さくさくと。砂を踏み草を踏み、歩き続ける我らがペンギンさん(人型)。ぶらり旅の真っ最中である。
一体どれだけの月日が流れていったのか。日にちを数えることも面倒くさいペンギンにはさっぱり解りません。数日ぶっ続けで歩き通したと思ったら、今度はその何倍もの時間惰眠を貪る。生活習慣なんか乱れまくり。時間感覚も消失してしまっている。
ペンギンが歩くのは、普通の道だったり獣道だったり道なき道だったりと、とにかく風の吹くまま気の向くまま、ぶらりぶらりと歩き続けている。目的地など考えていない。
そんな旅をしているからだろうか、行きつく先はロクでも無いところばかり。時には周辺地域から極悪凶悪と恐れられている妖怪の巣に入り込んだり。決められた周期で妖怪に生娘を一人生け贄として捧げるなんてことを本当にやってる村にベストタイミングでたどり着いたり。波乱万丈である。
当然ながら、彼はそんなのとは出来るだけ関わり合いたくはないので逃げようとするのだが、ぶっちゃけ逃げられた試しがほとんどない。あれよあれよという間に、気がつけば妖怪と対峙することになっている。
そうなったとしても、自分の何倍もの体躯を持つ醜悪な妖怪を、彼は文字通り一蹴して消し飛ばすことができた。意外にペンギンは強かった。
そんな彼が本日たどり着いたのは、どこかの国のどこかの地域にある(ペンギンが知らないだけ)デッカイ神社だった。その大きさに感嘆しながら階段を上り鳥居を潜る。前世からの無駄な記憶で参道の真ん中を歩いてはいけないということは知っていたので実践し、賽銭箱の前まで来る。
賽銭をいれ(妖怪を倒した謝礼とかで結構な額を貰っているので懐はあったかい)、がらんがらんと鈴を鳴らし、二拝二拍手、そして、
「美少女に会えますようにっ!」
全力で願った。この男、歪みねぇ。
深く一拝。本来ならこれで十分なのだが、ペンギンは目を閉じ手を合わせたまま、厳しい顔をしながら祈り続けている。どんだけ叶って欲しいんだよ。
たっぷりと五分程。純粋で不純な頼みごとを続けた彼はようやく満足したのか、体を脱力させる。願い事も済んだしもう行こう、と思い
「え、えっと…そういうお願いは困っちゃうんだけどな…」
と困惑した感じの声が聞こえたので、そちらへ振り返った。金髪美少女がいた。
「早速願いが叶った。神様マジありがとう」
「え?私まだ何もして…ってちょっと!何でそんな大金賽銭箱にいれるのさ!?」
美少女に出会ったことによりテンションが上がり狂ったように賽銭を入れ続けるペンギン。その光景に驚きとりあえずは止めさせようと抑えにかかる美少女。それによってさらにテンションの上がる彼。悪循環。
――これが、ペンギンの妖怪ギンと、祟り神洩矢諏訪子のファーストコンタクトである。……締まらねぇ。
★
「ほうほう。お嬢ちゃんは神様なのかい。ヘー、偉いねー」
「いや絶対信じてないでしょ。それにお嬢ちゃんじゃない。私には諏訪子って名前があるんだから」
怒っているのか呆れているのか解らないけど、とりあえず可愛いからいいだろう。異論は認めん。
にこにこ。もしくはにやにやと笑い続ける俺の表情から何かを読み取ったのか、諏訪子はむっとしたような顔になり、ぷいっとそっぽを向いて、縁側に腰掛けたまま地面に届かない脚をぶらぶらしだした。やべぇカワイイ押し倒したい。
「んで、その神様の諏訪子はこんなところで何やってんだ?」
「こんなところって、神様なんだから神社に住んでるんだよ。人がまったりしてる時にいきなり敷地内に妖怪が入り込んできたもんだから何事かと思ってね」
うん?俺が妖怪だって解るのか?
「解る解らないじゃないよ。そんな強い妖気垂れ流しにしといて、よくバレてないと思えるね」
「なん……だと………」
そんなこと言われたって妖気なんて知らないよ。つか妖気だだ漏れとか、明らかに面倒ごとを引き込む伏線だろう。
………待てよ、今諏訪子が俺の隣にいるのは何でだ?俺の妖気を察知したからだよな。つまり、妖気は面倒ごとを呼ぶかもしれないが、それと同時に美少女も引き寄せるのかも入れない。
………よし。
「はぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺は全身に力を籠めて、持てる妖力(らしきもの)の全てを放出した。その余波で周囲は風が吹き荒れ、立っているところを中心に地面が凹む。
「ちょ、ちょっと!いきなり何してんのさ!」
飛ばされそうになる帽子を押さえながら諏訪子が声を上げる。だが関係ない。さあ、来い!美少女ぉぉぉぉぉ!
―――ゴスッ!
「か……ぁっ」
不意に横っ面に、何かが物凄い勢いでぶつかる。勢いに押された俺の体は物理的に空を飛んだ。
「まったく、一体何事だい?」
何かが来た方から声が聞こえる。声の主の姿はわからないが、しかし俺の本能はそれが美女だと告げていた。
★
俺を吹っ飛ばしたのは八坂神奈子という綺麗な女性だった。美人だった。美人でした。最重要項目なので二回と言わず何度でも言いたい。
彼女はこの神社に祀られている二柱の片方らしい。境内にて妖力の爆発があったため何事かと思ったらしい。俺にダメージを与えたのは近くに諏訪子がいたからだそうだ。失敬な。俺が美少女に危害を加えると思っているのだろうか。嘆かわしい。まあ美人だから許す。
で、残った方の神様が諏訪子だという。初対面からなにやら得体の知れない力を感じていたから、納得といえば納得だ。……本当に神様だったとは。てっきりあの年頃の子どもにありがちなごっこ遊びかと思ってた。
んでまあ、ちゃんと事情を聞いた神奈子が俺に謝罪し、俺からすればあれはむしろご褒美だったので気にせず許すことにした。
すると、何でかは知らんが俺は二人に気に入られた。神様だと知って敬語を使ったらいらないと言われたし。当人ら曰く、懐の深い男は嫌いじゃないそうだ。どうも先ほどの攻撃は中小妖怪ならば消し飛ぶ程度の攻撃だったらしい。年上のお姉さんに厳しくされるとか天国か。
気絶していた俺を介抱してくれていた巫女さん(可愛い系だった)にきちんとお礼をいい、さてそろそろ発つか、と思っていると、酒瓶持った諏訪子と神奈子がいい笑顔で誘ってきた。当然、一も二も無く俺は了承した。
人間だった頃とペンギンになってからの年月の中で酒を飲んだことなど無い。精々が甘酒程度だ。どう考えても二十歳は超えているので、ハングリー精神に基づき飲酒にチャレンジしてみた。案外たいしたこと無かった。とはいえすぐにぐびぐび飲めるわけが無いのでちびちびとなめる感じで。
一方で俺を誘った二人はといえば、最初こそはゆっくりとしたペースで飲んでいたものの、酒が飲めない俺がその場しのぎに酌やら何やらをしているうちにだんだん飲むスピードが上がっていき、
「アハハハハハハハハハ!」
「アハハハハハハハハハ!」
完全に出来上がってしまった。
神奈子は徳利に注ぎながら、しかしアルコール初心者の俺とは比べるべくも無いようなハイスピードで飲み進め、諏訪子は瓶から直接ラッパ飲みをし出している。ぐいぐいと煽る様は見た目少女なのに漢らしい。
申し訳なさそうにしながら追加の酒とおつまみを置いていく巫女さんに苦笑で返しつつ、そろそろ場を収める努力をするか、と気合を入れる。
まずはある程度分別があるだろう神奈子からだ。
「おい、神奈子。飲みすぎだ。そろそろ止めとけ」
「はっはっは。何を言っているんだギン。まだまだこの程度じゃ飲み足りないよ。ぶはぁ」
「うわ、酒くさっ!もう寄せって。お前べろべろに酔ってるじゃんか。神としての威厳が消え去るぞ」
「うるさいなぁ。私は酔ってなんか無い」
「酔ってるやつはみんなそう言うんだよ。いいからもうやめろって」
「んぁ?ギン、お前分身なんかできたのか。三人に見えるぞ」
駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。
俺の横に向かって腕をぶんぶん振り回しながら「あれ?おっかしーな」とか言ってるこの神様はもう手遅れだろう。
…いや、普段しっかりしている大人のお姉さんが酔うと乱れる…………アリだな。大アリだ。
さてまあひとまずそれは置いといて、部屋の隅においてあった壺と会話しだした神奈子はもういったん無視して、とりあえず次は諏訪子にいってみよう。
「お~い、諏訪子やーい」
「んくんくんく、ぷはぁっ。んー、らにぃ?」
「うわ、こっちはもうべろんべろんになってる。しっかりしろチビ蛙」
「……うぅ、あー、かえしてー、わらしのおさけー」
「呂律回ってないし。ダメです返しません」
「なんだよー。わたし神様なんだぞー。祟り神なんだぞー。呪うぞー」
「そうなった時はシシ神さまに助けてもらうさ」
ぐでんぐでんに酔った諏訪子を小脇に抱え「あーうー」どういった経緯をたどればそうなるのか、壺に上半身を突っ込んだまま眠りこけている神奈子を反対側に持ち、ぺこぺこと頭を下げる巫女さん先導の下、二人を寝室まで運んで布団に叩き込み子守唄を歌い聞かせて寝かしつける。…手の掛かる子どもかこいつ等。
そして俺はこの後、巫女さんと飲みなおすことになったのだが……いやいや、まさか巫女さんの酒癖があそこまで悪いとは思わなんだ。飲んでいた酒が『神狂い』なるものだったのは関係があったのだろうか。