東方人鳥録   作:ぽぽろっか

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16羽~花に傅く~

「ちょっと仕事を頼みたいんだけど、いいかしら?」

「いいけど?」

 

 畳敷きのこじんまりとした一室。がらりと障子を開けて入ってきた八雲紫が開口一番そう告げると、ごろごろとだらしなく寝転がり書物を読んでいたギンが煎餅を咥えながら返した。

 

「…………」

 

 ぴくりと米神を動かした紫は、懐から取り出した扇子を一振りする。畳の表面にぱっくりと裂け目が現れ、置かれていた書物と煎餅が入った皿を飲み込んだ。

 何か言いたげな目をギンはしたが、しかし非があるのは自分であると分かってはいるのか何も言わず、体を起こしちゃんと話を聞く体勢にはなった。合わせて紫も腰を下ろし、お互いに向かい合う。

 

「随分と簡単に返事をくれるのね。あまり自分に過度な自信を持つのは誉められた事ではないわよ?」

「別に驕ってなんか無い。大したことも考えてないけどな。でも、お前が俺に頼むってことは、お前が俺に任せたいってことだろ。なら俺はそれに応えるだけさ。他でもないお前の頼みなら」

「あらそう」

 

 なんでもなさそうに返事をし平静を保っているが、しかし広げた扇子で隠した顔の下半分は僅かに朱に染まっており、口元も隠しようも無く歪んでいた。

 すうっと音も無く二人の間にスキマが開き、やや鈍い音を出しながら卓袱台(ギンの手作り)が落ちてくる。藍ーお茶ー、という間延びした主の命を受け式が用意した湯飲みを啜ってから、ようやく本題に入る。

 

「今回貴方にお願いしたいのは、ある妖怪の説得。とても強い大妖怪なんだけど……以前、幻想郷のパワーバランスの話はしたわよね?」

「ああ、あれだろ。人に進んで危害を加えず且つその辺の雑魚から恐れられるような有力者を各地において抑えにする、っていうの。つかなんで俺に頼むのさ。説得ならお前の得意分野だろ」

「それが私じゃ上手くいかなくて。良くも悪くも他者に興味が無いって言うのかしら。私の話を笑いもしなければ否定もしないけど興味も無いって感じ。一蹴されちゃったわ」

「ほほぅ。それはなんというか、一番扱いに困るな。なんか取引とか持ち掛けなかったのか?」

「言うだけ言ってみたんだけど、これも一蹴。今の生活に満足しているみたいなのよ」

 

 参っちゃうわ、と言い、やや行儀悪く卓袱台に肘を突き姿勢を崩す紫。卓に載っかり服の中で柔軟に形を変えるおっぱいを穴が開くどころかビームが出るくらいに凝視するギン。あ、ちなみに出そうと思えばこいつ出せます、ビーム。

 

「そんで、話はわかったけどさ。なんでそれを俺に回してくるのさ。お前で無理なら俺にも無理だろ」

「そんな使えない御方なら協力関係なんて結びませんわ。私に出来なくとも貴方になら出来ることがある。これはそうだと判断したのよ」

「どんな基準で?」

「女の勘よ」

 

 便利な言葉だなぁ、とギンは呆れたように呟き、半端に残っていたお茶を一息に啜った。底に溜まっていた茶葉の滓が咽喉に張り付きげほげほと咽る。馬鹿か。

 十秒ほど咳き込み続けようやく違和感がとれたらしく、ちょっと目端に涙を浮かべながらもギンは立ち上がった。

 

「んじゃまあ行くけどよ、あんまり過度な期待はしないでくれよ?適当に仲良くなってからそれとなく誘ってみるから」

「ええ、どれだけ時間がかかってもいいから、頑張ってきて頂戴。もし迎えが必要ならいつものお札で連絡して」

「りょーかい」

 

 紫が再三スキマを開く。これまでよりもずっと大きな空間の裂け目は扉のようにギンの眼前に現れた。うだうだし続けていたせいで凝った体を解す鳥モドキを見つつ、紫は思い出したように、

 

「そうそう、彼女のところへ行くのに当たって、一つ注意しなければならないことがあるの」

「え?」

 

 肩幅に足を開き上体を回して腰から音が鳴るのを楽しんでいたギンは紫の発したあるワードに反応し、ゴキゴキと聞くに耐えない怪音を響かせながら腰から上をぐるりと一回転させて紫を見据えた。相手は引く。

 

「その妖怪って、女?」

「え、ええ。そうだけど――」

 

 紫には、一陣の風が吹いたとしか感じなかった。

 瞬きすらしていない、けして視線を逸らしたわけでもない。ほんの僅かな、刹那にも満たない時間、意識を自らの内へ飛ばしていただけだ。目の前の奇怪な状況を飲み込み、改めて重要なことを伝えるために。

 彼女は戦闘に向いているわけではない。もちろん名の知れた大妖怪として埒外の力を持っているものの、やはりそちらに特化した者には地力ではやや及ばないだろう。そこを彼女は持ち前の頭脳と能力でカバーするのだが。

 もしかしたら、これが百戦錬磨の九尾の狐八雲藍や、都に名をとどろかせる剛鬼、伊吹萃香や星熊勇儀

ならば違ったのかもしれない。もしかしたら変わらないのかもしれない。

 唯一つ確かなことは、八雲紫は目の前から氷室ギンが居なくなることに気づかなかったということだ。

 

「…………」

 

 しばし思考がクリアになるが、しかし聡明な彼女はすぐに立ち直ることに成功する。能力の産物であるスキマに意識を移せば、覚えのある妖力の持ち主がそこを通過したことが手に取るように分かった。

 

「…………」

 

 つまりは、あの馬鹿は自分が知覚出来ないような速度で出て行ったということになる。原動力は未だ見ぬ女性との出会いというわけか。ふざけるな。

 胸中に行き所のないもやもやとした感情が募る。が、しかしこの程度、あの阿呆と共に暮らすようになってから幾度となく味わってきたものだ。もう慣れた。

 

「藍ー、お茶おかわりー」

 

 湯飲みの中のお茶がすっかり冷めていることに気づき障子越しに外へと呼びかける。有能なあの式ならばすぐに淹れ直してくれるだろうと思いながら。

 先ほどギンから没収した煎餅をスキマから取り出し、ぽりぽりと齧りながら、

 

「彼女が育てている花を傷つけるな、って言いそびれてしまったわ……」

 

 ま、あのバカならなんとかするでしょう、と、彼女は結論を出した。

 

                         ★

 

 目玉だらけの空間を抜けた先は、花畑でした。

 視界一杯に広がる光景のその美しさに、俺は一瞬だが心を奪われていた。

 

 条件も良かったのだろう。青々と広がる空に僅かな雲、そして風。光に照らされる花々と影に覆われる花々。雲が動くにつれて新たに光に照らされた花は眩しく輝き、ふわりと蜜の香りが俺の鼻に届いた。

 一歩踏み出すと足元の若草が柔らかくこすれて小さく鳴る。

 

 何故だろうか、俺はこの景色に妙な既視感を覚えていた。

 記憶の奥底に沈んでいた小さな泡がふつふつと思考の海を漂っている。しかし波に押され戻されを繰り返し、中々水面に現れてくれない。

 どうしたものかと、腕を組もうとする。

 

「あら――」

 

 そんな時、声が聞こえた。

 

「最近は招かれざる客人が多いわね」

 

 背後から投げかけられる女の声。

 

「ようこそ、ここは太陽の畑」

 

 嵐が起こったように記憶が渦を巻く。底を浚って引っくり返して混ぜ込んで、下から上へ流れ落ちるような記憶の濁流。

 そうだ、思い出した。

 

「主の名は――」

「おお、幽香じゃん。おひさー」

 

 くるっと降り返ってぺらっと手を振る。

 

 最後に見た時から大分結構色々と成長していて、可憐な少女から美麗な女性へと見事な変貌を遂げている。

 暖色系の服を着て日傘を添えて緑の中に立つ姿は、避暑地に来た高貴な令嬢のようだった。まあ、実物なんか見たことないんだけど。

 浮かべる笑顔も溌剌としたものから優雅さを感じられる類になっている。こっちも好きだけど昔のも素敵だったな、と思い出補正。

 

 さて、懐かしきを覚え新しきを噛み締めていたわけだが、向こうの方の反応がない。表情が笑顔で固まっている。人形かなんかかと馬鹿馬鹿しくも疑うが、匂いは紛れもなく本物だ。気づかれないように深呼吸。むしろ深吸吸。

 

「……ふ、ふふふ」

 

 む、殺気。出所は幽香。俯いて表情に影を落としながら不気味に笑っている。そんな君も綺麗だぜ、と軽口を叩いてもいい感じかなこれ?

 

「どの面下げて……このクソ鳥……私がどれだけ……」

「あ、俺のこと覚えてたんだ」

 

 ぶつぶつと呟く中に俺のことを示唆する単語があったのを耳聡く聞き取る。いやー、もう大分前のことだし、忘れられていたらどうしようかと思ってたんだよね。

 なんせ人型で幽香と話したのなんかごくごく短い時間だけだったし。インパクトはあったと思うから、それまでのペンギンフォームの俺のことを覚えていればすぐに想起されるとは考えていたけれど。

 

「ふ、ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふふふ…………」

 

 壊れかけのレディオのように笑い声が絶えなくなった。吹き出す殺気も濃度が増し、近くの森から鳥が一斉に飛び立っていった。なんか、ごめん。

 

「こ、の―――!」

 

 日傘を放り投げて超加速。重厚な妖気を纏った拳が振るわれた。このままでは俺の顔面が石榴のようになってしまう。

 とりあえず怪我なんかをさせたくはないので、全く同一の威力の拳をぶつけて相殺する。勿論手首に負担がかからないように気をつけて。

 

 ぴたりと止まった拳に幽香は一瞬面食らったようだが、すぐに二撃目。流麗な動作からの回し蹴り。樹齢云百年の大木すらも粉微塵に砕け散るであろうそれをスウェーで回避し、さらに蹴り足を同じ向きに後ろから押し込んでやることで体勢を崩させる。

 

 続けて繰り出される膝蹴りからの踵落とし、水月への掌底、肘打ち、ショルダータックルから腕を極めて投げられそうになるのを瞬時に抜け出す。

 

「いい、加減に!」

 

 鋭い目つきのまま頭突きを狙う姿勢に移行する幽香、を、先んじて一歩懐へ入り込み、抱きしめることで制する。

 

 まあ、流石に何故幽香がここまで荒ぶっているのかを察せない訳がないので。

 

「悪かったよ。ずっと会いに来なくてごめんな」

 

 ちょっと気障っぽく、頭を撫でたりしながら謝る。

 こうしてみると、俺のほうが頭ひとつ分くらい大きいのか。以前は軽々持ち上げられていたというのに。今ではすっぽりと俺の胸の打ちに収まってしまう。

 

 でもこの肌で感じる柔らかさのボリュームを鑑みると今ペンギンフォームで抱きしめられたらすっぽり収まれてしまうのは俺のほうではないだろうかいやいや待て俺一応真面目に詫び入れてるところなんだからちょっとそっち方面は控えてだねああでも気持ちいいです。

 

「………………馬鹿。馬鹿」

 

 馬鹿、と一つ言われるたびに、ぽすんと弱弱しく胸を叩かれる。先ほどまでの修羅のような気迫が嘘のような、見た目どおりの華奢な女性のままの振る舞い。

 不思議なことに、その一発一発が俺の心を震わせていた。こんなに弱いのに。

 

「ただいま、幽香」

 

 ぽろっと口から零れた言葉。そういえば、いってきますは言えず仕舞いだったっけ。なんて躾のなってないペットだろうか。

 でもちゃんと、ただいまは言えたから良しとしよう。して下さい。お願いします。

 

「……おかえりなさい、鳥さん」

 

 背中に手を回し、幽香も力をいれて俺を引き寄せる。

 見上げるその表情は、昔の笑顔のままだった。

 

                         ★

 

「ふーん、そう。随分と面白おかしく過ごしていたようね、貴方」

 

 どうも、鳥頭です。

 何故か対面に座っている女性がとても不機嫌です。理由が分からない理由はすでに述べています。

 誰か助けて。

 

「貴方がいつか帰ってくるかもしれないと私が待ちわびていた間、それはそれは愉快な旅路だったようで」

 

 ああ、はい。大体分かった。唇を尖らせる幽香を微笑ましく見つめながら、

 

「だからごめんって。帰りたくなかった訳じゃなくて、帰り道が分からなかったんだって」

「それでも、探そうと思えば十年程度で帰ってこれたんじゃない?真面目にここへ戻ろうとしていれば」

 

 そういわれると弱いんだけど。途中から完全に物見遊山が目的にすり替わっていたのは自覚あるしな。

 申し訳ないと思っているが、それ以上に頬を膨らませて拗ねる幽香が尋常じゃなく可愛いと思ってしまう俺の脳みその馬鹿。

 

「で、今はあの八雲紫のところで飼われてるわけ?あのスキマとかいう気持ち悪いのから出てきてたし」

「飼われてるわけじゃないよ。アイツの家で一緒に住んでて、ご飯を作ってもらって、日がな一日ごろごろしてるだけだよ」

「それは私と暮らしていたころと一体何が違うのかしら」

「俺が人型なところだな」

 

 逆に言えばそれ以外はほぼ変わらない。幻想郷設立の手伝いも、ここに居た頃していた草花の世話の手伝いで置換できるし。

 というか、ペンギンならペットだけど人ならこれヒモじゃないですか、やだー。ちょっとショック。

 

「ああ、そうだ。そういや俺、ここには交渉で来たんだった」

「交渉?……ああ、あれね。人と妖怪が共存できる楽園を作るからそこへ来て欲しい、ってやつ」

「そうそれ。で、どうよ?」

「紫にも言ったけど、興味ないわ。私はここで花の世話ができればそれでいい。神様ごっこなら他所でやってちょうだい」

 

 なるほど、確かに無関心。というか納得。こいつならばそう言うだろう。昔と変わらない姿にちょっと嬉しくなる。

 いかんいかん。過去を振り返りすぎている。まるでお爺ちゃんのようだ。俺は未だそんなに老けてない。

 

「興味は無いなら、断る理由もないだろう。紫とその式ならこの辺の土地を丸ごと転移させることも可能だろうしな。それに、これはきっと花を守ることにも繋がるぞ」

「……どういうこと?」

「最近、人間が力をつけているのは知っているだろ?霊力とかじゃない、もっと別の方面の力を」

「そうね。陰陽師とかいうやつらも最盛期に比べれば減ったわ。代わりに武士とか名乗る野蛮な奴らが増えたけど」

「そうそう。んで、もし人間がここを攻めて来た時に、万一にも花が傷ついてしまうかもしれない事態はお前も避けたいだろう?」

「必要ないわ。ここへ来る様な、そして花を傷つけようとする輩は例外なく土の肥やしにしてきた。今までも、そしてこれからもね」

 

 そのスタンスも変わってないのな。今は十分強いから、やられそうなるってこともないのだろうけど。

 

「でもそれも絶対じゃないだろ。例えば、森に火とかつけられればどうだ?消火が遅れて僅かでも花が燃えてしまったら?やった奴らを殺しても花は還らない。それを良しとするお前じゃないだろ」

「……分かった風な口を」

「分かってるからな。とにかく、最近の人間は小賢しくなってきたから気をつけましょうって話だよ。人に消される妖怪も増えてきた。人間は昔に比べて強くなっている。厄介な、面倒な方向にな」

 

 昔は真正面から名乗って挑んできたくせに、最近じゃあ騙まし討ちとかするらしいからな。まあ間違ったことをしてるわけじゃないけど。

 

「楽園ではそういう力関係がぐらつくことがないように、人間側の文明の程度を幾らか抑えると紫は言っている。なにより俺もすぐに向かえる。これで花は大丈夫だろう。どうだ、悪くないだろ?」

「そうね……」

 

 幽香はテーブルに頬杖をつき、窓の外に視線を向ける。風に揺られ光に照らされる一面の花達を見ながら、しばらくして、

 

「……いいわよ。楽園とやらにいってあげるわ」

 

 ミッションコンプリート。やったね。

 

「随分とあっさり決めるな。紫が梃子摺ったって言うからもう少し粘るのかと」

「アンタも言ったとおり、私からすればどちらでもいいことだしね。花さえ育てば何処でもいい。この土地に固執する理由もないしね」

 

 なんでもないように語る幽香に、やはり違和感を拭えない。

 今しがたの俺の話はほとんどが紫からの入れ知恵であり、紫からの受け売りだ。おそらくは既に当人がしたであろう演説を、俺が繰り返しただけで何故こうもすんなり納得されてしまうのか。

 嘘を言ってるようには見えないので、受け入れた理由は本心なのだろうけど、

 

「……なあ、幽香。もしかしてだけど」

「何よ」

「お前が紫から話を受けた時断った理由って、いつかここに俺が戻ってくるかもしれないと思ってたからか?」

「――――――っ!?」

 

 あ、図星だ。まるで頬がチューリップのように。

 ああ、どうしよう、ニヤニヤが止まらない。嬉しいのと愛しいのが半々くらい。なんだこいついい女過ぎるだろう。

 

 堪え切れずにぐふぐふと口の端から笑い声を漏らしていると、ぎろりと凄い目で睨まれる。でも顔真っ赤。可愛らしくてぜんぜん怖くない。

 

「何時まで笑っているのよ、失礼な奴ね!人が優しくしていれば調子に乗って!ならこっちにだって考えがあるわよ!」

「なんだ?出来ることなら聞き入れるけど」

「楽園とやらに行く条件よ。私が楽園へ行く代わりに、アンタ、私に飼われなさい」

「いいですよー」

 

 快諾。なにやら言い切った顔をしていた幽香はそのまま固まった。

 願ってもない条件だ。勝手に飼い主の元を飛び出しただけでなく、そのあとどっかの姫様に飼われるという不義を仕出かしたこの身。まさかもう一度お側に置いて頂けるなど望外の光栄。そのご命令、甘んじて受け入れさせて頂きます。あ、ちょっと電波が混戦している見たいです。

 

「……いいの?」

「言った本人が不思議そうにするな。構わん。お前との暮らしは悪くなかった」

「でも、だって……嫌じゃないの?鳥だったときならまだしも、しっかり自我が目覚めた今、誰かに飼われるなんて」

「ん?ああ、勘違いしてるのか。俺はお前と会ったときから俺のままだぞ」

「え」

「あの時から俺は何も変わっていない。人型になんても鳥になっても中身は俺だった。氷室ギンだった。名前はその場しのぎでつけたけど」

「わ、私の大切な思い出が穢されていく……」

 

 なんて言い草だと文句のひとつも言いたくなるが、幽香の落ち込みっぷりがガチだ。あいつの周りだけ澱んで見える。本人にも生気が感じられない。俺は一体どんな目で見られているのだろうか。気になります。

 

「……やっぱり飼われる云々はいいわ。アナタへの意趣返しのつもりだったし。渋るかと思っていたら嬉々として受け入れるなんて、予想外にもほどがあるわよ。お願いの変更はできるかしら」

「引き受けよう」

「あの姿になって、ぎゅってさせてくれない?」

「はい、喜んペン!」

 

 言葉の途中で変化を解きペンギンへ変身。やや行儀悪くテーブルに乗って幽香の前へ。憔悴した目をした彼女は俺の姿を見て儚く笑いながら優しく抱え上げ、抱きしめた。

 

 …………うん。わが生涯に一片の後悔無し!

 

「あら?」

 

 幽香が俺を支えていた片方の掌を見て不思議そうな声を上げる。今俺の体は片手と凄い二つのまん丸で支えられている状態です。凄い安定感!死んでもいい!

 

「鳥さん、アナタ毛が抜けているけど、病気かなにか?」

 

 ……ペン?

 

 




オレ、ジュケンセイ
コウシン、オクレル
ボクハワルクナイ
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