いつかの季節のいつかの月。何処かの国の何処かの山中で、傍から見ただけで目を見張るような光景があった。
なななんと、あのペンギン野郎が女性に詰め寄られているというもの。その傍らには小さな女の子の姿も確認できる。
これはまさか、あれですか?無責任な男に向かって女性が「責任とりなさいよ!」とか言うアレですか?
バカな!有り得ない!あのペンギンがそんな経験をしていただとっ!冗談じゃない、オレは信じないぞ!
ほら、こうやって拡大して音声を拾えば……
『ああん?事故だぁ?そう言えば「しょうがないな」とでも言われると思ってんのかぁ!』
『すんませんでしたっ!』
『まあまあ、落ち着いて』
なんだこりゃ。女の人が怒ってて、ペンギンが謝ってて、小さい子が宥めてる。どういうことなの。
仕方ない。ちょっと場面を巻き戻してみるか。
えっと……ペンギンが山道を歩いてて、途中に転がってた石ころを蹴飛ばして、石が吸い込まれるように茂みの奥に消えていって、数秒後にそこから頭にたんこぶこさえた女の人が出てきた、と。
うむ。判決、あの鳥野郎が全面的に悪い。
はっはっは。見ろよあれ。女の人に迫られてタジタジになってやがる。情けね―――ッ!?
い、いや、違う。アイツは困ってなんかいない。ペコペコ頭を下げる振りをして、女の人の着物の袂から覗く谷間を凝視してやがる!
なんてヤツだ……恐ろしい。謝ってるフリとか最低だろ。おまけに見られてる女性は頭に血が昇っていて回りが見えていない。完璧じゃねえか…。
あ、横にいた幼女がギンの視線に気付いた。そして密告。お姉さんは怒りが一周回ってむしろクールに。変態は顔面蒼白に。
言い訳をする暇など与えられず、一瞬で懐に入ったお姉さんのアッパーで、ギンは放物線を描いて空へと飛んでいったのだった…………………………
…………『東方人鳥録』・完!
次回作にご期待ください!
★
「……いやいや、まだ終わらないよ。物語は始まってすらいないんだから」
「……………生きてることは生きてるけど、頭の中身はダメになっちまったみたいだね」
これも全て自業自得だと思って諦めてくれ、と幼女。酷すぎやしないだろうか。
しかし、目が覚めて真っ先に口から飛び出したあの言葉はなんだったのだろうか。どこからか電波でも受信したのだろうか。
まあいいか。
五体倒地の状態からむくりと起き上がり、とりあえず首の調子を確認。……大丈夫、何の問題もない。下手したらエクソシストの少女のようになる可能性もあったが杞憂だったようだ。
何事もなかったかのように振る舞う俺を見て、幼女は驚いたような顔をした。
「ほほう。あれだけの力で勇儀に殴られて大して堪えてないとは。中々の強者と見た」
「女性の攻撃ではダメージを受けない仕様なんです。むしろ回復する勢い」
「なんだそりゃ!」
愉快そうに笑った幼女はくい、と。軽い感じで手に持った瓢箪を呷った。かなり呑み慣れているようだった。
…………………………………………え?瓢箪ですか?ラムネ瓶とかでなく?
くんくんと鼻を鳴らして臭いを嗅ぐと、どうして今まで気づかなかったのかが不思議なくらいの濃い酒の臭いがした。
この幼女、飲んでやがる!
よくよく見たら頬も赤いし足取りもふらふらしている。へべれけ幼女なんて誰が得するのだ。少なくともここに一羽いるが。
だが、子どもの健全な成長を願う俺としてはこんなことは見過ごせない。子どもはきちんと正しい環境で
「というわけでどーん」
「ああっ!?何をする!わたしの瓢箪を返せー!」
一瞬の隙を突いて幼女から瓢箪を奪いその手を高くあげる。幼女はぴょんぴょんと跳び跳ねて取り戻そうとするが、届くはずがない。
しかし一生懸命に頑張るその姿は非常に愛くるしい。垂涎モノだ。必死になっているその表情が見えるのもまた良しだ。股ぐらがいきり立つ。
「って、あれ?」
気が付いたら手の中が空になっていた。見ればブツは幼女の手の中に収められていた。いつの間に。
取り戻した瓢箪を後生大事そうに抱き抱え、幼女はジト目で睨んできた。いいなぁ、瓢箪になりたい。
「いきなりなにするんだよ!飲みたいならそう言え。少しくらいなら分けてやるから」
「いや飲まねえよ。そしてお前も飲むな。酒は体に毒なんだぞ」
「だったらどうした。こちとらもう何年も飲み続けて来たんだ。いきなり飲むのを止めたら、むしろそっちの方が体に毒だよ」
完全にアル中の発想じゃねぇか。
「いやそういうのじゃなくてな、小さいうちから酒なんか飲んでたらさっきのお姉さんみたいなキレイな大人になれないぞ、っていう話をだな…」
瞬間、心臓が止まりそうになるほど強大な殺気が俺を襲った。
ガクガクと体が震える。背中に嫌な汗が浮かぶ。
自慢ではないが、これまで数多くの妖怪と巡り合い、そのうち何体かとは戦ってきた。生まれ持った素質が違ったのか、そこらへんのちょっと力を持ったような妖怪なんか鎧袖一触にすることも可能だ。
そんな俺をもってして、相対しただけで勝てないと悟る、いや、強制的にそう認識させられてしまうほどの圧倒的威圧感。さすがの俺も死を覚悟した。
意を決して、正面を見据える。
殺気の出所はあの幼女だった。俯いてしまっているため表情は窺えないが、その小さな体から放出される妖力と気迫によって周囲の木々はざわめき、足下に転がる石に罅が入った。
「…………私は勇儀より年上だ…」
ぼそりと呟く。え、マジで?
驚愕の声を肉声として発さなかった俺を誉めてほしい。もし今少しでもこの幼女の機嫌を損ねれば、俺は文字通り地に還ることになる。
さて落ち着け俺。クールになって最善の対処法を考えろ。
下手な慰めの言葉をかけるのは一番アウトだ。女性というのはそういうのを嫌がるだろう。
かと言って上手いことを言えるわけでもない。俺はこういう状況で一発ぶちかましてしまう傾向がある。頭を捻れば捻るほど泥沼だろう。
よし。こうなったら、なにも考えずに素直な俺の心境を吐露しよう。
幼女を中心に吹き荒れる激しい妖力に耐えつつ、すたすたと近付き、膝を折って目線を下げる。
ぽん、と肩に手を置き、
「そんなこと気にすんなよ。俺はちっちゃい体もちっちゃいおっぱいも好きだぜ?ほら、そんな風に怒ってたら可愛い顔が台無しだぜ。いや、怒ってても可愛いんだけどさ。でも俺は笑った君の方が好きなんだ。お願いだ、また俺に花が咲いたような可憐な笑顔をみせてくれ」
ぶん殴られた。
羞恥からか憤慨からか、顔真っ赤にした幼女にアッパーを貰った。
気のせいか、殴る瞬間幼女の手が巨大化したように見えたのだが気のせいだろうか。確認しようにも今俺は宙を舞っている真っ最中なのでそれはできない相談だった。
そして意識が暗転する。
★
「お、気がついたようだね」
目が覚めると金髪のお姉さんに覗き込まれていた。さっきのたんこぶお姉さんだった。自然と体勢が土下座に移行する。
「先ほどは重ね重ね申し訳ありませんでした」
「いや、もういいんだよ。一発は返したしね」
あっけらかんと言ってのけるお姉さん。一発って、明らかにレベルが違ったような気がするのだが、細かいことは気にしてはいけないのだろう。このお姉さんはきっと『姉御』と呼ばれる種類の人だ。
それに、と。にやりと妖しい笑みを浮かべ、
「別に見られて困るものでもないしね。見たいなら見たいとはっきり言えばいいのさ」
そう言って腕を胸の下で組み、ぐいとこちらへ突き出すようにおっぱいを主張してきた。しっかりと帯を締めてないのか、着物が緩んでいるためよりくっきりと深い谷間が見えていた。
不随意運動で、
「もっと見せてぶらぁ!」
別に若本さんの真似をしたかったわけではない。いやいつかあんな声を出してみたいとは思っているが。
『下さい』の部分で突然飛来した瓢箪が顔面に直撃したのだ。下手人は少し離れたところにある岩の上で酒をかっ食らってたあの幼女だと思われる。
「何はともあれ、再びこの瓢箪は貰った」
「しまった!」
あの幼女は実は抜けているんではないだろうか。ぼんやり考えていると、いつの間にか幼女の姿は消え、やはり俺の手の中から瓢箪も消えていた。
いつの間にか少し離れていた幼女に向かって、
「いきなり物を投げるとは失礼なやつだな。自慢の鼻がつぶれたらどうしてくれる」
「別にいいじゃないか。元々高くもないんだし」
ぐはっ。やーらーれーたー。
「うえーん。虐められたよー」
「おやおや、可哀想にねぇ」
明らかに悪乗りをしているであろう笑顔を浮かべたお姉さんが、棒読みでうそ泣きをした俺を優しく抱きしめてくれた。見事な谷間に顔が埋まりおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい――
「この浮気者!」
思考がイっちゃってたところに幼女がドロップキックを繰り出してきた。避ける訳がない。
今まで敢えて言わなかったのだが、俺は先ほどから洞窟のような場所にいたのだ。お陰で地面を転がると凹凸が痛くて痛くて。
自然に停止したところで仰向けの腹を踏みつけられた。我々の業界ではご褒美どころか誉れである。
「ていうかお前、浮気者って何よ」
「うっ……うるさい!さっきは私のことが好きとか言ってたくせに、あっさり勇儀に誑かされて!さっきの言葉は嘘だったのか!」
「バカめ。よく思い出せ。俺は『ちっちゃいおっぱいもちっちゃい体も好きだ』と言ったのだ。ぶっちゃけおっきいおっぱいも成熟した体も大好きだ!どっちかなんて選べない!」
「死、っねぇぇええええええええ!!」
踏みつける力が強くなる。死にそうだけど嬉しいのが悔しい。
気のせいかどんどん幼女の重さが増している気がする。ぐえ、中身が出ちゃう出ちゃう。
「罪な男だねぇ」
にやにやしながら徳利を傾けるお姉さんが視界に入った。見てないで止めてよ。
★
「改めて、星熊勇儀。見てのとおり鬼だ」
「……伊吹萃香」
「俺はギン。しがない妖怪だよ。よろしく」
あれからしばらく経って。嬲られる俺と嬲る萃香を肴に呑んでいた勇儀だったが、瓢箪を一本空にしたところでようやく萃香を止めてくれた。
ダメージやら何やらはともかくとして、幼女の小さいあんよで思う存分ふみふみされたという事実だけは忘れないでおこうと思う。
しかし、萃香にはずいぶんと嫌われたようだ。今の自己紹介にしたって勇儀に促されたからしたようなものだし、さっきから目すら合わせてくれない。
どうしたものかと頭を捻る。
「なにがしがない妖怪だよ。アタシと萃香からあれだけ殴られて平然としてるなんて、並みじゃない証拠だよ。どうだい?ちょっくらアタシとやらないかい?」
イイ笑顔で勇儀が言う。アンタさっきの俺の悲鳴を聞いていなかったのか。そして今日だけで二回も俺はアンタらに殴られて気絶してたんだが。
「いやいや、俺なんか全然だって。確かにそこそこは強いつもりだけど、でもお前らみたいな鬼と比べたら有象無象に等し――危なっ」
言葉の最中にいきなり勇儀が殴りかかってきたので慌てて避ける。続けての攻撃も考慮し、二歩、三歩とバックステップを繰り返す。
地面にめり込んだ拳を引き抜き、勇儀はニヤリと笑った。
「ほぉら。仕留める気で襲ったのに涼しい顔してやがる。やっぱりお前強いよ」
なんでこの鬼さんは俺を強い人にしたいの?俺になんか恨みでもあるの?心当たりはないわけじゃない。
顔に浮かべる笑みを深くしながら勇儀は再び飛び掛ってくる。速い。が、避けれないほどじゃない。一度はこんな台詞を言ってみたかった。
地面が抉れるほどの踏み込みから放たれた拳を後ろに下がって避ける。同じことを繰り返すのは芸がなかったのか、素早く体を動かし今度は鋭い蹴りが繰り出される。
顔面狙いのそれをしゃがんでやりすごす。ふと顔を上げると、勇儀の着物の裾が蹴りの勢いでめくれ上がり中身が見えていた。褌だった。際どかった。
「ひゃっほう!」
「ノってきたみたいだね!」
テンションが一瞬で振り切れた俺を見て勘違いした勇儀が叫ぶ。この娘はこの娘でどっか抜けてるな、と思いつつ、自らの動きを加速させる。
拳と蹴りの連撃を紙一重で交わしながらさらに内へ内へと潜り込む。くそ、ダメだ!揺れる何かに目を奪われるんじゃない。これは罠だ!
「どうしたどうした!もっと頑張れよ!」
反撃したいのはやまやまなんだが、如何せん、急に勇儀の動きを見切れなくなった。ギリギリでかわすことしかできない。どうしても目が動かない!
「この……っ!」
突如激しい悪寒が走った。湧き上がる本能に従い、その場から大きく距離をとる。
次の瞬間には、今の今までいた場所に大きな岩が落下してきた。
こんなことをするのは――
「なんだい萃香、お前もやる気になったのかい」
「…ああ。ちょっと興が乗ってね」
と言うわりには声が平坦で無表情だ。しかし、その中に隠しきれない激情があるのがわかる。これはまさか、また気づかれたのか。
二対一になり形勢は不利だ。現状を打破するためにも、俺はある提案をする。
「萃香も参加したことだし、ただ殴りあうだけじゃ面白くないだろう。どうだ勇儀、ここらで勝ち負けの条件を決めないか?」
「構わないよ。勝負はアタシらから吹っかけたんだ。それはアンタが決めるといい」
「じゃあこうしよう。萃香の瓢箪を奪い、十秒それを保持できれば俺の勝ち。一度奪われた瓢箪を奪い返されるか、その前にのされたら俺の負けだ」
「そんなのでいいのかい?そっちが不利なように思えるけど。鬼ってのは正々堂々とした勝負を望むんだけどね」
「問題ない。俺としてはこれ以上ないくらいの条件だ」
「ならいい……よっ!」
踏み切ってからの重い一撃。壁際まで追い込まれていた俺は上に跳んで逃げるが、拳は壁に突き刺さり天井まで続く亀裂を生み出した。
「なんつー馬鹿力してんだ」
思わずぼやく。宙で体を動かし天井に足を着け、慣性の力によってそこに留まっているうちに手を置いて能力を使用する。
「「なっ!?」」
勇儀と萃香の声が重なる。いきなり洞窟が一面凍りつけばそうなるのも分かる。
その隙に天井を蹴って移動する。一目散に萃香の元へ。二人の足は床ごと凍らせているので思うように動けないだろう。
当然、突っ込んでくる俺を迎え撃とうと萃香は拳を振るうが、決め手はリーチの差。萃香の拳が届くより先に、俺の手は萃香の腰の瓢箪を掠め取った。そのまま一目散に離れる。
「このっ!」
滑りながら着地した俺の視界の中で、萃香の体が忽然として消えた。やや面食らいながらも、しかし一方では冷静に、瓢箪を持っていない方の手を持ち上げ、虚空を掴む仕草をする。
そして、瞬きよりも短い瞬間の後に、その手は萃香の着物の襟を掴んでいた。
「―――っ!?」
動揺に固まる萃香の体を凍結する。ぱっと手を離して地に落ちた萃香は雪だるまみたいになっていた。というか俺がそうした。
「はぁぁぁぁああ!!」
咆哮。そして破砕音。素早く振り返ると、勇儀が力ずくで足下の拘束を破っていた。うっそだー。結構がんばって凍らせたんだよそれ。
「やるじゃないかギン!こんなに楽しいのは何百年ぶりだろうね!さあ、これならどうする!」
喜色満面で走る勇儀。だがその姿からはさっきまでとは違うなんだかヤバい気配がする。その証拠に一歩踏みしめるごとに足元の氷が下の地面と一緒に砕けていく。
腹の底から出された声とともに、今までの拳が子どもの喧嘩のように思えるほどの重い一撃が繰り出される。これは強い。紙一重でかわせたとしても風圧で皮膚くらい切れそうだし。そもそも避ける余裕がない。完全にその気迫にのまれてしまいタイミングを逃した。
受けれない。かわせない。往なせない。避けれない。ならば。
向かってくる拳に対して引くのではなく、むしろ一歩踏み込む。手を伸ばし着物の袂を掴み、もう一方で拳のほうの袖を掴んだ。くるっと回って、足をかけて体を浮かせて、
「えいやーっ!」
一本背負いである。
バーン!と重い音を立てて逆さまに勇儀は壁に激突する。その背面を凍らせ、勇儀を壁から離れられなくしてから、
「十秒、経ったな?」
確かめるように、宣言した。
★
「んっんっんっ……っぷはぁ!………いやぁ、それにしても。やっぱり強かったねアンタ」
「そうだね。あれだけ強いんだったらいつだったかの私らの拳も避けられたんじゃないのか?」
「世の中には避けていい拳と避けちゃいけない拳があるんだよ。ネタ的に」
ケンカが終わったら酒盛りだった。拳を交わしたら飲み友達、とかいつの時代の学園ドラマだよ。
瓢箪を呷る。中身は薄く濁ったお酒。ようは濁酒。飲みやすいが、調子に乗って飲みすぎると後悔することになるので程ほどに。能力で何とかできないわけじゃないけどさ。
対して、鬼のお二方は『二日酔い?なにそれ美味しいの?』といった様子で、俺より強い酒を俺より遥かに多い量で俺より速いペースで飲んでいる。というか単位が~樽っておかしくね?
ちまちま杯に注ぐのが面倒になったのか、とうとう樽から直接のみ始めた勇儀を左に置き、右に萃香ときて鬼に挟まれる陣形。一応並んで酒をのめるくらいには萃香との仲は修復できた。
というのも、どうも胸の大きさについて悩んでいる様子だったので、
「いいか萃香。おっぱいというのものには確かに差がある。大きさだったり柔らかさだったり形だったり色だったり。それは男からしたら単なる好みの問題だが、女性からしたらそうじゃないのかもしれない。とても重要なことなのかもしれない。特にお前みたいな持たざるものからしたら勇儀みたいなたゆんたゆんな人は妬ましいのかもしれない。でもさ、萃香。俺はこう思うんだ。おっぱいの大きさなんて、どうだっていいじゃないか。みんな違ってみんないいんじゃないか。だってさ、大きかろうと小さかろうと無かろうと垂れていようとどうであれ、おっぱいはそこにあるんだから。少なくとも俺はそう考える。おっぱいがあるだけで俺は救われる。おっぱいがあるだけで俺は戦える。おっぱいに貴賎は無いんだ。おっぱいという存在そのものが神々しいものなんだ。おっぱいはな、かけがえの無い大切なものなんだ。おっぱい――」
この時点で萃香と勇儀にぶん殴られた。まだ言いたいことはあったのに。あれ?萃香を励まそうと思ってたのに、気がついたら俺の趣味思考を暴露してた。恥ずかしい。
しかし俺の話を聞いて萃香は何か思うところがあったらしく、それ以上自らの胸について考えるようなことはやめた。結果オーライというやつである。
「そういえばギン。お前あれどうやったんだよ」
いきなり勇儀に問いかけられる。アレって何だろう。そして勇儀はもう樽を飲み干したのかい?質量保存の法則ってなんだったっけ。
「あれって?」
「ほらあれだよ。ケンカのときに萃香が散ったのをどうやってまた集めたんだい?」
「ああ、それなら私も気になってた」
散る?つまり、体を細かく分散してまた別のところで再構成してるってのか。俺はてっきり瞬間移動の類かと。
「萃香よ。お前のあれは能力なのか?」
「そうだよ。『密と疎を操る程度の能力』。ようは萃めたり散らしたりする能力さ」
「そっかそっか。俺の能力は『ありとあらゆるものを凍結する程度の能力』っていうんだけどさ、さっきのは多分散った萃香の強引に凍結して固めたんだと思う」
「へぇ。そんなことができるのかい」
「そこはほら、気合で」
「なんだそりゃ。そんな大層な名前してるんだからもっと自信もちなよ」
「いやこれは名前負けだって」
つまらない話をしながら酒を飲み続ける。
「二人が言ったからには、アタシも能力を紹介しないといけないね」
「「いや別にいい」」
「なんでだいっ!」
「もう知ってるし」
「すまん、ノリで」
「アンタら……はぁ、怒るのも阿呆らしい。とにかくアタシの能力は『怪力乱神を持つ程度の能力』だ」
「ほほう。名前からしていかにも力が増しそうな感じだな」
「まあ私ら鬼は元々もってる力が大きいから、使わないといえば使わないんだけどね」
「うっさい」
二人の顔が大分赤くなってきた。俺もかなりアルコールが回っている。だが何故かやめられないとまらない。
「お前ら地元じゃ四天王って呼ばれてんのか」
「なんかイヤだねその言い方。でも、そうだよ。で、もう古巣じゃ骨のあるやつがいなくなったから強いやつを探してあちこち旅してんのさ」
「でもなかなか強いやつに出会えなくてね。それなりにやれるのはいるんだけど、ギンくらいのになるともう全然」
「いやいや。俺を強いやつに分類しないでくんない?俺なんか全然だって」
「……またそうやって。アタシら鬼は嘘が嫌い、って知らないのかい」
「嘘じゃねえよ。さっきのは決め事があったから勝てたのであって、純粋な殴り合いじゃ二人には勝てないよ」
「ふん。あの身のこなしでそんなわけが無いだろう」
「そういうんじゃなくて。お前らみたいな美人をどうやったって殴れるわけが無いだろう」
「「…………ばーか」」
喉の動きは休むことは無い。酔いは自意識が保つギリギリのあたりで凍結したからこれ以上酔うことはないだろう。鬼の二人は言わずもがな。
いつの間にか萃香に酒を注いでもらっていた。濁酒とは比べ物にならないほどの強い酒だが、しかし今の俺には心地いい。俺が注ぎ返し、続けて勇儀にも注ぎ、勇儀と萃香に同時に注がれこぼれないように慌てて口をつける。
結局、その場の酒がすべてなくなるまで酒盛りは続いた。最後のほうは記憶が無いが、気がついたら三人とも全裸だったのは覚えている。
何があった……。