このまま週一以上のペースを維持出来たらいいな。
ランスといえば最も有名なのは、やはり聖王廟だろう。文字通り、聖王の御霊を眠りに導く墓標。
聖王は今から315年前に生誕した、前々回の死食を生き残った宿命の子である。
その聖王の偉業といえば枚挙に暇がないが、世界中の人々が知るのは四魔貴族をゲートに追い返し、荒廃した世界を復興したという事だろう。15年前の死食で世界がまた混乱したとはいえ、現在まで続くそれなりに安定した生活基盤を創り出したのは聖王といえる。
原因がそうであるかどうかは分からないが、聖王が生まれた町であり眠る町であるランスは他の町と比べて静かな印象が強い。住む人々が聖王への敬意を心に秘め、粛々と暮らしているせいだろうか。まるで聖王をそっと眠りにつかせて差し上げたいと誰しもが思っているかのよう。
「こーこーがぁー! ラーンス!!」
「ゆきー! ゆきぃー!!」
「騒ぐな落ち着けはしゃぎまわらないっ!!」
まあ、訪れる者が静かな人間であるとは限らないのだが。
来たことがない町にはしゃぐエクレアと、南国のジャングルで生まれ育ったため初めて触れた雪に興奮するようせい。そしてそれを落ち着かせるエレン。
騒がしい三人組だが、そんな旅人をランスの人々は微苦笑しながら見ている。ランスは聖王廟があるおかげで観光地としても有名であり、このように羽目を外す旅行者も少なくないのが原因だろう。
無理矢理にお子様たちを静めたエレン。
「う~! さむ~い!!」
「へくちっ!!」
「この冷えた空気の中を走り回れば、そりゃ体も冷えるわよ……」
体を止めれば口が動く。エクレアとようせいの奔放ぶりに手を焼かされながらも、エレンは一つの家を目指す。
天文学者のヨハンネス、ゲートが開いている現状を観測している人物である。そしてその家は(勝手に決めた)詩人との待ち合わせ場所でもある。日数的にリブロフに行った詩人がもうランスに着いている可能性は低いが、それでも自分の足跡は残しておくべきだろう。
それに氷銀河に行く方法をエレンは知らない。聖王家との繋がりがないエレンとしては、ヨハンネスの伝手や知識を頼らざるを得ないのだ。
着いた家のドアノッカーをゴンゴンと叩き、少し待つ。パタパタと家で動き回る音がして、やがてガチャリとドアが開いた。
「あら? 以前お越しいただいた…エレンさんでしたか?」
「やっほー。アンナ、お邪魔するわ」
出て来たのはヨハンネスの妹であるアンナ。ヨハンネスが星を見て知識を深め、その情報を渡してパトロンであるフルブライト商会からお金を受け取っているのに対し、アンナの仕事は家事全般。兄がやろうともしないそれを一手に引き受けるアンナはご近所でも良い娘として認識されており、やがて彼女が嫁に行ったらヨハンネスとこの家はどうなるのだろうと不安がられている一因でもある女性だ。
以前、詩人と共にヨハンネスを訪ねた時に面識がある彼女たちはにこやかに挨拶をかわすが、アンナの視線はエレンの後ろにいる人物に向けられる。
「それであなた達はエレンさんのお友達ですか?」
「私の名前はねー、エクレアって言うんだ。アンナさんだっけ、よろしくねっ!」
「ようせいはね、ようせいって言うんだ。よろしくね!」
にこやかにアンナとエクレアは握手をしてようせいにもと手を出した彼女は、にこーとした笑みだけを向けて手を出す様子がないようせいに、ほんの少しだけ戸惑ってしまう。
そんな困ったアンナの様子を見てけたけたと笑うようせい。基本的に人の困った顔や驚いた表情が好きなようせい族は、少しばかり性根がひねくれている。
趣味の悪いようせいの頭を嗜めるように叩くエレン。
「あはははは。ごめんね、仲直りの握手」
「ええ、よろしくね」
少しだけアンナをからかったようせいは、自分から手を出して今度はしっかりと握手をする。ちょっとだけいい性格をしているようせいだが、悪いといえる程でもない。
そうして挨拶を終えた一同は、アンナに導かれるままに家の中に入る。用意された温かい紅茶に、体が冷えたエクレアとようせいは大喜びだ。
一息ついた頃にエレンが口を開く。
「それでアンナ、悪いんだけどヨハンネスに話があって来たのよ」
「そうだと思いました。エレンさんが来た時は起こしていいと聞いていますので、兄を起こしてきますね」
アンナはそう言って、居間を辞する。ヨハンネスは天文学者であり、星の観測が主な仕事であるからして、生活習慣が昼夜逆転しているのだ。よって昼には寝ている事が多く、前回訪ねた時も彼は就寝していた。ヨハンネスに話をするには夜に来るか、彼が会うと前もって決めていた人間ならば昼でもアンナが起こす手筈になっている。
歓談しつつ、紅茶をすすってアンナが焼いたクッキーをかじる事しばし。ヨハンネスを起こしたアンナが戻ってくる。
「兄が会うそうです。自室でエレンさんを待つという事でした」
「ありがと。
エクレア、こっちの話は長くなりそうだから、先に宿を取っておいて。それが終わったら自由行動でいいわ。ようせいと一緒に観光でもしていなさい」
「りょーかい、エレンさん!」
「ゆきっ! ゆきで遊ぶのっ!!」
騒がしくヨハンネスの家を出ていく二人を見送ったエレンは、表情を引き締めて居間を出る。そして二階にあるヨハンネスの自室へと向かった。
雑多な本や、エレンには分からない星を観測するだろう機具が所狭しと置かれたその部屋で、ぱっちりと目を覚ましたヨハンネスが待っていた。話が長くなるだろう事は予想しているのだろう、ここにも紅茶のポットが置かれている。
「久しぶりね、ヨハンネス」
「お疲れ様です、エレンさん」
一応、ヨハンネスの方が年上であるのだが。性格の違いか、エレンに遠慮はなくヨハンネスの物腰は柔らかい。
挨拶もそこそこに、ヨハンネスは紅茶をカップに注ぎ、口を湿らせる。
「最近、星の観測で以前とのズレが見られました。今までとは違い、父が観測していた頃の死食が起こる前の星位置にほんの少しだけ近くなりました。
前置きは無しです、エレンさん。ゲートを閉じる事に成功しましたね?」
確信を持って聞くヨハンネス。どうやらランスにはまだフォルネウスを倒したという情報は回っていないようだ。それでもゲートを閉じたという情報が手に入るのだから、なるほどフルブライトがパトロンをする訳であるとエレンは納得する。
そして彼の言葉にもったいぶる必要もないエレンはこっくりと首を縦に振った。
「ええ。西部にてフォルネウスを撃破、海底宮にあるゲートを閉じる事に成功したわ」
「なんとまあ、本当にゲートを閉じる事に成功するとは……。
しかし、詩人の姿が見えませんが、彼はまさか?」
「そう簡単に死なないわよ、あの化物は。今は用事があってリブロフに行ってるわ。それが終わり次第、ランスに来る事になっているの」
「そうですか。犠牲無しで四魔貴族を倒すとは、いやはや」
「……残念ながら、犠牲は出たわ。仲間の一人がフォルネウスとの戦いで命を落としたの」
神妙に語るエレンに、それ以上かける言葉を持たないヨハンネス。
分かっていたはずだった、四魔貴族を相手に無傷で事を運ぼうというのがどれほど虫のいい話であるのかなど。しかしながら、心に傷を負ったであろう彼女を目の当たりにすれば、直接戦いに赴かないヨハンネスは語る言葉を持たない。
少しの間、紅茶のカップを傾ける音だけが静かな室内に響く。
「それで、四魔貴族を倒した報告をしに来ただけという訳でもないでしょう。いったい、どのようなご用件でしょうか?」
「話が早いわね、ヨハンネス。あたしは次のターゲットをアウナスに定めたわ。その為に氷の剣が必要と詩人に聞いたんだけど、氷の剣がある氷銀河への行き方が分からないの。何かヒントはないかしら?」
「氷銀河ですか、確かに聖王様が氷の剣を手に入れた場所とは聞いていますね。
私も聖王様にはそこまで詳しくはありません。聖王家に出向いて話を聞くのが一番かと思いますね」
そう言ったヨハンネスだが、少しだけ顔をしかめる。
「しかし詩人は知れば知るほど不思議な所がありますね。アウナスを倒すのに氷の剣が必要と、どこで知ったのか。
以前いただいた手紙でも彼が怪しい行動をしていたとは聞いていましたが、やはり不審な点があるのでしょうか?」
「あたしとしては詩人は信じたいのよ。けど、怪しいところがあるのは確かだし、どうにも信じ切る事ができないのよね……」
困った顔をするエレンに、ヨハンネスはふむと少しだけ考え込む。
「では、詩人の家に行ってみますか?」
「へ? あいつって家を持ってるの?」
「ええ、ここからほど近い場所に。まあ、家と言っても倉庫や作業場に近く、生活臭はありませんけどね。
詩人は世界中を旅していますから、簡単な管理を頼まれているのですよ。
いつもはアンナが掃除などをしていますが、別に私が行っても問題ないですし、エレンさんが一緒に行くのもいいでしょうね。何か見つかるかも知れません。
行儀は悪いですが、少し見て回ったら聖王家にお邪魔して氷銀河の話などをしましょうか」
そう言って立ちあがるヨハンネス。それと一緒に部屋を出るエレン。
階段を降りたところで、物音に気がついたアンナが顔を出した。
「あら珍しい、お出かけですか?」
「ああ、ちょっと詩人の家にお邪魔するよ。合鍵を貰えるかい?」
「はいはい。珍しいこともありますね、兄さんが昼に外出するなんて。明日は雪かしら?」
「ここは年中雪が降っているだろうに。
ああ、それから聖王家に顔を出すと話を通しておいてくれないか? ちょっと聞きたい事があるんだ」
「分かりました。先に聖王家にご挨拶をしておきますね」
ヨハンネスに鍵を渡したアンナは外套を羽織り、聖王家を目指す。そしてヨハンネスとエレンは本当にそこから程近い、小さな家に辿りついた。
「小さいわね。家って言うか、小屋って感じ」
「詩人はランスに長居はしませんからね。この程度で十分らしいですよ」
言いながら鍵を開けるヨハンネス。すぐに開かれたドアを潜り、中に入ればそこは確かにヨハンネスが言う通りの場所だった。
武器や防具、何かの素材がそれなりに整頓されて置かれている。部屋の奥には作業机があり、そこには何冊かの本が積み重ねられていた。
申し訳程度のベッドもあり、一応寝るには困らないようにはなっていて、小さな暖炉の側には薪が置かれている。雪が降る街であるランスは気温が低く、暖炉は必須である。
一見して、たまに泊まりに来る拠点の一つといった所だろう。そしてその印象はあながち間違っていない。
「今までアンナが手入れをしてきましたが、特に変な物はなかったようです。
私が見ても違和感はないですが、エレンさんから見てどうです?」
「どうもこうも。物を隠すスペースも無さそうだし、あんまり当てにしない方がいいかもね」
適当に部屋を見て回るエレン。武器や防具が一級品なのは分かるが、それだけだ。詩人本人の異常性には遠く及ばない。
暖炉を調べるも特に怪しい所は無いし、薪だって普通のもの。ベッドもアンナがシーツを変えているのか、埃っぽい印象は感じない。
作業机には開かれた本に、メモのようなものが走り書かれていた。
「え?」
それを見て、エレンが固まる。見た事がある文字、ここにあってはいけない文字。
明らかに何かを掴んだであろうエレンにヨハンネスが近づき、詩人が書いた文字を見る。
「ああ、それは詩人が独自に編み出した暗号文らしいですよ。なんて書いてあるかは分かりませんが、エレンさんは分かりますか?」
「分からない。分からないけど、
過去に一度だけ見た事があるそれに、エレンはゾクリと背筋に冷たいものが走るのを感じる。あり得ない、あってはいけないのだ、こんなもの。
「はぁ。それで、これは結局何です?」
「アビス文字。四魔貴族の間のみで使われる暗号文だと聞いたわ、他ならぬ詩人がそう言っていた。聖王すら解読できなかったとも」
その言葉にヨハンネスも固まった。
四魔貴族しか使えないアビス文字を、何故詩人が使えるのか。
言いようのない不安が二人の心を蝕んでいくのだった。
場所を移し、聖王家。とりあえず詩人がアビス文字を扱える事を収穫として、エレンとヨハンネスは聖王家の当主と話し合いをする事にしていた。
聖王に詳しい彼ならば、もう少し詳しい事が分かるかもしれないという淡い期待もある。
そうして外に話が漏れないようにした部屋の一つで、三人が重い表情で向き合っていた。
「……まず、簡単な話から終わらせましょう。氷銀河に行く方法をエレンさんは知りたいとの事でしたな?」
「ええ。何か情報があればいいのだけど」
聖王家とは、聖王の姉の血筋を受け継いだ一族である。その主な仕事は聖王廟の管理と、聖王の研究である。
故に、一般には知られていない聖王の逸話も多く集めている。抽象的な表現が多い昔の情報や聖王が残した手記などから過去を探っていく事を生業としている彼は、実に様々な事を知っていた。
「氷銀河に行くには、オーロラが作る道を辿って雪の国と呼ばれる場所へ赴く必要があるそうです。オーロラが輝く夜、北にある山の山頂から輝く道ができ、そこから雪の国に行けるとか」
「オーロラが出る時期は私が把握しています。近日中にオーロラが現れるでしょう」
当主が言い、ヨハンネスが追加の情報を加える。比較的あっさりと雪の国へ行く事はできそうだ。もちろん、そこでどうやって氷の剣を手に入れるかはまた現地で調査をしなくてはならないだろうが、そこは辿りついてからのエレンの仕事である。今はこれ以上、話は進まないだろう。
それよりも今問題とすべきは、不審な所が多すぎる詩人に関する事だろう。
「詩人は、フォルネウスを倒せる時に見逃した節があるわ。目的は復讐、その為に宿命の子を探しているとも。
また、短い時間で聖王家の蔵書を把握しきれる筈もないのに、重要な事を知り過ぎているの」
「それに四魔貴族しか使えないアビス文字も扱えるとは……。確かに酷く怪しい」
「ポドールイのヴァンパイア伯爵とも懇意だとか。知れば知るほど、疑惑が深まる」
「一方で、アビスに組した相手には容赦しない。海底宮で感じたフォルネウスに対する敵意は本物だと思うわ」
「それでも自分は四魔貴族を倒す気がない。
……目的がどこにあるのか読めないのは気味が悪いですね」
口々に詩人の情報を提示する三人だが、怪しさだけが募る一方でどうにも確定的な情報が出てこない。怪しい男であるという事は分かるのだが、絶対に悪事を企んでいるという確証が得られないのだ。
そこでふと思い出したように当主が口を開く。
「そういえば気になっていたのですが」
「なに?」
「詩人の弓です。確証はないのですが――もしかしたらアレは聖王遺物の一つ、妖精の弓かも知れません」
「「聖王遺物っ!?」」
とんでもない物品に、思わずエレンとヨハンネスが大きな声をあげてしまった。
聖王遺物とは聖王縁の武具であり、その性能は他の物とは一線を画する。下手な国宝よりもずっと価値がある逸品なのだ。
「どうしてそう思うの?」
「集めた情報から、外見などが一致していると思ったのです。それにまるで重さを感じさせないのも妖精の弓の特徴の一つ」
「それで、その妖精の弓を聖王様は誰に譲ったのですか?」
「文献には信頼できる者とだけ。ただ、その後の調べでその相手は二人まで絞れました」
「それはいったい誰?」
「一人は聖者アバロン。いつの間にか歴史の表舞台から消えていましたが、彼の功績は聖王三傑と同等かそれ以上。妖精の弓を託すには違和感のない相手です。
もう一人は聖王の養子です。彼も情報が少ないですが、やはり妖精の弓を譲られても不思議ではありません」
「え? 聖王って養子がいたの?」
「はい、余り有名な話ではないのですが、聖王様がその姉に送った手紙に書かれていました。
四魔貴族をアビスに追い返した聖王様は、世界に秩序をもたらした。その後の事はあまり知られていないようですが、ランスを拠点としながら世界中を旅して自分の手で救える命を守っていたようです。
その中で一人だけ、聖王様がその養子にした男の子がいたそうです。名前も伝わっていませんし、何故聖王様がその一人だけを養子にしたのかも分かっていませんが、どうやら事実であるのは間違いないかと」
情報がそれだけしかないのならば、その足跡を辿るのも難しいだろう。聖王の養子はひとまず置いておいて、もう一人の方に話をシフトする。
「それでもう一人の可能性があるのが聖者アバロンとか? 申し訳ないけど、あたしって聖王の話にあまり詳しくないのよね。軽く説明をして貰ってもいいかしら?」
「分かりました。
聖者アバロンは男性という事は分かっていますが、生まれも没した歳も分かっていない謎の多い人物です。
始まりは死食が起きた後、生き残った聖王様を殺すか殺さないかで揉めていた時に登場します。彼は聖王様の命を助ける事を主張し、反対する者を力で黙らせたとあります。そして隙を突かれて聖王様が奴隷として連れて行かれるまで、聖王様を鍛えた師としても名が残っています。
そして聖王様がランスから居なくなった後に、その怒りを爆発させて聖王様を亡き者にしようとした者を皆殺しにしたという苛烈な人物でもあったようです。その後、世界中を旅してやがてフルブライト将軍に保護された聖王様を見つけ、その片腕として四魔貴族と共に戦ったとか。
四魔貴族を全てアビスへ追い返した後、しばらくは聖王様と行動を共にしていたそうですが、ある時から忽然と記録に残らなくなります。行方不明になった彼はそのまま歴史の舞台から消え、どこで没したのかも分かりません」
「…………」
「可能性として、聖王様の密命を帯びて何かしらの目的で動いていた可能性があります。そう考えれば聖王様も聖者アバロンの事を殊更口に出さなかった事にも理由がつきます。何せ、最後に文献に存在したのが聖王の姉である我が祖先の日記です。しばらく姿を見なかった聖者アバロンの事を聖王様に聞いたら、たった一言、素っ気なく居なくなったと告げたきりだったそうですから」
「妖精の弓は自らの養子に託したか、もしくは任務に必要と聖者アバロンに託したか。その二つの可能性があるのですね」
当主の話をヨハンネスがまとめる。
この話を前提に考えるならば、詩人は聖王の養子か聖者アバロンの子孫である可能性が高い。一族で代々伝わる情報を受け継いでいれば、なるほど確かに普通は知らない事を知っている事にも理解ができる。
だがしかし、ここでもう一つおぞましい可能性を考えなければいけなかった。
「まだ、他にも可能性はあるわ」
深刻な顔で言うエレンに、当主とヨハンネスが顔を向ける。
「その可能性とは?」
「情報と聖王遺物の強奪。詩人ほど強いのならば、本来の継承者からそれらを奪う事は可能だわ。
そしてそっちの方がしっくり来るの。詩人の目的は復讐だって言っていたわ。そしてあたしもそれは本当だと思う。
復讐を第一目的とするならば、その過程として聖王の情報や聖王遺物を強奪もするでしょうね。先祖代々の宿命を無視するよりも、そっちの方が筋が通るのよ」
エレンの推理に言葉を失う二人。この予想が確かならば、詩人は聖王縁の者さえ敵に回すという事だ。そしてそれは一般的に悪とされる。
詩人を信じるべきか、否か。
少なすぎる判断材料に、言葉を失う一同であった。
オリジナルの設定も混ぜつつ、少しずつ詩人の謎に迫ってきました。
いったい彼は何者なのか、予想を楽しんでいただければ私としても嬉しいです。