もう1ヶ月経ったの?
ヤバイ、執筆体力が明らかに落ちてる。
これは気を引き締めなければ、と思った次第です。
最新話を気合いを入れて仕上げました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
家に入ってきた詩人達をちろりと見渡したバイメイニャンは、またもぷかりとキセルを吸う。
「アバロンの坊や。あんたがまた東に来るなんて、ね」
「狐と狸の化かし合いは無しだ。俺が東に来た理由は分かっているんだろ?」
「なんだい、つまらんね。随分とまあ余裕も茶目っ気もなくなってるじゃないか」
かっかっかっ。そう笑い声を上げる老婆に対して、詩人は表情を揺らさない。
ただその硬さだけが詩人の切迫さを示していた。
しかしそれでも、詩人の余裕の底はバイメイニャンに見透かされていた。
「なら、とっととあたしを無視してゲートに行けばよかっただろうに」
「…………」
「そこまで無茶を通すつもりはなく、一方で感情に余裕はない。
随分とまあ、微妙な位置にいるモンだねぇ」
まったく、あんたらしい。そう呟きながらバイメイニャンはまたも楽しそうにキセルを吸う。
詩人の困っている様子がそこまで楽しいらしい。
「まあ、立ち話もなんだ。お茶でも飲みながら話を聞こうか」
そういって、詩人達が入ってきた入り口から見て左側をキセルで指す。
「そこにお茶があるから勝手に淹れな」
「客に淹れさせるのか?」
思わずツッコミをいれるユリアンに悪びれもなく答えるバイメイニャン。
「こっちにリンリンがいればあの子にお茶を淹れさせたんだけどねぇ。
どっかの胡散臭い男が語った話を信じて西に行っちまった。
なら、その責任くらいは胡散臭い男の仲間が取るべきでないかい?」
バイメイニャンの言い分に憮然とするユリアンとタチアナだが、どうやらバイメイニャンはお茶を淹れる為に動く気はないらしい。ならばお茶を飲む為には自分たちで淹れるしかないが、どうして自分がという感情が邪魔して若い2人は動く事が出来なかった。
その様子を察したシャールがため息を吐きながら動きだそうとする。
「では、私が――」
「待ちな。あたしの家のお湯を貸そうっていうんだ、誰に貸すかはあたしが決めさせて貰うよ」
「えぇぇ……」
思わず少年が声を出してしまう程の傍若無人ぶりである。
そんな少年を無視して、ぴたりとキセルで指定したのは――
「あたしっ!?」
「そう、あんただよ。ポニーテールのお嬢ちゃん」
――エレンだった。
一瞬だけ狼狽したエレンだったが、バイメイニャンのあまりの自分勝手さに眦を吊り上げて冷たい声を出す。
「おあいにく様。あたしはここまでお茶を飲みに来たんじゃないの! 悪いけど、お茶は要らないわ!」
「そうかい。お茶も飲めないヤツを相手にする義理はないねぇ。
お茶を飲めないなら、とっととお帰り」
「言われなくとも!!」
ただでさえ余裕がなくてイライラしていたエレンは売り言葉に買い言葉でバイメイニャンの言葉を受け取ってしまう。
そして苛立ちのままに詩人に向き直る。
「行きましょう、詩人!」
「……それがそうも行かないんだ」
はぁ、とため息を吐きながら事情を説明する詩人。
「俺が以前来た時、魔王のゲートを確保して封印した。そのカギを物理的に封印しているのは東の国の
「…………そんなの、西から来たあたしには関係ないわ。力でぶっちぎる!」
「いつからそんな脳筋になったんだ、お前は」
「結構最初からだと思うよ?」
呆れる詩人に、ケロリとした様子で言うタチアナ。そしてうんうんと頷くユリアンは彼女の事をシノン村の時代から知っていた。
そんな失礼な3人をジロリと睨むエレンだが、詩人の
「まあ、ゲートに行くまでならそれでいいんだけどな。西へ帰る為のルートも
「なら、そこも力づくで通れば――」
「帰還して、消耗した身で? サラを連れ帰って? 何千何万といる東の人々が敵対する中を掻い潜って?」
「…………」
唇を噛み締めて黙るエレン。
そんなエレンを肩をすくめて見る詩人。
「まあ、俺一人だったらいくらでもなんとかなるけどな。全員が無事に通過できるかは大分怪しい。
それに比べて、ここでお茶を淹れて飲むのと、どっちが楽だ?」
「――くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
目の前でにやにや笑いながらキセルを吸う老婆のいいように転がされている。
それを自覚して、ガリガリと自尊心を削られながら、サラの為だと心の中で自分に言い聞かせて。エレンはドスドスと不機嫌そうに足音を立てながら左手にある台所へと向かう。
それを見て、またもぷかりとキセルを吸うバイメイニャン。
「全く。手間がかかるねぇ」
「面目ない」
やれやれと呟く老婆に、頭を掻きながら答える詩人だった。
◇
大分雑に淹れられたお茶が8人分。
それぞれの前に置かれ、おおよその状況を説明し終えた詩人たち一行。
「なるほどねぇ」
随分と長い話になった為に冷め切ったそれを口に運び、まずそうに啜るバイメイニャン。
そしてチラリとエレンの方に視線を送るが、彼女はどこまでも不機嫌そうにお茶を口に運びながらつっけどんに口を開く。
「話は分かったでしょ? あたしたちはとっととアビスに行きたいの!
早く許可を出してくれる!?」
イライラとした様子を隠そうともせずに言うエレンに、バイメイニャンはお茶を置いてまたもプカリとキセルを吸う。
「……そうさねぇ」
「…………」
「…………」
バイメイニャンはエレンの様子を見て、そして詩人の困った顔を見て。そうして口を開く。
「断る」
拒否の言葉が出た瞬間、エレンの手が自分の斧の柄に伸びた。そのホークウインドを掴む前に、いつの間にか抜かれていた詩人の剣がエレンの喉元に添えられていた。
「止まれ、エレン」
「イヤよ」
貫くなら貫け。そう言わんばかりにエレンはしっかりと自分の斧を握りしめ、背中から抜き放つ。
視線険しくエレンを睨む詩人だが、その剣は脅し以上に使うつもりがないことが見抜かれていた。
そんな修羅場を見つつ、かっかっかっと笑うバイメイニャン。
「アバロンの坊や。アンタ、剣を抜くようになったのかい」
「もう隠す意味もなくなったからな。特にコイツラには、な」
「結構結構、随分と丸くなったもんだ」
バイメイニャンが詩人と世間話をする、エレンが斧を抜いた事を歯牙にもかけず。それがなおさら彼女の平常心を削っていった。
「オイ、いい加減にしろよ」
ここに来てユリアンも眦を吊り上げる。彼も幼馴染みのサラを助けるべく気炎をあげているのだ。エレン程に行きすぎてはいないが、彼も彼とて焦れている。
それはユリアンだけではない。サラを助けたいと思っているのは少年も同じである。彼も機嫌悪く表情を歪ませていた。
比較して状況の推移を見守っているのはタチアナとシャール、そしてカタリナだ。この3人は様子を見守りつつ、バイメイニャンの出方をうかがっていた。何故なら、バイメイニャンの言い分にも一理あるからだ。
「後ろで見守っている3人は分かっているみたいだね」
ニヤリと唇を歪ませてバイメイニャンが言う。
「端的に言おうか。あんたたちをアビスに送る為のメリットが、あたしや
「っ! ……」
言い返そうとして、パクパクと口を開けて閉じて、そして黙るしかないエレン。
そうだ、確かにそうだ。サラを助けに行くのはエレン達の勝手。全てのゲートが機能不全になっている現状を維持出来れば300年の安寧は約束されているとも言えた。
となれば、かつて東の地に来た詩人が何か恩を着せている事を期待するしかないが。エレンが視線を向けた先の詩人は肩をすくめるだけだ。
「まあ、俺一人分の貸しくらいはある。が」
「そうさね、アバロンの坊やを案内するのは構わない。それだけの恩がアンタにはある。
けどね、この坊やにおんぶに抱っこで恥ずかしくないのかい、アンタらは」
口先鋭く攻められたエレンは言葉につまる。そんなエレンに向かって、びしりとキセルを向けて言い放つバイメイニャン。
「自分の信頼くらい、自分で勝ち取りな!!」
何かを言い返そうとして口を開きかけるが、再度その口は閉じられる。言い返せない論破に、完敗したエレンだった。
そんなエレンに近づき、慰めるように背中をぽんぽんと叩くタチアナ。そしてそんな姉妹染みた様子を横目で見ながら、シャールが代表して口を開く。
「そちらの言い分は分かった。それで、私たちは何をすればいい? いや、何か困っている事はないか? それを解決すればいいのだろう」
「ふん。どうやらちっとはマシな男が矢面に出てきたモンだね」
明らかに卓越した逸品である銀の手を装着し、詩人が貸し与えた竜槍スマウグを持ったシャールを見つめて、にやりと意地悪く表情を変えるバイメイニャン。
「そうだねぇ。直近で困った事と言えば、うちの若いモンが西に行っちまった事かねぇ。リンリンっていうじゃじゃ馬娘なんだけどねぇ」
流石にそれは、と言いたげなカタリナ。彼女の視線を受けて、バイメイニャンはまたもかっかっかっ笑う。
「まあ、イジワルはこのくらいにしておくかい。そうさね、リンリンが居なくなって荒れている畑の管理や、あたしの家畜の世話をしばらくして貰おうか」
「……しばらくって、どのくらいよ?」
「風任せ、気任せさ」
バイメイニャンのその言葉にギリィと歯を食いしばるエレン。つまりバイメイニャンの気分次第、機嫌を取れという話だからだ。
そんなエレンの口惜しさが楽しいと言わんばかりにバイメイニャンは追加して要請を口に出す。
「昼はそれでいいとして、夜は術の研究に力を貸して貰おうかね? アバロンの坊やには断られちまったし、西の術にも興味があったんだよ」
舌なめずりをしそうな顔でエレンたちを見るバイメイニャン。
それを見て、珍しくエレンが一歩下がった。少し顔が引きつっている辺り、身の危険を感じているらしい。
そんなエレンに関わる事無く、強制的にムング族での暮らしが始まったのだった。
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