ロマンシングサガ3で、もっともヘイトを集めた部門第一位を獲得したあのキャラが登場します。(117調べ)
目的地をキドラントに定めた一同の旅は順調だった。
情報集めと旅支度を整えるのに一日かかり、着いたその日はツヴァイクにて休む。そして翌日から西に向かって進んだ。
ちなみに詩人がしたような護衛の仕事はしない。道中にどんな儲けの種が転がっているかも分からない新しい土地なので、サラが自分のペースで進みたいと言ったのもあるが、彼らはトーマスカンパニーの看板を背負っているのである。荷運びなど、雇う側の雑務をしてその看板に泥を塗る訳にはいかない。商売仲間の間で、トーマスカンパニーは視察の旅でも荷運びして金を稼ぐ程だと、そんな噂が流れてしまったら事である。
そういった訳で自分たちの面倒を見るだけという、ユリアンやモニカにとっては気ままな旅になった。もちろん、サラにもそんな感覚は大きくあったが。儲け話がそこら辺に転がっているなど、普通はない。故に期待もしていない。あったらラッキー程度なので、目を皿のようにして探すまでもない。
出てくるモンスターも、ユリアンは当然としてモニカやサラにとっても容易い雑魚ばかりである。僅かとはいえ、詩人に鍛えて貰った事は伊達ではないのだ。
そうして一行はキドラントへと到着した。
ピリリとした緊張感。かろうじて村ではなくて町と言えるそこに漂う雰囲気に、ユリアンの勘が最大限の警報を鳴らす。
何か、具体的には説明できないが。ナニカ、おかしい。この町は何かがおかしい。
「モニカ、サラ」
囁くように仲間にだけ声を伝えるユリアン。固いユリアンの表情に気が付いた少女二人も、緊張に顔を固くして同じく囁くような会話をする。
「どうしたの、ユリアン?」
「ヤバいかも知れない」
「ヤバいとは? まだ町に着いたばかりで、何も聞いていないではありませんか」
「……勘です。説明できませんが、様子も普通じゃない」
「もう町に被害が出てるってこと?」
「それもあるだろう。だが、上手く言えない。けど、これは……」
違う、違う、ナニカ違う。どこかで感じた事がある、危険信号。刃が喉元を目掛けているのに、致命的なそれに気が付いていないような、とてつもなく不吉な感覚。
もしもユリアンが思い出せたのならば。それは、ロアーヌ宮殿で起きた事件だった。優しく穏やかな笑みを浮かべながら、プリンセスガードの副隊長になったユリアンに話しかけ、誘導し、宮殿のマナー違反を犯させて失脚を狙った男がいた。
事前にカタリナはそれに気が付いていたが、ユリアンが大きなミスを犯す一歩手前まで放置したその事件。ユリアンに貴族社会を勉強させる為と、他人の足を引っ張る愚か者を炙り出す為に、半ば必然的に起きたその事件。
人の善意につけこんで相手を破滅に誘うそれは、人間が持つ最大級の悪意である。
「……分からない。けど、俺はここから逃げた方がいいと思う」
結局。事件の事を思いだせなかったユリアンは、具体的な事を何も言えずにそれだけを口にした。
一方のサラやモニカは、ユリアンの勘だけを根拠として撤退するとは口にできない。モニカは不安そうな顔をしたが、サラはそこまで大きな事件に繋がる可能性があるとするならば、逆に何も知らない方が危険と考えた。ある程度の情報を収集し、強力なモンスターがいたと報告する。それもサラの仕事の一つである。
まさか強国であるツヴァイクが手を出せないような、四魔貴族やレオニード伯爵クラスの規格外でもないだろう。最初の情報提供さえすれば、ツヴァイクが何とでもする。
「とりあえず、情報収集だけでもしましょう」
知る事は不利にならない。そう教わったサラは、キドラントという悪意にまみれた村で話を聞く。聞いてしまう。
そして出てくる、困った声。最初に聞いた男は開口一番、こんな事を言った。
「旅の人かい? なら、これ以上北には行かない方がいいよ」
「どうしてですか?」
「怪物が住み着いたのさ。何人かうちの人間もやられたし、旅人も襲われている」
「どんな怪物でしょうか?」
「分からんさ。ただ、遺体は無残に食い散らされて、ほとんど肉が残ってなかったとか」
その情景を想像して、思わず顔をしかめるサラとモニカ。
「詳しくは町長に聞いてくれ。
……ああ、誰かが怪物を退治してくれないものか」
そう言いながら、男は肩を落としてサラから離れていく。
モニカは慌てて去っていく男に問いかけた。
「その、町長の家はどこでしょう!?」
「村の北にある、一番大きな建物が町長の家だよ」
去っていく男を見て、モニカは義憤にかられた。自分だってそんなおぞましい最期は迎えたくない。迎えたくないのに、この町の人は近くに怪物が住み着いたというだけでその恐怖に晒されなくてはならない。
「なんとかしてあげたいですね…」
「はい。けど、私たちが勝てる保障もないです。まずは情報を集めましょう。町長の家は北でしたね」
サラはまだ冷静だった。怪物に突撃して相手が自分より強かったら、単なる無駄死にである。別にサラに怪物を倒す義理も義務もないのだ。
もちろん、倒せれば倒したい。それは間違いなくトーマスカンパニーの名前を上げる事になる。ツヴァイクで聞いた、モニカたちの方針である才能ある者をロアーヌに誘致するという作戦にも役に立つだろう。が、死んでは元も子もない。
慎重に情報を集めて、余裕を持って逃げ出せる位置を保ちたい。それがサラの偽らざる本音だった。
「町長の家に行きましょう」
「はい」
「……」
気味の悪い感覚に身を包まれたままのユリアンは、黙って彼女たちに従うのだった。今回、彼を助けてくれるカタリナは、いない。
「定期的にやられますのじゃ」
沈痛な面持ちで町長は言う。
「定期的に、とは?」
「2~3日に一回程です。動物なら例外なくどんなものでも。森で熊やゴブリンの骨が見つかった事もあるし、夜が明けたら家畜が骨だけになっていた事もあったのじゃ。
……家畜ならまだ運がいい方です。町の者も、何人かやられてしまっています」
手で目元を隠し、深いため息をつく町長。
「怪物の姿は?」
「それがなんとも。黒い影が蠢くように北に向かったのを見た者がいるだけじゃ。
……北に、生き物が住み着きそうな洞窟は一つあります。ですが、このような事態になってからは町の者は怖がってそこに近づきません」
「ツヴァイクに救援要請は出したのか?」
「はい。ですが、現実にある被害は町民数人のみ。もちろん旅人もやられているのか知れませんが、町が把握していない以上は被害者として数える訳にもいかず。
しばし待てと通達が来てから、もう二月は経ちます。ツヴァイクはあてにならんのですじゃ」
そう言った町長は、がばりと自分の子供よりも若いだろうサラやモニカ、ユリアンに向かって頭を下げる。
「どうかお願いじゃ…! この町を助けて下され。
この町の蓄えは僅かですが、それを全て差し出します。どうか、どうかお願いじゃ……!」
「サラさん……」
同情が大きくこもった顔をサラに向けるモニカ。この旅の決定権はサラにあるのだ。護衛であるユリアンやモニカにはない。
難しい顔をするサラ。どうにも相手の得体が知れない。骨だけになるというなら不定型モンスターに溶かされたというのが妥当な考えだが、不定型モンスターは総じて動きが鈍いために姿が見えないというのは不自然だ。変異型モンスターの可能性もあるが、蠢く黒い影と合致しない。そうなると新種のモンスターか。
だが、新種だとすると自分達の命の保障もできない。しかし、ツヴァイクは動かない。
どうするか。どうするか。どうするか。
「……残念ですが、お引き受けできかねます」
サラの出した結論はそれであった。
町長はがっくりと肩を落としてしまう。
「……そう、ですか」
「はい。ですが、ツヴァイクにこの情報は回しましょう。明日の朝一番にギルドに報告します」
「分かりました、お気遣いに感謝しますじゃ。せめて今夜はこの町の宿に泊まって下さい。
安宿ですが、その代金くらいは儂が出しましょう。どうかこの事態をツヴァイクにお伝え下さい……」
そう言って家から出て宿へと向かう町長。
それを見送ってから、誰もいなくなった町長の家でモニカは悲しそうな顔でサラを見る。
「サラさん、どうして……」
「モニカさん、分かって下さい。不確定要素が多すぎる上に、相手は素早く動きも見せない。安全より危険が高いのです。せめてこの情報をツヴァイクに持ち帰りましょう」
「ツヴァイクが動くとは、私にはとても思えないのです……」
モニカの脳裏に思い出されるのはトップであるツヴァイク公国王、そしてその王子。サラから聞いたツヴァイクの現状、そして町長の救援を無視するツヴァイク。
どれ一つとして、キドラントの窮地を助けようとする要素になりそうもなかった。
だが、それでも。キドラントを助ける義理も義務も、サラやモニカ、ユリアンにはない。せめて聞いた声をツヴァイクへ届けるしかないのだ。
「私たちができる事に全力を注ぎましょう。モニカ様が死んだら、ミカエル様に顔向けできません」
(それにお姉ちゃんも私の安全を願っているわ)
モニカを様と呼び、その立場を強調して伝える。そして自分の為に無理をしているだろう姉の為にも、自分から危険な事をする訳にはいかない。それは姉に対する、最大の侮辱だろう。
そんな彼女たちを、ユリアンは未だに厳しい顔で見ていた。別に彼女たちそれぞれの言い分に言いたいことがある訳ではない。心情としてはモニカの言う通りにキドラントを助けるために怪物を討伐したいし、護衛としてはモニカやサラも安全を第一に考えたい。
それはそれとして、イヤな予感が一向に消えてくれないのだ。ユリアンの胸中は言いようのない不安で満たされていた。ナニカ不吉な事が起きる、そう勘が告げていた。
だが、それを理論立てて説明する事が、できない。
町長に案内された宿に泊まる三人。男であるユリアンは一人部屋、モニカとサラは別の部屋だ。
月が真上にかかる深夜。その宿の前で数人の屈強な男たちが集まっていた。どの男も目をギラつかせている。
やがて、宿の内側から鍵が外される。宿の主が男たちを招き入れるためだ。主と男たちは視線を合わせると、頷き合う。
「首尾は?」
「女二人は問題ない、食事をとった。だが男は顔色が悪くてな、食欲がないとか」
「じゃあ、男に睡眠薬を仕込むのは失敗したのか?」
「いや、お茶だけでもと勧めたらそれは一口だけだが飲んだよ。お茶に仕込んだあの睡眠薬は強力だ、一口でも十分な効果がある」
「分かった。後は俺たちに任せてくれ」
そう言って宿に入る男たち。彼らは宿の中を静かに進み、二つある部屋の前でそれぞれ半分ずつに分かれる。
そして、中に踏み込んだ。部屋の中では静かに眠る少女が二人。男たちは素早く手早く、少女たちを縛り上げていく。
「!?」
「ムグゥ!?」
そこまですれば少女たちも流石に目を覚ますが、既に手遅れだ。縛り上げられた後で暴れても何の抵抗にもなりはしない。
そんな少女たちを苦渋の顔で見る男たち。
「……すまない。だが、誰かが死ななければならないんだ。俺たちは、死にたくない」
「これは町長の指示なんだ。従わなければ、そいつを縛り上げて生贄の洞窟に放り込む、と」
「ムグゥ!?」
「グゥゥ!?」
自分達の運命を悟ったのか、サラとモニカは必死のに暴れ回るが、ここまで来たら手遅れだ。どんな抵抗も無意味である。
そこに町長が姿を現した。昼間の下手に出た表情とは違い、今は強い悪意で表情が満たされている。
「ふん。お前たちはまだそんな甘い事を言っているのかの。まだ覚悟が決まらないなら、お前たちから生贄になってもらってもいいのじゃぞ?」
「! そ、それは…」
「旅の者が居なくなっても誰も不思議に思わない。それに持っていた金品も巻き上げられて一石二鳥じゃ。
こんな村と町と区別もつかんような町じゃ、金を稼ぐにも一苦労。災い転じて福と為すくらいじゃないと、世の中やっていけないわい」
その言葉を、縛り上げられた少女二人は信じられない思いで聞いていた。自分達はキドラントを助ける為、最大限の努力をしようとしていた。なのに、人としての道を外れたその言葉は。野盗と同じくらい、いや人の善意につけこむ分、それよりもずっと性質が悪い。どんな魔物よりもおぞましい悪魔、それがキドラントの町長の本性だった。
モニカはその狂気にゴドウィンを思い出す。あのような人の道を踏み外した例を見ながら、町長の本性を見抜けなかった自分に失望する。
と、そこに慌てた様子の男が走り込んできて報告する。
「町長、大変だ! 男がいない!!」
「なにっ!? …勘づかれたかの?」
「ど、どうするんだよ、町長。このまま報告されちゃあ、俺たちが……」
「慌てるな、落ち着くのじゃ。
……先にツヴァイクに伝令を出すのじゃ。キドラントに来た若者たちが、礼金を受け取って怪物討伐に行ったまま戻って来ないと。金を持ち逃げした盗人を手配して欲しいと要請を出すのじゃ。
そうすればツヴァイクの町全員の証言の方が信用されるじゃろう。盗人の男が何を言おうと無駄じゃ」
「!? そいつに、盗賊の嫌疑までかけるのかよ!?」
「文句があるのかの? 次の生贄にはお主がなりたいと? 上手い具合に次の旅人が来るとは限らんしのぅ」
「ま、待ってくれ。分かったよ、その報告は俺がするよ」
「では行け、今からじゃ。早ければ早い程いい」
町長の言葉で男の一人が駆け出す。それを見ながらサラとモニカは希望が繋がったと、身動き一つできないままで思う。
ユリアンならなんとかしてくれる。ユリアンなら信じられる。そう強く、強く信じていた。……信じる事しか、彼女たちにはできなかった。
一方でユリアン。彼は夜のキドラントを駆けていた。
モニカやサラを一刻も早く助け出したいのは山々だったが、そういう訳にもいけない事情が彼にはあった。
盛られた睡眠薬が、体を蝕んでいたのだ。
ユリアンは自身の勘が鳴らしていた最大の警報に従い、勧められたものは極力断っていた。だが、全てを断るのも怪しまれるかと思い、万能薬を飲んだ上でお茶を軽く口にした。
だが、よほど強力な睡眠薬だったのだろう。また、侵入者を察知して窓から脱出したのはいいものの、激しく疾走しているために体に薬が回るのも早い。
(ク、クソ……)
気を抜けば倒れてしまいそうだ。疾走の勢いはやがて衰え、ふらふらと歩くだけになってしまう。
そしてキドラントの町の、人気のない所を選んでふらつくユリアンだが、ついに人に見つかってしまった。歩く音に気が付いたのか、民家の一つの窓から顔が出て外を歩いていたユリアンと視線が交差する。
驚いた表情を見せたその女性は、慌てて家の中へ引っ込むとドアを開けて外に出てきた。
(クソ、クソ……)
諦めてたまるかと剣に手を伸ばすユリアンだが、それすらも覚束ない。
家から出てきて、近づいてくる女性。だが、様子がおかしい。ユリアンを見つけたのなら大声を上げればそれで済むのに、むしろ音を殺してふらふらした彼に近づいて、支える。
「な、なにを…?」
「静かに。私の家に匿います」
そしてユリアンを家の中へ連れ込む女性。明かりをつけたら怪しまれると考えたのだろう、女性は暗い家の中を手探りで進んで、一つの部屋にユリアンを運ぶとそこにあったベッドに彼を横たえた。
いったん部屋から出た女性だが、すぐに戻ってくる。その手には一束の草が握られていた。
「この町で作られる睡眠薬の解毒剤です。生でないと効果がありません、辛いでしょうがお食べ下さい」
意識が朦朧としたユリアンは言われるままに草を口にする。すると、その余りに苦みに一気に意識が覚醒した。同時に体を襲っていた倦怠感も消えていく。
一息ついたユリアンは助けてくれた女性にまずは礼を言った。
「ありがとう、助かったよ」
「そんな。酷い事をしたのはこちらですから…」
暗闇の中でお互いに顔は見えないが、声色から女性が申し訳なさそうなのは理解した。ユリアンとしてはこの村を許すつもりもないし、モニカやサラを絶対に助け出すつもりだが、自分の窮地を救ってくれたこの女性まで恨む気にはなれなかった。
「俺の名前はユリアン。君は?」
「ニーナと言います」
「ニーナ、どうして君は俺を助けてくれたんだ?」
「……こんな、こんな人の道を外れた事は赦されないと、前からずっと思っていました。けれども私一人ではどうにもなれず、ずっと苦しかったのです。
でも、今回は助けられた。今まで犯した私たちの罪が赦されるとは思いませんが、それでもこれからずっと、なんの関係もない人が生贄にされるなんて耐えられなかったんです。
私の恋人も、冒険者になるんだって旅に出てしまいました。彼がこんな目に遭っているなんて考えたら……」
このような地獄のような状況で、ニーナはそれでも自分の良心を忘れなかった。それはとても尊い事だと、ユリアンには思えた。まるで聖王のようだと。
「私の恋人はポールと言うのですが、どこかで聞いた事はありませんか?」
「いや、悪いが聞いた事はないな」
「そうですか……」
「状況を詳しく聞きたいんだが、いいかな? 連れが二人、捕まった。このままじゃ生贄にされちまう。なんとかして助けたい」
暗闇の中でニーナが息をのむ。だが、狼狽している時間はない。手早く状況を説明する。
「北の洞窟に住み着いた怪物は、新鮮な肉を好むようです。生贄にされた旅人は洞窟に放り込まれるまで生かされるでしょう。
また、怪物を退治すると洞窟に入った人を逃がさないため、退治してくれると言った方が入った後に出入り口の岩を閉じます。そして怪物に喰われた頃を見計らって、また岩を開けるのです。そうしないと次の犠牲者を誘い込めません」
「ずっと出入り口の岩を閉じておくのは?」
「無駄でした。どこからともなく怪物は洞窟から出てしまうのです」
「俺はどうすればいい? ニーナはこんな地獄のような状況で、自分の危険を省みずに助けてくれた。その恩に報いたい」
「恩なんてそんな……。私たちが悪いのです。旅人を騙し、襲い、生贄にしてその金品を奪うなんて……人の所業ではありません」
「……金品の強奪までやっているのか」
「はい。町長が全ての指示を出しています。従わない者が次の生贄だと脅して」
「あのヤロウ……」
怒りの気炎が口から漏れるユリアンだが、今は怒り狂っている場合ではない。モニカとサラを助けるのが先だ。
「生贄は、朝になったら運ばれます。生贄の洞窟はここから余り遠い場所にはありません。今夜は村の北で待ち、生贄を運ぶ人たちをつけるのが一番だと思います」
「ありがとう、重ねて礼を言うよ。報いる恩はなにかないかい?」
「……では、厚かましいですが、二つお願いしていいですか」
「もちろん」
「一つ目は、どこかでポールに会ったら伝えて下さい。私は今でも、そしてこれからも優しい貴方を愛していると。
二つ目は、もし怪物を倒せたら倒してください。村の人がこれ以上、非道をするのに私は耐えられないのです」
「一つ目は承知した。二つ目は…約束できない。すまない」
「いえ、悪いのは私たちですから」
そこで会話が終わる。
「では、お気をつけて。ユリアンさんに聖王様の加護があらんことを」
「ニーナ、君も気を付けて。俺を助けたと疑われないようにな」
言い残し、ユリアンは窓からニーナの家を出る。玄関から出てそれが見つかったらニーナに多大な迷惑がかかる。
できるだけ人目につかないように、ユリアンは村の北へと向かうのだった。
翌朝。
縛り上げられたモニカとサラが、担がれて町から運び出された。
今すぐ助けたい衝動にかられながらも、ユリアンはそれを必死で我慢して隠れる。あの程度の人数なら勝てる自信があるが、奴等の手中にモニカとサラがいるのである。人質にされたら形勢が逆転してしまう。
そのまま町を出て歩く事一時間程度。本当に町から程遠くない場所に生贄の洞窟はあったらしい。
ぽっかりと空いた穴の中に、せめてもの慈悲か。丁寧に生贄となったモニカとサラを横たえる。
「……すまん」
それを為した男たちは、本当に心底申し訳なさそうにそう言うと、足早にそこから立ち去っていった。
残されたのは恐怖に涙を流す、縛られたモニカとサラ。そして男たちが十分に離れるまで隠れているユリアン。
十分に時間が経ったと判断したユリアンは、縛られた二人に走って近づく。物音になお騒ぐ二人だが、そんな彼女たちにユリアンは優しく声をかけた。
「モニカ様、サラ。遅くなった、俺だ」
「ムグッ!!」
「ムゥゥ!!」
駆け寄ったユリアンは縛られた二人を見て顔を歪める。縛られた縄からこすれて血が出て、強く噛まされた猿轡は唾液で濡れている。
よほど抵抗し、よほど叫んだのだろう。痛々しい二人の戒めを素早く短剣で切り、解放する。
体が自由になった二人は、泣きながらユリアンに抱き着いた。
「ユリアン、ユリアンン……。うううぅ……」
「怖かった、怖かったよぅ…」
そんな少女二人を優しく抱きしめてポンポンとあやすように頭を撫でる。
「とりあえず、ここは安全じゃない。早くここから――」
ちゅう
そんな声が洞窟の中から聞こえ、身を固くする三人。
恐る恐る洞窟の中を見たら、そこには小さな赤い瞳が反射してギラついていた。ただしその瞳は一組ではない。
ちゅう
ちゅう ちゅう ちゅう
ちゅう ちゅう ちゅう ちゅう ちゅう
ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅう
それはネズミだった。一匹だったらただの害獣で済んだそれも、何百何千と集まれば脅威を通り越して災害だ。
これが怪物の正体。常識を超え過ぎた数のネズミの群れ。
ちゅう!
その中でまるで号令のように一匹のネズミが鳴いたかと思うと、雪崩をうってユリアンたちに襲い掛かるネズミの群れ。
とっさに我に返ったのはユリアン。
「術を!」
「っ、ストーンバレット」
サラが素早く術を唱えて岩を作り出し、ネズミの群れに向ける。が、十何匹は潰せても、その大軍は小揺るぎもしない。
「ファイアウォール!」
モニカが炎の壁を作り出す。洞窟の出入り口である事が幸いし、炎の壁で隙間なく出入り口を塞ぐ。
だがしかし、それもその場凌ぎ。モニカの魔力では僅かな時間しかもたない。
その間にユリアンは素早く周囲を見渡した。ニーナの話では、確か――
「あった!」
――洞窟の出入り口を塞ぐ岩があったはずである。ユリアンは渾身の力を込めてそれを押し込み、その出入り口を塞ぐ。
文字通り、ネズミ一匹通さないほどきっちり嵌まった出入り口に、モニカとサラは安堵の息を吐く。だがしかしユリアンは安堵しない。ニーナから聞いていた、怪物はどこからともなく出てくると。つまり、ネズミなら通れる抜け道がどこかにあるのだ。
「まだここは安全じゃない、ネズミなら小さな穴からでも這い出して来る!
逃げるぞっ!!」
ユリアンの声に我に返った二人は素早く走り出す。
幸い、ネズミの群れに追いつかれる事はなかった。
町長の極悪度、当社比で200%増しです。
旅人を生贄にする奴なら、このくらいやるだろうと判断しました。