詩人の詩   作:117

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今回は内政回ですね。
ロマサガでこういった話を掘り下げるのもどうかとも思いましたが、ミカエル主人公で内政イベントあるし。今回の話もトレードとかを真面目に考えた話でもあるし。
退屈かも知れませんが、どうかお付き合いください。


036話

 

 

 

 ツヴァイクに向かう準備をするのに数日の時間が必要だった。ツヴァイクを調べる事が目的であり、ツヴァイクに着く事が目的ではないのだから、それも仕方のない話である。

 また、予算を都合したりする必要もある。トーマスがトップであるので都合がつかないという事はないが、どのくらいの金額を動かすかを考える時、一人では間違える事も少なくない。少数とはいえ会議を開く必要があり、決定するのに即日即断とはいかないのだ。なにせ、ここで大きく予算を取られたら困る部署も存在し、そういった部署と仲が悪い部署などは積極的に予算を回そうとする。各々の思惑がからまった、熱い議論が繰り広げられることになるのは当然だといえよう。

 そんなトーマスカンパニーの内情に関係ないユリアンとモニカは、ピドナを散策して楽しんでいた。思えばロアーヌにいた時はミカエル候の妹という肩書や、プリンセスガード副隊長という肩書がついて回ったのである。重苦しくて仕方がない。そしてロアーヌを出てからも難題に頭を悩ませ、金の心配をしてと心が休まる事がなかった。今までの彼らの人生でもそうそうないくらい、羽を伸ばして緊張をほぐしていた。

 ピドナの街並みを見て、活気ある通りでお菓子や串焼きなどを買い食いし、美術館やオペラといった芸術を堪能し、観光名所でもある魔王殿を眺める。

 時間がある時はサラも一緒だった。サラとモニカの仲がよかった事を覚えていたトーマスが気を利かし、サラでなければならない仕事以外は護衛との縁を深めるという名目でモニカと一緒に居させたのだ。対等に近い者がいなかったモニカにとって、サラとおしゃべりをする時間はかけがえのない時間になった。そしてユリアンとサラは今更である。気が置けない間柄で距離感もしっかり分かっている二人は、モニカのテンポも含んでゆっくりと親睦を深めていった。

「そういえばサラ。ピドナでいい工房ってないか?」

 そんな散策をしていたある日、ふとユリアンがサラに問いかける。

「工房? フルブライト商会が持ってる、腕のいい工房があるわ。トーマスカンパニーの関係者なら問題ないわよ」

 良い店というのは一見さんお断りというところも少なくない。そして下手な店に入ってしまえばぼったくりに遭ったり、粗悪品を売りつけられる事も珍しくない。

 やはり信用というものは大事であり、信用ない客が軽んじて見られる事は多いのだ。少なくとも適当に選んで入った店では、その店でいいものを売ってくれる可能性は低い。いいものはお得意さんに買ってもらい、信用を深めることを選ぶ方が普通である。旅の者では信用が得られにくいのが辛いところだが、トーマスカンパニーは新興とはいえどもピドナの会社である。ならばそれを利用しない手はない。

 ユリアンはモニカを見ながら言う。

「俺の武器や防具はいいんだけどさ、モニカの装備がちょっと心許なくて」

「ああ、なるほど」

 ユリアンは立派な装備を身に着けているのに何故工房の事を聞くのかと不思議に思ったサラだが、モニカの装備を見て納得する。

 モニカは旅をする者の格好であり、戦いもできる格好ではある。が、本格的に戦闘をするにはやや心許ない装備だろう。護衛されたり戦いから逃げ出したりするには問題ないだろうが、護衛として雇われた上で積極的に戦闘するには不安が残る。

「モニカさんは確かにもう少しいいものを身に着けてもいいかもね。いいわ、案内してあげる。レオナルド武器工房っていうところよ」

「サラさん、お願いしますね」

 にっこりと笑うモニカに微笑を返すサラ。

 歩き出した一行は、やがて一つの店に辿りつく。レオナルド武器工房、その扉を躊躇なく開けるサラ。扉に取り付けられたベルがカランカランと澄んだ音をたてた。

「いらっしゃい。あ、サラさん」

「ケーンさん、お久しぶりです」

 丁寧に挨拶をするケーンと、同じく丁寧に挨拶をするサラ。どこか似た雰囲気を持っている二人である。

「今日はどうしたんです? トーマスカンパニーのアポは入ってなかったと思うんですけど」

「アポ無しでごめんなさい。ちょっと欲しいものがあったから寄ったの。時間は大丈夫かしら」

「問題ないですよ。で、何がご入り用ですか?」

「こっちの女性の武器や防具を見繕って欲しいの。私の護衛をして貰えることになって、もう少しちゃんとしたものを揃えてもいいかなって話になって」

 言いながらサラはモニカを前に出す。丁寧にお辞儀をするモニカにケーンの目が一瞬大きくなる。

 美しい。

 一言で簡単に表せる女性だった。サラも魅力あふれる女性であるが、こちらの女性もなかなかどうして素晴らしい。まるで芸術品のような美しさである。

 自分の工房の主も女性で戦う事もできる女であるが、どうしてこうも魅力に違いが出てしまうのだろうかと、ノーラに聞かれたら叩き殺されても文句が言えないような事を思いながら。ケーンは仕事の話をする。

「お客さん、何がご入り用で? 予算はどれくらい?」

「えっと……ユリアン、お願いしていい?」

「分かりました」

 女性の後ろからユリアンと呼ばれた男が前に出る。こちらは普通の男といっていいだろう、醜いという感想は一切出てこないが、魅力的という訳でも断じてない。ただ、その瞳は強い意志が感じられる男だとケーンは思った。

 そして装備もそれなり以上の物がそろっている。自分の工房の方がいい品を提供できる自信はあるが、今回は女性が話の主である。わざわざ混ぜっ返さなくてもいいと、営業することは止めた。

「小剣と軽い弓、それから動きが阻害されない防具を頼む。予算は1000オーラムくらいでお願いしたい」

「承知したよ。サイズ合わせたり本人の意見を聞いたりしたいから、奥へ行ってくれるか? 明日くらいにはできると思うが、届けた方がいいか? それとも取りに来る?」

「ベントの屋敷に届けてもらっていいかしら?」

「分かりましたよ、サラさん。じゃ、お客さんは奥へどうぞ」

 工房の奥へ歩き出すケーンに着いていく三人。サラはケーンと知らない仲ではないので、少しの間世間話を振る。

「ノーラさんは元気ですか?」

「元気が良すぎて困っているよ。先日、客が来て意気投合しちゃってね。無茶をするからこっちは心配しっぱなしさ」

「まあ!」

「ノーラさんとはどちらさまでしょうか?」

 モニカの言葉をサラが拾う。

「この工房の主ですよ、モニカさん。男前な女性の方で、前の工房主の娘さんでもあったんでしたっけ?」

「ええ。思い切りの良さはおやっさん譲り。鍛冶の腕もおやっさん仕込み。似た者親子ですね、曲がった事が大嫌いな人です」

「いつか会ってみたいわ」

「うちに通ってくれればそのうち会う機会もあるでしょうが、最近ちょっと忙しくなり始めて。あまり期待はしないで下さい。今も客人と奥で話し込んでるんですから、工房のとりまとめでこっちは大変ですよ。

 それと、大きな声じゃ言えませんがあんまり期待しない方がいいっすよ。職人気質ですからね、好き嫌いが激しいし、気性だって穏やかじゃない」

「素敵そうな方ですね」

 ぽやぽやとした顔でそんな事を言うモニカという女性にケーンは思う。

 この女もちょっと変わってるな、と。世間ずれしていないというか、なんというか。

 もちろん会ったばかりの客にそんな失礼な事を言える訳もなく、当たり障りのない会話をしているうちに奥へとたどりついた。

 男が女性のサイズを計ったりする訳にもいかない。ちゃんと女性の係が、専用の小部屋でモニカの体のサイズを計り、それに見合ったものを揃えていく。小剣や弓はケーンがいくつか見繕って持ってくる。

 それぞれが何種類か揃い、それらをユリアンとモニカの前に並べた。

「この辺りがいいと思いますけど、どうでしょうか?」

「いい品だな。特にこの鎧は軽いのに丈夫でいい」

「ああ、それは素材にいいのを使ってるんです。だから修理に出す時もちょっと値が張りますよ。

 サラさんの紹介だからうちは勉強させてもらってもいいんですが、修理先がうちじゃないときは懐に痛いかも知れません」

「おいくらでしょうか?」

「500。と言いたいですが、400でいいっすよ」

「じゃあそれと、こっちの帽子もいいな。強い素材でできてるし、悪くない。ブーツもこれがいいかな」

「そっちは合わせて200オーラムですね」

「で、武器は予算に合わせると……この小剣とこの弓がいいか。いや、弓はこれを買うくらいなら手持ちの狩人の弓で十分かな。

 小剣だけ買うとして、これがいいか」

「それは300オーラムですね。しめて900オーラムですが、いいですか?」

「ああ、頼む」

「毎度。微調整して、明日にはベントの屋敷に届けますよ」

 商談はつつがなく終わり、細かい話を済ませて金を支払い。ユリアンとモニカ、サラは工房を後にした。

 ケーンは売った商品の最終調整をするためにその場に残って作業をする。と、そこにひょっこり顔を出したのは先程話題に上がった女性であるノーラ。

「おう。やってるな、ケーン」

「ええ。トーマスカンパニーからでしたから、ちょっと勉強しましたよ。ノーラさんは?」

「今日の話し合いはおしまい。カタリナが帰るから送り出しさ」

 言いながらノーラの後ろから姿を現す短髪の美女、カタリナ。ケーンは美女を多く見るのに、ノーラは何故こうなんだろうと心の片隅で思う。

「……なんか今、変な事を考えなかったかい、ケーン?」

「気のせいでしょ。っていうか、カタリナさん、どうしたんですか?」

 この場に入った瞬間、カタリナが硬直したのを見てケーンが問い掛ける。

 長く護衛や侍従をしていると、主の細かい事まで覚えてしまうものだ。姿や声はもちろん、カタリナ程ならばモニカの髪質や指の形まで思い出せる。その他にも色々と、例えば。

「この匂い…。

 ケーンさん、まさかとは思いますけど、ここに今、モニカという女性が居ませんでしたか?」

「へ? 声が聞こえてました? ええ、サラさんに連れられてモニカという女性が来ましたよ。サラさんの護衛とかなんとかで、装備を新調しにきました」

「モニカ様が、サラ様の護衛……?」

「モニカ、様?」

 たかが護衛につけられる敬称ではない言葉がカタリナの口から漏れ出た。

 はっとして首を振るカタリナ。

「何でもないです」

「はあ。まあ、何でもいいですけど」

「それで、その、モニカという女性は一人でしたか?」

「いえ、ユリアンとかいう男と一緒でした。結構いい装備つけてたし、それなり場慣れしていそうな男でしたよ。モニカの師匠ですかね?」

「……ユリアンも」

「なんだい、さっきから。そのモニカとかユリアンとか、カタリナの知り合いかい?」

 煮え切らない言葉に、少しばかりイライラしたノーラが口調を荒くして言う。

 嘘を言っても仕方ないと、頷くカタリナ。

「ええ、まあ。ちょっと複雑な間柄です」

「ふーん。まあ何でもいいけど、あたしらに関係ないなら鬱陶しい空気はやめてよね」

「はい、すいません。では、私はこれで」

 そう言って足早にその場を去るカタリナ。それを見送ったノーラとケーンは、しょうもないと顔を見合わせて肩をすくめるのだった。

 

 レオナルド武器工房から装備が届き、予算や仕事の話も一区切りついた。

 サラたちが行きに選んだのは海路で、帰りは様子を見て、陸路で戻るかまた船を使うかを決めることにした。

 そうして船に揺られて数日。一行はツヴァイクへと到着する。

 

「わあ…」

「まあ!」

「おおっ」

 三人から感嘆の声が漏れた。世界で十指に入る強国との話は伊達ではなく、雪化粧を纏いながらも大きな街並みが船から訪れた客を迎えいれる。

 人口とはすなわち力に繋がる。そして人口を支えるのもまた力。それらを成立させているツヴァイクは確かに強国なのだろう。

(……?)

 だが、なんというか。モニカは違和感を覚えてしまう。別に悪い訳ではないのだが、街の雰囲気にどこか余裕がない。

 例えばロアーヌでお忍びした時などは、もっと緩やかな空気が流れていた。例えばピドナで散策した時は、旅の者を歓迎する寛容さが感じられた。

 だが、ツヴァイクという街はどこかピリピリしている。どこかで感じた事があるその感覚に記憶を探ると、それは存外に早く思い出す事ができた。

(ピドナの旧市街に雰囲気が似てるんだわ)

 ルートヴィッヒに追いやられた人々が暮らす、古く壊れかけた街並み。貧しく余裕がない、緊張感に満ちた人々。魔王殿を見に行く最中に通ったあそこと、ツヴァイクは似たような雰囲気を醸し出している。

 ツヴァイクは強国なのに。食うに困るという事もないだろうに。どうしてだろうと考えながらも、モニカはサラの後をついてツヴァイクの街を歩いていく。

 まず、宿をとる。サラは持っていたメモを見ながら街を歩き、宿の中でも大きめで綺麗な宿を選んで入っていった。身なりのいいホテルマンが客人を出迎える。

「いらっしゃいませ。ご予約でしょうか?」

「いいえ、会社の視察でツヴァイクに来たの。今度社長が来るかも知れないから、宿も含めていいところを探しているわ」

 聞いたホテルマンは頭を回転させる。

 会社の視察で宿も含めて探しているということは、少なくとも大御所ではない。大御所ならばツヴァイクのような大都市では自分の建物を持っている。

 老舗でもないだろう。老舗ならば行きつけの宿がある。もちろんそこが無くなって新しく探している可能性もあるが、無視していいレベルで低い可能性だ。

 ならば新興の会社か。先々でお得意様になってくれるかも知れないが、早晩潰れてしまう会社であるかも知れない。

 最低限失礼のない範囲でいい。そう結論を出したホテルマンは愛想笑いを浮かべながらサラたちを奥にある暖炉の側へと案内した。

「それは寒い中、お疲れさまでした。まずはお暖まり下さい、飲み物も準備しましょう」

「ありがとう。ああ、部屋は普通でいいわ。従業員が使うこともあるし、普段どんなサービスをしてるかも知りたいの」

「承知しました」

 慣れた様子で対応するサラに、ユリアンは少し呆気に取られていた。

 あのサラが。エレンの後ろでオドオドとしていた印象が強いサラが。いっぱしの口調で指示を出して、しっかりとした表情をしながら自分で物事を決めている。シノンでの印象が瞬間で覆ってしまった。

 暖炉の側にあるソファーに座り、宿泊の手続きをするサラ。そしてトーマスカンパニーの名前を出して市場調査から始める事を軽くホテルマンに話し、その間に準備された温かい紅茶が人数分運ばれてくる。

「では、私はこれで」

 そう言ってホテルマンがサラの側から離れると、サラの顔がユリアンが知るそれに戻る。サラはユリアンの顔を見て、昔ながらの顔でくすくすと笑う。

「ユリアン、どうしたの? 気の抜けた顔をしているわ」

「あ、ああ…。サラも随分立派になったなって」

「ふふ、ありがと。まあ、トーマスについて南で色々やったから。このくらいは嫌でも、ね」

 嬉しそうにしたのも束の間、サラは遠い目で疲れた声を出した。

 あのサラが、こうなったのである。商売の仕事をしている間に相当揉まれたのだろうと気が付かない訳にもいかなかった。

「でも、ユリアンだってシノンの時とは大分変ったわ。凛々しい顔付きになったし、剣や鎧だって体に馴染んでるよ」

「まあ、こっちも遊んでいたじゃないからな……」

 ハリードとの鍛錬に、カタリナからは作法の勉強。田舎育ちの朴訥とした若者であったユリアンは、それはもうしごかれた。思わずユリアンも遠い目をしてしまう。

 ごほんとわざと咳払いをして意識が過去に飛んでいた二人を暖炉の側に戻すモニカ。

「それでサラさん。どんな仕事をするのでしょうか?」

「ん…。まずは商会ギルドに行って情報を集めるの。それを見て儲けが出そうなところとか、気になるところとか。ツヴァイクの各地を回ることになるわ」

 商会ギルドは中規模以上の街ならだいたい存在する、会社や工房などの情報をまとめるギルドである。全ての会社などが参加する訳ではないが、外部からの接触がギルドを介する事が多くなるため、必然商機も増える。また、ある程度の情報を提示することによって相性がいい客との折り合いをつけてくれるメリットもある。もちろん、会費がかかるというデメリットもあるが。

 そこでは公開された情報を見る事も可能だ。もちろん、公開された情報が真実であるかは分からない。ギルドとしてはこの会社はこういった事を言っていますよ、という掲示板に他ならない。嘘の情報に惑わされて損を出しても、それは騙される方が悪いというのが商人の基本である。

 若造や新手などはそういった事で叩かれ、育っていくのだ。潰れるものはその程度という、弱肉強食の掟はこういったところでも当然存在する。

「でも……ツヴァイクが北で最初なのは失敗だったかしら」

「と、言うと?」

 難しい顔をするサラに、ユリアンが詳しい話を聞こうと話を振る。

 サラは難しい顔をしたそのままに、声を小さくして理由を告げた。

「ピドナで集めた限りの情報だけど、ツヴァイクは既得権益がしっかりし過ぎてるの。もちろんある程度は当然なんだけど、若い人や会社が育つ土壌がないっていうか。新しく何かをしたいなら古参の下で、利益を上納しつつという形じゃないとやれないシステムが強すぎるわ」

「税を納めるのは当然ではないのですか?」

「国に税を納めるのは当然なんですけど。自分の利益もほとんどが大きな会社に取られちゃうの。なのに、新しい事業をやる権利は大きな会社しか持てないわ。その大きな会社が利益の一部を国に回すから、国もそんなシステムを変えようとしない。やる気がある若い芽が育たないのよ、ツヴァイクじゃ。

 ……今はいいけど、自分で自分の足を食べているようなシステムね。10年の間で利益が出るかも知れないけど、100年は持たないのがトーマスカンパニーの見解。ピドナで集めただけの情報だけど、私もそう思う」

「参考までに、ピドナとかロアーヌとかどうなってるんだ?」

「ピドナは最近クレメンスからルートヴィッヒに主権者が変わったから、そのゴタゴタで隙間ができているわ。ルートヴィッヒも辣腕とは言い難くて、引き締めるところは強く引き締めてるけど、気が付いていないところはノーガードね。まあ、だからこそトーマスカンパニーが成り上がったりできた訳だけど。

 ロアーヌは……」

 ちらりとモニカを見るサラ。ロアーヌ候の妹君の前で忌憚のない意見を言うのは流石に勇気がいる。

 だが、モニカとしては外から見たロアーヌを聞ける貴重な機会である。むしろハッキリと言って欲しい。そう表情で語っていた。

 それを読み取ったサラはハッキリと言う。

「締め付ける程、力が無いのは確かよ。上位のそれなりに儲けを出しているところはミカエル様と繋がっているけど、新しい芽を潰す必要があるほど市場が飽和していないのよね。

 それを理解しているから、ミカエル様も新しい力をつけようと新興の企業へ融資しているわ。トーマスカンパニーができてから気が付いたけど、シノンの開拓もそういった政策の一つみたい。

 今搾り取るより、100年先を見据えた政治ね」

「それは普通ではないのですか?」

「そうでもないの。今あるところから絞れるだけ絞って、自分の代だけでも楽をしたいって考える人もいるし。ええと、確かゴドウィン男爵領もそういった政策をしていたみたい。

 ミカエル様としてはラッキーね、そんなところが自滅同然の内乱をしてくれたんですもの」

「じゃあ、どうしてトーマスカンパニーはロアーヌに進出しないのかしら? それに、他の会社も」

「言いにくいんですけど……。

 ミカエル様の手腕を疑問視している。政策が上手くいくとは限らなくて、失敗したら投資が無駄になる。儲けを出す土壌がないから、初めから自分で作らなくてはいけない。事業を始めてしばらくは収入が見込めないから、何年も続ける体力が会社に必要になる。

 大きな事をざっとあげてもこれくらいはあります。成功すれば昔ながらの大きな会社になれる可能性もあるから、ハイリスクハイリターンですね。

 トーマスカンパニーとしても情報を集めて手を出そうか考えている段階です。他のところも大差ないんじゃないでしょうか? まだしばらくは様子見するところが多そうです」

 ふう、と少し話す事に疲れたサラは紅茶を飲む。

 ほどよい苦みとよく蒸らされた香りが体に染みわたる。思ったより悪くない紅茶のようだ。もっと粗雑な扱いを受けるかとも思ったのだが。

「話を戻してツヴァイクでの活動だけど。

 新しく何か事業をするのは旨みがないのよ。仲介も大きな事業がだいたい牛耳っちゃってるし、新興の会社は手が出しにくいわ。

 やるなら、ツヴァイク各地で知られていない特産品を探したり、逆に各地で足りない物資を探して売りつける事かしら」

「あり得るか? 秘境じゃないんだし、知られていない特産品がそうそう転がってる訳じゃないだろ?」

「そうでもないわよ。トムは南西のジャングルでしか取れない特産品や、温かいところでしか収穫されないお茶なんかを見つけてそれを商品にしたの。

 北でそういった限定された特産品がないとも限らないし、それにトーマスカンパニーでしか扱っていないそんな商品を欲しがってるところもあるかも知れないじゃない。

 例えば、ポドールイとか」

 その地名で複雑そうな顔をするユリアンとモニカ。

 ポドールイのレオニード伯爵は印象が強すぎる。特に悪い目をみた訳ではない、どころか娯楽で財宝の洞窟を教えてくれたくらいに気前がよかった。

 が、伯爵はヴァンパイアというモンスターの一種であるし、城も邪悪な気で満ち満ちていた。積極的に関わりたくない相手である。

「別にレオニード伯爵に会う必要はないわ。伯爵に物を納める業者だってポドールイにいるでしょうし、関わるならそこね。私も、レオニード城にはもう行きたくないし……」

 こほんと軽く咳払いをして話を切る。

「まあ、そういった事を調べるためにまずはギルドに行くわ。情報を集めないと身動きが取れないし」

 そう言って立ち上がるサラ。続くユリアンとモニカ。街中でも暴漢がいないとも限らないし、特にサラは魅力が溢れる少女だ。護衛として雇われたならば当然付き従う。

 日はまだ高い。仕事の時間は十分に残されていた。

 ギルドに移動し、手数料を払い、開示された情報を拾っていく。サラの仕事中、ユリアンとモニカは暇だ。奥の資料室に出たり入ったり、エージェントと話をするサラを、壁に寄り掛かって見つめつつ話をする。

「ユリアン」

「なんでしょうか、モニカ」

「…ツヴァイクを超える価値を示す。サラさんの話を聞いて、ちょっと方針が見えた気がするの。

 ロアーヌは世界的に見て、まだまだという事は分かりました。ならば、ツヴァイクや他の国でくすぶっている才能ある若者をロアーヌに呼び込む事ができたら、それは一つの成果ではないでしょうか」

「確かに」

「個人的に信頼を得て、才能ある方にロアーヌまで来て貰う。ロアーヌ候の妹という立場も最大に使ってもいいかも知れません。

 それに、サラさんやトーマスさんといった方ともお知り合いになれましたし、トーマスカンパニー全体を味方にできればとても心強いです」

「気持ちは分かりますが、落ち着きましょう。トーマスはあれで冷静な男です。単なる利益のないお願いは流石に聞いてくれませんよ」

「もちろんです。ですから、トーマスさんの信頼を得る為に行動する。これも指標にしてもいいかも知れません」

 モニカの言葉に少し深く考えるユリアン。

 トーマスが自身で認めた通り、彼の作った会社はまだ新興で力が足りていない。ふらりと寄った自分達を戦力として雇うくらいだ、人手も少ないのだろう。

 そんな会社の最初を補佐し、実績を作り、信頼を得る。その上でロアーヌ候の妹、モニカの肝いりでロアーヌに新しい産業を作る。なるほど、可能性はありそうだ。

「……やってみてもいいかも知れませんね。サラと相談しましょうか」

「はい。動かなくては始まりませんから」

 そんな話をしているうちに、サラがきょろきょろと誰かを探す動きをする。

 それに気が付いたユリアンは、モニカと共にサラの側へと寄った。

「サラ、俺か?」

「あ、ユリアン。ちょっと聞きたいんだけど、腕に自信があるんだよね?」

「? まあ、それなりには」

「ちょっと気になる情報があるの。ツヴァイクは西のユーステルムとも貿易があるんだけど、その道中で旅人がいなくなる事件が最近起きているみたい。

 まだそんな大きな話じゃないみたいだけど、モンスターが住み着いて人を襲ってるかも。倒せれば現地の人から感謝されるし、まずはそっちに行ってもいいかなって」

「大きな話になってないならそんな強いモンスターでもないかな。見てダメそうなら逃げる自信くらいならあるぞ」

「うん。じゃあ、まずはここの辺りから始めましょうか」

 そう言って広げた地図の、一つの村を示すサラ。サラが指さした先にあった村の名前はこう書いてあった。

 

 キドラント、と。

 

 

 




みんな。
待たせたな。
来るぜ、ヤツが来るぜぇ……!
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