サガフロが楽しすぎるっていうのもある。詩人の詩を完結させたらサガフロ小説に手を出してもいいかもね。
『さて、そろそろか』
戦場はロアーヌから遠い。声すらも聞こえない距離にも拘わらず、その圧倒的な存在感はビリビリと届いてくる。
四魔貴族、ビューネイ。それの戦意が高まっていくのがこの場にいる面々には否応なく感じられた。
閑散として寂しい印象を抱かせる中庭になったのは、つい先日まではここも戦準備の声が届けられ、殺気立った緊張感が届けられていたからなのだろう。それが遠くなってしまった今、反転するように悲しげな雰囲気を感じさせる場所になってしまった。
しかし、だからといってその場に居る者たちの戦意は全く衰えない。エレン、タチアナ、ユリアン、ハリード、ロビン、そしてグゥエイン。ビューネイと直接戦う役目を背負った戦士たちは場の雰囲気に呑まれて気を抜くなどありえない。
殊更それが顕著なのはグゥエインともう一人。前段階から決まっていた作戦の為である。
それはすなわち、ビューネイの巣に乗り込む前にビューネイと直接対決をしなくてはいけないという事だ。
いくらグゥエインとはいえ、人間を5人も乗せていては戦う事はできない。そしてビューネイもタフターン山に近づくグゥエインをただ漫然と見ている訳がない。必ず迎撃してくるだろう。つまりグゥエインと共に征くということはビューネイとの空中戦が不可避になるという結論に至る。
そしてその戦いをグゥエイン独りに任せる訳にはいかない。グゥエインが考えるレベルで恐らく勝敗は時の運となるであろう。それほどまでにグゥエインとビューネイには差が存在しない。勝率をあげる手段が必要だ。
それは何か。言うまでもない、聖王詩の再現である。300年前、ドーラと聖王が力を合わせたように、グゥエインは相棒を欲していた。ただしビューネイとの戦闘を考えると、その背に乗せられるのは恐らく一人だけ。それをこの5人の中から選ばなければならない。
その瞬間候補から外れたのはユリアンだ。何せ彼は貴族の護衛としてオールラウンダーに学んだ上、その期間も決して長くない。剣の腕前だけは突出しているが、それ以外の攻撃手段を持たないのだ。接近戦がほぼほぼないと思われるこの戦いではただの足手纏いにしかならない。
次に辞退するのはハリード。彼も剣を得手として、遠距離攻撃の選択肢は決して多くはない。遠くからでも相手を仕留めるようにするより、如何に接近して斬り伏せるかを磨いてきた剣士だ。ましてや墜落すれば即死という状況にこの慎重な男が乗る訳がない。できれば遠慮したいというのが偽りのない本音であった。
ロビンも難色を示す。彼はロアーヌの民を守る為に自主的に参加した傭兵であり、後ろ盾が何もない怪しい男なのである。頼まれれば嫌という気はなかったが、望まれる立場でないことも彼は重々承知していた。影に徹し、ロアーヌを守る。そこにロビンの名誉は必要ないと、むしろ平和には邪魔になるとすら考えていた。いい意味で清々しい男である。
残ったのはエレンとタチアナだが、ここで今一度前提条件を見てみる。戦場となるのははるか上空、空での戦い。山に登れば分かるように、地上から上がれば上がる程に気温は下がる。更に飛び回りながら戦う関係上、風にも吹きさらしである。
そのような過酷な状況に、タチアナのような華奢な14歳の少女を放り込むのはどう考えても得策ではない。そもそも一度強行軍で体を壊したように、タチアナの体はまだまだ出来上がり切っていないのだ。
対してエレンにそのような不安はない。二十歳である彼女は体は立派な大人であるし、体力が優れているという証明もシノンの村で為されている。
このような経緯を経て、グゥエインに騎乗するのはエレンと決まった。モンスターに騎乗するという概念が基本的にないこの世界では、空中戦などやったことがある人間などほとんどいない。それこそ300年前に同じ方法で戦った聖王か、あのデタラメな詩人くらいだろう。ぶっつけ本番で相手がビューネイということに不安がないといえば嘘になるだろうが、どうせ潜らなけらばならない危険である。ここで腹を括れないようならば、四魔貴族を二人も撃破していない。
訪れたこの時に、残る面々は激励を送る。
「勝てよ!」
「信じてるよ、エレンさん!」
「フッ。勝利の女神の恩寵があらんことを祈ろう」
「とりあえずビューネイを撤退させねば話にならん。しくじるなよ」
それらの言葉を背負い、エレンはグゥエインの背中に飛び乗る。その恰好は革のマントを羽織り、口には布でマスクをして目にはゴーグルと言われる透明なガラスの覆いが為されている。奇妙といえば奇妙だが、空中戦では必須のもので、多くは詩人が用意した物品である。
風が強く吹き付ける以上、防風効果のある革のマントの説明はいらないだろう。そしてその風は、ルーブ山地からロアーヌに来た時のように中途半端な速度で飛ぶ訳でない以上、呼吸すらも困難になりかねない。風に吹き晒されて呼吸ができなくなるということを防ぐ為のマスク。そして強風下では目を開けるのも難しくなる為、それを防ぐ為のゴーグルだ。この辺りを用意した詩人は、流石に300年前の戦いや、それ以上に亘る永い戦いの経験を積んでいるといえる。
「行くわよ、グゥエイン!」
『承知』
マスクのせいでややくぐもった声をエレンは張り上げて、それに合わせてグゥエインは翼を羽ばたかせる。
あっという間に世界は小さくなり、ロアーヌの遥か上空にエレンの体は浮いていた。左手と両脚でしっかりとグゥエインに体を固定して、残る右手で氷で作った斧でのトマホーク攻撃。これが基本になる。主な戦いはやはりグゥエインに委ねられるのは仕方のないことで、エレンはその補佐といった役回りだ。
そして何よりも気を付けなければならないのがグゥエインから落下しないこと。その場合、グゥエインが拾ってくれなければ落下して即死である。
飛ぶ事僅か、ロアーヌから戦場の上に辿り着く。流石の速度といえるが、それを持っているのは味方のみではない。敵であるビューネイの姿ももう間近に迫っていた。
エレンは緊張からゴクリと唾を飲み込む。四魔貴族戦は全て命がけだったとはいえ、これほど特殊な状況はそうそうない。何より最悪の場合に自分の意志で撤退できないというのが恐ろしく、覚悟を決めるには十分すぎる要素だった。勝利か死か、二つに一つ。
「トマホーク!」
とりあえず先手を取れるならばと氷の斧を作り出し、ビューネイに向かってぶん投げる。
が、それはあっという間に失速する。高速で動いているグゥエインから射出された斧は強風をもろに受け、即座にグゥエインに追い抜かれ、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
『バカか』
思わずグゥエインが言ってしまうが、まあこれくらいは仕方ないといえば仕方ない。何せ初めての空中戦なのだ、感覚の違いというのはどこまでもついて回る。
とりあえず今の行動はなかった事にして仕切り直し。グゥエインとビューネイは速度を落とす事無く、正面からぶつかり合う。グゥエインはその爪を剥き出しにし、ビューネイは背中に憑依させた3体の龍のうち一体をけしかけて牙を突き立てる。
グゥエインの爪とビューネイの牙が硬質な音を甲高く響かせてぶつかり合う。お互いに被害はない。
『サンダーボール』
「サンダークラップ!」
ビューネイの龍の一体から雷の球が吐き出され、それを確認したエレンが即座に術を構築して迎撃する。咄嗟に一つに集中したエレンの術はビューネイの攻撃を無効化することに成功する。
それと同時、隙ありと言わんばかりにビューネイ最後の龍が牙を剥く。そしてそれと同じく牙を突き出すグゥエイン。ビューネイの使い魔の一体程度にグゥエインが後れを取る訳がなく、なんなくビューネイの龍に裂傷を与えるグゥエイン。
最初の攻防は終わり、ビューネイが下がって距離を取る。グゥエインはその場でホバリングしてビューネイを睨みつけている。
『ほう…』
まあ、やらなくはない。それがビューネイの感想だった。だがこの程度で四魔貴族であるビューネイを落とせると思われても困る。
そして何よりビューネイには圧倒的に有利な点が一つあった。それはかつて聖王と巨竜ドーラとのタッグ戦を経験しているということである。付け刃のコンビの弱点というものをビューネイはしっかりと学び取っていた。
ビューネイの姿は巨大な女の背中から龍を3体憑依されているような、そんな姿である。おおよそ空を飛べるような形態をとっているとは言い難いが、そこは蒼龍術を操るビューネイ。風の力を最大限に使っており、更には背中に憑依させた龍には浮遊効果があるのだ。魔龍公との呼び名は伊達ではない。
中空でたんたんたんと軽やかなステップを踏むように足を動かすビューネイ、先ほどとは動きが明らかに変わった。龍の推進力に任せて移動して人間体は隙を探していたかのように動いていたのが、行動の主体が人間体へとシフトしたのだ。
そしてたんっと強く足を下げ降ろすと同時、まるで地面を蹴ったように数メートル上空に飛び上がるビューネイ。その巨体に似合わぬ余りの速度にエレンはもちろんグゥエインもついていけない。そのままビューネイはグゥエインの上空を取り、再び空を踏みしめて加速し、グゥエインとエレンに迫る。
「くっ!」
そしてその狙いはエレン。ビューネイは知っているのだ、人間が空中戦でどれほど不自由を強いられるのか。足場は悪く安定せず、戦い以外の落下防止にも体を使わなければいけないという事実を。
エレンに向かって龍の尾撃を叩きつけるビューネイ。エレンは背負ったブラックの斧で受け止めてダメージを最小限に減らすが、何せ彼女に密着してグゥエインがいるのである。その攻撃の衝撃はグゥエインにまで届いてしまう。これでひるむ程軟な竜ではないグゥエインだが、ダメージが通ってしまったのは事実。屈辱と怒りを燃料とし、上空から迫るなら丁度いいと言わんばかりに角を突き立てる。狙いはビューネイの本体であり、その脇腹を僅かに抉る事に成功した。支障を与える程ではないが、これもダメージはダメージだ。
ビューネイは体を巧みに動かし、その場から離脱。グゥエインの周囲でステップを刻む様から察するに、ヒットアンドアウェイで作り出した隙に攻撃してくる腹積もりのようだ。
『大丈夫か、エレン』
「ぜんぜん問題ないわよ、この程度。それより」
『ああ。行動の繊細さで勝負を仕掛けてきたな。翼に制約を持つ我には確かに有効だろうよ』
ビューネイは空気全体を蹴って動けるように細かく行動できるのに対し、グゥエインは羽ばたく事でしか空に留まる事ができない。その勝負で隙を見つけるのならば確かに不利になるのはグゥエインだった。
「どうする?」
『こうする!』
グゥエインは羽ばたく事を止め、滑空する。その巨体がいきなり落下じみた速度で突進してくるのである。いくらビューネイとはいえ回避しきれるものではない。
『くっ!』
憑依させた龍のうち1体がそのグライダースパイクをまともに受けてしまった。ギャンと悲鳴を上げるその龍は戦えなくはないだろうが、ダメージは少なくない。この戦いで初めての有効打といえるだろう。
相手が細かく刻んでくるならば、こちらは最大速力で勝負をかける。グゥエインはそう判断した。そもそも行動の繊細さなどグゥエインの得意分野ではない。何故そんな相手の土俵に上がらなくていけないのかという話である。グゥエインの最大の武器はその巨体と速度。巨体でいえばビューネイも負けていない為にそこまでのアドバンテージにはなり得ないだろうが、速度ではビューネイに勝るという確信がグゥエインにはあった。
全速力で動いたせいで距離は大きく離れるが、グゥエインは旋回して再びビューネイに迫る。とはいえ、いくら早くても遠くからの体当たりである。これを何度もくらう程ビューネイは愚鈍ではない。紙一重で回避してカウンターを叩きこむ絶好の機会だ。
その場でたんたんとステップを踏むビューネイの狙いはグゥエインにも筒抜けだ。なめているのはどっちだと言わんばかりにグゥエインは電撃を吐き出す。
『かぁっ!』
『なっ!?』
想定したよりもワンテンポ早い攻撃にビューネイのリズムが崩れる。これによってカウンターの機会を逸脱し、回避に専念せざるを得なくなる。
そしてここで忘れてはいけないのが、カウンターを狙う為に紙一重の回避になってしまったということだ。接近するなど何度もない好機を、エレンが見逃す筈がない。
「大木断!」
『ギィィィ!』
ブラックの得意技であったそれをすれ違いざまに放つエレン。ブラックの斧はビューネイの龍の1体を捉え、深い裂傷を与えていく。致命傷に近く、この戦いで復帰することはできないだろう。これでビューネイの龍のうち、1体は戦闘不能になり、もう1体は負傷という事態になった。
(くそがぁぁ!!)
表には出さず、心の裡でビューネイは屈辱の叫びをあげていた。憑依させた龍が全て撃破されてしまえば空中戦に大きな支障が出る。この速度を持つグゥエインに対処できなくなり、最悪自身を抜かれてそのままゲートの破壊に向かわれかねない。いくらなんでもグゥエインクラスを相手にするならばビューネイの部下では荷が勝ちすぎる、やはり最後はビューネイがなんとかしなくてならない。
やはり支配者たる自分が前線に出てきてしまったのが間違いだったとビューネイは反省する。部下に削れるだけ削らさせて、弱ったところを仕留める。それが最上なのだ。かつて聖王と巨竜ドーラのコンビに負けたという屈辱を果たそうと、空中戦に乗ったのが間違いだったとそう結論づける。ならばタフターン山から部下を呼び寄せて痛めつけるかと、ちらりと視線をそちらに向けて合図を送った。
自分の巣に敵を招き入れるというのはビューネイのプライドを傷つける行為ではある。だが、いつまでもプライドにばかり拘ってはいられない。視線を戻せばまたもグゥエインが旋回し、こちらに向かって突進してくる。負傷した現在、まともに付き合うのはバカげている。ビューネイはそう判断した。
が、そこでふと気が付く。
(グゥエインの背中にあの人間がいない…?)
ここは大空、グゥエインから離れてどうにかなる道理など人間にある訳がない。なのにグゥエインの背中にあの女がいない。これはいったいどういった事か?
その答えは即座に自分の身で味わう事になるビューネイだった。グゥエインとエレンはビューネイが怯み、この戦いから離脱しようとしているのを敏感に感じ取っていた。そして逃げようとするその瞬間こそが攻撃の最大のチャンス、追撃を仕掛けるのに最高のタイミング。
エレンは自分を空高く放り投げるようにグゥエインに指示し、即座にそれは実行された。ちらりとタフターン山を見たその隙を利用し、エレンは視界からも思考からも己の存在をビューネイから隠しきる。グゥエインと同時行動しかできないというその思い込みを利用し、空高く舞うビューネイのその頭上を取り斧を大きく振り上げていた。
自由落下をするエレンに下から風が叩きつけられる。真横を雲が通り過ぎ、地面が一瞬ごとに大きくなっていく。恐らく二度と人生で味わえないであろう感覚に包まれたまま、エレンはその一撃に集中していた。気が付かれてはならない、この奇襲は絶対に成功させなくてはならない。地面よりもエレンに近いビューネイに向かって、渾身の一撃が振り下ろされた。
「マキ割ダイナミック!!」
『ガァァァッッ!?』
想定外過ぎる頭上からの一撃、ビューネイはそれに我を忘れて叫び声をあげた。そして攻撃はそれで終わらない。グゥエインのグライダースパイクは止まっていないのだ。全速力からの突進をまともに受けてビューネイは吹き飛ばされる。
ツインスパイク。人と竜の協力技が見事にビューネイの体を捉えた瞬間で、その威力はビューネイの体力を奪うのに十分過ぎた。ビューネイから吹き飛ばされたエレンはグゥエインがなんなく背中でキャッチする。大技が命中した以上、戦いの流れは決まった。その瞬間、勝機は確かにエレンとグゥエインにあったのだろう。
しかしビューネイの悪運はまだ尽きていなかったらしい。先ほどした合図でタフターン山から空を飛べるビューネイの配下が次々と飛んでくる。その数は数百にもなりそうであり、雑魚であるからして蹴散らすのはグゥエインには難しい話ではないが、それをしていてはビューネイに逃げられる。かといってビューネイを追えば無防備な背後をその数百の敵に取られない。
リスクを避けるか、リターンを取るか。
『どうする?』
「……ここは確実に敵の数を減らしましょう。ビューネイ軍を減らせばタフターン山に突入するにもロアーヌ軍が使えるわ。
それにビューネイに奥の手がないとはとても思えない。手痛い反撃を喰らって挟み撃ちに遭うのは避けましょう」
『まあいいだろう。我としてはビューネイが消えてくれれば構わん。奴の拠点に入り込み、ゲートを閉じるのは任せようか』
わらわらと寄ってくるビューネイ軍の雑魚共。グゥエインは冷気や火炎を吐き出して一気に殲滅していく。そして空中での殲滅戦が終わるとほぼ時刻を同じくして、地上での戦いも終わる。
魔王の鎧をつけられたゴドウィンはリンに散々に痛めつけられ、そのまま退却していった。ビューネイベビーといった敵の幹部もそれに合わせてタフターン山に戻っていく。
代償に時間稼ぎにと残されたビューネイ軍はその全てが討伐された。
敵軍全滅。それがロアーヌがビューネイ軍に上げた戦果であった。
ところでロマサガ3リメイクまだですか。
ここまで情報出さないのはいくらなんでもひどいと思うのですが。