どうも私です。
先日突然『人理を救って』と言われ、こんがらがっていました。
いや並行世界って何よ。無数の分岐点から枝分かれした世界らしいけど、ほぼ無限じゃないか。その中の最もやばい世界に送るとか言ってたけどこの世界より酷いところなんてあるのか? 本人曰く、『最悪に至る可能性が高い世界に送ろう』とのことだが。で、そんな魔境を救ってこいという話なわけでして。
正直、気が進まない上、そこまでの大役を担えるのか疑問である。
まあそれはおいておこう。今は……
「こんの鬼畜がぁー! ひぇえ! 危な!」
『おうおう逃げてばかりじゃ駄目だぜ? ちゃんと反撃しな!』
次々と振るわれる二刀を避ける、避ける、避ける。一瞬でも気を抜けば存在ごと斬られる予感がある。
「くっ……!」
疲れはない。この体は疲労や傷といったものを負わない。問題は私の精神だ。
「はぁ!」
神域の速度でもって槍を押し出す。
『はっ! 遅いぜ!』
容易く回避される。足りないのだ、速さが。彼は神域とはまた違う次元の速度を出している。
「! ――っつぅ」」
刃が頬を掠める。傷はないが痛みはある。
人としての限界などとうに超えている。なぜなら、すでに――
『戦闘を始めてたかだか一七年だ! へばるなよ!』
ただの一度の休憩もなく、ただの一度も気が緩むことのない戦闘。それを十七年も続けているのだ。尋常どころではない。
「剣よ」
ひしゃげた槍を捨て、剣に持ち変える。すぐさま迫りくる刃をいなし、もう片方の手から太針を創造、刺突する。
『!』
マーズの脇腹を掠めた針は力を吸収し、強化される。吸収した力を体内で循環させ、一時的に反応速度を上昇。
襲い来る猛攻を創造した武器を使い捨て、捌く。付与する性質は星の力の吸収だ。元々私より遥かに長い年月を生きている天体。星の力の量は私より少ないものの、その質はそれを凌駕し、圧倒的なまでの力の差を生み出している。
「――もっと、もっと速く!」
吸収によって徐々にマーズの速さへと一歩、また一歩と近づいていく。
『(こいつはすげえ、まさか俺の力を吸収して完全に制御下に置くとはな)』
異質な力を吸収すれば星の意思体とてただではすまない。だが、少女は八大惑星と恒星の力を分け与えてもらっている。中にはマーズの力も含まれているため、親和性は高いのだ。
「――届いたぞ」
短剣がマーズの意思核、左胸に刺さる。
『……やるじゃねえか、合格だ』
彼は腕をだらりと下げ、二刀を落とす。私は全身の力が抜け落ち、尻餅をついてしまう。
「やっとおわったよぉ、ってか本当に容赦ないな!」
マーズは陽気に笑った。
『手加減したらこっちがやられちまうんだよ! お前が予想以上に早く対応してくるもんだからほとんど本気でやってたんだぜ?』
「やだ、ひょっとして私強い!?」
『何を今さら』
マーズは呆れている。そもそも肉体だけならばどの惑星の意思体にも勝ちうるほどの強さ、能力を持つのだ。あとは精神がそれに追いついてしまえば恒星たる太陽と同格にまで至るだろう。
『ま、何はともあれ、これで俺との訓練は終わりだ。次に進め、なに。俺の訓練ほど苦しくはないさ』
「そうであることを祈ってる」
第一の訓練は終わり、次の訓練がまた始めるのであった。