詩人の詩   作:117

68 / 107
今日で連載から一年が経ちました。

総文字数 563889文字
UA 72045
お気に入り 764件
感想数 178件
総合評価 1906

お付き合い頂いている皆様に、感謝を。
夏は不調な時もありましたが、平均して5~6日に一度の更新ができているのも、いつも拙作を呼んで下さったり、感想を書いて下さる皆様のおかげです。スランプから脱出できつつあるようで、嬉しく思います。

では、最新話をどうぞご覧ください。


アウナス編
068話 西部戦争


 

 

 レオニード伯から情報を仕入れた一行は、ランスの宿へ戻り再び話し合いを始める。もうすっかり夜も更けているが、むしろここからが本番だ。これまでの話は過去や現在の情報をすり合わせただけであり、これからする話は先を決める事になる。

 各々に思惑はあれど、大きく共通する目的は三つ。フルブライトとドフォーレの戦争、アウナスの討伐、そして聖王遺物を強奪するマクシムスへの対処。

 その中でまず、ようせい以外が関わり合う、もしくは関わり合いたいのは戦争の話だった。

「……あたしたちが軽率だったから」

「……ごめんなさい」

 しゅんと項垂れるエレンとエクレア。自分達が大勢の人を巻き込む戦争を起こしてしまったという自覚が出たからの行動だったが、意外というかそれに厳しい視線を向ける者はいない。

 シャールは少し難しい顔をしつつも、穏やかな口調で話しかける。

「確かに省みる点は幾つかあるだろうが、君たちがそこまで責任を感じる必要はないだろう。フルブライトとドフォーレの仲の悪さはその筋では有名だ。何かの拍子に戦争が起きても不思議ではない。

 それにドフォーレが人間をエサにモンスターを飼育していたなど、外道と言わざるを得ん。その被害者を助ける為に動いたとなれば、むしろ当然だ。そのような人間と行動を共にできて、騎士としては誇らしく思う」

「強大な相手だからと悪事を見て見ぬふりをしなかったのですから、素晴らしいと思いますわ」

 ミューズもシャールに続いて二人の行動を褒め称えた。

 そして一番彼女たちの行動を責められないのはようせいだろう。何せ、まさにドフォーレに喧嘩を売って助けられた張本人なのだから。

「むしろあなたたちを責める人がいたら、私はどうなってもいいのかって話になるわよ。怒らないし、怒らせないわ」

「戦争とは起きる時には起きるものです。私欲を満たすために起こしたのでないなら、責められるべきではないと思います」

 リンも一緒になって意見を言う。彼女としてはほとんど縁のない西の地での戦争であるからして、一番事情や感情に支配されない意見であると言えるだろう。

 そしてまたユリアンやモニカも、言い方は悪いが何か騒動が起こった方が得であるとも言える状況だ。0からの成り上がりなど、平時では為しえないのだから。

「俺も文句はない。ツヴァイクを超える価値を示すなら、手柄をあげる好機にもなるしな」

「わたくしもですわ。起きてしまった戦争の原因を責めるよりも、起きてしまった戦争を早く収束させる事を考える方が建設的ですもの」

 ユリアンとモニカが続けて言葉を発する。残るのは詩人だけ。

 彼はやや怒気を感じさせる表情をしていたが、それはエレンやエクレアには向いていない。

「……当事者として責任がないとは言わないが、今回はお前たちをヤーマスに向かわせて場をかき乱そうとしたフルブライトが責任者だろう。もちろん、やりたい放題やっていたドフォーレもな。文句はそっちに言う」

 少なくとも、この場にいる者たちからは責められないと言われたエレンとエクレアはほっと息を吐いた。彼女たちとしては特に詩人に怒られなかったのが大きいだろう。その強さももちろんながら、鍛えてもらっている立場として嫌われなかったというのは心情的にも大分楽になる。

(ったく。この戦争で宿命の子が死んだらタダじゃおかないぞ)

 その詩人の内心は、かなりささくれ立っていたが。

 それぞれの心のうちはともかく、話は次へと移っていく。すなわち、戦争にどう関わっていくかだ。

「改めて聞くが、本当にレオニード伯爵の言葉は信じられるのか?」

 念を押すのはシャール。ピドナで相応の地位についていた彼にとって、レオニードはモンスターの一種という感覚はどうしてもついて回る。

 それに素っ気なく返す詩人。

「信じられなければ勝手にすればいい。強制はしない」

「私の感覚だけど、レオニードさんって詩人さんには結構心を許してた感じだったよ。騙そうとはしないんじゃないかな?」

「わたくしも以前レオニード伯爵にお世話になりましたが、何と言いますか、世俗に余り興味を示さないお方でした。情報を集めるのも無聊を慰める為と。

 こちらを偽る意味が伯爵にはないと思います」

 続いてエクレアが、そしてモニカが援護する。

 シャールとしても他の情報がある訳でもなし、とりあえず半信半疑ながらもレオニードの情報が正しいものとして話を続けていく。

「フルブライト側についたのが、まずは当然ながらラザイエフ。そしてトーマスカンパニーも伝手を使ってツヴァイク軍を出させる事に成功、他の商会などの4割弱はこっちについた。

 対してドフォーレ側についたのはルートヴィッヒ、他の6割強の商会もついたがこっちの方が大粒で影響力が大きいのがおおいな。

 そして中立を決め込んでいるのは神王教団やロアーヌか」

 さて、この状況でどちらに彼らが付くかは決まっている。

 声を出す全員が揃う、フルブライトと。

「ルートヴィッヒがドフォーレに付いた時点で、そちらに手を貸す選択肢はありません」

「っていうか、ドフォーレって私を監禁してくれやがった奴らでしょ? 仕返しは倍なんだからっ!!」

「あんな悪辣な事をする輩にあたしが手を貸すなんてありえないわ」

「同じくですわ。それにロアーヌはフェルディナンドさまを祖とする血筋、力を貸すならば当然フルブライトです」

「私は…一身上の都合で、ラザイエフが困るのは…ちょっと」

「俺もフルブライトとはそれなりの伝手がある。まあ、貸すならそっちだろう」

「西に来たばかりだし、詩人さんに付きます」

 やや言いよどむエクレアの事情を詩人だけが知る中、ここは意見が割れる事無くまとまった。

 後はどう参加するかだ。

 詩人が大まかな方針を口に出す。

「俺としてはアウナスの方に早く手を出したいし、被害が拡大する前に事態を鎮静化させたい。早期決戦を希望する」

「他の勢力を集めるってこと?」

「いや」

 エレンの言葉を否定する詩人。もしそうするならば、レオニードに更に貸しを一つ作って彼の力を借りただろう。

 そうしないとなれば、答えは一つ。

「剣を抜く」

 意味が分からない人間の頭には疑問符がつく。

 意味が分かった人間の背筋には冷や汗が伝う。

 詩人は槍一本でもってフォルネウス軍全てを蹴散らしたといっていい。それよりも得手とする剣を抜き、敵対する全てを斬ると言っている。それが最速で最善だとも。ただ平坦に告げた言葉は、理解できたならば死神に目をつけられたに等しいだろう。今は詩人の味方であった事を感謝する他ない。

 だが意味が分からない者としては他の手を、自分で最善の手を打たなくてはならない。それを思いついたのはミューズだった。

「つい先日、ファルス軍と接触できました。私をお父さまの、クレメンスの娘として旗頭にするならばルートヴィッヒと対抗する勢力を出そうとも言っていました。

 今回、ルートヴィッヒはドフォーレに付いています。ここで私がファルス軍の旗頭として名を貸し、フルブライトに付くように要請しましょう」

 ファルスはルートヴィッヒを敵視しているが、対してルートヴィッヒには敵が多い。ルードヴィッヒにとってファルスはその他大勢の一つだろうが、それがファルスには面白くない。心情としてはこちらを敵視させた上で叩き潰すのが最上だろう。

 その為の、ファルス軍に目を向けさせる効果としてクレメンスの娘という立場を使うのだ。ランスに来るまではその策は使えなかった、ルードヴィッヒがファルスのみに視線を向けてしまえばファルスは一たまりもないとシャールが判断した為だ。しかし今は状況が違い、ルードヴィッヒもファルスも規模が違えど勢力の一つに過ぎない。それぞれに入り混じり、そして相手を打倒してしまえば主導権はこちらが取れる。それは間違いがなく、そして強かな判断だった。ルードヴィッヒに大きく反抗するには、今が最高の好機といえるだろう。

 となると、戦場へ向かうルートは自ずと決まってくる。ヤーマスを通らず、ファルス軍に話を通し、ウィルミントンに至る。西進せず、詩人たちが来た道を通って南下し、ファルスに至って話をつける。そのまま船でウィルミントンに行くのだ。

「俺としてもどこかの大都市でフルブライト商会と一度接触しておきたかった。ファルスに寄るのは問題ない」

 詩人の言葉でもって話はまとまる。明日は早くにランスを出てファルスに向かう。時間が惜しい旅でもあるので、今回は荷運び(バイト)は無しだろう。

 そしてファルスを味方に付けて、ウィルミントンのフルブライトと接触して戦争に参加し、速やかに勝つ。

 最後が難しいと思うか、最後が簡単と思うか。その認識の違いはもちろん詩人の剣の腕を知っているか知らないかである。具体的に言えば、エレンとエクレアとリンがその点を全く心配していなかった。

「戦争で手柄をあげる……。大舞台だな」

 かたかたと武者震いする自分の手を見るユリアンを、エクレアは可哀想な人を見る目で見ていた。悪意はない。ないが、知らないとはここまで哀れなものなのかと。

 そんなユリアンに気楽な声をかける詩人。

「頼りにしているぞ、ユリアン。人手は多い方がいい。

 エレンにエクレア、鈴にようせい。できればお前たちにも手伝ってもらいたいが」

「あたしが原因みたいだし、そりゃ手を貸すわよ」

「もんだいなーし」

「私もいいですよ。人の相手も慣れています」

「お、王様のお言葉なら喜んでっ!」

 快諾の返事で一段落。話題は次へと移る。

「で、だ。無事に氷の剣を手に入れたのはよかったが……」

 詩人の視線が氷の剣と、そしてエレンが被っている聖王のかぶとへと移る。

「……エレンも聖王遺物を手に入れたか」

「何よ、悪い?」

「悪くはないが、良くもない」

 ここまで来たら知らせない方が危険だろうと、詩人は闇にて蠢くその男の名前を告げる。

「海賊ジャッカル、今は名と身を隠して神王教団幹部のマクシムスと名乗っているが、その男が手段を選ばずに聖王遺物をかき集めている。場合によっては相手を殺すケースもあった」

 顔が強張るエレン。それと同時、声を上げてしまうのはモニカ。

「では、マスカレイドも!?」

「マスカレイド?」

 耳に届いた言葉にユリアンが素朴な疑問をあげる。

 そしてしまったと悔やむ表情をするモニカ。同時、察したユリアンが驚愕の表情を浮かべた。

「まさか、カタリナさんもマスカレイドを奪われたのですかっ!?」

「ち、違います。あの、その、カタリナにも、注意をしなければ、と……」

「モニカ、減点。もう誤魔化せないぞ、それは」

 詩人のため息交じりの声に、唇を噛むモニカ。

「じゃあ、やっぱり?」

「ああ。聖王の槍は確実に、マスカレイドも恐らくは。俺の妖精の弓も狙われたし、この調子だと他の聖王遺物も集めているだろうな……」

「他の聖王遺物って何があるの?」

 エレンの疑問に答えたのはシャール。

「聖王遺物と言われるものは数多いが、格というものはあり、最高のものは幾つもないだろうな。

 武器で言えば筆頭は聖王の槍と七星剣、ルツェルンガードや妖精の弓辺り。それぞれ、四魔貴族を倒した武器だ。後は聖王さまが生涯手にしていたと言われる氷の剣か。フェルディナンドさまの奥方であるヒルダさまに賜れたマスカレイドや栄光の杖もあげられる。

 防具としては聖王さまが身に着けてらっしゃったもの。聖王のかぶと、聖王のブーツ、銀の手、王家の指輪や聖杯が有名か。鎧や盾は度重なる戦いで壊れるものが多く、遺ってはいないと聞いたな」

「氷の剣は使い手と命を共にするらしいからね、ゆっきーもそうらしいし。聖王が持ってた氷の剣はもう残ってないんじゃない?」

 エクレアの聖王に対する容赦のない言葉に少しだけ眉が動く者もいたが、まだ幼い少女である事と氷の剣を手にしている事から見送られる。

 ちょっとだけ険しくなった雰囲気を割くように詩人が声を上げた。

「ここにあるのは妖精の弓と氷の剣、銀の手と聖王のかぶとだな」

「向こうにあるのは聖王の槍とマスカレイドが確実ね」

「行方が分からないのはルツェルンガード、七星剣、栄光の杖。聖王のブーツに王家の指輪。そして聖杯」

「その中の幾つかは相手の手中に収まっていると考えた方が妥当だろう」

 言葉にしていくうちに段々と実感してくる。これは聖王遺物を持った者同士の争いであり、ただでは済まないと。

 下手をすればフルブライトとドフォーレの戦争に匹敵するかもしれない大混乱を引き起こすかも知れないという事を。

「聖杯はレオニードが持っていた。あいつの性格からしてまだ手元に残っているだろうな。聖杯を持つ人間がいたら、それだけでレオニードはそいつに服従しかねない。そしてレオニードが敵対するなら、俺の妖精の弓を狙う数は激増している」

「フルブライト商会には何か聖王遺物が遺されていないのかしら?」

「バンガードを動かす為のオリハルコーンがそれに当たる。300年の間に他の聖王遺物がどうなったのかを知るのは難しいだろうな」

 ミューズの言葉には詩人が答えた。つまり、他の物の行方に心当たりはないのだ。どれだけジャッカルが聖王遺物を入手しているのかは分からない。

「守るのも大事だけど、攻め手はないの?」

「そっちはカタリナと、レオナルド武器工房のノーラに任せてある。ジャッカルが重罪人であるという事実を元に摘発する準備を整えているはずだ。

 ひとまず俺たちは手元にある聖王遺物を守り、四魔貴族を撃退する事に集中すればいい」

 詩人の言葉で話題がアウナス討伐に移る。

 とたんに空気がピリリと張りつめた。

 アウナス討伐を希望するユリアンが視線を鋭くし、それに頑なな反対をするエレンの表情がなくなる。

 その空気を全員が感じ取り、代表してシャールがため息を吐きながら場を締めた。

「まあ、その話はフルブライトとドフォーレの事が終わってからでいいだろう。

 そちらが終わらないと話が進まない」

 遅くなってきたこともあって、そろそろ休まなくてはいけない。明日は早くからファルスへ向かって行かなければならない。

 休息の時間は少しでも多くとるべきだった。

 

 

(眠れない……)

 ベッドで横たわっていたミューズの目は冴えてしまっていた。

 急激に変わる環境。今までは疲労で落ちていた瞼も、今日聞いてしまった緊張する情報で働いてくれない。同室ではすーすーと寝息を立てるモニカの音が響くのみである。

(少し散歩でもしようかしら)

 このままでいても体は休まらないと思ったミューズはむくりと体を起こす。

 それと同時。ばさりと布団がはだける音がした。

(眠れませんか、ミューズさん)

(リンさん……)

 暗がりの中、僅かに見えるリンの顔には思いやりが浮かんでいた。声はモニカを起こさないように小さいものであるが。

(私には事の大きさは分かりませんが、ミューズさんには大変な事なんですね)

(……ええ。原因の一つに、私の父が暗殺されてしまった事があるように思うの)

 クレメンスが暗殺されなければピドナの実権をルードヴィッヒに奪われる事はなかったはずである。そうなればフルブライトとドフォーレの戦争も、ピドナとウィルミントンとリブロフの連合によって圧殺する事も可能だっただろう。いや、その前に形勢不利を悟ったドフォーレが敵対しないというケースも十分あり得る。

 一人の人間が居るか居ないかだけでこうも大きくIFの話は広がってしまうのだから、世界の不思議さを感じられずにはいられない。ミューズは思わず苦笑してしまう。

(でも、今は変わりません)

(ええ、それは分かっているつもりよ。けど、どうにも緊張してしまって……。

 少し外を散歩して頭を冷やしてくるわ)

 起き上がるミューズ。起き上がるリン。

(リンさん?)

(私もついていきますよ。少しは強いんですよ、私。敵が襲ってきても私がいれば大丈夫です)

 気を遣って貰っていると分かったミューズは微笑みを湛えた笑顔で外套を二つとり、そのうちの一つを羽織ってもう一つをリンに渡す。

 そうして二人はモニカを起こさないように、静かに夜の散歩に出るのだった。

 

「「さむいっ!?」」

 雪国の夜中を甘く見ていた二人は、部屋を出た途端にそう漏らしてしまう。

 個室や大部屋は暖炉に火がくべられているが、廊下はそうもいかない。見える窓の外では雪が燦々と散っていて、更に気温が低い事を示していた。

 この状況で宿の外に出るのは馬鹿のやることだと、お互いに顔を見合わせて笑う。

「食堂に行って暖かいお茶でも飲みましょうか?」

「それがいいですね」

 温かい飲み物を飲むだけで十分に気分は変わる。ハーブティを飲めば寝付きも良くなるかもしれない。

 食堂ならば夜通し暖炉には火があり、湯を沸かすのにも苦労はしない。足の先を食堂へと向ける二人だが、そこに近づくにつれて歌声が耳に響いてきた。

 

 

 彼の岸にいる君を想おう

 此の島にいぬ君を想おう

 

 想いを交わした君 最愛の君を想おう

 私の傍を離れた君は恨むまい

 私が恨むはあなたを曇らす黒い雲 未だに心を閉ざすその悲しみを恨むだろう

 愛しいあなた 愛するあなた いつか心から笑える日こそを私は願う

 私の全てはその為に あなたの全てはその先に

 

 全ての子等よ 今は笑え

 やがてくる悲しみを乗り越えた先 汝らにどうか慈しみの光があらんことを

 

 

 食堂の前で二人の足が止まる。食堂の中から聞こえた詩を止めないようにと。

 だが中にいた人物には廊下を歩いていた女性達の事はお見通しだったらしい。

「鈴とミューズか。廊下は寒いだろう、入ったらどうだ?」

 食堂から聞こえてくる詩人の声。確かに廊下は外気と壁一つである。寒いというならとても寒い。そして別に中に入って悪い訳でもなく、むしろ入らない理由はない。

 中に入ったら果たしてそこには詩人がたった一人で座り、お茶を飲んでいた。

「明日からも大変だぞ。早めに休んだ方がいい」

「ちょっと眠れなかったのですわ。気分を落ち着かせるお茶でも飲もうかと思いまして」

 照れた笑いを浮かべながらミューズが言う。それにやんわりとした笑みを浮かべる詩人。

「ならハーブティーでも淹れよう。鈴もそれでいいか?」

「ええ。ありがとうございます」

 詩人が席を立ち、暖炉の傍へと向かう。そこでお湯と茶葉をポットに入れて戻る間に、ミューズとリンは椅子に座る。

 そして配られるお茶を飲み、温かい息を吐く。

「詩人さん、相変わらず歌が上手いですね」

「まあ。一応、詩人と名乗ってるしな」

「いい歌でした。何と言う曲なのでしょうか?」

「愛の歌と、世間では言われています」

 リンの疑問に答えるのはミューズ。

「聖王様が歌った歌として有名で、四魔貴族を倒して世界を復興する最中によく歌われていたとか。

 真偽の程は、レオニード伯爵ならご存知かも知れないですね」

「さすがクラウディウスの跡取り娘。素晴らしい教養だ」

「ご冗談を。一般常識ですわ」

 くすりと笑うミューズ。

「へぇ。じゃあ、ミューズさんも歌えるの?」

「ええ、まあ、一応は歌えますよ」

「ミューズさんって声が高くて綺麗だし、歌ってみてよ。西の歌、もっと聞きたいな」

「……では、失礼して」

 こほんと咳払いをしてミューズは歌いだす。

 リンが思った通りの高く澄んだ声が、愛の歌を歌いだす。

 興が乗った詩人も歌いだす。ミューズの歌声を邪魔しないように、盛り立てるように、曲を口ずさむ。

 楽器は乗せない中で、二人の男女が奏でる愛の歌。それを聞く観客は唯一人、はるか東から来たムング族の娘。

 

 遠くでは戦争が始まっているだろうが、それでも雪の町の一室では優しい空気が作られていた。

 はるか昔に作られた歌が、今を生きる人々の心を癒していく。

 この夜が明けるまで。明日からはまた激しく生きなければならない彼女たちの心を、せめて今宵くらいはと愛の歌がゆっくりと労わっていく。

 

 しんしんと降る雪。

 静かな夜は更けていく。

 

 

 




あ、聖剣3小説の投稿も始めました。
完結までは詩を主に書いていきたいと思いますが、よかったらそちらも読んで下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。