詩人の詩   作:117

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004話

 鍛えてくれないか、弱いのはもう嫌なんだ。

 少年少女はそう言った。

 

 それは、遥か昔を想起させる、強い決意の瞳だった。

 

 

 

 

 

 ミカエルに指示され、ポドールイにいるレオニード伯爵を頼る事になったモニカ。彼女を護衛するのは、ユリアン・トーマス・エレン・サラ。そして、詩人。

 ポドールイは北、真夜(しんや)の町。日の出ることのない夜と闇の町。もちろん不便な場所にあるが、それはレオニード伯爵という吸血鬼がそこに居を構え、そしてその庇護を求める人々が押し寄せたからに他ならない。

 一行はその町へ向かう。魔王の顔さえ知る、600年以上生きる怪物の下へと。

 ミカエルの宿営地を発ったその日の夜、夕食が終わって夜の番以外が眠りにつくまでの静かなひと時。ユリアンが強い瞳で詩人に声をかけた。

「なあ、俺を…俺たちを、鍛えてくれないか?」

「ああ、弱いのはもう…嫌なんだ」

 エレンも同じ瞳でそう頼んできた。正直に意外だった詩人はきょとんと残りの人々を見るが、サラもモニカさえも同じ瞳をしていた。

「突然どうしたんだ?」

「ガルダウイングが襲い掛かってきた時、何も…何も出来なかったんだ。あそこからシノンの村はそう遠くなかった。あなたやハリードがいなければ、もしかしたらあの化物に村が滅ぼされていたかも知れない」

 悔いるような口調でユリアンは言うが、それはちょっと違う。

「ガルダウイングはシノンの村に出るようなモンスターじゃない。あれは例外だ。そこまで深刻にならなくていいんじゃないか?」

「だが、実際にガルダウイングはあそこにいたんだ。死食によってゲートが開いたという噂は事実かも知れない。なら、弱いままじゃダメだと、僕も思う」

 詩人の言葉にトーマスは反論する。普段ならいいと言うが、現状は既にその普段ではない。

 なら、それに合わせた対策は必要だと。

 極めて論理的な返答に詩人はふっと笑みをこぼす。

「強くなりたいなら構わない。できるだけの手伝いはするし、今は幸い旅の途中だ」

「それが幸いなの?」

「ああ、空いた時間に稽古をつけて、旅で出会うモンスターに実践する。いざという時には俺もフォローに入れるからな。

 本来なら一番は路銀の心配だが、この旅に限ってはミカエル候が都合してくれた。いい機会といえば、いい機会と言える」

 詩人の言葉に一同はパッと明るくなる。断られるかも知れないと思っていたことを快諾されて嬉しいのだろう。

 ただ、と付け加えて詩人は少し申し訳なさそうな顔でユリアンを見る。

「他の武器もある程度は齧っているが、俺は剣は教えられないんだ。できるだけは鍛えるから、そこは勘弁してくれないか?」

「鍛えてくれるだけ嬉しいけど…剣はダメなのか?」

「ああ、剣だけはダメだ」

 そこだけは譲れないと強く言う詩人に、それならそれで別にとユリアンは頷いた。こちらから対価無くお願いしたのだ、快諾してくれただけありがたい話である。

「鍛えるのは明日からだな。最初の夜の番は俺とトーマスにしようか。

 他の奴らは早く休めよ。鍛えるとなると、ちょっと厳しい旅になる」

 これから深夜までを前半として、深夜から朝までを後半とする。これを詩人、ユリアン、トーマス、エレン、サラ・モニカ組で分けて夜の番をする。当然だが、有事の際は詩人はもちろん他の人間も叩き起こされることになる。

 正直に言えばモニカは護衛対象なので夜の番をする必要は無いのだが、他ならぬモニカ本人が参加したいと言い出した。お荷物にはなりたくない、出来る限りで役に立ちたい、と。詩人のいないところで既に話し合いは行われていたのだろう。先程の決意の瞳も十分に納得できる。

 そして今日の旅の疲れを癒すため、そして明日に備える為に4人はすぐに休む。

 モニカとサラは気が合ったようで、お互いに手を握り合って寝息をたてている。エレンはそんなサラのすぐ側で、横にならずに木に寄り掛かって目を閉じていた。ユリアンは火の側、つまり中央近くで横になっているが、武器である剣は手放さないまま休んでいる。

 全員の吐息が変わり、眠っていることを確認して。さて、と詩人はトーマスに向き合った。

「トーマス」

「…流石に言いたいことは伝わりますか」

「ああ、流石にね。俺もあまり隠してないし、ハリードやミカエルも疑ってるだろし」

 飄々とした面でトーマスと接する詩人。これは彼がハリードによく見せていた顔だ。

 人を見る目があるなら気が付くだろう、詩人はおかしいと。強ければハリードのように噂になってもおかしくない。それなのに、詩人はガルダウイングを一撃で倒す程に実力がありながらその噂を聞くことはない。

 ミカエルが疑っているのを見てトーマスも気が付いたのだろう。この詩人は何かおかしい、と。

「けれどそれを教えるつもりもない」

「…そんな人物を信じろ、と?」

「信じきる必要はないさ。そして怪しいだけの人物を、黒と言いきる必要もないだろう?」

 彼らの間でパチリと焚き火が弾けた。

「心配しなくていい。俺には確かに目的はあるし、それを言うつもりはまだ無いが、とりあえず今はモニカを護衛して君たちを鍛える。そんな気楽な旅なのは嘘じゃない。

 割り切るのも大事だ」

「分かりました。とりあえずそれで納得していきます」

 トーマスがそう締めくくり、話が終わる。後は静かな夜が続いていくだけだった。

(ポドールイ。レオニード伯爵、か。隠し通せればいいんだが)

 詩人の胸中を除いて。

 

 

 翌朝、やや早い時間に詩人に起こされた一行。寝ぼけ眼をこすりながらエレンが言う。

「…まだ休んでいていい時間じゃないの?」

「早朝訓練さ。旅を遅らせることができない以上、訓練は早朝と夕方以外にやる時間がないからな」

 そう言われては反論もできない。ノロノロとした仕草でそれぞれが体を動かす準備を始める。

 その慣れていない動作を仕方ないと詩人は苦笑して見ていた。今日はまだ一日目、徐々に慣らしていけばいいと。

「朝食当番はトーマスとサラだったな。君たちは軽く流すだけにしよう。トーマスは槍の突きと払いの型の練習、サラは矢を番えないで弓を引こう。

 トーマスは一回一回、より鋭くしていくつもりで。サラはまず力が足りないから、強い矢が撃てるように強く溜めるところから始めよう」

「分かった」

「はい。…あの、そんな基本的な事でいいんですか?」

「難しい事は時間がある時にゆっくりとするから。適当なところで切り上げて朝食の準備をよろしく」

 さてと、と。詩人は残りの3人をみる。

 ユリアンは剣を持ち、エレンは斧を構え、モニカは小剣を携えている。真剣でいいと、詩人自身が言ったのだ。

「とりあえず…エレンは斧は一回置こうか」

「え」

「斧を使うのもいいけど、君はとりあえず体術から鍛えた方がいいと思う。斧もだけど、体術にも才能あるよ。

 ああ、ユリアンもモニカ姫も、武器を使いながらも体術を織り交ぜることを忘れずに。キックとか合間に繰り出せるといい。

 さあ、それじゃあ――」

 

 乱取りをしようか。

 

 ユリアンの剣が、エレンの拳が、モニカの小剣が空を切る。

 3人がかりの攻めを、詩人はまず一切受けることなく、全て回避しながら様子を探る。

「ユリアンは剣を振り切ってからが遅い! 一撃が重すぎて次に続かない。一撃の重さを変えずに、体のバランスで次の動作までを短くしろ。

 モニカ姫は逆に一撃が軽すぎる! もっと相手をひるませるように、鋭い一撃を心がけて。

 エレンは利き手以外もキチンと使え! 体術は五体全てを武器にするところから始まる。まずは体全部を使いこなすところから始めろ」

 そしてその中で息一つ切らさずにダメ出しをする詩人。外から見ていたトーマスとサラは思う。やっぱりコイツは化物だ。

「サラ! トーマス! 気を散らすな!」

「はいっ!」

「申し訳ない」

 しかもしっかり外にまで意識を配っているし。

 詩人はやがて大きく回避して距離を取ると、自分の得物である棍棒を取り出した。

 それがガルダウイングの頭を粉砕したと知っている一同は硬直するが、いくらなんでもそこまで見境ない訳がないだろうと苦笑する。

「手加減はするさ。

 ただ、今度はこちらからも攻撃するからな。防御も意識しないと…痛いぜ?」

「あの、あたしは素手なんだけど…」

「素手で受け流すのさ。受け止めるんじゃなくて、横から力を加えて逸らす。むしろこれは斧の方がやりにくいぞ。

 武器の固さで守るだけじゃ損傷が激しいし、何より強いモンスターだと武器ごと砕かれる恐れもある。これが出来ないと絶対に強くなれないからな」

 そう言いつつ、詩人は軽く棍棒を振り上げて下す。その合間に反対の手で横から棍棒を押すと、確かに正中から外れた場所に狙いは逸らされる。

 …これを、僅かな時間に幾度となく繰り返される攻撃全てにやれと言うらしい。思ったよりも遥かに大変な訓練に思わず面々の顔は引きつった。

「もちろん俺も攻撃を逸らすからな。攻撃が逸らされるとバランスが崩れるからそこも注意しろよ」

 そう言って先程よりも激しい訓練が始まる。

 結果として。痣になる程度に全身ボコボコにされた3人がいたとだけ明記しておこう。

 

 朝食が終わり、ポドールイへ向かう面々。

 陣形はワールウィンド。最前列にユリアンとトーマスを配置して、そのやや後方にいるエレンを補佐に回す。後列にいるモニカとサラは打ち漏らしや奇襲に備えた前面防御に特化した陣形である。ちなみに詩人は離れて待機し、致命的にまずい事が起こらない限りは手を出さない。

 詩人曰く。ここいらのモンスターはそれほど強い訳ではなく、冷静に対処すれば問題ないレベルらしい。

「い、いたたたたた…」

「ううう。体がきしみます…」

「大丈夫、無理すれば動ける程度にしておいたから」

「無理は、するんだな…」

 エレンとモニカが泣き言を言うと詩人がさらりと問題発言をし、ユリアンが嘆息する。トーマスとサラは明日は我が身かと思うと朝から既に憂鬱である。嫌がられる雑事である食事当番がこれほど切望される旅は、おそらくあまりない。

「戦いなんて無理と無茶と理不尽の連続さ。

 さ、モンスターのお出ましだ。大きな群れにはなってないな、これくらいなら普通にクリアできるだろう」

 詩人の言葉を皮切りに、血に飢えたモンスターが襲い掛かってきた。それらは大きなカエルであるラッパーや、獰猛に襲い掛かる牙蛇といった、確かにシノンでも対処したことがある弱いに分類されるモンスターたちだった。

 だがシノンの時とは明らかに違うとユリアンやエレンはすぐに気が付く。

「あれ?」

「こいつらなんか、弱くない?」

「そうか? 普通だと思うが」

 首をかしげる2人にトーマスは手ごたえは変わらないと返す。違いが分かるのはやはり詩人だ。

「2人はちゃんと練習通りにモンスターの攻撃を受け流せているからな。そうすると隙が作りやすくなるんだ。

 特にユリアンは剣での攻撃バランスが良くなってる。捌いた攻撃から反撃して連続攻撃する時間が僅かに短くなってるな。少しだが、そういった違いに体が気が付いているのさ」

 モンスターが弱いのではなく、ユリアンとエレンが強くなっているらしい。モンスターと戦った経験がないモニカは実感できないようだが、ほとんど初めての実戦にしてはしっかりと戦えている。

 早朝の僅かな時間で大きな進歩が感じられる。

 それに気を良くしたユリアンとエレンは絶好調でモンスターを倒していった。

 

 そして野営の準備に入る時間。

 夜の当番はユリアンとエレンで、残った3人は術も使う面々である。

「術は余り得意じゃないんだが…」

 そう前置きした上で詩人は講義を始める。

 術は最低一瞬以上は内面に集中しなくてならない為、隙が大きく前線では使いにくい。反面、集中できる後衛では便利な万能性がある。攻撃ができるのはもちろん、武器だけではどうしようもなりにくい補助や回復ができるのが大きい。

 術に必要とされる技能はいくつかある。刻々と戦況が変わる中で大切なのは幾多の術の中から最適なものを選べる判断力、瞬時に発動できる集中力、そして威力に直結する魔力などである。

 判断力は一朝一夕でどうにかなるものではなく、少しずつ伸ばしていくしかない。魔力はさらにどうしようもなくて先天的にほとんど決まり、ユリアンとエレンが術を使わないのはここに原因があるといってもいい。術の補助道具があったりはするし、熟練者になるほどに威力はあがるが、最初に才能が無ければどうしようもないのが術の特徴だ。

 故にここで練習するのは即座に発動できる集中力と、術のレパートリーを増やすこと。後、少しずつ威力を増やす為に小さな積み重ねをするくらいか。

 武術に比べて内容が薄いのは、やはり詩人が専門家ではないからだろう。それでも術をしっかりと使える者の少なさを考えれば十分に優秀な部類には入るのだろうが。

「俺は相性が悪くて地術は使えないんだ。代わりに天術には相性がよくて太陽と月の両方が使えるが…」

 術の常識を覆す発言にモニカが驚いた。

 前提として術には地術と天術の2種類がある。人間は地術四種の中から1つの適正、天術二種のうち1つの適正があるとされているが、詩人は地術には適性が全くない代わりに天術を両方使えるらしい。

 天術は詩人が言った通りの太陽と月があり、地術は朱鳥・白虎・蒼龍・玄武の4種がある。これらの適正は生まれながらに決められているとされ、無理に適正がない術を使うと威力が大幅に減じてしまう。

 ちなみに各々の適正は。トーマスは玄武・太陽。サラは白虎・月。モニカは朱鳥・月。以上となる。

 とりあえず詩人が使えない地術はおいておき、詩人が当番の時に各自で自主訓練することになった。教われるうちに天術の練習をしていく。

 

 

 

 こうして着実に強くなりながら一行はポドールイ、レオニード伯爵の下に向かっていった。

 目的地までは、もうすぐそこである。

 

 

 




 初期状態だとちょっとシノン組とモニカは弱めですよね。そういう訳で修業回。
 ついでに術の説明もちょっといれておきました。

 …やっぱり色々と忘れています。攻略を見ながら書いていますが。やはり一度ロマサガ3を回ってくるか。リマスター版、まだかなぁ。


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