東方人鳥録   作:ぽぽろっか

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12羽~夢の終わり~

 釣りを終えたギンは収穫の魚数十匹が入った魚篭を小脇に抱え、天華を肩に乗せて揚々と歩いていた。

 一方で、天華はしきりに体のあちこちを触りながら

 

「うう、縄の後がくっきり残っちゃいました。これなんて説明すればいいんですか」

「小さいまま無理に釣りをしようとして滑って転んで気付いたら糸が絡まっていた、とかどうだろう」

「さすがお父様。言い訳をさせたら世界一ですね」

「言い訳というな。誤魔化しと言え」

 

 え、気にするのそこ?

 

 膨れ面になる天華を見てげらげらと笑いながら、ギンは踏み固められた道をのしのしと歩いていた。

 

 ……なんでこいつ歩いてるんだろう?いや、変な意味でなく。

 妖力やらなんやらを絶妙なブレンドで配合して空を自由に飛べるはずなのに、どうしてこいつはいまだ重力に縛られているのだろうかと。そういう話なのですよ。

 

 あれか?まがりなりにもペンギンとしてのプライドがあるのだろうか。おおっと、これではまるで空を飛べないことがペンギンのアイデンティティーみたいではないか。失敬失敬。

 ぼくたちができたらいいなと夢見ていることを平然と無視するとは、何たる所業か。真っ当な理由があってのこと何なんだろうな!

 いやまあ、どうせ本人に聞いたとして、そしてあのバカが真面目に茶化さずに答えたとして、

「撃ち落されるの怖いもの」

 とか返ってくるんだろうしなぁ……真面目に考えてコレなんだぜ?

 

「――あら、お帰りなさい。ギン、天華ちゃん」

 

 おやおや?お寺っぽい建物の門先を掃除していた尼さんがギンに声をかけたよ?あいつらも当たり前のように「ただいま」「ただいまですー」って言ってるけど、どういう関係なの?そのまま軽く談笑に突入しましたけど、だからどういう関係なのさ。

 

 二、三十分ほど経過した頃、ようやう尼さんは掃除をすることを思い出したらしく適当に話を切り上げてあわただしく竹箒を動かしている。それを苦笑してみた後、ギンはそのまま門をくぐって寺の中に入っていった。……え?

 

 こ、こいつが、寺?仏教なんかにこれっぽっちも興味の無いあのバカが?

 い、いや待て。これが単なるお裾分けならいいんだ。「獲れ過ぎちゃったんで良かったらどぞー」みたいのならいいんだ。

 でもこれがもし泊り込みとかだったら…………どうしてくれようか……!

 

 こちらが密林で藁人形と五寸釘をポチっている間に、ギンは歩きなれた様子で境内を進む。

 

 途中ですれ違うネズミ耳の娘に

 

「おや、お帰り。調子はどうだい?……おお、中々じゃないか。これは夕餉が楽しみだねぇ。礼を言うよ」

 

 ぱたぱたと駆け寄ってきたセーラーの娘に

 

「おかえりー。たくさん釣ってきた?おおー、大漁じゃん大漁。いやー、アンタが来てから私が漁に出る手間が省けて助かるよ。このお礼は、そうだね……体で支払おうか?なんてね!嘘嘘!残念だったね~、アハハ!」

 

 全力疾走する虎柄の娘に

 

「ああ、ギン!丁度いいところに!宝塔!宝塔知りませんか?!……庫裏の漬物石の上!?どうしてそんなところに……いや!そんなことはいいのです!とにかくギン、ご助言感謝します!」

 

 …………………………。

 もう、キレちまってもいいよね?注文したものも届いたし。

 

 なんなんだよこのクソ鳥はよ。キレイな女性に囲まれやがって、王様気取りってかコンチキショウ。

 

 立て続けにエンカウントする少女たちとしっかり会話をしながらも、その足はまっすぐにある場所へと向かっていた。

 禅堂の前に到着したギンは、ゆっくりと扉を開ける。

 

 凛とした空気で満たされたその空間には、ただ一人しかいなかった。

 顔を俯かせ座禅を組んでいたその女性は誰かが来たことを察し目蓋をあけ、それが見慣れた人物であったことににっこりと破顔した。

 

「お帰りなさい、ギン、天華ちゃん。今日もお疲れ様です。お風呂の用意がしてありますから、ご飯の用意が出来るまで、よかったらどうぞ」

 

 ヒャア、がまんできねえ!打つぜ!

 

                           ★

 

 俺がここの寺と付き合いを持つようになって、どれくらい経つだろうか。

 人間基準ではそれなりのはずだけど妖怪基準だとまだまだででも結局どれくらいか覚えてないからなんとも言えないっていうか。

 まあ、楽しかったりインパクトのあったことは覚えているからいいんだけど。

 酔った聖に抱きつかれたり、着替え中の星に出くわしたり、風呂場で出たばかりのナズーリンと遭遇したり、酒を飲んで寝た次の朝村沙と同じ布団で寝てたり、起きてすぐの着ているものがほぼ肌蹴けた一輪とばったり会ったり、雲山の変顔百連発とかもあったっけ。

 

 数々の思い出を振り返っていくと、やがて初めて出会った日のことにたどり着く。

 正確には、俺があいつ等の問題に首どころか全身で突っ込んでいったと言うのが正しいのだけど。

 

 あれは、そう。ひょんなことから天華と追いかけっこになって、なんだかんだで藪の中を進まなければならなくなった時だ。密集した藪を掻き分け掻き分け、方角が分からなくなりながらも前へ前へと進んでいた。

 そして視界が開け、最初にに見えた光景。

 寺門の前で一人立つ女性(おっとりお姉さん系)と、それに立ち向かうように身構えた農具で武装した粗末な身なりの一団と先頭に立つ陰陽師らしき数人。

 

 まあ、飛び込んだよね。鋭い角度で。両者の中間(やや集団寄り)に高高度からの跳び蹴りをぶち込み、濛々と舞う砂煙の中から一言、

 

「詳しい事情は知らないが、か弱い女性を多勢で囲むとは不届き千万。その腐った性根叩き直してやるから、全員こっちに尻を向けろ」

 

 必殺の回し蹴りを食らわせてやるつもりだったのだが、しかし砂が全て地に落ちた頃にはもう相対しておらず、少し行ったところにすたこらと逃げる姿が見えた。まあこれで懲りたろうと思い、くるりと振り向いて女性に話しかける。あいつらに何をされたかを聞いて、何をされかけたのかを聞いて、事と次第によっちゃあ局地的に氷河期に突入させてやろうと思っていた。

 

 ぶん殴られて、説教された。美人の尼さんに。

 みるみるうちに回復していく俺のHPMPSPその他諸々の気力ゲージ。流石僧侶、回復はお手のものだと感心した。

 向こうにそんな意図が無いことは分かり切っていたので、表面上はおとなしく聞いてたけど。

 

 一通り済んだ後に自己紹介。向こうが聖白蓮と名乗ったのでこちらも氷室ギンと名乗り返した。そしてあまりにも構ってもらえず隅っこで座り込んでる天華のことも雑に紹介した。

 

 そしてようやく本題に入る。なぜあんな状況に陥ったのか、だ。

 聖はやや躊躇いながらも、答えてくれた。

 人と妖怪が云々、今の関係が云々、力があるものが云々、いろんな難しいことを言われたけれど、結局要約すると、

 

『人と妖怪が手を取り合える、そんな世界を作りたい』

 

 バカだなー、と思った。どうしてわざわざそんな面倒くさいことをしようとするのか、よく分からなかった。

 でも、語るときの聖は真っ直ぐで、無理だなんてこれっぽっちも思っていない顔で、胸を張っていた。

 その姿に、俺の良く知る馬鹿を重ねていて、

 

「なにか俺に、出来ることは無いか?」

 

 言ってしまったんだ。

 そこからだ。それ以来、俺は聖と、彼女を支える少女たちの夢を手伝うことにした。

 老いて死ぬのが怖くて妖怪になりかけるような弱い彼女の、夢物語の行く末を見届けてやりたくなったのだ。

 

                           ★

 

 ぶっちゃけ、寺での俺の仕事はほぼ皆無といっていい。

 雑用ならば十分人手が足りているし、食べ物も信者からもらえるもので贅沢をしない程度には賄える。力仕事は寺の住人のほとんどが妖怪なので言わずもがな。むしろ聖がパワーでガンガンいくタイプだった。

 

 しかし、そんな俺にも一つだけ、適しているかもしれない仕事が合ったのだ。

 聖の護衛である。

 

 人々から依頼を受け法力で妖怪を退治する一方で、その妖怪の傷を治し自らの教えを説こうとする聖。そんな彼女の所業が、完全に隠しとおせるわけではない。一部の村などでは、彼女のことを疑うものも出てきている。実際寺に妖怪がごろごろいるし。聞けば俺が始めて飛び込んだときもそのことについて詰問する連中だったらしい。

 

 幸い、この時代は村々のつながりも薄く、情報が伝わる速度は限りなく遅い。むしろ伝わらない。一つの村で怪しまれても、隣の村へ行けばまだ友好的な目で見てもらえる。

 しかし安心は出来ない。聖を疑った連中が何かしてこないとも限らないし、加えて聖を襲おうと企む山賊崩れも出ないとも限らない。妖怪である寺の住人たちが傍に付くのは本末転倒だし、毘沙門天代理の星は軽々しく外には出れない。

 

 そこで、能力で妖気やらを抑えることが出来、服を着替えればただの人間にしか見えない俺がその役割に抜擢されたというわけだ。

 妖気を外にばれないよう隠蔽するのは結構難しいことらしい。俺は適当に凍結してるだけだから分からんけど。

 

「―――と」

 

 不穏な気配を察知し、懐から一枚の札を抜き取り素早く聖へ投じる。

 札が聖の頭上で停止するのに一拍遅れ、宙を山なりに飛来してきた石ころは一瞬動きを止め、次の瞬間には先ほどと逆向きに、同じ軌道、同じ速度、同じ回転で元の場所へと帰る。

 家と家の間から石を投げた男の、顔の横を通り過ぎていった。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 無様な悲鳴を上げて逃げる男を追わずに、俺は呆然とする聖に声をかける。

 

「大丈夫か?怪我は、まあ、ないよな。俺が守ったんだし」

「ええ。ありがとうございます。ギン」

 

 どういたしまして、と返しながら、ひらひらと舞い落ちる札を手に取る。一回きり(インスタント)なのでもう使えないが、放置するのもあれだろう。

 人間が使う陰陽術に用いられる札を色々と調べ、俺でも使えるようにした手製のお札。色々あるが、ただ守るだけならこの『反射』の札で十分だな。使い捨てなのがやや難だが。

 使い終わったら勝手に燃えるようにならないかなー、と思案していると、

 

「ギン、今日のところはそろそろ……」

「ああ、もういいのか。それじゃあ」

 

 立ち去る俺と聖に熱心に頭を下げたり手を合わせたりする村の人たち。

 しかし、

 ……大分減ったな。

 初めの頃と比べて、そして一番多かった頃とは比べるまでも無く、信者が減った。そして今日のあの出来事。これは、

 

「もう、噂が広まってんのかね」

「そう、かもしれないですね。また次の村へ足を伸ばしましょうか」

 

 別に噂が広まって都合が悪いから行くのをやめる、と聖が思っているわけではない。別の村へも行きはするが、この村へ来るのをやめるわけではない。頻度が少なくなるだけだ。

 本来なら聖はどれだけ疑われようと、一人でも信じてくれる人がいればその人のために足を進めるだろう。それを止めているのは俺だ。そのほうが守りやすいという理由で、約束した。護衛が警護対象の行動を制限するのはどうかと思うが、より多くの人に教えを広めるという方便で乗り切ろう。

 

「…………」

 

 聖の表情は優れない。何か思うところがあるのだろうか。

 彼女は本気だ。本気で、人と妖怪が手を取り合えると、人の意識が変わり妖怪の意識が変わればその夢は叶うと思っている。本当は婆さんのくせして子どもみたいな考えをしている。

 

「……はぁ。アホくさ」

「どうしましたギン?ため息なんかついふぇ?」

 

 聖の台詞の最後がおかしいのは、聖がそういうキャラ作りをしているとか、俺の聞き間違えとか、もちろん入力ミスでもない。

 単純に喋っている最中の聖の頬を摘んで引っ張っただけだ。

 

「おーおー、よく伸びる。流石妖力吸って反則みたいな若作りしているだけあるな」

「ふぁの……ギン?ふぉれふぁいっふぁい?」

「いや何言ってるのか分かんないよ。ここでは人の言葉で話せ」

「ふぁなたのふぉうこそはなしてくだふぁい」

 

 なんだろう。この困ったような恥ずかしいような笑みを浮かべて、それでもやさしく諭してくれるお姉さんは。天使か?女神か?いや尼さんなのだけれど。

 とりあえず、パッと手を離し、余計なものに触れないようポケットに入れると同時に掌全体を凍結しておく。

 

「なに辛気臭い顔してんだ。そんなんじゃ新しい信者も出来ないぞ」

「……それは」

「それにお前がそんな顔をしていたら、お前を信じてくれている奴らが不安になる。誰かの前に立つヤツはな、いつだっていつも通りでいなきゃいけないんだ」

「ギン……」

 

 俺がまともなことを言うのが相当意外だったのか、呆けたような顔を数秒見せると、聖は柔らかく微笑んだ。

 

「そうですね。私が迷ってしまうと、みんなも、ギンも、困ってしまいますよね」

「ああいや、俺は別に」

「ええ!?」

 

 だってなぁ、

 

「俺は聖を守るのが役目だし。お前が迷おうとそうでなかろうと変わらないよ。変わらずお前を助けるだけさ」

 

 言って、なんとなく、ぽふり、と聖の頭に手を載せる。うん、柔らかくて、いい匂い。

 

「……もう、こんな子どもにするみたいなこと。私、もうお婆ちゃんなんですよ?」

「知ってるよ。けど、妖怪の俺からしたらお前なんかまだまだガキだよ」

 

 うまいこと言った気でいると、聖がおかしそうに噴き出した。どっちの反応か分からないけど、笑ってくれたならそれでいいや。

 

                           ★

 

「あらよっと」

 

 軽い声とともに、右手に握る天華の峰を男の腹部に叩き込む。聖が殺生はいけませんと言うので、気をつけて殺さないようにしている。

 

「ほいほい」

 

 背後から切りかかってくる男へ、背を向けたままぶつかりに行く。正面から背中に激突され吹き飛んで後方の木に激突する。

 

「それじゃ……あれ?終わり?」

 

 ぐるり、と四方を見渡し、これ以上立ち上がってくる姿がないのを確認して、体の力を抜きながら小さく息を吐く。

 まあ、たかが武装した男四、五十人程度なのでそんなに時間はかからなかったのだけれど。

 

 聖の、妖怪も人間の平等に扱う、という思想はやはり受け入れられるものではなかったらしい。

 森の中で傷ついた妖怪を癒している場面を身分の高いお侍さんに偶然目撃されて以来、度々聖を成敗しようと今までに無い本格的な力を持った一団が寺を襲いに来るようになった。

 

 まぁ弱いんだけどね。

 刀を持った程度で俺をどうこうできる訳もないし、陰陽術もすでに俺は理解しているので対抗策は十全である。

 

 しかし敵さんもただの馬鹿ではないらしい。

 最大戦力の俺を出来るだけ寺から遠ざけ、その隙に攻めきろうとしてきた。どうにも押し切られ、敵の九割とともに大分寺から離れてしまった。

 離れる直前、残った一割に向けて札を放っておいたので数は減らせているだろう。あとは残りの面子が……いやむしろ聖が一人で何とかできるだろう。肉弾戦で。

 

「――お父様!」

「っ!?」

 

 天華の声が伝わるより一拍早く、俺は顔を上げて一方を見据える。距離にして三里。一跳びで潰せる距離の先にある寺から、不自然なほどの力と、術式の気配。

 何も考えず、ただ俺は跳んだ。

 

「―――ちっ!」

 

 ぐるぐると身を捻りながら着地し、はじかれたように駆け出す。倒れ伏す侍や陰陽師を無視し、一直線に境内へ。

 

「おーい。誰かいるかー」

 

 小走りに緩め、一帯に響くような大きさで呼びかける。

 何処からも反応は無い。

 不安と焦燥を押し殺し、本堂の戸を開ける。

 

「―――!……よかった。無事だったんだな」

 

 堂の中には、毘沙門天の像に向かい目を瞑る星と、傍に控えるナズーリンの姿が。

 ほっと安心して、他の連中の事を聞こうとして、

 

「ギン……」

 

 小さく、儚い、星の声が俺の体を止めた。

 

                           ★

 

 聖は魔界へ。一輪と雲山、水蜜は地底へ。それぞれ封印されたらしい。

 ぶっちゃけ、こんなこと思いもしなかった。陰陽師の方々は随分と頑張ったらしい。懐から拝借したお札はかなりの高位の術が籠められている。

 これなら、命をつぎ込めば望んだとおりの結果が出せただろう。アホらしい。

 

 アホといえば聖もだ。さっさと対処すればいいものを、まずは説得から入ったらしい。その隙に封印の術を完成させられるとか、あいつバカだろ。

 ……本当に、大バカ野郎だ。

 

 残りのやつらは、最初は聖に言われて状況を見ていたらしいが、封印が完成したのを見て慌てて出てきて、控えとして詰めていた陰陽師たちに地底に叩き落されたらしい。一矢報いることも出来ず、ただ退治されたあいつ等の気持ちは、察することも出来ない。

 

 星とナズーリンは毘沙門天の関係者として見逃されたという。そもそもから頭数には入っていなかったはずだ。仮にこいつらも狙われていたとしても、聖たちを封印するので残ったやつらは手一杯だった。

 二人が残されたのは、偶然だったと言える。

 

『ごめんなさい。聖たちを助けることも出来ず、ただ見ていることしか出来なくて……ごめんなさい』

 

 そう言って彼女は泣いた。武の神毘沙門天の代理にはあまりにもそぐわない、か弱い少女のようだった。

 

『私には御主人を守ることしか出来なかった。仲間を、友を、止めることが出来なかった……すまない』

 

 そう言って彼女は泣いた。いつもの凛とした姿が嘘のように、自らの重責に押しつぶされそうなほどだった。

 

 俺に出来たのは、彼女たちが泣きつかれ眠りにつくまでの間、抱きしめてやることだけだった。

 自分の無力さをかみ締めることだけだった。

 

 二人は寺に残るのだという。いつか聖たちの封印が解けた時、彼女たちが帰ってくる場所を残しておきたいらしい。

 

 ならば俺はどうするのか。何をしたらいいのか。守ってやるといって、何も出来なかった聖たちのために、一体俺に何が出来るのか。

 考えようとして、しかしその答えはあまりにもあっさりと思いついた。

 

 聖の夢を、あの弱い少女の夢を、実現させること。

 人と妖怪の共存なんて大層な夢を掲げ、最後には人間に妖怪として退治されるなんて結末を迎えてしまった、あの優しくて脆い彼女の夢を。

 

 幸いにも、心当たりはある。

 近頃あっていないが、似たような夢を持つ、しかし聖とは違い強さを持つ妖怪の少女を、俺は知っている。

 

 何処にいるかは知らないが、まあ適当に歩いていれば、あちこちであいつの居場所を聞いて回れば、それを知って向こうから会いに来てくれるだろう。

 

 数年ぶりに放浪の旅に出る俺を、数年もの間いた寺をあっさり出ると決めた俺を、星とナズーリンは笑顔で見送ってくれた。

 詳しいことは何も話していないのに。言わなくても分かっているかのように、何も聞かず。

 

「「いってらっしゃい」」

 

 ただ、見送ってくれた。

 

 さよならとは、言わなかった。 

 

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