書ける時に書いていこうかと思います。
この話からグロとか入っていきますので、承知下さい。
ファルスに着く。
これでもかと野盗と遭遇した割に被害は軽微。護衛のうち何人かが怪我したくらいである。中にはそれなりに重傷になってしまった者もいたが、まあそういう仕事である。死者が出なかっただけいい範囲だろう。
そして着いた町だが、入り口付近で人々が騒めいていた。
「何かあったのかな?」
「何かあったんだろうなぁ」
ようやく町についたのに、いきなり厄介事の気配である。疲れる旅をしていた者達にはいささか面倒な気分になるのは仕方ないだろう。
情報は命とばかりに早速話を聞きに行った商人が情報を持ち帰ってくる。
「襲われた?」
「ええ。ファルスからヤーマスに荷物を送るつもりだった奴らが野盗にやられたらしいです。
商品や金はもちろん、旅をしていた少女まで野盗にさらわれたって。酷い話ですよ」
その言葉にエレンの顔色が変わる。
野盗にさらわれる。それは彼女にとって、決して他人事ではない話だった。その少女はどうなるのかを考えるのならば、一刻も早く助けなくてはならない。
「助けなきゃ! 野盗の根城はどこ!?」
「そんなもん、知るわきゃねぇでしょ。あっしらには関わりのない話だし、どうしても知りたけりゃアンタらが捕まえたその野盗にでも聞けばいいんじゃないですかい?」
そう言って約束の金を払った商人は二人から離れていく。離れる際に目を向けたのは野盗の一人、猿轡を噛まされ、足以外は動かないように雁字搦めにされた哀れな姿。
野盗などの犯罪者は基本的に人権はない。故に襲われて返り討ちにして、例え殺してしまっても罪に問われることはもちろんない。そして彼らのように犯罪者を捕える事ができたならば、その所有権は捕まえた者にこそある。
野盗ならばファルス軍に売るなどの選択肢もある。売られた犯罪者は大手を振って使える労働力になり、どの国でも欲しがる商品だ。エレンはカルチャーショックを受けた顔をしていたが、犯罪者の末路などそんなものである。だからこそ闇に蠢く奴隷商人がいなくならないのであるが。
「ファルス軍に売ったら、情報は引き出せないな」
「お金なんて今はどうでもいいでしょ! コイツに根城を吐かせて早くさらわれた少女を助けないと!」
「…気は進まないな」
「ちょっと、アンタ! そんな事言ってる場合!?」
「普通に自分のアジトを吐く訳ないだろ。もしも情報を漏らした事がバレたら真っ先に始末される。野盗にも、町に入り込んで裏切り者を始末できる暗殺者くらいいるだろう。
それにこんな大所帯の野盗どもだ。数も半端じゃないだろう」
「…見捨てろって言うの?」
「本来ならそれが正しい選択だが――嫌なんだろ?」
詩人の言葉に頷くエレン。もし、そのさらわれた少女が最愛の妹だったりしたら、何が何でも取り戻そうとするだろう。今回さらわれた少女がサラでなかろうが、自分の身内でないから見捨ててもいいとはエレンには到底思えなかった。
詩人としたら単なる回り道だが、エレンに戦闘経験が圧倒的に足りないのもまた事実。本人がやる気がある事のならば悪いことではない。
それに、先日は甘やかしてしまったが、それだけで世界は渡れない。むしろ厳しさが必要な事が多いのだから。
場所を町の入り口から、町とは言えない場所へと移す。そこで野盗の猿轡を外した。
「へへへ…話は聞いてたぜ。俺は何も吐かねぇぜ。諦めな。親分の恐ろしさは身に染みて分かってるんだ」
「っ! っっ!! い、いくら拷問したって、吐かねぇものは、吐か、ねぇ…!」
「ぐぎぃ! 爪が、爪が痛ぇよぉ!!」
「ぁぁぁぁぁ! 俺の指ぃ! 指がぁぁぁ!!」
「お、おい、冗談だろ? お前も男だろ!? なぁ? なぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」
「い、嫌だ! もう嫌だ!! た、頼む、何でもする、何でもするから助け…ぎゃあああぁぁぁぁぁ……!」
「お、俺の
「ひぎぃ! 縫って、縫ってくれたのか…? お、俺の腹が元通りになっ…。お、おい、おいおいおい。なんでまた俺の腹にナイフを近づけるんだよ…? お願いだからもう、もう、もうやめてくれぇぇぇぇぇ!!!!」
服を着ればギリギリ人に見えなくもない範囲で縛られた野盗は、詩人とエレンと共にファルスの町に戻ってくる。野盗の顔は比喩なしに死人のようであり、エレンの顔は真っ青を通り越して真っ白だ。彼女の胃の中には何も入っていない。先程、全部吐き出してしまった。
「とりあえず、根城は分かったな」
「……」
対して顔色一つ変えない詩人に、もうエレンは言葉もない。
人はどこまで残酷になれるのか。
その一例を目の当たりにしたエレンは畏怖の視線を詩人に向けてしまう。
「コイツはファルス軍に売り払う。まあ、まともに動けるかは怪しいが、そこら辺は向こうで勝手に調整するだろ。
下手に大勢で攻めて、野盗に逃げられても面倒だ。俺たち二人で奇襲をかけて、さらわれた少女を助けるぞ」
「……」
ファルス軍に野盗を引き渡す。そのあまりの状態の悪さに顔をしかめられたが、戦った結果で傷を負うということは珍しくもない。
特に問題視される事なく、相場より大分安い報奨金が詩人に支払われた。
「……何か言いたいことがあるなら、聞くぞ」
「……。あれは…あれは人間の所業? 悪魔みたいに残酷だったよ」
「あれくらいなら人間の範疇だと思っている。
もっと醜いものだって、俺は見た事があるから。
そしてあの先にあるものが、四魔貴族の所業であり、その恩恵に預かる者たちの所業だ。
汚れ役は俺に任せておけ。あんなものに、慣れないなら慣れない方がいい。だが、あることくらいは知っておいてもいい。
四魔貴族と戦うなら、必ず目にする光景だからな」
言葉少なく、ファルスの町を後にする二人。目指すは拷問して聞き出した野盗の巣窟。
直前に見た光景のショックを引きずりながら、エレンはそれでも少女を助ける為に先を急ぐ事に専念した。
ファルスから約2日。詩人やエレンでなければ更に時間がかかりそうな、道なき山や森を潜り抜けた先あった野盗の根城。
人の手が入っている場所の方が少ないこの世界で、広い山や森から隠れ家をヒントなしで見つけようとするのは不可能と言っていい。今回のように野盗から直接聞き出すか、それとも人や物の動きを事細やかに探っていくくらいしか方法はない。
そしてそのような方法でも存在する以上、野盗は隠れ家を襲撃されたことは少ないとはいえある。それは仕事をすればするほど高くなるリスクといっていい。
だがしかし今回のようなケースは極めてレアだった。問題は内側から起きたのだ。
今回のケースではお宝の持ち出しに当たる。さらってきた少女を一人の男が連れだして逃げ出したのだ。金を持ち出して逃げ出そうとした馬鹿は過去にもいたが、女を連れて逃げ出そうとした大馬鹿は初めてである。そもそも少女を連れるというだけで足手まといだ。そんな間抜けな企みなぞ、成功する訳がない。
奇跡的な幸運が重なったのか、根城にしていた洞窟を脱出することまではできたらしいが、近場の村でも1日はかかる距離。しかも近場の村は野盗と取引をして被害を抑えているという意味もあるため、実質的に野盗の縄張りである。その外まで逃がすほど、生き抜いてきた野盗の手際は悪くない。
20人からなる追撃部隊を出し、なめた真似をした奴には相応の報いを受けさせる。話はそれでお終いのはずだった。
商隊の護衛に捕まり、その上で情報を漏らすような間抜けさえいなければ、それで話はお終いだったはずなのだ。
「チクショウ、チクショウチクショウチクショウチクショウ!」
野盗の根城から少女を助け出した男の名前はポールという。ツヴァイクの支配地の一つ、キドラントという村出身の元冒険者だ。
そもそも彼が村を飛び出したのは彼の恋人であるニーナが関わってくる。気立てもよく美しい娘、村一番のニーナ。彼女が恋人に選んだ男こそがポールだった。他にも強い男はいくらでもいるし、大きく稼ぐ行商人にすら嫁げそうな器量を持つ少女は、なんの取り柄もなさそうな一人の男を恋人に選んだ。
それがポールには不思議で、怖くて心配だった。いつか自分よりも優れた男にニーナが行ってしまう。そんな想像にかきたてられ、一端の男になってやると息巻いて村を飛び出したのはそんな昔の話ではない。
ひっそりと暮らしていただけの男が無鉄砲に村を出て、なんとかなるほど世界は甘くない。村での少ない貯金は瞬く間に尽き、草の根をかじって飢えを凌ぐ惨めな日々。
何とか見つけた荷運びの仕事。それも男として力量が求められる訳でもなく、ただ単に運ぶ人間が少ないからと、子供でもできるような本当に荷物を運ぶだけの小さな仕事。その最中に野盗に襲われ、囮として見捨てられた。
その場で殺されてもおかしくなかったが、最近人手が減ったとの理由で野盗に捕まり、下っ端としてこき使われた。嫌われ者である野盗の、誰もが嫌がる雑事を積み重ねていく。
ある日、野盗の戦利品として一人の少女が根城に連れてこられた。見た目麗しいその少女は、野盗の慰み者になるかどこかの後ろ暗い金持ちに飼われることになるか。それを想像した瞬間、後先なんて捨て去ってしまった。少女を見捨てて生き延びたとして、きっともうニーナに顔向けできない。
そう思い、少女を連れ出して逃げ出して。そして今、野盗の追手に捕まる寸前まで来てしまった。
「ポールゥ…。命を助けてやった恩を仇で返しやがって…」
大きな樹を背にして少女を庇いながら剣を持つポールを、射殺さんばかりに睨みつける野盗は彼が言った通りポールを殺さない判断を下した男だった。
彼はその責任としてポールと少女を追う役目を負わされた。もちろん成功して何かある訳でもなく、むしろこの原因を作った者として親分に厳しく処罰されるだろう。20人の手下たちも気持ちは同じだ。自分達の命令をへーこら聞いていた男が反旗を翻し、そのツケを回されて楽しいはずもない。
「嬲り殺してやる…! 指先から順番に切り刻んで、殺して下さいってお願いするまで苦しめてやる…!」
殺意と悪意と嗜虐心を込めた目をポールに向ける。その瞳には疲れ切ったポールと怯え切った少女が映っている。
そして次に映ったのは、大きな大きな矢の姿だった。
「あ?」
違う。矢が大きいのではなく、矢が大きく見えるほど近づいていただけで――
そんな思考を持ちながら、野盗はその左目に矢が深々と突き刺さり、脳まで達して死に至らしめた。
「ゴタゴタ言う前に手を動かせってな。ここに自分達しか居ないと思い込んだのがまず間違いだ」
軽い口調で一人の男が姿を現す。道化のような姿をした詩人。弓を手にしている事から、矢を放った本人に間違いないだろう。
その男の側から一つの影が走り出す。ポールの後ろにいる女を美少女というなら、その影は健康的な美女だった。身にまとった武装から冒険者か傭兵か、その類の人間だと思われる美女は素早く少女の前に立ち、ポールの横に立つようにして野盗たちと対峙する。その美女はちらりと横にいるポールを見て、声をかける。
「女の子を助けようとした…で、いいのね?」
「あ、ああ…」
「じゃあとりあえずは味方ね。この女の子を守るわよ!」
その言葉に我に返るポール。助けに来てくれたのは分かるが、たったの二人。しかも少女という足手まといもいる。対する野盗は20人程度の勢力。とてもじゃないがどうにかなるとは思えない。
「守るのは任せる、この女の子を連れて逃げてくれ。俺はあいつらの足止めをするから…!」
決死の覚悟でそう言うポール。きっともうニーナには会えないだろう。いや、こんな所で死ぬ様な男なんて、所詮ニーナには似合わなかったのだ。きっと、ニーナはもっといい男を見つけて幸せになる。
いや、どうか幸せになって欲しい。自分の事なんて忘れてくれればそれでいい。
「大丈夫よ」
そんな重い覚悟を持ったポールの声を、軽い言葉が打ち消した。
「こいつら、そんなに怖くない。あたしでも勝てるわ。それにあたしで勝てるなら――あいつなら戦いにすらならない」
美女の見る先には詩人の姿。弓はもう仕舞っており、その手には棍棒が握られている。
だがそれが何だというのか。数十人に勝てる訳もない。数とは暴力なのだから。
「へ、女が一人おまけで付いてきやがった」
「こりゃどっちか一人は楽しめるかもな」
「俺は小さい方がいいな。泣き喚くのが最高だ」
「馬鹿野郎、泣かせるなら気の強そうな女に限るだろうが」
「どうでもいいが逃がすなよ。お前ら、女どもとついでにポールを捕まえておけ。その間に俺たちはあのクソヤロウをブチ殺しておく」
その言葉に5人の男が武器を手に、ニタニタ笑いながら近づいてきた。そしてその中の一人の男の鼻っ柱に、美女の拳が突き刺さる。
情けない声をあげながら吹っ飛ぶ野盗。それを為した美女に驚きの視線を浴びせる、その場の全員。それは大きな隙になり、野盗はさらにもう一人蹴り飛ばされた。
「上等よ! やれるものならやってみなさいよ!」
斧を使うことなく、美女はその拳と足とであっという間に残りの野盗も無力化してしまった。
ピクピクと動いているところを見る限り殺してはいないようだが、数日は寝込みそうな怪我をしている。
呆然としたポールはゆっくりとした動作でその先にある光景を見る。残りの相手をした、詩人の姿を見る。
返り血を浴びることなく、服の乱れすらなく、詩人は十数人の男たちを圧倒していた。美女と違い容赦はないらしく、詩人が相手にした野盗で身じろぎしているものはいない。
例外ない皆殺しだった。
「ば…化物」
「ああ、たまに言われる。一応、否定はできない自覚はあるから心配するな」
さらっと失礼な言葉を肯定する詩人。まあ、こんな光景を作り出しておけばそんな言葉をかけられる事も少なくないだろう。
少しだけ考え込むと、詩人は話しかけてきた。
「お前、名前は?」
「ポ、ポール」
「そうか。エレン、お前はポールと一緒に先にファルスへ向かえ。俺は野盗の掃除をしてから行く。まだ他に捕まっている者がいるかも知れないからな。
すぐに追いつくとは思うが油断はするなよ」
「しないわよ。ポールもこの女の子も、味方だと思って背中を刺されるようなへまもしない」
「なら、いい」
そう言って素早く詩人は姿を消す。後に残されたのはポールと少女、エレンと呼ばれた美女に。倒れ伏す何十人の野盗たち。
「じゃあ行きましょうか? ここでぼんやりしてても仕方ないし、ファルスまで少しだけど時間がかかるしね」
「あ、ああ…」
つい少し前まで命を捨てる覚悟で挑む場面だったはずなのだが。あれよあれよという間に変わった状況に、ポールの思考が追いつかない。
そんな中、しゃがみこんでいた少女が飛び上がり、エレンに抱き着く。
「わっ、ちょ、なによ?」
「かっこいい! かっこいいよお姉さん!」
「え。そ、そうかな?」
「うん。すっごくかっこよかったよ! 私もエレンさんみたいにかっこよくなりたい!」
「だから、私もエレンさんたちについていくね!!」
ちょっと嬉しそうだったエレンの顔が固まった。
野盗にさらわれたはずの少女は、自分を助け出してくれた美女に心底惚れてしまったらしい。絶対に引くものかという覚悟が傍から見ても分かる。バイタリティー、溢れすぎである。
「え、えっと。あはは、困るなぁ~。お嬢ちゃん、お名前は?」
「私? 私はね、え~と、エクレア!」
「そ、そう。エクレアちゃん。あたしたちには目的があってね…」
「分かった! 私も手伝うよ!」
たじたじになるエレン。押せ押せのエクレア。これがついさっきまで野盗を圧倒していた女と、野盗に怯えていた少女だとだれが思うだろうか。
本当に、状況はあれよあれよという間に変わってしまう。ポールにはもはやついていく事はできない。
結局、詩人が帰ってくるまでその場を動くことはできなかった三人だった。
盗賊救出イベント、誘拐されたのはタチアナでした。
そりゃ、魅力20の家出美少女がフラフラしていたら拐わされます。
そしてこの押しの強さよ。エレンたちの旅についてくるなら。このくらい身軽で、このくらい強気に出れないと無理です。