詩人の詩   作:117

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026話

 

 バンガードの準備は整ったと言っていい。

 非戦闘員は大陸側のバンガードへと移し終え、溢れた住民はモウゼスかウィルミントンに移住している。特にウンディーネは術の素養がありそうな者に積極的な声かけをしており、人手を効率よく回収していた。チャンスを逃さずに利益を得るのも上に立つ者として重要な資質である。

 残った半島部分にはバンガードを動かした際に必要な人員が揃っていた。兵はもちろんだが、普段の生活をするのに必要な水夫やコックといった者たちも乗り込み、安全な中枢の近くにあった居住区で待機をしている。

「本当にバンガードが動くのかのぅ…」

 制御室にいる中核メンバーの中で、キャプテンが思わず弱気な言葉を吐いた。確かに、ここまでやってバンガードが動きませんでした、では本格的に笑い話にもならない。真面目な話、それだけでキャプテンは失脚するだろう。普通に人望を失う。

「ウンディーネの集めた玄武術師が本物なら間違いなく動く。心配するな」

「あら。責任重大ね」

 対して実害があまりない詩人やウンディーネは気楽なものである。と、見るのは底が浅い。ここで失敗したら彼らの影響力にも少なくない打撃があるのだ。気楽なのではなく、気負っていないだけ。

 その辺りは一緒に旅をしたエレンやエクレアには何となく分かったものだが、分からないキャプテンは更に情けない顔になる。

「頼むからしっかりしておくれ」

「ま、ふざけるのはここまでにしておきましょう」

 コホンと咳払いをしたウンディーネは配下の玄武術師たちを見渡して、よく通った声を響かせた。

「シンクロ、開始!」

「シンクロ、開始します。術力展開、50%!!」

 術師の中でリーダー格の男が復唱し、術力を引き上げる。

 数多の術師が絞り出した術力を纏め上げるのがそのリーダー格の役目。それを事前に把握していたバンガードの動力炉に注ぎ込み、推進力とする。

「術力展開、70%!!」

 試運転ではこの辺りが限界だった。しかし今はオリハルコーンがある。玄武術の効果を増幅させるその特殊な金属は、術師たちの力を文字通り倍加させる。

 淡く輝くイルカ像。それが段々と輝きを増していき、バンガードがゴゴゴゴゴと震えはじめる。

「術力最大展開、100%!!」

 振動は激しくなる一方だが、それ以外の変化はない。最大出力でこれなら、やはり無理なのか。そんな諦観が広まっていく。

 その中でチラリと詩人を見たウンディーネ。

 詩人は全く動じていなかった。バンガードが動くのは当然だと言わんばかりに、僅かな動揺も見られない。その姿にウンディーネは覚悟を決めた。

「出力を上げなさい!」

「しかしこれ以上は我々が! バンガードも耐えきれません!!」

「一瞬でいい、限界を超えなさい! 大地の鎖を断ち切るのよ!」

「くっ! 総員、出力上げろ!! ウンディーネ様のお言葉だ、黒い事も白くしろ!!

 出力増大、110%…120%……150%!!」

 その瞬間、微細な振動は唐突に打ち切られた。代わりに言い知れない一瞬の浮遊感。そして海への着水音と、波をかき分ける音が耳に届く。

 余りの出来事に呆然とする人々だが、詩人だけはニヤリと笑ってエクレアを肘でつついた。こういう事を言うのが好きだろうという茶目っ気でもある。

 即座に我に返ったエクレアは詩人に、にこりと笑い返すと、誰もが信じられないその言葉をバンガード中に響かせた。

 

「バンガード 発 進 !!」

 

 更なる歓声が爆発した。

 

 

 

 日にちが経つ。バンガードはひたすら西へ西へと突き進んだ。

 船旅とはいえ、島ごと動くのである。揺れは軽微で酔いはない。ふと気が付かなければ陸で生活しているのと同じだった。

 その中でも詩人たち一行は変わらない。術を学び、乱取りをして、武術を鍛える。特にエレンはハーマンから術と斧術の合成技まで学んでいた。理論的に教えてくれるハーマンは、エレンにぴったりの教師だと言っていい。術と技とを同時に学ぶ二人だが、エレンとエクレアの方向性は異なっている。

 エレンは術と技を別の物と考えずに基礎から組み合わせて戦い方を構築していった。基本からもれなく学ぶエレンは先に進んでも、何か引っかかりを感じたら基礎まで戻り、学び直す。そして万全だと感じたら進み、当たり前の事を完全にできるようになるまで反復した。それは当然のように思えるが、存外難しい事は詩人やウンディーネ、ハーマンはよく知っている。

 対してエクレアはその奔放な性格そのままに、好きな事を好きなように好きなだけ成長させていく。自分の感性そのままに成長するのは何よりも効率がいい。その伸びは詩人が驚き、ハーマンも恐れた程だった。

(チビは底が知れねぇ、儂なんぞ簡単に超えるんじゃねぇか…?)

 そんな日々にも終わりがくる。バンガードが遂に西の果てに着いたのだ。

 

 西の最果てにあるその島は、永遠と落ち続ける滝の間際にあった。今際と思えるその状況で、住人である赤い甲羅のロブスター族は呑気に暮らしていた。

 陽気で呑気な音楽を奏で、木に成った果実を食べて、陽を浴びて過ごす。そんな一族だ。

「客人? ブラック以来かな? あまり長居しない方がいいよ、間もなくこの島は滅ぶから」

 ……自分の滅びを理解して、それでもなお気楽に過ごせる種族だった。

「ちょっと待って」

「滅びるとか。その辺りの話を詳しく」

 自身の感性とは大きく違うロブスター族に、ウンディーネとエレンは困惑しながら尋ねる。

「ロブスター族はフォルネウスの海底宮の場所を知っているからな。口封じのためにフォルネウスが刺客を放ったのさ」

「来たのは水龍、玄武術を得意とする我々とは相性が悪い」

「どうせいつか果ての滝に削られてこの島はなくなるしな。早いか遅いかの違いだ」

「おお、あれがブラックに聞いた伝説のバンガード! 私も乗ってみたいものだ」

「あ、海底宮の居場所は教えるよ。頑張ってフォルネウスに挑んできてくれたまえ」

「そんな事はどうでもいいとしてだ。この音楽はどうだ? ブラックに教えて貰ったものをアレンジしてみた」

「木の実も分けるぞ。自慢の一品だ、ぜひとも口にしてくれ」

 出るわ出るわ、重要情報とどうでもいい世間話。そして人族とどこかズレているその感性に戦慄する女二人。

「お~。いい音楽だね、まったりできそう! 教えて教えて!」

「いいぞ~。ロブスター族は爪が片方二本しかないが、人族は爪が片方五本あるからな。もっと上手に弾けるんじゃないか?」

 女二人である。女三人ではない。エクレアはあっさりとロブスター族に順応してしまった。

 全力で固まる彼女等はさておいて、頭を抱える男二人。

「変わらんな、ここは…」

「他にする事はないのか…」

 

 仕切り直し。

 

 ここ、最果ての島はフォルネウスの居城である海底宮の場所を知っている為に、フォルネウスが放った刺客である水龍に滅ぼされる寸前らしい。

 水龍は島の内部に入り込み、破壊活動を行っている。そしてもう間も無く最果ての島は破壊されるらしい。

 しかしロブスター族はそれを気にしない。滅びるものは滅びるとそれを受け入れている。そもそも果ての滝に削られるこの島の寿命は長くはない、早いか遅いかの違いだ。

 その証拠にフォルネウスの居城の位置を対価なく教えてくれる、別に水龍を倒すとは関係なく。

「私もバンガードに乗せて欲しいものだ」

 呑気にそんな事を言う者までいる始末である。だから、それを対価にしろという。交渉のこの字も知らない連中である。

 少し時間をくれと言ってから円陣を組む5人。余りの人畜無害さにウンディーネが困惑しながら口を開く。

「ちょっと、どうするのよコレ」

「ここを無視して海底宮に行くか、水龍を倒して海底宮に行くか、ですよね…?」

 エレンが一応の方針を確認する。緊張感が無さすぎて重い言葉の割に実感がない。

「私たちが何もしなかったらこの島が無くなっちゃうんでしょ? 助けようよ」

「儂も同感だ。わざわざ死期を早める事もあるまい。フォルネウスの居場所を教えてくれた礼に、ひと肌脱いでもいいだろう」

 エクレアが核心を口にして、ハーマンもそれにのる。

 詩人も自分の意見を言った。

「水龍がどの程度のモンスターかは分からないが、フォルネウスの手下なら奴より弱いだろう。加減を知るのに丁度いい。

 それにフォルネウスの思惑通りに事が進むのも癪だ。アビスの企みは一つ残らず叩き潰すに限る」

 それに頷いて応えるエレンとウンディーネ。

 どうやら、最果ての島を見殺すには一同は冷酷になり切れなかったらしい。それにもう間も無くフォルネウスとの対決が控えている。僅かでも実戦の機会は逃す必要はないだろう。強い相手なら尚更だ。

「で、だ」

 ハーマンは困った顔でチラリと横目で一人のロブスター族を見る。

「あいつはどうする? 一緒に来たがっているのは分かるが」

「バンガードに乗ってみたいって…観光気分で来られても困るわよね」

「けどさー。ロブスター族ってだいたいそんな感じじゃん? あの人なりに本気だと思うけど」

「……」

 少し考え込んで、詩人がロブスター族に声をかけた。

「お前、名前はなんて言う?」

「私か。ボストンだ」

「ボストン、俺らは水龍やフォルネウスと戦い、勝つ。一緒に戦うなら、その過程でバンガードにも乗れるぞ。もし強いなら歓迎する」

「おお、それはありがたい! 私が強いかは分からないが、ご一緒させて貰おう!」

 どこか締まらない、不安を感じさせる返事と共に。

 ボストンが同行する事が決定した。

 

 島の内部に入り込み、奥を目指す。中核を破壊されて脆くなった最果ての島は、一気に滝に削られて消滅する。そうして水龍は島を破壊するつもりらしい。

 ボストンはそう説明しつつ、道案内をする。フォルネウスは水龍以外にも水棲モンスターを派遣して、中に進む者を妨害していた。もちろん雑魚モンスターに今更手間取るはずもなく、一行は湧き出るモンスターたちを一蹴していく。

 槍を突き出してくる男型魚人のニクサー。対するはエクレアだが、その槍捌きは詩人のそれに比べればまるでハエが止まるよう。バスタードソードを握りしめ、受け流した体勢から回転し、無防備になったその体を切り落とす。多く使っている事もあり、その熟練度は高くなっている。

 毒を吐きながら近づいてくる蟹型モンスターであるポイゾナスクラブ。エレンはその毒に触れないように錬気拳を応用した空気投げで、斧を両手で持ったままポイゾナスクラブを地面に叩きつけた。隙だらけのその体に向かって斧を振り下ろし、絶命させる。技という程でないその一撃だが、ここ数日の訓練でその鋭さは増す一方だ。基礎に忠実なエレンだからこそ、隙を生じさせにくい基本攻撃の練度は上がっていく。

 血を吸う水中花がハーマンに迫るも、たくみなステップでそれをかわしていく。片足が義足とは思えないその動きで相手を翻弄し、やがてできた隙に向かって思いっきり斧で両断する。大木断、その高威力の一撃は水中花をへし折って生命活動を停止させた。ハーマンは年の功というか、安定感がある。一番心配しなくていいだろう。

 そして仲間になったばかりのボストンも、意外というか強い。複数の殺魚を相手にして、両手にあるハサミでその体を容赦なく断ち切っていく。体捌きは体術ながらも斬撃効果もあるその一撃は、人間が磨き上げた体術とは違いながらも種族の特徴であるハサミを最大限に生かしていた。

「安心して見ていられるわね」

「ああ。後は強敵相手にどこまで戦えるか、だな」

 後方でフォローをする為に待機していたウンディーネと詩人は暇である。前衛がミスらしいミスをしないので当然の話だが。

 というか。雑魚モンスターで手間取るようではフォルネウスを倒すなんて夢のまた夢だ。この程度は当たり前にできて貰わないと困る。

 快進撃はそのまま続き、最奥に居る水龍の元まで辿りつくのに時間はかからなかった。

 

 滝から突き出た島の一部。そこにこの騒ぎの元凶である水龍はいた。ある程度の広さがある場所とはいえ、下は底知れない永遠の奈落だ。落ちたら即死、その恐怖は持ってしかるべきである。

 その中央に陣取っていた水龍は現れた人間たちをギロリと睨みつけ、咆哮をあげる。

 グオオオオオォォォォォ!!

 それにひるまず、戦士たちは躍り出る。ただ一人、下がって弓を携える詩人だけを除いて。

 先陣をきるのはエクレア。その斜め後ろにエレンが追従し、妹分をフォローできる位置を取る。最後尾にはウンディーネ、術師である彼女は接近戦に向かないため、戦いの全景を見渡せる場所を好む。そしてその斜め前にはハーマン。ウンディーネを守れた上で攻めにも転じやすい熟練者のみがとれる間合いだ。ボストンは連携を合わせられるほど時間を重ねていないので、全員の真ん中でどんな事態にも対応できるようにしている。

 そしてそれは龍陣と呼ばれる陣形になっていた。先頭のエクレアを起点として、後続が連続して敵に襲い掛かる陣形。その性質上、多数の雑魚ではなく単一の強敵を相手取るのに向いた陣形でもある。

 攻撃を仕掛けてくる人間たちを座して待ち構える、という悠長な事は水龍の選択肢にはもちろんない。そもそも最果ての島を破壊するために送り込まれるほど獰猛な性格をしているのである。近づいてくるなら好都合、むしろ自分から攻める手間が省けるというものだ。

 水龍は、言うなれば東洋の龍のような細長い体をしている。その巨体と相まって、リーチは長い。首の近くを支点にして尻尾を振り回し、尾撃をくわえる。狙いは先頭にいるエクレアであり、その攻撃範囲にはエレンとボストンまで含まれた。エクレアは回避をしようとすればできるが、尾撃の攻撃範囲が仲間を巻き込むとあってはそれを選ぶ事はできない。咄嗟に止まり、バスタードソードを巧みに繊細に振り上げて、体全体で回転する勢いも合わせた剣戟でその尻尾を上に逸らす。

 無形の位。相手の動きを見切り、その攻撃を最小の動きで回避する技であり、その習得には極めて高いセンスと技量が必要とされる。相手の動きを見極める洞察眼と、それを効率良く捌く運動能力。そしてそれを成立させる才能。それを併せ持つエクレアだからこそ可能な技だ。今回は水龍が攻撃する威力が威力なので大きく動いてしまったが、その破壊力に比較すれば動きは最小限なのである。

 一撃を無効化された水龍にエレンが躍りかかる。握った拳でその眉間に短勁を叩き込み、次いで斧で首筋を斬りつける。続くボストン、そのハサミで水龍の長い体を乱打して傷をつけつつ、素早くその攻撃範囲から逃れて追撃される事を防ぐ。そこに飛んでくるのは小さな手斧、ハーマンが投げたトマホークだ。エレンが以前に多くの小さな手斧をトマホーク用に携帯していたという話を聞き、その真似をして遠距離からでも攻撃手段を確保した。常人より素早いとはいえ片足が義足の彼はやはり素早さとバランスに難がある。こういった搦め手の方が集団戦では貢献できることが多い。

 連続して攻撃を喰らった水龍は怒りに任せて術を発動させる。玄武術の基本であるスコールだ。それを確認したウンディーネは対抗呪文として同じ術を選択し、詠唱する。即座に使う事もできなくはないが、やはり詠唱した方が術というものは威力が出るのだ。

「スコール!」

 水龍のスコールと、ウンディーネのスコールがぶつかり合い、相殺し合う。怒りに任せて使った水龍のスコールよりか詠唱をしたウンディーネのスコールの方が強く、押し切ってその威力ある雨粒が水龍を叩く。

 叩くが、そこは名前の通りの水龍。多少の水などなんの痛痒も感じない。それがどうしたと口を開き、牙を剥きながら蛇行してその歯で進行上の者を切り裂いていく。そこにいたのは、攻撃を逸らして無防備になったエクレアと深く切り込んで離脱が遅れたエレン。

「きゃあ!」

「くっ!」

 エレンはなんとか浅い傷をつけられただけで済んだが、エクレアはそうもいかなかった。水龍の牙が太ももを深く切り裂いて、その巨体にはね飛ばされてゴロゴロと地面を転がる。

「生命の水!」

 それに間髪入れずに癒しの水の術を発動させたのはボストン。大きく出血した傷は小さくなり、命に別状はない程度になる。しかしそれだけではまだ戦線復帰とはならない。死ぬほどのダメージではなくとも、寝込む程のダメージはまだ残っているのだ。それが純粋な術師ではないボストンの限界だった。

「生命の水」

 故に術の専門家であるウンディーネが続けて癒しの水を振りかける。その効果の違いは大きく、エクレアを瞬く間に完治させた。

 そんな連続した術を唱えている間に、攻撃に専念していたハーマンの大技が完成する。長い詠唱を必要とする代わりに、術の中で最高峰の威力を誇る蒼龍術を唱え終えた。

「トルネード!」

 風が渦巻き、巻き上がり、吹き荒れる。周囲の小石をも内側に取り込んだその風は、上へ上へと真空の刃を合わせて中心にいる水龍に深刻な裂傷と打撲を与え続けていく。

 水龍が悲鳴をあげる。巻き上がる竜巻は雄叫びに聞こえる。二匹のドラゴンが叫ぶ大絶叫。

 それが終わるのに合わせて飛び込んだのは、瞳に怒りを宿したエクレア。受けた痛みは倍にして返してやると言わんばかりに、水龍の目の前で止まって大きな隙と共に溜めをつくる。後ろに回したバスタードソードは、大きな弧を描いて振り上げられて振り落とされる。その凄まじい剣速に、切っ先は炎熱を纏っていた。

「ブルクラッシュ!」

 斬撃と打撃、そして熱を含んだその一撃は。清々しくこれ以上なく、手本のように水龍の体に深刻なダメージを与える。

 痛みにのたうち回る水龍だが、それは尻尾以外の話。その頭とは逆の先端はエレンによって抑え込まれていた。

「全員、伏せてっ!」

 エレンの言葉を無視する仲間は誰もいない。エレンがしそうな事を察してしまったからだ。

 錬気拳を発動。重力場を操作し、自身を重くして勢いに流されないようにする。そして安定させたその体を軸に、尻尾を掴んだ水龍をグルグル、グルグル、グルグルグルと遠心力をつけながら振り回す。細長い体をした水龍はその力に逆らう事が出来ず、僅かな抵抗の後にピンと一本の縄のように伸ばされてしまった。振り回される水龍の視界には、世界の果てである滝とその向こうの虚無が交互に見える。

 まさか、と絶望に思う間は短い。そのまさかの選択をするのは敵として当然の事。

「ジャイ、アント、スイィングゥゥゥ!!」

 遠心力のそのままに、振り回す勢いをそのままに。水龍を滝とは逆の虚無に向かって投げ飛ばしたエレン。

 水龍は情けない悲鳴を上げながら、どことも知れない場所へと墜ちていった。

「勝ちっ!」

 無邪気なエクレアの言葉を空恐ろしく感じたのは、多分ウンディーネの気のせいだろう。

「やったわね」

 一仕事終えたとばかりにイイ笑顔を浮かべた実行犯であるエレンに戦慄するのも、もちろん気のせいである。

 

 ウンディーネは虚無を見る。永遠に墜ち続けるか、それともいつかどこかの底に激突するか。

 どちらにせよ、自分は絶対にゴメンだと思う終わり方をする水龍に僅かな哀れみを感じた事だけは気のせいではなかっただろう。

 

 

 

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