詩人の詩   作:117

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週一更新の努力目標は維持するスタイルで行きます。
…っていうか、これ維持できなかったら本当にエタりそうで嫌なんだ。

やる気の最後の防波堤っていうか、筆が進まない時にも進ませる最後の魔法っていうか。
これを意味なく無視した時点で自分の中の何かが壊れそうです。

頑張ります。


039話

 

 

 ひとまず、ユーステルムにて腰を落ち着けた一行。

 だが体調が回復したらしなくてはならない事がある。そう、日々の生活の為に金を稼ぐ事である。

 サラは自称トーマスカンパニーの一員であり、フルブライト商会と関係があると言っているものの、証拠はない。そんな彼らが元気になったら、当然働かなくてはいけない。働かざる者喰うべからず。これは世界の常識である。

 それでも、働き口くらいはウォード隊が紹介してくれた。流れ着いた旅人が働き口を探すというのは珍しい話ではないし、それなりに人手を欲している場所というのもある。ひとまずそこで日銭を稼ぎ、毎日の食事を確保しなくてはならなかった。

 

 

「シチュー5人前、スパゲティーカルボナーラ2人前、スパゲティーナポリタン3人前、上がり!」

「はいっ!」

「私はシチューを運ぶから。モニカさんはスパゲティーをお願いしますね」

「分かりました!」

 出来上がった料理を腹を空かせているウォード隊隊員のところまで運ぶ仕事、すなわち給仕をサラとモニカはこなしていた。

 ウォード隊は朝と昼の賄いは無料で、夜の食事は有料で提供している。そのうちの昼の食事の給仕を彼女たちはしていた。朝は早く起きて掃除をしたり、料理の仕込みを手伝ったり。慣れた手つきで手際よく仕事をこなすサラだが、お姫様暮らしをしていたモニカはどうにも手際が悪い。サラが噛み砕くように教えたり、フォローをしたりでようやくといったところか。

 だが、そんなモニカをウォード隊の男たちはほっこりした目で見ている。見た目麗しい美少女たちが、一生懸命に自分達の世話をしてくれる。片方はテキパキと、ちょっと奥ゆかしく働く。もう片方は手際がよくはないが、真面目に失敗しないように働く。

 年配の隊員は娘を応援する気持ちになるし、若い隊員はぽーと見惚れたりする光景であった。美人とは得である。

「お、お待たせしました。シチューをお持ちしました」

「お待たせいたしましたわ。スパゲティーのご用意ができました」

 それぞれがそれぞれの注文したテーブルに料理を運ぶ。

「おう、ありがとさん」

「頑張れよ!」

「良かったら今夜、一緒に飲みに行かない? おごるよ」

「おーい。昼間っからナンパすんなよ」

 思い思いに声をかける隊員たちだが、サラやモニカはそれどころではない。

 何せ、ウォード隊の大半が食事を取るのだ。そしてそれを給仕する人間は人手が足りていない。雑談する余裕などないのである。

「す、すいません。ちょっと忙しいので……」

「他の方の食事ができたようなので、失礼します」

 急いで次の料理を運ぶためにその場を離れてしまう二人。

「フられたな、お前」

「るせー。

 あ、もしその気になったら酒場に来てよ。可愛い女の子と一緒に飲めるなんて役得だしさ」

 後ろから追いかけるようにそんな言葉が投げられるサラとモニカだが、本当に彼女たちはそれどころではないのだ。

 忙しくて目が回る、という表現を特にモニカは体験していた。お姫様育ちの彼女にとって、この社会勉強は大変が過ぎる。ミスすれば怒鳴られるし、客に愛想が足りな過ぎてもよくない、その上に自分で気が付かなくてはならない事も多くある。それらの多くは怒られて学ぶ。男の隊員のほとんどは笑って見守ってくれているが、その分というか女性の料理人や給仕係からの当たりは少しキツい。嫌味に近い事まで言われてしまう。

 サラもそんなモニカをできるだけフォローしているが、彼女自身も決して余裕がある訳ではないのである。サラが仕込まれたのは商売の事についてであり、給仕の仕事は初体験だ。生来の性格は変えようがなく、引っ込み思案な彼女は怒られると身が竦んでしまう。それでも、ここでは彼女を助けてくれるトーマスもエレンもいない。むしろ自分がモニカの手伝いをしなくてならない訳で、いつもより余裕がなくなってしまうのは仕方がない。

 今までとはまた違った必死さを持って仕事にあたる二人。働くということ、稼ぐということは本当に大変な事だと彼女たちは身をもって勉強していた。

 

 昼の給仕が終わり、遅い昼食を食べる。それから食べ散らかされた食堂の掃除、そして夕食の仕込みが終わる夕方になって、ようやくサラとモニカの仕事が終わる。

 朝早くから働く代わりに夕方で彼女たちの仕事は終わりになる。これは夜の仕事は酔っ払いが増え、バカをやらかす者も少しは出てきてしまうという理由もある。熟練した給仕が夜の勤務につくのはこういった理由もあるし、男女の話も夜では冗談で済まない事も多い。トーマスカンパニーの一員はもちろん、ロアーヌの姫君がそういった話に巻き込まれたら事だと、ウォードは夜に少女たちに仕事をさせないように厳命していた。

 しかも夜は男だけではなく女にとっても出会いの場。給仕をしつつ、男を見定めて夫婦になる事だって珍しくない。そういった意味でも、男女の関係になられたらお互いに困るサラやモニカが夜の給仕につくのは不幸しか生まないといえる。女だって見た目麗しい娘に来てほしくはないだろうし、男だって給仕の女に声をかけて男女の関係になってみたら相手がロアーヌの妹姫でしたでは顔が青くなる。

 そういった諸々が重なり、サラやモニカは夕方にはお役御免になるのだ。

 そしてそんなモニカが最近気に入っているのは、ウォード隊で飼っているウサギを愛でる事。初日にふとその白い動物を見つけてから、モニカはウサギに夢中だった。今も葉野菜や根菜の切れ端を集めて、膝の上に抱いたウサギがそれを齧るのを愛おしそうに眺めている。

「うふふ」

「モニカさん、本気で気に入ったみたいですね」

「もちろんよ、こんなに可愛いんだもの!」

 ちょっと苦みが混じった笑みでモニカと一緒にいるのは、もちろんサラである。

 サラはウサギとは触れ合わずに、ちょっと熱めのお茶を入れたコップを持ちながら、モニカとお喋りをしてゆっくりした時間を過ごす。

「確かに小っちゃくてつぶらな瞳とか、可愛いですよね」

「そうなの! それにほら、前足でご飯を押さえて齧る姿とか、もう可愛くて可愛くて!

 ……ロアーヌに帰ったら、私も飼いたいなぁ」

「その時は私が融通しますよ。トーマスカンパニーならユーステルムにも顔が効くはずですし、手に入らない事はないかなって思います」

「そう? じゃあ、その時になったお願いするわ。

 流石に私の旅には連れていけないし、ねぇ?」

 そうウサギに問いかけるモニカ。膝の上にいたウサギはちょこんとモニカを見上げると、すぐに前足に抱え込んだ野菜を齧る事に戻ってしまう。

 それを優しくなでるモニカを見ながら、サラは思う。

(ここのウサギは食用って言わない方がいいわよね……)

 当然である。まさか、愛玩の為に警備隊の宿舎で動物を飼うはずがない。ニワトリやウサギは残飯や野菜くずでも育つ為、こういった場所で飼われる事は珍しくない。ユーステルムでは寒さの為にウサギを飼育しているのだろうが、シノンではここと同じ食べ物でニワトリが飼われていた。だからまあ、サラは察せた。

 しかしモニカには無理だったのだろう。今、彼女の膝の上で撫でられているウサギはいつかシチューの具になるかして、美味しく食べられる運命なのだ。

 ユーステルムに長居するつもりもなし、わざわざ酷い現実を突きつける必要もないだろうと。サラはひたすら苦みが混じった笑みで無理矢理会話を楽しむのだった。

 

 

 変わってユリアン。

 彼は完全に装備が整っていることもあり、ウォード隊の本来の仕事に参加していた。狩りをしたり、ユーステルムの警備をしたり。また、そこらの隊員よりも腕が立つ事もあり、隊員の指導をする立場になることもあった。

「次っ!」

 今日のユリアンの仕事はまさしくそれで、隊員を実戦形式で叩きのめす事だった。

 防具は皮をなめした最小限のもので、武器は木製である。だがそれでも、下手な指導者が相手では大怪我を負ってしまう事も珍しくない。その匙加減は案外大変なのである。

 ユリアンの声で手首を打ちのめされた若者が下がり、次の若者が出てくる。ユリアンの鍛錬を受けているのは若者ばかりだった。

 流石にユリアンほどの若者に年配者の相手をするには、色々な意味で無理があった。まずは年齢、若造に指導を仰ぐというのを嫌がる人間は普通に多い。それを黙らせる程の実力がユリアンについているとは言い難かった。また、熟練者になればユリアンに習うまでもなく自分なりの戦い方が身についている事は少なくない。そして歳を重ねればその分怪我もしやすい。そういった諸々の事情が重なっている。

 さておき、今ユリアンと相対しているのは彼と同じ年頃の若者である。しかし横幅も大きく、手にした武器は木でできた斧。どうやら次の相手は斧使いらしい。

「おらぁぁぁ!!」

 若者は気炎を上げながら斧を振りかぶり、ユリアンに向かって突進する。

 しかしユリアンに動揺はない。ハリードに比べて遅い事、詩人に比べて隙しかない事。動揺が起きる理由がない。

 本来、ユリアンは後の先を好む。相手の攻撃をパリィして、できた隙を斬りつけるのだ。これはシノンで先陣をきってモンスターの注目を集める事にも向いた役柄であるし、そんな彼の後ろからエレンの斧やサラの弓矢が当てやすくするといった意味もある。崩れない前衛という、後衛からしたら望ましい役割の一つを自然とユリアンは担ってきていたのだ。

 だがこの若者相手にその手を選ばない。それは一人で戦う現在、そういった事以外も覚えて損がないという事もあり、慣れない戦法を試す程度に相手が格下だという事でもある。

 その斧の一撃は重いだろう。だが、鈍く遅い。若者がドタドタと距離を詰めるために走る隙間を縫うような、そんな動きでするりと若者の間合いの内側に入り込んだユリアンは。慌てて振り下ろされた斧を頭の上でやり過ごし、その当てやすい大きな胴を薙ぐ。

「ぐぅぅ!!」

「次っ!」

 実戦ならば確実に致命傷。それを悟った横幅が広い若者は悔しそうに離れていく。次に前に出たのはかなりがっしりした若者。少し長めの槍を構え、ユリアンから少し離れた場所で止まる。

 どうやら今度は槍使いで、迎え撃つのを得意とする若者らしい。先程の若者とは真逆のタイプだ。そして槍は間合いが広い分、それを有利に働かせることができれば戦いの流れを引き込みやすいともいえる。まあ、それにあぐらをかいて研鑽が足りていないのなら、ユリアンの敵ではないが。

 今度も相手に向かって突っ込むユリアン。というか、待ち構える相手ならなおさらユリアンから攻めないと鍛錬にならない。そして接近するユリアンに向かって槍を繰り出す若者。

 だが、それをユリアンは見切っていた。急速に歩幅を変え、加速する。先程のユリアンの突撃は、まだ全速力ではなかったのだ。その速度に目を見開く若者だが、もう時は既に遅い。まだ勢いが十分でない若者の槍では、更に加速したユリアンの剣に対抗するには威力が全く足りない。弾かれた槍は跳ね上げられ、一緒に両腕も上に流されてしまう。残ったのは隙しかない体であり、その肩を木刀で叩きつけるユリアン。

「がぁ!」

 痛みで槍を取り落としてしまう若者の首筋に剣を添えるユリアン。これで生かすも殺すも彼次第、詰みだった。

「次っ!」

「おおぅ、やってるな」

 声を上げるユリアンだったが、それは野太い声に遮られた。

 近寄ってくるのはウォード、このユーステルムの武力的な頂点に立つ男。

「隊長っ!」

「おうおう、おめーら。簡単にやられてんじゃねーよ」

「す、すいません……」

「まあ、こいつらじゃあユリアンの腕も鈍っちまう。俺を相手に一手願えるかい?」

 言いながら、木でできた大剣を構えるウォード。無言で木剣を構えるユリアン。

 ピリリとした空気が流れる。若い隊員とユリアンの間では、決して出る事がない緊張感でその場が満ちる。固唾を呑んでそれを見守る年若い隊員たち。

 やがて動いたのはユリアンだった。

「しっ!」

「ふん!」

 素早く、大剣の剣先を狙った一撃でウォードの態勢に隙を作ろうとしたユリアンだが、その狙いに気づいたウォードは大剣を傾けてユリアンの剣の勢いを受け流す。

 攻撃が受け流されてやや格好を崩したユリアンだが、多少の形勢の悪さは無視してウォードに向かって突撃。距離を縮めつつ、剣先を真っすぐにウォードの胴に向けて刺突の構えを取る。が、慌ててそれを横に変えるユリアン。そこには薙がれたウォードの大剣が迫っていた。

「おらぁ!!」

「ぐ…!」

 大男が振るう大剣の威力には分が悪い。ユリアンは剣を盾にして、その勢いに乗るように横に吹き飛ばされる。

 ゴロゴロと転がりながら、しかし自分の武器は手放さないユリアン。そして勢いが止まるに合わせて、地面に這いつくばるようにしながら遠くのウォードを見上げた迎撃態勢をとるユリアン。ウォードは逆にそんなユリアンを追撃せず、肩に大剣を担いで鷹揚に見下ろしていた。

「ま、ざっとこんなもんよ」

「さ、さすがです、ボス!」

「俺らが相手にならなかった奴を一蹴とか、やっぱり隊長はすげぇ!!」

 自分達の隊長がユリアンを吹き飛ばした事に隊員たちは喝采を上げる。それに応えながらウォードはユリアンを見やると、ユリアンは丁寧にお辞儀をして去っていった。

(いいねぇ…。エレンは強いし、ユリアンは分かってる)

 単純な強さなら、エレンとユリアンを比べて同じくらいだとウォードは判断した。時間が経過している今ならエレンの方が上かとも思う。が、しかしウォードがユリアンを褒めたのはそこではない。ユリアンが立場や政治を分かっている事を評価したのだ。

 ユリアンは歳若い流れ者である。そんな立場の者がウォード隊の若者を叩きのめすとなれば、隊員の若者たちは自分を見つめ直すだろう。ウォード隊に所属しているという誇りもあるが、それこそが流れ者如きに負けてられるかと奮起するのだ。

 それと同時にふと考えてしまうだろう。自分達よりも圧倒的に強いこの流れ者と隊長はどちらが強いかを。もちろんボスに対する信頼は歴としてあるが、まさかという思いはぬぐえない。だからこそ、最後の一戦は儀礼として必要だった。

 ウォード隊のボスが、ユリアンを圧倒するという茶番が。

 真面目な話、ユリアンとウォードではウォードの方が強い。それは会った瞬間にユリアンに分かった事でもあるし、試しにした以前の手合せでウォードも分かっている。そして今回も茶番とはいえ、別にユリアンは手を抜いた訳ではない。

 仮に彼らが真剣を持って戦う場合でも、今と似たような展開になっただろう。隙を作るためにユリアンが切りかかり、懐に入られる事を嫌うウォードが彼を吹き飛ばす。しかしユリアンは決して隙を見せず、武器を手放さない。それを繰り返して、ユリアンが弱ったところをウォードの一撃で仕留める。そんな展開だ。

 だが、それを真面目に最初から最後までやっても疲れるだけである。特にウォードはともかく、ユリアンはウォード隊の稽古をつけたばかりなのだ。体力に余裕がある訳でもなく、むしろとっとと終わらせて休みたいだろう。

 なのでユリアンが吹き飛ばされるという最初の部分だけ戦い、ウォードが圧勝したと感じさせればいい。ウォードはそれ以上は求めていない事を分かった上で、ユリアンは場の雰囲気を壊さないように辞したのだ。

 下手に戦おうとするのは論外、負け惜しみの一つも言えばユリアンの株が下がる。ここはウォードを立てるのが最適解で、ユリアンは何も言われなくてもそれを為した。相当以上に分かっている男しかとれない行動である。

(欲しいねぇ……)

 強いのはもちろん、分かっている(・・・・・・)者というのは存外数が少ない。そうウォードが思ってしまうのも仕方ない。

(ったく。ロアーヌが唾つけてなきゃ口説き落とすものを)

 だがそれはできない。モニカ姫の護衛を単独で任せられる男である。事故(・・)で死ぬ分は仕方ないとして、手放す事は許さないだろう。

(ままならねぇなぁ……)

 詩人、エレンに続いてまたも大きな魚を逃さなくてならない事に、ウォードは誰にも気が付かれないように嘆息するのであった。

 

 

 日にちが経つ。

 同じような日々が続き、けれども終わらない日々はない。それはウォードによって彼の部屋に三人が呼び出された事で終わりを告げた。

「おう、来たか。トーマスカンパニーのトーマス・ベントから、手紙と荷物がサラ・カーソン宛に届いたぜ」

「っ! ありがとうございます!!」

 無駄を嫌うウォードが端的に告げ、それらを喜色満面のサラに渡す。サラはそれが間違いなくトーマスの封蝋印である事を確認して、荷物を開けて手紙を取り出した。

「わぁ!」

 感嘆の声を上げるのはモニカ。その荷物は区分けされており、サラの装備とモニカの装備、そしてそれなり以上のオーラムが詰められていた。

 北の田舎よりかはピドナの方が良い装備があるだろうというトーマスの計らいである。暗にそう言われたウォードだが、反論する術を持たないので開けられた荷物を見て苦笑いだ。実際、この装備をユーステルムで揃えようと思ったら相当な額と時間が吹っ飛ぶだろう。

 モニカは装備を取り出して身に付ける。ユリアンはオーラムを数えていく。

「1200…1800…2000オーラムあるな。奮発したな、トムも」

「新しい仕事も一緒について来たわよ」

 手紙を読み込んでいたサラがそんな声を出した。

「仕事?」

「ユリアンとモニカさんも手紙を読んで。よかったらウォードさんも」

「俺もいいのかい?」

「ええ。お力を借りなくてはならないと思いますので」

 首を傾げるウォードだが、まあ別に手紙を読むくらいなら構わないかと、サラを除いた三人で手紙を覗き込む。ちなみにサラはその隙に自分の装備を身に着けていた。

 手紙にはまず、三人の無事を喜ぶ言葉が、続いてユリアンの機転に感謝する言葉が綴られていた。そしてピドナに帰ってきたら十分な報酬を払う用意があるとも。

 それはそれとしてキドラントの暴挙は見逃せない、責める準備を進めているという事が書かれており、現地で情報を得るか何かしらの成果を出して欲しい。その支度金と、サラとモニカ姫の装備を同封したと〆られていた。

「この金、報酬じゃなくて活動資金か!」

 思わずユリアンがそんな声をあげてしまった。てっきり自分達に対する護衛の報酬かと思ったのだが、そういう訳ではないらしい。ここでもう一仕事しろという訳だ。

 トーマスカンパニーに戻った時、いくら貰えるのかちょっと気になるユリアンである。これよりか多いのか少ないのか。

 まあ、それはそれとして仕事の話である。

「情報を得るか、成果を出せって……」

「また曖昧ですわね……」

 どこかで聞いたような曖昧さに頭を抱えてしまうユリアンとモニカ。だが、サラはケロっとした顔をしている。

「別にそこまで曖昧でもないわよ。要するに、キドラントが強盗殺人をしている証拠を抑えろって言っている訳だし」

「ついでに怪物もたおせりゃ御の字って感じかねぇ? 怪物だけ退治しても仕方ないだろうが……」

 そこでいったん区切るウォード。

「証拠はこっちでだいたい集め終わってるんだよなぁ」

「「「え」」」

 まさかの言葉に三人が固まった。

「ったりめぇだ。キドラントは隣町だぜ? その上、手口も何もかもお前さん方から聞き終わった後だ。生贄にされかけた奴を助け出すのは簡単だったさ。

 今のところお前さん方を除いて8人だったか、キドラントの悪辣な手口を証明する旅人を保護している。で、だ。フルブライト商会に連絡も取った。トーマスカンパニーとラザイエフ商会、それからロアーヌと一緒にツヴァイクを責め立てる準備を進めてるって手紙を、昨日受け取った」

「昨日っ!?」

「なぜ俺たちに教えてくれなかったんだ!?」

「そりゃ、お前さん方が本当にトーマスカンパニーの関係者かどうか分からなかったからだ」

 言われてあっさり納得するユリアン。それはそうだ、さっきまでの自分達は自称トーマスカンパニーの一員であり、自称ロアーヌの妹姫だった。確認が取れていないのに機密情報を流す訳がない。

 だが、たった今届いたトーマスの手紙にあった封蝋印、それから手紙の中身を見てサラ達が確実にトーマスカンパニーの一員であると確信したのだろう。こうなれば話は別であり、一緒に行動する仲間だ。話を隠す意味はない。

「と、言いますか。ロアーヌも一緒なのですか?」

「ああ。妹姫がツヴァイクに謀殺されかけたんだ、当然抗議するだろ」

 そういう建前なのはウォードも理解しているが、その中身は当然知らない。知っていれば流石にここまでカラっとした反応はしない。

 連携して動くフルブライト商会やラザイエフ商会はその中身を知っているが、彼らは内容を知った上でカラっとした反応をする人種なのである意味問題はないだろう。

「まあ、つー訳で証拠は抑えた。俺らが、だが」

「承知しました。ユリアン、情報料としてウォード隊長に1000オーラムお支払いして」

「え?」

「ユリアン、早くしなさい」

 びしりと言うサラの目は鋭い。サラは完全に仕事モードに入っていた。ユリアンは慌てて1000オーラムを数えると、それをウォードに手渡す。それをあっさりと受け取るウォード。

「十分ですか?」

「ああ、十分だ。意味が伝わってよかったよ」

 カラカラと笑うウォードにようやく意味が分かってきたユリアンとモニカ。

 確かにユリアンたちがキドラントの情報を得る為にした事は、最初の情報提供だけ。それも大きいといえば大きいが、証拠を握っているのはウォード隊なのである。ウォードは暗に払うものを払えといい、サラはそれを正しく汲み取って金で話をつけた。これでトーマスカンパニーだけいざという時に証拠を出せないという事態は回避されたという訳だ。

 ウォードのお人好しな面しか見ていなかったユリアンやモニカはそこに気が付けなかった。ここら辺が金や情報を扱う者とそうでない者の差なのだろう。商売の才能を持っているならば自然にできること、そうでなければ相応の苦労をして技術として身につけなければならないこと。

「と、まあ。これでキドラントを糾弾する準備が整いつつある訳だが、ついでの仕事もやるつもりかい?」

「キドラントの怪物退治、ですか…」

 ぶるりと身を震わせながらサラはそう呟く。危うく生きたままネズミのエサにされるところだったのである、恐怖が染みついても仕方がない話だ。

 だが、実際に手は空いている。金だけ払ってさあ終わり、とは心情的にもしたくない。あんな目に遭わせられたのだから、何かしらのアクションを起こして責める手札を一つでも多く確保しておきたい。

「動きたいのは事実ですが……あの数のネズミの群れを倒せる方法は思いつきません」

「それに、なんていうか、あのネズミの群れは変だった」

 唐突に言うユリアンに、その場の全員の視線が集まる。

「変、とはなんなのでしょうか?」

「違和感を感じたのか? そりゃ、是非聞きてーな」

 声を聞き、目を閉じてネズミの群れに襲われた時を思い出すユリアン。

 そしてふとそれに気が付いた。

「合図だ」

「合図?」

「ああ。思えば、ただネズミが群れを為しているなら、あんな一気に襲っては来ない。最初に数匹、次に十数、数十、数百って数が増えていくはず。

 なのに、奴等は軍隊のように待機していた。そして、最後の一鳴きで一斉に襲い掛かってきたんだ。まるで、攻撃開始の合図みたいに」

「なるほどな。つまり、ただの獣害じゃなかった訳だ。確かに今更言われてみれば、そんな数のネズミの群れができるってのは普通じゃねー。

 何かに操られてるか、率いられているかって考える方がしっくりくる」

「でも、被害は人や家畜だけというお話でしたわよ?」

「……モンスターの一種かもな。食欲が満たされればそれで気が済むタイプだ。それが突然変異を起こしてネズミを操れるようになったかも知れん」

 そう言って話を区切ったウォードは次の言葉を繰り出した。

「よし、今の情報の礼だ。俺からも一つ情報を出してやる。

 こことツヴァイクの国境を南に行った森に、天才が住んでいる」

「天才、ですか?」

「ああ。通称、教授だ。森の中に館を構え、怪しげな研究をしてるとか。確か、ツヴァイクが金を出してその支援をしてるとも聞いたな」

「ツヴァイクが支援しているとなると……期待できるかも知れない」

 ユリアンの言葉に頷くサラ。

「ここにいるだけでは何の成果も出ないわね。

 とりあえず多少のお金はあるし、装備も整ってるわ。行くだけ行ってもいいかも知れない、まずは動きましょう」

 サラの言葉で方針が決まる。

 次の目的地は教授の館、そこで何か得られれば良し。ダメで元々だ。

 ユリアンは思い出す。あの悪魔のような人間が住まうキドラントで、自分を助けてくれたニーナという女性を。

 彼女に頼まれた通り、怪物を倒す事ができるかも知れない。

 

 ユリアンは自然と拳を握っていた。それはニーナの願いに応えられるかも知れない義憤か、キドラントに対する憤怒か。

 それは、彼自身にも分からなかった。

 

 

 




……そろそろリマスター発表から1年経ちますね。
まだ何もかも未定ってマジか。なんか、この話が先に町長シバく事になりそうで嫌だなぁ。

そしてUA30000突破しました。
お気に入りも評価も感想も順調に伸びて…。
お付き合いいただいている皆様に、感謝を。

…そして昨日の昼過ぎから一気に閲覧者が増えたの何でだろう…。
私、地味にそういうのが気になるタイプです。エゴサーチとかよくやります。
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