東方人鳥録   作:ぽぽろっか

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2羽~はじめまして~

「はっ、はっ、はっ」

 若草が萌える草原を、彼女は全速力で駆ける。

 少女――後に風見幽香と呼ばれ妖物人間問わず恐れられるようになる、しかし今はただの幽香である花妖怪の彼女は、自身の持つ能力によって花々と深い関係を持っている。そして今、その能力のお陰で聞こえてくる花たちの声がおかしいことに気付き、そこへ向かっている。

 始めのうちは距離があったせいではっきりとは聞き取れなかったが、徐々に近づくにつれて花たちの声が鮮明になってきた。

 

『ヒャッハー!』

『きた!今ちょっとかすった!これで勝つる!』

 

「………」

 あの綺麗な花たちがこんなことを言っているとは信じがたいが、それはこんな支離滅裂なことを口走るほどの状況に彼らが置かれているんだ、と彼女は考え、さらに走る速度を上げた。

 

 これから先の未来において、強者との戦いを酷く好むことになる彼女だが、彼女の持つ能力は戦闘には不向きであり、行われる戦闘は全て彼女が持つ妖力や身体能力によるもの。今はまだ成長途中ではあるが、それでも彼女の脚力は普通の人間などとても及ばないものだった。

 

 彼女が通り過ぎるその勢いだけで周囲の草花が千切れてもおかしくは無いのだが、妖力を、こう…いい感じに運用することによってそれを防いでいる。急いでいるときにそんなことをするのは大きな足枷になるはずなのだが、彼女はそんなこと気に留めた様子も無い。それほどまでに彼女は草花を愛している。

 故に、その草花に危害を及ぼす者がいれば、彼女は一切の情け容赦なくその者を叩き潰すだろう。

 

 絶え間なく頭に響く花たちの絶叫や嬌声に歯噛みしながら、ようやく彼女は声を上げていた花たちの元へとたどり着いた。

 そこでは、

 

『キャッホー!モフモフしてるモフモフ!』

『なにこれかわいい』

『ああ!今!今羽が私の双葉に!』

『ずっとお尻の毛が当たってる俺は勝ち組』

『おいそこかわれ』

 

「………」

 花たちの叫びがもう理解不能というか、脳みそが自動的にシャットダウンするくらいの内容になっているのはさておき。注目するべきは花畑の真ん中で丸くなっているあの一匹の生き物だろう、と彼女は思考を纏め、花を一輪も潰さないように気をつけながら近づいていく。

 

「うわぁ…」

 思わず声がでた。

 

 ここらでは見たことの無い生き物だった。鳥だろうか、左右にある羽がそうであることを表しているが、その丸みを帯びた体はお世辞にも飛ぶのに向いているとは思えない。体の前面は白い羽毛に覆われており、頭頂部は黒く、背中周りや羽は灰色。ただでさえ小さいその体躯をさらに小さく丸め、時折寝返りを打ったり羽を動かしたりしている。その度に周囲の花たちが喝采を上げているのは気のせいだろう。

 とにかく、その鳥の姿は、

 

「かわいい…」

 

 今までは綺麗に咲いた花にしか抱かなかった感情だが、この鳥にはそれと同じ、いやそれ以上のものを感じた。

 

「………」

 

 鳥の姿を見つめながら何かを考える少女。やがて、

 

「…こんなところで眠って、他の動物や妖怪に襲われたら大変だもんね」

 

 誰にとも無く、ともすれば言い訳にように呟き、そっとその生き物を抱き上げる。フワフワの手触りを楽しみつつ、ブーイングを上げる花たちを一切無視して帰路をたどり始める。

 その足取りは、とても軽やかだった。

 

 

                           ★

 

 

 ――花の香りがする。

 寝ぼけてまだあまり回転しない脳みそにただそれだけが浮かぶ。甘くて優しいその香りに更なる眠りへと誘われるが、なんとか堪える。

 いつもより重たく感じられる体をどうにか起こし、羽を振り回したり腰(?)を捩ったりして覚醒を促し、ふと気付いた。

 あれ?ここどこだ?野外で眠りについたはずなのに、どういうわけか建造物の中にいるんですけど。なんかテーブルっぽい台の上に載せられているんですけど。

 

「――うふふ」

 

 なんか緑色の髪の女の子に笑われてるんですけどぉぉぉぉぉおおおおおおおお!?

 おおおお落ち着け俺、クールだ。KOOL…じゃない、COOLになれ――えーっと、ヤバい自分の名前忘れた。ショックで頭が冷えたからよしとする。

 うわー。うわー。恥ーずーいー。さっきの動作なんかペンギンボディでやってたらそりゃ愛くるしくて笑われるよ。

 

ふう……まあいい。とりあえず、この緑の髪の(緑?)女の子が、野外で寝転がってた俺を危うく思ってここまで運んでくれたんであろう事はフィーリングで把握したので、そのお礼とはじめましてを併せてお辞儀をする。

 

「え? あ、ご、ご丁寧にどうも」

 

 やや慌て気味にお辞儀を返す少女。かわええな。

 その動作にほんのりしていると、少女は笑顔で、

 

「鳥さん。私の名前は幽香っていうの。よろしくね」

「くあっ」

 

 と返す。ペンギンの鳴き声なんか知らないので適当に。幽香、か。いい名前だ。

 

 自分の言葉を理解してくれたのが嬉しいようで、幽香はますます笑顔になる。そして、

 

「私、これからご飯なんだけど、よかったら鳥さんも一緒に食べる?」

 

 と訊いてきた。

 

 ふむ。ご飯か。南極を出発する直前に食ったアザラシはとっくに消化されてるし、海を泳いでるときも早く陸にたどり着くのを優先して食事は二の次にしてたから魚を二、三匹。それも最後に食ったのは大体二日前。俺の胃袋は現在進行形で空っぽである。

 

 生き物にとって、食事というものは非常に重要なものである。体の活動に必要であるというのは言わずもがな。それだけではない。腹が空いている空いていないというのは、精神状況にも影響を及ぼすものだと思う。

 

 それだけではない。食べるものの味も重要だ。美味ければテンションは上がるし、そうでなければそれは下がる。そういうのは割りと大切なところだと思う。だから、味なんか関係ない。腹が膨れればそれでいい、とか言ってる人達は人間やめてると思う。というか食べてる食材に失礼だ。絶食してとっとと死ねばいい。

 

 と、まあ。いろいろ言葉を並べたわけだが、結局のところ何が言いたいのかと言うと、俺はお腹が空いているのであって、

 

「くあ」

 

 もう一度、お辞儀をしたのであった。

 

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