人間は生まれながらに罪を背負っていると誰かが言った。本当にそうだろうか。私には分からない。生まれた時から罪を背負うなど誰が喜ぶものか。
私は罪を否定する。だって、悲しいではないか。無垢たる命がたかだか過去に生きた存在に罪を背負わされるなど、私には理解できないし許せない。
だからこそ私は負の、悲しみの、憎悪の連鎖を否定し、断絶する。それが唯一私に許された"力"だから。
いつか私を解放する者が現れたとしても、私は変わらず歩み続けるだろう。
――名も無き少女の夢の中
◇◇◇◇◇
――覚醒する。
「――ここは『やあ、おはよう。僕だよ』……警察呼ばなきゃ……!」
目覚めた瞬間に目の前に顔があった。美少年だ。だがこいつは。
『警察いないけど』
「うるさい! お前! 許さないからな! あの時はよくも――」
こいつを殴ろうとした時、腕が何者かに掴まれた。
『こーら、女の子がそんな口調使っちゃダメよ? それに乱暴もダメ。女の子は美しく、優雅に、たまにお茶目でなくちゃ!』
ふわっと銀糸のような水色の髪が頬にかかる。
「……誰ですか?」
あまりに美しい女性に触れられて胸が熱くなる。頬も赤くなってしまっていないだろうか。
女性は向日葵のような笑顔で微笑み、あすなろ抱きのまま答えた。
『ふふふ、私は水星の意思体のマーキュリーよ。マーちゃんと呼んでくれてもいいのよ?』
「水星の!?」
『あらあら、そんなに驚いてくれるなんて、お姉さん嬉しくなっちゃうわ』
『君たち、僕の話を……』
アースの話は無視である。聞いてやらないこともないが、とりあえず無視することにした。
『まあまあ、あっくんも話は一旦おいて、お茶でも飲みましょう』
マーちゃんが人懐っこい顔でそう言うと、諦めたように肩をすくめ、アースは近くの椅子に座り、テーブルの上にあるお菓子を食べ始めた。
『ほら、あなたも一緒にお茶にしましょ?』
「は、はい」
私はぎこちなく返事をし、ベッドから起き上がって席についた。目の前ではアースがもぐもぐと菓子をほおばっている。マカロンだろうか。
『ふぉれふぁあはひふぇほうか』
『飲み込んでから話なさい』
アースにアイアンクローを決めながらいい笑顔でおっしゃるマーキュリーさんに手が震える。慈悲は無いようだ。
『いてて、まあ痛覚ないんだけどね』
「ないのかよ」
『コレはほっといてマカロンはいかが? 手作りなの!』
庇護欲を感じさせる顔で言われたら断れません。正直食欲ないけど、守りたい、この笑顔。
では一口。
「もぐもぐ、んく」
これは……!
『どうかしら?』
「おいしいです! こんなおいしいマカロン初めて食べました!」
『あらあら、あらあらあら! 嬉しいわぁ!』
両手を合わせて嬉しそうに上品に笑みを浮かべるマーキュリーさん可愛い。私が男だったら惚れてたね。
『じゃあ、場も温まったことだし、今の状況について教えよう』
私はこくんと頷いて耳を傾ける。
『まずは君の身体のことだね。僕たちは十億年の時間をかけ、君の身体に星の力と肉体強度の改造を施した。今の君は星の爆発にも耐えうるだろう。付け加えて、君は如何なる環境においても生存が可能だ。その気になって星の力を行使すれば星の創造すら可能だろうね』
…………は? え? ナニイッテルンダ?
『だが、これくらいしなければ君は空間の移動に肉体が追い付かず、消滅してしまうんだよ。ちょっと盛り過ぎた感はあったけど、問題ない。それに君にはこれからやってもらいたいこともあるからね』
「やってもらいたいこと?」
『そうだ。君には戦闘経験や知識、精神力が足りていない。そこでだ。各惑星に協力してもらい、さらなる訓練をさせることにした』
「それはなんのために? てかこの身体について納得がいってないのに次から次へと……」
『そう怒らないでちょうだいな。あっくんも悪気あってこんなこと言ってるわけじゃないのよ?』
『……遊びは入ってるけど』
ビキっ、と音が聞こえたような気がした。
『せっかくフォローしてあげてるのに余計なことを言うのはこの口かしらぁ~?』
今度はアイアンクローで身体が持ち上がってる……怒らせないようにしないと。
ひとしきり鈍い音が鳴ったあと、アースは席に着く。
『……ふぅ、ひどい目にあった。話の続きをしよう』
「いやお前が余計なこと言うからだろ」
ほんとこいつは話が進まないな。
『訓練についてだが、戦闘訓練は火星の意思体マーズと天王星の意思体ウラヌス、精神訓練は木星の意思体ジュピターと土星の意思体サターン、知識は僕とマーキュリー、カウンセリングは海王星の意思体ネプチューンに担当させる。太陽の意思体ソルは君に力を多く注ぎ込んだ影響で今は眠っているよ』
『私がしっかり教えてあげるわね』
「ちょっと名前が多くて覚えられ……あれ? 覚えてる。全部」
『当然さ、君の身体はありとあらゆる能力と可能性を秘めている。覚えるなんて朝飯前のはずだよ』
ちょっと見直したかも……って、いやいや、それより私何させられちゃうの?
「で、そこまで私に目をかけてどうするつもり? 身体についてはもういいけどさ」
『そうだね、それを先に言わなければならなかったね』
アースは立ち上がり、マーキュリーとアイコンタクトを取っている。
二人は横に並び、私の目を見て言った。
『君にはある世界を救ってもらう』
彼は真面目な顔で。
『けれどその世界を救うのはとても難しいの』
彼女は哀しそうな表情で。
『だが、君には救ってもらわなければならない、なぜなら、それが君の為でもあるから』
『そう、あなたは生きるということを諦めてはならないの』
『僕たちは彼らの言葉を借りてこう呼んでいる』
彼は一呼吸置いた。
『それは地球以外の惑星が持ちえなかった人類の理』
彼女は哀しそうに笑った。
そして二人は同時に言の葉を紡いだ。
『『人理』』、と。
強すぎますが、呼ばれる時はちゃんとしますのでご容赦を。