詩人の詩   作:117

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遅れてすいません、理由があったんです。

風邪をひいて熱が出たんです!
残業があり、休めなかったんです!
聖剣3のゆっくり動画が面白かったんです!(←ギルディ)

以上全て本当ですが、最新話も楽しんで頂けると幸いです。


065話

 

 雪は暖かい、という言葉を聞いた事はないだろうか?

 雪とは氷の結晶でありその冷たさは当然ながら氷に準じるので、これに違和感を覚える人はきっと雪の便利さを知らないに違いない。

 雪には空気の層が多分に含まれており、断熱材としてとても優秀なのだ。そしてゆっくりと溶けるという性質も相まって、雪で囲った空間というのが熱を逃がさない。例えば雪の中で一晩過ごさなければならない場合、木で作られた小屋と雪で作られたかまくらでは快適さが全く違う。木で作られた小屋は寝袋に入っても筆舌に尽くし難い寒さに一晩中襲われるが、かまくらの中で防寒具を身につければ翌朝までぐっすりと眠れるだろう。

 その恩恵を多分に受けているのは、エレンとエクレア、ようせいである。とはいってもサイクロプスの闊歩する氷銀河において、時間をかけて雪の山を作り、その中に居住スペースを作るのは現実的ではない。仮に苦労して作ったとしても、ここに獲物がいますよとサイクロプスに教えているようなものだ。なので彼女たちが選んだ方法はビバーグ、直下に穴を掘って空間を作り、その上部分はツェルトと呼ばれる布で覆い熱をこもらせる。尻には背負い袋を安定させる木の板を敷き、体温で溶けた雪で濡れないように工夫もした。これらはエレンがユーステルムにてウォード隊に教えてもらった雪の降る場所で野宿する為の知恵である。

「穴掘ったけどさ、底が抜けて奈落の底に真っ逆さまとかならないといいよねっ」

 綺麗な笑顔で恐ろしい事を言うようせいにエクレアの顔がげんなりとする。対してすまし顔で答えるのはエレン。

「ちゃんと雪の深さは計ってるから大丈夫よ。少なくとも厚さ4メートルはあるわ」

 彼女たちが納まっている穴の深さは1メートル程で、エレンとエクレアはいわゆる体育座りといった格好で休みをとっている。ようせいはその体の小ささから羽を畳む程度で済んでいるが。

 そしてもう一人の仲間であるゆっきーはというと、熱が苦手という事で穴の外で見張り役を買って出ている。現在は永久氷晶を体に取り込んでいるので体に異常は出ないらしいのだが、

「生理的にイヤなのだ」

 だ、そうだ。まあ、ずっと生きていた中で熱とは体を害するものとして扱ってきたのならば、その嫌悪感は一朝一夕には拭えないだろう。見張り役としても体が雪でできているゆっきーは保護色…というより周囲の素材と同一であるからして、見つからないのにはもってこいである。

 もちろんそんなゆっきーをハブにする訳もなく、穴の中と外で会話は続いている。時刻は夜、であるのだが日が落ちる事はない。やや遠くなった太陽が世界を赤く染めているが、真っ暗にはならなかった。

「ねぇ、ゆっきー。ここって夜ないの?」

「聖王にも同じことを聞かれたのだ。そもそも僕たちにはよるとは何か分からないのだが…日が消えるとか? 信じられないのだ」

「私たちにとってはずっと太陽が空にある方が信じられないわよ…」

「確かアバロンが測定か何かしていて、雪の国やここ氷銀河の太陽は、沈まないとかなんとか。太陽が近づけば昼で、遠ざかれば夕方。太陽の反対方向に星や月が見える。

 白夜(びゃくや)、とかいう分類と聞いたのだ」

白夜(びゃくや)、ね…」

 エレンがオウム返しに呟きながら、お茶を啜りボソボソとした携帯食料を口にする。

 田舎娘でしかないエレンに学はなく聞いた事もない話だが、これが問題なのは知っていたのが聖王ではなく聖者アバロンだという点だろう。

 聖王家で聞いた話によれば、聖者アバロンは聖王の師であったとも聞く。武の腕も立っていたと思っていいだろう。その上で知にも優れたその人物はどのような男だったのか。

 純粋な興味と共に、彼の子孫と詩人との関わりも気になる。全く関わりのないケースもあるが、エレンの中では詩人はアバロンの系譜の者と因縁があると思っていた。アバロンの子孫その人かその強奪者かはおいておくとしても。

 その知識も受け継がれているのか、或いは奪い取ったのか。物とは違い、それらは完全に継承や強奪できるものではない。渡す側と受け取る側でどうしても齟齬がでてしまうものなのだ。

 どこまで聖者アバロンをモノにできているのか。被った聖王のかぶとに手を添えながらエレンは思いを馳せる。全て予想の範疇から外れないとは分かっていながらも、エレンは思考を止める事はできなかった。

 そんな彼女を置いて進んでいく話。

「ところでね、ところでねっ。氷の剣がある氷銀河の中央ってどんなところなのっ!?」

「僕も聞いただけの話なのだが、太陽が真上でずっと動かない場所が氷銀河の中央だと聞いたのだ。

 そしてそこはドラゴンルーラーという、竜種の王の住まいだとも聞いたのだ」

「へー、竜がいるんだ」

「えー!? 竜がいるんだっ!?」

 以前にブルードラゴンを倒した事のあるエクレアの反応は淡白であり、そうでないようせいは目を見開いている。

「大丈夫大丈夫、竜でも案外なんとかなるって」

「なる訳ないじゃん! 竜だよ竜!!」

「なるなる。前に一匹、竜を無傷で倒したし」

「……マジ?」

「マジなのだ?」

「マジマジ。ね、エレンさん?」

「……」

「エレンさん?」

「あっ、ごめん。何かしら? お茶のお代わり?」

 そう言ってナベに手を伸ばすエレンだが、全員のカップにお茶がまだ残っている事に気が付いて動きを止める。

 それを呆れた目で見るエクレア。

「そうじゃなくて! 前にブラックの洞窟でブルードラゴン、仕留めたじゃん」

「ああ、そんな事もあったわね」

「あの時は完勝したよねって話だよー。結局、攻撃なんて全然させなかったじゃん。ここにいるドラゴンルーラーとかもきっと楽勝だよね!」

 天真爛漫に言うエクレアに思わず苦笑してしまうエレン。

「あの時はウンディーネさんとブラックが居たから状況は違うわよ。それに奇襲が上手くはまって流れを捕まえたままだったのも大きいわね。

 ドラゴンルーラーとかいうのがどんな奴かは分からないけど、油断は禁物よ」

「むー。今回はようせいにゆっきーだっているじゃん。私たちだって強くなってるしさ」

「自信は持っていいけどね、過信にするなって事よ。

 ……そんな強敵がいるなら少しでも休まなくちゃね」

 そう言って話を締めくくるエレン。続いて気を遣うようにゆっきーに声をかける。

「ゆっきー。あなただけに見張りをさせて悪いわね。休みが必要だったら代わるからいつでも言って。あなただって休む権利はあるんだし」

「ありがとうなのだ。けれどもゆきだるまは暑くなければ絶好調なのだ。問題ないから休んで欲しいのだ。

 明日にはきっと氷銀河の中央に着くのだ」

「分かったわ。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね」

「お休み、ゆっきー!」

「くー」

「寝るの早いねようせいっ!」

「流石に冗談よっ」

 和気あいあいとしながらもやがて会話が少なくなり、静寂が氷銀河を支配する。

 静かが過ぎるその世界で、ゆっきーはぽつりと呟く。

「明日、なのだ…」

 

 起きて。朝食を摂り。歩く。そしてやがて着く、氷銀河の中央。

 そこには竜の王者がいた。君臨していた。

 雪を溶かしこんだような白い鱗。フーフーと息を吐く口から覗く鋭い牙。全てを引き裂きそうな爪。その巨体を空に飛ばせる事ができるだろう巨大な翼。

 それらを全て無視するようなものが二つ。一つは余りに、もしかしたら人間よりも深いかもしれない理性と知性と穏やかさを湛えた両眼。そしてもう一つは他を圧倒する威圧感。敵意さえ抱いていないのに、全てを忘れて逃げ出したくなるような圧迫を感じる。

 エレンは知らずに斧を構えていた。エクレアも既にファルシオンを抜いている。ようせいが構えた槍は先端がカタカタと震えていた。全員が全員、呑まれている。この状態で勝てる訳がない。竜の一種とは聞いていたが、この威圧感からはエレンにはむしろレオニード伯を思い出させた。人とか竜とかモンスターではない、コレは強者を統べる王の器だと。

 というか。いつの間にか臨戦態勢をとってしまっている。勝ち目がないであろうコレを相手に。エレンの背中に冷たい汗が流れるが、表情には出さない。臆していると相手に知られた時点で完全に終わりだった。

 ブルードラゴンには速さと策にて主導権をとる事ができたが、この竜王はそんな次元ではない。ただ、生物としての格だけで主導権を奪われてしまっている。

『ふむ。聖王以来、300年ぶりか』

 ドラゴンルーラーが言葉を話した。

 そう、話したのだ。この竜は人語を解し、操り使う。モンスターに分類されるであろうドラゴンにおいて言葉を語るというのは稀有に過ぎ、それだけでも脅威に値した。

 つまり。ドラゴンルーラーという存在は、この巨体と威圧を誇りながら。なお技や術まで操れる可能性があるのだ。

 四魔貴族級。

 その単語がエレンの脳裏をかすめた。フォルネウスも圧倒的な体格と人に非ざる牙や尾びれを用いていた。スコールや落雷、メイルシュトロームといった術まで操った。

 そして彼女は知らない事ではあるが、ドラゴンルーラーという存在は世界に4匹存在する。また、それと同格の竜種として聖王に打倒された巨竜ドーラとその子供であるグゥエインも。これに四魔貴族とヴァンパイアであるレオニード伯を加えた辺りが()()()()()()()()()()()モンスターの脅威といえるだろう。四魔貴族級というのであれば、確かにこのドラゴンルーラーは四魔貴族級ではある。しかしそれは人間からの観点であり、最上級の中でフォルネウスとドラゴンルーラーのどちらが上かは分からない。

 エレンは唇を噛み、痛みで正気を保ちつつ後悔する。今の今までどこかに自惚れがあった。

 自分は四魔貴族のフォルネウスを倒したと。その事実と周囲の英雄を崇める声がエレンを知らぬ間に増長させた。その増長した結果がこれである。フォルネウスを相手にエレンとエクレア、ウンディーネとボストン、そしてなにより命を燃やして戦ったブラックがいて辛勝だった。今回はエレンとエクレアだけ。エクレアはいくらかの修羅場を共に潜り抜けている為に流石というべきか、未だに戦意は喪失していないがようせいはダメだ。ドラゴンルーラーの威圧に、攻撃はおろか満足に身を守れるかも怪しい。強敵を前に戦えない命を守るというのは不可能に近い。

 そしてゆっきーは戦意すら最初からもっていないように思えた。そして前に進み出ると、言葉を口にする。

「ドラゴンルーラー、住処をお邪魔する無礼をお許し願いたいのだ」

『特に用事もない故、許そう。人間が永久氷晶を携えたゆきだるまと共にここに来たという事は、氷の剣を望んできたのだろう?』

「そうなのだ」

『望むのは構わぬが、人間共の構えからしてよほど我輩を殺したいとも思えるのだが、そういった解釈で構わないのだな?』

「いや、ただ何も説明してなかっただけなのだ」

『そうか…いや、お前からは説明もしにくかろう。聖王と同じく我輩から説明してやろう』

 そこでドラゴンルーラーはゆきだるまから視線を外し。エレンとエクレア、ようせいを見る。

『人間たちよ、よく聞け。確かに氷の剣はここでお前たちが簡単に手に入れる事はできる。しかしながら、その強さは千差万別。この場に捧げられた命と血と肉体によってその強さは大きく変わるのだ。もちろん、それらが多い程に強力な氷の剣が生まれる。

 我輩がここに住まうのもそれが理由よ。我等ドラゴンルーラーは強き武具を見守る事を喜びとする。我輩、白きドラゴンルーラーは氷の剣にそれを定めただけの話よ。

 より強き氷の剣が欲しいのならば、ここで我輩が戦ってやってもよいのだが?』

 その言葉に、真っ先に反応したのはエレンだった。

「ようせい、アンタは戦いから外れなさいっ!」

「う…うん、うんっ!!」

 エレンは戦闘が可能な精神状態にないようせいに声をかけ、ようせいは頷きパタパタと羽を動かして戦闘域と思われる場所から逃れていく。

 追従するのはゆっきー。どうやら戦う気はないらしい。残るのはエレンとエクレア。

「で。エレンさんはどーするの?」

「戦うわよ、氷の剣が少しでも強くなるなら望むところ。そういうアンタは?」

「ジョーダン。何回でも言うけど、エレンさんを見捨てる訳ないし」

「……無理はしなくていいのよ?」

「くどいって。それにこんな化け物、普通に探しても見つからないじゃん。むしろラッキーでしょ、挑戦できるなんて」

 好戦的な笑みを浮かべるエクレアにエレンは苦笑しかできない。本当に、良い性格をしている。

 エレンはブラックの斧を構える。エクレアはファルシオンを構える。ドラゴンルーラーは牙を剥く。

『死ぬ覚悟は良いのだな?』

「悪いけど…」

「死ぬ気はないわねっ!」

 激戦が始まった。己の慢心から戦わなくてはいけないとしても、エレンに引く選択肢はありはしない。氷の剣を手に入れなくてはアウナスと戦う事も出来ないのだから。

 

「太陽風っ!」

 初手はエクレアの術、しかもこれはただの太陽風ではない。熱だけを高めて放射する太陽風という術に蒼龍術を絡めて、狭めた範囲に更なる熱流を巻き起こすという合成術だ。その範囲はエクレアの思うままであり、町全体をほんのりと温める事も出来れば、単一を瞬間で炭化させる事も可能である。

 今回の相手は巨体のドラゴンルーラーだから瞬時に燃やし尽くすという事はできないだろうが、相手はこの雪原に適応した訳であるからして冷気には強いだろうから、熱には弱いだろうという考えだ。

 それが正しいかどうかは分からなかったが。

『カァッ!!』

 ドラゴンルーラーは即座に対応する。冷気を口から吐き出し、襲い掛かる熱を相殺する。

 いや、相殺などと甘いレベルではない。エクレアの太陽風を侵食し、逆に凍えさせる息吹を彼女に到達させようとする。

「っ! 再生の風!!」

 攻撃が効果なしと悟ったエクレアは瞬時に守りに入った。今度は太陽術の再生光と蒼龍術のサクションの合成術。対象の気力を奪い取るサクションを周囲に撒き散らし、その回復力を再生光に上乗せする。これにより冷気の勢いは僅かに衰え、それに削られたエクレアの体力回復は上昇する。

 余談だが、これらの合成術の監修はウンディーネが行っている事を追記する。武器と術の合成はエクレアの感性によって為されてるが、術に関してはその道の第一人者であるウンディーネなくしてここまでの成長はできなかったであろう。

 これらをフォルネウスに行えずにドラゴンルーラーに行えたのにはいくつかの理由がある。

 まず最大の理由はドラゴンルーラーに殺す気がない事。戦う結果死ぬくらいは当たり前に思っているが、殺しにかかってきているフォルネウスとは違って術の詠唱を許しているのが良い証拠だ。合わせて後衛の術師を守る為にエクレアが前衛に出る必要もない事もあげられる。そしてエクレア以上の術師であるウンディーネが在籍しておらず、まずはエクレアが術で先手を打つのが悪手ではない事も重要だ。これにより、エレンよりも術の得意なエクレアがこの役目を負うのは相対的に当然だろう。

 つまりそれは。これを目晦ましにしてエレンが初手にして奇襲、最強の攻撃を仕掛ける事にも繋がるのである。

『!?』

 ドラゴンルーラーが気がついた時には遅かった。吐き出した冷気の対象が二人ではなく一人であること、相手の内一人が斧を振りかぶって頭上に飛んでいること。

「マキ割ダイナミックッ!」

 強烈な斧の裂斬がドラゴンルーラーの肩口に突き刺さり、浅くはない傷を与えていった。

 そしてドラゴンルーラーの真下、腹口に乗り込んだエレンは氷の斧を作り出し、次々に無防備な腹部に投擲していく。トマホークの連投、これをメガホークという。

『ヌルいわぁっ!!』

 ドラゴンルーラーはズグンッと全体重をかけた前脚で真下に居たエレンをふみつける。単純な体重差によるふみつけは単純だが必殺だ。ここが大地よりも柔らかい雪ではなかったら、エレンは即死だっただろう。

 幸いというべきか、大きく下にめり込むだけでエレンは死ぬ事はなかった。しかしその重量と雪の圧力によって意識が消えかける。

 そしてもう一つ忘れてはいけないのが、ここにはもう一人ドラゴンルーラーに敵対する相手がいるということだ。

「デミルーン!」

 曲刀による鋭さを最大限に生かしたその斬撃は、エレンに圧力を加え続ける前脚を深く切りつける。

 たまらず後退し、エクレアを睨みつけるドラゴンルーラーだが。睨みつけるという行為が無駄である。一瞬の隙も見逃さず、エクレアは次の攻撃に入っていた。

 それは逆風の太刀の似て非なる技。切り払いと呼び戻しを合わせた二連撃。

「龍尾返しっ!」

 エクレアは気が付いていなかったが、疾風剣と同じく剣技の一つの到達点。攻撃とほぼ同時に守りの位置まで剣を戻せるこの技は、堅牢な重装歩兵の神技と言われる程である。まあ、重すぎる装備を纏った上でこの技を繰り出せるからこそであるからして、そこまで重装備でないエクレアが使ったとしても神技と呼ばれる事はないだろうが。

 とにもかくにも攻撃と共に防御の態勢に入れたことはエクレアにとって僥倖であった。ドラゴンルーラーは斬撃に気を留めず、その鋭い爪を振り上げていたのだから。

 間に合った防御の剣を振るい、その爪撃をパリィするエクレア。一瞬遅ければ間に合わなかっただろうそれに冷や汗が頬を伝う。

 そして片方が守りに入ればもう片方が攻撃に回るのがこの二人のスタイル。集気法で最低限の体力を回復したエレンはエクレアに集中しているドラゴンルーラーの背後に回り、練気拳を発動させる。眼前の小さき者に爪をかざしていたドラゴンルーラーは思わぬ背後への吸引力に体勢を崩し、大きな隙を晒してしまう。そしてそれを見逃す二人ではない。

 何度も練習した交差する斬撃。エレンは斧を振りぬき、エクレアは曲剣で切り裂く。

「「ツインビーラッシュッ!!」」

 爪を折り、鱗を剥がす。

 苦痛の声は、ない。

『ふむ』

 ドラゴンルーラーに痛みはない。しかしそれは被害がないという事ではない。片方五爪、両脚十爪のうち一つが根本から剥がれ落ちている。単純計算で一割の攻撃力が落ちている。

 また、防御の要であるその純白の鱗も多く剥がされている。これ以上刃が喰い込めば、それは重要な臓器を痛ませて死に至らせる要因となるだろう。

 ――それがどうした。

 死ぬのが嫌ならば戦わなければいい。だがしかし、それでは(かて)は得られない。

 戦うのが怖ければ逃げればいい。だがしかし、逃げ切れる保証はない。

 結局。戦わなくてはならないのだ、勝たなくてはならないのだ。それが原初の掟。生物に刻まれた、喰わねば生きられない(さが)

 ドラゴンルーラーは獰猛な笑みを浮かべ、体全体でぶちかますグライダースパイクの態勢をとる。エレンとエクレアはそれに臆さず、迎撃の態勢をとる。体格差では合わせても不利。ならば技術にて、連携にて優位をとる。

 突進の一撃が勝つか。重ねた連携と技術が勝つか。

「そこまでなのだっ!」

 その刹那、ゆっきーが声を張り上げた。

 唐突に終わりを告げる声に、まず構えを解いたのはドラゴンルーラーだった。

『ふむ。久方振りの良き戦いにて少々我を忘れたようだ』

 反撃の機会を勝機としていたエレンとエクレアも、臨戦態勢を維持しながらも警戒は解かない。不意の一撃を受ければ終わるのは彼女たちなのだ。この程度の用心は当然と言えるだろう。

 蚊帳の外に置かれたようせいだけがその光景を見守っている。

「この場には十分に強力な氷の剣を作る素養が備わったのだ、これ以上を望むのか?」

 ゆっきーの言葉に真っ先に反応したのはドラゴンルーラー。

『説得力はないが、我輩は挑まれれば受ける。戦わぬ者に振るう爪はない』

 困惑するのはエレン。

「……無駄な血は流したくないわ。けど、これでいいの?」

「ん~。楽しかったし、もっと戦いたいけど」

「エクレア、アンタは黙ってて!」

 火に油を注ぎかねないエクレアの言葉を叩いて鎮火させるエレン。正直、どちらかが死ぬまで戦うなどとはエレンの目的から外れ過ぎている。彼女の目的はゲートを閉じる事であり、誰かの命を奪う事ではないのだ。

 それが叶う事ではないとは知らずに。

「これでいいのだ」

 ゆっきーは戦いの中心。エレンとエクレア、そしてドラゴンルーラーの間に体を進める。

「ゆっきー…?」

 エレンの言葉には答えない。ゆっきーはその場で全ての術力と、そして生命力を解放していく。

「ゆっきー!?」

―氷の剣とは最強の武器。場に残る力を吸収し、命を紡いで刃と為すのだ―

 ゆっきーの言葉はもはや残らない。その雪の体を失い、その場に集まる全てを結晶化し。ゆきだるまとしての存在を終わらせる最期の断末魔として心に響く。

 しかしてそれは、死に際の言葉としては余りにも穏やかで爽やかな口調だった。

―最低限は永久氷晶、そしてゆきだるまの命。

 合わせてこの場にある戦いの血や精神が僕を強くする。永久氷晶を合わせた氷の剣は融ける事はないのだ―

 エレンの流した血が。エクレアの放出した魔力が。ドラゴンルーラーの断たれた爪や鱗が。

 ゆっきーがいた、全てを集め白く発光するその場に集まっていく。そしてそれは一体となり、やがて一振りの剣となる。

 かつて、聖王が手にしたという最強の武器。ゆきだるまが友と認めた相手に対して、その命を代償に与える冷厳なる一振(ひとふり)

 

 

 

 

 

     氷の剣

 

 

 

 

 

 歩み進んだのは、エクレア。

 まるでそれが自然であるかのように、激戦区であったその場に残ったそれを手にする。

 同時に流れ込む情報。これは使い手と命を共にする剣であり、手にした者が死ぬまで溶ける事はない。例え砕ける事はあってもだ。

 そしてこれが聖王遺物として残らない事も理解する。聖王が死ぬと同時、その氷の剣は散ったのだろう。エクレアが死んだと同時にこの(・・)氷の剣が死ぬのと同じように。

 使い手と命運を共にする氷の剣。それが最期に言葉を遺す。

 

 ―ずっと一緒なのだ―

 

 それが氷の剣としてエクレアと全てを共にする、ゆっきーの言葉だった。

 

 

 

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