腔にコロッケのジャガイモと牛肉の匂いが広がる

そして匂いが口の中へと伝わり、舌の上で味覚を感じてしまう錯覚を覚えてしまう...

そこからくるのは、目の前の獲物を欲するだけだった

 

中に入っていた3個のコロッケのうち、一番大きいコロッケに目をつけ、同梱された紙ナプキンを手に取った

それをコロッケに纏わせ、袋から取り出す

粘り気のない更々とした油がナプキン越しに指先へと付着していく

このコロッケを前に引くという行動は出来なかった

 

はぐみの茶色とコロッケの茶色は同じ、食べる(られる)のを待ちわびている様に感じたのだ

そのまま口へと持っていった

 

 

サクッ...

まるで、新鮮な野菜を噛むかの様な音が響いた

そこから広がるのは...大量の肉汁と...ホクホクとしてホロホロのジャガイモ...甘い玉ねぎ...

 

 

美味い

 

 

この3文字しか脳内に残らなかった

一口噛んだ瞬間から全ての思考を停止させられ、噛むことも忘れ二口目、三口目と一気にコロッケを食し始めた

口にコロッケが入る度、味は倍増していく

身も心もコロッケに支配された

 

四口程で大きいコロッケは口の中へと消え、四、五噛みで飲み込んだ

喉を通るコロッケは火傷するほど熱くなく、ちょうど人肌と同じくらいの温度で私の中へと侵入していく

まだ、口の中を絶品の味が漂っている

まだ足りない

 

そのまま二つ目のコロッケを手に取り、口一杯に頬張った

その光景を見ていたはぐみはどんな表情をしていたのか

自分の家で作った十八番を、言葉を発することなく一心不乱に貪欲に食している光景

さぞかし、嬉しい光景であろう

彼女の表情を想像する必要はないだろう

隣から温かな感情が溢れているのを僅かに受け取っているからだ

 

 

3個をものの1分で完食した

そこから3分間余韻に浸っていた

こんなに美味しいものを食べたのはいつぶりだろうか

今までに食べたどんな料理よりも美味しかった

また機会があったら北沢精肉店へ行こうと決心した

 

 

ク「とっても美味しかった...今度は私からコロッケ買いに行くね」

 

と、考えが声に出ていた

 

 

は「うんうん!はぐみの自慢のコロッケだもん!!またいつでも来てねっ!それじゃあ、また明日っ!クロくん!」

 

ク「うん、じゃあね!」

 

そう言ってはぐみに手を振った

はぐみも手を振ってから、小走りで自動ドアへと向かっていった

後ろから見えたはぐみの姿は、はぐみの小さい身長と大きいベースケースとの不釣り合さが際立っていた

 

ガーッ

 

と、自動ドアが開き閉じた

ケースの黒い色に遮られた視界が、ライブハウス内へと広がっていく

そこで私は青ざめた

 

 

この受付口にいたのは、

 

私と

こころだけだった

 

 

こ「クロー!そろそろ帰るわよー?あっ!クロもはぐみのコロッケ食べたのねっ!とーーっても美味しかったでしょっ!」

 

ク「う...うん、そうだね...」

 

近づくこころに、曖昧な返事しか出来なかった

際どい質問ではなく、ただの同意を得るだけの質問の方が答えを出すのが難しいなんて思ってはいなかった

 

 

私は、これからどうするかを空になった紙袋と滑る指先を擦り合わせ茫然と立ち竦んでいた

硝子越しの青空が、私の気持ちと同期したのか、もやが掛かったかの様に薄い雲が流れ込んでいた

陽の光はまだ消え切れてはいないが、光量は確実に減っていた

 

 

雲はこれから厚くなるのか?

それとも薄くなるのか?

それは私の行動次第だ

 

 

...雨は確実に近づいていた...

 

 




1週間以内に投稿できなかった...(1日遅れ)
でも、書き切れて良かったと内心ホッとしています
コロッケの話題だらけでしたが、原因は昨日の夜にコロッケを食べたからです
スーパーのお惣菜のコロッケでしたが、とっても美味しかったです
今回の話のコロッケが後々に...?
(っていうのはまだ考えていませんが...)

ハロハピ3章イベントも終わって一段落着きましたね
...最終的にまだ3章は読んでませんが...
読むのは2週間後くらいになりそうです...
ただあと3、4話投稿できれば読んでも大丈夫になるかと思いますので、3章を読み切ったらまた感想を後書きに書きたいですね

後、星4花音は当たらなかったです...


それでは、また1週間を目標に次の話を投稿しようと努力しますので、次の話も楽しみに待っててください
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