詩人の詩   作:117

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ロタウィルスに罹りました。
とても辛いです。次回更新は日があくかも知れません。


021話

 

 モウゼスの内乱は終わり、ウンディーネの勝利で幕を下ろした。

 しかし為政者としてはここからも気を抜くことはできない。傷つけられた町や人への対応、防衛力低下の対処。そして相手方から奪った戦利品の整理などがそれにあたる。

 町や人への対応は、特別な事はなかった。死んだ者への弔い。傷ついた者のケア。壊れた町の修理。受ける者がそれに満足するかは別問題だが、やり方はある程度マニュアル化されているために、それほど特筆するべきことはない。

 防衛力の低下についてはフルブライト商会に助力を求める事が決定している。ウンディーネとしては業腹だが、ある程度の融通を利かせる事を条件にするつもりだ。具体的には彼女が高弟を何人か派遣して、フルブライトの私兵に術を教える事などがあげられる。武力の元となる術や技の譲渡はかなり大きな取引材料として扱われるので、フルブライトとしても悪い気はしないと予想される。

 そして相手から奪った戦利品だが、元々モウゼスだった都市に攻め入られた事もあり、金銭的な利益はほとんど期待できない。もちろんボルカノが個人的に持っていた財産などは摂取するが、荒らされた町の復興資金を考えるとむしろマイナスになるだろう。それとは別に、ボルカノが所有している研究書や術具の精製方法などは、術のエキスパートを自負しているウンディーネをして百万オーラムに勝る宝だと言わざるを得ない。

 ウンディーネは術師の連携や技術の継承を主に研究していたのに対し、ボルカノは誰でも使える術具の研究などを専門としていたようで、畑違いでありながらウンディーネに匹敵する術師であっただろうボルカノの研究成果を全て吸収できたことは、これからのモウゼスやウンディーネにとって大きなプラスになるだろう。

 そのような仕事の合間を縫ってでも、ウンディーネは詩人やエレン、エクレアと会う時間をとる事は忘れなかった。

 

「今のモウゼスの現状はだいたいこんなところね。まだ防衛力に不安があるからモウゼスから離れられないけど、フルブライト商会の戦力が来たら約束通り、貴方たちの旅に付き合えると思うわ。少しだけだけどね」

「十分だ。恩に着る」

 ウンディーネの館にある応接室。そこで彼や彼女等はお茶の時間を楽しんでいた。さくさくさくとお菓子を頬張るエクレアに微笑みを向けながらウンディーネは話を続ける。

「その目的はお嬢さん二人に術を教えることでしたっけ? 貴方が教えればいいのに」

「術はそんなに得意じゃないんだよ。教えるならその道のプロがいい」

「あれほど見事な術を使っておいて?」

 ウンディーネの探るような言葉に首を傾げるエレンとエクレア。そして詩人は驚いた表情でウンディーネを見返していた。

「まさか…一目で気が付いたのか?」

「なんとなくですけど。その反応を見れば、やはりそうなの?」

「…半分正解だよ」

 まいったとばかりに両手をあげる詩人にしてやったりと笑うウンディーネ。

 それがよく分からないのは、当然エレンとエクレアだ。

「詩人さん、どういう事?」

「ボルカノを仕留めた不抜(ぬかず)太刀(たち)、あっただろ」

「うん」

「あれ、半分は術なんだ」

 その言葉にポカンとした顔をするエレンとエクレア。ウンディーネは一つの言葉に違和感を覚える。

「半分ですの?」

「ああ、半分だ。剣技と月術の合成技が不抜(ぬかず)太刀(たち)なんだよ」

 

 まずは剣で切るイメージを強く固定する。それには何百何千と剣を振るい、その太刀筋や切り傷などを脳裏に焼き付ける程の鍛錬が必要になるが。

 それでももちろんイメージだけで敵が切れれば苦労はない。そこで月術の虚の属性を組み合わせる。イメージという虚の概念に月術の虚の属性が合わさると、それは現実となって世界に現れる。

 使う術力は大きいし、そう連発できる技でもない。事前に固めるイメージだけでも大変であるため、乱戦でも使いにくい。その代わり、発動すれば防御無視の斬撃が与えられる。大型のモンスターならばともかく、対人サイズの敵への攻撃方法としては即死技に近い。

 二の太刀要らずならぬ、初の太刀要らず。それを求めた結果、生まれた技が不抜(ぬかず)太刀(たち)

 

「術だけで構成されたものかと思いましたのに」

「基本は術なのはそうなんだけどな。剣のレベルが高くないとイメージが固定されずに威力が増えないんだ。そういった意味で剣技と月術の合成なんだよ」

 高度な会話をする二人にエレンとエクレアはポカンとした顔しかできない。

「っていうか詩人。それ、あたしたちに教えちゃっていいの?」

「あまり良くはないが、このぐらいは教えないとフォルネウスとは勝負にもならん。術はウンディーネに教わるし、こういった技術がある事を先に知ってもいいだろう。

 特にエクレアは約束した通り、きっちり鍛えてやらないといけないからな」

 首をすくめて答える詩人。

 彼がふとエクレアを見ると、爛々と目を輝かせていた。どうやら術もようやくやる気になったらしい。これだけでも技の一つを晒した価値はある。

 彼の引き出しはこの程度ではないし、そもそも原理を聞いただけで覚えられる技でも対処できる技でもないからだ。詩人はわざと説明をしなかったが、彼が事前にイメージを固める時間はコンマ一秒をきる。慣れたとしても数秒か十数秒はかかる時間が詩人にとってはそれである。技の予備動作など、詩人にとっては無いに等しいのだ。

 これで自分の技に対応できるものならしてみろという自信が彼にはあった。

 が、これだけは言っておかなくてはならない。

「もちろん他言は無用だぞ。下手に話そうものなら当然――」

 剣をちらつかせる詩人。情報が広がる事は本意ではないのだ。もし敵に情報が渡り、自分の正体に感づかれてしまっては手間が増えるどころの騒ぎではなくなってしまう。

 その威圧に体を震わせるウンディーネ。強張らせるエレン。エクレアだけはのほほんとしているが。

「だいじょーぶ! 私は詩人さんを裏切ったりしないよ!」

「……そうか」

 その言葉に体を弛緩させる詩人。

「そうだといいな」

「と~ぜんじゃん!」

 万感の思いを込めて言った言葉は満面の笑みで肯定された。

 話が一段落したところでウンディーネは咳払いをして話をかえる。

「それで、モウゼスの小康状態になりまして、私も少し時間がとれるようになりましたの。お嬢さん二人の術の指導、少しずつ始められるけど、よろしくて?」

 その言葉に力強く頷くエレンとエクレア。

 それを予想していたのだろう、ウンディーネは3つの小さな水晶玉を取り出す。

「じゃあまずは基本から始めましょう。術には人が生まれつき持つ魔力と、地術四種の中から適応一種、天術二種の中から適応一種が基本となるわ」

「あれ? 詩人って前に地術の適性はないけど天術は両方の適性があるって言ってなかったっけ?」

 エレンが思わず口に出した。

 余計な事を思い出しやがってと心の中で思う詩人。驚きの表情を浮かべるウンディーネ。

「それ、本当かしら?」

「あ~…まあ、な」

「聞いた事ないわね、興味深いわ。貴方、何か知っていることあるのかしら?」

「無いと言えば嘘になるが…まあ、俺が特に変なだけだ。恐らく、同じような奴は滅多にいないから無視していいレベルだな」

「ふーん、そう…」

 納得がいかない表情をしているが、これ以上聞いても無駄だと理解したのだろう。

 ウンディーネは話をいったん横に置き、取り出した水晶玉の一つを握る。

「これは魔力を計るものなの。もう一つは地術の適応を、もう一つは天術の適応を」

 握った水晶玉に魔力を込めると、水晶玉が輝きだす。眩しいと思えるくらいに輝いたそれを見せながらウンディーネは話を続ける。

「魔力が多い程、水晶玉は強く輝くわ。私より明度が高い水晶玉は見たことがないけどね。

 …貴方もやってみる?」

 そう言って水晶玉を詩人に渡すウンディーネ。受け取りながら詩人は答える。

「これだけな。他二つはやらないぞ」

 そう言って水晶玉を握り込み、魔力を込める詩人。水晶玉は薄ぼんやりとした光を放っていた。

 無言で今度はエクレアに渡す詩人。同じように魔力を込めると、今度はやや明るいくらいの光を出す。

 最後にエレンが水晶玉を握り込む。

 …変わらない。言われてみれば、ほんの少し光っていなくもないかなというレベルだ。

「あの、ウンディーネさん。これは…」

「魔力がほとんどないタイプね。稀にいるわ」

 それはエレン自身でも自覚していたとはいえ、こう客観的に表されると結構凹む。

 それを見ながらじっと考え込むウンディーネは、やや強い視線で詩人を見る。

「この子たちに術を教える事が条件だったわね。普通の方法ではエレンお嬢ちゃんに術を教える事は不可能に近いのだけど、無理をすればなんとかなるわ。

 その代償は払って頂けるかしら?」

「…確か、ボルカノを倒す担当を決めたのはそちらだったな。それを俺が倒した事でチャラにしてくれないか?」

 言葉につまるウンディーネ。担当云々はいくらでも誤魔化しは効くが、魔王の盾を携えたボルカノを詩人以外が倒せたとは思いにくい。

 モウゼスと、自分の地位と。その両方を守ってくれたと考えれば、それでチャラにしてくれるというなら破格か。

 ため息を一つ吐きながら、ウンディーネは不思議な宝石をあしらった装飾品を取り出す。その宝石は二重になっているようで、瞳のような印象を抱かせるものだった。

「魔女の瞳と呼ばれるアクセサリーよ。魔力を一定底上げする力と、術や呪いに対する抵抗力を上げる効果があるわ」

「は~。キレイな宝石ね。私、見た事ないや」

「これ、貴重なものなんですか?」

「凄くね。モウゼスの総力を集めて、まだ3つしか集まっていないものなの」

 その言葉にエレンの表情が引きつった。モウゼスは中規模以上の都市である。世界で10に入る国や大商会の、その次か更に次くらいにはパワーがあるだろう。

 そのモウゼスが、3つしか集められないレベルの貴重品。エレンの出身であるシノンの村なら、この宝石一つで権利を買い取れそうな代物である。

 そんなとんでもない宝石をさらりとエレンに渡すウンディーネ。

「これを身につけておけば、並の術師くらいの魔力は手に入るわ。ただし、エレンお嬢ちゃんに才能がない事が変わりないから、術は二種類選ぶんじゃなくて、一つだけを集中して鍛えなさい。

 それに最初の才能がないから適性も考える必要はないわ。自分にあうと思う属性一つを選べばそれでいいわ」

「玄武術を選びます」

 即答だった。余りの迷いのなさに、ウンディーネは反応が遅れてしまう。

「…随分決めるのが早かったけれど、玄武術でいいのね?」

「はい。どれでもいいのなら、ウンディーネさんに教わる以上、ウンディーネさんの得意な術が一番だと思います。

 私は術を極めたいんじゃないです。術を使って強くなりたいんです」

「そう。まあ、そういう弟子も面白いからいいわ、やってみましょう。術の真髄を極めるのでなく、術を効率的に使って戦いが強くなるタイプを作る。新しい試みね。

 話を戻すけど、エクレアお嬢ちゃんは並よりは強いくらいの魔力を持っているわね。術師としてもそれなりに強くなれると思うけど…武術の才もありそうだし、オールラウンダータイプね。とりあえず、術の適応を見てみようかしら」

 ウンディーネは一つ目の水晶玉をしまうと二つ目の水晶玉を取り出す。

「これは地術の適性をみる為の水晶玉。玄武なら青、白虎なら茶、蒼龍なら緑、朱鳥なら赤に輝くわ」

 そう言ってまたウンディーネが魔力をこめると、当然の如く青く輝く水晶玉。

 それを今度はエクレアに渡すウンディーネ。エクレアも同じように魔力をこめたら、今度は緑に色が変わった。

「エクレアお嬢ちゃんの地術適応は蒼龍ね。

 最後の水晶玉は天術の適応を見るわ。明るく輝いたら太陽術、暗く輝いたら月術の適性よ」

 ウンディーネが魔力を送り込むと暗く輝く。月術の適性があるのだろう。

 続いてエクレアが魔力を送り込んだら明るく輝いた。太陽術の適性だ。

「これでそれぞれが目指す方向性は見えたわね。後は私が手解きをしてあげるわよ」

「よろしくお願いしますっ!」

「はいっ! 頑張ります!」

 そこでコンコンと応接室の扉がノックされた。

「申し訳ございません、ウンディーネさま。そろそろ執務のお時間が迫っていますが…」

「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあ今日はここまで。次回から術の基礎から教えましょう」

 ウンディーネのその言葉で、ひとまずその日の術の話はお終いになった。

 

 夜。モウゼスの中でも一際高級な宿。そこに詩人たちは部屋を借りていた。

 もちろん代金はウンディーネ持ちである。ウンディーネの館は仕事が夜でもひっきりなしに入ってくるため、客が休まる余裕がない。そこで別の宿を手配した次第だ。

 詩人は一人部屋だが、エレンとエクレアは二人部屋。これはエクレアが一人だと寂しいと駄々をこねたことが原因である。

 夕食の後、一人食後の茶を楽しんでいた詩人。その部屋にコンコンとノックがされた。

「開いてるぞ」

「やっ」

 来たのはエレン。酒を持って気安い様子で部屋に入り、詩人と向かい合わせで座る。

「そういえば差しで飲んだことないと思ってね。一杯どう?」

「俺は構わないが…エクレアは?」

「もう寝たわよ。術を覚えるのが楽しみだって騒いでたから疲れたんでしょ。あれを見ると、まだまだ子供ね」

 あれだけ強いのに。小さくそうこぼして、グラスに酒を注ぐエレン。

「じゃあ、乾杯」

「ああ、乾杯」

 クスリと小さく笑って酒を煽るエレン。

 無表情に酒を口に含む詩人。

 一息ついた後、おもむろに本題を話始めるエレン。

「詩人、結構隠し事多いわよね」

「そうか?」

「そうよ。術の適性もそうだし…あなたの剣技、尋常じゃないことくらい、あたしでも分かったわ」

 不抜(ぬかず)太刀(たち)を見た時は戦慄した。あれほどの技が存在するのかと。

 それでなくても詩人は隠し事というか、不審な点が多い。例えば。

「バンガードでフォルネウスとの戦い、詩人なら勝てたんじゃない? あたしたちを避難させた後でも深手を負ったフォルネウスと、無傷の詩人なら勝ち目は十分にあったように思うわ。

 特に、剣技があそこまで優れている貴方なら」

「まあ、勝てた可能性はあるな」

 あっさりと認める詩人。だが、と話を続ける。

「あくまで可能性だ。勝てると決まった訳じゃない。なら、逃げる敵を無理に追う必要はないと思っただけさ」

「あたしはそうは思わない」

 エレンは詩人の言葉を切って捨てる。

「フォルネウスは逃げるつもりだった。バンガードやあたしやエクレアにその余力はなかったけど、詩人にはあった。

 あの状況で追い打ちをしない理由はないと思う」

「…ハッ。少しは頭が回るようになったか。鍛えたかいがあったか?」

 酷薄な笑みを浮かべて詩人は言う。

 今まで被っていた皮の一枚を脱ぎ捨てた。エレンはそう感じ取った。

「…詩人、目的はなに? 四魔貴族を倒せる程の実力を持った貴方の目的は、なに?」

「言っただろう。宿命の子を探すことだ」

「宿命の子を探して、どうするの?」

 ぐいと酒を呷る詩人。そして、言う。

「復讐だ」

 その言葉に、ゴクリと唾を飲み込むエレン。もしかしたら詩人が敵に回るかも知れない。その想像に思わず寒気がした。

「…復讐? 宿命の子に?」

「いや。宿命の子に今は何の恨みもない。だが、宿命の子が鍵なんだ。

 宿命の子を見つける事が、復讐の第一歩になる。だからゲートを俺が閉じても意味はないのさ。ゲートを閉じようとするか、開こうとするかをする宿命の子を見つけ出すのが俺の目標だ」

「その、復讐相手は?」

「さあね? 案外、宿命の子自身が復讐相手だったりしてな」

 事情を知る者からすると、この軽口は明らかな失策だった。エレンの口から宿命の子が誰だかを知る機会は、限りなく薄くなったといっていい。

 黙ったエレンに対し、今度は詩人から問い掛ける。

「そっちこそ、なんで四魔貴族を倒してゲートを閉じようなんて酔狂な真似をしようとする?

 それこそ宿命の子か、大国や大商会に任せておけばいいじゃないか」

「そもそも宿命の子がゲートを閉じようとするか分からないじゃない。ゲートを開けようとするかも知れないし」

 それにと、グラスを傾けながらエレンは続ける。

「宿命の子だからゲートに関わらなければいけないの? 宿命の子じゃないとゲートに関わっちゃいけないの?」

 それに詩人は反論する言葉を持たない。

 宿命の子はゲートに干渉する力を持っている事は確かだが、しかしだからといって宿命の子がゲートに関わらなければいけない理屈はない。

「あたしは、あたしがゲートを閉じようと思った。それのどこが悪いの?」

「悪くはないさ」

 悪くはない。だが、それ以上の何かが理由でエレンがゲートを閉じようとしている気がしてならない。

 功名心では、ないだろう。そういったタイプには見えない。義侠心、これはあるかもしれない。詩人がここまで探して宿命の子の情報が手に入らないのだ。宿命の子は積極的に動いていないのかもしれない。

 それでも誰かはやらなくてはならないのならば、自分がやる。そういった理屈なら納得もできる。

 だが、何かが違うと詩人は自分の勘が違和感を訴えていることに気が付いていた。だが、何が違うのかはよく分からない。

「最後に一つだけお願いがあるわ」

 その勘が答えを出す前に、エレンから言葉が出る。

「エクレアを裏切らないで。

 あの子は純粋よ。心からあたしと、それから詩人も慕ってる」

 ウンディーネの館にて、詩人が不抜(ぬかず)太刀(たち)についての口留めをした時。

 ウンディーネは明らかに恐れを抱いていた。エレンも思わず体が硬直してしまった事は事実である。しかしエクレアは、エクレアだけは詩人を心から信じて敵に回る事も、敵になる事もないと信じ切っていた。

 そんなエクレアを裏切って欲しくはなかった。エクレアのためにも、そして詩人自身のためにも。

「お願いよ」

「…約束はできない。けれど、人の信頼を裏切りたいとは思わない」

 そう言って酒を飲み干す詩人。

「エクレア自身が裏切らない限り、そして俺の目的の障害にならない限り、エクレアは俺の敵にはならないだろうさ」

「そう。詩人には復讐が一番大事なのね。

 …復讐よりも大事な事を見つけられる事を願っているわ」

 そのエレンの言葉に、思わず虚を突かれた詩人。その間にエレンは酒を飲み干して、詩人の部屋から出ていってしまった。

「復讐よりも大事な事、か」

 それは復讐が終わってみないと分からない。あの裏切りによって、詩人は全てを、大事な仲間をもなくしてしまったのだから。

「だがそれも、もうすぐ終わる。

 もう少し、もう少しなんだ…」

 昏い瞳で詩人は呟く。彼が解き放たれる日は、遠い。そう感じさせる瞳だった。

 

 

 死者の井戸。

 ボルカノ側についた者たちは、全てこの井戸に投げ捨てられた。それはもちろんボルカノ自身も例外ではない。

 冷たい井戸の底で蠢くのは亡者のみ。そして魔王の盾も改めてこの井戸に封印されていた。

 今後しばらく、いやしばらく以上の時間は停滞したままだろうと思われていた場所で、突如として炎が舞い上がる。それはこの内乱の原因となった男、ボルカノを包んで燃え上がった。

 そしてその炎が治まる時、一人の男が無傷で立っていた。

「ふう。保険をかけておいて正解だったか…」

 ボルカノである。彼は無いとは思いつつ、保険をかけていたのだ。朱鳥術の奥義、リヴァイヴァ。自身の生命力をも使い、死に落ちても舞い戻るその術はさながらフェニックスのようでもあった。この男にそのような神々しさは微塵も存在しなかったが。

「さて」

 ボルカノは封印された魔王の盾を見る。繋がりは、ある。魔王の盾は今もまだ自分を主人(はんしん)と認めている証拠だった。

 ならば、魔王の盾にとってウンディーネ如きの封印など意味はない。動かないはずの魔王の盾は浮遊し、ボルカノの側へと寄り添う。

 そして考える。どうやってか分からないが、一瞬にて殺された。あの詩人は危険だ。魔王の盾があるからと楽観していい相手でない事は理解した。このままモウゼスに再侵攻する事は愚かな事だろう。

(幸い、目的の物は手に入れたし、な)

 浮遊する魔王の盾を見ながらそう思う。

 まずは体勢を立て直す事。アウナスに一度繋ぎをとってもいいだろう。そう考えると、ボルカノは死者の井戸から這い出して、誰にも気づかれる事なくモウゼスから姿を消した。

 

 

 




不抜(ぬかず)太刀(たち)

閃き条件:月術レベル20以上
閃き難易度:A
消費ポイント:術6
依存:剣技・魔力
威力は低めで遠距離対応。剣術レベルがあがると全体攻撃になる。
術扱いなので、閃き技だが術に枠がないと閃かない。


ボルカノ、生きていました。リヴァイヴァって便利な術ですよね。
アウナスの戦力増強です。
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