民間軍事会社"鎮守府"   作:sakeu

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せ、正規空母が出ない…………


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 この鎮守府には居酒屋がある。

 これは第一線を退いた鳳翔さんの願いからできた居酒屋であり、比較的大人の艦娘たちが利用している。料理は間宮さんに負けず劣らず絶品であり、どこか家庭的な味である。居酒屋というと酒がつきものだが、そこは酒飲み軽空母が選びに選んだものを仕入れているそうだ。

 カウンターの隅に落ち着いて、俺はゆっくりと牛すじ煮込みを味わった。

 トロトロとしたしょっかんが口中に広がる。やはり絶品である。

「美味しい」と呟くと、鳳翔さんがカウンターの向こうでニッコリと笑った。それだけだが、また心地よい。

 隣に腰掛けたお洒落な重巡は日本酒をあおっている。お嬢様とお酒といういささか奇妙な噛み合わせであるがそんなことよりも、熊野がお酒を飲めるということに驚いた。

 店の時計を見るとすでに夜の10時。

 今朝、演習で鈴谷の戦闘能力を確認し終えた俺は、久しぶりに自室に戻り、夕方の4時まで爆睡していた。目が覚めたのは叢雲が直々に起こしにきてからだ。

 それから、約束通りに叢雲を連れて、甘いものを奢ろうとしたところ、ばったりと熊野と鈴谷に出会った。相手も同じく目的であったらしく、一緒に行こうと言われ、一瞬躊躇った。

 

「折角の機会ですので、一瞬にいかが?」

「一応、先客がいるんだ」

「あら、叢雲さんも?ますますちょうどいいですわ」

「いら、だから…………」

「親睦を深めるのも上司の仕事ではなくて?」

 

 全くもって勝手な話だ。

 まぁ、別に奢れと言われているわけでもないのでいいか。それに熊野の言うことにも一理ある。

 そう考えていたのが間違いだった。

 女性3人がしおらしく3人分のデザートで満足すると考えたのが間違いだった。

 ケーキ一切れでは物足りず、パフェも頼み、シュークリームも頼み、そしてブラックホールのごとく次々と口へと収めていった。長門の時ではないにしろ、小柄な3人がニコニコと顔色変えずに、スイーツを口に運ぶ姿は、まさにホラーだ。止めようものなら、何をされるのか分かったものではなく、ただスイーツがなくなっていくのを見ることしかできなかった。

 勘定は熊野と割り勘にしたのに、高かった。

 そのあと、ブラックホールたちと別れ、俺は再びゆっくりしようかと思ったら、熊野だけ残り、居酒屋"鳳翔"にハシゴになったわけだ。

 

「わたくしには分からないことがありますわ」

 

 ふいに熊野がつぶやいた。いささか頰を赤く染め、涙目でじっと俺を見つめる。

 

「何がだ?」

「どうしてですの?」

 

 熊野に真っ直ぐ見つめられて思わず目をそらした。

 

「…………だから何がだ?」

「どうしてあなたは誰にも手を出さないのですの?」

 

 これは酒の飲み過ぎだな。いきなり、意味不明なことを言い始めた。

 

「飲み過ぎだ。少し酒を控えろ」

「いいえ、まだ酔ってませんわ」

「鏡を見てから言え…………」

 

 酔っ払いの決まり文句を言いやがって…………

 

「駆逐艦の幼い子たちはともかく、ここにいる娘たちは美人ですわよね?」

「美人と言う判断は主観による。強制されても困る」

「あら、では可愛くないのですの?」

「俺から見ても美人だな」

「あ、言いましたわね。長門さんに告げ口してやりますわ。部下をそんな目で見ていたと」

「美人だからと言って、好きとは言ってない」

「なら、どんな娘がいいんですのよ!」

「お前はさっきから飲み過ぎだ!」

 

 幸いにして、今日はほかに客がいない。

 カウンターの隅で大騒ぎしている、重巡と好青年のことを気にする者がいない。いたならば、この重巡を無理矢理店の外に放り出しているところだ。少々のダメージじゃあ艦娘は怪我をしないからな。

 鳳翔さんに目配せしたら、苦笑しつつコップに一杯水を入れて持ってきてくれた。受け取った水を熊野は上品に飲み干した。酔っていても立ち振る舞いは品がある。こんな娘とあの鈴谷という娘の組み合わせは奇妙のような気がする。

 

「そうでしたわ、提督。あなた、海軍の方からお呼びがあったんですって?」

 

 目の覚めるような不愉快な話題が出てきた。

 

「突然、なんだ?」

「鈴谷に聞いたんですのよ。提督が来年海上自衛隊の艦娘たちの指揮をとるかもしれない、と」

 

 そう言えば、鈴谷は海上自衛隊に所属してたんだな。しかし、そのことまで知ってるのは解せない。俺の疑問を読み取ったのか熊野が答えた。

 

「意外と人の去就は噂になるのですわ。海軍にいた時も、事細やかに噂してましたわ」

「どうでもいいことじゃないか」

「どうでもいいことを噂するのが人ってものですわ」

「ますます行きたくねーよ。だいたい俺は群れになって行動するのが苦手だ。そういうところに行くのなら、ここで死にそうな顔で働いた方がまだ気楽だ」

「そうですわね。あなたはそういう人でしたわ…………」

 

 熊野はいきなり遠い目をする。

 

「いつだって、一人でふらふらして、宴会にも来ませんし、イベントにも参加しない。そのくせ、週2のトレーニングは欠かさない…………」

「お、おい!?いつ、トレーニングのことを?」

「あら、知られていないと思ってましたの?あれだけのトレーニング、艦娘たちもしませんわよ。それだけすれば、疲れも溜まりますわ」

 

 何が言いたいのか分からん。そもそも、朝早くにやっているトレーニングをどこで知ったんだ。長門すら起きていない時間にやってるのに。心中で突っ込みつつ、考えがまとまらないのはどうしてだろうか。

 ですが!と突然熊野は大きな声を出した。

 

「提督は一度、海軍に行くべきですわ!」

 

 いきなり至近距離まで顔を近づけて、俺を真っ直ぐに見つめた。

 頭痛がしたのは、疲労なのか、熊野の酒の匂いのせいなのかは分からない。

 

「あなたは優秀な指揮官ですわ。1年も経たずにして山ほどの経験を積んでらっしゃる。頭もいいですし、艦娘受けもいい。判断力がいいですわ。何が起こっても瞬時に判断するのは、口で言うほど簡単ではありませんのよ?今日の朝の鈴谷の件だって驚きましたわ。1年も経っていない人があれだけ的確に指示ができるのは尋常ではありませんわ」

「褒めても、酒は奢らんぞ」

「たしかにあなたは変人で名の知れた人ですわ。いつもやる気のない顔で鎮守府をウロウロする、鎮守府一の奇人ですわ。今とて変は変。ですが、腕はたしかに一級品ですのよ?」

「熊野、俺の分まで払え」

「でも、それだけではいけませんわ。あそこでしか学べない高度な技術がありますわ。あなたならそれを学んでさらに高いレベルを目指せますのよ?多くの艦娘に出会い、技術を磨き、知識を深めるのよ!あなたならできますわ」

「興味ない」

「それは嘘ですわ」

 

 どきりとする。

 

「あなたは艦娘たちを置いて行くのが嫌なだけですわ」

 

 熊野は酔っ払うと、時折核心を突いたことを言う。残念ながら、明日になれば忘れているだろうが。

 

「もっと高いところを見なさいな」

「民間企業のこの鎮守府では、国営の海上自衛隊より劣ってるというわけなんだな」

「冷たい言い方をしないでくださいな。ですが、そうとも言えますわ」

 

 なら、鎮守府でいい、とはさすがに言えない。熊野が俺の身を案じていることはよく分かるからだ。

 熱弁を振るうっていた熊野の目にうっすらと涙が浮かんでいる。側から見れば、俺が泣かせてるようできまりが悪い。

 

「わたくしは海軍からこの鎮守府に来ましたわ。この会社はいい会社ですわ。この会社でずっと働きたいと思っているのですのよ?その理由はここの環境がいいと言うこともあるのですけど…………あなたが…………あなたのお陰でそう思えるのですのよ。あなたをお慕いしてるからこそ、より高いところに行って欲しいのですのよ…………あなたなら…………」

 

 呂律が回らないまま、熊野はカウンターに突っ伏してスヤスヤと寝息を立て始めた。

 俺はお金をカウンターに起き、熊野を背負って店を出た。

 

「すいません、鳳翔さん…………」

 

 鳳翔さんは黙って、微笑むだけだった。

 

 

 艦娘以外の者が深海棲艦と戦闘を行うことが禁止されたのは、それから7日後のことだった。

 艦娘たちが一度出撃して出る損害は艤装の修理や燃料に対して、人間の場合は必ず1人は死傷者を出していたためだった。俺も陸軍に所属していた際、海軍で知り合った男がいつのまにか戦死していた。俺も危険を承知で深海棲艦との戦いに参加したりしたが、全員が五体満足で帰ってくるのはごく稀であった。

 今でこそ、陸にいれば安全だとある程度言い切れるが、艦娘たちが活躍する前は海付近の住民にまでの被害は非常に多かった。

 過去に2度、深海棲艦が上陸したことがある。2度目こそは軍人のみの被害で済んだが、1度目は一般市民も巻き込む大惨事となった。俺は2度とも経験している。

 深海棲艦は、人間の最先端の武器も兵士の必死の抵抗も、市民の叫びもことごとく嘲笑うかのように、全て吹き飛ばした。

 衛生要員は頻繁に行き来し、包帯を巻き、脈をはかり、必要なら薬を投与し…………一瞬にして、地獄絵図と化した。

 戦闘要員である、俺にできることはせいぜい敵の注意をそらすぐらいで、できることはほとんどないに等しかった。

 

「どうにかできないんですか!?」

 

 1人の隊員が俺にそう言った。

 日に日に負傷兵が増えていくのを見かねて俺に声をかけたのだ。なんて答えたか、今でも思い出せない。軍人として…………云々みたいなつまらない理屈を並べたのだろう。少なくとも、目の前の戦場にしか頭になかった俺は相手の気持ちを組んでやるほどの余裕を持ち合わせていなかった。彼は冷ややかな視線を残し、俺に背を向けた。

 戦場で一番恐ろしいのは士気の喪失である。殺るか殺られるかの戦場において、初めから及び腰で挑めばあっという間に殺られるのだ。だから、戦場において、先頭に立つ者は、隊員の士気を下げないようにしつつ、指揮を執らなければならない。だが、この時は深海棲艦に押されていくに伴って皆の戦意は喪失し、いたずらに犠牲を増やしていくだけだった。

 俺とてできる限りのことをやったが事態が好転するのはなかった。

 結局、深海棲艦の攻撃が終わったのは艦娘たちを投入してから。

 試作段階とは言え、あれほどの犠牲を払った深海棲艦に対して対等に戦う姿を見て、誰もが女神だと称えた。しかし、その時の俺は今までの犠牲がまるで無駄になってしまったようで、やるせない気持ちだった。

 同僚の死が今でも鮮烈に覚えている。

 多くの家族が駆けつけ、戦いを終えた兵士の姿に涙する中で、1人の息子らしき少年がじっと俺を見つめていた。

 

「お前は何もしてくれなかった」

 

 そんなことを言われた気がした。そんなわけがないのだが、行き先のない悲しみ、怒りというのが確かにある。

 戦線を離れた今でも、それは急にやってきては、感傷という物思いに引きずり込む。

 俺は改めて実感する。

 無力だ、今も、あの時も。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府から出ると、風が吹き抜けた。今思うと、もう冬なのか。時が経つのは早い…………

 夜の港を歩きながら思うのは、あの時の少年の顔、同僚の顔、友の顔…………。

 そう言えば、最初の頃に会った艦娘たちの顔もどこか棘のあるものだった。怯え、敵意、憎しみ…………。別に俺は彼女らに何か危害を与えたわけではないし、自分を卑下する必要もない。

 しかし…………。

 少年と同じように、艦娘たちにとっては、偽りのない感情なのだろう。偉そうな顔で歩き回り、命令するだけ。軍人のくせに、守ってやることすらできない…………。

 役立たず、能無し、不用品…………

 俺の頭の中に、形のならないモヤモヤしたものが渦巻く。

 うーむ…………今夜は自己嫌悪がひどい。

 過労にストレス、自衛隊の問題などが加わり、いつも以上に考え込むようになっているのだろう。

 俺は暗闇しか見えないうみを見つめた。黒々とした景色のなかで、波打つ音だけが聞こえる。

 もう少し、ゆっくりしてから執務室に戻ろう。

 

 

 鎮守府の薄暗い廊下を歩いて、執務室のドアを開けたら、中には長門がいた。

 てっきり、執務室は無人だと思っていたので、いささか驚いて「うぉっ」と声が出てしまった。元軍人として少し情けない。

 

「そんなに驚かなくてもいいだろう」

 

 あっけにとられている俺を長門は可笑しそうに笑った。

 

「散歩は済んだか?」

 

 言い訳じみたようになるが、長門は海軍の応援としてしばらくこの鎮守府を留守にしていた。だから、執務室にいたことに驚いたのである。

 何度も言うようだが、艦娘は一見すると華奢な女の子たちである。長門のように、アスリートのごとく鍛えられた女性もいれば、大人の女性もいるが、それでも女性は女性。しかし、その実態はあの大きな艤装を背負って戦地へと赴く、兵士たち。

 駆逐艦たちに至っては最早、子供でありそんな風にはとても見えない。長門も中々の激戦区へと参加したはずなのだが、ちょっと信じられない。今も飄々としているもんだから本当に戦地に行ったのか疑ってしまう。

 人は見かけによらないとか言うレベルを超えている。

 

「提督、今日はお疲れだった。しばし体を休めて、明日の執務に臨んでくれ」

 

 疲れているのは君の方だ、と口から出そうになったが呑み込んだ。前にそう言ったら何故か怒られたのだ。たしかに、疲れているのを比べたところでなんの効果もない。

 執務室の机には、コーヒーカップが2つ、湯気を上げて置かれている。無論、中身はブラックではないだろう。甘党の長門による多量の砂糖が入った"長門ブレンド"。長門の気遣いなのだろうから飲まないわけにもいくまい。

 そういえば、長門がいない間に書類で散らかっていた机も綺麗に整えられている。本当に気が回る。あとはコーヒーの淹れ方がどうにかなれば…………

 そんなことをおくびにも出さず、何事もないようにコーヒーを一口飲んだ。…………甘い。

 

「戦いはどうだった、中々厳しいところだと聞いたが」

「いや、思ったほどではなかった。少し用心が過ぎたくらいだ」

「ふむ、それなら良かった」

 

 長門は微笑を浮かべた。そして、戦地の様子をこと細やかに俺に話した。俺にはもう縁のない話だが、元軍人である以上気になる話ではある。

 荒れる海の中で戦う艦娘の話、空をかける艦載機、数多の砲撃と、魚雷、そんな中の主人公はもちろん艦娘たちである。

 躍動感あふれる物語が俺の心を踊らせる。

 俺は椅子に腰をかけ、その話を静かに聞いていた。

 と、不意に長門の声が途切れた。

 

「…………また、戻りたくなったか?」

 

 俺は驚いて目を開けた。

 気がつけば、目の前に覗き込むような長門の瞳がある。

 

「黙っていても分かるぞ。あの話を聞いたんだな」

「…………別に、君の話が面白かっただけだ」

 

 俺はなんともない顔を作ってみたが、うまくいかない。

 

「フフ、そうか。なら、朝からトレーニングするのは健康のためか?」

「なっ!?…………そ、そうだ。運動不足にはなりたくないからな」

「別に誤魔化さなくてもいい」

「…………まぁ、戦場に戻りたいのは少なからずある。だが、もう俺が出る幕などもうない。戻りたいと思っても、もう戻れない」

 

 艦娘ではない以上、深海棲艦と戦うことはできない。それに今となっては、本当に運動不足解消のためになってきてすらある。

 

「それに俺はここで責任を全うする義務がある。艦娘たちを置いて戦場に行くような、無責任な真似はもうしないさ」

 

 陳腐なセリフだ。もう少し詩的な者ならマシなことが言えただろうに。在原業平でも見習って和歌でも詠んでみるか。

 しかし、根の真っ直ぐな長門は、少し驚いた顔を見せてから再び微笑んだ。普段は見せぬ表情を今日はポンポン出すな。

 それから少し考え込む仕草を見せたあと、急に立ち上がり、

 

「よし!今一度散歩へ行こう!」

 

 突然の提案である。あまりにも突然過ぎて間抜けな顔を俺はしていたに違いない。それもそのはず、時刻はとっくに12時を回ってる。

 

「俺、さっき行ったところなんだが。それにかなり寒いぞ」

「たまには2人で散歩もいいじゃないか。それに提督のことだから、空を見ていないだろ?」

 

 すでに長門はオーバーコートを羽織り始めていた。

 

「今宵の星はとても綺麗だぞ。私の息抜きも兼ねて付いて来てくれないか?」

「まぁ、いいが…………」

「ついでに貴方が背負いこんでいる重い荷物も、私が減らしてやろう」

 

 長門の決断は早い。だらだらと支度する俺に、形の良い眉をひそめて、ひと睨みし、

 

「行くぞ」

 

 と、せき立てた。ふむ、さすがはビッグ7。眼光で元軍人の俺を少しばかり恐怖させるとは。

 外に出ると、先ほどと同じ真っ暗闇。

 月はわずかに三日月が光るだけで、それ以外の光源が見つからない。お陰で、どの道を行けばいいのか分からない。

 

「長門、だいぶ暗いぞ。大丈夫か?」

 

 俺の先を迷うことなく行く長門はくるりとこちらを向き、またますが空を指した。

 

「だからいいんだ」

 

 指を指した先を見上げれば、俺は思わず息を呑んだ。

 満天の星空、と言うのだろう。

 天体に関しては疎く、どれがどれなのかさっぱり分からないが、明るい星々が散りばめられていた。雲もない冬の夜空では、星たちは暗闇を埋め尽くすかのように光り輝いている。

 この小さな町にある鎮守府の周りには、星空の邪魔となる別の光源がない。お陰で、都会ではまずお目にかかれない見事な星空が見える。幼き頃はよく友と星の観察などしていたものだが、ここ数年来、忙しさですっかり忘れていた。

 自分は芸術的感性はないに等しいと思っているが、この圧倒的な光の芸術は美しいと思う。

 

「戦場から見える星も中々いいものだぞ。戦い中で空を見上げるのもなんだと思うが、見ていると戦ってることさえ忘れてしまいそうになる」

 

 長門の苦笑の混じった声が聞こえる。

 

「だがな」

 

 ふと長門は俺の横まで来て

 

「私はここから貴方と見上げる空が好きだ。まるであの時に戻ったかのように思えるからな」

「ハハ、陸奥を忘れてやるな。だが、そうだな。子供の頃に戻った気分だ」

「…………1年に1度くらい、皆でこの空を見上げる機会を作るのも悪くはない」

 

 そうか、長門は長門なりに俺を励まそうとしてくれてるのか。

 胸に積もっていたわだかまりが流れて行くのを感じた。

 …………ますます、男として情けないな。

 俺は自分自身に言った。

 よくよく考えたら、今まで1人でに悩み、気づけば、戦場からようやく帰投した長門に労いの言葉1つかけていない。悩みにかまけて、大事なことを放っておき、その自分に酔っていただけだ。なんて無様なんだろうか。

 長門の方を見る。艶のある長い黒髪が星の光を浴びて益々輝いて見える。幼き頃から一緒にいたせいか、隣にいるだけで安心する。

俺は一瞬躊躇ったが、意を決して言った。

 

「お疲れ長門。明日も頼むぞ」

 

こちらを向いた長門は、少し驚いた顔を見せたが、すぐに微笑んだ。

 

「ああ、大船に乗ったつもりで任せておけ」




とりあえず、挿入部分はここまで。次の話に入る前に間に2、3話ほど閑話を挟みたいと思います。その閑話で提督(社長)と特定の艦娘との話を投稿したいと思っているのですが、どの艦娘がいいか、活動報告にてアンケートしますので是非リクエストしてください。

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