詩人の詩   作:117

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077話

「予定を決めておこうか」

 明けて翌日、ユリアンの完治まであと二日。

 またもやユリアンの部屋に全員が集っている。集めたのは詩人、これから先の準備をするのに話し合いが必要だと考えたからだ。

「次の討伐対象は四魔貴族のアウナス、居場所は南部のジャングルにある火術要塞。近場のアケまでは船で行き、そこからは徒歩でジャングルへ入っていく」

「あ、あのー…」

 話す詩人に、言いにくそうに声を出すのはようせい。

「できれば、ジャングルで妖精の村を襲っているボルカノも倒して欲しいんですけど…」

「あ」

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまうのはエレン、アウナスを倒す事を考えていたばかりでボルカノの事が完全に頭から抜け落ちてしまっていたらしい。

「もちろん、俺は忘れてないさ」

「私もね。魔王の盾は危険すぎるわ、ちゃんと再封印しないと」

 詩人とウンディーネが調子を合わせる。つまり、ジャングルでは敵が二人いるという事だ。

「どうするの? 各個撃破? 同時に攻めるの?」

「時間が惜しい。二手に別れて同時に攻めるぞ」

 エクレアの疑問に答えるのは詩人。それにエレンは表情を引き締める。四魔貴族と魔王の盾、伝説級の敵の両方を知っている彼女としては全員が一丸となって各個撃破したかった。

 できるだけそちらに流れが寄るように話に加わる。

「両方とも危険な相手よ? 時間は惜しむべきじゃないと思うわ」

「いや、既に必要以上に時間は使っている。更にここから四魔貴族に通用するレベルに仕上げる時間もある。

 特に戦争に使った時間のロスが大きかった」

 詩人の言葉にグっと言葉を呑み込むエレン。戦争を起こした原因の一端は彼女にあり、暗にそこに責められてしまえば口を閉じるしかない。こういう言い合いではやはりエレンは詩人にはまだ勝てないのだ。

 対抗意見がなくなったと確認した詩人は、事細かに確認していく。

「とりあえず、ウィルミントンに残るのはウンディーネにミューズにシャール。それでいいな?」

「ええ。私はまだ戦争に手出しと口出しをしなくてはならないし、ウィルミントンは離れられないわ」

「私とミューズさまは四魔貴族にもボルカノにも因縁はない。手出しはしない」

 頷くのを確認した詩人は残りを見る。

 エレン、エクレア、ユリアン、モニカ、リン、ようせい、詩人。この7人がジャングル組だ。グループを手早く分ける。

「まず、俺とようせいは別行動だ」

「? なんで?」

「ジャングルは方向感覚を狂わせる魔境だ。妖精族の持つ生物との対話能力で樹々に位置を聞かなくてはすぐに迷う」

 言いながら詩人は背負った妖精の弓を見せる。これがあるからこそ詩人はアウナス討伐に妖精族の協力を数えなかったのだ。例えば詩人が妖精の弓を持っていなかったら。聖王遺物をもう一つ探す手間か、もしくは妖精族の信頼を得る手間が増えていただろう。どんな因果か、その両方が手の内に入ってしまっているが。

「そして氷の剣を持つエクレアはアウナスだな」

「りょーかいだよ、詩人さん!」

「あたしも当然アウナスね」

「わたくしも、ユリアンもアウナスを討伐しますわ」

 エクレア、エレン、モニカ、ユリアンはアウナスに目標を合わせる。

 話が進むにつれ、どんどんと纏まってくる。この人員の中に詩人が入ってしまえば、ボルカノをようせいとリンで相手しなくてはならなくなる。詩人でなくてはボルカノは、いや魔王の盾は二人以上の手を必要とする難敵だ。ならばこそ詩人はボルカノを目標に合わせて不思議ではなくなる。

 そう誘導した詩人に、違和感を持つ者はいない。

「ボルカノは俺一人で十分だ。ようせい、お前はこいつらを火術要塞まで案内してやってくれ」

「は、はい。あの…王様は独りでボルカノというか、魔王の盾を相手にできるのですか?」

「問題ない」

 言い切る詩人に恐縮したように縮こまるようせい。そんな様子を見て、リンが心配そうに詩人を見やる。

「本当に大丈夫なの? 結構な強敵みたいだけど、私もそちらに参加した方がいいかしら?」

「いらんいらん、むしろアウナスに注意してくれ。

 死なない保証は、本当に、しないからな」

 軽い口調で始まった詩人の言葉は重く締められた。フォルネウスの時と同じように、彼は逃げるチャンスを全員に与えていた。命が惜しいなら逃げてもいい、それを許容されるレベルなのが四魔貴族なのだ。

 とはいえ、ここで引く者はいない。エレンとエクレアは一度超えた山であるし、ユリアンやモニカにそしてリンはその恐ろしさをまだ体感していない。ようせいは第二や第三のボルカノを生み出させない為に、根を断つしかないのだ。

 誰も下がらない事を確認した詩人は視線を動かしてウンディーネを見る。

「それで、モニカを仕上げるのに後どのくらいの時間が必要なんだ?」

「そうね…。一週間から十日程欲しいわ」

 僅かな時間で熟考したウンディーネが答え、それに満足そうに頷く詩人。

 悪くない日数だった。アケは未開の地に近く、拠点にできる程の開発はされていなかった。そう、いなかった。過去形なのだ。トーマスカンパニーがジャングル開発に手を加え、おおよそアケの辺りはトーマスカンパニーの縄張りになっている。

 これが敵対している会社だったら目も当てられないが、味方なら心強い事この上ない。それが分かった瞬間から詩人はフルブライトを動かし、足場固めをしている。アケで拠点が得られるというのは予想外の収穫だった。今回の戦争で詩人にも借りができているフルブライトは、頭を痛めながらトーマスに協力要請を出す羽目になっていた。自分が引き起こした戦争している最中に、味方をしている相手に更に別の手を貸せと言うのだ。繊細と豪胆を併せ持つフルブライトといえどもそれなり以上の出費をしなくてはならない。

 かといって戦争が引き起こされて、相当以上にフラストレーションがたまっている詩人をこれ以上刺激したらどうなるか分かったものではない。最悪、今度こそフルブライト商会が壊滅するまで謎の襲撃が起こりかねない。アウナス討伐までと期限を区切り、泣く泣くフルブライトは詩人への全面協力を約束せざるを得なかった。少なくともこれで懐は痛んでも、ドフォーレ会頭のように首と胴が離れる事はないだろう。

 ともかく、トーマスカンパニーへの融通を通す日数としても、またユリアンが完治した上で彼を仕上げるにも、ウンディーネの提示した日数に問題はない。

「……準備が出来次第、アケに向かおう。

 勝つ為の準備は焦らなくていい。慌ててアウナスの所についても、負けて殺されましたでは話にならないからな」

 その詩人の言葉で終わる。

 残された日数は少ない。鍛えて、四魔貴族に勝つ。それを考えれば、彼らに与えられた日数は余りに短いのだ。

 

 

 数日後。

 体を完治させたユリアンは鍛錬場で剣を振るっていた。相手をするのはエクレアであり、氷の剣を長剣のサイズに固定しての乱取りだった。ちなみにエレンやリン、モニカにミューズはウンディーネのところで術の授業である。よってそれを見るのは詩人とシャールのみ。ようせいはエクレアから借り受けたドビーの弓を使って射撃の練習である。詩人はそちらにも視線を向けているが、筋は悪くないようで腕はメキメキと上がってきている。

 とにかくユリアンとエクレアの鍛錬であるが、意外というかユリアンが優勢である。

「失礼剣!」

「くっ…」

 不規則な動きで虚を付くその動きにギリギリでついていくエクレア。苦し紛れの反撃はユリアンに誘導され、流れるように防がれる。

 かといってユリアンの攻撃が決まる訳でもない。最初はまだ幼いといえる少女に鈍った剣筋を晒していたユリアンだが、それで自分が危なくなると悟ってからは容赦はなくなった。全力で剣を振るい、攻め切れない。

「相性が良すぎるな」

 シャールがポツリと呟く。

 エクレアの剣は天性のそれだ。一目で察するシャールも流石だが、彼女の剣はいわば才能だけなのだ。詩人はまだエクレアに剣を教えておらず、戦いの中のみで最適化された剣筋で技は驚くほど少ない。彼女は実は、剣のレベルはそこまで高くないのだ。

 対してユリアンは基本から叩きあげられた努力の剣だ。詩人の基礎練習から始まり、ハリードから技と格上との立ち回りを学び、カタリナは仕上げとばかりに多人数との対処法を学ばせた。天才の剣筋から不利な状況まで、死なない事、守る事を学ばされたユリアンの剣の技量は高い。最上とは言えないかも知れないが、強者といえるのは間違いないだろう。この短期間にここまでに至るという事は、やはりユリアンにも大きな才能があったのだ。

 そんなユリアンにとっては才能だけの剣はカモといえる。フェイントにかかり、動きに無駄が多いエクレアとの相性はシャールのいう通りに良い。それでも攻め切れないのはユリアンが守勢を得意としているのもあるが、最大の要因はエクレアの体捌きの冴えだろう。剣でユリアンに劣っているのは仕方ないとはいえ、彼女や氷の剣の真骨頂は変幻自在の武器種変更と、それを成立させる類まれなる武術の才。剣だけになっても経験値が落ちる訳もなく、やりにくそうにしながらもユリアンから剣筋を学んで生かしている。

 徐々に鋭さを増していくエクレアの剣。

「失礼剣っ!」

「おっと」

 ユリアンから極意を奪い取ったエクレアが、失礼剣を真似て繰り出す。とはいえ、練度は流石に低い。ユリアンに通用するレベルに即座に至れる訳もなく、簡単に防がれてしまう。

 そしてそんなエクレアの動きは、ある意味でユリアンにとって水鏡だった。ずばり自分の劣化と言い換えてもいい。自分以下であるからこそ理解ができ、自分の類似であるからこそ弱点や長所がよく分かり、なによりも自分のレベルを上げるのに役に立つ。

 やや悔しそうに、それでも楽しそうに剣を振るうエクレア。真剣な顔の中、唇の端がほんの少しほころんでいるユリアン。滅多にない充足感、どこまでも自分の力量が上がっていくようなその感覚は病みつきになる程だろう。

 それを見やる、男二人。

「これを狙っていたのか?」

「当然」

 呆れるシャールにニヤリと笑って答える詩人。

 強者から教えられる事は多く、そして手っ取り早いのは確かだ。だがそれだけではどうしても足りない部分、成長しないものというのは存在する。そういう時に必要なのは、例えばこのような同レベルの者同士の戦い。

 かといってエクレアとユリアンのように共鳴し合えるレベル域というのはとてつもなく狭い。適当に仕合っていただけでは一生出会えない事の方が圧倒的に多い。

 シャールはそれに戦慄する。詩人は、この男は。これを起こすように()()を調整していたのだと理解したが故に。

(底は…どこにある?)

 単純に力だけでは辿りつけないその境地。知恵か、経験か。天才か、化物か。

 そのような理不尽に対する恐怖というものを自然とシャールは詩人に持ってしまう。恐怖は警戒を呼び、警戒は不信を生む。

 だから詩人は信用されないのだ。彼が有り得ない程に強すぎるが故に。詩人と合わせられる相手というのはとてつもなく少ない。ウンディーネやフルブライトのように打算で摺り合わせができる人間か、レオニードのような正真正銘の化物か、エクレアのような無邪気な子供か。

(それでいい)

 シャールの警戒を感じながら詩人はそう思う。自分を警戒する事が正しいと、理屈で分かってしまうのだ。自分を好いてくれているだろうエレンでさえ、警戒心がある事が分かっている。警戒しなくてはいけない存在が自分だと、そう戒める。それを忘れてしまったらまた悲劇が起きてしまう。

 それら全てを悲しいと、そう思ってしまう人の心を持っている事が詩人の不幸だった。なまじ理性を、優しさを残してしまった事が詩人にとってはむしろ悲哀だった。

 誰もいないレオニード城で、その主が呟いた言葉。

 

 ―人間で無い方が、お前にとって幸せだろうに―

 

 人間でなければ詩人は今ここに立っていない。だが、人の心を持ち続ける事が幸せになるとは限らない。もしも、もう少しだけ詩人が違う人間性を持っていたのならば、他の大きな幸せを取りこぼさないでいられただろう。

 だがしかし、詩人に悔いはない。どれだけその手を血で染めても、例え愛した女性を泣かせても、それが彼が選んだ道だからだ。

 笑みを浮かべる詩人の視線の先には青年と少女。楽しそうに剣を合わせ、自らを高めていく二人の若者。

 守りたいものを守れるようになればいい。幸せを抱きしめて生きればいい。誰かがしなければならない事や、復讐は自分の手で必ず為す。

 心からそう思える彼は、やはり優しく悲しい人間だった。必要であれば大切なものさえ捨てられる強さは、裏を返せば幸せを手放す虚しさをも含んでしまうのだから。

 詩人が失ったものは大きすぎると、気が付ける存在はここにはいない。

 

 

 また数日。

 もうアケへ行く便の手配はできている。ウィルミントンからアケへの定期便などはないので、フルブライト商会がわざわざ船の都合をつけて直行便を用意していた。このおかげでフルブライトの短い睡眠時間が更に短くなったのは余談である。

 時刻は夜。四魔貴族を相手にするとあっては準備には全力を注がなくてはならず、割り振られた訓練時間は重苦しい雰囲気が流れる。そしてその緊張感から解放された面々は適度に食事を摂り、そして翌日に疲れを残さないように早々に眠りについてしまう。リンなどはその重苦しさでようやく四魔貴族の強さの一端を感じ取った程だ。

 さて、ここで余裕がある者がいるのか。要は四魔貴族に挑まない上で、四魔貴族に挑む者を鍛える立場にない者。言うまでもないだろうが、ミューズがそれである。ウンディーネもとにかくモニカとエレンに力を注いでいる為、相対的にミューズの負担は減っている。そして夜に手持無沙汰になった彼女の相手をするのは、余力が残る詩人である。というか、この男が余力を無くした試しがない。

 この二人、案外話が合った。ミューズは芸術に明るく、また詩人もそのような話が嫌いでなかった為である。この日は音が漏れない音楽室に入り、二人で音楽を演奏して楽しんでいた。

 ミューズは楽しそうにハープに手を添えて奏でる。弦楽器特有の旋律が場を満たし、それに合わせて詩人が陽気にオカリナを吹く。似合わない特徴を持つそれぞれの楽器は不思議と調和して高揚するような落ち着くような、そんな音をその室内に満たしていく。

 やがて一曲終わると、ミューズは顔を綻ばせて詩人を見る。

「ああ、楽しいわ! ハープとオカリナでこんな音階が出るのね」

「高音で合わせると調和するんだ。そこからハープの落ち着きとオカリナの自由さをそれぞれ表現できる。

 いやしかし見事だね、初見でここまでハープを合わせられるなんて」

 詩人は感嘆の声を出す。実際、経験者程に常識が邪魔をして音が合わなくなるという事は多くなる。ミューズがそうならないのは、ひとえに彼女の無垢さが要因なのだろう。

 そしてそれは音楽以外にも発揮されている。例えば技と術というのは根本からして理念が異なる為、競合させるというのが難しくなる。エレンは努力と基礎を怠らない事で、エクレアは才気と強くなる事への興味で。それぞれ強引にそれらを合致させているが、ミューズにはそこに強引さが存在しない。ごく自然に彼女は技と術とを両立させているのだ。これもまた一つの稀有な才能といえるだろう。彼女は技の経験が、もしくは術の経験が、お互いの足を引っ張り合わないのだ。

 それぞれに宿る、オンリーワンの才能。それを見つけて優しく厳しく見守る詩人だが、そんなミューズの顔が曇る。

「詩人さん」

「どうした?」

「……もうすぐ、船が出ますね」

 そう。ミューズに余裕があるという裏には、苛烈な昼の訓練があるという事だ。それを目にするミューズには、挑む壁の高さだけが強調されて恐怖を覚えてしまう。

 これ程まで鍛えても、なお勝てるかどうか分からない存在が、命が保証されない存在が四魔貴族なのかと。

「詩人さんも含めて…皆さんと生きてまた会える事をお祈りします」

「……」

「心より、お祈り申し上げます」

 ミューズは戦力にならない。それは仕方のない事で、仮に着いて来たとしても足を引っ張るだけだろう。それは皆が分かっている、ミューズも朧気ながら分かっている。

 自分の命を助けてくれたユリアンに報えない事が悲しかった。命を懸けて四魔貴族に挑む仲間と共に行けない事が辛かった。

「そうだな、祈ってくれ」

 けれども詩人はそれを笑って許す。共に来れない事も、それで心を痛める事さえ許した。

 それこそが何より、ギリギリになった時に生死を分けるのだと分かっているのだ。自分の死を悲しむ人がある事、それは死ねない為の活力になる。

 ミューズが心を痛める事は、決して無駄にはならない。それさえもエレンたちの武器だ。戦いはいつも死と隣合わせであり、四魔貴族に挑むとなれば命を幾つ懸けても足りるという事はないだろう。祈りは、土壇場で折れない支えにもなる。

「祈り、歌ってくれ。

 そうだな…出航の時にでもその祈りを歌にしてくれれば嬉しい」

「私にできる事なら何でもしますが――」

「これはミューズにしかできない事だ。無事を祈り、心配して、それを歌声にしてくれ。

 歌にさえ、力は宿る。共に行動しなくても、心から安全を願ってくれる者がいれば、それは仲間だ」

 敵は不幸を願う。味方は幸せを願う。

 根性論、精神論といえばそれまでだ。しかしそれが力を持たない訳ではないのだと、詩人は語る。

 なぜならそう心から思っていなければ、彼は詩など詠わないのだから。

 それだけしかできないのか。そう迷うミューズに、それがミューズにできる最大の事だと微笑んで語り掛ける詩人。

 その顔を見て、ミューズから迷いから消える。

 そして残りの僅かな時間を、ミューズは歌の練習に費やすのだった。

 

 そして出航の日。

 港にはフルブライトとウンディーネ、シャールにミューズ。

 淡白な面々が多い中で、ミューズだけは船に乗り込む一人一人を温かく抱きしめた。いや、正確には抱きしめようとした。詩人だけはそれから逃げ切ったが。言った張本人がこれでは説得力がないだろう。

 とにかくミューズは、心配の気持ちと無事を祈る心を形にした。抱きしめられた誰もがむず痒い表情をしていたが、嫌がった者は誰もいなかった。

 そして歌われる送別の曲。伴奏も何もない、ミューズの独奏歌。それを耳にしつつ、船はやがて離れていく。

 乗船した者には声が聞こえなくなっても、必死にいつまでも歌うミューズの姿は瞳に映っていた。

 だが海を進めばそれもやがて消えていく。残るのは波の音と、どこまでも続く海と空。

「…死ねないね」

「生きて、勝って、帰りましょう」

 エレンが呟き、モニカが拾う。それを聞いて詩人は心で笑う。ほら、ミューズは無力なんかじゃないと。

 

 向かうは、アケ。その先にあるジャングルの奥地、火術要塞。

 間もなく死闘の幕が上がる。エレンとエクレアにとっては二度目の、他の者にとっては最初の。四魔貴族との戦いは間近に迫っていた。

 

 

 




そろそろアウナス戦に向けてシリアス入っていきます。
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