詩人の詩   作:117

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まだだ、まだエタらんよ!

そしてUA100000超えしました。
ご愛読、ありがとうございます。


086話

 中庭で、グゥエインとの話し合いが終わると解散になる。

 翌朝にはロアーヌを発つ詩人、いつビューネイが襲ってくるとも知れない今では最低限の緊張を維持しておかなくてはならないミカエルなど、三々五々に散っていく。

 そんな人間たちの後ろ姿を見送ったグゥエインは、大きなあくびを一つしたかと思うとまたも楽な体勢になって眠りにつく。

 宝を愛でて、腹いっぱいに喰い、十分に寝る。実はグゥエインはそれで結構幸せになれてしまえる性質なのだ。後はたまに空を気ままに飛べれば言うことなし。案外質素な竜だとは、実は詩人さえ知らない事実である。

 

「あんた、性格直したら?」

「長年こんな性格しているんだ、今さら簡単に変えられやしないさ」

 呆れた風のエレンの言葉を詩人はさらりと流す。

 詩人は悪人という訳ではないのは彼女にはよく分かっているが、間違いなく性格は悪く、そして気が付きにくいが誠実なのだ。

 先ほどを例にあげれば、ハリードをあそこまで煽らなくても良かったはずである。出す情報を絞り、自分が善人面することもできたはずだ。しかし詩人はそうしない。最終的にそうした方がいいという判断もあるのだろうが、彼は自分がした事に対して責任を放棄しない。

 つまりは10年前。ナジュ王国滅亡の際にファティマ姫の、ひいてはナジュ王国の味方をしようとしていなかったという事実を以って、ハリードが詩人を恨むのは当然だと許容しているのだ。別に黙っていればバレはしないのにわざわざ恨まれ役を買ってでるあたり、苦笑よりも先にため息が出る。

 それにこの性格の悪さは地でも確かにあるのだろう。詩人の部屋で紅茶をすするタチアナを見ながら、エレンは思う。詩人はわざわざこの部屋にいる()()()の紅茶をカップに淹れて置き、さらに伏せたカップを二つ用意していた。予想される未来に対してここまで用意するのは流石に趣味が悪いと言わざるを得ない。タチアナはそれが分かっているのか分かっていないのか、お茶に添えられたお菓子をもむもむと頬張るのみだ。一緒に四魔貴族を倒してきた仲間としては分かって素知らぬ顔をしていると信じたいが、それはそれで面の皮が厚い。

 まあ、黙っているという事はすなわちそういう事なのだろう。姉貴分としては頭が痛い。

 比較的に人が好いエレンはこの状況を俯瞰しつつ、諦観を持って用意された紅茶を飲む。どうなるかは予想がついている、今は待ちの時間なのだ。

 そして一杯目の紅茶を飲み終わり、更にそれが冷め切る頃になってドアがノックされる。

「どうぞ」

「失礼する」

 そういって入ってきたのはミカエルと、ハリード。ハリードは険しい顔を隠そうともしていないし、ミカエルのにこやかな笑みもテーブルの上を見た瞬間だけ引きつった。

 無理もないとエレンは思う。言外に打つ手は見切っていると言われれば誰でもこのような反応をするというものだ。ついでにその対象が自分でなくてよかったとも。

「――どうやらお見通しのようだったようだな」

「何を言っているのか分からないが、とりあえずお茶でもいかがかな?」

「いただこう」

 意味のないすっとぼけをしつつ、伏せた2つのカップを表にしてポットからお茶を注ぐ詩人。

 椅子に座り、その紅茶に軽く口をつけるミカエルとハリード。流石というべきか、その所作は優雅の一言に尽きる。

「さて、ミカエル候。話し合いも終わったこんな夜分にどんな要件かな?」

「分かって言っている辺り、性格がいい」

 伏せたカップまで用意しておいて、知らぬ存ぜぬもないだろうと苦笑するミカエル。この茶番劇が気に食わないのか、ハリードの眉間のしわがますます深くなる。タチアナは完全に場の空気を無視しており、耳だけは傾けながらも口は飲食にしか使わない。

 エレンはここまでする必要もないだろうと、嘆息しながら話を進める。

「もちろん、ミカエル様のご助力を頂けるならありがたいです」

「ちなみに、エレンは詩人の目的地はどこかご存知かな?」

「はい、リブロフです」

 詩人とやりあっていたら夜が明けてしまうと、そうそうに見切りをつけてエレンに話を振るミカエルに端的な返事をする。

 話し合いがその二人に移ったのを見やって、詩人は傍観に回る。

「ほう、リブロフ。確かにナジュ王国に住んでいた者たちの多くはリブロフに移ったとは聞いた。しかしその中に王族がいれば、流石に神王教団が気が付かない訳がないと思うのだが?」

「もちろんです。ですので、ファティマ姫がいる場所はナジュ砂漠のどこかと聞きました。神王教団に見つからないように隠れているのだと」

 嘘だ。10年前に詩人が何をしたのか、エレンはその口から聞いている。

 グゥエインを説得したルーブ山地の奥底で、この先の話し合いは既に終わっているのだ。

 

 

 

「さて、ここでしか話せない話をしようか」

 その時に場面を戻す。

 ルーブ山地のグゥエインの前。詩人が己の名前と半生、そして目的を明かしたその時まで。

「ここでしか話せない話って?」

 タチアナがこてんと小首を傾げながら問うが、流石にそのくらいは察して欲しいとエレンは苦笑いを浮かべた。

「詩人の名前とか、その他諸々は外で話せないでしょ? どこで情報が漏れるか分からないわ。なら、残りの四魔貴族の事とかこの先どうしたらいいのか、気兼ねなく話せる場所は貴重だわ」

「あ、そか」

「……お前、俺の秘密をところ構わず話すつもりだったのか?」

『真、聖王を思い出す抜けっぷりだな』

 呆れ果てる詩人とグゥエイン。確かにもうちょっと考えろとは言いたくなるだろう。

 てへへと照れた笑みをこぼすタチアナを白い目で見つつ、こほんと咳払いをして場を直す詩人。

「まあ、先の話もしなくてはならないが、聞きたい事があるなら先に聞くぞ」

「ん~。私は特にないかな。詩人さんは詩人さんだし、今まで通りだし」

 タチアナはあっさりとそういう。彼女はそういう人間なのだ、立場なんてものに意を介さずに自分で見聞きしたものを全てと言い切る、純粋な少女。その大前提に相手を間違いなく見抜くことが必要になるが、幸いというかそれも兼ね揃えている。

 対してエレンはそこまで真っすぐにはなれない。聞かなくてはいけないものは聞かなくてはならないというのが彼女のスタンスである。

「じゃあ…詩人が聖王と一緒に300年前に四魔貴族と戦ったんなら、倒す順番にも意味があったの?」

 その言葉にスっと詩人の目が細くなる。

「どうしてそう思った?」

「だってあたしが相談したとき、真っ先にフォルネウスを推したじゃない。やろうと思えばアウナスやビューネイを先にする事もあなたなら可能だったのに」

 チラリとグゥエインを見ながら問うエレン。

 思い返せば、エレンは自分で調べて四魔貴族の元に辿り着いた事がない。バンガードを動かす手配をしたのも詩人、最果ての島に向かうように言ったのもブラック、ジャングルでの道案内だってエレンが偶発的にようせいを助けなければ詩人の持つ妖精の弓に頼る事になっただろうから他に目を向けさせるのは簡単だったはずだ。氷の剣を手に入れたのもそう、詩人が言わなければ手に入れるという想像すらしなかった。

 自分で判断し、動いているように見えたその実、詩人の指示があった事に気が付かない程エレンは愚鈍ではない。

「……気が付くか」

「そりゃ気が付くわよ」

「俺も耄碌したかな」

『齢万年が今更何を言うか』

「それ、言うな」

 痛いところを突かれて苦笑いを浮かべる詩人。確かにこの世界で一番耄碌しなくてはいけないの詩人だろうが、体も脳も若いままなのは本当なのだ。言い返せないだけ辛い言葉である。

 とはいえ、自分に慢心して溺れなければ気が付いてしかるべき事柄でもある。それにここまで言った以上、隠す意味はない。詩人は答えを口にする。

「――四魔貴族は、というよりゲートは。閉めれば閉める程に残るゲートに力が集まる」

「「!!」」

「4つのうち半分閉めれば倍に強くなる程単純ではないが、アビスの力はゲートを閉めれば世界全体に流れる量が減るのはその通りだ。

 だが、ゲートが減れば残るゲートにアビスの力が集中するのは道理だろう?」

「じゃあ、四魔貴族でやっかいな方から倒していくように誘導したってこと?」

 タチアナの声に首を振るエレン。

「そうじゃないはず。聖王詩では、一番聖王が苦戦したのはアラケスだって……」

「その通り。だからアラケスは最後にした」

 一番手強い敵を一番強化させて最後に残す。一瞬意味が分からなかった2人だが、その答えはグゥエインが口にした。

『なるほど。最後ならば貴様が剣を振るえばそれで済む、という訳か』

「そうだ。アラケスは俺が斬り、そのままゲートをこじ開けてアビスへ向かえばいい。故に最後に最も手強いアラケスを残したって訳だ」

「あ、そか。最後の戦いは詩人さんも参加するんだね」

「も、っていうか。俺一人で十分だ」

 ごくあっさりとそう言う詩人だが、その背景を知らなければ世迷言にしか聞こえないだろう。魔王亡き後、300年間世界を支配した四魔貴族とは飾りではないのだから。

 そしてその話を裏返せば、他の四魔貴族は強い順に倒していったという事になる。

「じゃあ、二番目に強い四魔貴族はフォルネウスで、一番弱い四魔貴族はビューネイ?」

「いや、一番弱いのはアウナスだな」

 それを軽く首を振って否定する詩人。

「アウナスの目的は生きる事だが、ゲートと繋がって限りなく死ににくくなっている今、その心配はほとんどないといっていい。だから一番必死さが足りないんだ」

「んじゃ、なんでアウナスを先にしたの?」

「ビューネイと戦うなら強い味方がいるだろ?」

 そういってグゥエインを見やる詩人。それに気をよくした巨竜の鼻息が荒くなる。

「それにロアーヌに近いなら、上手くすればハリードも巻き込める。相対的に難易度は低くなるって訳だ」

「なるほど」

「……ハリード?」

 その人物を知らなかったタチアナが軽く首を傾げる。

 確かにタチアナはハリードと面識がなかったかと思いなおす詩人。

「ロアーヌにいる傭兵さ。トルネードの異名を持つ」

「ふーん。強いの?」

「サザンクロスと同等以上と思っておけばいい。そうでなくては、俺の次くらいに強い人間とでも思っておけ」

 その言葉に目を見開く全員。まさかそこまで強いとはエレンも思っていなかった。

 とどのつまり、あの嵐のシノンには世界最強の1位と2位の人間が居たという事になる。

『実質的に世界最強の人間、か』

「俺を人間の括りから追い出そうとするの、やめろ」

『分類的にはともかく、そういった話でお前が人間の中に入ろうとするのやめろ』

 言い合うグゥエインと詩人だが、エレン的にはグゥエインに賛成したいところだった。

 詩人をこういった事で人間の範疇におさめてしまうと、最強の座が不動になってしまう。そこからは自分から退いて欲しいと思うのはきっと間違った感想ではないだろう。

「どーでもいい言い合い、やめたら? ガキっぽい」

『「…………」』

 そして14歳にガキっぽいと怒られる、300歳超と推定一万歳。というか、コイツにだけは言われたくないとその表情からでも分かる。

 どっちもどっちだなぁとエレンはそこら辺を全体的に無視する事に決めた。

「まあ、四魔貴族を倒す順番の意味は分かったわ。それであたしたちはこれからどうしたらいいのかしら?」

「ん。宿命の子がサラだと分かった以上、手に入れなくてはいけないのは後2つだ」

 エレンの話に乗った詩人は指を2本立てる。

「それは?」

「ビューネイを倒す戦力を集める事と、魔王殿の封印の扉を開ける鍵を手に入れる事だ」

 やや抽象的な表現にエレンの顔が曇る。

「ごめん、もうちょっと分かりやすく」

「前者はハリードを引き込めれば後は十分だろうし、魔王殿の封印の扉を開けるには聖王遺物である聖王の指輪――今は王家の指輪と言われているものだったか。それが必要になる」

「ハリードさんを引き込めるかしら?」

「王家の指輪ってどこにあるの?」

 エレンとタチアナが口にする。詩人はゆっくりとそれに答えていく。

「まずハリードだが、奴はまず間違いなくナジュ王家の人間だ。風貌と装備に心当たりがある」

「ふーん」

「そして俺はナジュ王家の直系を一人確保している」

「ぶっ!!」

 思わず飲んでいた紅茶を噴き出したエレンは悪くない。

「けほっ、けほ。どういう意味?」

「10年前、神王教団とナジュ王国は戦争をして、ナジュ王国が敗北して滅ぼされた」

「それに詩人は手出しをしなかったの?」

「ああ。神王教団が勝ち残れば勝手に宿命の子を探してくれる。ナジュ王国が勝ち残れば持っている情報網が役に立つ。どっちが勝っても得があるし、恨みを買うのも怖い。

 それにこれが本音だが――俺が助力をした方がまず間違いなく勝つ。俺は余り人の歴史に手を出す気はなくてね」

『こういう時だけ人を見下ろすのだな、お前』

「うっさい、グゥエイン。茶化すな」

 エレンとタチアナは、詩人が西部戦争でドフォーレ軍を単騎で壊滅させた事実を思い出す。確かに一軍を滅ぼし、更に自分の領地に立てこもっている敵の総大将の首を獲れるなら味方した方が必ず勝つだろう。

 そこであれと思ったのタチアナである。

「っていうか、それなら詩人さん、西部戦争に首突っ込んで良かったの?」

 その言葉に渋い顔をするのは詩人である。

「あまり喜んでしたい事じゃなかったが、ボルカノが生きている事が分かった上に、アウナスの膝元で暴れていたからな。

 奴は俺の剣を知っている。その上でアウナスの側にいたのなら、八英雄(おれ)の情報がいつ漏れるか分かったものじゃない」

 そんな特別な事情がなければ首を突っ込まないと詩人は簡単に言う。

 こう考えるとボルカノが生きていてフルブライトは幸運だっただろう。逆にドフォーレは不運だったというしかない。自分たちとは全く関係がないところで運命が決まってしまったのだから。いや、それでも詩人はドフォーレにおもねる事はないからして、フルブライトに味方するのはある種当然の帰結といえばそうなのかも知れないが。運命と一言で表すにも複雑怪奇な糸が絡まっているものであるとエレンはしみじみと感じた。

「まあ、それはそれでいいとして、ナジュ王家の直系を一人確保してるとか?」

「ああ。戦争の趨勢が決まり、逃げるナジュと追う神王教団になった辺りの話だ。ファティマとかいう姫君がもう間もなく追っ手に捕まるって所に割り込んで――」

「助けたの?」

「いや、封印した」

「は?」

 またもよく分からない事を言い出す詩人に目が点になる。

「術で封印して、そのまま神王教団に捕縛された。生きたまま捕まれば殺されただろうが、俺の術で封印すれば殺す事はできない。

 神王教団は封印されたファティマ姫を保管するしかないという訳だ。2年くらい前に確認したが、神王の塔の地下に安置されていたな」

「……術で封印って、どういう?」

「時間固定の術式だな。時の流れから切り離し、外の世界と中の世界を遮断する封印術。それと同時に封印内の時間を停止させる事で封印したモノを封印したままにしておく事が可能だ」

「そんな術、聞いたことないんだけど。っていうか、明らかに玄武術の奥義のクイックタイムを超えてるわよね、それ」

「方向性が違う。クイックタイムは時の流れを捻じ曲げて世界に干渉し続けられるが、この封印術は停止させるだけだからな。超えちゃあいない。

 だが、クイックタイムと同種の奥義である事は確かだ」

「それ、命削れるでしょ?」

「まあな。だが、俺にはこれがある」

 そういって自分の腰に帯びた愛剣に触れる詩人。

「『剣皇』。俺の剣の銘だ。俺と同じ称号を持ったこの剣は、殺した相手の生命力を蓄える効果がある。

 この剣が蓄えた生命力が尽きない限り、俺は命を賭した術を何度でも使えるし、攻撃力に転化することもできる。老いる事もないし、即死の傷でも即座に治るのさ」

「それ、ズルくない?」

「ズルくないとは言わない。けどまあ、最近では戦いで傷を負った事もないけどな。

 ――ノエルとの闘いが、最後だったか」

 殺しても死なないというのは確かにズルいが、そもそも死ぬような傷どころかまともにダメージをくらった記憶が詩人には数千年存在しない。多少論点はずれるだろうが、ズルいというなら殺す程のダメージを与えてから言えと詩人は言ってのける。

 まあ、詩人を殺す予定もないからして、その話は置いておかれた。エレンが気になったのは封印術の方だ。

「っていうか、そんな封印術の話のかけらすらウンディーネさんから聞いたことないんだけど」

「そりゃそうだ。これは月術と太陽術の合成術だからな。普通組み合わせようなんて思わない」

 原理としては。世界を太陽術で実として、封印内部を月術で虚とする。虚実のバランスを取り、安定させた上で虚を停止させる。この際、虚の世界を極小にしないと時空間が安定せずに術が綻んでしまう。そしてこのバランスを取るというのが難しく、他人同士が合わせようとしてもまず成功しない。月術と太陽術の両方を扱える詩人のみの術といっていい。

「……っていうか、そういえば詩人さんが天の術を両方使える理由とか聞いてなかったよね。それ、私にもできないの?」

「無理、これは生まれつきのものだから」

「生まれつきって」

「っていうかお前ら、術の本質知らないだろ?」

「? ウンディーネさんが説明してくれたけど?」

「ああ、あれは間違いだから」

 術の権威が言う事をさらりと否定する詩人。

「ウンディーネがしてるようなものは術の分析だよ。かみ砕いて理解しているようにはしているけど、術の本質には程遠い」

「じゃあ、術の本質って何よ?」

「『術力を持って世界に干渉する』事だよ。何を持って干渉するかは得手不得手があるけどな」

 そういって詩人は指先に火を灯す。

「! 朱鳥術!! 詩人、あなた地の術は使えないって!!」

「これは朱鳥術じゃない。もっと原始的な火の術だ」

 そう言いつつ、詩人は別の指先からは水を滴らせ、また別の指先からは風で渦巻かせる。また別の指先には大地から石を引き寄せた。

「火の術、水の術、風の術、土の術。この程度なら俺も使える。もちろん適性がないから戦闘に耐える程ではないがな。

 これらを一歩先に進めたのが、朱鳥術。玄武術。蒼龍術。白虎術。それぞれ、アウナス。フォルネウス。ビューネイ。アラケスが創り出した属性だ」

『「「…………」」』

「本来なら術の適性なんて千差万別、他人と一致するなんて有り得ないんだよ。だが他人と似ている属性は存在する。それに合わせて系統だった術式を作り、使えば形にはなる。それが現在に伝わっている術の本質だ。

 特にアウナスは術師としては一級品だったか。奴の術を真似するとか他の何物かでもできると思うか?」

「無理」

 タチアナが断言する。それに厳かに頷く詩人。

「そう、無理なんだ。今存在する術は、いわゆる長命種が己にあった術を扱っているのを真似しているに過ぎない。俺の属性は天だが、人は更にその中で月術と太陽術に分けたな。

 天の属性に似通っている人間もいなくはないだろうが、イメージしやすいのは地の術だ。故にまずは人は地の術に適性を得やすい。そして地の術によってしまえば天の術は不得手になってしまう。結果、月術か太陽術のどちらかにしか適性が残されないって訳だ。どれかに似れば別のどれかからは遠ざかるって理屈だな」

「逆に天の属性を持った詩人には、他の長命種の術である地の術の適性は得られない。って事かしら?」

「そういうことだ、エレン。飲み込みがいいな。まあもっとも、アイツ等の属性を真似るなんて絶対にゴメンだが」

 忌々しそうに言う詩人。

 そしておおよそ分かった風なエレンやグゥエインと違い、感覚派のタチアナには今の話はよく分からなかったらしい。難しそうな顔をして話を先に進める。

「私がその封印術を使えないのは分かったけど、なんの話だっけ?」

「その封印術でファティマ姫は10年前のまま、神王の塔の地下に居続けているって話だよ。俺自身が手を出すか、解除の術式を込めた道具を使えばファティマ姫の封印は解ける。言い換えれば俺がその気にならない限り、ファティマ姫の封印は数百年経っても解けない、という訳だ。まあ、四魔貴族の本体が出向けば別かも知れないが、その場合命もないだろうな。

 このファティマ姫を人質にとって、ハリードをビューネイにぶつける」

「……えげつな」

 思わずエレンもタチアナも顔をしかめてしまう。

 しかし詩人は素知らぬ顔、これくらいでエレンやタチアナの安全が買えてビューネイを倒せるならば安いものだと言わんばかりだ。

「俺はビューネイと戦う訳にはいかないから――ファティマ姫の安否を確かめるという体でロアーヌから離脱する。

 ついでに聖王の指輪はナジュ王国が管理していた筈だから、今は神王教団が所持している事になるな。ついでに奪ってくるか」

「神王教団から奪うの? 交渉するとかじゃなくて?」

「新しい宿命の子が神王になるなんて妄言を吐いている集団だ。それでも宿命の子を探す役に立つからパイプは作っていたが、もはや利用価値はない。

 四魔貴族打倒に協力しない以上、切り捨てる」

 その容赦のなさに引きつってしまう、聞く一同。それに気が付いていながらも話を進める詩人。

「これで必要なピースは全て揃った。お前たちはグゥエインやハリードと共にビューネイを仕留めろ。俺はその間に聖王の指輪を確保する。

 それが終わったらピドナに行き、サラを連れて魔王殿のゲートへ向かえばいい」

 勝ち筋をそう締めくくる詩人。

 それに意見する者はおらず、ルーブ山地の夜は更けていくのだった。

 

 

 

 場面は今のロアーヌに戻る。

 2年前に詩人がナジュ砂漠でファティマ姫を見つけたという嘘八百を並べ立て、その足跡を追跡しようとするという法螺話。詩人に言われた通りに嘘をついているだけとはいえ、エレンはあまり得意としない分野である。どこかであっさり嘘を見破られそうな気がして落ち着かない。

「話は分かった。ならばミュルスからリブロフまではロアーヌが快速船を用意しよう。その間、詩人はロアーヌに留まってはどうかな? その方が結果的に早く目的地に着くとも思うが」

 幸いにしてミカエルに嘘がばれなかったのか、それとも果たして嘘でもいいかと思われているのか。少なくとも嘘は暴かれずに話は進む。

 ミカエルとしても万が一ビューネイが即座に攻め入ってくる事を考えて、詩人のような手練れには少しでも長くロアーヌにいて欲しいのだろう。

 そしてそれは詩人も望むところ。ビューネイそのものはともかく、ビューネイ軍を相手にするのにはなんら問題がないのだから。

「そうしていただけるなら喜んで」

「ではそのように手配しよう」

 そうして話がまとまった中で、ハリードは固い声で問う。

「……一つだけ聞かせろ。2年前、姫はどこにいらっしゃった?

 ナジュ砂漠はもはや神王教団の縄張りだ。姫が10年も隠れ続けられるとは到底思えねぇ」

「それを言ったら、お前はここを放り出してそこに行くだろ」

「行かない、約束する。だがそれを言わないならお前の言葉にも信憑性はない。お前の言うことが嘘八百で、俺をビューネイにぶつけるだけとも考えられる」

 鋭いなと、エレンは思う。嘘八百を並べ立てている辺りなど大当たりだ。

 その嘘の奥底にある、ファティマ姫の生存だけはこれ以上なく確保している辺りが詩人の善性なのだろうが。

「何に誓う?」

「我が祖国、ナジュ王国と。このカムシーンに誓う」

「……まあいいだろう。ファティマ姫は諸王の都に居た」

「バカなっ! あそこは死者の都、生者の行くべきところではないっ!!」

「だからこそ逃げ場には良かったのだろうよ」

 いきり立つハリードに冷静に返す詩人。

 エレンとタチアナは、詩人ってこうやってその場凌ぎの嘘をついてきたんだなぁと達観さえ感じていた。

 確かに嘘であるが、ハリードが最も大事にしているのはファティマ姫の生存だということは分かる。そしてその生存を確信している以上、後で嘘だとバレてもそこまで問題にならない可能性が高い。

 詩人を睨むハリードだが、詩人は柳に風とばかりに受け流している。この勝負は明らかにハリードに勝ち目はなかった。

「信じられねぇ……。が、誓いは守る」

「ああ。こちらは最低、ファティマ姫の居場所とその生死までは突き止めてやるよ」

 詩人の言葉にギリィと歯を食いしばったハリードはそのまま立ち上がり、詩人の部屋を辞する。

 それを見たミカエルは肩をすくめて口を開いた。

「あいつの仕事は私の護衛なのだが。詩人よ、できればあまりあの男の平常心を削ぐような事を言わないでくれないかな?」

「聞かれた事を正直に答えただけだ」

((嘘つけ))

 エレンとタチアナの心の声が重なった。

 そして一礼すると手で合図を送り、そのまま部屋から去るミカエル。

 その合図の先には一杯の冷めた紅茶が入ったカップが置かれていた。

「嫌味ねぇ」

「一応、お前らに対する合図でもあったんだが」

「私たちが気が付かない訳ないじゃん」

「いや、エレンは鈴に学んだからあまり心配してなかった。殺気もなかったし、むしろタチアナが心配だった」

「私かっ!」

 そう叫ぶタチアナを無視して、()()()()()()()()()()()()()カップを片付ける詩人。

 人数分用意されたカップで、ミカエル達が来るまでずっと存在した4個目のカップ。それはつまり、この部屋の中にもう一人人間が居た事を証明していた。

 ミカエルの腹心であるその影は、詩人から情報を得ようと中庭でグゥエインたちと話し合いをしている間にこの部屋に忍び込んでいたのだ。それにごくあっさりとお茶を用意するのだから、まあ性格が悪いと言われるだろう。

「でもまあ、簡単に話せないって肩凝るねー」

「一応言っておくけど、ずっと続くからね?」

 うげぇと嫌そうな顔をするタチアナ。

 それでも詩人の事を知れたその事を彼女は決して否定しなかった。

 

 

 




年号が平成から令和に代わりましたね、一般的に10連休とされている日々を皆様はどうお過ごしでしょうか。
ちなみに私はもちろんそんな長期の休みを取れるはずもなく、学生を懐かしく見ている所存です。

そして新年度のゴタゴタもようやく落ち着きはじめ、創作に傾けられるようになってきました。
これからもよろしくお願いします。
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