アメリカ行きの飛行機に乗りながら、昌志は父と母のことを思い出していた。
二人とも見送りに来ることはなかった。何かに追われているかのように昌志を空港まで送ると、手続きだけを澄ましてさっさと帰っていった。
まあ、別にそのことを昌志は気にかけてなんかいなかった。少しは悲しくもあったが、そのことが表情に出ないくらいには慣れてしまっていた。
今、昌志が考えていたのは別のことである。
「お前には今からアメリカで新しい家族の一員になってもらう」
あの時の父と母のすがるような眼。
その時、昌志は頷き、了承したのだが、もっといいやり方はなかったのかと考えてしまうのだ。
頷いた時、父と母の浮かべた表情がそれを考えさせてしまう。
満面の笑顔。
昔、父が手を差し伸べ、救ってあげた人たち。その人たちが父に向けていた表情と全く一緒のものだったのだ。
結局人というものは同じなのだろうか。
例えどんな善人でも窮地に立たされたら信念なんて曲げてしまうのだろうか。
もしかしたら、自分も。
昌志は身震いした。そんなこと考えたくもない。自分は善人でありたい。
心からそう思った。
アメリカではなかなかにひどい仕打ちが待っていた。
体中に入れ墨を入れ、見るからに悪を連想させる数人の男組がどうやら自分の新しい家族だったのだ。
一人、日本語を話すことができるメンバーがいて、そのメンバーは昌志を探していたのだ。間違いない。
そして、そのまま乱暴に車に乗せられると、目隠しをさせられ、車は動き始めた。
大体体感で一時間ぐらいは立っただろう。
「ここが、君の新しいうちだよ」
目隠しを外され、いきなり光を浴びたことによる目のチカチカも引かないうちからそう言われた。
昌志はその時、やっと気づいた。
自分は親に売られたということに。
それからは地獄の日々が待っていた。
どうやら昌志はあるゲームの参加者にされるらしく、そのために特殊で危険で、拷問にも等しい訓練を行われた。
睡眠は毎日二時間を超えるかどうか。訓練内容によっては五日間一睡も出来ないほどの過酷なものもやらされた。
毎日、肉に飢えた軍用犬十匹相手に殺すことなく体術だけで避け続けるというものを一時間超にあたりやらされたし、全体で三十キロは優に超える訓練用のスーツを身につけられたうえ、広大な湖で何回にも及ぶ往復クロール練習もさせられた。
そして一年。
数々の危険な訓練の結果、元から薄かった感情の起伏は今や自分の体に激痛が走っても眉すら動かさないほどに消え失せ、体術や咄嗟の判断力は現役の軍隊の精鋭にも劣らないほどのものとなった。
身体能力は腕力、脚力、どれをとっても世界トップクラスにまで跳ね上がり、もはや暴れだしたらどんな人が束になろうと止めることはできない化け物が出来上がった。
ただ、どんな人とは言ってもそれは常人の範囲内である。
ダ―ヴィンズゲームによって与えられた異能によっては殺される可能性はあるのだ。
だから、暗殺という手口すらも昌志は身に着けた。
自分を買い取った外国人たちも満足の結果だったらしい。ダ―ヴィンズゲームに昌志は参加させられ、頼まれたプレイヤーを殺して、金を貰う。昌志はそういった殺し屋と呼ばれる仕事を営むこととなった。
こうやって昌志の血にまみれた人生は始まったのだ。