今回は、ただ提督と川内が雑談する話です。
ここの鎮守府は忙しい。毎日のように依頼の電話は鳴り響き、艦娘たちは出撃し、提督の顔色はみるみる悪くなっていく。そんな彼らを神様は不憫に思ったのか、今日は珍しくなにもなかった。
依頼もなければ、出撃もない。さらに、デスクワークは珍しく早く終わっている。つまり、する事はない。
提督ーー八幡はそう言った日を、初めこそは嫌な予感を感じていたが、そんな機会滅多にないものと考えて、ありがたくこの暇を潰そうと考えていた。
候補として、トレーニングが真っ先に思いつくが、1日くらい寝て過ごしてもいいだろうと考えて昼寝を取ろうとした。
しかし、その思惑は1人の艦娘にかき消されてしまう。
その艦娘ーー川内はドアを荒々しく開けると、開口一番にこう言った。
「夜戦!」
「却下だ」
川内の簡潔な言葉は八幡の簡潔な言葉によって取り下げられる。
しかし、彼女のやかましい声によって、八幡の頭は冴え切ってしまう。これでは寝るにも寝付けない。
「今日は久々の休みだ。ゆっくりとしろ」
「えー、全然疲れてないのに」
ここ最近の出撃回数は異常なほど増えており、艦娘は基本的に疲労困憊の状態である。昼間なのに鎮守府が閑散としているのはそのせいだ。
しかし、この艦娘は他の艦娘と比べても飛び抜けて出撃回数が多いはずなのに疲れている気配すらない。
「俺が疲れてるんだ。気を遣え」
「でも、することないし…………」
ここで八幡は頭を働かせた。このまま放置していれば十中八九、夜戦夜戦と騒ぎ立てるだろう。それは避けねばならない。
なら、どうするか。と、1つのアイデアが思い浮かんだ。
「なら、世間話でもするか?」
「それよりも、夜戦〜!」
「そうか…………少し俺の昔話をしようかと思ったが…………夜戦の極意的な何かがあるんだがな〜」
「!!」
八幡の目論見通り、川内は興味を示すような眼差しを向けた。
彼女は前々から八幡の自衛隊で前線を張っていた時代の話を聞きたがった。だが、八幡は話そうとしない。
しかし、今回は彼から話そうと言うのだ。興味も向くだろう。夜戦の極意というワードが出れば尚更のこと。
さらに言えば、彼の過去は様々な功績を残しているが、実態は謎。
なぜ"軍神"と呼ばれるほどの者になったのか、なぜこの世界に入ったのか…………彼への疑問は尽きないだろう。
逆に八幡からすれば、話のネタがいくらでもあるということを意味する。1日の間、夜戦から意識をそらすことくらいできるだろう。
「やっぱり、やめとくか?」
「ううん、聞く聞く!」
飛びつかんばかりに、食いつく川内を見て八幡は内心ほくそ笑む。
「そうだな…………"黒風隊"って、知ってるよな?」
「もちろん、提督の部隊のことでしょ?かっこいいよね、その名前」
「そうか?少しイタいような気がするが…………」
"黒風隊"
艦娘が主戦力になっていく中、唯一残っていた生身の人間の部隊。全身黒づくめの格好で、海を縦横無尽に駆け巡る姿は海に吹き荒れる"黒風"で、深海棲艦たちを翻弄した。その隊長を務めたのが八幡である。
「見た人はすごいすごいって言うけど、私生で見たことないからなぁ…………どうやって戦っていたの?」
「水上バイクに乗って、走り回っていただけだ」
人間は艦娘のように海を渡れない。当然、生身の人間である黒風隊の隊員も例外ではない。そのため、彼らは水上バイクに乗って戦った。2人1組となり、1人は運転を1人は攻撃を担当し、運転する者は深海棲艦の攻撃を避け、攻撃する者は銃で攻撃をした。
「銃を撃っても、深海棲艦には少しもダメージを与えられなかったけどな」
「そうだろうね。でも、それならなんで、みんなすごいって言うんだろ」
「まぁ、深海棲艦の群れに突っ込むからだろうな。砲撃を喰らえば、俺らは木っ端微塵だし」
黒風隊の役目は、敵の撹乱。あくまで、主役は艦娘で黒風隊は戦いをスムーズに進めるだけの部隊だった。
「なんか、それだけ聞くと大したことないね」
「昼間はな。俺らが真価を発揮するのは夜だ」
彼らが使われ続けたのにも理由がある。黒風隊は夜になると、本領を発揮する。黒づくめの格好は夜になれば、見つけることは困難になり、敵からすればどこにいるのか分からなくなる。さらに、彼らは爆弾を駆使して本格的に攻撃を行うのだ。恐ろしいのは彼らは暗視装置も使わず裸眼で戦っていることだ。
「だから、夜後ろから尾けようとしてもバレるんだ」
「まぁ、夜目はきくほうだし気配にも敏感だからな。そうでもしないと、こっちは一撃であの世行きだからな」
このように海の忍者とも言われる黒風隊は、夜戦においては艦娘を凌ぐほどの戦果を挙げた。駆逐艦、軽巡レベルは彼らには造作もなく、時には戦艦や空母レベルまで轟沈させることがあった。
「海の忍者…………カッコいい!」
「なんか、異名ばっかりついて訳がわからなくなってきたな」
「じゃあ、"軍神"って異名がついた提督はどんな活躍をしたの?ていうか、もう夜戦の神様だよね?」
「別に、ただその部隊の隊長というだけで周りが囃し立てただけだ」
そうは言うものの、天龍との一騎打ちで只者ではないことはすでに知れ渡っている。
「もー、謙遜しなくていいから、自分の武勇伝語ってよ」
「残念だが、君の期待するようなのはない」
これは嘘だろう。ただ"黒風隊"隊長というだけで、軍神と名付けられる訳がない。しかし、八幡はそれだけは話そうとしなかった。
「まぁ、それに"黒風隊"は、深海棲艦が上陸された時にほぼ全滅して、そのまま消滅してしまったしな。やっぱり、普通の人間が出る幕じゃなかった」
「残念だったね、提督」
「そうか?黒風隊がなくなったから、俺はここで働いているし君たちに出会えた。それに、今の問題にも気づくことができた。失ったものより得たものの方が多い」
「お、提督が珍しく素直なことを言ってる」
「…………俺ってそんなに捻くれ者なのか?」
「うん」
あっさりと言われて、少し頭を垂れる八幡。このことは叢雲に散々言われているはずだが、他の娘に言われるとやっぱり傷つくらしい。
「ま、でもちゃんと相手のことを考えてくれてることは伝わってると思うよ?」
「そうか」
「じゃなきゃ、皆んな提督について行こうだなんて思わないよ」
いつもは口を開けば夜戦という言葉しか出ない川内が珍しいことを言う。そのことに少し驚いた顔を八幡はしつつ、カップを傾けた。
「で、誰と付き合ってるの?」
「はぁ?珍しくいいことを言うなぁって、感動してたら…………」
「でもさ、提督もいい歳だよね」
いい歳である。実はアラサーである。
今までお見合いの話がないと言われれば嘘だ。自衛隊のお偉いさんたちからそんな話をいくつも持ち込まれた八幡ではあるが全て丁重にお断りしている。
「独身の方が気楽」
と言って。自衛隊の中でも積極的に交遊しない、というかまったくと言っていいほどしなかった男だ。周りも変に納得してしまった。
それに、彼は孫を望む親もいない。そんな環境がより一層結婚願望が薄くなっているのだろう。
「なんて言いつつ、長門さんといい感じだよね?」
「いい感じってなんなんだ?他の娘より距離は近いことは認めるが…………それは幼い頃からの付き合いだしな」
「あとは…………叢雲さん、熊野さん、金剛さん、榛名さん…………」
「なんの名前だ?」
「提督に気がある人」
「本当か?」
「いや、私の推測だけど…………」
その言葉に呆れ顔をする提督。しかし、実際は川内の推測はほぼ当たっているだろう。
「そう言う君こそ恋愛に興味がある年頃だろ?」
「うーん…………私は夜戦があればいいかな」
川内の言葉にげんなりする八幡。何をもってして夜戦に執着するのだろうか。そもそも、この世に平和が訪れたら彼女はどうするつもりなのだろう。
「あ、でも付き合うなら提督のような人がいいな」
「自分で言うのもなんだが、ろくな奴ではないぞ」
一応、八幡自身も自分が少し皮肉屋であることを理解している。理解してはいるが、簡単に直せるものでもないし、急に彼が素直になったら叢雲あたりは病気を疑うに違いない。
「まぁ、確かに変な人だけど、優しい人だってくらい全員分かってると思うよ」
「優しい?俺が?」
「今日だって、私を無理やり追い出せばゆっくりできただろうに、わざわざ柄でもない世間話をしようだなんて、優しい人じゃないとできなくない?」
「…………そうか」
「あ、少し照れた?」
別に、と八幡はぶっきらぼうに言って黙り込んだ。この男は表情こそはあまり変わらぬが存外分かりやすいところがある。
「むー…………たまには思いっきり笑おうよ。そうしたら、もう少しかっこよくなるのに」
「すまんな、黒風隊の特徴で嫌でも無表情になる」
常に死と隣り合わせなせいで色々麻痺しちまうんだと、付け加えた。しかし、その黒風隊にいた広瀬航は八幡とは違い表情は豊かな方である。彼が無表情なのは生来もしくは何か事情があったのかのどちらかだろう。
「じゃあ、私も無表情になれば夜戦でもっと強くなれるのかな?」
「さぁ?」
本気で悩む川内は考えているようだ。鋭いところはあるが、基本的にな単純な性格だな、と八幡は思った。
「そうだ、ワタルとはうまくやっていけているか?」
「まぁ…………ぼちぼち、かな?」
食堂での一件以来、神通こそは航の知らないところを知れてよかったと頰を赤らめながら言ったが、川内との仲は修復してたのかは把握していない。
「悪い人じゃなかったみたいだし、大丈夫だよ。…………最近は、神通がいっつも彼のこと話すから困ってるけど…………そのくらいかな?」
「君らはワタルが既婚者であることは知ってるのか?」
「え?初めて知った」
川内の驚く姿にたちまち八幡は顔を歪める。言う必要はないかと思っていてたが、そうではなかったらしい。神通が深く傷つく前に言っておかねばならないようだ。世の中は妄想と勘違いで成り立っているとか言っていたが、妄想と勘違いのせいで深く傷つく可能性もあるのだ。
「へー、広瀬さんも結婚してるんだ」
「子供までいる。まぁ、付き合っていたことは知っていたから別段驚きもしなかったが」
八幡はあえて三角関係については言及しなかった。口に出してしまえば、絶対面倒なことになるからだ。
「提督は焦らないの?」
「え?」
「だって、部下だった人に先越されちゃったんだよ?」
「…………結婚に遅いも早いもない」
「でも、早い方がよくない?」
「提督である以上、そういうことにうつつを抜かしている暇ないんだ」
「はいはい、そういうのはいいから。で?」
「…………知らん」
「あー、また不貞腐れてる」
「知らないんだよ。そういう色事は皆無で来たから、今更結婚とか言われても知らん」
八幡という男、人生で女性との付き合いはゼロである。つまりは、魔法使いの一歩手前。
学生の頃もそういうことには無縁だったらしい。なら男ばっかりの自衛隊なら尚更のこと。艦娘もいたのだが、交流は大和と長門ぐらいだったのだ。
「な、なんかごめん…………」
「謝られてもこっちが惨めになるだけだ。それに気にしているわけでもない」
「そうなの?」
「そうだ。別に結婚している奴が偉いわけでもない。それに俺は1人じゃないしな」
と、川内に目を向けた。
「今のところは君たちがいる。黒風隊の時よりも賑やかで、楽しい」
「楽しい…………?」
「なんだ、意義でもあるのか?」
「いや、楽しいのは楽しいけど、提督がそう思ってるとは思わなかった。いっつも、酷い顔をしてるし」
「それは疲れているからだ」
「そっか」
「まぁ、悔しい気持ちも少なからずはある」
「悔しい?」
「ああ、本来は男が守るべき女や子供を戦場に送り出しているんだからな」
昔から戦は男の舞台とされていた。戦の理由は様々だろうが、少なからず何かを守るためというのもあっただろう。その何かの中にはもちろん女や子供も入っている。
それは現代も変わらない。艦娘がやってくるまでは女性の自衛隊はいるものの圧倒的に男の方が多い。
「男女平等の時代において、戦場は男の舞台だと決めつけるのは古い考えだと一蹴されてしまうけどな…………でも、やっぱり男である以上は自分たちが女や子供を守ってやらないとって思ってしまう」
「へぇ…………提督、そんなこと思ってたんだ」
「まぁ、能力がある者を使っていくのが今の世の中だ。それに歯向かってもしょうがない」
「なんか、提督って割とあっさりしているよね。何かに執着しているわけでもないし、なんでも"しょうがない"って割り切っていそう」
「…………そうでもないさ」
八幡は視線を川内から窓の方へと移した。その目は昔のことを偲ぶような、八幡にしては珍しい悲しげな目だった。
「俺にだって割り切れないことはある。むしろ、割り切ることが苦手な奴だと思う」
「何かあったの?」
「さぁ…………だが、人は必ず割り切ることができないことを1回は経験する。俺はそこから立ち直るのに少し苦労しただけだ」
その経験が今の彼を生み出し、形付けている。
「まぁ、そもそも俺の人生が少し波乱なのもあるかもしれんな」
物心がついた時は既に親はおらず、青年期には深海棲艦の脅威を目の前で焼き付けられ、大人になるとその深海棲艦と戦って来た。
でも、それは自分だけではない。艦娘にだって親と亡くしている者もいるし、みんな深海棲艦と戦ってきている。
「川内はどうして艦娘になろうだなんて思ったんだ?」
「えーっと、カッコいいから?」
「そうか」
「あれ、何か言わないの?」
「言うって何を?」
「ほら、そんな理由で艦娘をやってるのか的な」
「別にいいと思うが、カッコいいからでも。憧れも十分な理由だ」
「じゃあ、逆に提督は何で自衛隊に入ろうとか思ったの?」
「最初は自衛隊だなんて考えもしてなかった。でも、親しい友人がそこに行くって言ったからついて行った感じだな」
「え、そんな理由で?」
「あ、あれだ。何というか…………新たな場所に自分だけ行くのも気が引けた。自衛隊には長門もいたし」
「つまり…………1人だと心寂しかったの?」
「んまぁ…………大雑把に言えば」
八幡の言葉に信じられないとでも言いたげな顔をする川内。それも無理はない。軍神とも呼ばれる男の自衛隊に入隊した理由が"友達がそこに行くから"。部活動への入部動機のような気持ちである。
「その人も黒風隊にいたの?」
「…………いや」
「じゃあ、どこに?」
「さぁな。ただ、誰よりも正義感が強かった奴だ。多分、今も平和のために奮闘していると思う」
この時、川内は気づかなかったが八幡の声色は微かに悲哀がこもっていた。
「昔っから、真っ直ぐな奴でな。いじめらていた子を見つけたらすぐに助けに行ったし、平和な世の中を本気で目指していたよ」
「いい人だったんだね」
「ああ、俺なんかよりも数倍はいい奴だ。少々度が過ぎたが」
いつものように少しながらの皮肉を添えるが、その顔は昔を思い出して懐かしんでいるようであった。
「…………今日はどうやら饒舌なようだ。他にも聞きたいことがあるなら今のうちにしておけ」
「急に言われてもなー…………あ、提督はホモなの?」
今までのしんみりとした話題から一転、根も葉もない噂に切り替わった。
「ほんっとにそれ信じてるのか?」
「私はあまり信じてないけど、どうも広瀬さんと仲が良すぎるってみんな言ってるよ。あと、こんなに可愛い娘がいるのに興味を示そうとしないのもあるのかも」
「いい機会だ。俺は断じてホモではない。ワタルとはいい友人であり、それ以上でも以下でもない。そもそも、あいつは妻帯者だ」
「でも、広瀬さんからバレンタインでバラ型のチョコを貰ったとか」
「それはワタルが駄菓子職人でもあるから、少し意匠を凝らした結果だ」
「え、ワタルさん駄菓子疲れるの?」
「…………ああ。実家は甘味処だ」
「へぇ、いつか行ってみようかな」
「まぁ、あいつの作る羊羹はオススメだ…………って、違う違う。とにかく、俺はホモではない。他の輩にも言っておいてくれ」
「分かってるよ。じゃあ、ロリコンなんだね」
「…………は?」
ホモの次はロリコン。これには八幡も頭も痛めるだろう。
「ほら、提督って駆逐艦たちには甘いじゃん。長門さん共々」
「そ、そんなことは…………」
「じゃあ、電が"夜戦したいのです!"って言ったら断る?」
「待て、それは何か危ない」
ここの鎮守府において、夜戦の裏の意味は浸透していない。しかし、八幡の第六感が危機を察知した。社会的な方の。
「そもそも、小さい子が好み好んで夜に出撃したがるはずかない」
「分かってるけどさー、でも駆逐艦の頼み事は断れないでしょ?」
「そ、そんなわけ…………」
「一昨日だって、暁たちが遊んで欲しいって言われて仕事を放棄してまで遊んであげてたのに?」
一番忙しい昼間に、執務室に暁たちはやってきて遊んで欲しいとせがまれた八幡は、徹夜になると分かっていながらも快諾した。もちろん、次の日の顔色は真っ青だ。
「あー、甘いことは認める。もうこの歳にもなれば父性というものが、な?」
「あ、でもさ、時雨たちはそこまで子供でもないよね?」
「そうなのか?」
「え、あんな身体してるのに?」
駆逐艦が皆同い年であるわけではない。叢雲は既に成人だし、白露型も思春期に入っている頃合いだろう。
「確かに、時雨とかは子供扱いは嫌がるかもしれんな…………」
「そうでもないかも。あの娘たちからしたら提督は優しい人で通っているし」
「じゃあ、君らにはどう通っているんだ?」
「変人だけど悪くはない人」
「…………」
「あ、でも金剛さんとかは思いっきりカッコいいとか言ってるし…………」
「フォローしなくていい」
自分がカッコいいタイプではないことは八幡自身よく理解している。背は長門よりも小さいし、目つきも良くない。何より疲労によって蒼白になった顔と捻くれた性格がより変人度を上げている。さらに、広瀬航という爽やか系イケメンの参入によって相対的に変人度が上昇してしまっている。
「まぁ、いい。本題に戻ろう。俺はロリコンではない。そもそも、子供に欲情などするか」
「だろうね。なら、どんな娘が好みなの?」
「好み…………?」
「そうそう。叢雲さんのようなツンデレ系とか、熊野さんのような少しポンコツなお嬢様、榛名さんのような大和撫子系、陸奥さんのようなお姉さん系…………」
「陸奥がお姉さん系…………?」
陸奥はこの鎮守府でも、落ち着きっぷりや余裕そうな雰囲気から色っぽい大人というキャラで通っている。が、この男は少々違うようだ。
「ん?陸奥さんがタイプなの?」
「違う違う。陸奥がお姉さん系ということに疑問があるんだ」
「え、あんな色っぽいのに?」
「うーん、幼い頃からいたせいかな?今でこそ、君たちからすれば大人っぽいかもしれないが、幼き陸奥は気が弱くていつも、長門か俺に泣きついたりしていたぞ」
「え!?」
「夜は1人でトイレに行けないって、俺を起こしたり、少し怖い事を聞けば一緒に寝たいとせがんだり…………まぁ、可愛い妹分のような奴だと思っているが。流石に今は大人だって理解はしている」
八幡の言っている事は陸奥のキャラ崩壊に繋がりかねないほどの大暴露なのだが、彼は気づいていない。
「意外だなー、陸奥さんにもそんなところがあっただなんて」
「誰にもそういう事はあるだろ」
「そうだけど…………陸奥さんは少しビックリした」
「でさ、好きなタイプは?」
「特にない。惚れた女がタイプなんだろう」
「そりゃそうだけど…………」
やはり彼に縁がないのは容姿よりも性格が起因しているようだ。
「とりあえず、今は平和のために尽力するつもりさ」
「その身が滅びても?」
「さぁな。ま、今は尽力するとは言っても胡座かいて指示するだけ。本当に頑張っているのは君らだ。だから、精一杯のサポートをするつもりさ」
「へぇ、軍神のサポートだなんてすごいね」
「ふっ、期待しておいてもいいぞ」
「そうだね。神様が味方してくれるうちは大丈夫かな」
窓を見れば、いつのまにか日はすっかり落ちて真っ暗になっていた。電気もつけずにいたせいで、部屋も真っ暗。
だが、八幡と川内にとっては夜こそが真骨頂である。
2人は似ても似つかぬが、この夜が彼らの最大の共通点なのかもしれない。