詩人の詩   作:117

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005話

 

 

 かまいたち。

 精霊族の中では最も弱いとされているが、弱いとされてるモンスターの中では上位に位置する。

 その理由はいくつかあり、低級とはいえ術を使える点と高めの攻撃力と体力がその理由にあげられる。要するに力が強い上にタフなのだ。

 もしもシノンの村の面々が旅に出たばかりだったら、きっと苦戦以上の辛い戦いを強いられただろう。

 

「ウインドダートが来ます!」

「任せて下さい! …ストーンバレット!」

 術の予兆を感じ取ったモニカの言葉に素早く反応したのはサラ。術で編まれた風の刃に、術で創られた岩の塊をぶつけて相殺する。

 起死回生を狙って放った術は無効化され、前衛で戦っていたユリアンとエレンは更に有利になる。

 前衛は大丈夫だろうと判断したトーマスはかまいたちから大きく距離をとり、素早く術を唱える。

「スコール!」

 突発的に降る雨は、敵だけを識別して強く打ち据える。そこにユリアンとエレンが叩きつける剣と斧とが命中し。

 さしたる苦労なくと言っていい範囲でかまいたちは打倒された。

「ふー」

 快勝の後の充足感に、エレンは大きく息を吐く。そして行く先に見える、昼の時間なのに太陽がない空を見上げた。

 レオニード伯爵が住む土地、ポドールイ。目的地にして、今まで以上に注意が必要な、吸血鬼の城はもう間近にせまっていた。

 

 そのままなんの問題もなくポドールイに到着したが、ここで少しだけ意見の対立がおきる。

 向かう先は吸血鬼の城、ミカエルから貰った資金もあることだし、ある程度の準備は必要だというトーマスとそれに賛同するユリアンとエレン。対し、客として向かう以上、そのような心配は無用だという詩人。

「そもそもだな、力を借りに行くというのにそんな相手を信用しないのはまずいだろう?」

「だが相手は吸血鬼だぞ。万が一の準備をしておくのはむしろ当然の用心じゃないか?」

「トムに賛成だね。無駄に終わればそれでいい話じゃないか」

 場所は酒場。ポドールイはその場所故、雪に覆われたとても寒い土地である。寒空の下で多少の時間言い争っていたが、これまでの旅の疲れでモニカやサラの顔色が悪くなってきたこともあり、とりあえずポドールイの酒場へと入り込んだ。

 酒場と言ってもこれから向かう場所を考え、酒を注文するものはなく、思い思いの軽食をつまむだけだったが。

「…まあ、そこまで言うなら別にやるなとは言わないが」

 やや不服そうに言う詩人。絶対にするなという訳ではなく、無駄になるからやめておけという忠告のつもりだったが、そこまで言うなら強く反対するほどの事でもない。

 手元にあるジャーマンポテトをつまらそうに口に運びながら、折れる詩人。

 それに満足したように頷いたトーマスは、武器の新調や消耗品の補充などやることを列挙し、割り振っていく。

「そんなに時間はかからないと思うから、詩人はここで待っていてくれ。集合場所もここにしよう」

「構わない。俺はここでゆっくりさせてもらう」

「じゃあ、行こう」

 促して席を離れる5人。本当なら、モニカを付き合わせるほどではない雑事だが、トーマスは詩人とモニカを二人きりにさせたくなかったのだ。

 だから仲の良くなっているサラと一緒に簡単な買い物をお願いすることにした。幸いというか、モニカも特別扱いされるわけではなく、仲間として遠慮なく接されることを喜んでいるようだったので、問題ないだろう。

 そんなトーマスの心配を手に取るように理解しながら、自分にはなんの不都合もないと。詩人は手をひらひら振りながら、やる気なく彼らを見送っていた。

 

 

 レオニード。600年前に生きた魔王の顔を知った上で現存する吸血鬼であり、聖王によって伯爵と名乗ることが許された貴族でもある。

 そもそも、今の貴族というのは300年前に聖王に協力した者に与えられた称号であり、それをその血脈が代々受け継いでいるものが大半だ。聖王の死後の長い時間の間に廃れた血脈や、新興で貴族を名乗る者がいない訳ではないのだが、レオニード伯爵は聖王によって認められた由緒ある貴族と言えるだろう。

 その一方で力ある吸血鬼であるというのも事実であり、伯爵はモンスターを多く従え、特にアンデッドに類するモンスター達は一つの国を滅ぼしかねないとさえ噂される。

 その居城の正式名称は人々の口にあがらない。伯爵が住まう城である為に、安直にレオニード城と呼ばれるのみである。

 そんなレオニード城の前に6人の男女がいた。その禍々しい城を見上げていた。城のどこからか、亡者のうめき声が聞こえる。悪魔の笑い声が聞こえる。妖精の嘲笑が聞こえる。

 間違いない。この城は世界屈指の危険地帯だと、そんなに鈍い者でも理解してしまうおぞましさがそこにはあった。

「……」

 誰ともなしに、その城門を開ける事を躊躇する。その門が開け放れた途端に中にいる災厄どもが雪崩をうって飛び出してくるような気がして。

 誰も動けない。呑まれてしまって動けない。

 

 ゴンゴンゴン

 

 そんな空気を無視するのが詩人である。他とは違い、全くためらう事なく城門を力強くノックして中にいる伯爵に来訪の意志を告げた。

「ちょ、あんた!」

「だから心配し過ぎだって。仮にも聖王に認められた伯爵様だよ。敵対するならともかく、ロアーヌ候姫君のささやかな頼みを無下にする事はない」

 エレンが思わず抗議して、他の非難の目が詩人に集まるが、やはり彼はそれを気にした風でもない。

 詩人によってノックされた城門は、重々しい音を立てながら来訪者を招き入れる様に大きく開かれた。

「ほら。いらっしゃいませ、だってさ」

「…わたくしは地獄の境を越える気分ですが」

 モニカがぽつりと弱気を口にするが、しかし他に選択肢がないのも事実。ミカエルがレオニード伯を頼れと言った以上、この吸血鬼伯爵に頼る他はない。

 詩人のその力量と、楽観的な意見をか細い希望とし、面々は恐る恐る城門をくぐってその城の中に入っていった。

 そして入って数十メートルもいかないうちに、いきなり玉座があった。そこに座るのは見間違えるまでもない、吸血鬼伯爵、レオニード。生者にあるまじき青白いその肌は彼が吸血鬼であることを示していて、そしてその威圧は王者の威厳が感じられる。間違いなく、彼は数多のモンスターを支配する王なのだろう。

 強く警戒する一行に穏やかに笑いかける伯爵。それは来訪者を歓待する笑みか、それとも敵にならずと警戒の必要がない事を示す嘲笑か。判別は、できない。

「ようこそモニカ姫。噂には聞いていたが、実際に拝見すると噂などあてにならないということがよく分かる。貴女は噂以上に美しい。祖先であるヒルダ嬢よりも、あるいは美しいかも知れぬ」

「ありがとうございます、レオニード伯爵。実はこの度、伯爵の下を訪れたのは他でもありません」

「ロアーヌ候ミカエルがゴドウィン男爵の反乱に立ち向かい、急所である貴女を私に預けにきた。そういった訳だろう」

 あまりに正確にこちらの事情を理解していた伯爵に、思わず一同の言葉がつまる。

 そんな彼らにレオニード伯爵は隠すまでもないと種明かしをした。

「なに、永く城にこもっていると噂話を集める以外の娯楽がなかなかなくてね。世界中の情報を集めて無聊を慰めているのだよ」

 そう言って彼の近くにいた鳥型や蝙蝠型のモンスターに目を向ける。おそらく彼らがレオニード伯爵の目となり耳となり、世界中が情報が集まっているのだろう。

「最新の情報だが、ミカエル候がゴドウィン男爵の先陣を撃破したという情報が手に入った、快勝だったそうだ。

 ミカエル候がゴドウィン男爵の反乱を鎮めるのも時間の問題だろう。吉報が届く間は客室でゆっくりとされるのがよいでしょう。

 ただ、一つだけ注意していただきたいが、ここは吸血鬼の城。奥には魑魅魍魎が跋扈している。散歩をおすすめすることはあまりできない」

 そこで話を区切り、レオニード伯爵の視線が一人の男に注がれた。

「堅苦しい話はここまでだ。確か、名前は伏せているのだったか、詩人よ」

「ああ。人のいる前で名前を呼ばない配慮は痛み入る」

「よい。お前と私の仲だ。そこまでかしこまる必要もあるまい」

 先程より明らかに柔らかい口調で話し始めるレオニード伯爵と詩人に、一同は思わず目を見開いた。

「あんた、レオニード伯と知り合いだったのかい!?」

「そうじゃないと言った記憶はないぞ。

 確か15年前だったか。ちょっと探したいことがあってな。広く情報を集めているレオニードに助けを求めたんだ」

「結局、力になれなかったがな。それで、見つかったか?」

「…それが、まだ」

「私でも見つけられなかったものだ。焦らずに探せばいい」

 そこでいったん友好の確認は終わったようだ。レオニードの表情が王のそれに戻る。

「ひとまずはここまでにしておこう。

 時刻はもう遅い、客室に案内しよう。後で軽食を運ばせるから、ゆっくりと休んでくれたまえ」

 レオニード伯爵がそう言うと、彼らの近くに妖精の使い魔が現れて、ゆっくりと別の場所に移動し始める。どうやら客間まで案内してくれるようだ。

 どうしたらいいのか。思わず顔を見合わせる一同だが、なんのためらいもなくそれについていく詩人に従うように、玉座の間から移動を始める一行だった。

 

 距離はそれほどでもない。ものの数分もしないうちに客間へと到着する。

 だがそこで使い魔の妖精は1つと5つに分裂した。一人部屋とその他に別れろという意味だろう。

「わたくしはこちらのようですね。では皆さん、お休みなさい」

 身分的なことから気を使ったのか、それとも他の意図があるのか。モニカが一人部屋のようだ。残りの面々は固まって移動を開始する。

 部屋につき、妖精の使い魔が用意した軽食を口にして、食後のお茶を飲みながら集まった5人は話をする。

「しかし詩人さん。あなた、レオニード伯爵と面識があったのですね」

 今日一番の驚きだろう。サラがそんな話題を口にする。

「だから大丈夫だと言っていたつもりなんだが」

「でも、不安になる気持ちも分かるだろう?」

「まあ、な」

 個人的に面識があった詩人はともかく、その事実も人柄も何も知らない人間にとっては吸血鬼の城というならば警戒して当然だ。トーマスは間違いなく正しい。

 そんな中、湧き出た好奇心を口にしたのはエレンだ。

「しかしレオニード伯爵と知り合いなんて普通じゃないよね。あんた、本当に何者なのさ?」

「詩をうたいながら世界を回る詩人さ」

「さすがに信じられないんだけど」

「そういうことにしておけって事だよ。本当は目的がちゃんとあるが、余り口にすることじゃないしな。まあ、一緒に旅をする事があるなら知る機会もあるだろ」

「ふーん」

 気のない返事をして話を終わらせるエレン。飄々とした態度とは裏腹に、強い意志を感じる。少なくともこんな雑談で口を割る事はないだろう。

 と、そこでドアがこんこんとノックされた。

「誰だ!?」

 ユリアンが素早く剣をとり、入り口に向かって誰何(すいか)する。

 ここは吸血鬼の城、いきなりモンスターが襲ってきても不思議ではない。

 不思議ではないだろうが、訪れたのはモンスターではなかった。

「わたくしです、モニカです」

「モニカ様でしたか。失礼しました」

 声を聞いても油断しない。警戒心を持ったまま扉をあけると、そこにいたのは間違いなくモニカだった。そこでようやくユリアンは警戒をとく。

「モニカ様、いったいどうされました?」

「いえ、あの、どうしたという訳ではないのですが…」

 やや言いにくそうに、だが意を決して来訪した目的を口にする。

「あの、申し訳ないのですがわたくしもこちらで休ませていただけないでしょうか?」

 言われてようやく気が付いた。

 ここは吸血鬼の城。自分たちでさえ集まって、まだ恐怖心が薄れぬというのにそんな中、独りで居続けたら怖くて仕方ないだろう。

「承知しました。モニカ様はこの部屋でゆっくりとお休み下さい。

 私とユリアン、詩人で見張りをしますのでどうかご安心を」

 快諾され、ほっとした表情を浮かべるモニカ。

 

 3人の男が見張りにつき、3人の少女が体を休める。吸血鬼の城での最初の夜はそうやって過ぎ去っていった。

 

 

 




2日か3日に一度くらいのペースで更新出来たらいいなぁ…。
頑張ります。
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