詩人の詩   作:117

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043話

 

 

「作戦をたてるぜ」

 お茶を飲みながら、確認するように話しかけるウォード。場にはユリアン、モニカ、サラ、少年がいる。キドラントで最も大きな家、その一室。元がつくが、キドラントの町長が住んでいたその場所は、町を占領したウォード隊の本拠地になっていた。

「まずは敵の話だ。

 数千ものネズミの群れが、そのボスであるアルジャーノンに操られて襲い掛かってくる。人間並みに統率がとれたネズミの群れは、単一の強大なモンスターよりも脅威の度合いは高いかも知れねぇ。

 勝ちの目はたった一つ、親分である青い瞳のネズミであるアルジャーノンを退治すること。アルジャーノンをおびき寄せる薬である、ねこいらずは用意されている」

 ウォードは言葉を区切り、全員を見渡す。誰ともなく頷き、口を挟む者はいない。ここまではいいだろう。

「次はどこで戦うか、だ」

 それには幾つか選択肢があり、口に出して共通認識にしていく。

 まずは生贄の洞窟の奥に入り込み、ネズミの本拠地を攻撃するという案。また、洞窟の入り口で奥から出てくる群れを待ち構えるという方法もある。キドラントで万全の態勢を敷いて迎え撃つ考えも浮かぶだろう。

 その中で真っ先に却下される案は決まっていた。それを口にしたのは少年だった。

「洞窟に入り込む選択肢はないね」

「そうですわね。暗い洞窟の中、地の利もないですし、ネズミが隠れられる場所なんていくらでもありそうですわ。ねこいらずを持った人を守るのも難しそう」

「そういう意味ではキドラントで待つのも無しかしら」

「だな。ネズミの群れがどこから来るか分からない、下手したら周囲を包囲される危険性もある。そもそも、必ずキドラントが餌場に選ばれる訳でもないし、誰が襲われるかも分からない。準備した場所に誘導するのも難しい」

 出た案や考えはあっという間に潰えていく。残ったのはたった一つ。

「洞窟の出入り口で待ち構える、これが無難だろうな」

「はい。それに、あそこには出入り口を塞ぐ大岩がある。撤退せざるを得ない時に出入り口を塞げば逃げ出せる可能性はずっと高くなる」

「私のファイアウォールならば、少しだけ時間を稼ぐこともできますわ」

 ウォードの言葉にユリアンが付け足し、モニカが更なる利点をあげる。

 今回のキドラント攻略戦でもあるまいし、命を捨ててまで戦いきらなければならない理由もない。負けそうになった時に逃げられる可能性を高めるならば、確かに出入り口を戦いの場に選ぶのは自然と思えた。

 これで敵の姿と戦場の選定が終わった。次は味方の準備と確認だ。

「まずはねこいらずだが……誰が持つ?」

「モニカとサラはないでしょう」

 アルジャーノンをおびき寄せるねこいらず、これを持つ事は大きなリスクを伴う。アルジャーノンの標的になるため、ネズミが殺到するだろう事。そしてアルジャーノン自身も近寄る可能性も低くない事から、狙って小さなネズミを仕留められる技量も必要になる。これらをモニカやサラが満たしているとは言い難い。

 残るはウォードとユリアン、そして少年。消去法で言えば少年が外される。まだ幼いといっていい彼は、体格で二人に劣るのだ。集中攻撃を喰らう可能性を考えるのであれば体力はあった方がいい。その意味でユリアンとウォードのどちらかを選ぶとなれば――

「俺、か」

 大男であるウォードが最適解になる。

 異論なく、サラが預かっていたねこいらずはウォードへと手渡された。

「次はどう戦うかだな」

「小さなネズミがひっきりなしに襲ってくるのでしょう? 私やモニカさんは武器よりも術を使った方がいいかも知れないわ」

 サラはそう口にする。あまり腕力がない彼女たちの主な武器は弓や小剣であり、どちらかと言えば線や点での攻撃がメインとなる。面を攻撃する方が有効なネズミの群れが相手では、むしろ武器を使うよりも踏み潰した方が効率がいいかも知れない。

 もちろん踏みつけられた程度でこの災害が対処できるならば、ここまで被害は拡大していない。あっという間にネズミに群がられて足から順番に齧られて骨だけになってしまう。だとすればそれなり以上に有効なのはサラの言った通りに術になる。なるのだが、術力も無限にある訳でもない。使いどころは選ばなければならないだろう。

「僕たちも油断はできないよね」

「ああ、剣や大剣でも必ず隙はできる。小さなそこからネズミに入り込まれ、多少齧られるくらいの覚悟はしなくちゃいけないな」

 少年が確かめるように言い、ユリアンがやや固い表情で頷いた。

 体を削るようにネズミに齧られる覚悟を決めなくてはならないのだから、無理のない話ではあるのだが。

「陣形だが、俺が最奥になる形がいいだろうな。パワーレイズの変形型がいいだろう」

 ウォードが話を次に進める。

 とんとんとんとん。指でテーブルを叩き、おおよその陣形を表示する。前衛二人が並んで立ち、その真後ろに術師二人が中衛に位置する。最後尾にねこいらずを持ったウォードが陣取るのだ。

 ウォードの前に正方形の陣形が描かれることになる。そしてユリアンの後ろにモニカが、少年の後ろにサラが立つ事になった。

 

 おおよその作戦が決まる。

 不確定な事は多い。実際に統率されたネズミの群れと戦った経験などあるはずない事から始まり、どれくらいの時間でねこいらずにアルジャーノンが誘き寄せられるのかも分からない。先の見えないマラソンバトルになるだろう。

 分かっているだけでこれなのだ。戦いである以上、不確定要素は多分に湧いて出てくると覚悟した方がいいだろう。

 時間は夕方。決戦は翌朝。緊張をお茶を飲むことで鎮め、五人は明日の戦いに備えるのだった。

 

 

 そして日が昇る。

 場所は生贄の洞窟の出入り口。ぽっかりと開いたその穴は、地獄への入り口にも見えた。

 そしてそれはある意味間違いではない。キドラントの策略に嵌められた人々は、この中でネズミに生きたまま齧られ喰われるという非業の死を遂げたのだ。もしかしなくとも怨霊系のモンスターが発生している可能性はある。

 だが、中に入るつもりも予定もない一行には関係ない話でもある。予定した陣形で武器を構え神経を尖らせ、ネズミの群れが出てくるのを待つ。

 

 ちゅう

 

 そしてその時はきた。暗い穴の奥から微かに聞こえた災厄(ネズミ)の鳴き声。

 僅かの間にそれは重なり、響き、実像よりも先にその脅威を伝えてくる。やがて見える赤い瞳。瞳、瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳。

「こりゃあ……想像以上だな」

「……」

 呆れた声を出すウォードに、黙って己が武器である東方不敗を握りしめる少年。サラやモニカは、かつて味わった恐怖を全力で押し殺す。ユリアンはただ決意を込めた視線をその穴に向ける。

 ウォードがすっぽりと入り、まだ余裕が多くあるその洞窟の入り口が、ネズミの瞳で真っ赤に染まっていた。聞くと見るとは大違いとは言うが、数百ではきかない数のネズミとなるとここまでの威圧感を持つらしい。なるほど、これは確かに獣害ではなく災害だ。怪物と称されるのも頷ける。

 だが、それを想定していた彼らに驚きはあれど畏れはない。ウォードは黙ってねこいらずの蓋を開け、中身を僅かに振りまく。

 人間には無臭だった。実際、前を見ていた四人にはウォードが何をしたのか把握した者はいない。だがしかし、ネズミの群れの奥で潜んでいた狡猾な怪物の脳内には圧倒的な快楽が走った。

 ここで理性がなくなって突撃してくるようなら話は早かっただろう。赤い瞳の中にある、青い瞳のネズミを潰せばそれで終わり。だがしかし、アルジャーノンは余りに知性的だった。その人間を超えるという知性を持ってして、あの快楽を強奪する為の最適解を導き出す。

 ちゅうという小さな小さな、そして強い鳴き声が戦闘開始の合図となった。一気呵成にネズミの群れが最奥にいるウォードを目指して突撃する。

「くっ!」

「これ、じゃあ!」

 射程圏内に入ったネズミを潰すべく剣や大剣を振るう前衛のユリアンや少年だが、効果はほぼほぼないと言っていいだろう。

 可能な限り腰を落とし、地面すれすれの位置でなぎ払いをするユリアン。大剣を振りかぶり、ネズミというか地面を対象としたスマッシュを叩きつける少年。ユリアンの剣はネズミを何十と切り飛ばし、少年の一撃は地面に穴をあけつつ弾けた破片が副次的にネズミを潰す。

 だが、その程度。彼らが構え直すよりも早く次のネズミが侵入してくるのだ、対処できているとは言えない。そして群れの奥から響く鳴き声でネズミの動きがまた変わる。邪魔な前にいる人間の排除命令だったであろうそれによって、前衛にいる彼らにもネズミが襲い掛かってくる。

「クラック!」

「ソウルフリーズ!」

 それをフォローするのは術師であるサラやモニカの役目だ。実際、ネズミの群れに対して術は殊の外相性がよかった。

 ユリアンや少年の前に大地の亀裂を生みだし、そこからの衝撃でネズミを仕留める。前に行けなくなったネズミたちを狙った()てつく夜の息吹が体温を一瞬で奪いつくし、凍死させた。人間相手では威嚇や足止め程度の効果しか見込めないだろう未熟な術でも、相手がネズミとなれば命を奪うのは容易かった。

 そしてその間にユリアンや少年は自身たちの足元にいた僅かなネズミを踏み潰していく。最初の波は防いだといっていいだろう。だが、息をつく暇もなく群れの奥からちゅうという鳴き声が響き、ネズミたちの動きが変わる。

 あろうことか、最前列にいたネズミの体を踏みつけて跳躍し、襲い掛かってくるネズミたち。数匹ではない、数十が一斉に飛び掛かってくるのだ。

「嘘だろっ!?」

「これネズミ!?」

 それが続けざまにジャンプしてくるのである。思わずユリアンや少年が叫んでしまうのも無理はない。動きはもはやネズミのそれではなく、ネズミとはなんなのかを考えたくなる光景だ。

 だがそれに動揺して迎撃をしない訳はない。反射的に腕が動き、振るわれた武器によって宙に飛んだネズミたちは撃墜されていく。これで済めば第二派も防いだと言えただろう。

「更に上だ、気を付けろ!」

 ウォードが声を張り上げる。地面ばかりに視線がいっていたが、ふと見上げれば、洞窟の外壁にへばりついて昇り上がっていくネズミの群れ。何が起きるのかは想像するまでもない。

 数メートル、壁を駆けあがったネズミたちは一斉に跳躍して空から特攻を仕掛けてくる。いくら体重の小さいネズミとはいえ、あの高さから落ちたら命はないだろう。その勢いを利用して、死角に近い頭上からその前歯を敵に突き立て削るその攻撃。

「う、うわぁ!」

 少年は叫びながら、頭上いっぱいに広がるネズミという悪夢のような光景を振り払う。幸い空を飛ぶネズミは単層だったようで、東方不敗で吹き飛ばした後は青い空が広がっていた。

 対して武器の大きさが違ったユリアンはネズミを払いきれない。多少の傷は負いつつも、できる限り被害を抑える。

「今度は下だ!」

 再び飛ぶ、ウォードの声。クラックの効果がなくなった地面を覆いつくすように突進してくるネズミの群れ。

「ク、クラック!」

「ソウルフリーズ!」

 サラとモニカが再び術を唱え、地面を引き裂きネズミを凍らせる。だが、先程よりも深く踏み込まれてしまっている。このまま同じことが続けば、やがて押し切られてしまうだろう。

「少し下がれ!」

 ウォードの命令で数歩後ずさる。こうして向こうが距離を詰めた分だけ下がれば、それは確かに作戦として有効だろう。ネズミとて、数えきれない程いるのは確かだろうが、無限にいる訳でもない。

 しかしアルジャーノンがウォードの作戦に付き合う事もない。ちゅうとまた鳴いて新しい指示を出すと、ネズミの多くが左右に分かれてクラックを大きく迂回する行動をとった。更にその先には木が存在し、空中からの飛び掛かりの苛烈さは増す事は明らか。

 一方で、正面のネズミの数が減った事実もある。戦いが始まってまだほとんど時間が経っていないが、既に短期決戦にしか勝機は残されていない。そう判断したウォードは己の大剣を地面に突き立てた。

「地走り!」

 そこから放たれた衝撃波は洞窟の出入り口に向かい、直線状にいたネズミ共を吹き飛ばす。そして自分はその大剣の上に足をかけながら、大声で指示を出す。

「モニカは洞窟の奥に壁を張れ! 奴は手前に来ている、逃げ場をなくせ!

 残りはできる限り数を減らせ、俺がまとめて潰す!」

 躊躇いが許される余裕も時間もない。モニカたちは即座に指示に従う。

「ファイアウォール!」

 可能な限り洞窟の奥に炎の壁を出現させるモニカ。それと同時、どこか余裕のないネズミの声が響いて群れの統率が乱れた。

 狡猾な性格とは、臆病の裏返しだ。今まではいざという時には洞窟の奥に逃げればいいと考えていたであろうアルジャーノンだが、その退路が唐突に塞がれた。思わず狼狽の声が漏れてしまったのであろうが、その最初で最後の隙を見逃す手はない。

「地走り!」

「クラック!」

 ウォードと同じ技と地面を裂く白虎の術で、縦に群れを削っていく。さらに切羽詰まったネズミの声が響き、乱れた統率から混乱した群れへと変化していく。死の危険を感じた事がないであろう指揮官の脆さが表に出た瞬間だった。

「うぉぉぉぉぉー!!」

 ユリアンには広範囲を攻撃する技がない。

 それを理解した上で、軍として機能しなくなったネズミの群れを蹂躙する最適な方法として選んだのが突進だった。洞窟の入り口、更にその奥に見える燃え盛る炎の壁に向かって走り、その体重にてネズミを潰していく。

 本来なら地面についた足を齧られ、あっという間に肉が削げるだろうが。その指示を出すべき指揮官は死の恐怖に竦んでしまっている。ユリアンは被害なくブチブチと害獣どもを踏み潰していった。

 その間にウォードは大剣の上に立ち、飛び上がる。その手には棍棒。全体重と跳躍して稼いだ位置エネルギー、それらを全て地面に叩きつけ、衝撃をぶち上げる。

「大震撃!!」

「うわっ!」

「きゃ!」

「いやっ!」

 その無差別な衝撃波は仲間にすら牙を剥いた。と、いってもそれなり以上に鍛えた彼らである。少しは体に響いたとはいえ、大きなダメージにはならない。

 しかし小さなネズミにはそうはいかない。その衝撃で絶命するものもいるし、揺れで上空に飛ばされる奴もいる。

 ユリアンが見つけた、青い瞳のネズミもそうだった。洞窟の奥、炎の壁の手前にいたそいつは。ジタバタと足を動かして、動けぬ空中で無駄にあがいている。

 その青い瞳とユリアンの視線が交錯する。そこにユリアンは明確な意志を感じ取った。知性と恐怖が伝わってきて、まるで人間を相手にしているようだと場違いな感想すら出てしまう。

 中空に浮かぶ、無抵抗なネズミ。それに向かってユリアンは剣を振るう。それが到達する僅かな時間の間に、青い瞳のネズミはきぃぃと悲鳴のような声をあげた。

 

 直後、ネズミの両断死体が作られる。

 一瞬だけ空いた時間の空白の後、小さなネズミたちは四方八方に逃げ散らかっていくのだった。

 戦いが開始してから終わりまで、一分かかったか否か。余りに濃密な時間が終了し、全員が全員疲れた息を吐くのだった。

 

 

 

 戦った実感はあれど、勝った実感のない戦闘が終わり、一行はキドラントへと向かう。

 戦利品はなく、あったのは小さなネズミの死体だけ。これで勝鬨を上げろと言われても気が乗らないのは仕方ないだろう。だがそれでも彼らは数多の犠牲を出したキドラントの怪物を確かに仕留めたのだ。

「本当かなぁ?」

 戦ったはずの少年が首を捻りながら出す言葉に、サラとモニカは苦笑いで応えた。確かに実感はない。思い返せば、倒したのはネズミのみである。あるいはこの実感の無さも生物兵器としては優秀なのかも知れなかった。相手にダメージは与えつつ、負けても士気を回復させないとは厄介が過ぎるだろう。もしもこれを量産して完全なる支配下におけたのならば、新しい種類の脅威として確立したかも知れなかった。

 いまいち釈然としない思いを抱えたまま、帰り道を歩く一行。すぐに見えたその町の、緊張感ある見回りが近寄ってくる。

「ボス、どうでしたか?」

「ああ。ネズ公は始末した」

「そうですか! お疲れ様でした、これでまた戦果が一つ増えましたね!」

 上がらぬテンションのウォードであり、むしろ見回りの方が喜びは大きいかも知れない。なんとはなしに感じてしまう違和感である。

 それを抱えたまま町を歩き、怪物を倒した事を喧伝して回る。そこでもやはり周囲の喜びの方が大きく、倒した面々には戸惑いが走ってしまう。

 やがて辿り着いた町で一番大きな家。そこの一室に進み、とりあえずはお茶を用意してもらう。昼にはまだ早い時間、動いてすいた小腹は茶菓子で抑える事にした。

「まあ、なんだ。予定通り怪物は倒した訳だが……」

 ウォードの言葉に曖昧な表情を浮かべる一行。ごほんと咳払いをしてその空気を断ち切る。

「これからの話をしよう。ウォード隊はこのままフルブライト商会の援軍を待ち、東へ進撃する。どこまで攻めるのか、どうやって話を収めるかは、上が考えるこった。

 つまりここから先は戦争、お前さんたちが付き合う義理もない」

「私たちはトーマスカンパニーの一員ですが?」

「まあ、そういう理由で参加するなら止めはしねぇよ。だが、あんた達の仕事は一段落ついたんじゃないか? こっから先は大人に任せておけ。どうあっても気持ちのいい結末にはならんからな」

 労わりの目でまだ若い彼らを見るウォード。ユリアンで20歳、モニカは19でサラは16。少年の歳は分からないがサラと同じか少し幼いかくらいだろう。別にやることがあるのならば、汚い世界をわざわざ見る事もないだろうという配慮だった。

 その決定権はサラにある。少しだけ考えた彼女だが、人と人との戦いに巻き込まれる危険を考えてそれを避ける決意を固めた。

「分かりました、ご厚意に甘えさせてもらいますね。私たちはピドナへ戻り、トーマスに詳しい話をしたいと思います」

「おう、そうしろ。ここでお別れだな」

 カラっとした笑いをあげるウォードだが、すぐに真剣な顔になる。

「できるなら、ツヴァイクを通って帰ってくれねぇか? その途中にある村や町の様子や地形なんかを手紙で送って貰えると助かる。

 幸い、流れ者の封蝋印は余ってる。適当なやつを見繕うから、それを使ってくれれば足もつかん」

「ダメです」

 決定権を持つサラが声を出す前に、断りの言葉を出したのはユリアンだった。

「筆跡から足がつく事もある。サラやモニカは巻き込めない。

 やるなら、俺が個人的に請け負います」

「ユリアン、でもまたあなただけが……」

「いいんだ。ウォードさんには借りがある。それを少しでも返せるなら安いものだろ。

 ただし、全員が危ない橋を渡る必要はないって話さ」

 言い切るユリアンに少しだけ迷ったサラだったが、ウォードに大変世話になったのは事実である。

 読んだ手紙は燃やす事を条件にその話を受けた。

「出発はいつだ?」

「そうですね。怪物退治に時間はかかりませんでしたし、今日すぐにでも」

「分かった。じゃあな」

 別れの挨拶は軽い。そのまま礼をして部屋を辞する四人。

 家を出て、そのままキドラントを去ろうかと足を進めていた彼らだが、出口に居たウォード隊の一人に声をかけられた。

「あ、すいません。ユリアンさんに伝言を預かっています」

「俺に?」

「はい、ニーナさんから。旅に出る前に家に寄って欲しいそうです」

 それを聞いたユリアンは首を傾げるが、まあ別れの挨拶の一つでもして悪い間柄でもない。命を助けあった仲なのだ。

 軽く目配せをして仲間の様子を伺うが、別段反対意見は出なかった。町を出る前にニーナの家へと寄っていく。

 少し迷いながらも町を見回っていたウォード隊員に道を聞き、ニーナの家へと辿り着く。ノックをして少し待つと、旅支度を整えたニーナが出てきた。

「ユリアンさん。怪物は無事に退治されたのですか?」

「ああ、問題ない。これ以上、怪物の被害に悩ませる事はないよ。少し遅かったかも知れないが」

「……仕方ありません。どのような理由であれ、キドラントが選んだ道なのですから」

 少しだけ間が空く。その間にユリアンはニーナの格好に視線を走らせた。

「旅に出るのか?」

「はい。私はキドラントに居られませんし、実際に居ない方がいいと助言をいただきました」

「当てはあるのか?」

「ポールを探そうかと思うのです」

「ポール……。ニーナの恋人、だったか」

「はい。ですが、行く当ても心当たりもありません。確か、ユリアンさんはピドナの会社で働いていたのですよね?

 厚かましいお願いですが、お世話になる事はできないでしょうか?」

 申し訳なさそうなニーナに言葉がつまるユリアン。その決定権は彼にはないのだ。

 ちらと後ろを、決定権を持つ少女を見るユリアン。その視線を受けて前に出るのは、決定権を持つ少女サラ。

「ニーナさん、初めましてですね。私はトーマスカンパニーのサラと申します」

「ニーナです。あの、サラさんはどんなお仕事を?」

「社長の補佐や、その他の事を少々」

 その言葉にニーナは目を丸くした。自分よりも幼そうなこの少女は、一つの会社で社長の補佐をしているのだから驚きもある。

 サラはそれに関わらず、淡々と言葉を紡ぐ。

「今回、ユリアンからニーナさんに助けられた話は聞きました。トーマスカンパニーとしてもお礼をできないのは心苦しいと思っていたのです」

「では」

「はい、仕事の斡旋くらいならできるかと思います」

 遠回しに承諾の返事をしたサラに、ニーナの顔がほころぶ。

 そしてどちらともなしに手を出し合い、握手をする。

「私たちはこれからすぐにツヴァイクに向かって旅に出ます。ニーナさんの準備は大丈夫ですか?」

「はい、旅の準備はできています」

「仲良くしましょうね」

 微笑み合う少女二人。

 キドラントからツヴァイクへと向かう五人の旅人の姿が見えたのは、それからすぐの事だった。

 

 

 




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