これは私も詩人の詩を完成させなければと思い至った訳ですよ。
106話 2020/04/22 07:00
107話 2021/03/09 00:00
・・・・・・・・・・・・。
え、私、6年くらいまともに更新してなかったの?
これはヤバイと思い、取り急ぎ最新話をあげた次第です。
これから完結まで頑張りたいと思いますので、どうかよろしくお願い致します。
ひとまず短いですが、リハビリを込めて最新話をどうぞ。
「や、やっとついた……」
ナジュ砂漠を超え、死の砂漠を過ぎ。
半分荒野とはいえ、緑が見え始めたところでユリアンが思わずといった様子で言葉にした。
髪に砂がついたエレン、お菓子をきらして機嫌の悪いタチアナ、日射しにやられて体力を消耗している少年。彼女ら彼らは静かに頷いてユリアンの言葉に賛同している。
「もう、何年もさまよっていた気がするぜ」
「んな、大げさな」
カラカラと詩人は笑いながら先導する。彼とシャール、カタリナはまだまだ余裕があり、しゃんと背筋を伸ばして大地をしっかりと踏みしめている。
「しかし詩人。見える限り地平線ばかりです。緑が見えたのはいいですが、この大草原で目的地はあるのですか?」
「そりゃあるさ。リンの故郷に行くって行ってなかったか?」
カタリナの言葉に詩人が答えるが、カタリナは首を傾げるのみ。さもありなん、彼女はリンを知らないのだ。
それに気がついたのは詩人以外でリンと知り合いになったユリアン。
「東の果てから来たツィー・リンって女性をリブロフで保護したんだ。一緒にアウナス討伐をした腕利きだよ」
「ほぅ。ああ、そういえばピドナで出発前にちらりと話に聞いた気がします。里帰り云々とかいっていた彼女ですか」
うんうんと得心したように頷くカタリナ。
話題で出来たのでリンについて補足をしようとするユリアン。その内容がとんでもないものだと気がつかずに。
「そうそう。リンの奴、ミカエル候に一目惚れしちゃって。寵愛を授かりたいとか言った時は焦りましたよ」
ビキリと動きが止まるカタリナ。止まったその背中にぶつかって鼻柱を潰してしまうタチアナ。
「いたっ! ちょっといきなり止まらないでよね!」
「あ、ごめんなさい。いえ、それも大事ですが。ユリアン、今、何と言いましたか?」
「? リンがミカエル候の寵愛を欲しがったって話ですか?」
それがどうしたと言わんばかりのユリアンの言葉だが、カタリナの心中は穏やかではない。
何せ、カタリナはミカエルに懸想を抱いているのだ。思わぬ所からライバルが出てきたことに動揺を隠せない。
しかも相手はアウナス討伐の功を引っさげてミカエルに寄り添った訳である、マスカレイドを奪われる失態を犯したカタリナと比べてどちらの方がロアーヌ候の嫁に相応しいのかという問題も浮上してしまう。
「・・・・・・・・・・・・で、ミカエル様は、なんと?」
「えーと。色々とあったんですが、そこは省きまして」
いきなりミカエルの子が欲しいと宣ったリンの事は話が荒れるだけなのは目に見えているので伏せておくユリアン。聖王文化に慣れている者にとって、アレはなかなかの爆弾発言だった。
「ひとまず、友達から始めるみたいですよ。リンも自分の感情とかと折り合いを付けたいからって、しばらくロアーヌにいるとか」
「・・・・・・そうですか」
ひとまずいきなりミカエルの嫁に収まる訳ではない事に安心しつつ、恋のライバルがミカエルの側にいることに焦りつつ。
複雑な心境でカタリナは自分の心を落ち着かせる。
しかし、それを見ていた少年が更に場を混沌とさせる一言を口にした。
「カタリナはミカエルが大好きなんだね」
「なっ・・・・・・!」
「今、モニカがユリアンの事を話していたのと同じ顔をしていたよ」
「お、おい!!」
そして流れ弾がユリアンにも。流石に照れくさいのかユリアンも慌てるが、それ以上に狼狽してしまったのはカタリナだ。
今まで秘めていた想いがこんなにもあっさりバレた上に暴露させるとは思わなかった為に、心の動揺がもろに出てしまう。
「まあ、分かりやすいよね~」
「し! タチアナ、そんな無神経な事を言わないの!」
顔を赤くしてしまったカタリナを真っ直ぐに見つめるタチアナに、それを止める方向に動く保護者のようなエレン。
ついでに言うなら少年の口を塞いだユリアンも、口を塞がれた少年もカタリナの表情に釘付けだ。
かぁ~、と更に顔に血が集まってしまうカタリナ。
「う、うわぁぁぁ! わ、私を見るなぁ!!」
動揺が極限に達し、いつもの口調が崩れて顔を手で覆ってしまうカタリナ。同じ女性ながら可愛い仕草だなぁと思うエレン。
「ええと、このまま真っ直ぐ行けば川に辿り着いて、その側にムング族の村があるから――」
「いや、私が言うのもなんだが。本当に全く反応を返さないのもどうかと思うぞ」
仲間の雑談を完全に無視して行き先を確認している詩人に、いちおうのツッコミを入れるシャールだった。
◇
そんなこんなで。
ナジュ砂漠を通り、死の砂漠を越えて、大草原を横切る。辿り着いたのはリンの故郷、ムング族の村だった。
「――帰りを考えると心が折れそうになるなぁ」
「ちなみに帰る時は同じルートは通らないぞ。北にある密林を通って帰る。ナジュ砂漠の乾いた大河を遡るのは実質不可能だからな」
「話を聞いた限り、楽な帰り道ではなさそうだけれども」
「そう思って構わないさ。楽なルートとは一言も言ってないからな」
少年の言葉に返事をする詩人。
その声色を聞いて思わずゲンナリしたエレンだが、そこで慰めを言わないのが詩人らしい。
だがしかし、帰りの心配ばかりしていても仕方が無い。エレンは一つ頭を振り、思考を切り替える。
「ま、それは後で考えましょう。それで、魔王のゲートはどこにあるのかしら?」
「まあ待て。まずはムング族の有力者に挨拶だ。
――本当はしたくないんだけどな」
ポツリと零した詩人の言葉。場所としては大ぶりのテントがたくさん張ってある遊牧民のような大集落、ムング族の村の入り口である。
見張りの男が東から来る7人組にすわゼルナム族かと警戒していたが、その中で詩人をようやく見つけて肩の力を抜いた距離である。
「は。本当に敬老精神がなってない坊やだね、お前は」
どこからともなく、風に乗って声が届いた。思わず体を強ばらせる詩人以外の6人。しかし詩人だけはもの凄く嫌そうな顔をしたままでその声に返事をする。
「そうやって人の話を盗み聞きするから嫌われるんだよ、老師」
「かっかっか。風に声を乗せる方が悪い。
しかしお前さんがまた西から来るとわねぇ。歓迎すると同時に身構えちまうよ」
「それがゼルナム族を追い払ってやった恩のある奴に言う言葉か?」
「ああ、もちろんさ。ついでにうちのリンリンは西に強烈に興味を持った元凶だからね。
あの家出娘、西に行ったんだろ?」
「それはまあそうだ。西にある公爵家――って言ってもわからんか。まあ、若い頭領に惚れ込んでいるよ」
「命短し恋せよ乙女、ってね。あの子ももうそんな歳かい。
あたしの若い頃もそりゃあ情熱的な恋をしたもんでねぇ・・・・・・」
「聖王時代の話か?」
「聖王時代って何時の話だよ」
風に乗った声と平然と話ながらムング族の村を横切る詩人と、そんな詩人についていく仲間6人。
村に入る時に詩人に会釈をした見張りや、村を横切る時ににこやかに手を振る中年の女性などを見るに、詩人はここでは顔が売れているようだ。
目的地は奥の方にある、一際立派なテント。そこに一目散に向かった詩人はずけずけとその入り口の布を広げ、中に入る。
そこには果たしてしわくちゃの老婆が一人、ぷかぷかとキセルを蒸かしながら彼らの一行を待ち構えていた。
「久しいな、バイメイニャン老師」
「全くだよ。また会う事があるとは思わなかったよ、アバロンの坊や」
そう言ってニカリと笑うバイメイニャンに、ふと顔の表情を緩める詩人だった。