この話で一区切り。次話より新章に入ります。
ファルスを発った一行。詩人は簡単な荷運びの仕事を見つけていた。それなりの量を運ぶとあって、馬を用意してその背に荷物をくくりつける。
こうなると詩人の自由度は大きく下がる。荷物を守る為にファルスからランスまでの数日間、馬を守り切らなくてはならない。これが成功しないと詩人は報酬が貰えないだけでなく、商人たちの間での評判も落ちる事になってしまう。まあ、フルブライト商会がバックについているからして評判が落ちる事を気にしなくていいのは事実であるし、そもそもこの男が馬一匹守り切れないはずもないのだが。
だがしかし、詩人のこの行動はもう一つの結論を導く事にもなる。すなわち、詩人は守りに徹して攻めてくるモンスターなどの外敵の対処は他の者に任せるという意味だ。
同行するのはモニカとユリアンの主従、ミューズとシャールの主従、そしてリンだ。その中で鍛える約束をしているシャール以外の人間に、戦う指示を出す。
「朝夕は訓練して、その実践を昼のモンスターでやる。これが最善だ」
「ポドールイでの旅と同じですわね」
「そういうこと」
その代わりといってはなんだが、詩人が連れた馬に荷物を乗せる事を許可する。本来、自分の荷物は持ったまま戦うのが旅の鉄則だが、特にミューズはまだそのレベルに達していないとの判断だ。荷物に気を取られて命を落とすなんてあったら笑い話にもならない。まあ、そうならないようにシャールが控えているし、詩人も弓を携えているのだが。
とにかく身軽な格好で実戦を学ぶ事になる。そしてファルスを出て程なく、モンスターが一行に襲い掛かるのだった。
林といえる程度に木々が生えている道を進む。
詩人とシャールが戦いに参加しないため、4人で戦闘を行わなくてはならないのだが、残りの人員はバランスが悪い。前衛はユリアンのみであり、弓を得意とするリンと小剣よりも術の方が秀でているモニカは後衛より。そしてミューズはまだ戦力に数えられない。ユリアン一人で三人の後衛を守り切るのは現実的な話ではなく、よってこの時点でデザートランスは選べない。
仕方なく選んだ陣形はスペルピラミッド。前衛に二人、後衛に一人をおく。その三角形の中心にいる人物の術力をあげる陣形だ。しかし、この陣形を選んだのは中心にモニカを置いて術力をあげるのを目的とした訳ではない。実際、中心に配置されたのはミューズである。
つまりこれは実戦経験のないミューズをどのようにフォローするかを考えた結果であった。前衛にユリアンをおき、彼は一人で独立して戦う。もう一方の前衛にモニカが配置され、その補佐をするのが中心に位置するミューズと後方で弓を構えるリンという訳だ。万が一の場合はユリアンもモニカの助けに入れる位置である。
ちなみに陣形を考えるのに、詩人とシャールは一切の口出しをしていない。そこもまた勉強だと言外に告げていた。そして彼らの作戦を聞いた上でフォローしやすい位置をとる。彼らが手を出す時は、4人の負けが確定した時のみだ。
そしてすぐにその陣形を試す機会が訪れた。林の中で歩いていたユリアンが剣を構え、ほとんど同時にリンが矢を引き抜いて弓に番える。僅かに遅れてモニカが小剣を抜き、その動きを見てからミューズが慌てて剣を抜いた。
ヌルリと木々の間から姿を見せたのは大型の不定形モンスターであるゼラチナスマター。動きが遅いという不定形モンスターの特徴を持っているが、このモンスターは電撃を吐く。その前面にある、不規則に並んだ牙に囲まれた大きな口から獲物を焼き痺れさせる一撃を放ち、動けなくなったところをゆっくりと捕食するのだ。
他にも二足歩行で剣を持つ爬虫類型モンスターであるドラコニアンや、腐った体を引きずりながら首切り鋏を持つ屍人といったモンスターも姿を現す。
「野盗が消えた弊害か……。人の領分が減っただけ、モンスターが活性化してやがるな」
そう呟く詩人。言うまでもなく野盗を潰したのはこの男であり、つまりこの辺りでモンスターが活性化している原因はこの他人事のように分析している詩人である。野盗が闊歩する事に比べてどちらが悪い状況かは議論の余地はあるだろうが、少なくとも彼には他人事で済ます権利はない。
しかしまあ、それを糾弾できる程に全てを理解できている人間が詩人以外にいないのも事実ではあるのだが。一般的な感覚としては、野盗がいなくなったと思ったらモンスターが強くなった。世の中はなかなか上手くいかないものだと思う程度であろう。
そしてそれ以上に、今モンスターに相対している者たちにとってはそんな事に思考を割く余地はない。考えるべきはいかにしてモンスターと戦うかのみである。
「ふっ!」
最初手をとったのはリン。最も遠い位置にいた彼女は、この場で一番警戒すべき敵に向かって矢を放った。それはゼラチナスマター、その電撃を脅威とみたのだ。襲ってきたモンスターの攻撃手段の中で、電撃のみが前衛を抜ける射程を有しているのである。リンはともかく、ミューズはその電撃を一撃でもくらえば終わる可能性が高かった。故にその大きな口を目掛けて矢を撃ちこむ。狙いを違わないその高威力の矢は鋭くその口内を抉り、ゼラチナスマターを悶絶させる。
その間にドラコニアンがモニカへと走りよる。ユリアンを手強いと見たか、それともただの偶然か。前脚から進化した手に握られた、幅のある剣をモニカへ向かって振り抜いた。
「セルフバーニング」
対するモニカはモンスターが見えた時から準備していた術にて迎撃する。小剣は受けるに弱く、打ち合いに向かない。よって回避が主となるのだが、それでも攻撃を喰らわないとは限らない。その為に彼女は特にこの術の発動速度を速める訓練をシャールから受けていた。重さのない炎を纏い、幻惑と反撃を両立させるこの術を。
モニカの周囲に炎が揺らめき、その輝きにて攻め手であるドラコニアンの目測が狂う。それでもと今までモニカがいた場所に剣が振るわれるが、当然モニカはそこにはいない。剣を回避したモニカはそのままドラコニアンの側面へと回り、持った小剣でその脇腹を突き刺し抉って炙った。これをくらったドラコニアンはたまったものではない。攻撃の為に突き出した前脚は炎に焼かれ、反撃でくらった脇腹には炎熱と刺突のダメージが同時に襲い掛かってきたのだから。
「ギィニャァァァー!!」
「えい!」
絶叫をあげるドラコニアンの隙だらけの頭。それに向かってミューズが剣を振り下ろす。振り下ろすが、効果はあまりない。
上手く力が伝えられなかった上に刃筋が立たなかったその剣は頭蓋を滑り、軽い裂傷を与えた後に弾き返されてしまった。まあ初心者を脱していなければこの程度であろうが、あいにくとモンスターは相手が初心者であろうと容赦はしてくれない。
激痛を与えられた後に追撃をくれやがったか細い女、それを爬虫類の瞳が睨みつける。目は口よりも雄弁に語ると言われる訳を、ミューズは理解した。せざるを得なかった。言葉が通じないモンスターの瞳は、明らかな殺意を湛えていたのだから。
「あ、あ、あ……」
ダメージを与えられない相手から至近で浴びせられる殺意に、ミューズの力が抜けていく。抗う気力なぞ、この相手を前に維持できるはずもない。
対するドラコニアンは獲物が戦意を失った事に気がついたのか、剣を高々と振り上げて雄たけびをあげる。
「キシャァァァァァーーー!!」
「きゃああああぁぁぁぁぁ!!」
声が重なる。片方は憤怒と歓喜の、もう片方は諦観と絶望の感情が練り込まれた絶叫。
その憤怒の感情を無視するように、鋭い矢がその口に飛び込んで、喉から脳を破壊する。歓喜を掻き消すように後ろから突き出された刃が、脈打つ心臓を穿って動きを停止させる。
「ァァァ、シャア?」
「あああああ、ええ?」
奇しくも当事者である者同士が現状を理解できていなかった。真っ先に矢を撃ったリンが立て直す時間が短いのは道理であり、彼女は連射も可能なように弓で戦場のどこにでも矢を放てるように準備をしていた。ユリアンは挟撃や波状攻撃を避けるため、屍人に一足に近づくと十文字斬りにてアンデッドモンスターを屠っていた。敵の一人を瞬殺した彼は、即座に背後からドラコニアンの急所を抉るべく剣で衝いたのだった。
脳と心臓。生きる上で最も重要な箇所を破壊されたドラコニアンが生き続ける術はない。自身に何が起きたのか分からないまま、後一歩で殺せた獲物を眼前に残したまま、そのモンスターは息絶えて体を倒していた。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
放心状態のミューズに声をかける二人だが、戦いはまだ終わっていない。不定形モンスターであるゼラチナスマターが残っている。コアが破壊されない限り活動し続けるゼラチナスマターは、その口から電撃を放つために邪魔となる矢を蠢く体を利用して吐き出そうとしていた。
それを待つ義理は当然ない。静かに詠唱を終えたモニカが術名を呟く。
「ソウルフリーズ」
魂さえ凍らせるであろう冷厳なる息吹がその軟体に降り注ぎ、身体を固め動きを封じていく。後に残されたのは砕かれるのを待つばかりの半液状だった軟体のモンスター。
それに向かってユリアンは無慈悲に剣を振るうのだった。
夕方。
この日の戦いは先の一戦のみだった為、予定よりもランスに近づく事ができた。あまり急ぐ旅でない事とミューズの心も鑑みて、早めの休息を取る事が決定。詩人とシャールは手早く野営地を作り、戦いをしたメンバーは思い思いに体を休める。そうして休む場を作ったところで詩人は訓練を開始し、シャールは夕食の準備を始めた。この旅は詩人が他の者を鍛えている間にシャールが雑用をこなす事で話がまとまっている。
ユリアンとモニカ、リンが手解きを受けている中で、ミューズだけがシャールの傍にいた。震える体を火の傍らに置いて暖め、味わった恐怖と必死に闘っている。今は心を整理する時間だと、詩人は朝まで大人しくしているようにミューズに指示を出したのだった。
そしてミューズは最も心を許せるシャールの近くで、戦いがもたらすモノと向き合っているのだった。
「…………」
「…………」
シャールは無言。ミューズも無言。だがしかし、この無言の時間を破れるのは一人だけ。何故なら、シャールから無言を破ればそれは甘えになってしまうからだ。敬愛すべき君主が心乱れている時に、追い打ちをかけるような言葉などシャールが口にできる訳もない。そうした訳で、ミューズが心を落ち着けて口を開くのを待つしかなくなる。
少し離れた所で手合せをする四人が動く音が聞こえる。すぐ近くで具材を煮込む鍋の音が聞こえる。
「ねえ、シャール」
「はい」
「戦いって……あんなに怖いのね」
ミューズの言葉に、一瞬返答に窮するシャール。
そして腹に力を籠め、一息で言い切る。
「いいえ」
「え?」
「断言できます。ミューズさまが味わった恐怖は、戦いがもたらすそれのほんの一片でしかありません。
戦いとはもっと恐ろしく――おぞましいモノなのです」
絶句するミューズ。
これはいつか分かってしまう事だと、シャールはそう理解して言う。彼が言わなければ詩人が、詩人が言わなければユリアンが、ユリアンが言わなくてはおそらくリンが。そしてもしも誰も言わなくては
あり得ないことだが万が一、誰も言わなかった時の事を考えると。シャールが言わない訳にはいかないのだ。
「……どうして」
「…………」
「どうしてシャールは戦えるの……?」
「守るべきものがあるからです」
おそらくミューズが求める答えとは違うだろう事を理解しつつ、シャールは口を開く。
「私はピドナを守る為に、軍に入りました。そしてたまたま才気に恵まれ、クレメンス様によくして頂き、近衛隊長の任を預からせていただきました。
クレメンス様が善政を敷かれた事に疑いはありませんでしたし、ルートヴィッヒがまともな
「…………」
「それに加え、クレメンス様がミューズさまを大事になさっていた事。そして
シャールの告白に、ミューズの呼吸が一瞬停止した。
その反応を感じてシャールは慌てて訂正する。
「い、いえ。ルートヴィッヒがミューズさまを放って置かないだろうという意味でございます。結果、ピドナを追われる可能性は考えておりました。
まさかこんな形になるとは想像していませんでしたが」
「そ、そう……」
父の忠臣であり、自分に遺された頼れるたった一人が自分をモノのように扱っていたのだという感覚は、一瞬とはいえ箱入り娘だったミューズの心に深刻なダメージを与えた。
それを与えてしまったシャールは自らの失言を恥じ、その上で言葉を続ける。
「しかし、戦いの本当に恐ろしいところはそこなのです。目の前の敵と殺し殺されるのは始まりに過ぎません。
信頼していた者が突如として背中を刺す事もあります。そこまでいかなくとも、自分や仲間の命を助ける為に誰かを見捨てる選択をする事は珍しくありません。その誰かが親しい者や仲間である事も珍しくありません。
親しい者を見捨てる選択、仲間に見捨てられる虚脱。戦いに身を置いているのならば、逃れられるものではないのです」
「…………」
「ミューズさまは戦いの場に引きずり出されてしまいました。もちろんミューズさまが望むのならば、ミューズさまが戦わなくともこのシャールが全霊をもって御身を御守りいたします。
……ですが、敵に回ったのは神王教団とピドナ。私一人で守りきれるとお約束する事は、残念ながら難しい。故に戦いを選んだミューズさまを止める事はしませんでした」
「…………」
「非力な我が身をお許し下さい、ミューズさま。私がもっと強ければ、貴女は戦いの恐怖も惨さも知る事はなかったでしょう」
「……いいえ、その謝罪は私がするべきだわ」
黙ってシャールの言葉を聞いていたミューズだが、シャールの最後の言葉には反応した。
「お父さまが殺されなければこんな事にはならなかったはずよ。他の者たちのように、貴方に見限られてもおかしくはないのは分かっています、シャール。
こんな私を守ってくれる事に、感謝しても恨むなんて事は決してしないわ。
ごめんね、シャール。貴方がこんな目に遭っているのは紛れもなくお父さまと、生き残ってしまった私のせいよね……」
「そんな事は言わないで下さい。クレメンス様に対する忠義は揺るぎませんし、ミューズさまの御命があって嬉しく思います。
……ですから、恥を承知でお願いします。生きて下さい、ミューズさま。例えこのシャールが死のうとも、他の誰が死のうとも。生きる事を諦めないでください」
「そうよね。私は、死ぬ事は許されない身なのよね……。クラウディウスの名がそれを許さない」
悲し気に呟くミューズに、シャールはきっぱりと否定の言葉を言い切った。
「違います。ミューズさまが生きなくてならないのは、クラウディウスとはなんの関係もありません。御父上が娘の幸せを願ったからに他なりません。貴女が生きなくてはいけない理由はただそれだけ、幸せになっていただくことのみです。
そして幸せは生きてこそなのです、ミューズさま」
「…………」
「戦いは生きるため、生きるのは幸せのため。間違えてはいけないのです。自分や誰かの不幸を願って戦うのではない事を、恨みや憎しみで生きてはならないのだと」
静かな時間が僅かに流れ、ミューズは力強く頷いた。
「……肝に銘じるわ、シャール」
「はい。では、そろそろ食事にしましょう。体力をつけなくては戦いはおろか、旅をする事もできません」
そこでようやく主従は笑い合い、鍛錬をしていた面々を呼び寄せる。
待ちわびた休息と食事に誰もが気を緩めながら火のそばへと戻り、体を休める。
シャールは順番に食事を配り、口にする。そして固まるユリアン。
(……マズい)
文句は言えないが、文句は言わないが。
マズい。
一日の終わりがコレとはあんまりである。いや違う、この旅の間はずっとコレなのだ。
ふと周りを見渡してみれば、素知らぬ顔で食事を口に運ぶのはモニカとミューズ。リンも思わず固まってしまったようで、ユリアンと視線を合わせると表情をなくしたまま食事を続けるのだった。そして詩人はといえば、懐から小瓶を出して調味料のようなものを食事に振りかけている。
「ん? 詩人、それは何をしているんだ?」
「たまには別の味付けも試してみたくてな、一手間加えさせて貰ったよ」
「そうか」
簡単な疑問は容易に解決してしまうのか、シャールの問いはあっさり終わってしまう。だがしかし、他の面々には急に調味料を使う詩人の意図がまる分かりだ。モニカとミューズは特に反応は示さないが、ユリアンとリンはちょっと鋭い視線を詩人に送ってしまう。あっさりと無視されたが。
ため息を我慢して食事を口に運ぶユリアンとリン。そんな彼らを見て疑問に思うシャール。
彼が旅をする時、こんな雰囲気になることがままあった。食事とは楽しいものであり緊張がほぐれる時間なのに、どうしてこうなるのか分からない。
自分が作った食事を口に運びながら、シャールは首を捻るのだった。
道を行く。
整備されたそれは人の気配を醸し出し、モンスターに誇示している。そこは人の領分と解釈するか、
やがて白くて汚れた雪が見え始め、歩いていくうちにその白は清さを増していく。雪の消えない町、ランスが近づいている証拠だった。
初めて見る雪にリンの瞳が輝き、そんなリンを微笑んで見る詩人。
寒さによって疲れが見え始めたミューズに、それを気遣うシャール。
ツヴァイクでの冒険を思い出して話すモニカと、たくましくなったと苦笑いのユリアン。
戦いもそこそこに雪降るランスの町が眼前に広がってくる。
「着いた、か」
その言葉にそれぞれがそれぞれの感情を表に出す。
「金の分配があるから、先に請け負った荷物を卸そう。1000オーラム貰える約束だから、一人頭150オーラム。端数の100オーラムで今日は少し豪勢に休むか」
詩人の提案に否定の声をあげるものは一人もいない。荷物は彼らが運んだものであるので当然報酬も山分けだ。このような場所で欲を出せば関係が上手くいかなくなってしまうのは子供でも分かる理屈であり、文句も出ない。
受け渡し先であるランス陸送隊の事務所に向かって歩き出す詩人と、後ろに続く5人。
しばらく歩いたところで詩人はふとその人影に気がついた。道を歩いているその女性。
「エレン!」
声をかけると、エレンは表情を変えて声の元にいる詩人を見た。
詩人を見るエレンの表情から、詩人は氷の剣の入手まで上手くやったのだと理解する。ふっと表情を緩める詩人に向かって駆け寄るエレン。
そして彼女は、その表情のままで詩人の顔を殴り飛ばした。
思わず固まる一同。それに構わず詩人は血が混じった唾を雪に吐き出し、白に鮮やかな赤を混じらせる。
「氷の剣、ちゃんと手に入れたんだろ?」
「しじん……」
飄々とした詩人の言葉に、エレンは感情の変わらない表情を深くする。
くしゃくしゃに歪んで泣きそうな、そんな傷ましい表情。
「あんた……知ってたんでしょ?」
「ああ。知っていた」
ギリィと歯を食いしばるエレンに、偽りなく答える詩人。
彼女が悲しみを負うと理解しつつ、詩人は黙っていた事を認めたのだった。
雪が降る。
悲しみを覆い隠すように。
ランスの町に雪が降る。
詩人、初ダメージ。
いったい何があったのか。詩人と別れてからのエレンを次回から描きます。
次章。外伝・エレン編、美人道中膝栗毛を予定しています。
お楽しみいただけるよう一層努力させていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。