詩人の詩   作:117

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これから年末年始にかけて忙しくなりますが、頑張っていきます!


071話

 

 コンコンとフルブライトの執務室のドアがノックされる。

 現在、フルブライト商会とドフォーレ商会は戦争状態にある。そして戦争状態にあるからといって他の業務がなくなる訳でもない。むしろ補給線の確保や市民の安心など、心を砕かなければいけない案件は多い。もちろん戦争に負けては全てを失ってしまう為に戦いにも全力だ。

 そうなってしまえば普段以上に体を酷使したとしても間に合う訳がない。フルブライト商会は、そしておそらくドフォーレ商会も新規開拓などを停止して今現在の問題に全力を注いでいる。そうなってしまえば視察などに出る余裕がある訳もなく、それぞれの拠点で執務の為にカンヅメになりながら身を粉にして働くという事になる。

 そのような状況なのだから、フルブライトの元には最重要案件としかいえないような事柄しか通される事はない。今度は何事かと、誰も居なかったが故にしていた疲れた顔を隠し、声をかける。

「入れ」

「はい、失礼します。詩人様が他数人と一緒にお見えになりました。中にはエレン・カーソン様、エクレア様。モニカ・アウスバッハ様。ミューズ・クラウディウス様、シャール様もいらっしゃいました」

「! そうか」

 この状況において詩人が訪れてくれたというのは非常に大きい。どちらに流れがきてもおかしくない拮抗状態、フルブライトが力において最も頼りにする詩人が来たのはもちろん、フォルネウスを倒した英雄であるエレンとエクレア、中立を決め込んでいるロアーヌの妹姫、クラウディウス家の忘れ形見。どれもこれも事態を好転させるのに明るい材料となる。

 報告しにきた執事にさっそく指示を出す。

「すぐにこの執務室に連れてきてくれ」

「しかし、全員で9名にもなる大所帯ですが、ここは少し手狭ではないですか?」

「何? そんなに居るのか?」

「はい。それと詩人様はウンディーネ様とも会いたいとおっしゃっていました。合わせると11名になります」

 フルブライトの執務室は簡単な話し合いができるように、ソファーやテーブルも置かれている。しかし座れて6人といったところで、11人ならばキャパシティーは完全に超えてしまっている。重要な話し合いをするにはあまりよろしくないだろう。

「分かった。第一会議室に案内してお茶と茶菓子を振るまっていてくれ。

 それからウンディーネとも会いたいと言っていたな。その旨を彼女に伝えて第一会議室に来るようにお願いしてくれ。私も仕事が一段落したらすぐに向かう」

「承知しました」

 一礼して部屋を辞する執事。

 ウンディーネは戦争が始まると同時、フルブライトが真っ先に協力を依頼した一人である。術は陸戦にはもちろんだが、海戦に圧倒的なアドバンテージを誇るのは前述の通りであるからして、縁がある彼女に協力を依頼しないという選択肢は存在しない。

 かくしてウンディーネはそれを快諾。かなり吹っ掛けて来たのは仕方ないとしても、貴重な術師が大量に手に入った。海戦用に訓練をする為、有望な術師と共に彼女がウィルミントンに来て作戦会議に参加してくれたのは嬉しい誤算であった。参謀の一人として雇う事になり、さらに毟られたのは苦笑いだが、有利になる為ならば必要経費だろう。フルブライトはモウゼスを抱き込む金に糸目をつけることなく、快く支払っていた。

 この上で詩人達をも抱き込めればこの戦争で勝ちの目が大きくなってくる。そう考え、フルブライトは心を弾ませながら至急に終わらせる仕事だけをこなしていく。

 やがてフルブライトは執務室を出て、第一会議室へと向かう。足取りは軽く、彼がよほどこの会合に期待しているといえた。

 辿りついた会議室のドアをノックして入るフルブライト。

「失礼するよ」

「壮健そうで何よりだ、フルブライト」

 そこには言われた通りの人数。ウンディーネも到着していたようだし、妖精族に見慣れない服装の娘。ミューズにシャール、モニカにその護衛らしき男。エレンにエクレア。そしてにこやかな笑みを浮かべた詩人。

 その表情から、詩人が激怒していることを感じ取ったフルブライトの浮ついた気分は一気に醒めて、背筋に冷や汗が伝う。詩人は怒らせると、それはもう本当に怖いのだ。以前に彼の名前をアバロン11世と知る為に嵌めた時など、その後しばらくウィルミントンに運ばれる荷が謎の襲撃者によって幾度となく燃やされる事件が起きた。フルブライトが詩人に頭を下げてからその事件は沈静化したが、その損害とプレッシャーは今でも思い出したくない。思い出したくないのだが、今正にそのプレッシャーを詩人から感じている。

「こちらこそ。ウィルミントンまで来てもらって心底感謝しているよ、詩人」

 フルブライト商会の会議室で2人の男が醸し出す冷たい風が吹きすさんでいた。そしてそれを見るしかない周囲の人々。

 口火を切るのはにこやかな顔をした詩人。

「どうやら楽しそうに遊んでいるみたいじゃないか、フルブライト。人手が必要かと思って来たんだが、お邪魔だったか? 急ぎの用事もあってな、すぐにも立ち去った方がいいか?」

「いや、悪かった。お前の目的にそぐわない事をしているのは自覚しているつもりだ。浅はかな事をしたと思っている、私が悪かったのも認める。その上で頼む、どうか手を貸してくれないか?」

「謝るのは俺にだけか?」

 全力で頭を下げるフルブライトに詩人は容赦しない。まだやらかした事があるだろうと暗に責め立てる。

 心の中でため息を吐きながら、フルブライトはエレンとエクレアに向き直って彼女たちにも深く頭を下げた。

「エレン、エクレア。君たちを利用した事を認める。どうか、許して欲しい」

「え、あの、その…」

「謝るだけなら誰でもできるしー。もちろんそれだけで済まそうと思ってないよねー?」

 フルブライト商会会頭に頭を下げられるという珍事にエレンは動揺してしまう。確かにフルブライトには上手く使われてしまったようだが、エレンとしては戦争が起こってしまった事はともかくとして、ドフォーレ商会の闇を一つ叩き潰せた事は決して悪い事と認識していない。どうしたらいいのか分からなくなってしまう辺り、やはり彼女は腕はともかく根はまだまだ田舎娘だった。

 対してエクレアの根は大商会、ラザイエフの娘である。相手が全面降伏しているならば更に叩くという、政治や商売の基本はきっちり抑えていた。

 エクレアがラザイエフの娘、タチアナだと知っているフルブライトはそのくらいは分かっている。だからこそ、はいごめんなさいと終わらせるタマでもない。

「もちろんだ。なんなら、君の御父上に謝罪する準備もある」

「!」

 エクレアの顔色が変わる。エクレアの母は既に亡く、親は父しかいない。そして自分は家出をした身、下手に話が通ってしまえばどうなるのか分かったものではない。

 フルブライトがそこを分かった上で言っているのは明白だった。つまり、彼はエクレアの正体に感づいている。

 謝罪する体で脅迫しているフルブライトに、詩人は溜息を吐く。

「フルブライト?」

「対価としては悪くないと思っているが?」

 つまりこれは、エクレアの事を実家に黙っているという取引なのだ。

「分かったわよ。でも、ちゃんと戦争に参加する分は貰うからね」

「収めてくれて嬉しく思う」

「あ、エレンの分は残っているのは忘れるなよ」

「……分かっている」

 詩人は多少落ち着き、エクレアは憮然としながら矛を収め、フルブライトは波を一つ越えたと胸を撫で下ろし、エレンの頭上にはハテナマークがついている。

 ひとまず過去の話が終わり、次は今後の話に移る。

 

「まずは確認したい。ウンディーネ君は承諾を貰っているが、ここにいる全員がフルブライト商会側で戦争に参加すると思っていいのだな?」

 その言葉に全員がこっくりと頷く。

 それを確認してから、フルブライトは西部の中央から上部が載った地図を取り出した。すなわち、フルブライト商会の本拠地であるウィルミントンとドフォーレ商会の本拠地であるヤーマスが同時に載っている地図だ。

 そしてチェスのコマを取り出し、それぞれに配置していく。まずは白のコマをウィルミントンに、黒のコマをヤーマスに。

「現在、戦況は大きく4つに分かれているといっていい。まずはバンガード、陸戦の激戦区だ」

 バンガードに白のコマを2つ、その北側に黒のコマを2つ置く。

「バンガードには城壁があり、守りに入っているうちは堅牢な防御でこれ以上の侵略を許していない。

 だがドフォーレは多くの兵をここに集結させ、攻め立てている。こちらから打って出るのもままならない程苛烈な攻めだ。そういう意味では拮抗しているが、お互いに厳しい状況と言えるだろう。バンガードが抜ければその勢いのままにウィルミントンまで押し寄せてくるだろうし、ドフォーレが息切れすれば反撃にでた我々がそのままヤーマスにまで攻め上れる」

「相手の士気はそんなに高いのですか?」

 疑問に思ったシャールが聞く。城攻めは圧倒的に守勢側が有利であり、攻め手はかなりの損害を出している筈だ。

 それでも士気を保っているというのは少し考えにくい。味方の死者が増えれば自然と士気が下がるもの。

 答えたフルブライトは嫌悪に顔をしかめながらその問いに答える。

「ここに参加している兵は家族などが人質に取られているらしい。敵前逃亡は当然として、戦果をあげられなければ命の保障はされないと」

「そんな…」

「ひどい…」

 心優しいミューズやモニカは悲痛に顔を歪める。エレンも嫌な事を聞いたと嫌悪感を隠そうとしていないし、ユリアンも表情こそ変わらないものの僅かに怒気が漏れ出ている。

 だがそれも戦争である。ましてや相手はドフォーレ商会、人をエサにしてモンスターを飼育しているような事をしていると考えればそのぐらいは想定の範疇だ。特に驚きを見せないのは詩人やシャール、そしてリンといった面々。

「死兵、という訳ですね。操り、死ぬ事を前提に消耗品として扱う。戦略としては確かにある話ね」

「となれば生半可な説得では聞くまい。大半が死ぬまで攻め続けるぞ」

「……戦況は4つあると言っていたな。まずはそれを全部聞こうか」

 そうして続きを促す詩人。

 頷き、フルブライトは次に大西洋にコマを3つ置く。白のコマを2つ、黒のコマを1つ。

「西の海の制海権はこちらが握っている。バンガード船は規格外というしかないな、負ける気がしない」

 動く島を船としたバンガード船。それはフォルネウスさえも沈める事はできなかった程であり、もちろん人間がどうこうできるモノではない。仮にエクレアがトルネードを放ったとして、バンガード船にダメージは通らないだろう。

 そしてこちらとしては体当たり一つで相手の船を木っ端微塵にできる。まともに戦う必要さえない。もちろん相手を捕縛したければ白兵戦を仕掛ければいい。バンガード船に乗り込める人員は楽に千を超え、普通の船に乗り込める人数が百前後と考えれば文字通りにケタが違う。これで負ける方がむしろ難しい。

 そう言ったフルブライトの説明を聞いて、詩人やウンディーネ、ようせいにリン以外の顔が引きつった。もはや戦いにすらなっておらず、聖王がバンガードを封印した訳が分かるというものだ。強すぎる力は争いしか生まないと考えれば間違いではない。

 西部の海に関して説明が終わった後、次にフルブライトは内海にもコマを3つ置く。ただし、こっちは黒のコマが2つで白のコマが1つだ。こっちはドフォーレ商会側が有利という訳だろう。

「バンガード船は内海に持ってこれない。その上でドフォーレにはルートヴィッヒが付いた。こっちの海戦は分が悪いと言わざるを得ない、単純に数が違い過ぎるんだ。必要な航路だけはなんとか確保できているが、被害は大きい」

「それに関しては朗報がありますわ」

 そこでミューズはファルスからの親書を取り出す。

 受け取ったフルブライトは中を検め、ふむと声を出した。

「ファルスがこちらに付くか」

「ええ。ルートヴィッヒの専横を討つべしと高い士気を持っていましたわ」

「ありがたいが、焼け石に水といえばそうだな。ピドナの反対側から攻撃したとして、ウィルミントン近海に影響は余りあるまい」

「え?」

 てっきり喜ぶかと思っていたミューズだが、フルブライトの反応は思っていたよりもずっと素っ気ない。

 驚いてシャールを見るミューズだが、彼はやや諦めた顔で頷くのみだった。

「せめて最初からこちらに付いてくれればもう少しありがたかったのだが…この状況では大きな影響力はないだろう。

 もちろんルートヴィッヒの攻撃が少しでも少なくなるのは嬉しいがね」

「そんな……」

 落胆した声をあげるミューズだが、そこに割り込むシャール。

「しかしファルスが敵に回るよりもずっといいはずです。クレメンス様の娘としてファルスを動かした事さえ評価しないつもりですか?」

「もちろん味方が増えるのはありがたい。が、こちらにも打開策はある」

 そう言ってウンディーネを見るフルブライト。

 術の天才はにっこり笑って打開策を口にする。

「先のフォルネウスとの戦いで、多くの弟子を取る事ができたの。最低限の術を使えるようにして、合成術という複数人で術力を合わせる事に特化させたわ。

 調整するのに時間はかかったけど、もう目処はたったからそろそろ戦線に投入できそうなの。内海は私に任せて貰っていいわ」

 折角ファルス軍を口説き落としたのに、その苦労が水の泡になりそうなミューズとシャールは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 そして聞き覚えのある単語に声を出してしまうのはモニカ。

「合成術とはリンさんが使えた、アレですか?」

 その言葉に視線を鋭くするウンディーネ。

「お嬢ちゃん、どういう事かしら?」

「いえ、わたくし達もここに来るまでに海戦を経験して、合成術を使ったのですわ。リンさんが使えたのでわたくしは術力を高めただけですが…」

 そう言ってリンを見るモニカ。しかしウンディーネが睨んだのは詩人だった。

「まさか、また貴方?」

「ちげーよ。何でもかんでも俺と結び付けるな」

「理不尽な事があれば、だいたい貴方が関わっているような気がするのだけど」

「その認識は改めろ、マジで」

 心外だと言わんばかりに溜息を吐く詩人。

 実際この件に関しては詩人が言う事は正しいのだが、彼にそれを言う権利があるのかどうかはこの場にいる全員が疑問に思う事だろう。

 しかし今回は、今回に限っては本当に彼は関係ない話だ。

「ま、まあその話はいいじゃないですか。それで4つ目の戦況はなんでしょうか?」

 関係ない方向に話が進みそうだったので、ユリアンが慌てて話を戻す。

 その言葉を聞いてフルブライトは白のコマをヤーマスの西側の海岸上に、黒のコマをウィルミントンよりやや北側に配置する。

「4つ目は局地戦だ。こちらはバンガード船から送った兵をヤーマスの西に配置して圧力をかけている。対してドフォーレはウィルミントン周辺にモンスターをばらまき、こちらの領地を荒らしている」

「モンスターをばらまく?」

「ああ。戦争が始まってから不自然なまでにモンスターの被害が増えた、それも奴らが制海権を取っている隣接した土地にだ。まず間違いなくドフォーレの仕業だろう。

 モンスターの被害を増やす訳にはいかず、そちらにも兵力を割り振らなければならない状況だ」

 話が終わり、僅かに沈黙がおりる。

 そして口を開くのは詩人。

「俺たちが手を出すのは陸戦と局地戦だな。海戦はどちらも勝ちの目処が立っている」

「あら、信用して貰えるとは光栄ね」

 不敵に笑うウンディーネに、茶目っ気のある笑いで返す詩人。

「信用してるさ、ウンディーネの事はな。俺より優れたところが多い才女だと」

「ふふ、上手ね」

 笑みを交わし合った彼らだが、すぐに真面目な表情に戻る。

「で、だ。どちらに誰を割り振るかだな」

「わたくしはバンガードに行きます。戦争を勝利に導いたという名誉が欲しいのです。その為には直接的に戦況に関われる方が望ましいですわ」

「モニカがそっちなら、俺も当然そっちだな」

「ミューズさまにはなるべく危険がない方がいい。私たちは局地戦の方に参加させて貰おう」

「シャールの判断に従います」

 モニカ、ユリアン、シャール、ミューズの割り振りが決まる。

 次に希望を出したのは詩人。

「俺はこんな戦争なんてとっとと終わらしたいのが本音だからな、バンガードに行ってドフォーレの軍を蹴散らしてくる。

 陸軍の大半を潰せば後はフルブライトの軍がなんとでもするだろう」

「詩人さんが行くならば私も行きますよ。正直、西の事はさっぱり分からないですから、詩人さんについて行った方がいいですし」

「私も詩人さんについて行くよー」

 詩人とリン、エクレアも決まる。残るのはエレンとようせい。

 そしてその片方に依頼を出したのはフルブライト。

「エレン君は申し訳ないが、バンガードに行ってくれないか? フォルネウスを倒した英雄がいれば士気が違う」

「え? ええ、あたしは構いませんけど…」

「じゃあようせいは局地戦だな、人間の戦争よりもモンスターを蹴散らす方がいいだろ」

「はいっ! 言われるがままに!」

 こうして戦争にどう参加するかが決まる。そして早くに決着をつけた方がいいとの判断から、翌朝には出発する事も決まる。

 詩人たちはバンガードへ。シャールたちはモンスターの駆除へ。

 次の話題は、報酬について。

「言っておくが、高いぞ?」

「…覚悟しよう」

 詩人が改めて念を押すと、フルブライトにしては珍しくやや言いよどみながら答えを返した。そしてぐるりと全員を見回して、言う。

「この際だ、全員要望を出しておけ」

「おい、詩人」

「文句あるか?」

「……高すぎるのは、交渉するからな」

 詩人がじろりとフルブライトを睨む事によって、彼は諦めたようなため息と共にそう口に出した。実際、彼らの戦力は喉から手が出る程欲しい。これで戦争に大きな勝機を見いだせるならば、高い買い物だとしても甘んじて受けなければいけないとは分かっているようだった。

 そしてまず口火を切ったのはモニカ。

「わたくしが欲しいのはフルブライト商会の後ろ盾、それから戦争を終結させたという実績ですわ」

「分かった。モニカ姫、貴女の個人的な力になる事を約束しよう。そしてこの戦争を終わらせる事に貢献できたならば、その一員として喧伝する事を保障する」

 ややがっつき過ぎなくらいのモニカだが、ツヴァイクを超える価値を示すというならばこのくらい貪欲でなければいけないのだろう。

 そして同じくらい切羽詰まっているのはミューズであり、その片腕であるシャールが口を開く。

「クラウディウスとしてもフルブライトの助力が欲しい。いつかルートヴィッヒと事を構える時はファルスやトーマスカンパニー、レオナルド武器工房と共に戦って欲しい」

「それも承知しよう。幸い、ルートヴィッヒはドフォーレに付いた。この戦争が一段落した後に敵対する口実は十分だ」

 9人中4人の報酬が決まる。エレンやエクレア、ようせいやリンはあまり大きな欲はないからどうするか悩んでいるが、詩人の言葉は決まっている。

「俺の目的は知っているな? 手早く宿命の子を探し出したい。ヤーマスを支配下に置いたら、無茶をしてでも世界中に手を伸ばせ。宿命の子を確保しろ」

「そうだな、今までは見つかれば引き渡す約束はしていたが、今後は積極的に探すスタイルに切り替えよう」

 残るは4人。その中で詩人は更に口を出す。

「エレン、お前は(きん)にしておけ」

「へ? お金じゃなくて、(きん)なの?」

「そうだ、四魔貴族を相手にするなら必要になる」

「? まあ、詩人がそう言うなら…」

 詳しい説明はないが、具体的な金銭というのは分かりやすい報酬だ。エレンとしてもフルブライト商会にとりあえずやって欲しいものがある訳でもなし、詩人がそういうならと素直に従う。

 だが次の詩人の言葉に全員の表情が一気に強張った。

「エレンの報酬だが、18金のコイン型インゴットを用意して欲しい。10キロ程必要になる」

「じゅっ!?」

「何オーラムになるのよそれ!?」

 破格過ぎる額に絶句する。フルブライト商会としては用意できなくもない量ではあるが、それをただ一人に渡すというのはよろしくない。他にもそれだけ寄越せという人間が出てくるのは自明であり、そうなった場合にはそれが騒乱の種になる。

 顔を引きつらせながらそれを告げるフルブライト。まあ、それくらいは詩人も分かっていた。なのでここで別の人間に話を振る。

「エクレア、お前は何か欲しいものがあるか?」

「え? ああ、そーいうこと。別に私は欲しいものはないし、いーよ」

 察しのいいエクレアは詩人の言いたい事を即座に飲みこんだらしい。

 自分の報酬も併せてエレンの(きん)に都合していいと承諾する。それでも鈍い顔をするフルブライト。

「2人分でも、厳しいな。確かに戦況をひっくり返すならば多大な報酬は問題ないが、それでもまだ多すぎる」

「王様が必要とされているようですし。私の報酬もそれでいいわよ」

「詩人さんに迷惑をかけてますし、私も」

 しぶるフルブライトに更に自分の報酬を上乗せするようせいとリン。

 自分の利益をあっさりと渡してくれる仲間たちに、エレンは静かに頭を下げた。そしてフルブライトは素早く計算していく。そして弾き出された答えは、4人分の報酬としてなら問題ないという事だった。

「承知した。だが言うまでもないが、君たちの手腕で戦争に勝ったという前提での報酬だからな」

「まあ、当然だな」

 負けは論外、フルブライトはドフォーレに支配されるから無理なのは当然として、この破格の報酬は戦争勝利の立役者というのが前提にある。

 そうでないならば支払えるものではないのだ。

「では話し合いはこれで終わりにしようか」

「あ、ちょっと待て。俺はウンディーネに話があるんだ」

「奇遇ね、私も詩人に話さなければいけない事があったところよ。それから…モニカお嬢ちゃんとミューズお嬢ちゃんにも話がしたいわ」

 詩人が、そしてウンディーネがそう付け加える。

 お互いに話があるようだが、それにはどうやらフルブライトは関係がないらしい。彼は肩をすくめながら立ち上がる。

「まあ、しばらくはこの会議室を使ってくれて構わない。

 それから外に宿を取る手間もかかるだろう。今日の所はこの屋敷に全員が泊まればいい、話は通しておこう。

 私は仕事があるから失礼するよ」

 そう言って席を外すフルブライト。指名を受けていない者もいたが、他に用事がある訳もないので彼らの話を聞く態勢に入っている。

 残された中で、詩人は表情を厳しくする。正にこれからこそが本題と言わんばかりにその眼力は強い。

「ウンディーネ、ボルカノが魔王の盾を持って生きているというのは知っているか?」

「…やっぱり貴方もその情報を手に入れていたのね」

「前置きは無しだ。奴の死亡は、俺とお前の両方が確認したはず。どういう事か分かるか?」

 それに真剣な表情をして頷くウンディーネ。

「ええ、業腹だけどあの男に一杯喰わされたみたいね。

 ボルカノの研究成果を手にしたけど、朱鳥術の奥義にリヴァイヴァという術があったわ。己の生命力を削る事により、死からも不死鳥の如く舞い戻れる秘術。

 それを知った後、死者の井戸に封印した魔王の盾を確認したけど、残っていたのは解かれた封印だけで魔王の盾は存在していなかった。

 ……モウゼスの魔王の盾は、あの男に奪われたわ」

 悔しそうに唇を噛むウンディーネ。モウゼスが代々封印し、守ってきた魔王の盾を奪われた無念がにじみ出ていた。

 同じく大変な事になったと表情を険しくする詩人。

「奴は南方のジャングルで暴れているという情報が入った。そこにいる妖精族が迷惑を被っているらしい。

 エレンが次の標的にした四魔貴族はアウナス、やはり拠点は南方のジャングルにある火術要塞だ。一緒に始末する」

「お願いするわ。それでできれば魔王の盾を回収、もしくは破壊してくれると助かるわ。

 ……私は、もう四魔貴族に関わる気はないけど。術の指導ならしてあげる」

 そう言って先程名前を呼んだモニカとミューズの方を見る。

「貴女達、魔力に溢れているわね。素晴らしいわ。よかったら術の手解きをしてあげるわよ。

 もちろんエレンお嬢ちゃんにエクレアお嬢ちゃんもね。合成術の研究も進んだし、術具にも磨きをかけたわ。前よりも強くしてあげるわよ」

 その言葉に喜びの顔をして、嬉しそうな声をあげる少女たち。

 それを温かく見守った詩人は今度こそ場を締める。

「方針は決まったな。

 まずはこの戦争にとっとと勝つ。その後、またウィルミントンに戻ってアウナスに向けて鍛えていこう。

 十分に鍛えられたら船でアケまで行き、ボルカノとアウナスを始末する」

 気楽に言うが、どれもこれも大変なのは言うまでもない。

 しかしやる気は高い。今後の指針も立ち、それに邁進すればいいというのもやりやすい。

(このまま何事もなくいけばいいが……)

 そう心の思っているのは一人ではないが、だが心配しても何も始まらない。

 やれる事をやる。それしかできないのだから。

 

 

 




とうとうリ・ユニバースも始まりますね。
正直、前はあまり期待してなかったですが、今はちょっとワクワクしています。
楽しめるといいな。
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