詩人の詩   作:117

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資料集めに今更ながら基本情報を眺めていたら、全く想定していない基本設定を発見してしまいました。
おかげでまた小説の設定が一つ増えた。

もしかしたらこのせいで更にエピソードが増えるかも知れません。
とりあえず、このペースだと100話は確実に超えそうです。200話とかいくかも知れません。いつまでかかるかは、想像したくありません。



では、最新話をどうぞ。


006話

 

 

 レオニード城で一晩を明かした翌朝。

 翌朝といってもポドールイは太陽が昇らない土地。朝ではあるが、夜のように薄暗い。

 そんな中、訪れた一行はレオニードと共に食堂で朝食をとっていた。材料も調理の腕も一級品であるはずなのだが、そもそも城が薄気味悪いのでどうにも味を感じにくい。そう思わないのは、そういうことを気にしないレオニードと詩人くらいだろう。

 明らかに暗い雰囲気にレオニードは苦笑する。確かに、この城は普通の人間が過ごすには精神衛生上よくないかも知れない。

「どうやら退屈していられるようですな、みなさん。どうです、軽く気晴らしをしてみるのは?」

 食事が終わった時、レオニードはそう告げた。

 気晴らしという言葉に幾人かが強張ってしまうが、今回は別に含んだ意味で言った訳ではない。

「私はいくらかの財宝を所持していますが、特に気に入った物や価値あるもの以外はこの城にはおいていないのですよ。

 ポドールイの闇の中にある洞窟や、古びた砦を見繕ってそこを宝物庫の代わりにしています。皆さんにはその中の一つをお教えしましょう。

 悪辣な罠や、特に凶暴なモンスターもいませんが…一つだけ価値のある宝を隠してある洞窟です」

 レオニード城にいるよりかはその外に出て、適度に体を動かした方がいい。

 そう思ってレオニードは提案する。モニカとシノンの者たちは突然の話にどうしたものかと顔を見合わせている。

 だが、レオニードの為にもここは是非行って貰わないと困るのだ。そっと詩人に目配せをするレオニード。その意味を察した詩人は、芝居のようにレオニードへと問い掛ける。

「モンスターがいるというが、大丈夫なのか? モニカ姫の護衛の俺たちが気晴らしで御身を危険にさらしたらミカエル候に合わす顔がない」

「ええ、大丈夫です。ミカエル候の宿営地からポドールイまで来れるようならば、それこそ詩人がいなくても攻略できるでしょう」

「そうか。なら行ってきたらどうだ? 正直、この城に居続けるのも心に負担をかけそうだ」

「行ってきたらって…詩人はこないのか?」

 流れるような会話。それに違和感を覚えたのか、トーマスは怪訝な顔をして尋ねる。

 さすがにこのまま押し通すのは虫が良すぎたか、と軽く心の中で溜息をつく詩人。

「ああ。それとも、俺がいなくてはモニカ姫を守り切れないか?」

「そういう問題じゃないだろう。議論をすり替えないでくれ」

「いや、そういう問題だ。実際、何らかの理由で俺がモニカ姫の護衛につけない状況もありえる。分断される、とかな。そういった場合にちゃんと動けると言えるのか?」

「うっ…」

 言葉につまる。ガルダウイングの時を思い出したのだろう。

 あの時の経験を糧に頑張ったとは胸を張って言えるが、それが実戦に耐えられるかは証明できない。今まではずっと後ろに詩人がいたのだから。

「いいじゃないか。行こう、トム」

「ユリアン!」

「せっかくレオニード伯爵がいい腕試しの場所を見繕ってくれたんだ。力試しをするのも悪くない。それに……」

 ちらりとモニカを見るユリアン。

「正直、モニカ姫のお心も心配だ」

「わ、私も。ちょっと外に出れるなら、出たいかな」

「サラが行くならあたしも行くよ」

「サラにエレンまで…。モニカ様、いかがしますか?」

 シノン村の面々は行く気になっているのを見てトーマスは嘆息する。

 多少心に負担がかかろうが、詩人という強者の庇護の下にいた方がいいという自分の意見が間違っているとは思わない。しかしどうも財宝の洞窟にいく雰囲気になってしまっている。

 モニカ姫が反対すれば流れは変わるだろうと思いながら、その一方で無理だとも思っている。短い間の旅だが、モニカの性格はなんとなく掴めている。芯は強いが、どこか流されやすい部分があるのだ。

「わたくしは、行ってみたいです」

 思った通りの結果にトーマスは溜息を吐いた。だがしかし、彼は一つ思い違いをしている。

 モニカは行ってみたい、そう言ったのだ。自分が行きたいと、そう言ったのだ。決して流されやすいだけの少女ではないのだ。

 

 レオニードが示した財宝の洞窟は、目玉である生命の杖しかない訳ではない。レオニードにしては些少な、一般の村人にしては莫大な、お宝もところどころに隠してある。

 集めた財宝を使って、ポドールイの町で軽く飲もうかというところまで話はまとまった。詩人も彼らが町に帰ってくるころを見計らって合流するとも伝える。

 そうしてレオニード城から彼らの気配が完全になくなった頃、レオニードと詩人は向かい合わせでワインを傾けていた。

「まず、モニカの安全に問題はないんだろうな?」

「ああ。私の配下のゴーストを一体、モニカ姫の影に憑依させている。それを通して私自身も監視しているし、モニカ姫の安全は保障しよう」

「シノンの連中の命は保障しない、か」

 素知らぬ顔でワイングラスを傾けるレオニード。

 まあ、どういった理由や経緯であれ、一攫千金を狙うのだ。命をかけるくらいは当然と云えば当然でもある。

「それはいいとしよう。俺としてもモニカが無事にミカエルの下に帰るなら文句はない。

 それより、俺に用事とはいったいなんだ?」

 レオニードがあえて黙っていた、詩人と二人きりで話をしたがっていたこと。それに感づいたからこそレオニードにのって、他の連中を財宝の洞窟に行くように仕向けたのだ。

「なに、久しぶりに会ったのだから世間話がしたかっただけだよ」

「それだけか?」

「君とする世間話は、物騒な話になりそうでね。これでも気を使ったのだが。何せ気軽に名前さえも呼べない」

 ふん、と鼻息を荒くする詩人。

 確かに名前を隠している身としては、自分の名を知るレオニードがその意図を汲んでいるだけでも感謝するべきなのかも知れない。

 レオニードとしても下手に詩人の機嫌を損ねたくないので、気を使わざるを得ないのだが。

「どうだ、目的は叶いそうか?」

「叶いそうか、じゃない。叶えるんだよ」

 

 復讐を。

 

「その為に、1つを除いて手段は問わない。大丈夫、俺は何も見失っていない」

『欺こう、偽ろう、殺戮もしよう。ただし決して裏切らない。奴らの同類には決してならない』

 それはかつて詩人がした宣誓。獣の表情をした上で、人間の知性を瞳にのせた壮絶な表情を、レオニードは今でも思い出せる。

「誇りは捨てていないようだな。ならばいい。個人の問題に首を突っ込むのは、あの一件だけだ」

「…悪いことをしたとは思っている。だが後悔はしていない」

 二人の脳裏で、一人の人物が泣いていた。それはかつて詩人が見捨てた女性だった。

 レオニードが諫めたのはその時だけだ。側にいてやれと、そう詩人に言ったことがある。

 だが詩人はそれを拒絶した。これ以上側にいては決意が鈍ると。血塗られたこの手が復讐を成し遂げるまで、腕を鈍らせる訳にはいかなかった。見捨ててきた、また殺してきた全ての為にも、もう詩人は後にはひけないのだ。

「しかし、ずっと探しているのに、まだ見つからない…」

 15年前にレオニードに助力を求めてまで探したモノは、未だに見つからない。

「ない、という可能性もあるのではないかな?」

「それはない」

「根拠は?」

「ゲートは徐々に開き始めている。この旅が終わったら、一度ランスに戻りヨハンネスに確認をとるが、宿命の子なくしてゲートに干渉できない」

「宿命の子はまだ生きている、か。

 しかしいったいどこに……?」

「…分からない。しかし貴族たちは知らないだろう。神王教団もな。知っていたらとっくに利用している。今回の件でミカエルの内情を探れたのは運がよかった。やはり宿命の子はロアーヌにもいないな。

 それにロアーヌはビューネイの縄張りでもある。もしも宿命の子がビューネイのゲートに干渉しようとした時、またビューネイが暴れる時にも、ロアーヌに伝手があるのは大きい。今回の件は上出来だよ」

「難はあれど、ひとまずは順調といったところか」

 ふう、と息をついた。

 香ばしく炒められたソーセージを齧る。

 さっぱりとしたチーズを噛む。

 ワインで喉を潤し、香りを楽しむ。

「…お前がまた、人に教えるとは思わなかった」

「まあ、な。正直、よくないことも思い出した。だが、あの目にはどうにも弱い。守りたい。強くなりたい。助けたい。そう言っていたよ。

 …俺の仲間も、同じ目をしていた」

「復讐が終わったら、どうする?」

 そう言われた時、詩人はぽかんと理解できない言葉を聞いたような顔をした。

「…、……。考えた事はなかったな、そういえば。奴らを殺すことしか考えていなかった、な。

 もう、ずっと、ずっと……」

「終わらせるのだろう? 叶えるのだろう? お前は隙を作らないことを信条としているのならば、そろそろ先の事も考えておけ。

 人に教えることは、お前に似合っている。本格的に弟子でもとってみたらどうだ。剣でも教えてやればいい」

「…そうだな。考えておくよ」

 

 バサリと蝙蝠が部屋に飛び込んできた。どうやらレオニードに報告らしい。

 ふと気が付くと随分と時間が過ぎてしまっている。モニカとシノン村の連中はもう酒が入っている頃だ。

「遅くなった。俺はそろそろポドールイに向かう」

「待て。今報告が入った。ミカエル軍がゴドウィン軍を撃破した。ロアーヌに帰還するのも時間の問題だな。

 人間にこの城は居心地が悪いだろう。今日はポドールイに泊まり、そのまま旅立て」

「分かった。…しかし、俺が人間じゃないような言い草だな、それは」

「…暇が潰せた。またいつでも来い。お前ならば喜んで歓迎しよう」

 片手をあげて応えると、詩人は席を立ち、城を発つ。

 客がいなくなった吸血鬼の城で、主が呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。

「人間で無い方が、お前にとって幸せだろうに」

 

 

「う わ ぁ」

 ポドールイの酒場に入った詩人は、その惨状を一言で表現した。

 ひとまず最重要案件であるモニカはサラが避難させていたようだが、その他の面々が酷すぎる。

 エレンはカウンターで酒を凄い勢いで傾けている。ただし、据わりきった目で。明らかに堅気でないオーラを出しており、その周りには男が5人程倒れている。見たところでは酒の飲み過ぎか、もしくは物理的に昏倒させられたか。どういう経緯があったかは知らないが、どう考えても原因はエレンだろう。

 テーブルではトーマスが泣きながら酒を煽り、ユリアンが回らない呂律でくだをまいている。お互い勝手にしているようで、相手に話しかける(てい)をとっていながら返事を求めていない。しかもその上でその近くでは10人以上のガラの悪い連中が伸びている。

 どうみてもトップクラスに関わりたくない系統の酔っ払いである。とりあえず3人は無視してモニカとサラに近づく。

「なあ、どうしちゃったのコレ?」

「あ、詩人さん!」

 助かったという顔をするモニカ。困った顔をするサラを見るにこれが最初ではなく、恐らく羽目を外す度にこんな事をしているのだろう、こいつらは。

 ため息を吐きながら避難していた2人のテーブルにつく。

「とりあえず、俺も飲むか。ウオッカ、ダブルで」

「これを見て、とりあえず飲むのですか…」

「詩人さんもマイペースな方ですね…」

 モニカとサラは微妙な顔をしているが、それはそれでこれはこれだ。

 酒場に来たら酒を飲む。これは常識。

「で、何があった? 話してくれ」

「…詩人さん、楽しんでいません?」

「かなり」

 臆面もなく言う。マイペースなだけでなく、面の皮も厚いようである。

 

 財宝の洞窟は、多少危なっかしいこともあったらしいが、とりあえず無難と言える範囲で攻略したらしい。

 レオニードに言われた生命の杖の他にいくつかの装飾品やそれなりの武器や防具。それにオーラムにして1000になるほどの大金。

 シノンの村の人々もそうだが、モニカも自分で大金を持つような生活はしておらず、お忍びで外に出る時も庶民的な額しか手にしない。それが一気に1000オーラムである。

 まずトーマスが壊れた。宝石などを現金化した後に来た酒場で、怪しく笑いながら稼いできた金貨を数えるという奇行を始める。

 当然、そんな目立つように金貨を見せびらかせば、ガラの悪い連中がよってくる。それを自業自得とサラとモニカを連れて逃げ出したのがエレンで、トーマスの助太刀に入ったのがユリアン。まあ、エレンも本当にトーマスが危ないと思ったら助けに入っただろう。あの程度の連中なら大丈夫だと判断したに過ぎない。

 そして大立ち回りで悪党どもをボコボコにした二人だが、そこからがよくなかった。トーマスがお礼にユリアンに一杯おごると言いだせば、ユリアンも返礼として一杯おごり返す。そして相手の金でエンドレスに飲み続ける構図ができてしまった。しかも現在の財布にはオーラムがあふれている。サラもほとんど見た事はないが、ユリアンやトーマスは行き着くまで行くとああなる。しかも同時にというのは初めてらしい。

 一方で女性陣。トーマスに絡まなかった比較的穏健な男でも、美女美少女が集まっていればちょっかいをかけてくる。

 最初は適当にあしらっていたエレンだが、相手も上手だったらしく、なんだかんだ言いながら上手く酒を飲ませておだててくる。そして村娘で経験が負けていたエレンは徐々に調子にのってしまう。

 調子にのって出てくるのが自慢話。ここでどんな恋愛をしていたとか、性質の悪い男をこっぴどく振ってやったとか、そういった話題が出ればよかったのだが、そこはエレン。出てくる自慢話は斧で熊を一撃で仕留めたとか、村中の男を相手に相撲をとって全員に勝ったとか、飲み比べでも負けずに祭りで準備した酒を飲みつくしたとか、そういった話ばかり。ちなみにサラ曰く、全て本当の事しか言っていないらしい。なお悪い。

 そんな話が延々と続くうちに、誰かがポツリと言ってしまった。

「男女」

 斧の一撃で熊を仕留める女に向かってである。村中の男と相撲をとって勝つ女に向かってである。

 …間違っていないのが悲しい。

 とりあえず間違っているかどうかは置いておくとして、正しい言葉ではなかったのは確かである。酔っぱらったエレンはキレた。キレて、手当たり次第にブン殴り、口に酒瓶を突っ込み喉ぼとけをおさえて酒を飲ませまくる。モニカ曰く、妙に手馴れている事が怖かったらしい。それはそうだ。

 それで起きたのがこの惨状らしい。

 一番怖いのは、酒場に入ってからこの状態になるまでに30分かかっていないことだろう。

「話は分かった」

 事情を聞き、詩人は神妙な顔をする。

「じゃあ、他人のふりをして俺たちも飲むか。

 テキーラのダブル、よろしく」

 あ、コイツもか。

 モニカとサラは同時に思ったとかなんとか。

 幸いというか、詩人は酒癖は悪くないようで、ほろ酔いを維持したまま酒を楽しんだことだろうか。その中でミカエルが勝利した事を伝え、モニカを大いに安堵させた。また、もうレオニード城に戻らなくてもいい事も伝えるとサラも一緒に大いに安堵した。気味の悪さもそうだが、連れがコレであの上品な伯爵のお世話になりたくはない。

 そのままゆっくり明けない夜を楽しんだ一行は、適当な時間で宿屋に泊まる。

 

 翌朝。

 

「ぅぅぅ…」

「頭が、痛い…」

「だらしないわね!」

「…何でお前はそんなに元気なんだよ」

 二日酔いに苦しむユリアンとトーマスだが、エレンはケロリとしていた。

 二日酔いではないのに頭を抱える詩人に、手馴れた様子で男二人を介抱するサラ。モニカは未経験の事態にオロオロとしている。

 

 出発は昼前になったらしい。

 ついでに、その日のモンスターは元気いっぱいのエレンがほとんど一人で片づけていた。

 

 

 




前半シリアスだったので、後半はギャグにしてみました。
宿命の子はいったいどこにいるのか…。
詩人の旅は続く。
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