詩人の詩   作:117

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三連休です。
昨日は一日眠っていたので、今日からバリバリ執筆していきたいと思います。
一気にフォルネウス編を終わらせたいですね。


028話

 

 

 

 戦支度を整える。

 詩人の格好は今まで通り、というには大きく違う点が一つあった。それはその手に持った長く頑強な斧槍(ハルバード)。特級品である事は一目で分かる、極上の武器だった。その他にも携帯食料や水なども備えているが、その斧槍(ハルバード)に比べれば些末な事だろう。

 エレンは今までと同じく、体の動きを阻害しない範囲で体を守る防具を身に着けている。主に体術を使う事もあり、ガンドレットやブーツの打点に使う部分には特に硬い補強がされており、攻撃力を高めている。そして戦斧を背負い、体術との両立した攻撃を可能としている。

 エクレアは弓を外して僅かでも身軽にしていた。実際、弓の腕は標準以上の腕前であるのだが、如何せん本人が余り好んでいない。その上で一番の武器はその素早さと身軽さ、そして接近戦におけるセンスが高いため、思い切って弓は外す事にした。代わりにバスタードソードとシルバーフルーレを持ち、体術も可能とするエクレアは接近戦になれば苦手な距離はないといっていい。

 ウンディーネは一級品のローブを身に着けているが、持ち物が格段に増えている。様々な術具を用意しており、後方支援だがその分接近戦以外はオールラウンダーに立ち回る予定である。

 ハーマンは変わらない。海の男らしい防具に、斧に盾。それだけを身に着けて挑む。相手によって装備を変えるというより、自分らしさを貫き通す。そちらの方が性に合い、そして実際成果も出るのだろう。

 ボストンについては言わずもがな。その硬い甲羅に覆われた体と大きなハサミ。それ以上の防具も武器も必要はない。

 そうして準備が整った、という所でウンディーネが口を開いた。

「みんなに術具を渡しておくわ。鱗のお守り、私はそう名付けたの」

 そう言って全員に配ったのは、文字通りの鱗でできたお守りだった。魚鱗を上手に編んだようなそのお守りは身に着けただけで、重さを感じない膜が体を覆ったようである。

「これから乗り込むのは海底宮、玄武術を得意とするフォルネウスの居城よ。そのお守りは物理や術に対抗するのはもちろん、特に玄武術の威力を大きく削いで軽減するわ。それこそ簡単な玄武術ではダメージは通らないくらい」

「へ~、凄い物をくれるんだね。安心感がさっきとは全然違うよ」

「フォルネウスを倒すのでしょう? なら、ちゃんと備えておかないとね」

 そういってにこやかに笑うウンディーネだった。

 

 潜水艇に乗り込んだ一行は、問題なく進水していく。文字通り深海の海底にあるフォルネウスの居城は見つけるだけでも一苦労である。潜水艇にいる時にする事は、戦闘要員にはない。運転を任された術師たちが制御し、探索し、発見するまで待つしかないのだ。

 重苦しい沈黙で満たされる。たまにあがる軋みの音にビクつきながらも、誰もが無駄口を叩かずに海底宮の発見を待つ。

 一分が長く感じる。時間の感覚が狂う。心がおかしくなってしまう。それに耐え、じっと待つ。

 するとやがて、ようやく。待望の言葉が発された。

「海底宮、発見しました」

「よし。乗り込むわよ!」

 エレンの気合いの入った声で気が引き締まる。

 まだ戦いは始まっていない。ある意味、ここがスタートラインだった。

 

「キレイ…」

 思わずといった風にエレンが呟いてしまう。四魔貴族であるフォルネウスの居城だからどんな禍々しい宮殿なのかと身構えていたが、実際に目にしてみれば意外や意外。これまで見た事がない程に美しい宮殿だった。

 前庭の芝は綺麗に整えられていて、清潔感を感じる。宮殿をおおう壁は真っ白で汚れ一つなく、その奥に見える海底宮そのものを際立たせている。上を見上げればどういう理屈か深海なのに光が届き、海水を青く輝かせていた。美意識という点において、どうやらフォルネウスはどうやら悪くないらしい。バンガードで見た奴の姿は醜悪そのものだったが。

「深海であることにかまけて防衛能力は低いな。…攻め込まれる事を考えていない、程度が知れる」

「辛辣だね」

 そんな美しさなどどうでもいいと詩人が吐き捨てて貶す。それを聞いて苦笑いで返事をするボストン。

 トントンと肩を愛槍で叩きながら詩人を壁の奥に存在する海底宮を睨みつけながら言った。

「300年前に聖王に攻め込まれているだろうに。死食でゲートが開いてから15年、改善する時間は十分あったはずだ。

 なのにそれをしないとは……理解できないな。する気もないが」

「前々から薄々思ってけど、貴方、随分アビスに対してキツイわね? ボルカノもアウナスと組んでいるって聞いてから目の色を変えていたし」

「アビスが好きな奴の方がよっぽど倫理的にどうかしているかと思うが」

「ご尤も」

 忌々しそうに言葉を続けた詩人にウンディーネがちょっと言葉を挟むが、あまりの正論に思わず納得してしまった。

 そんな話に早くも飽きたエクレアがつまらなさそうに口を開く。

「ね~。どういでもいいからさ、早く行こ?」

「まあ待てチビ。今はまだ待ちだ」

 それを制するはハーマン。彼も鋭い目で海底宮を観察しており、その先には白い壁の中で一つだけの異色が目立つものに固定されている。正面にある飾り門、それが固く閉ざされている。

「ここまで攻め込まれて(やっこ)さんも黙ってる訳はねぇ。いずれあの門が開き、大軍が押し寄せてくるだろうさ。儂等はそれを待って逆に殴り込みをかければいい。

 確認するぜ、詩人。フォルネウスに辿りつくまではお前に先陣を任せていいんだな?」

「ああ。俺が敵を引き付けて倒す。討ち漏らしや背撃は任せるが、油断はするなよ」

「誰がするか」

 フォルネウスに辿りつく事に誰も疑問を覚えない。詩人はそこまで信頼されていた。

 問題はフォルネウスと戦う事。この中で実際にフォルネウスを見た事があるのはハーマンとエレン、エクレアである。陣形や戦法の最終確認をしつつ、まだフォルネウスの脅威を見た事がないウンディーネやボストンは話を聞きつつ気になったところは質問し、想像で補って決戦への心構えを固めていく。詩人も作戦を耳に入れて、気になったところがあれば随時口を挟んでいた。もっとも、これは最終確認なので疑問や質問などは出尽くしていたが。

 そうして時間を有効活用していたが、その時間も終わる。ピクと緊迫の空気を察した詩人が飾り門に向き直り、槍を向ける。

「おしゃべりはそこまでだ。来るぞ」

 その一声で全員が引き締まった。

 地獄門が開く。ゴゴゴゴゴと音を立てながら開いたその先には、百を数える程に大量のフォルネウス兵が爪を構えて隊列を組んでいた。

 奇声をあげて襲い掛かってくるフォルネウス兵。それに無言で応えるのは詩人。槍を前に構えたまま、地面を蹴って猛然と大軍に突っ込んでいった。

 それは戦いと呼べるものではなく、蹂躙と称されるに相応しいものだった。

 槍は間合いが長い。故に先手は詩人となるが、彼が持つ槍は斧槍(ハルバード)であり、先端に斧状の刃物もついているのである。こんな大軍を相手に律儀に一体一体相手にしていられるか。そう言わんばかりに詩人は兵ではなく軍を相手にして武器を大きく薙いで振るった。

 スウィング。薙ぎ払う技であるそれで前列をまとめて吹き飛ばすと勢いそのままに眼前で槍を回転させながら突進して、まるで紙のようにフォルネウス兵を吹き飛ばしていく。

 大車輪。突進力に合わせて槍の遠心力を最大まで高めたそれは、近づくフォルネウス兵たちに容赦なく死を与えていった。

 もちろんフォルネウス兵たちもただやられる訳ではない。槍は間合いが長い分、その中に入ってしまえば有効な攻撃はできなくなってしまう。仲間を捨て石にして、一匹でもそこに入れば勝ちだと言わんばかりに果敢に攻め込んでいく。詩人が振り回す槍、その直後に飛び込み次の攻撃が来るまでの僅かな時間で一歩でも多く、少しでも近くと接近していく。一瞬以下の僅かな時間だが、その対応に遅れてしまう事は人間である以上は仕方がない。詩人はかすかな接近はどうしても許してしまう。

 それを繰り返し、繰り返し、繰り返して。ようやく一匹のフォルネウス兵が詩人の槍の有効範囲を潜り抜けて、その内側に入り込む。たったそれだけを為すのに9割以上のフォルネウス兵が倒されており、残るのは僅かに数匹。だがそれも敵を仕留められれば成果としては十分だと残虐な笑みを浮かべたまま爪を振るうフォルネウス兵。

 無表情のままで、詩人は槍を引く。その速度は先程までとは段違いで、次の瞬間にはその斧部分の刃がフォルネウス兵の首の後ろに突き刺さり、何が起きたか分からないままにフォルネウス兵は絶命する。

 確かに槍は間合いが広く、内側に大きく入ってしまえば有効な攻撃はできない。だが、その内側に大きく入ってしまうという範囲の常識が、詩人は他の人間とは大分異なる。今見た通りに斧が刺さる範囲までは詩人の攻撃範囲であり、更にその内側となるとその空間はごく僅かしか残らない。しかも詩人は体術も使う為に、その範囲ですら安全圏とは言えないのだ。

 恐ろしいのはその膂力だろう。重量級の斧槍(ハルバード)をまるで小枝を振るうかのように軽く扱い、敵に当たったとしてもまるで障害がないかのように吹き飛ばす、あるいは引き裂いている。タイムラグなく槍を振るい、接敵よりも速く槍を引く。それが可能だと胸を張って言えるからこそ、槍を得意武器だと口にできるのだ。

 戦いに入った詩人に容赦はない。残る敵は僅かに数匹。勝ち目がないと悟ってしまったフォルネウス兵は怯えて目をしたままで、しかし引く事も出来ずに破れかぶれに突進する事しかできない。

 蹂躙で始まった戦いは、虐殺にて終了した。

「終わりだ、行くぞ」

 軍を引き裂いて瞬く間に瓦解させてしまった男は何でもないかのようにそう言って、飾り門に向かって歩き出してしまう。それに遅れずについていくのは4人。詩人ならばこの程度はやってのけるだろうという信頼があるがために揺るがずについていける。

 たった一人、ボストンだけはやや呆気にとられてしまってほんの少しだけ硬直してしまったが、ぽつりと一言だけ漏らして仲間についていく。

「凄まじい男だ」

 

 海底宮の中も外観に恥じない荘厳さをもっており、やはり戦うための城というかは煌びやかで外交的な宮殿という印象を抱かせた。こんな海底にまでやってくる客は敵しかいないだろうに、よく分からない思考だなとは詩人の談。

 宮殿の中は敵がいっぱい、という訳ではなく、巡回するモンスター以外には罠もなくて不気味になるくらい順調に進んでいく。

 迷いなく先を目指す詩人が先頭に立ち、それに続く一行。その中で一人だけ違和感を覚えた者がいた。ハーマンである。

(コイツ…。分かれ道でもほとんど迷わねぇ。その上、間違いが殆どない。そういう術でも使ってやがるのか? それとも他に何か理由があるのか?)

 宮殿という場所であるからして、一本道という訳ではない。明らかに小部屋だと分かるようなドアを無視するのはまだしも、十字路でも迷う事はほとんどない。そして行き止まりだったりすることは全くない。

 他の面々は場所が場所だけに気が付いていないようだが、ハーマンとしては強い違和感を感じてしまう。

 そんな疑惑にかられるハーマンに気が付かず、詩人は唐突に立ち止まると声をかけた。

「一息いれるか」

 すぐそばにあった小部屋のドアを開け、中に入り込む。そして伏兵や罠がない事を手早く確認すると、備え付けられていた椅子にどっかりと座った。やはり少しは疲れていたらしく、その所作はやや粗い。

「私が見張ろう」

「じゃあ私も手伝うわ」

 たった一つの出入り口であるドアの近くにボストンが座り込み、それを援護できる位置まで椅子を引っ張ってくるウンディーネ。ほとんどついてくるだけだったとはいえ、敵の本拠地にいるという緊張で体は強張る。警戒しつつも疲れをとる事は忘れない。

「お茶にしましょうか」

 エレンはそういうと、荷物からお茶の道具一式を出して部屋に備え付けてあった小さな暖炉で火を熾し、水を温め始める。

 エクレアはお茶に見合ったお菓子を人数分取り出して、くつろぐ態勢を整えていった。

 ハーマンも椅子に腰かけて体を休める。

「順調ね。順調過ぎるくらい」

 ウンディーネが口を開く。正にその内容を聞きたかったハーマンは、よくやったと心の中で激しく頷いていた。

「この広い海底宮で詩人は全く迷わなかったけど、何かコツでもあるのかしら?」

「ああ。アビスの気配を追っている」

「アビスの気配?」

「術力の、しかも天術の反対属性に近いんだ、アビスの力は。いや、人の命に反発するといった方が近いのか…。

 まあ、そんな訳でアビスに近づくにはその感覚を追えばいい。言い換えれば、嫌な感じがする方に向かえば、そこがゲートだ」

 何か感じ入るところがある話なのか、ウンディーネとエクレアが感嘆の息を漏らす。ウンディーネはその術師としての力量から、エクレアはその感性の鋭さから、段々とプレッシャーが増していることに、言われれば気づけるのだろう。

 そこでお茶が入り、全員に配るエレン。エクレアも一緒にお菓子を配って、心と体を休ませるために一息入れ始める一行。

「…思ったより、モンスターが少ないわね」

 ぽつりとエレンが口にした。確かに水底宮内部に入ってからこっち、海底に自生しているような水棲モンスターや巡回しているフォルネウス兵がいる程度で、フォルネウス将といった強力なモンスターとはまだ出会っていない。

 少しだけ考えを巡らせる時間があったから、ボストンが口を開いた。

「バンガードに攻め入っているのかな?」

「それもあるだろうな。が、それだけじゃない。

 奥へ引き込んで、逃げ出せない状況で仕留めるつもりなんだろう。最深部では覚悟しておけよ。恐らく、全力で潰しに来る」

 詩人の言葉にやや重い空気ができてしまう。それでも体を休ませることは大事で、しばらく時間が経ってから、また海底宮の奥へと進む。

 海底宮は城塞でないためか、それほど広くはないのだろう。詩人に言われた通りに嫌な感覚がする方向へ向かっていけば、その気配はどんどん濃厚になっていった。

 それからもう一度軽い休憩を入れて、その後に更に仮眠を含めた長時間の休みを取る。

 そしてその場所に辿りついた時、詩人の言葉が正しい事が証明されてしまった。

 

 大広間。その奥から一層強い、嫌な気配がする。おそらくはそこがゲートの間なのだろう。フォルネウスとの決戦まで後僅かである事がよく理解できてしまった。

 だが、その僅かが限りなく遠い。大広間にはモンスターがひしめいていた。

 数十はいる赤い鱗のフォルネウス将と、素早く動く魚に騎乗した悪魔であるオアンネス。一匹だけだが強力な竜種のモンスターである玄竜もいる。更にその奥、高い場所にあった玉座の側に一匹のモンスターが立っていた。緑の鱗で体で覆われたフォルネウス軍団の一員であろうそのモンスターは、どこか穏やかな眼をして禍々しい空気を撒き散らしたモンスターだった。

「ようこそ、海底宮の玉座の間へ。歓迎させていただきましょう。

 私はフォルネウス様より軍を効率よく動かす事を許された立場の者。フォルネウス総帥である」

 緑の鱗のモンスター、フォルネウス総帥は流暢な言葉を発する。知性があるだけではない、その強さも、そして賢さも他のモンスターとは格が違う。そう思わせるモンスターだった。

 一斉に戦闘態勢をとる一行。このモンスター達は強すぎる。フォルネウスと戦う前に体力を消耗してしまうのは痛手だが、そう言っている場合ではない。ここで出し惜しみをしてしまったらフォルネウスへたどり着く事さえできない。そう思わせる威圧があるモンスター達だった。

 そんな一行を見てフォルネウス総帥はにこやかに笑いかける。

「ああ、ああ。そこまで警戒して頂かなくても大丈夫ですよ。いきなり襲い掛かることは致しませんので。

 そこの先頭にいる男、あなただけは先に進んでいただいて結構です。フォルネウス様への謁見を許されていますので」

「……なに?」

「どうやらフォルネウス様はあなただけは自分の手で殺さなければ気が済まないようでして。どうぞ、お進みください。

 ただし他の方はこの場で果てていただきますが」

「断る」

 フォルネウス総帥の言葉に動揺したエレン達だが、即座にそれを否定した詩人には更に動揺した。ピクリとフォルネウス総帥も予想外の言葉に反応し、詩人の次の言葉を待った。

「俺の仕事はフォルネウスの首を獲る事じゃない。それ以外の、雑魚どもの掃除だ。俺を殺したいならそっちから来ればいい。なんでフォルネウス如きに会いに行かなきゃならないんだ?」

 その言葉にモンスターたちは殺気立つが、フォルネウス総帥だけは余裕を崩さない。

「なるほどなるほど。しかし困りましたね、私がフォルネウス様に命じられた事はあなたをフォルネウス様の元へと案内すること。しかしあなたはそれが嫌だと申される。

 …よろしい、妥協しましょう。この場にいる全員のフォルネウス様への謁見を許可します。全員、道を開けろ」

 フォルネウス総帥の言葉に、モンスターたちは戸惑いながらも命令に従う。左右に分かれて中央には一行が通れる空間ができた。

 その対応に困るのがほとんどだったが、ただ一人詩人だけはためらいなく歩き出す。思わず声を出してしまうエレン。

「ちょ、詩人。いいの!?」

「構わない。全員、離れる事無くついて来い」

 困惑しながら、それでも全員が詩人に従う。不安そうにエクレアが聞く。

「ねえ、詩人さん。いくらなんでもおかしいよ。罠じゃないの?」

「罠だぞ」

 さらりと言った詩人に目を見開いた。ボストンが思わず声を荒げてしまう。

「罠にのるのかね!?」

「こっちにも益がある話だからな。妥協する、と総帥は言っただろう? そして俺をフォルネウスに殺させることが目的だと。

 モンスターたちを通り過ぎてゲートの間の前まできたら、奴等は一斉に襲い掛かってくる。が、その対応は俺に任せておけ。お前らはフォルネウスを仕留める事だけに集中しろ。一匹たりとも漏らさない」

「それが妥協か?」

「ああ。総帥としては俺以外をフォルネウスに会わせたくはないだろうが、会わせてはいけないとは命令されていないんだろうな。フォルネウスにお前らを会わせる事を妥協したのさ。

 そして俺はフォルネウスへの援軍を阻止する為に、ゲートの間への道を死守しなくてはならない。動きは制限される。広間で戦うよりも、厳しい戦いになる。そうして俺をゲートの間に追いやってフォルネウスに仕留めさせるか、そうでなければ動けなくまで痛めつけてフォルネウスに差し出すか」

 その言葉を聞いてウンディーネは思わずフォルネウス総帥を見た。そのモンスターはニヤリと笑い、詩人の言葉が正しい事を認めている。

「貴方、大丈夫なの? ここのモンスターは本当に強いわよ」

「確かに。数も多いし、質もいい。だが、俺を殺すにはまだまだ足りないな。これよりもっと厳しい戦いも多くあった。

 俺は問題ないが、お前らの相手はフォルネウスだ。自分の心配をしておけ。悪いが、こちらは援護までは手が回りそうにない。

 ……死ぬなよ」

 そうしてモンスターの道を通り過ぎ、ゲートの間へ続く扉の前まで辿りつく。

 詩人はそこで振り返り、己の愛槍を構えた。モンスターたちも隊列を組み、総帥の命令を待っている。

「「行けっ!!」」

 詩人と総帥、両方が同時に言葉を発した。エレンとエクレア、ウンディーネとハーマン、そしてボストンは扉を開けてゲートの間へと飛び込んでいく。そして詩人へと襲い掛かるモンスターたち。

 最初の相手はフォルネウス将。血の気の多い一部が真っ先に飛び掛かってきた。どうやらフォルネウスを貶した詩人に腹を立てたらしい。だが、一列になって襲い掛かるのは愚策に過ぎる。詩人はスウィングで飛び掛かってきたフォルネウス将をまとめて弾き飛ばした。

 次に詩人の前にのっそりと近づいたのは玄竜。大きな甲羅を盾にするように、慎重に間合いを詰めてくる。そしてそのジリジリとした時間で後衛のモンスターであるオアンネスやフォルネウス将が詠唱を完成させた。

「「「「「スコール」」」」」

「…サンシャイン」

 雨を降らす術であるスコールだが、それには上空に雨雲を作る必要がある。そして上空から強い光を浴びせかけるサンシャインはスコールの対抗術になりえるのだ。

 しかしそれでも詩人は術が得意ではない。魔力だって人並みよりも少し多いくらいであるし、相手は数に任せて威力を上げたスコールを降らせてくる。多少は軽減できたとはいえ、強い雨は詩人を打ち据える。それを隙と見た玄竜が詩人に向かって突進してきた。

 が、何故か詩人にはほとんどスコールの影響はないようだった。突進してきた玄竜に向かって石突きを向けてその威力を受けると、その勢いを利用して槍を回転させ、玄竜を槍で切りつける。カウンター技としての風車が玄竜へと迫るが、咄嗟に硬く丸みを帯びた甲羅を盾にしてその攻撃を受け流す。

(ウンディーネには感謝だな)

 海底宮に突入する前に受け取った鱗のお守りがしっかり仕事をしてくれたらしく、スコールの影響はほとんどない。

 そして風車から技を繋ぎ、僅かな距離で加速して槍を玄竜の柔い部分に突き刺した。もちろんただ刺すだけなんて甘い攻撃を詩人はしない。槍を螺旋状に回転させながら突き刺すことにより貫通力を高め、しかも斧の部分がその周囲までも抉りとった。スパイラルチャージという槍の奥義の一つである。

 その痛みにたまらず玄竜は悲鳴をあげながら後ずさる。その巨体であるが故に致命傷にはならず、そうとなれば後衛が即座に癒すのは道理。

「「「「「生命の水」」」」」

 癒しの水が大量に玄竜へと降り注ぎ、その傷を癒していく。そうして回復した玄竜は自分に激痛をくれやがった人間を怒りのこもった目で睨みつけた。

 同時、その傍らにフォルネウス総帥が降りたつ。

「なるほど。流石はフォルネウス様が自らその命を絶ちたいと思う訳ですね。

 その強さは認めざるを得ません。ではそろそろ本番と参りましょう」

 爪を構える緑の鱗のモンスター。玄竜も万全の態勢で攻撃する準備を整えており、オアンネスも術を使えるように集中している。フォルネウス将は突撃も援護もできるように身構えていた。

 この長引く様を見せている戦況に、詩人は心の中で舌打ちをした。負けるとは思わないが、時間はやはりかかってしまう。だからといって無理に攻めてしまい、この中の何匹かがフォルネウスの援軍に向かってしまえばそれこそ取り返しがつかないだろう。正直、あの5人ではフォルネウスを相手にする事に、分が悪いと思っているのだ。援軍を許す訳にはいかない。

(死ぬなよ…!)

 やはり、援護には向かえそうもない。四魔貴族であるフォルネウスと戦っているだろうエレン達を心から思いつつ、詩人は更なる激闘に身をおどらせた。

 

 

 




次回、対決フォルネウス。
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