詩人の詩   作:117

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まだまだ暑いですが、そろそろ気合いを入れなおしていきたいと思います。
リマスター発売までに完結させるのが理想です。

後、ゴメンなさい。昨晩、ミスって推敲前の話をあげてしまっていたみたいです。
そちらはどうかなかった事にしてください、お願いします。


092話 乱戦ビューネイ

 ここに来るのはエレンとタチアナで3回目、ユリアンで2回目。一度来れば慣れるという程甘くはないが、少なくとも耐性はつくので呑まれる事はない。ハリードとロビンは初めてだが、その異常さに警戒心が上がっただけで委縮はしていない。肩に力が入ったと言ってもいいかもしれないが。

 ゲートの間。この世で最も地獄(アビス)に近いその場所を拠点とするは、永い年月を生きて世界を支配する四魔貴族。ここにいるのはその一人、魔龍公ビューネイ。

『よく来たな、ムシケラ』

 中々に素敵な言葉で5人の戦士たちを歓待する主であるビューネイ。彼女はゲートの前に立ち、その奥にある白い球を守っている。そこが弱点であると知られていないと考える程、ビューネイは愚かではない。そしてそこに設置された魔王の鎧は、かつて見た魔王の盾よりもずっと禍々しい瘴気をまき散らしていた。

「あれは……?」

「おかしいよ、ゲートのタガが外れてる」

 エレンが困惑気味に呟けば、タチアナがその異常性を看破する。その言葉にピンときたのはハリードだった。

「なるほどな、魔王遺物はアビスの属性を持っている。それさえあれば宿命の子がいなくてもゲートに干渉できるという訳か」

『その通り。ゲートが開いた今となっては貴様らムシケラ共に勝機は万に一つもない。大人しく降伏するならばせめて苦しまずに殺してやるぞ?』

「はいそれダウトー」

 ニヤニヤ笑いのビューネイを一言で切って捨てるのはタチアナ。誰よりも本質を見抜く目を持った少女は今のビューネイの言葉は全面的に嘘だと判断できた。

「それが本当ならアウナスも魔王の盾を防御じゃなくてゲートの開放に回した筈だし、宿命の子なんて生きてる保障がないのを探す訳ない。せいぜい魔王遺物はゲートをちょこっと開く程度でしょ。

 そしてアンタが私たちを楽に殺す訳がない。それはこのビューネイの巣を見れば明らか。アンタは明確に人間の苦痛に快楽を見出してる。ここまでアンタを追い詰めた人間を楽に殺す訳がないじゃん」

 あまりに理路整然とした言葉に流石のビューネイも言葉が詰まる。図星を突かれた時は逆ギレするか沈黙するかしかないという好例である。

 ビューネイの様子を見て氷の剣を抜くタチアナ、そもそもの選択肢として降伏が一番有り得ないエレンもブラックの斧を構える。ユリアンも白銀の剣に手をかけ、ハリードはカムシーンを突き付ける。ロビンの姿は、ない。

「え。ロビン?」

 思わずエレンが見失った仲間の名前を口にするが、その姿は即座に見つかった。いつの間にか、本当にいつの間にか彼はビューネイの頭上をとり、そのレイピアを振りかざしていたのだ。

「ライトニングピアス!」

「させないよ、させないよっ、させないよ!」

 その攻撃に割り込んだのビューネイベビー。そいつはロビンの奇襲に見事に対応し、その攻撃をはじき返す。

 奇襲が失敗したロビンは弾かれた勢いのまま仲間たちのところまで戻り、悔し気に舌打ちをする。

「流石にそう甘くないか」

『いきなりの奇襲か。流石はムシケラ、礼儀も何もないと見える』

「レディにこう言うのは心苦しいのだが、あえて言おう。我が振りなおせ」

『愚か、誠に愚か。王者が下賤な者に何をしても許されるが、その逆はない。それが分からぬからこそムシケラなのだ、貴様らは』

 話が噛み合わない。その理由を理解するのはエレンとタチアナだけである。四魔貴族であるビューネイは短命種を奴隷と見做す、自分が優れた者だと妄信して心までモンスターに堕ちた邪悪なる者だ。自分が何をしても許され、敵が自分に無礼を働く事は許されない。そんな傲慢な貴族的考えを持っていると改めて理解できた。

 そうでない者もビューネイが自分を王者として、こちらをムシケラと言い切る辺りに交渉の余地はないと判断するには十分である。ユリアンなどは同じ四魔貴族でもアウナスとは大分違うなという印象を持つほどである。

「その王者を斬れるなら、なお快感だろうな」

『できるか? 不遜であることは目を瞑ろう。あがいて見せるがいい』

 ビューネイの言葉に反応して控えていた3匹のモンスターが前に出る。ビューネイベビー、ビューネイバード、ビューネイドッグの3体だ。更に魔王の鎧とゲートが呼応してその場所から魚型モンスターに騎乗して、槍を持った人間のようなモンスターが現れる。この状況でアレがアビスのモンスターでないと思う能天気はいない。ゼルナム族と呼ばれる、魔王の鎧によって召喚されるアビスの魔物が2体湧き出してきた。

 ビューネイだけでも手に余るだろうというのに、数の利も劣っているという現状にエレンは思わず悟られないように歯噛みする。しかもこちらのチームワークは最悪でありロビンとは連携を取れる程ではなく、ハリードに至ってはそれに加えてそもそも人間関係すらマイナス方向に振れているといっていい。

 この状況では共闘はむしろ下策。そう判断したエレンは5人が一丸となって戦うという選択肢を捨てた。

「ハリード、あんたあのビューネイの腹心っぽい3匹の魔物の相手をできる?」

「問題ない」

「それが終わったらこっちに加勢して。ロビンはあの魚に乗った敵の対処をお願い。出現の仕方からして、敵の数は無尽蔵、魔王の鎧かアビスの球を破壊しなくちゃどうにもならないと思うけど、頼める?」

「他に選択肢もなさそうだな。請け負おう」

「タチアナ、ユリアン。あたしたちが一番連携がきくわ。3人がかりでビューネイを相手取るわよ」

「りょーかいだよ、エレンさん」

「分かった。大丈夫、今度は死なない」

「先に言っておくけど、目標は敵の殲滅じゃなくてアビスの球の破壊。隙を見つけて、あの白い球を破壊して。それだけでアビスの魔物はこの世界に存在を固定できなくなる。

 ――じゃあ行くわよっ!」

 

 数多のビューネイの部下たちとの乱戦が始まる。

 

 

 真っ先に動いたのは最も素早いロビン。魚型モンスターに乗って宙に浮かぶというよく分からない特徴を持つゼルナム族にその手に携えたレイピアで以て戦いを挑む。

「KSHAAA!!」

 2体のゼルナム族はただただ殺意のみを溢れさせてロビンに襲い掛かる。持った槍の先端に稲妻を集めて放つ電撃、魚の口から放たれるサンダーボール。どうやらゼルナム族は雷を扱うようだが、蒼龍術を極めたといっていいロビンには通じない。

「ウインドダート」

 風の力でできた鏃でもって襲い掛かる雷を相殺する。そして続けざまに次の詠唱。

「ソーンバインド」

 地面から茨を呼び出し、槍のような鋭さでゼルナム族を直下から襲う。魚型モンスターによって浮いているゼルナム族は直下は絶対の死角。それでも地震系統の攻撃は通じないが、槍のように襲ってくるとなれば話は別である。

 為す術なく魚型モンスターは茨によって引き裂かれ、更にダメ押しと言わんばかりに茨は絡まり騎乗するゼルナム族の自由も奪っていく。その拘束から逃れようとゼルナム族は体を動かすが、それは茨の棘によって自身を苛む結果となって返ってくる。

 そんな時間も当然長く続かない。その隙だらけの姿をロビンが見逃す筈がないからだ。次の瞬間にはレイピアによる二連撃が急所に決まり、即座に絶命させる。

 と、それと同時にロビンはその場を飛びのく。そして今までロビンがいた場所にゼルナム族が突進にて通過する。その場に残っていればダメージを受けていただろう。もちろんそれを容易く受けるロビンではない。ないが…

「ふむ」

 ロビンは比較的落ち着いたままその光景を見ていた。白い球に設置された魔王の鎧、それらが共鳴して次々とゼルナム族がこの場に現れる。現在3体で、今4体に増えた。

 一体一体はそこまで強くはない。しかしながら決して弱くもない。一般兵では恐らく一対一では勝てないレベルだ。手間取れば手間取る分だけ敵の数が増え、やがて数の暴力の前に屈してしまうだろう。

「なかなかに厄介な戦場を任されたものだ」

 5体、6体、7体と瞬く間に増えていくゼルナム族。この数に包囲されてしまえばいくらロビンとはいえ無傷でいるのは難しい。そして傷を負えば動きが鈍り、それが更なるダメージを呼んでしまう悪循環。最初に小手調べとして時間をかけすぎてしまったのが原因。

 だがこれで敵の強さはおおよそ知れた。次からは最小の労力でゼルナム族を仕留められるだろう。その為には今存在するゼルナム族を一掃しなくてはならないが、ロビンには難しいことではない。

「トルネード!!」

 最強の蒼龍術を使えば済む話なのだから。暴風で形作られた龍がゼルナム族をズタズタに引き裂いていき、消滅させる。かと思えばすぐに魔王の鎧から新たなゼルナム族が呼び出される。

 キリがない、その感想を持つのは仕方のない話だろう。そしてロビンの体力や術力も無限ではない。トルネードは何発も発動できないし、最速で敵を仕留めるというのも神経を使う。誰かが白い球を破壊しなくてはならないが、ロビンにそれを望まれても難しいと言わざるを得ないだろう。

「もちろん最善を尽くさせて貰うがね」

 ニヒルに笑い、現在進行形で出現するゼルナム族の群れにロビンはその身を躍らせるのだった。

 

 ビューネイは憑依させた龍を操り、エレンたちを相手取っている。三匹の龍がそれぞれ襲い掛かりその牙で以て脆弱な人の身を引き裂こうとするが、それを受けてやる程エレンたちが潜り抜けた修羅場はヌルくない。

「パリイ!」

「切り落とし!」

「カウンター!」

 ユリアンはその攻撃をいなし、タチアナやエレンに至っては返す刀で反撃をする程だ。四魔貴族の従属とはいえ、今のエレンたちを相手にするのは不足といえた。

 もちろんそれはエレンたちの有利を表さない。四魔貴族そのものがエレンたちを相手取っているのだから。ビューネイは両手を合わせると雷を生み出して球状にする。そのサンダーボールはゼルナム族のものと比較するのもおごがましいといえる程のエネルギーを蓄えていた。

 狙うはビューネイが最も弱いと看破した者、すなわちユリアンである。

『サンダーボール』

「くっ」

 ユリアンにはそのエネルギーを持った攻撃を防ぐ術がない。物理攻撃ならばまだ対処の仕様はあるが、術系統で四魔貴族の攻撃というのはユリアンにとってどうしようもない部類に入る。

 よってユリアンを守る為にタチアナがそこに割り込んだ。氷の剣というだけで伝説の武器であり、玄武術の属性も持っている。それに合わせてタチアナの技量もあればそうそう後れを取るものではない。ビューネイのサンダーボールを盾状にしたそれで受けきるタチアナ。

 しかしそれによってビューネイの龍たちがフリーになってしまう。一気呵成に襲い掛かろうとする――が、それは叶わない。エレンが練気拳を以て自身の元に吸い寄せたからだ。体勢を崩した龍たちは平等に一発づつ、エレンの気がたっぷりとこもった拳を受ける羽目になる。

 そして手が空くのはユリアン。龍たちが動けない今、ビューネイを狙う絶対のチャンス。幾度となく練習した技、疾風剣を繰り出してビューネイに迫る。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 ユリアンの渾身の一撃。しかしそれはごくあっさりと、ビューネイの手によって止められる。疾風剣は別に刃の数が増える訳ではない。目にもとまらぬ連撃を繰り出す技であるからして、初撃を抑え込んでしまえば以降の攻撃はキャンセルされるのだ。またその技の特徴として一撃の重さよりも速度が何よりも重視される。その速度を見切る事さえできれば、疾風剣は見切る事が可能なのだ。

 残ったのは武器を抑えられたユリアンと、至近距離にいるビューネイ。ニタリとビューネイは鋭い牙を見せつけるように笑い、そして。

『命拾いしたな、ムシケラ』

 ユリアンをその場に残してゲートまで後退する。

 何故、どうして。3人にその思考が巡る。今のは致命的だった。少なくともユリアンは重傷を負う羽目になるだろうタイミングだった。ビューネイは何故それを放置したのか。

 その答えはビューネイが睨みつける先にあった。

『どうやらお前が最も手強いムシケラのようだな』

「テメェの部下が弱すぎるんだよ」

 そこにいたのはハリード。彼が相手にしていたビューネイの腹心のモンスターは既に物言わぬ骸となって地面に転がっていた。戦闘開始から僅かな時間でハリードは武将と呼べる敵3体を屠り、ゲートの破壊まであと一歩のところまで迫っていた。ビューネイはそれを阻止する為に下がったのである。

 ハリードは強さのケタが一つ違う。エレンたち3人はそれを認めざるを得なかった。この5人の中で、ハリードは明らかに頭一つ以上の強さを誇っている。

 かといってハリード一人で倒せる程に四魔貴族は甘くない。それができれば苦労はなく、この場にいる4人で力を合わせなくてはならないのだ。更にその中でハリードは、少なくともエレンとタチアナを死なせていけないという枷をかかえている。そうなると取れる手段はそう多くない。

「デザートランス、俺が前に出る。お前らは隙を見てビューネイを削れ!」

 ハリードの言葉に逆らう事が愚かであるということくらいは分かっている。エレンたちは即座にその陣形を取り、ビューネイに改めて相対する。

 対してビューネイもそのままではない。敗北して屍を晒す配下3体を見やると、その遺体を自分の元へ引き寄せる。そしてそれらは龍と一体化し、それぞれの頭部を遺体のモンスターへと変化させてビューネイは更に禍々しく変貌した。

『さあ、仕切り直しといこうか』

 更なる激戦が始まる。

 

 ビューネイの攻撃は苛烈極まる。ビューネイバードやビューネイドッグの口から吐き出される冷気や火炎の大部分はハリードへと降り注ぐ。手に持ったカムシーンでそれを切り裂いていくハリードは流石の一言だが、かする程度の被害はどうしても受けてしまう。積み重なるダメージはいつか彼を戦闘不能まで追い詰めてしまうだろう。

「生命の水!」

 それをフォローするのはエレン。玄武の回復術にてハリードを癒し、彼女の隙はタチアナがフォローに入ることで守り切る。

 残るユリアンはアタッカーだ。疾風剣が防がれた以上、速さに頼った攻撃は意味がない。かといって剣技に重い攻撃はほとんどない。故にユリアンがとった方法は隙を突くという方法。攻撃に集中したビューネイの死角に回り、その一撃を的確に当てていく。

「バックスタップ!」

『ぐ』

 また一撃、ビューネイに剣撃が吸い込まれる。だがダメージは僅か。ただでさえ四魔貴族は強力なモンスターであるのに、今のビューネイはアビスの力によって強化されている。ユリアンは弱くない、むしろ強いだろう。しかしながら更にビューネイが強すぎるのだ。これはユリアンを責めるのは酷というものだ。

 それに徐々にだがビューネイにダメージは蓄積されている。長期戦の様相を醸しているが、決して悲観するだけの現状ではない。逆に言えばエレンたちに決定打を与えられずに削られ続けているビューネイの方に苛立ちが募っている。ただでさえムシケラと見下している相手なのに、それにここまで追い詰められているということが彼女の自尊心が許さず、そしてやがてそれが暴発する。

『うざったいムシケラ共がぁ! この技で粉微塵となり、消えろ!!』

 

 -アースライザーー

 

 ビューネイの切り札の一つ。自身の周囲に上昇する暴風を生み出し、それをそのまま敵全体に叩きつける蒼龍術の極みの一つ。その風力は凄まじく、地面から岩盤がめくりあがりそれさえも物理的攻撃力をもって襲い掛かる。

 これは抑えきれない。そう判断せざるを得ないのが普通だが、あいにくと普通でない者もこの場に存在する。その男、ハリードは諦めたようにため息を吐く。勝ちを諦めたそれではなく、切り札を晒さなくてはいけないという諦めのため息だ。

 ハリードは正眼にカムシーンを構え、大きく振りかぶる。斬るのは物質ではない、そこに存在する空間そのもの。人間の寿命でそこに到達できるものが何人いるのか。それも僅か35という若さで。カムシーンを手に入れたという説得力を持つ技をここに。

「亜空間斬り」

 そしてハリードが振り下ろしたカムシーンは、ビューネイが生み出した暴風を切り裂いていく。いや、正確には暴風が存在する空間を切り刻み、そこにあった威力ある暴風と巻き上げられた岩盤を破壊していくのだ。

 剣技のみでここまで至れる人間が果たして有り得るのか、その疑問を持つのはまっとうだろう。しかし現実としてそれを為しているのだから納得するしかない。

 だが待って欲しい。ここで折れる程、ビューネイは甘くない。一気に距離を詰めたビューネイはそのまま次なる攻撃を繰り出す。

『ムシケラがぁぁぁーー!!』

 己の力、技、何より誇りをズタズタにされたビューネイは正に悪鬼の如き。その表情のまま、自身が持つ最大の術を破ったハリードに迫る。そして憑依させた配下の亡霊が三角の陣形をとった。そこから放たれるのはビューネイのもう一つの切り札、術ではなく技。

『超高速ナブラァ!!』

 三方向からによる高威力の同時攻撃。亜空間斬りに全力を注いだハリードにそれを防ぐ手立てはない。

 そうハリードには。

 キィンと甲高い音が鳴る。三方向からの同時攻撃、それをエレンとタチアナにユリアンでそれぞれ防いでいた。言葉なく、お互いを信じて最善の行動を取れる。陳腐な言葉を使えば絆といえるだろうが、それを為せるだけで素晴らしいといえるのは間違いない。

 ここで一瞬の静寂が流れる。全力を振り絞り、攻撃に全てを傾けたビューネイ。それを防ぐ為に手札の全てをきってしまったエレンたち4人。動きは完全に硬直し、体勢を立て直す為の猶予が必要だ。

「ファイアクラッカー」

 その隙を、この男が見逃す筈がない。無限ともいえるゼルナム族を相手取り、少なくない傷を負ってしまった怪傑ロビン。だがそれがどうした。正義の為に、無辜の民の為にビューネイは確実に滅ぼさなくてはならない。

 故に彼はビューネイの隙を虎視眈々と伺っていた。果てのないゼルナム族とのマラソンマッチを行いながら、ビューネイに確実な攻撃を与えられるチャンスを逃さぬようにしていた。そして今この瞬間、それは訪れた。ロビンから意識が完全に逸れ、動きが完全に硬直してしまったこの場面。ロビンはゼルナム族を含んだ広範囲殲滅技を選択する。

 雨あられと言わんばかりの刺突の壁がゼルナム族を穴だらけにして、そしてビューネイに深い傷を与えていく。

『ァァァァァァァァァァァァァーー!!』

 苦悶の声がビューネイから漏れだす。そしてエレンたちもこの優勢を逃すつもりは微塵もない。

 隙だらけになったビューネイは格好の的。ユリアンは、そしてハリードは一度は防がれた剣技の奥義を放つ。

「「疾風剣!」」

 突進術の乱れ斬りの合わせ技、それが二方向から同時に放たれる。全身をなますに斬られたビューネイは既に満身創痍、見れたものではないが追撃は当然ここで終わらない。

 次に鋭い突きを放つのはタチアナ。かつてバンガードからヤーマスまでの旅で教わった、西部最強の剣士の奥義。氷の剣を小剣に変え、上下左右に力を溜めて中央を突く事によって貫通威力を最大限まで高めたその技にてビューネイの胴体の中央部を貫く。

「サザンクロス!」

 そしてとどめはエレン。彼女が持つ最も威力がある技はマキ割ダイナミック、だった。

 しかしながら、それ以上の技がたった今あったではないか。それを見逃す程、エレンは強さに無関心ではない。

 深く学んだ気を扱う技術によって気を物体に纏わせる事を可能としたエレン。東の地では外気功から更に上位とされる気の運用である周気功をリンとの訓練によって可能としたエレンは、玄武術で両手に生み出した氷の斧にそれを纏わせて斬撃力をあげる。そしてそれを弧を描くようにビューネイに投擲する。そして彼女自身もブラックの斧を構えてビューネイに接敵。三方向からの同時攻撃を敢行する。

 それは直前にビューネイが配下の3体を使う事によって可能とした大技。それは陣形技によって3人が呼吸を合わせて初めて可能とするはずの合体技。エレンはあろうことか、それを1人で為しえたのだ。

「高速ナブラァァァ!!」

 深く、深く、深く。ビューネイの体に斬撃が奔る。

 だがしかしこのビューネイは影、その奥にあるゲートを破壊しなくては何も終わらない。それを理解していたエレンは閃いたばかりの技の勢いのまま、ビューネイを置いて奥へと走る。

 遮るものなど何もない。ゼルナム族さえロビンのファイアクラッカーでこの瞬間のみ全滅している。

「この地から――去れっ!!」

 エレンの斧はアビスのゲートである白い球に食い込み、それは断末魔の様に激しく明滅する。

 それもやがて弱々しくなり、ゲートは直上にあった魔王の鎧を巻き込みながらゆっくりと閉じる。

 それと同時、ビューネイやゼルナム族といったアビスのモンスターも薄れながらこの世界から姿を消していった。

「勝った…」

 

 

 

「勝ったぁぁぁーーー!!」

 

 

 

 3つ目のゲートを閉じる事に成功したエレンの勝利の咆哮が、力を失ったゲートの間に響くのだった。

 

 




だんだん短くなってきているなぁ、四魔貴族戦。
まあ、エレンたちも強くなってきてるから仕方ないよね。

ゲームでも最初が辛いけど後々は楽になっていくし。
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